『HELLO WORLD』:2019、日本

2027年の京都市では、京斗大学とプルーラ社の共同事業として街の歴史を詳細に記録するデジタル事業「クロニクル京都」が進められている。高校1年生の堅書直実はクラスメイトからは名前を覚えてもらっておらず、クラスの親睦会に誘われると曖昧な返事で誤魔化した。すると誘った女子生徒は「用事あるなら無理にはいいよ」と言い、友人たちと共に教室を去った。直実は書店に立ち寄り、『決断力』という本を立ち読みして「意識的に早く決断しよう」という項目に注目した。しかし昼休みにパンの購買に押し寄せる生徒たちに割って入ることが出来ず、売れ筋の商品は買えなかった。
直実は「思ったことは口に出そう」という項目にも着目したが、女子が友人たちと話す時に席を占領されていても何も言えなかった。本の中には「自分のことは自分で決めよう」という項目もあったが、読書好きという理由で図書委員に推薦されると断れずに引き受けた。直実が委員会に出席すると、勘解由小路三鈴という1年生の女子が男子の注目を浴びていた。スマホで連絡網用のグループを作ることになった時、男子が次々に三鈴とアド交換する様子を直実は傍観した。彼は勇気を振り絞って声を掛けようとするが、三鈴は教室から去っていた。残っていたのは一行瑠璃という女子だけで、直実は困惑しながらも「さっきのグループ、入ってないよね?」と声を掛ける。瑠璃はスマホを確認するが、使い方が理解できない様子だった。彼女は紙に住所を記し、「何かあればこちらへ」と直実に渡して去った。
直実は南図書館に立ち寄った帰り、オレンジ色のオーロラのような現象を目撃した。すると3本の足を持つ一羽のカラスが降り立ち、直実が借りたばかりの本を奪って飛び去った。直実は慌てて後を追い、伏見稲荷大社に入った。するとカラスは鳥居に本を落とし、そのまま飛び去った。直実が本を拾うと、何も無い場所から突如として白いフードの男が出現した。男は「成功してる」と喜ぶが、場所がズレていることに気付いて「これが精度の限界か」と呟く。男は直実を見ると、名前を呼んで喜んだ。怖くなった直実が逃げ出すと、男は追い掛けて来た。すると男は先回りしており、通行人は彼に気付かず体を通り抜けて去った。
翌日、直実は男の呼び出しに応じて京都府歴史記録事業センターへ赴き、職員によるクロニクル京都の説明を聞く。クロニクル京都の事業には、無限の記述を可能にする量子記録装置のアルタラが使用されている。男は直実を出町柳へ連れて行き、歴史に残るイベントがあると告げる。彼は「2020年にクロニクル京都の真の計画が秘密裏に始動した。それは大量の測定機器で京都全域を測定し、アルタラに京都の全現象を丸ごと記録しようというものだった」と解説した上で、「2027年4月17日に河川敷で本を読もうとしていた直実が落下して来たドローンと接触した。それが記録された過去だ」と話す。
男はフードを脱ぎ、「ここはアルタラに記録された過去の京都。お前はアルタラに記録された過去の堅書直実。そして俺は現実世界からアルタラの内部にアクセスしている10年後の堅書直実だ」と語った。未来のナオミは直実の家へ行き、自分の姿はアクセス用のアバターだと告げる。ここへ来た目的を問われたナオミは、「お前に彼女を作るためだ」と答えた。直実はナオミに「今日から3ヶ月後、一行瑠璃と恋人同士になる」と言われ、学校で瑠璃の様子を観察した。しかし瑠璃は自分の好みである三鈴と全く異なるタイプなので、直実は戸惑いを隠せなかった。
「僕の好みは、もっと可愛い系な感じでした」と直実が言うと、「可愛くないっつったか?可愛い系だろ」とナオミは腹を立てた。彼は図書室にいる瑠璃を見に行き、涙をこぼした。ナオミは付き合い始めた直後に事故が起きたこと、一緒に行った花火大会の途中で落雷が木を直撃して瑠璃が二度と目を開かなくなったことを明かし、「俺の目的は記録の改ざんだ。3ヶ月後の記録を書き換えて事故を防ぐ。彼女の存在が残れば、それが影響源となって周囲の記録を自然と書き換えていく。無限の記録領域の中に、一行瑠璃が生きている世界が記録されていく」と述べた。
直実が「記録の中で一行さんが助かったとしても、それは意味があるんですか」と尋ねると、ナオミは「現実の彼女は戻らないが、幸せになった彼女の笑顔が欲しい。その記録が欲しい。思い出が欲しい。例え俺の物じゃないとしてもだ」と語る。「力を貸してくれ」と頭を下げられた直実は、協力を承諾した。彼が「自分のこと、なんて呼べばいいですかね」と質問すると、ナオミは「先生」と呼ぶよう促した。彼はカラスを手袋の形をしたツールとして直実の右腕に装着させ、念じて操作する方法を伝授する。ナオミは手袋を使えば記録世界やアルタラのデータにアクセスして世界を書き換えられることを説明し、幾つかの制約についても教えた。
ナオミは「最強マニュアル」と題したノートを用意しており、指示通りに動けば瑠璃と恋人同士になれると告げる。直実は彼の指示に従い、バスに乗って本を落とす。彼が本を拾うとバスが停車し、瑠璃の尻に頭が突っ込む形となった。直実は怒った瑠璃の平手打ちを浴びるが、ナオミは「必要な工程だ」と告げた。翌日、直実は瑠璃に謝罪し、彼女がバスで落とした本のしおりを差し出した。直実は瑠璃に礼を言われ、ナオミは満足した。その後も直実はナオミの指示通りに行動し、少しずつではあるが瑠璃との距離を近付けていった。ナオミは狐面の人物に気付くが、改めて確認すると消えていた。
脚立を使って図書室の本を片付けようとした瑠璃がバランスを崩して転落しそうになった時、ナオミの指示を受けた直実が助けた。今後は書架整理を分業することになり、それに伴って直実と瑠璃のコミュニケーションが増えた。図書委員会は6月のチャリティー古本市に向け、古本を集めることになった。しかし残り3日になっても37冊しか集まらず、瑠璃は家にある本を足すことにした。彼女は直実を自宅に呼び、屋根裏で保管されている亡き祖父が集めた大量の本を見せた。2人はリヤカーに古本を積み、学校へ運んだ。他の図書委員も手伝い、全員で古本を倉庫に移した。
翌朝、古本は火事で全て燃えてしまい、直実はナオミに「知ってたなら防げたんじゃないですか」と告げる。ナオミが「それをすれば記録が変わる。この火事も工程の1つだ」と告げる。しかし納得できない直実が深夜に本を復元しようとすると、ナオミは力を貸した。直実は翌朝まで掛かって出来る限りの本を復元し、「別の所に置いてあった」と嘘をついて瑠璃に見せた。古本市が無事に終わった後、直実は「僕は一行さんのことが好きなんだ」と告白する。瑠璃の「交際は1人では為しえないことです。2人でやってみましょうか」という言葉に、直実は顔を真っ赤にした。直実はナオミの指導で手袋を使いこなす練習を重ね、及第点を貰った。
花火大会の日、直実はナオミの指示通りに瑠璃を誘わなかった。瑠璃の家の近くで張り込んでいた直実は、狐面の男たちを目撃した。彼が戸惑っていると、ナオミは「自動修復システムだ。アルタラのシステムファイルが記録の改ざんを感知して、正しい状態に修復しようとしている」と教える。「デザインしろ。武器を出せ」と命じられた直実は、本を出して狐面たちを攻撃する。しかし狐面の数が多すぎて対処できず、直実と瑠璃は落雷地点に転送された。直実はナオミから「影響なんて気にすんな。派手にやれ」と言われ、ブラックホールを作って狐面を一掃した。時間が来ても瑠璃に雷は落ちず、直実は喜んだ。
そこへナオミが現れ、直実との間に障壁を作って瑠璃を封じた。彼は「器と中身の統一が必要だった。精神を事故当時の状態に近付ける必要があった。今ならば同調できる。全ての準備が整った」と言い、現実の瑠璃は脳死状態になっていることを明かす。彼は記録の瑠璃を転送させ、姿を消した。脳死状態だった瑠璃は意識を取り戻し、ナオミは「会いたかった」と喜んだ。直実は訓練で会得した能力を使おうとするが、完全に失われていた。
ナオミがシステム管轄メインディレクターとして勤務しているアルタラの施設へ赴くと、センター長の千古恒久や副指令の徐依依たちは記録の一部が損傷している件で話し合っていた。原因を特定しようとする千古たちに、ナオミは「それより状況の方が問題です。他の記録にも改変が広がっている」千古は連鎖崩壊を防ぐため、破損したデータを取り出す作業に取り掛かった。瑠璃の家を確かめに行った直実は狐面の集団と遭遇し、慌てて身を隠した。
ナオミがリカバリーのボタンを押すと、狐面の集団はアルタラの一部データを消去する作業に取り掛かった。記録の世界が消されていく様子を見た直実は、死を覚悟した。するとカラスが目の前に現れて「貴方は死んでいません」と教え、瑠璃を取り戻すよう促した。カラスは修復システムが歪みを正すために瑠璃の抹消を試みることを説明し、「貴方には力があります」と告げる。カラスは直実の右手に飛び込んで手袋の形になり、特殊能力を復活させた。
ナオミは病室の瑠璃に、10年間も昏睡状態にあったことを話した。彼が「諦めなくて良かった」とキスしようとすると、瑠璃は拒絶して「違う。貴方は堅書さんじゃない」と告げた。そこへ狐面の集団が現れ、ナオミは「まさか、ここも記録の世界だと言うのか」と驚愕した。ナオミは瑠璃と共に制圧され、システムの目的が異物の排除だと悟る。そこへ直実が駆け付け、狐面の集団を撃退した。彼はナオミを殴り付け、「帰りましょう、僕たちの世界に」と瑠璃に告げて病院から連れ出した…。

監督は伊藤智彦、脚本は野崎まど、製作は市川南&大田圭二、共同製作は伊藤暢啓&永田勝美&北畠輝幸&弓矢政法&國枝信吾&中野伸二&井口佳和&岡田美穂&菊川雄士&渡辺章仁&藤田晋&青井浩&前嶋宏&舛田淳&上田豊、エグゼクティブプロデューサーは上田太地&臼井央、企画・プロデュースは武井克弘、アソシエイトプロデューサーは堀口広太郎、キャラクターデザインは堀口悠紀子、アートディレクター・CG監督は横川和政、3Dアニメーションディレクターは八木田肇&荻田直樹、美術監督は長島孝幸(Bamboo)、美術監修は竹田悠介(Bamboo)、美術設定は高畠聡&小島伸一、色彩設定は村田恵里子、モニターグラフィックス・2Dデザインは佐藤菜津子、撮影監督は小畑芳樹、編集は西山茂(REAL-T)、音響監督は岩浪美和、音響効果は小山恭正、録音調整は山口貴之、音楽は2027Sound。
声の出演は北村匠海、松坂桃李、浜辺美波、子安武人、釘宮理恵、福原遥、寿美菜子、菊池幸利、木野日菜、朝井彩加、夏川椎菜、七瀬彩夏、平栗萌香、岩井映美里、大塚剛央、坂泰斗、秋葉佑、宮瀬尚也、徳本英一郎、小林直人、柚木尚子、池田朋子、上石直行、無池澤祐吾、岩瀬遼平、大内茜、上高涼楓、古賀陽菜、櫻井慎二朗、佐藤文哉、東海林亜祐、白瀬まゆ、菅原壮一郎、竹下礼奈、橘いくみ、中島和輝、西山慎哉、星乃圭吾、松元菜々海、吉田拓真ら。


『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』の伊藤智彦が監督を務めた作品。
脚本は小説家の野崎まどが担当している。
音楽担当の「2027Sound」はOKAMOTO'S、Official髭男dism、Nulbarich、OBKR、Yaffle、STUTS、BRIAN SHINSEKAIによるグループで、それぞれが場面ごとに曲を手掛けている。
直実の声を北村匠海、ナオミを松坂桃李、瑠璃を浜辺美波、千古を子安武人、カラスを釘宮理恵、三鈴を福原遥、徐を寿美菜子が担当している。

「いきなり重箱の隅を突くなあ」と思われるかもしれないけど、冒頭シーンから早くも「んっ?」と引っ掛かってしまう。
『トロン』的なデジタル剥き出しの映像から京都の風景に入るのは仕掛けのヒントを分かりやすく出し過ぎているんじゃないかと思うが、それは置いておくとしよう。そうではなく私が引っ掛かったのは、直実の動きを追うシーンだ。
彼は読書しながら登校し、教室に入る。そこでタイトルが入り、それが終わると、「教室で本を読んでいる直実が親睦会に誘われる」という様子になる。
つまりタイトルの間に放課後になっているわけだが、そこの時間経過が分かりにくいんだよね。

そこを解消する方法を考えた時に、「登校シーン、要らなくね?」と思ってしまう。直実が読書好きなのも、クラスに馴染めていないのも、登校シーンを描かなくても表現できることだし。
っていうか、『決断力』の内容と実際の行動が全く合わない様子から話を始めるのも、1つの手だったんじゃないかと。
あとさ、直実って「クラスに馴染めず友達もおらず」という状態なんでしょ。だったら、図書委員に決定した時、隣の女子が「良かったね、堅書くん」と声を掛けるのは、キャラが中途半端になるから無い方がいいよ。
それを考えると、親睦会に誘われるのも無くていいんだよね。

ナオミは自分の正体を直実に明かし、「お前のことは何でも知ってる」と語る。この辺りはシリアスな雰囲気で描き、「俺はそのために来た。お前は」とナオミは直実に重厚な口調で言う。
そして顔を近付けて間を置き、「彼女が欲しい」と告げる。ここは、たぶんギャグとして描いているつもりなんだろう。
間を取るとか、緩急を付けるとか、笑いの取り方としては何も間違っちゃいない。ただ、完全に外しているし、そこに変な笑いなんか要らない。
その後のナオミが直実に瑠璃を観察させるトコのギャグも同様。どうせ事故を防ごうとする目的をナオミはすぐに明かすんだから、最初から言わせればいい。

「それを言っちゃあ、おしめえよ」ってことかもしれないけど、どうしても気になることがある。それは、「記録された直実であるならば、自由意志は持っていないんじゃないか」ってことだ。
これは「リアルの世界だと思っていたら、実は電子空間だった」という設定とは、似て非なるモノなのよ。
その辺りは、アニメ映画『LEGO ムービー』やTVアニメ『SSSS.GRIDMAN』とは違うのだ。
また、タイムスリップして過去に戻るのとも、これまたワケが違う。単なる過去じゃなくて、既に確定した「記録」なんだから。

「自分の住んでいる世界は全て記録されたデータ」と言われて、普通なら簡単には信じられないだろう。色んな証拠を欲しがるだろうし、証拠を幾つも積み上げられたところで「やっぱり信じ難い」という気持ちになるかもしれない。
ところが直実はナオミから説明されると、あっさりと信じてしまう。読書好きの彼は「イーガンっぽいな」ってことで、あっさりと順応する。
そこで手間や時間を割いていたら尺が足りなくなるだろうし、主眼を置いていない部分なので簡単に片付けようってことなのかもしれない。
ただ、こっちはメルヘンとして順応できる気持ちにさせてもらっていないので、そこの展開に乗っていくのは簡単じゃない。

ナオミは直実から「記録の瑠璃を助ける意味があるのか」と問われ、「記録でもいいから笑顔や思い出が欲しい」と語る。
だけど、それで納得するのは難しい。「現実の彼女は救えないから、せめて記録の中だけでも」と言うけど、わざわざ記録の中に入り込んで書き換えようとする行動を取る動機としては、あまりにも脆弱だ。
なので勘のいい人なら、「こりゃ嘘をついてるな」と気付くんじゃないだろうか。
別に気付くから完全にダメだとは言わないけど、「だったら開き直ってバレバレでもいいのに」とは思っちゃうかな。

直実が瑠璃と付き合うまでの工程は、ただダラダラと時間を浪費しているだけにしか思えない。
「尻に頭を突っ込ませてビンタを食らう」とか、ラブコメみたいなことをやっているんだけど、こっちは「これがラブコメじゃない」と最初から分かっているのよ。それどころか、「ナオミの応援で直実が瑠璃と付き合う物語」じゃないことも分かっているのよ。
なので、「その手順、一気に省略できないものか」とさえ思ってしまう。
いや話を進める上で仕方の無い工程ではあるんだけど、シンプルにラブコメとして見ても面白くないし。

そもそも、瑠璃ってヒロインとしては、中身が薄いんだよね。ほぼ記号に近いと言ってもいい。
登場シーンで直実が「風変わりな子」と感じる様子は描かれているけど、それ以降は「ちょっと変な子」としての言動なんて皆無に等しい。
直実とナオミの関係を描くのがメインってことなんだろうけど、瑠璃が単なるマクガフィンじゃマズいのよ。
直実とナオミも彼女のために必至になって奔走するわけで、だから観客からしても「何とかして助けてあげたい」という気持ちに同調できる存在じゃないとマズいでしょ。

「直実が瑠璃と付き合うための行動」と並行して、万物を作り出すための練習風景も描かれる。でも、この2つが充分に消化できていないと感じる。
どっちか片方に絞り込んだ方が良かったんじゃないか、欲張ったせいで描写が薄っぺらくなったんじゃないかと。特殊能力を使うポジションって、全てナオミかカラスに担当させちゃえばいいんじゃないか。
いや、そもそも、その能力無しで話を進められなかったものか。
派手な見栄えってのを意識して安易に持ち込んだんだろうけど、「本当に必要なのか」と考えた時、大いに疑問があるぞ。

ナオミの本当の目的が明らかにされると、疑問が湧く。
「記録の瑠璃が消えたら、それは記録として不備があることになる。そうなると、また狐面が修復するために動き出すんじゃないのか。
記録の瑠璃を転送させて現実の瑠璃を脳死状態から復活させても、それで終わりにならないんじゃないのか」ってことだ。
アルタラって、「そこから持ち出された情報は二度と復活しない」というシステムなのか。
カラスは「修復システムは歪みを正すために瑠璃の抹消を試みる」と説明しているけど、それは変でしょ。記録の世界に瑠璃が存在しないってことは、現実の世界にいる瑠璃を否定することになるでしょ。

現実の世界に瑠璃が存在するのなら、それを正確に記録するのがアルタラというシステムのはずでしょうに。現実に瑠璃が存在するのなら、その記録も修復できるはずでしょ。
っていうか、むしろ「瑠璃が存在する世界」を修復しないと、記録としての意味が無くなってしまうわけで。
そう考えると、直実が焦って瑠璃を取り戻そうとする必要性が見えないのよ。しばらく待っていれば、アルタラが勝手に復活してくれるんじゃないかと。
もしも「アルタラが全てを記録するのは無理だから、不都合な情報は抹消される」ってことなら、それをハッキリと説明しておかないとダメだし。

それと同じような意味で、アドレスの重複を解決しようとする怪物から直実が必死でナオミを守ろうとするのも、ナオミが直実を救うために犠牲になるのも、ちっとも心に刺さらない。
なぜなら、ナオミも記録の世界の住人だってことが判明しているからだ。
直実は「2人とも生きるんだ」と言うけど、アルタラのシステムを考えれば、ナオミは死んでも復活するはずでしょ。だって、現実の世界に彼が存在していからこそ、記録の中にも存在しているはずで。
ってことは、アルタラは現実のナオミを記録に残そうとするはずだから、一度は死ぬかもしれないけど、いずれ修復システムで復活するでしょ。

後半に入って「ナオミのいる世界もアルタラの中でした」と明かされるが、これは想定の範囲内なので、そんなに驚きは無い。
そもそも、この映画は「この物語(セカイ)は、ラスト1秒でひっくり返る」という惹句で宣伝していたからね。
なので「直実がいる世界は非現実」ってのも、「それだけじゃなくて」ってのも、まあ余裕で想定の範囲内だよね。
観客を呼び込みたいの分かるけど果たして「ラスト1秒にドンデン返しが待っています」と明かして公開したのは、正解だったのかどうか甚だ疑問だ。

で、完全ネタバレを書くと、ラストで「実はリアルの世界ではナオミが脳死状態にあり、瑠璃が救おうとしていた」ってことが明らかにされる。
ナオミは瑠璃を目覚めさせるために直実の世界から彼女を連れ出したけど、それと同じことを現実世界の瑠璃がナオミの意識でやっていたというわけだ。
ただ、ラスト1秒でオチの意味を理解するのって、そんなに簡単じゃないのよね。
そこをドンデン返しの面白さにするためには、見て瞬時に理解できるような仕掛けにしておかないと意味が無いのよ。「後からじっくり考えたくなる映画」じゃないはずでしょ、これは。

あと、これは『SSSS.GRIDMAN』のネタバレになっちゃうけど、あの作品だと最後に実写パートを用意して「電脳世界の創造者が現実の世界に戻った」ってことを示していたのよ。
この映画だと最後もアニメなので、そこを「今までは全て非現実、ラストだけ現実」という趣向が甘くなっている。
それとさ、根本的な問題として、「例え自分が現実の人間じゃなくて記録の世界の住人であっても、それでも生きたい」という強烈な渇望が、まるで見えて来ないんだよね。
なので、直実やナオミが瑠璃のために頑張る姿を見せられても、「所詮は記録の中の存在でしょ」という冷めた気持ちになっちゃうんだよなあ。

(観賞日:2021年6月22日)

 

*ポンコツ映画愛護協会