『陽だまりの彼女』:2013、日本

広告代理店「日本レイルアド」広告営業部第一営業課の奥田浩介は、まだ2年目の若手社員だ。その朝、彼が目を覚ますと、大学に通う弟の翔太が勝手にベッドで寝ていた。そのせいで遅刻した浩介が会社のエレベーターに乗ると、片想いしている相手がいた。浩介は遠慮がちに話し掛けるが、結婚することを聞かされた。広告営業部へ赴いた浩介は、先輩の田中から「プレゼン初日に遅刻か」と注意される。田中が女にフラれたことを話してキャバクラに誘うので、浩介は「またですか」と漏らす。そんな2人の様子を、後輩社員の峯岸ゆりは馬鹿にした表情で見ていた。
浩介は田中と共に、クライアントであるランジェリー・メーカー「ララ・オロール」へ出向いた。2人は広報部の梶原玲子と新藤春樹に会い、名刺を交換する。そこへ今回の案件を新藤と共に担当する若手社員の渡来真緒が現れると、浩介は中学時代の出来事を思い浮かべた。真緒は中学時代に転校生として浩介のクラスメイトになったが、いきなり彼の席に歩み寄って自己紹介したのだ。しかし浩介は中学3年の夏休みに転校したため、10年ぶりの再会だった。
真緒は中学時代、クラスメイトの潮田アキたちからバカ呼ばわりされてイジメの対象になっていた。しかし現在の彼女は、浩介のミスを冷静にフォローするぐらい有能な社会人になっていた。外見の方も美しく成長しており、浩介は好意を抱く。しかし新藤と話す様子を見た彼は2人が交際しているのだろうと推測し、田中も「あの2人、完全にデキてんな」と口にする。しかし浩介はセットボードのゲラを渡しに行った帰り、エレベーターが閉じる直前に真緒から「ありがとう、浩介」と言われて頬を緩ませた。
中学時代、浩介はアキたちが真緒を虐めている様子を目撃し、我慢できず「いい加減にしろ」と注意した。その日以来、アキたちは浩介も攻撃対象に加え、悪い噂を流した。しかし真緒は全く気にせず、浩介に笑顔で話し掛けた。浩介は杉原部長から広告のデザインが卑猥だと指摘され、申請が通らないという理由で却下される。浩介は他の会社のセクシーな広告を写真に撮り、それを証拠にしてOKを貰おうと考える。それを知った真緒は、「私と浩介の仲だよ」と彼に協力した。
広告は無事に申請を通過し、浩介は真緒に報告するためララ・オロールへ出向く。真緒は中学時代について、「浩介が何度も守ってくれたから、ホントに助かったんだよ」と語る。浩介が「また会えて良かった、偶然でも」と告げると、彼女は「偶然なんて無いよ」と言ってキスをした。中学時代には、浩介から真緒に一度だけキスをしたことがあった。2人はデートに出掛け、真緒は「私、浩介が転校してから勉強したよ。大学に行けば、また会えると思って」と告げる。浩介はイジメに耐え切れず名古屋へ引っ越しており、済まなそうに「俺は逃げたんだ」と口にした。
週末、浩介は真緒と共に江の島へ出掛けた。真緒に好意を寄せている新藤は、他の女を連れて尾行する。浩介は真緒を連れて、子供の頃に良く来ていた猫の溜まり場に赴いた。猫屋敷の住人である老女の大下が来たのに気付いた真緒は、浩介に飲み物を買って来るよう頼んだ。真緒は大下と2人になるが、浩介が戻って来ると何事も無かったように振る舞った。真緒は浩介を連れて、実家へ戻った。父の幸三と母の真由子は、2人の交際に反対の意思を示した。
真緒が「結婚します」と唐突に言い出したので、浩介は困惑した。幸三は浩介を縁側へ連れて行き、「どのくらい知ってるのかな、真緒の事情について」と問い掛けた。浩介は真緒が里子であり、渡来夫婦に養子縁組されたことは知っていた。幸三は彼に、「真緒はウチに来る前、13歳までの記憶が全く無い」と打ち明けた。驚く浩介に、彼は「いつ記憶障害が発症するか分からん。その時、真緒を背負うことは出来るのか。よそ様に迷惑は掛けられないよ」と告げた。
実家を後にした真緒は、浩介に「ごめんね、黙ってて。でも覚えてる限り、私は幸せなの」と語る。「会えなかった分、10年分、一緒にいて」と彼女に言われた浩介は、婚姻届を役所に提出した。アパートで新婚生活を送ることに決めた浩介は、幸三と電話で話す。幸三は「困ったことがあれば相談に来なさい」と告げ、2人の結婚を認めた。真緒が右手の傷を見つけると、浩介は「江の島で猫を拾った時に」と話す。小学3年生の頃、お守りを首から下げた猫が岩場に挟まっていたのを引っ張り上げた時、怪我を負ったのだ。
新婚生活に幸せを感じていた浩介だが、真緒の体が痩せ細ったり、頭髪が大量に抜けたりする異変を起こし始める。真緒は「大したことないよ」と軽く言うが、浩介は病院で検査を受けさせる。医師は「特に異常は見受けられません。強いて不調の原因を挙げるなら、疲労とストレスですね」と、2人に説明する。しかし真緒が席を外すと、彼は浩介だけに「他に考えられるとすれば、記憶の無い間に受けた心の傷が影響を与えてるとか」と語った…。

監督は三木孝浩、原作は越谷オサム『陽だまりの彼女』(新潮文庫刊)、脚本は菅野友恵&向井康介、製作は長澤修一&市川南&藤島ジュリーK.&畠中達郎、エグゼクティブプロデューサーは豊島雅郎&上田太地、プロデューサーは小川真司&宇田充&遠藤学、撮影は板倉陽子、照明は木村匡博、美術は花谷秀文、録音は矢野正人、VFXスーパーバイザーは鎌田康介、編集は伊藤潤一、製作統括は前島和子&山内章弘&佐藤毅、音楽はmio-sotido、音楽プロデューサーは安井輝。
主題歌『光と君へのレクイエム』 山下達郎、Words & Music by:山下達郎。
テーマソング『素敵じゃないか』〜Wouldn't It Be Nise〜 ビーチ・ボーイズ。
出演は松本潤、上野樹里、夏木マリ、玉山鉄二、大倉孝二、谷村美月、菅田将暉、西田尚美、とよた真帆、木内みどり、塩見三省、北村匠海、葵わかな、小籔千豊、安藤玉恵、野間口徹、田中要次、古舘寛治、石橋杏奈、平田薫、山本ひかる、石井美絵子、安東華子、三浦透子、森桃子、梶原ひかり、駿河太郎、永野宗典、米村亮太朗、岩本龍門、柴崎楽、山崎智史、荒井祥太、芽衣、樋浦舞花、KATE D.、ALISSA R.、清水尋也、萩原みのり、中嶋来弥、加藤夢乃、藤井太一、長谷川葉生、清田智彦ら。


越谷オサムの同名ベストセラー小説を基にした作品。
監督は『僕等がいた』前後篇の三木孝浩。
脚本は『時をかける少女』『乱反射』の菅野友恵と『マイ・バック・ページ』『ふがいない僕は空を見た』の向井康介による共同。
浩介を松本潤、真緒を上野樹里、大下を夏木マリ、新藤を玉山鉄二、田中を大倉孝二、ゆりを谷村美月、翔太を菅田将暉、祥江を西田尚美、玲子をとよた真帆、真由子を木内みどり、幸三を塩見三省が演じている。

浩介は弟から馬鹿にされるぐらい「女にモテない」という設定で、モテるためのマニュアルが書かれた雑誌を読んでいたりする。
松本潤がモテない男ってのは全く説得力が無いし、ものすごく無理がある。しかし、そこでホントに「いかにもモテなさそうな俳優」を起用したら観客動員に響くだろうから、そこに「ホントはモテるに決まってるだろ」と言いたくなる人を使うのは仕方がないところだろう。
ただし、じゃあ浩介は全くモテないキャラなのかと思ったら、エレベーターの女からは「遅いですよ」と言われているのよね。つまり、もっと早くアプローチしていれば、チャンスはあったってことでしょ。ってことは、モテないわけではないのか。
その辺りは、どういうキャラとして描きたいのか、ちょっとボンヤリしているように感じるぞ。

前半から、ガードレールをヒョイと飛び越えたり、ジャングルジムのてっぺんから軽く飛び降りたりと、明らかに引っ掛かる真緒の行動が幾つか用意されている。
それは「後に繋がる伏線ですよ。後半に入ったら種明かしがありますよ」ってことが明確に感じられる仕掛けになっている。
だから大半の観客は、「彼女は何か秘密を抱えている」ってことが早い段階で分かるだろう。
ただし、その種明かしが到来した時に、「まさか、そんな秘密かよ」と言いたくなる人も少なくないんじゃないだろうか。

もちろん原作を読んだことがある人なら、どういう秘密なのかは御存知だろう。
説明に必要だから完全ネタバレを書くが、真緒の正体は猫である。彼女は大下の特殊な能力によって(いわゆる魔法ってことだよね)、人間の姿に変身させてもらったのだ。
種明かしがあってから振り返ってみれば、まるで熱くない飲み物を熱がっているとか、かなり身が軽いとか、浩介が犬を可愛がろうとした時に不機嫌になったとか、それらは全て「答えに繋がる綺麗な伏線」とは言える。
ただし原作を読んでいなければ、そのトンデモ設定は、さすがに気付かないだろう。そこまでファンタジックなオチに気付かせるほどの雰囲気は、全く作られていないのでね。

「真緒が猫である」という秘密を隠したままストーリーが進行する中で、「真緒には13歳までの記憶が無い」「また記憶障害を発症するかもしれない」という要素が提示される。その後には、真緒が急に痩せ細ったり、頭髪がゴッソリと抜けたりする展開も待ち受けている。
そうなると、その病気が浩介と真緒にとって大きな障害となるラブストーリーのように思える。
そのまま2人のラブラブな様子が描かれるだとドラマ的に厳しいだろうから、何か障害を用意するのは理解できる。
ただ、「記憶障害」という要素は、いかがなものかと。

記憶障害という要素を使ったのは、ミスリードのつもりかもれない。
だが、そんな仕掛けを用意しなくても、原作を読んでいなければ普通は真緒の正体に気付かないでしょ。
むしろ、まるで難病物のように見せ掛けておいて、それで「真緒の正体は猫」という秘密が明かされた時に、「なんだよ、そりゃ」という感想になっちゃうリスクが高いんじゃないかと。
まあ極端なことを言っちゃうと、どういう方法を取るにしても、後から種明かしをする形を取る以上、「なんだよ、そりゃ」と思わせるリスクは付きまとうような気もするけどね。

映画版だと、たぶん会社で倒れた真緒が猫屋敷を訪ねて大下と話すシーン辺りで、大半の観客が彼女の正体に気付くんじゃないだろうか。
原作は未読だが、どうやら映画版の方が、かなり分かりやすいヒントが幾つも散りばめられているらしい。
ひょっとすると製作サイドは、「どうせ原作を読んでから映画を見に来る人も多いだろう」と考えて、かなり分かりやすいヒントにしているのかもしれない。
ただ、それならば、もっとハッキリと答えを出しちゃう形にすれば良かったんじゃないかと思ってしまう。
つまり、分かりやすいヒントを前半から色々と出すのではなくて、もう最初から「真緒が猫である」ってのを明示しちゃうってことだ。

具体的に書くと、「1匹のメス猫が衰弱していた時、浩介に助けてもらった。浩介に好意を抱いたメス猫は、大下の魔法で人間の姿に変身させてもらい、彼の前に現れた」という見せ方をするってことだ。
そういう形にしてしまえば、最初から観客は「これは御伽噺」として捉えることが出来る。
御伽噺なら、「猫が浩介に恋をして、人間の姿になる」という荒唐無稽な話も普通に受け入れられる。
この映画のように正体を隠したままで進めると、そのオチが訪れた時、陳腐だと感じてしまう恐れもある。

「大下は猫を人間の姿に変身させる魔法が使えるが、寿命が訪れたら周囲の人々の記憶から完全に忘れ去られる」ってのは、ものすごく都合が良すぎる設定だ。
そんなに強力な魔法が使えるのなら、真緒の寿命ぐらい延ばせるんじゃないのかと言いたくなってしまう。
ただし、それは最初に「大下が魔法で猫を真緒の姿に変える。その際、寿命が訪れたら周囲の人々の記憶から完全に忘れ去られるルールを説明する」というシーンを入れておけば、そんなに引っ掛からずに済んだんじゃないかと思う。

ただし、御伽噺として捉えるにしても、やっぱり色々と厳しいトコはあると思うんだよね。
真緒が猫から人間の姿になったのが最近ってことなら、まあ分かるのよ。だけど、彼女は中学1年生の段階で人間の姿になっているんだよね。
で、その時は浩介と仲良くしていたものの、彼が転向してからは全く会わなくなってしまう。彼と再会するまでには、10年もの月日が経過しているのだ。
猫の寿命は短いんだから、そんなに長く待ち続ける余裕なんて無いはずだろ。もっと時間を惜しんで必死で見つけ出さなきゃダメだろ。

真緒がその気になれば、もっと早い時期に浩介の居場所を見つけ出し、再会できたはず。
イジメのせいでクラスメイトから連絡先を教えてもらえないにしても、担任教師なら引っ越し先の住所ぐらい教えてくれるだろ。そして住所が分かれば、すぐ会いに行けばいい。
それは普通の中学生だと難しいかもしれないが、真緒なら出来るはず。
「そのまま高校に進学し、浩介と再会するため、東京と付く大学を全て受験した」とか、無理があり過ぎるだろ。
まさか、「すんげえバカだから、浩介の引っ越し先を知る方法に気付かなかった」ってことで納得しなきゃいけないのか。

真緒は「偶然なんて無い」と言っているが、そうなるとプレゼンで訪れた浩介との再会は偶然じゃなかったってことになる。
だけど、なぜ彼女は、「ララ・オロールで働いていたら浩介と再会できる」と思ったのか。「浩介が広告会社で働いており、ララ・オロールの仕事をする」ってことが、あらかじめ分かっていたのか。
っていうか、そこまで分かっているのなら、日本レイルアドに就職した方がいいはずで。
いや、それよりも、浩介の働き先が分かっていたら、普通に会いに行けばいい。仕事で会わなきゃいけない理由は無いんだし。
もしも「ララ・オロールで働いていたら、いつかは浩介と会えるかもと思って待っていた」ってことだとすると、「どんだけ薄い可能性に賭けているんだよ」と言いたくなるし。

(観賞日:2016年12月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会