『HiGH&LOW THE MOVIE』:2016、日本

山王街の洋食屋「ITOKAN」を切り盛りするナオミは買い物に行った帰り、無名街で激しい爆発が起きるのを目撃した。その直後、山王街にはダウトの高野真人や平井たちが現れ、街を荒らし始めた。琥珀の元には李が現れ、SWORDを潰すよう依頼した。九十九は達磨一家の日向紀久たちを襲い、MIGHTY WARRIORSのアイスや劉たちはクラブheavenへ乗り込んだ。ナオミがダウトに捕まりそうになっていると、山王連合会のコブラやヤマトたちが駆け付けた。
MIGHTY WARRIORSはホワイト・ラスカルズのロッキーたちに続き、鬼邪高校の村山良樹たちも襲撃した。刑事の西郷はコブラたちから捜査しろと要求され、自分たちの問題は自分たちで片付けろと冷たく告げた。西郷は「そろそろ潮時じゃねえのか」と言い、貧乏商店街にしがみつくのは卒業して大人になれと述べた。RUDE BOYSのスモーキーは爆破事件の犯人がMIGHTY WARRIORSだという情報を知り、妹のララが問い掛けても無視して立ち去った。
雨宮雅貴と雨宮広斗はSWORD地区に戻ってきたが、惨状を見て立ち去ることにした。鬼邪高校の村山は報復を求められても意欲を示さず、達磨一家では日向が強い復讐心を見せた。琥珀と九十九は家村会の家村龍美や二階堂たちの元へ行き、SWORDをまとめてくれと要請される。家村会の傘下に入ることを拒否して去ろうとした琥珀は、家村が達也の名前を出すと顔を強張らせた。琥珀は今も龍也の幻影に悩まされ、罪悪感に苦しんでいた。
李は二階堂から正体を怪しまれるが、軽く受け流した。兄の尊龍を捜していた雅貴は、MIGHTY WARRIORSのセイラがRUDE BOYSに追われているのを目撃して助けた。セイラは追われる理由が分からないと答え、どこかへ連れて行ってほしいと頼んだ。雅貴はOKするが、いつの間にかバイクを盗まれていた。コブラとヤマトは琥珀に呼び出されて会いに行くが、SWORDの襲撃を仕組んだ犯人だと知って衝撃を受けた。九十九が劉の案内で歩いていると、RUDE BOYSが取り囲んだ。劉は爆発を仕掛けたことを悪びれずに明かし、MIGHTY WARRIORSとダウトの連中が現れた。
スモーキーは窮地に陥るが、広斗が現れて加勢した。琥珀はコブラとヤマトを叩きのめし、言う通りにするよう告げて立ち去った。アイスたちと戦っていた広斗は、スモーキーが仲間の車で救出されるのを確認すると逃走した。彼はスモーキーを闇医者に手当てしてもらい、ララに治療費を渡した。そこから立ち去ろうとした広斗は、ララがダウトの連中に車で拉致されるのを目撃した。コブラとヤマトは琥珀を信じたい気持ちから、何か事情があるのだろうと考えた。
今回の一件が始まる前、琥珀は李から「達也を殺したのは九龍グループ」と聞かされていた。李は証拠となる写真や資料を見せて「私なら協力できる」と言い、張城のボスを務める父の張を紹介した。彼は九龍グループを排除したい利害が一致していることを告げ、手を組むよう提案した。そしてMIGHTY WARRIORSとダウトを手下として使うよう持ち掛け、琥珀は取り引きを承諾したのだった。九十九はコブラとヤマトの元を訪れ、2日後に琥珀がMIGHTY WARRIORSとダウトを率いてSWORDを襲撃すると教えて去った。
意識を取り戻したスモーキーは、ララを助けてほしいと広斗に頼んだ。雅貴は広斗と合流し、「ララを助ければ兄貴のことが分かるかもしれない」と告げられる。コブラとヤマトは調査していたノボルから、達也が死んだ事件の真相を聞かされる。九龍グループは巨大カジノの利権を狙っており、それに絡んでムゲンを解散に追い込んだ。その見せしめとして、九龍グループは事故に見せ掛けて龍也を抹殺していた。ノボルは推測と前置きした上で、琥珀が海外マフィアと九龍の抗争を狙って行動しているのではないかと話す。ヤマトはナオミから「兄貴は復讐なんて望んでない」と涙ながら言われ、「俺たちが必ず何とかする」と約束した。
コブラとヤマトが2人だけでケジメを付けに行こうとすると、ダン&テッツ&チハルが駆け付ける。彼らが同行を訴えると、コブラは承諾して「このケンカは命懸けになる」と覚悟を確認した。彼は山王連合会を集合させ、湾岸地区へ向かう。村山は仲間を巻き込みたくないと考え、古屋と関だけを引き連れて湾岸地区へ向かっていた。だが、それを察した仲間の轟たちは大型トラックで現れ、合流して湾岸地区へ向かう。White Rascals、達磨一家、RUDE BOYSも湾岸地区へ向かい、全てのグループが集結した。苺美瑠狂の純子は仲間から抗争への参加を求められるが、ITOKANで待機することを選ぶ。SWORD連合軍と湾岸連合軍が対峙し、全面抗争の火蓋は切って落とされた…。

監督は久保茂昭、脚本は渡辺啓&平沼紀久&Team HI-AX、脚本協力は入江悠&継田淳、企画プロデュースはEXILE HIRO、製作総指揮は黒崎太郎&森雅貴、製作は山田克也&森広貴&大角正&戸口真吾&薮下維也&長澤一史&坂本健&井上肇、エグゼクティブプロデューサーは八木元&関佳裕、プロデューサーは藤村直人&植野浩之&平沼紀久&中林千賀子、協力プロデューサーは田中正、ラインプロデューサーは鶴賀谷公彦、コスチュームプロデューサーは小川哲史、アートディレクターは溝口基樹、撮影は鯵坂輝国、照明は平野勝利、録音は照井康政、美術は橋本創、編集は鈴木真一、アクション監督は大内貴仁、VFXスーパーバイザーは小坂一順、音楽は中野雄太、音楽プロデューサーは佐藤達郎。
出演はAKIRA(EXILE)、青柳翔、高谷裕之、岡見勇信、井浦新、小泉今日子、白竜、V.I(BIGBANG)、TAKAHIRO(EXILE/ACE OF SPADES)、登坂広臣(三代目J Soul Brothers)、中嶋しゅう、豊原功補、YOU、岩田剛典(EXILE/三代目J Soul Brothers)、鈴木伸之、町田啓太、山下健二郎(EXILE/三代目J Soul Brothers)、佐藤寛太、佐藤大樹(EXILE/FANTASTICS)、八木将康、岩谷翔吾(THE RAMPAGE)、山本彰吾(THE RAMPAGE)、山田裕貴、鈴木貴之、一ノ瀬ワタル、前田公輝、鈴木昂秀(THE RAMPAGE)、龍(THE RAMPAGE)、黒木啓司(EXILE/EXILE THE SECOND)、遠藤雄弥、鬼龍院翔、喜矢武豊、歌広場淳、樽美酒研二、稲葉友、柳俊太郎、窪田正孝、永瀬匡、佐野玲於(GENERATIONS)、ZEN、林遣都、遠藤要、阿部亮平、小澤雄太ら。


TVドラマ『HiGH&LOW 〜THE STORY OF S.W.O.R.D.〜』の続編となる劇場版。
監督はTVシリーズに続き、LDH所属アーティストのMVを多く手掛けてきた久保茂昭が担当している。
琥珀役のAKIRAや九十九役の青柳翔、コブラ役の岩田剛典、村山役の山田裕貴、ロッキー役の黒木啓司、スモーキー役の窪田正孝、日向役の林遣都、純子役の小島藤子、家村役の中村達也、アイス役のELLY、劉役の早乙女太一、西郷役の豊原功補、寿子役のYOU、雅貴役のTAKAHIRO、広斗役の登坂広臣、李役のV.I、小竹のママ役の小泉今日子など、TVシリーズから多くのキャストが続投している。
新登場の主要キャストは、張役の白竜など、ごくわずかだ。
アンクレジットだが、尊龍役で斎藤工がラストに1シーンだけ登場する。

HIRO、本名・五十嵐広行はJ Soul BrothersをEXILEに改名して活動を始めた後、芸能プロダクションの株式会社LDHを創設して社長に就任した。EXILEは若者の心を掴み、着実にファンを増やしていった。
それだけで満足しなかったHIROは、芸能界を仕切るドンに大金を渡してレコード大賞を獲得するなど様々な手を使い、さらに勢いを増すような努力を惜しまなかった(レコード大賞は昔から金で買える賞なので、彼の行動は普通のことである)。
HIROはEXILEだけでなく他にも次々に音楽グループをプロデュースし、LDHはどんどん勢力を拡大していった。芸能事務所以外の事業も展開し、音楽グループだけでなくタレントや俳優、モデルやアスリートも所属する事務所になった。
HIROの野望は留まることを知らず、LDHはTVドラマや映画業界へも進出していく。そしてHIROがEXILE TRIBEによる総合エンターテインメントプロジェクトとして企画したのが、『HiGH&LOW〜THE STORY OF S.W.O.R.D.〜』である。
2015年10月から2期に渡って放送されたTVドラマの他、映画シリーズやライブ、漫画など様々なメディアで展開されるのが、このプロジェクトだ。

トップビリングがEXILEのAKIRAということで、2015年にはフジテレビ系で放送されたTVドラマ『HEAT』を連想した。
あのドラマは最初から続編としての劇場版製作が決まっていたのだが、あまりにも視聴率が悪かったために中止された。『HEAT』の製作にLDHは関わっていないが、きっとHIROは「あれと同じようなことは絶対に避けないと」と思ったはずだ。
幸いなことに、このプロジェクトはTVドラマが深夜枠の放送だったこともあってか、「低視聴率で映画化は白紙」なんてことは無かった。
そして映画版の方も1作目で打ち切られることはなく、ちゃんとシリーズが続行した。

このプロジェクトが失敗せずに済んだのは、何よりも「EXILE TRIBEの人気が高い」ということが大きい。
特に三代目 J Soul BrothersはEXILEを凌ぐほどの人気グループへと成長し、確実に観客を動員できる牽引力となったはずだ。
もちろん三代目だけでなく、GENERATIONSやTHE RAMPAGEなど他のグループも人気が高く、多くのファンが映画館へ詰め掛けた。
とにかく映画館に充分な観客が来てくれれば、それで興行としては黒字が出る。なので、「大勢のファンがいて、その人たちが確実に映画館へ足を運んでくれる」という状態が成立していれば、映画は絶対に失敗しない(一般的な評価はともかくとして)。
これはオタクを取り込むアニメ映画と同じような現象である。

この映画にHIROが並々ならぬ自信を持っていたこと、かなりの精力を注ぎ込んでいたことは、エンドロールに分かりやすい形で表れている。
通常のエンドロールでは、キャストとスタッフが順番に表示され、最後は監督の名前で終わる。
ところが本作品の最後に表記されるのが監督の名前ではなく、「企画プロデュース EXILE HIRO」という文字なのだ。
つまり、「監督よりも俺の方が偉い。この映画は俺の物」ということをアピールしているのだ。
これは、あの角川春樹でさえ決してやらなかったことである。

本業が俳優ではない面々が多く出演しているので、当然のことながら演技力に多くの期待は出来ない。そして実際、期待しなくて正解と思わせるような芝居を披露している。
しかし、そもそも高い演技力を求める類の映画ではない。これはEXILE TRIBEによる一種のアイドル映画なので、それでも別にいいのだ。
それを考えると、窪田正孝や林遣都を彼らと並列の立場で配置しているのは望ましくないと言えるかもしれない。演技力の差が顕著に見えてしまうからだ。
しかし不幸中の幸いで、彼らの出番はそんなに多くない。また、EXILE TRIBEの方にも俳優ではない面々を多く起用していることで、そこの稚拙さを打ち消そうとする配慮も窺える。
あと、内容や役柄からして、そんなに高いレベルの演技力が無くても大丈夫ってこともある。

「出演者がバカみたいに多い」ってのは、映画を見る上で越えるべきハードルだ。
そもそも「5つのグループが争っていて、そこに他のグループも参加して」という設定があるので、この時点で主要キャストが多くなるのは必然だ。
各グループのリーダーだけを際立たせてメンバーはエキストラ的な扱いに留めるならともかく、そうじゃないからね。
それぞれのグループは単純に「争っている」というだけでなく色々と絡み合っているので、相関図もシンプルというわけにはいかない。

なのでTVシリーズを見ていない人からすると、そこを把握するだけでも大変だろう。っていうか、一見さんはマトモに把握できないまま映画が終わってしまう可能性さえ考えられる。
一応は最初に「これまでの粗筋」のパートが用意されているが、それはTVシリーズを見ていない人にとって何の助けにもならない程度のシロモノだ。
ただし、最初から製作サイドは、一見さんのことなんて全く考えちゃいないだろう。そこの観客層を無視しても、確実に成功すると踏んでいたはずだ。
いわゆる「コミューン映画」(by古川土竜)なので、ファン以外が見ること自体が間違いなのだ。

ただし不幸中の幸いとでも言うべきなのか、実は主要キャストの面々や相関図が充分に理解できなくても、それほど心配する必要は無い。
この映画、そんなのは二の次、三の次と言ってもいいぐらいなのだ。
一応は映画としての体裁を取っているものの、実質的には「長尺のプロモーション映像、もしくはミュージック・ビデオ」なのである。
なのでザックリ言ってしまうと、「アクションと音楽の融合」という部分だけを堪能できれば、ドラマや物語に入り込めなくても全く問題は無いのである。

用意された架空の世界観は、ちょっと恥ずかしくなるぐらい「クールでイケてるでしょ」と得意げにアピールしてくる。
ここで拒絶反応を起こしていたら、この映画を観賞することなんて不可能だ。最初で受け付けなかったら、途中で順応するってことは、たぶん無い。
なので、そこは照れる気持ちを捨てて、「オシャレを気取る感覚」を装う必要がある。
もちろん、まるで引っ掛からず自然に入り込める人もいるだろうから、そういう場合は何の問題も無い。
むしろ、そういう人こそ、この映画を観賞するのに適しているのだから。

ただでさえ登場人物や相関関係が入れ乱れていてゴチャゴチャしているのに、序盤から断片的な映像が短くコラージュされて時系列をシャッフルしているため、ますます混乱を招くような作りになっている。
そこを過ぎても、スムーズに話を進めようとか、分かりやすく噛み砕いて説明しようという気は一切見せない。
回想シーンを挿入するとか、妙な緩和を入れるとか、時間が足りていないのに道草も平気で食う。
回想が現在のドラマと上手く連動れば道草とは言えないが、まるで効果を発揮してないので無意味なだけだ。

上映時間は129分なので、長編映画として長めに取っているが、それでも「ストーリーを丁寧に描写し、ドラマを盛り上げる」という観点からすると、全く間に合っていない。
本来ならば最終決戦に向けて登場人物を詳細に描写し、人間ドラマを深く掘り下げ、1つずつ段階を経て、「いよいよラストバトルに突入」という高め方をすることが望ましい。しかし、何しろ主要キャストが多すぎるため、そんなことを丁寧にやっている余裕など全く無い。
だから、気持ちが高揚するための作業が著しく不足したまま全面戦争に突入してしまう。
質の低いB級アクションがやりがちな失敗を、この映画もやらかしているわけだ。

しかし前述したように、これはプロモーション映像orミュージック・ビデオなので、「アクション映画としての質」など考えてはダメだ。
アクションシーンを単体で捉えて、そこがプロモーション映像かミュージック・ビデオとして、どうなのかという見方をするべきなのだ。うるさいぐらい鳴り響く音楽と、スタイリッシュを狙っているであろう格闘アクションのコラボレーションに身を委ねればいいのだ。
大内貴仁がアクション監督を務めていることもあり、アクションの演出自体は上質だしね。
まあ色々と書いてきたけど、とどのつまりは「EXILE TRIBEのファンなら絶対に楽しめる作品」に仕上がっているので、それで充分じゃないかな。

(観賞日:2018年4月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会