『彼岸島 デラックス』:2016、日本

彼岸島の浜辺で意識を取り戻した加藤は、化け物と遭遇した出来事を思い出した。島を歩いた彼は村を発見し、民家に入って水を飲もうとする。しかし民家には吸血鬼の一団が潜んでおり、加藤は包囲されて襲われそうになる。そこへケンが現れ、吸血鬼たちと戦う。彼は加藤に「逃げろ」と指示し、自分も後を追った。加藤から事情を問われたケンは、「ここは吸血鬼の島だ。人間はほとんど残っちゃいねえ」と話す。明について訊かれると、彼は「あいつは戦ってる。吸血鬼と」と答えた。
明はユキと西山を守り、師匠と共に吸血鬼の一団と戦った。吸血鬼を倒すと邪鬼(オニ)の太郎が襲って来るが、明は師匠と協力して退治した。島の支配者である雅に挑発された明は、戦いを挑んだ。すると雅は余裕の笑みを浮かべ、「もう少しお前の力を確かめてやろう」と3匹の亡者を出現させる。明が亡者と戦っている間に、ユキは雅に矢を放つ。雅は矢を受け止め、ユキを捕まえて首筋に噛み付いた。明は激怒して斬り掛かるが、不死身の雅は簡単に再生した。雅は明に、仲間になるよう持ち掛けた。明が拒否すると、雅はユキを始末しようとする。ケンは遠くから矢を放って妨害し、姿を隠した。師匠は撤退を指示。明はユキを連れて逃亡した。
そんな出来事を加藤ケンは説明するが、加藤は全く信じなかった。ケンは自分が吸血鬼に変貌すると悟り、加藤に離れるよう告げる。そこへ紫苑が来て、ケンに血を吸うよう促す。ケンの変貌を見た加藤は、困惑しながらも走り去った。紫苑は「仲間の血は吸えないか」と言い、ケンに血を飲ませた。師匠は明に、雅の力を奪う唯一の手段である501を見つけたと話す。同じ頃、雅も501が残っていたという情報を入手していた。彼は手下の椿&まり子でなく、障子の向こうの相手に仕事を指示した。
森を抜けた加藤は、篤が涼子や仲間と暮らす村を発見した。加藤は村人に気付かれないよう、こっそりと様子を観察する。篤は松吉が血を飲みたくないと言っていると知らされ、刀を手にして彼の家へ赴く。すると松吉は鬼に変身しており、襲い掛かってくる。篤は松吉を斬り捨て、手厚く葬るよう村人たちに頼む。人の気配に気付いた彼が「誰だ、出て来い」と呼び掛けると、加藤が姿を見せた。加藤は「住民は吸血鬼で血を飲まないと鬼や亡者になる」という篤の説明で、ようやく吸血鬼の村だと気付いた。
明は仲間の冷たちと共に、吸血鬼村を襲撃する計画を立てた。ユキと西山は、作戦に参加させてほしいと志願する。師匠の号令で、明たちは夜明けと共に進撃すると決めた。翌朝、篤が村を出ると、加藤が追った。篤は気付きながらも、ダムへ向かう。一方、明たちは村を襲撃した。ダムに着いた篤は封鎖しておいた扉を開け、「中に入ったら姫とは絶対に目を合わせるな」と注意した。彼が地下通路に入ったので、加藤は後を追った。
村で戦っていたユキがピンチになると、ケンが駆け付けて助けた。彼はユキと西山を逃がし、吸血鬼と戦う。地下通路を進んでいた加藤は、篤は見失う。鬼と戦う明が苦戦していると、篤が来て加勢する。明は篤の指示を受けて共闘し、鬼を倒す。明が近付こうとすると、篤は「来るな。お前は人間で、俺は吸血鬼だ。もう二度と、お前と交わることは無い。人間にとって吸血鬼が敵であるように、吸血鬼にとって人間は敵だ」と告げて立ち去った。
明はユキたちと合流し、ケンが助けに来たことを知らされた。悲鳴を耳にした彼らが現場へ向かうと、冷が鬼に追い込まれていた。明は鬼を攻撃し、穴を開けて地下通路へ飛び込む冷たちを逃がす。明は後に続き、地下通路を進む。一行は吸血鬼の兵隊と遭遇するが、全て撃退して先へ進む。明たちは研究室に辿り着いて501を探すが、そこにも吸血鬼の兵隊が乗り込んで来る。明たちは敵を全滅させるが、西山が噛まれる。明は501を見つけるが、篤が現れた。彼は刀を突き付け、501を引き渡すよう要求した。
篤は雅の下で働いていると言い、明に襲い掛かった。苦戦する明が追い込まれると、冷が盾になって斬られる。明は激昂するが歯が立たず、篤は501の瓶を奪って去った。冷は明たちに看取られ、息を引き取った。明は冷に「貴方の死は絶対、無駄にしない」と誓い、研究所を去る。その直後、冷は吸血鬼になって甦った。地下通路を出ようとした明たちは、加藤と再会する。そこへ怪物の姫が現れたので、一行は慌てて逃げ出す。明たちは螺旋階段を見つけ、地上を目指した。
加藤が「出口を知ってる。見覚えがある」と自信満々に言うので、明たちは彼に案内を任せた。しかし加藤は道に迷い、トロッコが置いてある場所に行き着いた。西山は「線路伝いに行けば、出口があるはずだ」と言うが、再び姫が現れた。明たちはトロッコで逃走し、通路の外へ飛び出した。トロッコが川に落下すると、日光が苦手な姫は追い掛けて来なかった。ユキと西山は師匠の元へ戻り、冷の死を伝えた。明は篤から501を取り戻すため、吸血鬼村へ乗り込んだ…。

監督は渡辺武、原作は松本光司『彼岸島』(週刊ヤングマガジン連載)、脚本は佐藤佐吉&伊藤秀裕、製作は古川公平&梅村義孝&谷口充大&重村博文&森口和剛、企画は伊藤秀裕、企画協力は栗田宏俊&綱川順一&安永尚人&田中誠&高安佑輔、プロデューサーは佐藤敏宏&大塚玲美&樽川浩志、VFXスーパーバイザー/アートディレクターは谷口充大、アクション監督は吉田浩之、撮影は小松原茂、照明は松隈信一、録音は長島慎介、美術は丸尾知行、編集は目見田健、音楽は遠藤浩二、主題歌『SYNERGY』はm-flo feat. シシド・カフカ、エンディング『100年時が過ぎても』はPALU。
出演は白石隼也、鈴木亮平、桜井美南、遠藤雄弥、阿部翔平、森岡龍、栗原類、佐藤めぐみ、水崎綾女、村上和成、藤重政孝、石塚義之(アリtoキリギリス)、丹古母鬼馬二、にしおかすみこ、加藤歩(ザブングル)、上間美緒(上間凛子)、高野人母美、柳ゆり菜、みすず(現・小板橋みすず)、月岡鈴、西野隼人、田中理勇、稲田羅倭、安藤健悟、武田智男、齋藤絵美、飯田まさと、瀬野千恵子、中村憲刀、佐々木将志、佐久間としひこ、梅津一生、今井修、豊田茂美、宮崎実、龍巳、池内偉剛、芹澤良香、深谷理紗、竹崎綾華、立花サキ、福吉寿雄、坪谷隆寛、浪川大輝、上野龍之介ら。
声の出演は石橋蓮司。


松本光司の漫画『彼岸島』を基にした2013年のTVドラマの劇場版。原作は2010年に映画化されているが、それとは関係が無い。
監督は『飢狼の群れ』『猫侍 南の島へ行く』の渡辺武。
脚本は『東京闇虫』『奴隷区 僕と23人の奴隷』の佐藤佐吉と、『HEAT 灼熱』『全員、片想い』の伊藤秀裕による共同。
明を白石隼也、篤を鈴木亮平、ユキを桜井美南、ケンを遠藤雄弥、西山を阿部翔平、加藤を森岡龍、雅を栗原類、冷を佐藤めぐみ、涼子を水崎綾女が演じている。

冒頭の3分程度で、漫画とTVドラマの映像をコラージュするような形で「これまでの粗筋」が示される。
でも、これは漫画もTVドラマも見ていない人からすると、何の役にも立たない説明だ。あくまでもTVドラマを見ていた人に向けて「そう言えば、こんな話だったな」と思い出させるためのダイジェストでしかない。
しかも、それはそれとして区切りを付けて映画をスタートさせるのかというと、そうじゃないんだよね。
ダイジェストが終わると「現在」と文字が出て、TVドラマの完全なる続きとして始めているのだ。

ケンが加藤を助けると、彼の説明を挟みながら、明が敵と戦う様子が回想シーンとして描かれる。まずは吸血鬼、次は巨大鬼、雅、そして亡者との戦いが描かれる。
この辺りの慌ただしい展開は、上映時間が60分ぐらいしか無い特撮ヒーロー物の劇場版を連想させる。
だけど、これは上映時間が約2時間あるんだから、そこまで矢継ぎ早にアクションを重ねて序盤から「せわしないなあ」と感じさせる意味が全く無いんだよね。
尺を考えると、充分に余裕はあるはずなのよ。

どうやら何も知らない加藤を使って観客に島の状況を説明し、物語に引き込もうとしているようだ。だけど、どうせドラマを見ていない人からすると最初の説明が役立たずなんだし、そこで中途半端な解説役を用意しても焼け石に水でしかないよ。
しかも、加藤がコメディー・リリーフ的な立ち振る舞いを見せるので、すんげえ邪魔なのよ。もはや、そういう緩和が許されるような雰囲気じゃないからね。
なので加藤が軽口を叩いたり冗談めかした態度を取ったりするのは、「空気の読めない疎ましい奴」でしかないのよ。
しかも足手まといで面倒な奴なので、「そういうの要らないから」と冷めた気持ちになるし。

大半の時間で戦っていて、それ以外のシーンはアクションとアクションを繋げるためのモノでしかない。ドラマとしての質に期待してはいけない。
だからってアクションシーンが素晴らしいわけではなく、こちらも分かりやすく低調だ。
かなり多くの特殊視覚効果が使われているけど、それが質を高めることなんて無い。VFX製のクリーチャーは、まるで背景と馴染まずに浮いている。
「何となく」のイメージとしては、ストップモーション・アニメーションの超進化版みたいな感じだ。

この作品って、ようするにワイヤーアクションを多用したソード・アクションをやりたいだけなんだよね。
吸血鬼の設定なんて、ほとんど意味が無い。CGで描いた巨大なモンスターも登場し、ほぼ特撮ヒーロー物みたいなノリになっている。
師匠が投げた丸太に明が飛び乗り、そこからジャンプして邪鬼の脳天に刀を振り下ろすアクションとか、もう「わざと安っぽくしてんのか」と言いたくなるほどだ。
VFXのクオリティーも含めて、何もかもが特撮ヒーロー物っぽい。

篤は加藤が追っているのを知っても追い払おうとせず、ダムへ向かう。そして警告した上で、地下通路に入る。
だったら目的の場所まで加藤を案内するのかと思ったら、いつの間にか姿を消す。加藤は目を離さずに近距離で追っていたはずなのに、なぜか簡単に篤を見失う。そして篤は、明のピンチに駆け付けて一緒に戦う。
でも、どういうルートでトンネルから明の元へ駆け付けたのか。瞬間移動したみたいになっている。
あと、そもそも村へ来た理由も不明だし。明がピンチだと分からなかったら、そこへ来る理由は無いはずだよね。ってことは、ピンチだと悟ったから駆け付けたんだよね。
でも、それを知る方法なんて無いはずだろうに。

篤は明が吸血鬼村で窮地に陥ると助けに駆け付けるが、研究室では殺そうとする。ただ501を奪い取るだけでいいのかと思ったら、確実に殺す狙いを持って刀を振り下ろしているからね。行動が支離滅裂だわ。
そして明が501の奪還に来た時も、本気で戦っている。そのくせ、柱が落ちて来ると、篤が明を庇って下敷きになる。
「吸血鬼になったから仲間のために戦うが、弟への思いも忘れていない」というキャラとして描きたいのは良く分かる。どんな感じで動かしたいのかも、何となく分かる。
でも彼の逡巡や葛藤は、全く伝わって来ない。
なので結果的には、ずっと整合性が取れないデタラメな奴になっちゃってるのよね。

終盤になって、「明に心の弱さを断ち切らせるため、命懸けの試練として篤は動いていた」ってことが明らかにされる。
でも、それで感動することなんてもちろん無くて、「ちょっと何言ってんのか良く分かんない」と冷めた気持ちにさせられるだけだよ。バカバカしいとしか思わないよ。
ただ、じゃあ全体を通して「バカバカしさの極地」としての面白さが満開なのかというと、そうじゃない。
原作はトンチキな漫画として一部で有名だけど、おバカな映画として徹底的に振り切っているわけではないんだよね。

TVドラマは完結しておらず、何も解決しておらず、「俺たちの戦いはこれからだ」という形で終わっていた。
最初から「続きは映画で」という企画として進めていたのだとしたら、たぶん長くても1年後には公開されていたはず。
ってことは、一度は続編の企画が頓挫して、運良く復活したってことなんだろうか。
まあ経緯はともかく、TVドラマから3年も経ってから映画で続きを描くってのは、どう考えてもタイミングとしては遅すぎる。

しかも、せめて映画版で物語を完結させるのかと思ったら、違うんだよね。今回も、またもや「俺たちの戦いはこれからだ」で終わるのだ。
いや、何も終わってねえし。呆れるぐらいに見事な投げっ放しジャーマンだし。
TVドラマからラスボスとして君臨していた雅を倒した上で、「でも他の場所にも吸血鬼は拡散している。そいつらを倒さなきゃ終われない」ってことでの「おれたた」なら、まだ分からんでもないのよ。
でもザックリ言っちゃうと、TVドラマの頃から何も状況は変わっていないのよ。

(観賞日:2021年12月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会