『ヘルタースケルター』:2012、日本

ファッションモデルのりりこは数々の雑誌で表紙を飾り、若い女性から絶大な人気を得ている。そんな彼女に関して、検事の麻田誠は事務官の保須田久美に「骨格と上に乗っている表皮、そして筋肉の動きが一致してない。完璧に見えてバランスがおかしい。今にも崩れ落ちそうだ」と批評する。2人は美容クリニック“麻布プラチナクリニック”の脱税疑惑を調査している。麻布プラチナクリニックは、他に政治家への贈収賄、臓器売買、薬事法違反といったラインにも引っ掛かっている。
りりこは初の主演映画が決まり、記者会見で「素晴らしい先輩たちに囲まれて、頑張ろう、付いて行くしかないなと思っています」と笑顔を振り撒く。しかし共演者の女優とツーショットの写真が新聞に掲載されたので、マネージャーの羽田美知子に「なんでツーショットなのよ」と高慢な態度で文句を言う。楽屋に資産家の御曹司・南部貴男が来ると、羽田やメイクの沢鍋錦二たちは、そそくさと出て行く。りりこは彼と交際しており、楽屋で激しいセックスに及ぶ。
美知子は同棲している年下の恋人・奥村伸一から「りりこって綺麗?」と訊かれ、「すっごい綺麗だけど、いっつもイライラして可哀想。私がいないと何も出来ないんだよね」と語る。りりこは映画プロデューサーの浜口幹男とセックスした後、モデル事務所の社長である多田寛子に電話を入れて「やったよ、プロデューサーの浜口」と報告する。多田は「ご苦労様。まあ念には念をってことでね」と言う。帰宅したりりこは額の痣に気付き、顔を歪めて絶叫した。
多田は沢鍋に、「りりこの痣ね、あれ、整形の後遺症なんだ」と言う。さらに彼女は、りりこが全身整形で、ほぼ作り物の体なのだと沢鍋に教えた。多田は口止め料にルビーの指輪を渡し、「ここまで話したんだから、最後まで付き合いなさいよ」と語る。多田はりりこを連れてクリニックへ赴く。院長の和智久子は「また再手術しましょう。私たちは革命を起こしているんです。新しい価値観の創造です」と言う。副作用で顔が崩れた患者が乗り込んで来るが、看護婦たちが制止した。その様子を見たりりこは愕然とする。
刑事の塚原慶太は、麻布プラチナクリニックの患者だった女性が自殺した事件の資料を麻田と保須田に見せる。彼は2人に、美容のために院長が移植医療を行っているとの噂があることを語る。手術を受けた者は死ぬまで免疫用製剤を使用しなければならず、治療費が払えなくなったら酷い副作用に苦しめられることになるという。一方、りりこはCMやドラマなど多岐に渡って活躍し、その勢いは留まることを知らなかった。多忙なスケジュールの中で疲労も蓄積するが、それでも彼女は写真撮影が始まると笑顔を作った。
仕事を終えて帰宅したりりこを、羽田は「みんな、りりこさんに夢中です。何千人、何万人も」と称賛する。しかしりりこは鏡を見て顔の痣を発見し、悲痛な表情を浮かべて「綺麗じゃなくなったら、みんな私から離れてく。きっとみんな私を忘れてくわ」と漏らす。彼女は「アンタたちに分かってたまるか」と羽田を怒鳴り、上から押さえ付けて「なんだか私、とってもエッチな気分」と言い出す。りりこは自分の股間を舐めるよう要求し、羽田はおとなしく従った。
りりこの妹・千加子がモデル事務所を訪れ、「どうしてもお姉ちゃんに会いたくて」と多田に告げる。千加子はお世辞にも美しいとは言えない容姿だった。りりこは南部から高価な婚約指輪をプレゼントされ、沢鍋に自慢する。彼女が帰宅すると、妹からの手紙が届いていた。そこには、多田と会ったが住所や電話番号は教えてもらえなかったこと、こっそり手帳から写して住所を知ったことが記されており、「元気でね、私も受験、頑張ります」という言葉で締め括られていた。りりこは深い溜息をついた。りりこは甲斐甲斐しく世話をしようとする羽田に八つ当たりし、「一回マンコ舐めたぐらいで調子に乗ってんじゃねえよ、この変態女」と罵った。
りりこと南部のキス写真がゴシップ誌に掲載され、羽田は多田から叱責される。りりこは羽田に「ありがとう、リークしてくれて。このお礼はたっぷりとね」と言い、「あともう一つだけお願いがあるんだけど」と口にした。りりこは羽田に手引きさせ、千加子と密会する。「アンタもさ、見返してやんなよ。もっと痩せて綺麗になって。綺麗になれば強くなれるし」と彼女が言うと、千加子は「お姉ちゃんは強いから綺麗になったんだよ」と告げる。りりこは「違うよ。綺麗になれば強くなれるんだよ」と述べた。
りりこはクリニックで再手術を受ける。和智は「初めてここに来た時のことを思い出して御覧なさい。誰も貴方を見ていなかった。貴方はただの肉の塊だった。私たちが目指しているのは、幸福の医療」と語る。手術が終わり、和智は「次は2週間後に」と言う。りりこは大勢の女性客が集まったイベントに笑顔で登場した。その様子をテレビで見た麻田は、「近々、僕らは出会うことになる」と呟いた。
りりこは妹と会った時、多田が約束した金を家に送っていないことを聞いていた。そのことをりりこから指摘された多田は、「あんた、すごい維持費が掛かり過ぎてるのよ。それに最初の設備投資も回収できてないし」と言い訳する。りりこが「でも」と抗議しようとすると、彼女は「みじめだったアンタを拾い上げて、2人で頑張って来たんじゃないの」と逆ギレ気味に言う。それから彼女は、事務所の期待の新人・吉川こずえを紹介する。何の美容整形もせずに綺麗な彼女を見て、りりこは強烈な不安にかられた。
こずえの露出がどんどん増えて、それに伴ってりりこの仕事は減っていく。雑誌の表紙は全てこずえが飾り。女性からの人気も彼女に奪われていく。りりこは苛立ちと焦りから、精神的に不安定になっていく。薬の量が増えて、しばしば意識が混濁するようになった。追い打ちを掛けるように、りりこは南部が政治家令嬢と婚約したことを雑誌の記事で知る。南部に電話で確認すると、彼は淡々とした態度で事実だと認めた。
りりこは羽田のアパートに上がり込み、彼女の眼前で奥村を誘惑してセックスに持ち込む。後日、りりこは奥村に電話を掛け、「一緒に遊びましょうよ」と誘った。彼女は羽田を下着姿にして両手足を縛っており、「良かったね、すぐ来てくれるって。2人でアンタをちょー可愛がってあげるんだから」と微笑する。りりこの指示を受けた奥村は、深夜に犬の散歩している南部の結婚相手に硫酸を浴びせる。その記事を読んだりりこは、羽田と奥村を脅して目の前でセックスさせる。
またクリニックの患者が自殺し、塚原は麻田に「どうするよ、まだ無理か、起訴」と問い掛ける。麻田は「いや。もうそろそろカードをひっくり返さなきゃいけない」と述べた。沢鍋はりりこの肌の弾力が戻らなくなっていることに気付き、多田に報告する。「りりこはもうおしまいかな」と多田は冷たく言う。麻田はクリニックからカルテの開示を拒否される。一番の顧客は企業や政治家のお偉いさんや家族なので、鉄のカーテンに守られているのだ。麻田は保須田に「だから強気なんだろう。だが、こっちにも切り札はある。会いに行こう。あの猛獣、タイガー・リリーに」と言う。
りりこが水族館の撮影で休憩に入ったところへ、麻田が会いに行く。「やっと会えたね、タイガー・リリー。ずっと君のファンなんだ」と彼は言い、クリニックを起訴するために法廷での証言を依頼する。「君のことは良く分かるよ。みんなを楽しませるために、必死に羽根を散らしている。君の欲望の正体を、誰よりも良く知ってる。こんな出会い方しか出来なかったことを悲しく思うよ」と彼は語った。
麻田は政治家令嬢の襲撃事件で使われたりりこの車のナンバーが判明していること、目撃者がいることを語る。「そんなクリニックなんて言ったことも無いわ。デタラメばっかり言わないでよ」とりりこが動揺しながら言うと、麻田は「今日のところは失礼しましょう。しかし我々には貴方の証言が必要です。貴方はアリアドネの糸なんだ」と告げ、捜査資料を渡して目を通すよう促す。帰宅したりりこは患者の写真を見て激しく動揺し、精神安定剤を注射して自分を落ち着かせた。
りりこはテレビのCMに出ているこずえを見て、羽田に「私のことが好きなら、こいつの顔をメチャクチャにして。目障りなのよ」と言う。りりこはバラエティー番組の収録中、幻覚に襲われて錯乱してしまう。羽田は遊園地でこずえを襲撃しようとするが、全く動じずに鋭く凝視されて何も出来なかった。羽田はりりこの部屋で捜査資料を発見し、こっそりゴシップ誌の編集部に郵送する。ゴシップ誌に記事が掲載されたため、りりこの全身美容整形は世間に知られることとなった…。

監督は蜷川実花、原作は岡崎京子『ヘルタースケルター』(祥伝社フィールコミックス)、脚本は金子ありさ、脚本協力は蜷川実花、製作は和崎信哉&豊島雅郎、エグゼクティブプロデューサーは那須野哲弥&池田隆一&遊佐和彦&山崎浩一&喜多埜裕明&志倉知也&金谷英剛、チーフ・プロデューサーは石垣裕之&青木竹彦、プロデューサーは宇田充&甘木モリオ、アソシエイトプロデューサーは坪屋有紀、企画協力は金原ひとみ、撮影は相馬大輔、美術は小泉博康&ENZO、照明は佐藤浩太、録音は阿部茂、編集は森下博昭、スタイリストは長瀬哲朗&篠塚奈美、ヘアメイクは冨沢ノボル&赤間直幸、VFXスーパーバイザーは道木伸隆、MUSIC PRODUCERは安井輝、CO-MUSIC PRODUCERは篠崎恵子、音楽は上野耕路、テーマソング『evolution』は浜崎あゆみ、エンディングテーマ『The Klock』はAA=。
出演は沢尻エリカ、大森南朋、寺島しのぶ、綾野剛、水原希子、新井浩文、鈴木杏、寺島進、哀川翔、窪塚洋介、原田美枝子、桃井かおり、斎藤工、平愛梨、タナカノリユキ、村上淳、マメ山田、MEGUMI、吉田鋼太郎、住吉真理子、近野成美、葛西幸菜、渕上泰史(淵上泰史)、山本裕子、下村一喜、石橋杏奈、江口のりこ、古坂大魔王、吉川真実、原田裕章、蜷川みほ、山口茉末子、渡辺真佳、佐藤優莉夏、汐見ゆかり、広山詞菜、原裕美子、堀杏子、文月ユウ、岡崎智、まつゆう*、藤沼豊、岸健太朗、上村聡、気谷ゆみか、小林俊、坂井香里、楠本奈美、安田敬一郎、中島そよか、青木一、菊池敏弘、横田恵美、生駒芳子、ヴァンサン ニダ、村岡晴美、ファブリス シンドラー、木川泰宏、田口恭一、真銅宏二郎、加藤瑞基、稲岡祐樹ら。


岡崎京子の同名漫画を基にした作品。
脚本は『陰日向に咲く』『おかえり、はやぶさ』の金子ありさ、監督は『さくらん』の蜷川実花。
りりこを沢尻エリカ、麻田を大森南朋、美知子を寺島しのぶ、奥村を綾野剛、こずえを水原希子、沢鍋を新井浩文、保須田を鈴木杏、塚原を寺島進、浜口を哀川翔、南部を窪塚洋介、和智を原田美枝子、多田を桃井かおりが演じている。
斎藤工や平愛梨、石橋杏奈といった面々が、本人役で出演している。

何かとお騒がせだった沢尻エリカの映画復帰作であり、彼女がヌードになっていることが話題になった作品だ。
沢尻エリカは序盤から脱いでいるし、濡れ場でも惜しみなく脱いでいる。そして本作品は、その「沢尻エリカがヌードになっている」ということ以外に、何のセールス・ポイントも見当たらない映画である。
しかし、この映画で最も問題なのは、「沢尻エリカのヌードしか売りが無い」ってことじゃなくて、「それしか売りが無いのに、沢尻エリカの濡れ場がちっともエロくない」ってことなのだ。
序盤から早速、窪塚洋介の濡れ場があって、そこで脱いでいる。だが、ホントに全くと言っていいほどリビドーを刺激してくれない。
もっと艶めかしくエロティックに撮るべきじゃないのか、そこは。
単に「激しく動いてセックスの芝居をしている」という風にしか見えない。

しかも、その濡れ場で相手をする窪塚洋介の芝居は、かなり酷いぞ。
デクノボーにしか見えない大根芝居は何なのか。やる気が無いとしか思えん。
「目ぇ開けて見てごらん。君は僕だけのものだよ」というセリフの棒読みっぷりには唖然とさせられる。
そこだけかと思ったら、それ以降もずっと棒読み芝居だった。
もしも「クールで感情の乏しい男」を演じているつもりなら、そりゃ全く出来ていないよ。

窪塚洋介とは少し意味合いが違うが、やはり「ひでえ芝居だな」と感じたのが大森南朋。
こちらの場合、「いかにも用意された言葉を喋っています」という台詞のオンパレード。映画が始まって5分辺りで、「いいね、朝のコーヒーは。カップの中に漆黒の闇が溶け込んでいるようだ」と言ったところで、早くも苦笑せざるを得ない。
他にも、「彼女の美しさはイメージのモンタージュ。つまり我々の欲望そのもの。人々の望み通りに踊り羽ばたく。例え自分の羽根が撒き散らされた上でしか、それが成立しなくても」とかね。
麻田が急にりりこを「タイガー・リリー」と呼ぶのも、不自然極まりないぞ。

そういうのは、台詞そのものに作り物感が強すぎるってこともあるんだけど、それが浮き上がってしまう状況において、その言葉を麻田に言わせていることにも問題がある。
そういう麻田が浮き上がらないような雰囲気が作られていないんだよな。
あと、大森南朋という俳優に、気障というか、ブンゲイ的というか、その手の台詞が似合わないってこともあるしね。
例えば草刈正雄なんかが言ったら似合うかもね。
ただし、この映画で言ったら、間違いなく「ああ、ギャグとして言っているんだな」と感じるだろうけど。

あと、会話の流れがおかしい箇所があって、段取り芝居にしても下手すぎるぞ。
序盤に保須田が「で、どうします、例の美容クリニック。容疑は脱税」と言うと、麻田は「最初はね。さらに政治家への贈収賄。しかし今は、胎児死体臓器売買及び、薬事法違反のラインにも引っ掛かっている」と返す。
ここまでは何の問題も無い。
だが、その次に保須田が軽く笑い、「いや、そりゃ女は美しい方が何かと便利ですけど、でも美しさと幸せってまた別の話じゃないですか」と言い、麻田が「表面は美しい。けど中身は虫に食い荒らされている果実。だからこそ惹き付けられるのか。いずれ朽ち果てるのを皆知ってるから」と語るのは、どういう流れなんだよ。
そんでもって、また麻田の口にする台詞がクサすぎるし。

しかも、そんなにクサい台詞を言いまくる麻田の存在意義って、微妙なんだよな。
そこには保須田と塚原も含まれるけど、その3人って美容クリニックの院長を起訴しようとしているんでしょ。で、それに関連して、りりこを調べるという流れになっているけど、そこに無理を感じるのよ。
起訴したいのなら、副作用で抗議に赴くような患者もいるわけだし、もっと他に落としやすい対象がいるでしょ。
なんでガードの堅そうなりりこを標的にするのかと。

麻田が捜査の過程でりりこに強い関心を示し、個人的な感情も手伝って彼女を詳しく調べ始める、ということなら、まあ分からんでもない。
ただし、麻田のりりこに対する感情は、映画を見ている限りは良く分からない。
それと、クリニック関連でりりこの利用を目論んだとしても、その周辺の人間に対する事情聴取は不可解(りりこの関係者が事情聴取を受けているシーンが何度も挿入されるのだ)。
しかも、そこでのコメントは、クリニックの疑惑とは何の関係も無い内容だし。

りりこの写真撮影のシーンを何度も挿入し、それを「彼女は大人気」ということを裏付ける描写として使用しているのだが、同じパターンの繰り返しだし、薄っぺらいわ。
っていうか、そこに多くの時間を費やす必要性が無い。
そもそも冒頭で「大人気」ってのは見せたはずなのに、なんで20分ぐらい経過してから、また人気があることを示すための描写を丁寧にしなきゃいかんのか。
雑誌が売れまくるとか、若い女子から絶大な人気とか、それ、最初に示してるじゃねえか。そんなことより、もっとドラマに厚みを持たせようよ。

ストーリーの進行が、ものすごくノロノロしている。
それは「ゆっくりと時間を掛けて丁寧に描写している」ということではなくて、薄っぺらい内容なのに、写真撮影のシーンを含む「映像を見せまショー」の絵を挟むことで時間を稼いでいるだけ。
物語の進行を停滞させている間に、人物の中身を深く掘り下げているわけでもない。1時間で済むような内容を、写真撮影のシーンを含む「美しい映像」を見せるだけのシーンで引き伸ばしている印象。
良くも悪くも、っていうか映画監督としては決して良いことじゃないけど、蜷川実花は『さくらん』から何も変わってないんだなあ。
やっぱり「映像だけの人」なのであった。

(観賞日:2013年4月14日)


2012年度 HIHOはくさいアワード:7位

 

*ポンコツ映画愛護協会