『阪急電車 片道15分の奇跡』:2011、日本
高瀬翔子、32歳、OL。西宮北口駅在住。ある日、彼女は3年前から交際していた恋人の羽田健介に、「別れてくれ」と告げられる。彼の 隣には、翔子が面倒を見ていた後輩OL・小峰比奈子の姿があった。健介は翔子との結婚準備中に浮気した挙句、比奈子を妊娠させたのだ 。「彼女は死のうとした。俺が彼女を守っていくと決めたんや」と、まるで自分が正しい選択をしたかのような態度を見せる健介に、翔子 は怒りが収まらない。しばらく沈黙した後、翔子は「条件を飲まないと婚約不履行で訴える」と告げた。
萩原時江、65歳。逆瀬川駅徒歩10分。彼女は夫を亡くした後、一人で暮らしている。時江は近所に住む孫娘の亜美を連れ、遊びに出掛ける 。亜美は犬を飼いたがるが、時江は穏やかに微笑しながら「ダメです」と却下した。門田悦子、18歳、高校生。甲東園駅徒歩20分。彼女は 関西学院大学の前で佇んでいる。悦子は子供の頃からの憧れである関学への進学を希望していたが、担任教師からは「かなり頑張らんと 厳しいなあ」と言われていた。
森岡ミサ、21歳、大学生。逆瀬川駅徒歩5分。恋人・カツヤのアパートを訪れているミサは、幼馴染のマユミに電話で彼のことを話し、 「めっちゃかっこええ人」と自慢する電話を切った後、ミサは「ズルズル、半同棲状態みたいなんは、アレかなって。思い切って、部屋 探さへん?」とカツヤに持ち掛ける。するとカツヤはミサに物を投げ付け、「うるせえんだよ」と怒鳴って部屋を出て行った。
伊藤康江、42歳、主婦。西宮北口駅徒歩13分。彼女が安価で仕上げた料理を食卓に並べ、夫と息子の3人で楽しく夕食を始めようとして いると、PTA仲間の春山から電話が掛かって来た。春山は「宝塚に新しく出来たフレンチの店へ明日、ランチに行きましょう」と誘って 来る。ランチが4千円だと聞き、康江は値段の高さに驚いた。しかし春山は一方的に「11時に駅でね」と電話を切ってしまう。PTAの 付き合いなので、康江は行かざるを得なかった。
翌日、小坂圭一、19歳、大学生。甲東園駅徒歩20分。彼のパンク・ファッションを見た学生たちは、小声でバカにした。彼は軍事オタクと いうこともあり、周囲からの浮いた存在だった。権田原美帆、19歳、大学生。甲東園駅徒歩20分。友人たちと歩いている途中、道端の オオバコを見つけた彼女は「てんぷらにしたら美味しいねんで」と顔を輝かせる。すると友人たちは、「やめて」と腕を引っ張った。少女 、8歳。小林駅徒歩30秒。彼女はランドセルを背負い、家に入っていく。
10月。時江と亜美は、宝塚駅から西宮北口行きの列車に乗ろうとしている。携帯をいじっている乗客たちを見て、時江は顔をしかめる。 大声を出しながら駆け足で乗り込むおばさん軍団を見て、彼女は呆れた。その軍団の最後尾には、康江の姿があった。列車に乗り込んで からも、春山たちは大声で喋った。康江はほとんど会話に加わらず、顔を強張らせている。宝塚南口駅に到着した時、康江はホームに 立っているウェディングドレス姿の翔子を目撃した。
健介から別れを求められた時、翔子が出した条件は、結婚式に自分を呼ぶことだった。そして彼女はウェディングドレス姿で出席したのだ 。途中で退席した彼女は、会場係から引き出物を受け取った。翔子が、列車に乗り込むと、乗客たちは奇異の目を向ける。同じ車両に時江 が亜美を連れてやって来た。翔子は亜美に「あっ、お嫁さんだ」と言われ、涙をこらえる。時江は「討ち入り、どうだったの?良かったら 話してみない?気が楽になるわよ」と翔子に話し掛けた。
逆瀬川駅で、部屋探しに行くミサとカツヤが乗り込んできた。ミサは翔子をチラッと見やった。翔子は時江に、「私に対する反感で、結束 を固めさせただけかもしれない。でも結婚式を思い出す度に、私のこと思い出させたかった。人生で最良の日になんかさせない。呪われた 日にしてやろうと思って」と語り、後輩に恋人を寝取られたことを明かした。すると時江は、「いい気味」と彼女に同調した。
時江が「後悔しない自信があるのなら、殴り返した方がスッキリする。そういうことをするなんて覚悟がいるものよ。貴方は自分が傷付く ことを分かっていて、その上でやったんでしょ?」と優しく言うと、翔子は泣き出した。翔子が新郎新婦と同じ会社だと聞いた時江は、 「今は、気の済むまで相手を呪えばいい。でもね、気が済んだら、会社は辞めなさい。自分のために」とアドバイスした。翔子は「はい」 と素直にうなずいた。
時江は「小林で降りて、少し休んでいきなさい。貴方、顔色が悪いし、あそこはいい駅だから」と翔子に告げた。小林駅で翔子が降りた後 、時江は亜美から「お婆ちゃん、犬飼ったらいいのに」と言われ、「犬は飼わないって決めてるの、私は」と返して新婚当時を回想する。 その頃、時江の家では犬を飼っていた。結婚したばかりの夫は尻を噛まれ、犬を怖がるようになった。時江は、そんな夫を見て可愛いと 感じたことを思い出し、笑みを漏らした。
ミサはカツヤに、翔子のことを話す。新婦じゃないのに白い服を着ていたことを「変じゃない?」とミサが言うと、カツヤは「なんでだよ 。客がどんな服を来ても関係ないだろ」と荒っぽく言う。ミサが「関係あるよ、常識」と口にすると、カツヤは急に「なんだよ、俺に文句 あるのか」と激怒した。それに怯えた亜美が泣き出すと、カツヤはそっちを向いて怒鳴り付ける。カツヤは仁川駅で列車を降り、追って 来たミサを突き飛ばして立ち去った。
仁川駅で降りた時江は、膝を擦り剥いたミサに絆創膏を貼ってやり、「くだらない男ね。やめといた方がいいと思う」と告げた。それから 彼女は泣いている亜美に、「泣くのはいい。でも自分の意思で涙を止められる女になりなさい」と言い聞かせた。小林駅の翔子は、燕の巣 の下に書かれた駅員の温かい言葉を見て顔をほころばせる。駅を出た彼女は空腹を感じ、豚まんを食べる。イズミヤで服を買って着替え、 ドレスはゴミ袋に入れて捨てた。駅に戻った彼女は、掲示板に貼られている小学校の生徒たちの絵を見て微笑んだ。
仁川駅のミサは、時江の「泣くのはいい。でも自分の意思で涙を止められる女になりなさい」という言葉を思い出し、カツヤに別れを 告げるメールを送信しようとする。迷っていると、悦子が親友2人と一緒にホームへやって来た。彼女は交際している社会人の遠山竜太に ついて、「タグも知らないし簡単な漢字も読めないアホ」と批評する。しかし、受験が終わるまで初体験は我慢してくれているのだと、 彼女はのろけた。ミサは「ええなあ。私よりええ恋愛してる」と呟き、メールは送信せずに保存した。
ミサと悦子は、同じ列車に乗り込んだ。そこには翔子も乗っている。甲東園駅で、美帆と圭一が乗って来た。圭一は自衛隊のヘリを見て 興奮するが、美帆の怪訝な視線に気付き、慌てて取り繕う。美帆に「なんか、事件ですかね」と話し掛けられた圭一は、「あれは違うよ、 自衛隊のヘリ」と言い、嬉しそうに詳しい情報を語る。美帆がキョトンとするので、圭一は「しまった」という顔になる。
門戸厄神駅を過ぎた辺りで、美帆は圭一に感心した。圭一は困惑しつつ、「ああいうの、好きなの?」と問い掛ける。「ああいうのって いうか、珍しい物を見つけると、嬉しくないですか」と美帆は言う。圭一は彼女が関学の同級生だと気付いており、自己紹介した。圭一は 「君は?」と質問するが、美帆は戸惑って名前を言わない。圭一は「ごめん、いいんだ」と謝るが、気まずい雰囲気になった。
西宮北口駅で翔子が降りると、走って来た男がぶつかり、引き出物の紙袋が落ちた。悦子たちに「大丈夫ですか」と声を掛けられた翔子は 、「大丈夫、そんなに大事な物でもないし」と微笑む。悦子たちが去った後、翔子は引き出物をゴミ箱に捨てる。ミサは歩いて行く悦子を 見つけると、「浪人するなよ、彼氏のためにも」と大声で言う。圭一が階段を上がろうとすると、美帆が後ろから呼び止めた。彼女は少し ためらいながら、「権田原美帆です」と自己紹介した。
美帆は圭一に、権田原という苗字が恥ずかしくて、なかなか言い出せなかったことを明かす。「ごめんなさい、不愉快な思いさせて」と 彼女が言うと、圭一は「笑わんよ、そんなことで」と告げる。圭一に「よろしく、美帆ちゃん」と下の名前で呼ばれ、美帆は頬を緩ませる 。小学生の女の子は、ランドセルを背負って駅の近くを歩いていた。彼女は思い詰めた様子で、「誰か、助けて」と呟いた。康江は高級店 でケーキを食べながら、春山たちに話を合わせていた。
3月。ミサは西宮北口駅から列車に乗り込んだ。10月に西宮北口駅で降りた時、彼女は時江の「くだらない男ね。やめといた方がいいと 思う」という言葉を思い出し、カツヤにメールを送信した。彼女はカツヤが留守にしている部屋へ行き、自分の荷物を全て持ち去ろうと した。そこへカツヤが帰宅し、暴力を振るった。ミサが自分のアパートにいると、カツヤは激しくドアを叩いて暴れた。ミサはマユミと彼 の兄・健吾に同席してもらい、カツヤと会った。空手をやっている健吾に凄まれたカツヤは、別れることを了承した。
春山たちが大声で騒ぎながら、列車に乗り込んできた。翔子がミサの隣に乗ろうとしたら、一人がバッグを放り投げて占拠した。翔子が別 の車両に向かうのを見たミサは、白いドレスの人だと思い出した。遅れて乗って来た康江は春山たちに「取っといてあげたわよ」と言われ 、困惑する。ミサは「おばちゃんってサイテーやな」と、わざと康江に聞こえるように言う。ランチに誘われて仕方なく付き合っていた 康江だが、急に胃が痛くなる。彼女は「ごめんなさい、無理そうやから、次で降ります」と春山たちに告げた。
ミサは康江に付き添って門戸厄神駅で降り、ベンチに座らせた。「時々あるの。胃薬飲んだら大丈夫」と康江が言うと、ミサは水を買って 来て差し出した。春山たちが大声で喋り続けている電車には、悦子と親友が乗っていた。親友は「最近、甲東園に近付いても顔が変わらん ようになったな」と指摘する。言い当てられた悦子が驚いていると、親友は「ひょっとして、彼氏となんかあったん?」と尋ねた。
悦子は、竜太の出来事を回想した。ある夜、デートに出掛けた悦子は、「今日がいい。どこでもいい。連れてって」とぶっきらぼうに告げ 、ラブホテルへ赴いた。しかし竜太は、「何があったんや。ちゃんと話してくれよ。俺は悦子のこと、大切にしたいと思ってる。ホンマに そんなんでええんか」と諭した。すると悦子は嗚咽を漏らし、進路指導の先生から「関学にギリギリ引っ掛かる可能性はゼロじゃないけど 、滑り止めも受けて、関学もダメ元で受けてみたらどや」と言われたことを明かす。
家庭の経済的状況を考えると、悦子は滑り止めの入学金まで出してくれと親には言い出せなかった。そこで悦子が提案を拒むと、先生は 「戦わんと逃げるか。やっぱりお前はアカンな」と批判した。傷付けられた悦子は、竜太に「私は逃げてるわけじゃない。間違ってる? アカン子?」と問い掛けた。竜太は彼女を抱き締め、「間違うてへんよ。ええ子や」と言う。悦子は彼に付き添われ、関学を見に行った。 そして出て来た圭一と美帆に、「やっぱり、すごい勉強しましたか」と話し掛けた。圭一は「むちゃくちゃした。頭おかしなるぐらい」と 答え、美帆も「私も」と同意見だった。それを聞いた悦子は、「ですよね」と納得した。
甲東園駅で圭一と美帆が乗って来たので、悦子は会釈した。美帆は圭一に「もうすぐ見えて参ります。ほら」と言い、蕨が生えている坂を 指差した。「確かに。で?」と圭一が言うと、美帆は「もうすぐ春やろ。穴場やわあ。採られへんかなあ」と漏らす。美帆と話している 最中、圭一はクリスマスの出来事を回想した。緊張しながらキスした後、美帆は「友達からゲーム貰った」と言って箱を取り出す。だが、 箱の中身はコンドームだった。圭一は引きつった笑みで「からかわれたんや」と言った後、ためらいながら「使ってみる?」と誘った。 美帆は「えっ……はい。せっかくの御好意ですし」と答え、圭一は彼女と関係を持った。それを思い出し、圭一はニヤニヤした…。監督は三宅喜重(関西テレビ)、原作は有川浩『阪急電車』(幻冬舎刊)、脚本は岡田惠和、製作は福井澄郎&松下康&見城徹&角和夫& 桐畑敏春&中村仁&越智常雄、エグゼクティブプロデューサーは籏啓祝&服部羊&小玉圭太&若林常夫&三宅容介&伊藤隆範&村上博保、 チーフプロデューサーは重松圭一、プロデューサーは沖貴子&田村勇気、ラインプロデューサーは岩本勤、撮影は池田英孝、B班撮影は 横山和明、美術は松本知恵、照明は原田洋明、録音は郡弘道、編集は普嶋信一、音楽は吉俣良。
主題歌「ホーム」aiko 作詞/作曲:AIKO、編曲:島田昌典。
出演は中谷美紀、戸田恵梨香、宮本信子、玉山鉄二、南果歩、谷村美月、有村架純、芦田愛菜、勝地涼、小柳友、相武紗季、鈴木亮平、 大杉漣、安めぐみ、菊池均也、黒川芽以、森田涼花、高須瑠香、高橋努、芦川誠、橋本千枝子、小野晴子、実咲凛音(宝塚歌劇団)、 竹岡良子、溜祐美、月野嘉子、谷村真己、飯島順子、丹羽実麻子、石田直也、白石有馬、小谷昌太郎、赤松悠実、澤田祐衣、田村加奈子、 下宮里穂子、黒田有彩、恋塚ゆうき、徳地雅明、はりた照久、徳田尚美、竹下眞、松永渚、早水利夫、牛丸裕司、後藤花恰、田中優衣、 野口瑠佳、河村美澪、宇井由子、成田晃、中井恵美、松居ひとみ、高野剛志、森聡臣、荻田すみ子、美星愛、成瀬徹、 森若佐紀子(読売テレビ)、村西利恵(関西テレビ)、大田良平(読売テレビ)、高橋真理恵(関西テレビ)ら。
有川浩の小説『阪急電車』を基にした作品。
脚本は『いま、会いにゆきます』『おっぱいバレー』の 岡田惠和。
関西テレビ制作部の三宅喜重が、映画初監督を務めている。
翔子を中谷美紀、ミサを戸田恵梨香、時江を宮本信子、竜太を玉山鉄二、康江を南果歩、美帆を 谷村美月、悦子を有村架純、亜美を芦田愛菜、圭一を勝地涼、カツヤを小柳友、マユミを相武紗季、健介を鈴木亮平、披露宴の会場係を 大杉漣、比奈子を安めぐみ、小林駅の駅員を菊池均也、新婚当時の時江を黒川芽以が演じている。ひょっとすると、これは関西人しか気にならないのかもしれないが、時江の台詞回しに違和感を覚えてしまった。 「丁寧な関西弁を話している」という設定なのかもしれないけど、そんな言い回しを使うかなあと。
イントネーションは確かに関西弁であり、『極道の妻たち』みたいな微妙な感じではない。
ただ、ほぼ標準語の言葉を、関西弁のイントネーションで喋っているような感じなんだよね。翔子、ミサ、時江、康江、美帆と圭一、悦子、少女(樋口翔子)という7組がメインで、それぞれの紹介で15分ぐらい使っている。
だが、各人の時間配分が良くない。
翔子に4分ほど使っているのに、少女は15秒程度。
みんなが電車に乗る前に、15分も時間を費やすのもマズい。
タイトルからしても、電車に乗っているところからのキャラ紹介にすべきではなかったか。
そこまでの経緯が必要なのって翔子ぐらいだけど、それは回想で説明してもいいし。カツヤがDV男なのをミサの紹介シーンで描きたいのは分かるけど、沸点に無理がないか。
ミサは半同棲状態には疑問を口にするけど、だからって別れようと言っているわけでもなくて、他に部屋を借りないかと提案しただけだ。
それに対して物を投げて怒鳴るってのは、どういうことなのかワケが分からん。
あと、その前に、普通に「いい恋人」っぽく見せておいてからのDVに持って行った方がいいと思う。
カツヤが部屋を出て行った後、ミサが彼と出会った時や、デート中に周囲の女が「かっこよくない」と言うのを聞いて得意げになって いる様子を描いているんだけど、ミサだけ回想を挟むのは構成として不恰好。
現在進行形として、「普段は優しいカツヤだけど、人が見ていない場所で急にDV男に変貌する」というのを描くべきだ。主要キャストが登場すると、名前と年齢、住まいがテロップ表示される。
そんな中、少女だけは「少女、8歳」としか表示されない。
彼女の下の名前は「翔子」で、終盤に翔子が彼女と話すシーンでそれを知って驚くという展開があるので、そこまで隠しておきたいという 狙いなのは分かる。
ただ、同じ名前であることは、それほど効果的に作用していると思えない。
あと、少女が登場した後、翔子のモノローグが入るのだが、彼女がピンで主役を張るわけではなく、群像劇のはずなので、そこに モノローグは要らない。
どうしても入れたかったのなら、俯瞰の位置から物語を眺める第三者をナレーターとして用意した方がいい。ウェディングドレス姿の翔子が登場すると、条件を出して結婚式に出席したところまでが回想される。同じ車両に時江が来た後、途中退席 したことが回想される。
そこは、退席までを一気に回想し、そこへ時江がやって来て翔子に声を掛ける流れの方がスムーズだ。時江か来た後で、再び回想を挟む のは、構成として恰好が良くない。
あと、時江と翔子が話している間、亜美が背景になっているのは問題で、もっと有効活用しないと、連れている意味が皆無だ。
それ以降も、亜美の存在意義って、ほとんど感じないのよね。ただ単に、時江が連れている孫娘というだけだ。時江が翔子に話している時、音楽が感動を盛り上げようとして鳴り響くのが疎ましい。
音楽はゼロじゃなくていいけど、もう少し控え目にしてほしい。
あと、アドバイスを受けた翔子がすぐに納得しているけど、そこで悩みが解決しちゃうと、群像劇じゃなくなっちゃうでしょ。
もっと複数のキャラを次々に描く工程を何度か重ねて、後半に入ってから、それぞれが抱えている問題が解決される展開へと移行すべき じゃないかな。
順番に解決していくんだったら、オムニバス形式でいいでしょ。ミサがカツヤに怒鳴られるシーンの後、また翔子のターンに戻っている。この時点で、まだ悦子や美帆や圭一たちは、電車に乗って来て いない。
そいつらを先に出そうよ。どうして、また翔子なのか。翔子の問題は、とりあえず解決されたでしょうに。
その後、駅員の文字を読んだり、服を着替えたり、小学生の絵を見たりしているけど、だから何なのかと。
もう翔子は時江の言葉で吹っ切れたはずでしょ。それ以上、何も無いでしょ。
あと、細かいことを言うと、豚まんを食べるシーン、少しずつ手でつまんで食べるのは違うなあ。そこは大口を開けてパクッと頬張るべき だよ。「ウェディングドレスで豚まん」というギャップの面白さを見せたいんだろうし。翔子やミサは西宮北口まで乗って来るけど、その必要性って全く無いでしょ。
前述のように、とっくに問題は解決しているんだし。
ミサにしても、仁川駅でカツヤにメールを送信すればいいわけで。
保存したまま西宮北口まで来る間に、ミサの気持ちに影響を与えるような出来事が何か生じているのかというと、特に何も無いんだし。
悦子に声を掛けるのも、仁川駅でやればいいわけだし。あと、なんせ片道15分だから時間的に無理があるのは分かるんだけど、往復を使って物語を描くのは、あまり格好が良くないよなあ。片道 だけで終わらせてほしいよなあ。
それと、やはり一日で全てを終わらせてほしいなあ。往路が10月、復路が3月と季節が移り変わっている構成は、どう考えても不恰好 だよ。
で、復路に入ると、大半の出来事が回想で描かれる。
だけど、例えばミサがカツヤと別れるシーンなんて、絶対に現在進行形で描くべき。メールの送信でケリが付かないのなら、その夜に カツヤと話をして、そこにマユミたちが同席するなり何なり、とにかく、その日の内に解決すべき。
3月に移ってから、それを回想として描くってのは、ものすごく不恰好。
とにかく、この映画、不恰好の嵐なんだよな。悦子も回想で竜太との出来事を説明しているけど、それも「先生の言葉で傷付けられて自暴自棄になって」という流れがないから、「なぜ 急にそんなことを言い出したのか」という違和感の強いシーンになっている。
後から回想として理由が説明されるけど、そこは先に先生との会話が回想形式で描かれ、その後に悦子が竜太と電車に乗っているシーンが 現在進行形で描かれ、ラブホに誘う流れにするとかさ。
とにかく、現在進行形のシーンが少なすぎるというのが大きな欠陥。
そりゃあ時間的に制限のある電車内シーンでドラマを構築していくのは難しい作業だと思うけど、もうちょっと何とかならなかったのかと。美帆と圭一が話す往路のシーンだけ、CGで飛行機を飛ばしたり、花を背負わせたりという漫画的表現を急に持ち込んでいる。
だが、明らかに違和感たっぷりだ。
「どうして君は」「どうして貴方は」という台詞回しも、そこだけ露骨に「台詞を喋っています」という印象が強くなっている。
そういう演出を持ち込むのであれば、他の部分でもやるべき。
なんで、そこだけ浮いた感じにしたんだろうか。少女のエピソードに関しては、必要性を感じない。
彼女は前半で「自殺するのか」と思わせるぐらい苦悩していたのに、終盤に陰険なイジメを受けるシーンでは強気な態度で跳ね返して いる。
何があったんだよ、その変化には。
彼女を登場させるなら、イジメを受けて心が弱っていた彼女を元気付ける展開が必要でしょ。強気に振る舞った後、翔子が優しく声を 掛けてから泣いているけど、それだけでは不足。その程度の扱いだったら、こいつはバッサリと削ぎ落とした方がいい。
なんか、終盤に再び翔子を物語に絡ませるために用意されたようなキャラなんだよな。
イジメ問題の解決としても、あまりに軽薄すぎると思うし。ラスト近く、おばさん軍団に時江が説教するシーンは、すげえ疎ましい。
そこってさ、ホントは和ませてほしいような時間帯なのよ。
騒がしいおばさんたちを説教することで爽快感を観客に与えていると思ったら、大間違いだぞ。
そりゃあ騒がしいおばさん軍団は疎ましいけど、そこで時江が説教する展開も同じぐらい疎ましい。
おばさん軍団を講釈で黙らせるんじゃなくて、何かバチが当たって、それを見ていた他の客がスカッとするという展開にでもしてくれた方 がいい。プロローグの時点で、ミサがカツヤと別れるだろうとか、美帆と圭一が親しくなるだろうとか、悦子が進学の悩みから解放されるだろう とか、そういうことは予想できるし、その通りになる。
ただ、予定調和なのは、別に構わない。
それほど深刻な悩みを抱えたキャラクターが少ないのも、別に構わない。
ほっこりと和むような映画を目指して作られているわけだから、そこは一向に構わないのだ。
この映画の問題は、タイトルに「片道15分の奇跡」とあるのに、どこにも奇跡が待ち受けていないってことだ。こっちとしては、奇跡が起きることによって、それぞれの問題が解決されることを期待しているのよ。
ところが実際には、翔子やミサは、時江の言葉であっさりと解放される。
美帆と圭一は、ただ電車で知り合ったというだけ。
悦子なんて、その2人に「むちゃくちゃ勉強した」と聞くと、それど「ですよね」と納得して、悩みが晴れる。
なんじゃ、そりゃ。
こっちとしては、もっとファンタジックな奇跡を求めていたのよ。
奇跡のキの字も無いような解決では、ほっこりしないし、和みもしない。(観賞日:2012年4月27日)