『ヒロイン失格』:2015、日本

高校生の寺坂利太は人見知りで協調性が無く、一人が好きなくせに寂しがり屋だった。そんな感じがクールで母性本能をくすぐるらしく無駄にモテるが、本人は全く興味を示さなかった。そんな利太をヒーローとして捉えているのが、幼馴染の松崎はとりだ。彼女は自分がヒロインであり、これから利太と結ばれる予定だと考えていた。小学生の頃、利太は母が男を作って駆け落ちしたことで、同級生グループからイジメを受けた。激昂した利太が椅子を持ち上げて暴れようとした時、はとりは止めに入り、ハマっていた『ごくせん』のヤンクミ風に「どんな時だってアタシはアンタの味方だよ」と告げた。
その時から、はとりは自分と利太の恋が始まったと信じていた。しかし友人の中島から学食で「そんなに自信があるなら早くコクれば」と呆れたように言われると、彼女は「主人公が真実の愛に気付くまでヒロインはがっつかない。それが王道パターン」と語った。その直後、はとりはクラスメイトの安達未帆が不良たちに絡まれる様子を目撃する。不良たちは煙草を吸っている現場を教師に報告され、安達に恨みを抱いたのだ。
安達が泣きそうになっていると、利太が現れて「くだらねえ、ガキかよ」と不良たちに告げる。不良たちは激怒して掴み掛かろうとするが、学食のオヤジに追い払われる。「私といると、イメージ悪くなりますよ」と安達が言うと、利太は「人の目なんて、どうでもよくね?」と告げる。「いい雰囲気じゃん」と中島は言うが、はとりは余裕たっぷりの態度を示す。彼女は安達が六角精児にそっくりだと感じており、最後に勝つのは自分だと言う。
だが、はとりは利太から「安達さんと付き合うことにした」と打ち明けられ、ショックを受けた。不良たちが利太に嫌がらせをして絡んで来ると、そこへ安達が現れて蹴り飛ばした。彼女は「殴るんなら、どうぞ。でも寺坂君に手を出したら許さない」と告げ、また学食のオヤジが来たので不良たちは逃亡した。利太と安達の仲睦まじい様子を見て、はとりは自分がヒロイン失格だと気付いた。だが、はとりは中島から「安達さんは告白っていうオーディションを受けてヒロインになった。アンタはオーディションも受けていない」と指摘されると、ヒロインの座が埋まってるなら、奪い返してやるよ。邪道ヒロインになってやる」と高笑いを浮かべた。
彼女は安達の前で幼い頃からのアルバムやジャージを見せ、利太との絆の深さをアピールする。しかし安達は全く動揺せず、はとりが逆にダメージを受けて完敗する始末だった。トイレに入った彼女は、クラスメイトが安達の陰口を叩いているので同調した。クラスメイトが去った後、はとりは個室にいた安達が全て聞いていたことを知った。はとりは全て利太にバラされると考えて焦るが、安達は「今のこと、気にしなくていいからね。だって松崎さん、寺坂君のこと好きでしょ私に気を遣わないで。それで寺坂君が松崎さんのとこ行っちゃっても、恨んだりしないから」と笑顔で告げた。
利太と安達が手を繋いでいる様子を見て、はとりはショックを受けた。そんな中、はとりは同級生の弘光廣祐から興味を示される。弘光はクラスメイトだと言うが、はとりは全く覚えが無かった。弘光は「彼女作っちゃった奴に執着しても虚しいだけだって。俺が今すぐにでも忘れさせてあげるよ」と告げるが、はとりは「アタシの恋は他の子と違って人生を懸けた本気の恋ですので」と口にした。すると弘光は「寺坂君が好きって言うより、10年間思い続けてる自分が好きなんだね」と指摘し、いきなりキスをした。はとりはファーストキスを奪われて失神するが、その場を去った弘光は「恋愛なんて思い込みなのにさ」とクールに考えていた。
はとりは利太に知られたくないと思い、翌日に弘光の元へ行って、黙っていてほしいと頼む。弘光が「代わりに何かしてもらっちゃおうかな」と壁ドンしていると、利太が現れて「そいつ、嫌がってんだろ」と注意した。はとりは喜ぶが、キスの口止めでダブルデートする羽目になった。はとりは弘光と仲良くする様子を見た利太が分かりやすく嫉妬心を見せたので、ついニヤニヤしてしまった。しかし安達から「無理して好きな人とか作らなくていいんじゃないかなあ。寺坂君を傷付けるのは、何か違うよ」と説教され、腹を立てる。
弘光は「アンタがそれ言っちゃう?嫌な女だねえ」と言い、はとりと利太のことを本気で思っているなら別れるよう要求する。安達が黙り込むと、「ほら、口だけじゃん。そういうの何て言うか知ってる?偽善者。ムカつくよねえ」と言い放った。はとりは利太と2人きりになり、「安達さんのどこが好きなの?」と質問する。利太から「夢があんだって。ジャーナリストになって、自分の言葉で世界に何かを伝えたいんだって。そういうのがある奴って、自身とか余裕とか持ってるんだよな。俺が持ってないモンが、あいつには詰まってんだ」と聞かされ、はとりは勝ち目が無いと感じて悲しくなった。
夏休みに安達が短期留学でメキシコへ行ったので、はとりは利太の奪還作戦を企てる。すると学食のオヤジと中島は、ギャップを見せるために利太と会わないことで関心を引くよう助言した。はとりは彼と距離を置き、向こうから連絡が来るのを待ち続ける。全く連絡が来ないので苛立ちを抱き始めた頃、はとりは弘光から誘われてデートに出掛けた。楽しい気分になった帰り道、はとりは「結構、はとりちゃんのこと好きかも」と言われてドキッとする。
そこへ恵美という女が泥酔状態で現れると、弘光は家まで送り届ける。彼ははとりに訊かれ、彼女が自分の元家庭教師であり、元カノでもあることを話す。弘光を捨てておきながら「色んな女の子と遊ぶのも、結局は私のことが忘れられないからで」と余裕の笑みを浮かべる恵美に、はとりは腹を立てた。。彼女は恵美を罵倒し、「弘光君を振ったこと、絶対に後悔するんだからね。自信持っていいんだからね、弘光君」と告げた。はとりが去った後、弘光は恵美に「アンタが思ってるほど、もうアンタに興味ないんだよね。今はさ、あの子から目が離せないんだよね」と口にした。
はとりは我慢できず利太に電話を掛け、花火大会に誘った。次の日、はとりは浴衣姿で利太と花火デートに出掛けるが、弘光が現れたので動揺する。はとりが席を外すと、利太は弘光に「はとりのこと、からかうなよ。お前が遊んでる女とは違うんだよ」と告げる。すると弘光は「心配してるフリして、自分のことを無条件で好きでいてくれる彼女を手放したくないだけ。それって残酷じゃない?」と指摘した。弘光が立ち去った後、はとりは利太に「アタシには、ずっと利太だけだもん」と告白する。
利太が「最後には、みんないなくなっちまうに決まってるんだ。俺が空っぽだから」と漏らすと、はとりは「アタシは違う」と言う。彼女は会わなかったのはギャップ大作戦だったこと、ずっと会いたかったことを打ち明けた。はとりが「自分勝手でゴメン。でも決めた。もう離れない」と言うと、利太は彼女にキスをした。はとりはチャンスを逃すまいと考え、恋する気持ちを積極的にアピールした。だが、そこへ安達が現れ、利太を呼び出す。利太が「ちゃんとケリを付けて来る」と告げたので、はとりはヒロイン返り咲きだと喜んだ。
翌日、安達は女子たちの会話を聞き、はとりと利太が花火大会で手を繋いでいたことを知る。彼女ははとりを呼び出し、「寺坂君の彼女は私だから。私が寺坂君の傍にいるから」と挑戦的に告げる。はとりが「自分が前に言ったんだよ。利太が私の所に言っても恨まないって」と指摘すると、彼女は「そうだよね、ごめんね」と告げて立ち去った。すると弘光が待ち受けており、「もう偽善者のフリはやめたら?どんな手を使ってでも繋ぎ止めなよ」と告げた。
利太は安達と会い、別れを告げようとする。気を失った安達は弘光の言葉を思い出し、「ずっと体調が良くなくって」と嘘をついた。彼女は「寺坂君がいたから私は変われたの。一人じゃ戦えないよ」と言い、弱音を吐いて利太の気を惹く。利太ははとりに会い、「もうお前と関わんねえから。傷付けてゴメン」と告げた。はとりは悲しみに暮れるが、弘光から優しい言葉を掛けられたので、彼と付き合うことにした。はとりは弘光とラブラブな様子を見せるが、利太のことを吹っ切れたわけではなかった…。

監督は英勉、原作は幸田もも子「ヒロイン失格」(集英社マーガレットコミックス刊)、脚本は吉田恵里香、製作は中山良夫&中村理一郎&福田太一&井上肇&柏木登&薮下維也&吉川英作&村松俊亮&宮本直人&佐竹一美、ゼネラル・プロデューサーは奥田誠治、エグゼクティブプロデューサーは門屋大輔、プロデューサーは伊藤卓哉&宇田川寧、ラインプロデューサーは的場明日香、撮影は小松高志、照明は蒔苗友一郎&岩切弘治、録音は加来昭彦、美術は金勝浩一、編集は相良直一郎、音楽は横山克。
主題歌『トリセツ』西野カナ 作詞:西野カナ、作曲:DJ Mass(VIVID Neon*)&Shoko Mochiyama&etsuco。
出演は桐谷美玲、山ア賢人、坂口健太郎、竹内力、濱田マリ、福田彩乃、我妻三輪子、高橋メアリージュン、中尾彬、柳沢慎吾、六角精児、桝太一(日本テレビアナウンサー)、今野浩喜(キングオブコメディ)、内田敦子、中谷竜、根岸姫奈、荒木飛翔、増田有華、比嘉梨乃、白善哲、加藤マサキ、疋田英美、山腰美優、犬飼若博、赤楚衛二、西洋亮、橘美緒、石丸奈菜美、謝花弘規、石田星空、大智、鈴木和弥、若林瑠海、中川翼、宮崎順之介、山崎智史、石井凛太朗、吉田騎士、グラマズディナ・アンナ、庄子愛華、庄子美咲ら。


幸田もも子の同名少女漫画を基にした作品。
監督は『高校デビュー』『貞子3D』の英勉、脚本は『脳漿炸裂ガール』の吉田恵里香が担当している。
はとりを桐谷美玲、利太を山ア賢人、弘光を坂口健太郎、学食のオヤジを竹内力、利太の母を濱田マリ、中島を福田彩乃、安達を我妻三輪子、恵美を高橋メアリージュンが演じている。
中尾彬、柳沢慎吾、六角精児が、本人役で特別出演している。
恋愛バトルを実況する同級生役で日本テレビアナウンサーの桝太一、はとりに落としたスマホを渡す同級生役で今野浩喜、はとりにトーストを渡される後ろ姿の高校生役でフリーアナウンサーの内田敦子、眼鏡の教師役で中谷竜が1シーンずつ出演している。

当たり前っちゃあ当たり前だが、英勉監督の演出は『高校デビュー』の時と全く変わっていない。
ヒロイン役の女優に大きなリアクションを取らせるのも、数名の有名タレントを本人役でチョロッとだけ使って笑いを取りに行くのも、コミック風の仕掛けを凝らすのも、全て『高校デビュー』でやっていた手法だ。
悪く言うなら「何も成長していない」ってことになるのかもしれない。
だが、「監督としての持ち味」なんだから、そこがブレないってのは決して悪いことじゃない。

ただし困ったことに、そういった演出の大半が上滑りしているってトコまで、『高校デビュー』と同じなのである。
そうなると、「全くブレていないんだからOK」とは言えないわけで。
ただし、女優に大きなリアクションを取らせることや、有名人を本人役で出演させることや、コミック的な仕掛けの数々が、必ずしもダメというわけではない。それを上滑りさせてしまうのは、演出に難があるからだ。
まあ一言で表現するならば、「もっと丁寧に、繊細にやらないとマズいよね」ってことだわな。

コミック的な表現を幾つか挙げると、例えば中島が「安達は告白した」ってことを示す時には、舞台劇のオーディション風景っぽい映像になる。
はとりか図書室で安達にアルバムを見せたりする時には、恋愛バトルの実況中継が入り、中島が解説を担当する。「エキストラ」という文字で中島がはとりの頭を叩いたり、ショックを受けたはとりの体に矢が突き刺さったりする。
しかし、それらはドラマへの集中を妨害する要素になっている。
っていうか、ドラマの浅薄さを誤魔化すための仕掛けと言ってもいい。

学食における安達と利太のシーンは、「容姿がイマイチで根暗な女子が、モテモテの男子から声を掛けられて付き合うことになる」という少女漫画では良く見られるパターンだ。
そして、そういうパターンだと、「容姿がイマイチで根暗な女子がヒロインのポジションに位置している。
それを、あえてヒロインではない脇役の女子に担当させているのが、原作漫画の仕掛けである。
で、ヒロイン失格となった主人公が、その座を奪い返すために奔走するという筋書きになるわけだ。

その仕掛け自体は悪くないが、問題が2つ浮かび上がる。
1つは、典型的なヒロインのパターンを持つ安達が、利太と交際する話で普通に成立してしまうので、そこから2人を別れさせる作業が簡単じゃないってこと。
もう1つは、とは言え主人公の方が容姿が整っている上に利太の幼馴染という圧倒的なアドバンテージを持っているため、普通に進めたら勝つのが分かり切っているってこと。
その辺りは、たぶん原作では綺麗に処理していたんだろう。
しかし、この映画だと、上手く片付けているようには思えない。

まず前者に関しては、安達に難癖を付けるポイントが少ないってことが挙げられる。
もちろん、最終的には「はとりと利太が結ばれる」という形に着地しなきゃいけないので、「はとりが容姿以外は安達が全てに完敗」ってことでは困る。なので、安達の「いい子」としての言動を、弘光が言うように「偽善者」っぽく描こうという意識は見られる。
実際、安達は本音を隠して「いい子」として振る舞っているし、ボウリング場での発言は確かに「偽善者」だと思った。ただ、トータルで考えると、そんなに悪い印象は無い。
しかし女子からすると、本気で「嫌悪すべき不快な女」に見えるらしい。そこ男女の感性の違いだわな。
全面的に女子向けの映画であり、デートムービーですらないことを考えれば、そこは「女子に嫌われるタイプ」として成立しているのでOKってことなんだろう。

ただ、利太と安達が付き合い始める手順にも違和感はある。
利太は「告白された」と言っているんだけど、安達のようなタイプのキャラが、初めて喋ったモテモテ男子に対して、いきなり恋心を打ち明けるってのは変じゃないかと思うのよね。
よっぽど自信があればともかく、そういうタイプじゃないわけで。だったら、かなりの決意が必要になる行動だ。
「私といると、イメージ悪くなりますよ」と口にしているぐらいだから、自分の置かれているポジションは理解しているはず。
それにしては、あまりにも大胆な行動じゃないかと。

利太と付き合い始めた安達には、まるで申し訳なさそうな様子も遠慮がちな様子も無いし、普通に明るく楽しく彼との時間を過ごしている。これもまた、キャラクター造形からすると、違和感が否めない。
彼女って、「根暗で生真面目でモテない女子」のはずだよね。それにしては、あまりにも簡単に「モテモテ男子の恋人」としてのポジションに順応しちゃってるのよ。
本来なら、そんな奴が利太と付き合い始めたら妬みを買い、嫌がらせを受けるはず。でも、陰口を叩く女子はいるが、嫌がらせは無い。また、安達本人にも、「自分なんかじゃ釣り合わない」というコンプレックスが全く見えない。
それって、話の進め方として雑にしか思えないのよね。
で、そういうトコも全て計算で、だから偽善者ってことなら、まあ分からなくもないのよ。でも、そこは計算じゃないわけでね。
だから、単純に「キャラと行動が合っていない」ってことになるわけで。

「不良たちが利太に絡んでいると安達が現れ、蹴りを入れて吹っ飛ばす」という誇張した描写を入れるのは、それをギャグとして使っているのは分かる。
だけど、そこが「利太と安達が本気のカップルだと知り、はとりはヒロイン失格だと認識する」という大事なシーンであることを鑑みても、望ましいとは思えない。
そのシーンで表現すべき内容がブレちゃうのよね。
「そんなことより、安達が異常に強い」という荒唐無稽な部分が、邪魔になってしまうのよ。

時間の余裕が無いから甘受すべきなのかもしれないが、序盤から慌ただしいという印象が強い。 特に気になるのは、弘光の登場が早いってこと。「利太が安達と交際を始め、はとりがヒロインの座を奪還しようとして玉砕する」という手順をパパッと雑に描いた段階で、もう「はとりの恋の相手」として登場してしまう。
これが利太もが安達も登場しない「はとりが恋愛に本気じゃないモテ男に興味を抱かれ、そいつが次第に本気になっていく」という恋愛劇なら、その辺りで登場するのも分かるのよ。でも、そうじゃないわけで。
なので、そんなモテ男が、はとりに興味を抱いてキスまでする展開への違和感も強くなってしまう。
そこが「メインの恋愛劇が始まるきっかけ」ならギリで受け入れられる強引さであっても、ライバル役&早い段階で使われると、アウトの線を越えちゃうのよね。

で、その弘光の存在だが、一応は「恋のライバル」として配置されているものの、実際には「単なる脇役」に過ぎない。
理由は簡単で、はとりは最初から最後まで利太への恋心を貫いているからだ。弘光に揺らぐことも無くて、ただの当て馬に過ぎない。
デートを楽しむことはあっても、それは恋心ではない。途中で付き合う展開があるが、それも形だけだ。口では「私の心は弘光君の物」と言っているが、心の傷を見ないようにするためのの現実逃避に過ぎない。
で、ヒロインが一途に思い続ける以上、最終的に「ヒーロー」の利太とくっ付くことは必然なのである。そこに理屈など何も無い。
あえて言うなら、「それが少女漫画というものだ」ってのが答えだ。

そもそも利太にしても、早い段階で「安達じゃなくて、はとりを選ぶ」ってことがバレバレになっている。
何しろ、はとりがボウリング場で弘光と仲良くしているだけで、分かりやすく嫉妬心を示すのだ。
安達とデートなのに、彼女への気持ちなんて全く見せず、はとりのことばかりに気にしているんだから、それは「はとりに最初から恋心を抱いていて、それに気付いていないだけだった」ってことになるわな。
なので、はとりは直後のシーンで「勝ち目が無い」と言っているけど、むしろ安達に勝ち目が無いことが確定事項になるのよね。

ってなわけだから、そのボウリング場のシーンがあった後は、何の工作も施さなければ「惚れ合っている男女が付き合い始めるまでの様子が延々と続く」ってとになってしまう。
はとりと利太の恋心が互いに相手を向いている以上、カップル成立の手順をラストまで取っておくためには、周囲のキャラを使って様々な妨害工作を仕掛ける必要がある。
ただし前述した理由で、弘光は役に立たない。
頼れるのは安達だけなので、「嫌な女」としての行動を取らせて利太を引き留めさせている。

しかし、そうやって安達を使った作戦を用意したところで、所詮は引き延ばし工作に過ぎない。
利太が本気で彼女に惚れているわけではなく、「本気で彼女に惚れている」と思い込んでいるわけでもなく、「仕方がないからズルズルと関係を続けている」ってだけだ。
だからホントなら、その間に「はとりが弘光に心を揺り動かされる」というトコがあるべきなのだ。弘光と安達、両方の歯車が上手く回らないと厳しいのに、片方が機能停止しているのよね。
「あらかじめ定められた恋人たち」による予定調和のハッピーエンドな物語であろうと、そういうモノとして充実した仕上がりになっていれば問題はない。しかし恋愛劇としてはペラペラだし、喜劇としては外しまくっているので、シオシオのパーなわけで。

色々と問題はあるが、一番の欠点は「男どもに何の魅力も無い」ってことじゃないかな。
利太にしろ弘光にしろ、「イケメン」というトコだけに頼っていて、中身がスッカスカなのよ。
利太は「俺が空っぽだから」と呟くシーンがあるが、ホントに空っぽじゃ困る。
利太には「母が家出した原因は自分が空っぽだからだと思っている」という設定があるが、まるで活用されていないし。
男どもがペラペラなだけでなく、安達も充分に機能しているとは言い難いので、桐谷美玲が顔芸を中心に孤軍奮闘している状態なのよね。
でも周囲が付いて来れていないので、残念ながら上滑りしているのよ。

(観賞日:2016年11月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会