『花のあすか組!』:1988、日本

199X年、ニュー・カブキタウンはドラッグと暴力に溢れ、ストリート・ギャング“レッドノーズゴッド”、少女秘密結社“GROUP-HIBARI”、新宿第四分署“PB-4”の悪徳K官の三者に支配されていた。街に出て来たレッドノーズのトキ正宗やアーサーたちがドラッグの赤玉を若者たちに売っていると、K官が警官隊を率いて現れた。「逮捕するぞ」とK官が言うと、トキは「してみろよ」と挑発し、仲間たちは赤玉を投げ付けた。K官が下がる中、PB-4は赤玉を拾った。
突然の爆発が起き、レッドノーズと警官隊は一触即発となった。そこに不良少女・あすかが突入し、火炎瓶を投げて再び爆発を起こした。彼女はレッドノーズとPB-4の両方を手当たり次第に殴り、赤玉を積んだ車を奪って逃走した。アーサーは秘密結社のナンバー2であるヨーコを見つけ、「こんなんしちまっていいのかよ。オタクから買ったばかりで、すぐにコレじゃあウチも帰れないでしょ」と言う。彼が「仲間がこんな絵描いて、HIBARI様に言っちゃうよ。あのチビ、テメエのツレだろうが」と話すので、ヨーコは驚いた。
あすかはK官の弟であるマネージャーが仕切るクラブに殴り込み、店員を相手に大暴れする。騒ぎの隙に、あすかの相棒であるミコが金庫から金を盗み出した。ミコはヨーコの腹違いの妹である。ミコは暴れ続けようとするあすかを制し、店から逃亡した。HIBARIの屋敷では、3つのグループのトップ会談が開かれた。トキはK官から赤玉を今までより多く寄越すよう要求され、激しく反発した。2人が言い争いを始めると、HIBARIは側近の春日を通じて「いがみ合いは誰の得にもならない」と諌めた。
K官が「綺麗事言う立場じゃねえだろうが。今度のことはアンタのトコのあすかが始まりだろうが」と声を荒らげると、HIBARIは「あすかはウチを出て行った人間です」と言う。K官が反抗的な態度で不満を口にすると、HIBARIはPB-4に見舞金を出し、レッドノーズには現物を渡すことを約束した。「問題の膿はウチで片付けます」と語ると、トキは受け入れた。K官も承諾するが、怒りは収まらなかった。
HIBARIはヨーコを呼び付け、春日を通じて「あすかとミコが赤玉とK官の金を奪った。あすかはお前のお友達、ミコは妹。どう思う?」と問い掛けた。「私は本当に何も知らないんです」とヨーコが釈明すると、HIBARIは今まで通りに赤玉の担当を任せる。ただし、「あすかとミコは絶対に許さない。お前があすかを殺れ」と命じた。街に出たあすかはレッドノーズが自分を捜索しているのを目撃し、隠れながら移動した。すると少女が「赤玉売ってくれよ。アンタが仕切ってるってアーサーが言ってるよ」と言い、しつこく絡んで来た。
あすかが少女を突き飛ばして路地裏から飛び出すと、レッドノーズとGROUP-HIBARIが待ち受けていた。彼女がGROUP-HIBARIの連中と戦っていると、そこにヨーコが現れた。ヨーコはあすかに襲い掛かり、2人は場所を移動しながら戦う。レッドノーズの連中もあすかを襲うが、ヨーコが引き離した。彼女はあすかの耳元で、「逃げろ」と囁いた。ヨーコはわざと自分の脚を切らせ、あすかを逃がしてやった。
トキの元を訪れたヨーコは、「この頃、ちっとも遊んでくれないのね」と愚痴をこぼした。トキは冷たい態度で、「テメエの立場を少しは考えてるのかよ。デレデレしてる場合かよ」と突き放した。K官はヨーコと会い、あすかの居場所を吐くよう要求した。「知ってんのかよ、テメエとトキがデキてんのを。バラすぞ、HIBARI様に」と彼は脅すが、ヨーコは「知らねえよ」と荒っぽく告げる。K官は「なんで操を立ててんだよ。悔しくねえのか、男は取られるわ、殺しかけたら逃げられるわ」と言い、「俺があすかを始末してやるよ。それで八方、丸く収まるだろうが。言っちゃえよ、あすかのヤサをよ」と持ち掛けた。
あすかとミコは、ミチコが営む食堂の2階にいた。あすかはミコから「昨日、どうして一人で出て行った?」と訊かれ、「私とヨーコの作戦だよ。赤玉を押さえて兵糧攻め。あいつらがまた揉める。チャンスが来る。HIBARIを倒す」と語る。ミコが「ヨーコを信じるのか」と尋ねると、彼女は「ああ、ヨーコはヨーコのやり方があるってことさ」と述べた。ミコは「だけど、あいつらが待ってた。私はヨーコの夢物語に付き合う気は無いよ」と語った。
ヨーコは食堂へ行き、あすかとミコに会った。ミコは「お前の話は綺麗すぎて、どこか危ねえ。ストリートからHIBARIの神様が消えて、お前が綺麗に足洗うか?旗振ってストリート取って、それからどうなるんだよ」と、ヨーコを怒鳴り付ける。「嫌なら外れろ」とヨーコが言うと、ミコは「どっちがだよ。ウダウダ言わずに自分でHIBARIを倒してみろよ」と凄む。あすかがミコを一喝して追い払うと、ヨーコは「トキが脅してきた。赤玉と銭を渡さないと殺すって」と述べた。
あすかはレッドノーズのアジトへ行き、トキに「赤玉の話を聞きたいね」と告げる。トキは「1人でストリート仕切るってか。無理だよ。ところでヨーコはお前のお友達だよな。お前が消えれば喜ぶお友達がいると思い出したもんでな」と語ると、あすかは「そういうことかい。出直すよ」と告げて立ち去る。その様子を盗み見ていたK官はHIBARIの元へ行き、「トキとあすかがつるんでやがる」と知らせる。トキを切り捨てるよう促すK官に、春日は「ご自分の頭の上のハエでも追ったらいかがですか」と冷たく述べた。
K官とPB-4はレッドノーズの数名を射殺し、トキやアーサーたちを呼び出した。K官が「時代は変わる。お前らは、もうストリートに出られないってことだ」と言うと、トキは「どうすればいい?」と尋ねる。K官は「簡単だよ、死ねばいい」と言い、トキたちを銃殺した。あすかはミチコから、「ミコがHIBARI-10に持ってかれたらしい。ヨーコが仕込んだと若いのは言ってるが、嘘かホントか分からない。それと、トキはK官にぶち殺された。レッドは全滅だね」と知らされた。
あすかはミチコに赤玉を預け、拳銃を受け取ってヨーコのヤサに乗り込んだ。あすかが物陰から覗くと、ヨーコは赤玉の過剰摂取で暴れていた。あすかは手下たちを蹴散らし、ヨーコを捕まえて連行した。あすかはミコを売ったことを糾弾し、彼女を暴行した。あすかはヨーコを人質に取り、GROUP-HIBARIにミコと赤玉の取引を持ち掛けた。春日から現物を渡すよう要求されたあすかは、先にミコを解放し、安全に帰ってから引き渡すことを告げた。
春日がミコを解放し、あすかも同時にヨーコを向こうへと歩かせる。だが、すれ違った途端にヨーコがミコを羽交い絞めにして、あすかも捕まった。勝ち誇るヨーコだが、春日から呼び出しを受けた。春日は彼女に、「トキに流した赤玉とあすかがさらった赤玉、を合わせても、お前の空けた穴は埋まらない」と言う。さらに彼は、ヨーコが組織を支配するため、あすかを利用してチャンスを狙っていたことを指摘した。HIBARIに野望を見抜かれていたヨーコは、慌てて「何でもやります。あすかを殺れと言われれば殺ります」と許しを請う。するとHIBARIは春日を通じ、ミコの殺害を要求した…。

監督は崔洋一、原作は高口里純(角川書店月刊「あすか」連載 あすかコミックス刊)、脚本は崔洋一、製作は角川春樹、プロデューサーは佐藤和之&大川裕&古賀宗岳、撮影は浜田毅、美術は今村力、照明は山口利雄、録音は上田武志、編集は西東清明、凝斗は横山稔、音楽は佐久間正英、音楽プロデューサーは石川光。
主題歌:ザ・ローリング・ストーンズ『サティスファクション』作詞・作曲:ミック・ジャガー&キース・リチャード。
出演はつみきみほ、武田久美子、石橋保、葛城ユキ、松田洋治、美加里、川下敦史、高峰祥、菊地陽子、山本夕夏、加藤善博、伊藤洋三郎、郷田和彦、松石健、大久保運、矢賀歩、松本浩一、火崎鷹志、本宮晃、梅江延弘、矢島昌樹、高橋直、菅原直希、川井研一郎、竹之内豊明、木部由起子、宮沢麻衣子、藤佐和子、上原三都子、有村肯也、戸村由香、吉見絹、十五夜マリィ、高野美由紀、有澤道子、吉田園枝、東京マリン、菊池香理、飯田則子、小嶋裕子、飯村郁美、伊藤聖子、倉垣由美子、奥村聡子、幸亜矢子、高橋恵美子、吉田八重子、渡辺元子、保利昌子、堀尾幸子ら。


高口里純の同名漫画を基にした作品。『ぼくらの七日間戦争』と同時上映された。
監督・脚本の崔洋一は、『いつか誰かが殺される』、『友よ、静かに瞑れ』、『黒いドレスの女』、そして本作品と、4作連続で角川春樹事務所の映画を手掛けている。
あすかをつみきみほ、ヨーコを武田久美子、トキを石橋保、ミチコを葛城ユキ、春日を松田洋治、HIBARIを美加里、アーサーを川下敦史、ミコを菊地陽子、K官を加藤善博、マネージャーを伊藤洋三郎が演じている。

原作とは大幅に内容が異なっており、近未来の世界観になっている。
たぶん1984年のアメリカ映画『ストリート・オブ・ファイヤー』を意識したんじゃないかと思うが、何となく『爆裂都市 BURST CITY』の出来損ないみたいな印象もある(そもそも『爆裂都市 BURST CITY』が出来損ないだが)。
今の感覚からするとダサいことは否めないが、1980年代は「暴力が支配するパンキッシュで世紀末的な世界」という設定が流行ったのだ。

まず掴みに失敗している。
導入部において、混沌としていて猥雑な雰囲気だということは感じられるが、3つのグループの関係性や世界観などが何となくボンヤリしている。
もっと問題なのは、3つのグループが序盤から登場する中で、あすかが輝きを示せていないってことだ。
監督本人が「これはアイドル映画」と認めているんだから、つみきみほを何よりもアイドルとして輝かせることが重要なはずだ。
しかし実際には、「チョロッと出て来て、すぐ逃げて、またチョロッと出て来て」という感じで、その魅力は全く伝わって来ない。

あすかは登場シーンから暴れており、敵に向かって殴り掛かる。クラブのシーンでも、また暴れる。
ってことはアクションでヒロインをアピールしようってことなんだろうけど、その動きがイマイチ。
例えるなら、「強気で自信満々だけど、軽率な行動でピンチに陥り、主役であるヒーローに助けてもらう少年」みたいな感じの、チョコマカしたガキッぽい動きなのだ。ヒロインとしての魅力を感じさせてくれるようなアクションではない。
「つみきみほのボーイッシュな魅力を見せたい」ってことで、普通のアイドル映画とは異なるアプローチにしてあるのかもしれないが、ボーイッシュな魅力も引き出せていない。ただの騒がしいガキになっている。

それと、あすかはクラブの金を奪った後も暴れまくってミコに「何サカッてんだよ」と怒鳴られているが、「赤玉や金を奪うために暴れている」ということじゃなくて、そもそも暴れること自体が目的化しているように見えてしまう。
あと、赤玉や金を奪うことが目的というのを受け入れるにしても、「それを奪ったのは何のためか」ってのが良く分からない。奪った赤玉や金を元手にして何か行動を起こすわけでもなく、横流しするわけでもなく、街を出るわけでもないのだ。
あすかがどういうキャラクターなのかを序盤で紹介した方がいいだろうに、そこもボンヤリしている。
しばらく経ってから、あすかが「自分がまだネンネの頃、ヨーコは既にHIBARI-10だった。強かった。彼女に憧れてGROUP-HIBARIに入った。HIBARIの本性が見えて来て、トキが自分とヨーコをかき回した」と、これまでの経緯をセリフで軽く説明する程度。
微妙な人間関係も、全く表現できていない。

人間関係を形作るための要素の大半は、「過去にこんなことがありまして」というセリフによる説明で処理される。
回想シーンが入るわけでもないから、それだけだと人間関係の設定はとても薄弱なモノになる。現在進行形のドラマの中で、そこに厚みを持たせるための作業が充実しているわけでもない。
だったら開き直って、その辺りの設定はバッサリと削り落としてしまっても良かったんじゃないか。
どうせ原作とは似ても似つかない内容に改変されているんだから、人間関係の設定だけ半端に踏襲しても意味が無いだろう。そんなことをしたところで、原作ファンのご機嫌取りには繋がらないし。

それまで強気で生意気だったトキは、K官から「時代は変わる。お前らは、もうストリートに出られないってことだ」と言われると、途端に弱々しい態度で「どうすればいい?」と低姿勢になる。そこには反発する姿勢が全く無い。
その急激な変貌は、全体の流れを計算していなかったのかと言いたくなる。
ちゃんと計算していたら、もっと前から「トキは強がっているけど実はヘタレな奴」ってのを垣間見せておくとか、何かしらの準備をするだろう。そうじゃないから、なぜ怒りの反撃に出ないのかサッパリ分からん。
っていうか、どうせ直後にK官がトキを銃殺するんだから、「K官に仲間を殺されて脅されたトキが激怒し、復讐を宣言するが、その場で射殺される」という形にでもしておけば良かったんじゃないのか。そうすれば、急にトキが弱腰になる違和感も無くなるし。

それと、なぜK官がトキを殺してレッドを壊滅に追い込むのか、それもイマイチ良く分からない。
そのチャンスは今までもあったはずで、なぜ今なのかと。
「あすかとつるんでいるから」ってのは、理由としては弱い。
「以前からK官はレッドを排除したがっており、あすかと組んでいることを理由にして壊滅に追い込んだ」ってことなら何となく分かりやすいが、そういう形になっているわけではないし。

なぜヨーコがヤク中になっているのか、なぜミコをGROUP-HIBARIに売ったのか、なぜ売っておきながら殺害には怯むのか。
なぜ「あすかを殺す」ってことに変な執着があるのか、あすかを最初から裏切っていたのか、途中で気持ちが変化したのか。
なぜHIBARIはあすかが連行されてきた時に始末しないのか、なぜリンチもしないのか、なぜトキの葬儀で簡単に外へ出してしまうのか。
などなど、色々と疑問は多い。
ただ、これはデタラメな映画なので、いちいちキャラの行動の意味や整合性を気にしていたらキリが無い。
「揃いも揃ってバカばかりだからメチャクチャなのだ」ということで受け入れるしかない。

最終的に、あすかはヨーコを始末する。
この時に拳銃で戦うのも違和感が強いのだが、それ以上に引っ掛かるのは、その後に「あすかが微笑を浮かべながら街を歩く」という様子で映画が終わってしまうこと。
いやいや、ヨーコを殺して「ミコを殺された復讐」は果たしているかもしれんけど、K官は死んだものの悪徳分署のPB-4は存続しているし、GROUP-HIBARIもHIBARI様も普通に残っているし、街にはヤクが溢れている。
そんな中で、なんで「全てが解決して大団円」みたいな感じになってんのかと。

(観賞日:2014年8月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会