『ヒーローインタビュー』:1994、日本

東京経済新聞社経済部記者の沢木霞は、得意の語学とハッタリを使って特ダネを掴んだ。しかし会社に戻った彼女は編集局長から、社内で添え物扱いされているスポーツ部への異動を命じられる。霞は激しく抗議するが、正式な辞令が出たことを局長は告げる。「優秀な記者を手放したくないが、業務命令だ」と言われ、霞は不満を抱きながらも承諾した。同じ日、ヤクルトスワローズと横浜ベイスターズの試合が神宮球場で行われていた。ヤクルトのベンチにいる控え選手の轟仁太は、相手投手の後藤に野次を飛ばす。新婚の妻に関する野次に動揺した後藤は、四球を出した。汚い野次を飛ばし続ける仁太の姿を、梶原監督は呆れた様子で見ていた。
スポーツ部のオフィスは、ビルの薄暗い地下に隔離されるように存在していた。霞が雑然とした部屋に入ると、デスクの緒方が競馬担当の高橋、プロ野球格闘技担当の山本、Jリーグ担当の三浦、担当の星野を紹介する。昼間から酒を飲んでいる高橋を始めとして、霞は全員に拒否反応を抱いた。霞は緒方から、星野と組んでプロ野球を担当するよう命じられた。プロ野球など全く知らない霞だが、他の記者たちと比べれば星野の方がマシに見えたので、その担当を受け入れた。
神宮球場では連続四球を出した後藤が降板を命じられ、調子に乗った仁太の野次は続けていた。霞は星野と共に、球場へ赴いた。6対5の横浜リードで迎えた9回裏2死、一塁にランナーが出ると、梶原は仁太に代走を命じた。仁太は派手な動きで観客にアピールし、梶原を呆れさせる。次の打者のヒットで走った仁太は、二塁で止まるべきなのに三塁を狙い、タッチアウトになった。試合終了後、監督室に呼ばれた仁太は、梶原から二軍落ちを命じられた。
霞はヒーローインタビューを取ろうとするが、他の記者たちに押し出されてしまった。彼女はカメラマンの桑田や星野から、「ヒーローインタビューも取れない記者なんて聞いたことがねえぞ」と馬鹿にされる。悔しさを感じていた彼女は仁太に声を掛けられ、「新米だろ?特ダネ欲しくない?」と言われる。仁太は彼女にレストランで夕食をおごらせ、特ダネの報酬を要求した。1万円のつもりで人差し指を出した仁太だが、霞は10万円を支払った。
霞がマンションに戻ると、婚約者である経済部デスクの石井が来ていた。石井は霞に、忘年会で局長のカラオケを断ったのが異動の理由だと教えた。「酷いじゃない」と腹を立てる霞に、石井は「そんなもんだよ、会社人事なんて。次の人事では戻れるさ」と告げた。霞は仁太から聞いた特ダネで見返してやろうと目論むが、それは「大リーグボール養成ギブスをヤクルトが導入する」という冗談だった。何も知らない霞は自信満々で記事を書き、スポーツ部の面々から嘲笑された。
霞は緒方から、ドラフト1位新人の辻を取材するよう命じられた。ヤクルトの戸田二軍練習場を訪れた彼女は、選手に野次を飛ばす少女・球子を目にした。球子は偉そうな態度だったが、野球には随分と詳しそうだった。見物に来た若い女性たちをナンパしている仁太を発見した霞は、金を返すよう要求した。すると仁太は「ウチへ来てよ。大蔵大臣が払う」と軽い口調で言い、その場から逃げた。霞は球子から、「仕切ってやろうか」と持ち掛けられた。
その夜、仁太は外国人の友達と一緒に、若い女性とコンパで盛り上がる。霞が教わったアパートへ行くと、球子がいた。彼女は仁太の娘だったのだ。仁太は溜まっているツケを払っておらず、複数の商店主が請求に来ていた。球子は霞に「仁太は博打好きだからね。でも一番デカいのは、お人好しだからね」と言い、仁太の2年前に別れた妻がバブリーなせいで多額の借金を作ったこと、それを仁太が返済していることを話した。
霞は球子から、仁太が以前は走攻守揃った最強の三番バッターと呼ばれていたこと、首位打者を獲得した経験もあることを話す。仁太は娘の誕生日になると、必ずホームランボールをプレゼントしていた。最近は他の選手のボールばかりになっていたが、仁太は「また自分のホームランボールをプレゼントする」と約束し、それを球子は信じていた。霞はスポーツ部に戻り、麻雀に興じている星野たちに仁太のことを尋ねた。すると星野は、興味があるなら取材に行くよう促した。
霞が二軍の試合を観戦に行くと、仁太が打席に立った。しかし内角高めの危険な球にのけぞった仁太は怖くなり、ベンチに戻ってしまった。霞が呆れながら室内練習場へ行くと、仁太は上半身裸になってバットを振っていた。その姿に霞が見とれていると、仁太は彼女に気付く。霞は彼に、「球子ちゃんが可哀想でしょ。信じてるのよ。ホームランぐらい打ってあげたら」と批判的な口調で言う。すると仁太は「簡単に言うんじゃねえよ。無神経な女だな」と怒鳴った後、「ベッドじゃホームラン打つぜ」と冗談めかして霞に迫った。
霞は星野から、仁太がデッドボール恐怖症になっていることを聞かされる。3年前に頭に死球を受けて病院へ直行して以来、彼は打てなくなってしまったのだという。「ホームランなんて夢のまた夢だ」という星野の言葉で、霞は仁太への罪悪感を抱いた。霞は石井から、パリ支局への栄転が決まったことを知らされる。石井は「式は向こうで上げよう」と言い、仕事を辞めて付いて来てほしいと求めた。
霞が東京タワーの展望台から夜景を眺めていると、仁太が現れた。「もしも叶うなら星に何を願うか」という霞の質問に、仁太は「今を目一杯生きたい」と答えた。霞は仁太に誘われ、居酒屋で一緒に飲んだり競馬を楽しんだりする。仁太が「百分の一の可能性に賭けて、観客が思わず拳を握るような熱いプレーをするんだ」と語ると、霞は「野球が好きなら頑張らなくちゃ」と言う。彼女は死んだ父から貰ってお守りにしていた東京タワーのキーホルダーを仁太に渡し、「きっと願いが叶うわ」と述べた。
霞は仁太とキスしそうになるが、慌てて「駄目よ、こんなの」と離れる。そこへ石井が車で通り掛かり、夜遅くまで霞と一緒にいる仁太に嫌味っぽい言葉を浴びせる。プロ野球選手という職業を「無用の長物。そこらの見世物と同じじゃないか」と馬鹿にされた仁太は、カッとなって石井にパンチを浴びせた。彼は「お前も同じか?野球をただの見世物と思うのか」と霞を怒鳴り付け、その場から去った。
雨で練習が中止になった日、仁太は自分を見下す態度を取った辻に対し、「一発賭けねえか?」とダイヤモンド一周の競争を持ち掛けた。しかし仁太は辻に引き離され、バランスを崩して転倒した。その様子を密かに見ていた梶原に、同行していたコーチは「轟は引退ですね」と告げた。霞は球子に招待され、11歳の誕生日を祝うバーでの集まりに参加した。霞が到着すると、仁太は露骨に不機嫌な様子を見せた。彼は今シーズン限りで引退することを発表し、ショックを受けた球子は「仁太の嘘つき、仁太なんて大嫌い」と怒鳴った。
霞は「ヘラヘラしてんじゃないわよ。それでも父親なの」と仁太を非難し、自分にとって父親が絶対的なヒーローだったことを語った。すると仁太は、「そんな話は、あのエリートにでもしてやってくれよ」と告げた。仁太が帰宅すると、球子は先に寝ていた。彼女は仁太が過去に獲得したトロフィーや賞状を散らかしていた。それを見た仁太は、泣きそうな表情で吠えた。緒方と星野は、石井が霞に仕事を辞めさせるため、局長に頼んで異動させてもらったことを知った。
霞は優勝争いをしているスワローズの取材に訪れ、梶原に仁太を抜擢するよう提案した。すると梶原は、「自分が打てねえと思ってる奴は使えねえよ。例え俺が信じていてもな」と述べた。霞は星野から「轟さんに黙ってパリへ行くんですか?」と訊かれ、「ちゃんと言うわよ、何も無いんだから」と告げた。霞は仁太と会い、「ホントに引退するつもりなの?そんなにデッドボールが怖い?自分が納得するまで頑張ってよ。ヒーローインタビューなんて無くたっていいじゃない」と告げる。仁太は彼女を抱き締め、「俺の傍に居てくれ」と頼む。霞は彼を突き放し、「やめてよ。私のヒーローは貴方じゃない」と言って立ち去った…。

監督は光野道夫、脚本は野島伸司&山崎淳也、製作は村上光一&小田信吾、企画は堀口壽一&中村敏夫、プロデューサーは大多亮&小川晋一&増田久雄&佐倉寛二郎、アソシエイトプロデューサーは空閑由美子&重岡由美子&堀義貴、撮影は矢田行男&笠間公夫、照明は渡辺三雄、録音は小野寺修、美術は金田克美、編集は川島章正、音楽は服部隆之&井上鑑、主題歌/挿入歌はCHAGE & ASKA。
出演は鈴木保奈美、真田広之、武田鉄矢、いしだ壱成、安達祐実、鶴見辰吾、山本圭、関根勤、渡嘉敷勝男、武田真治、江口洋介、岸谷五朗、萩原聖人、寺脇康文、石丸謙二郎、河原さぶ、新井康弘、志村東吾、北村総一朗、サムエル ホップ エニング、山木正義、苅谷信行、稲山玄、山中臨在、玉井さとし、野口雅弘、牧口元気、マニュエル ドンセル、河野靖、問田憲輔、久保晴輝、森川数間、中島徹、斉藤貴子、薮田里奈、谷野淳子、山中由香ら。


TVドラマ『101回目のプロポーズ』のプロデューサーだった大多亮、演出担当だった光野道夫、脚本の野島伸司が結集して製作した映画。
監督の光野道夫と共同脚本の山崎淳也は、これが映画デビュー。
霞を鈴木保奈美、仁太を真田広之、梶原を武田鉄矢、星野をいしだ壱成、球子を安達祐実、石井を鶴見辰吾、緒方を山本圭、山本を関根勤、高橋を渡嘉敷勝男、三浦を武田真治が演じている。
他に、水島役で江口洋介、後藤役で岸谷五朗、ヘリコプターの操縦士役で萩原聖人、桑田役で寺脇康文が出演している。

劇中では、ヤクルトスワローズ(現・東京ヤクルトスワローズ)と横浜ベイスターズ(現・横浜DeNAベイスターズ)が優勝争いをしている強豪チームとして描かれている。
それは「当時の両チームが強かった」ということではなく、この映画がフジテレビとホリプロの制作だからだ。
フジテレビはスワローズに資本参加しており、フジサンケイグループのニッポン放送がベイスターズに資本参加していた。
だから、その両チームを登場させたってことだ。

大多亮は『101回目のプロポーズ』の他にも『世界で一番君が好き!』や『東京ラブストーリー』、光野道夫は『素顔のままで』や『誰かが彼女を愛してる』、野島伸司は『すてきな片想い』や『愛という名のもとに』など多くのヒットドラマに携わっている。
この作品は、そういったトレンディー・ドラマのようなノリを映画でもやってみようという企画である。
経済新聞の記者であり、実家が裕福という設定も無いヒロインが、給料に見合わないとしか思えない豪華マンションに暮らしているってのは、それを表している一端だ。

霞は経済記者としてバリバリと活躍し、他の記者が「またあの女か」というぐらいだから特ダネを幾つも入手している敏腕記者という設定のようだ。
しかし、「自他共に認める敏腕で優秀な記者」という表現は物足りない。来日した大臣にスペイン語で話し掛け、特ダネを入手するシーンしか用意されていない。
周囲や社内での評価や今までの実績などに何らかの形で触れて、もうちょっと厚みを持たせておいた方がいいだろう。
本人の野心と自信が強いってのも、もうちょっとキッチリとアピールしておいた方がいい。

それと、そんなに優秀な記者が、なぜ窓際扱いのスポーツ部に異動させられるのかという疑問がある。
それに関しては、後で石井が「局長のカラオケを断ったから」という理由を説明して「会社の人事なんて、そんなもんだよ」と言うのだが、さすがに苦しくないかと思っていたら、後半に入って「実は石井が霞に仕事を辞めさせて結婚に持ち込むため、編集局長に頼んで異動させてもらっていた」という事実が判明する。
だけど、それもやっぱり無理があるぞ。
なぜ編集局長は石井の頼みを聞き入れ、優秀な記者である霞を左遷するのか。石井って、背後に大物がいるとか、父親が大物とか、そういう奴なのか。

序盤の試合シーンでは岸谷五朗が投手を演じているのだが、とてもプロとは思えないピッチングだ。
しかも、寄りの絵では岸谷、引きの絵ではスタント・ダブルが演じているのだが、岸谷はサイドスローなのにスタント・ダブルはオーバースローなので、1人の投手が1球ごとにフォームを変えているという形になっている。
で、そんな投手に近付いて声を掛ける捕手が、ロンゲの江口洋介。
この時点で、「ああ、この映画、ちゃんと作る気が無いんだな」と感じさせられる。

スポーツ部の記者が、昼間から酒を飲んでいるとか、カズダンスをやっているとか、ふざけまくったキャラ設定になっているのは、描写が安っぽいだけであって、「風変わりな記者ばかり」という色付けをしようとする方向性は、コメディー・タッチの映画としては間違っていない。
しかしロンゲのキャッチャーというのは、明らかに「間違い」なのだ。
それを「普通じゃ有り得ないぐらい個性の強すぎる捕手」として表現するなら、まだ分からんでもない。
だけど、ごく普通の捕手として登場させているんだから、どうにもならんわ。

江口洋介をゲストとして登場させるにしても、その役じゃなくていいでしょ。他にゲスト俳優を数シーンだけ登場させられる余地なんて、幾らだってあるのだ。
不自然さを平気で通してまで江口洋介にキャッチャーを演じさせるという雑で適当なセンスが、この映画全体を包んでいる。
例えば、霞と星野が9回2死から球場に入って試合を観戦するってのも、その1つだ。
幾らカメラマンが先に現場入りしているからって、そんな試合の終わり近くになってからしか球場に来ないって、んなアホな。
そこは例えば、「無知な霞は試合終盤になって球場に入るが、星野は最初から観戦している」という形にすれば済むことでしょうに。

霞は上半身裸でバットを振っている仁太に、思わず見とれている。その後で仁太が「ベッドではホームラン打つぜ」と迫ったら、ドギマギしている。
ようするに、彼女は仁太の肉体に心を掴まれたわけだ。
ロマコメなんかでは、例えば「眼鏡を外した女子が美人だったので男がドキっとする」という風に見た目で惚れちゃうような描写ってのは珍しくもないけど、顔じゃなくて体というケースは珍しいんじゃないか。
っていうか、それは恋愛感情じゃなくて、明らかにメスとしての欲情だよな。

霞に「ホームランの1本や10本や100本ぐらい」と軽く言われた仁太が腹を立てるというシーンは、「本当は打ちたいけど思うように体が動かないことへの焦燥や苦悩」ってのもあるんだし、真剣に激怒する形にすべきじゃないかと思うんだよね。
だけど、なぜか冗談交じりの会話劇に仕立て上げているんだよな。
それは演出を間違えているんじゃないか。
いや、「ついマジになって腹を立てたけど、恥ずかしくなったのでジョークで誤魔化す」ってことならいいんだけどさ。

仁太がデッドボール恐怖症だと知った霞は、「無神経なことを言ってしまった」と後悔する。でも、頭に死球を食らっても、そこから復活して活躍しているプロ野球選手は何人もいる。
そういう選手を実際に見ていると、「デッドボールを食らった恐怖を克服できずにいる」という仁太の現状は、理解は出来るけど「情けない奴」としか受け取れない。
そりゃあ自分だったらビビってダメになるだろうとは思うけど、そこは「自分と比較して云々」という問題じゃないしね。
で、そんな情けない男の肉体を見た途端にガラリと気持ちが変わり、楽しくデートしちゃう霞に関しても、「簡単で軽い女だなあ」と思っちゃうぞ。

仁太が「普段はお調子者で軽薄な奴に見えるが、実は隠れて真面目に努力している」という奴なのかと思ったら、そういう様子は皆無に等しくて、霞が欲情するシーンで上半身ヌードでバットを振っている様子しか見当たらない。
「チャラチャラした奴に見えるけど、実はそうじゃない」ってことではなくて、実際に若い女と合コンしているし、ギャンブルもやっているんだよな。しかも球子の説明からすると、「打てなくなってから練習に身を入れずにギャンブル狂になった」ということじゃなくて、昔からそうだったってことだし。
そうなると、ギャンブルだけでなく、若い女をナンパしまくっているのも、チャラチャラした態度ばかり取っているのも、打てなくなってから変わったということではなくて、昔からそういう奴なんだろうという解釈になる。
だけど、そうじゃなくて「打てなくなった頃から人間性がガラリと変化し、チャラチャラした態度で遊びまくるようになってしまった」という設定の方がいいんじゃないかと。そっちの方が、まだ応援したい気持ちは沸くんじゃないか。

仁太は霞に「百分の一の可能性に賭けて、観客が思わず拳を握るような熱いプレーをするんだ」と熱っぽく語っているんだけど、競馬に興じたり、若い女と合コンしたりと遊びまくっている。
そして、人知れず誰よりも努力しているわけではない。苦しい鍛錬、厳しい練習に励む様子は全く描かれない。
そうなると、ただの口だけ番長でしかないでしょ。
どれだけ情熱的な言葉を吐いても、そいつが熱いプレーを見せるために努力している姿が伴わなかったら、ちっとも心を打たないぞ。

仁太は辻にダイヤモンド一周の勝負を持ち掛けて惨敗するが、それは仁太の走力が衰えていることを示すシーンになっている。
だけど、彼は「デッドボール恐怖症で打てなくなった」という問題を抱えていたはずで、「年齢から来る体力の衰え」というのは全く別物でしょ。
「体力が衰えて来た」ということを描くなら、それだけを仁太の抱えている問題にすべきなのよ。
デッドボール恐怖症と体力の衰えと、両方をゴチャ混ぜにしたらダメでしょ。

そもそも考えてみれば、最初に仁太が登場した時点で、代走要因として使われていることからして疑問があるんだよな。
だってさ、彼にとっての問題は、デッドボール恐怖症で打てなくなったということなんでしょ。だったら、代打で起用されるべきじゃないのか。
仁太のスピードスターとしての部分を見せたいのか、バッターとしての部分を見せたいのか、どっちなのかと。
両方を欲張って盛り込んだせいで、焦点がボンヤリしてしまっている。

霞が引退を決めた仁太を「ヘラヘラしてんじゃないわよ。それでも父親なの」と責めるのも、「デッドボールへの恐怖を克服できないままでいる」ということだけが問題であれば納得できる。
しかし年齢による衰えが引退を決めた原因だとすると、「そりゃ仕方が無いわ」ということになってしまう。
それを「父親は娘のヒーローであるべきだ」という観点から批判するのは、お門違いだ。
いつまでも現役でいられる選手なんていないんだから。

霞は梶原に「野球を面白くするのは、ああいう選手だと思うんですけど」と言い、仁太を抜擢するよう求める。
でも、結果を出せない奴が観客にアピールするような態度を取っていたら、それは単にふざけた奴でしかない。
そんな奴は、決して「野球を面白くする選手」ではない。
また、仁太は「百分の一の可能性に賭ける」という考えを主張するが、成功すれば「観客が思わず拳を握るような熱いプレー」になるだろうけど、大抵は失敗することになるわけだから、たぶん観客からのブーイングを浴びるだろう。

つまり、なんでもかんでも「百分の一の可能性に賭ける」という考えでプレーするのは、プロとしては失格だってことだ。
例えば、いつもホームランばかり狙って三振を繰り返し、ホームランを年間に数本しか打てない選手なんて、観客は応援したくならないでしょ。
明らかにアウトになるタイミングなのに、暴走して次の塁を狙う仁太のプレーも同様だ。ギリギリのタイミングなら狙うべきだろうけど、そうじゃないんだからさ。
百分の一の可能性なんて狙っちゃダメなのよ。
思わず拳を握るような熱いプレーで観客を魅了するのは、そういう選手ではないのだ。

終盤、一軍に復帰した仁太は霞から貰ったキーホルダーを腰の辺りにぶら下げたままプレーするが、そんなのは絶対に有り得ない。
それはロンゲのキャッキャーと同様、「映画はフィクションだから」ということで受け入れられる嘘ではない。
霞がヘリをチャーターして神宮球場へ向かうのも、相当にバカバカしいけどね。
「確かバブルの時代は終わっていたはずだよなあ」と思ってしまったよ。

試合は2点ビハインドの9回裏2死からランナーが出て、仁太の打席が回って来る。仁太が右中間にタイムリーを放つと、三塁で止めようとするコーチを梶原が突き飛ばし、本塁を狙えと指示するが、タッチアウトで試合は終わる。
いや、バカかと。
相手の外野手がモタモタしてるとか、エラーしたとか、そういうことなら分かるけど、右中間への長打でランニングホームランを狙わせるって、どんだけバカな監督なんだよ。
これが消化試合で、仁太の引退が発表されているなら、そういうのも分からんではないのよ。
だけど優勝を狙っている大事な試合で、そういうのはアホすぎるだろ。

(観賞日:2014年5月14日)

 

*ポンコツ映画愛護協会