『ひき逃げファミリー』:1992、日本

中堅サラリーマンの元村裕史は5人暮らし。妻の葉子はテニスにカラオケにと好き放題に遊びまくり、ボケてしまった父親は見知らぬ人を亡くなった妻と勘違いしたりする。巫女をしている長女は家族に内緒で神主と不倫の関係にあり、長男はイジメが原因で登校拒否を続けている。
ある日、接待ゴルフを終えて帰宅しようと車を走らせていた裕史は、自転車の女性を跳ねてしまう。現場から逃げてしまった裕史は、家に戻って家族に事情を打ち明ける。自首することを決めて家を出ようとした裕史を、葉子が強い調子で引き止める。
彼女は裕史が犯罪者になることで家庭が崩壊することを恐れ、事件を隠蔽してしまおうと考えた。そこで、まず手始めに事故を起こした車を居間に隠し、同じ車種で同じ色の車を購入。そして事故車をバラバラに解体して捨ててしまおうとする…。

監督は水谷俊之、脚本は砂本量&水谷俊之、製作は伊地智啓、プロデューサーは椋樹弘尚、撮影監督は長田勇市、編集は菊池純一、録音は横溝正俊、照明は豊見山明長、美術は及川一、衣裳は会田晶子、音楽は佐原一哉、音楽プロデューサーは土屋正樹。
出演は長塚京三、中尾ミエ、仲谷昇、ちはる、橋本光成、大島蓉子、岩松了、大高洋夫、石井苗子、一条かおり、大杉漣、亀渕遊可、田山涼成、光石研、菅原大吉、趙万豪、磨赤児、下元史朗、花原照子、島ひろ子、中上ちか、竹本りえ、国枝量平、大代一夫、小野克巳、橋口勇治、谷口勉、上野俊輔、富岡忠ら。


たぶんコメディーとして作っていると思うが、笑いが非常に薄いから、ブラック・コメディーとしては全く成立していない。
状況がエスカレートしていったり、テンポが上がっていったりすることは無い。
「バラバラだった家族が1つになる」という部分だけにエナジーが注がれた、普通の家族ドラマになっている。

痴呆の父親が自動車を室内で暴走させてしまうシーンや、ノコノコと被害者の葬儀に出掛けていった裕史が被害者の両親と話すシーンなどは、笑いを生み出すシーンにできるポイントのはずだ。
ところが、そこをあっさりと流してしまう。
笑いを作る気が無いのかと思えるぐらい淡白だ。

家族の変化が分かりにくい。
それは、事故を起こす前の家族の様子がほとんど描かれていないからだ。
例えば裕史を見た会社のOLが「人が変わったみたい」というのだが、事故を起こす前に彼が会社で働いている描写が無いので、何がどう変わったのかが分かりにくい。

どれだけ隠蔽工作が進められていこうとも、裕史は自首しようとする気持ちを変えない。
彼を真面目なキャラクターとして設定しているのなら、彼が自首できなくなるような状況を作る工夫が必要ではなかったか。
それが無いから、作品まで真面目になってしまう。

本来は、「隠蔽工作を進めることによって家族が結び付いていく」という展開にすべきだったはずだ。
ところが、実際には登校拒否や不倫の問題は、隠蔽工作と無縁のところで処理されてしまう。
そして家庭の問題が終結した後で、全員で車の解体を始めるのだ。

裕史は事故を起こした時点で被害者の生死を確認していないが、翌日のニュースで死亡したことが分かる。
しかし、彼が殺したということになれば、ハッピーエンドにすることは難しい。
というわけで、彼が被害者をひき殺していないということは、多くの人が予想できるだろう。

そうなると、どうやって“白けない形“で殺人を犯していないということが明かされる場面を演出するのか、そして、どのように“白けない形“で物語を終結させるのかということが気になる。
そして、見事に“白ける形”で終盤のストーリーは展開し、なぜかファンタジックに終わろうとする。

 

*ポンコツ映画愛護協会