『花より男子ファイナル』:2008、日本

道明寺財閥の御曹司である道明寺司はプライベートに関する報道を受け、大勢の記者が集まる前で来春の結婚を発表した。そして彼は、 結婚相手である牧野つくしがラーメンをすすっている写真を披露した。つくしは「よりによって、なんであの写真」と激怒し、「相談も 無しに発表するから迷惑している」と司に言う。つくしの家族が住むアパートには、マスコミが押し掛けていた。
結納の日、道明寺家の使用人頭・タマが、つくしの前にティアラを運んできた。それは『ビーナスの微笑』と呼ばれており、道明寺家に 代々受け継がれてきたものだという。アメリカの希望、香港の涙、南海に浮かぶ愛、いにしえの秘密と呼ばれる4つの伝説の宝石が、その ティアラには埋め込まれている。司の母・楓は、ビーナスの微笑をつくしに贈った。
夜、つくしと家族は道明寺が用意してくれた高級ホテルの一室で時間を過ごしていた。つくしは司と2人きりになるが、突然、覆面で顔を 隠した黒ずくめの男が窓を割って部屋に乗り込み、ティアラの入った箱を奪ってドアから逃走した。司が後を追うと、覆面男は階段で 待ち受け、挑発的な態度を取った。司は厨房まで追い掛けて男を捕まえ、覆面を剥がした。しかし男は屋上へと走り、待機していた ヘリコプターで逃げてしまった。
司が部屋に戻ると、窓は元通りになっていた。彼はつくしの家族に、ティアラが盗まれたことを隠した。つくしと司がホテルのフロントに 尋ねると、「騒ぎなど何も無かった」という答えだった。明らかな嘘だったが、司は怒るつくしを制してホテルを出た。司はF4の仲間で ある花沢類の元を訪れ、「万が一、俺に何かあったら、後のことは全てお前に任せる」と告げた。類は事情を話すよう求めるが、司は 「面倒なことに巻き込みたくない」と詳しく説明しなかった。
司は秘書の西田に頼んで、ホテルのオーナーについて調べてもらった。オーナーは鏑木和という人物で、派手な経営手腕で話題の男だった。 西田によれば、現在はラスベガスにいるという。そこで司はつくしを連れて、ラスベガスへ行くことにした。ネヴァダ州の荒野を車で走行 し、つくしと司はラスベガスに到着した。西田から「派手に動き回らないように」と言われたため、2人は安いモーテルに宿を取り、鏑木 が宿泊しているという高級ホテルへと向かった。
つくしと司は高級ホテルの前で、友人の大河原滋と遭遇した。滋は父の取引相手に誘われ、待ち合わせをしているという。その相手が鏑木 だと知り、つくしと司は驚いた。2人は滋に案内してもらい、カジノで遊んでいた鏑木と会った。鏑木は2人に「盗んだのは俺じゃない。 差出人不明の手紙で、何があっても騒動にしないよう頼まれた。500万ドルが口座に振り込まれたので、言う通りにしただけだ。だから 犯人の正体は知らない」と語った。
モーテルに戻った司の元に、F4の美作あきらから電話が入った。香港にいる彼は、ビーナスの微笑が裏オークションに出品されるという 情報を教えた。300億ぐらいで落札されるだろうと、あきらは言う。司は「自分達で落札して取り戻すしかない」と考えるが、母には 頼めない状況なので、金が無い。そこへ鏑木が現れて500万ドルを差し出し、それを使うよう促した。司が断ると、「要らなければ、明日、 返しに来い。そのまま返すか、カジノで儲けて返すか、方法は2つだ」と鏑木は告げた。
カジノで大勝負に出た司は、ホテルでティアラを盗んだ男を目撃した。司は男の後を追い掛けたが、見失ってしまった。一方、カジノに 残ったつくしは負けを認めずに抗議するが、つまみ出されてしまった。そこへ、司とF4の類、西門総二郎、あきらが現れた。類たちは、 つくしを助けるために駆け付けたという。彼ら3人は、ティアラを取り戻すための金も用意してくれるという。
類たちはつくしと司の結婚祝いとして、ジェット機をプレゼントした。つくしとF4は、その飛行機に乗って香港へ向かった。あきらは 機内で裏オークション会場の見取り図を広げ、完全個室制になっていることを説明した。F4は、会場で犯人を捕まえる計画を立てた。 会場入りしたつくしは、鏑木の姿を見掛けた。個室に入った彼は、謎の紳士に「予想外のことが起きました。友人が手を貸しています」と 告げた。その部屋には、ティアラを盗んだ男サニーの姿もあった。
オークションにティアラが出品され、F4は競りを開始した。すぐに彼らは、値段を吊り上げている人物の存在に気付いた。盗んだ本人 ではないかと疑いを抱きつつ、F4は日本円で約600億円という高額でティアラの落札に成功した。つくしはバルコニーで鏑木と遭遇し、 結婚に不安を感じていることを指摘された。鏑木は「何かあったら力になるよ」と告げ、名刺を渡して去った。
つくしは、類がティアラを盗んだ犯人と話し、握手を交わしている様子を目撃した。つくしから報告を受けた司は、見間違いだと怒鳴った。 つくしは類を見つけて質問するが、彼は「誰とも話していない」と証言した。つくしは納得できず、司に「類だけじゃなく、3人とも何か 隠している。おかしい」と告げる。しかし司は「おかしいのはお前だろ」と怒り出し、2人は口ゲンカになった。
つくしは夜の街に出掛け、鏑木と屋台で食事をした。鏑木から「彼と一生を共にしていく自信があるの?」と問われ、つくしは「今は、 ありません」と正直な気持ちを述べた。鏑木は、自分の離婚経験を語った。彼と結婚相手は、お互いの夢に相手の存在が無かったことに 気付き、別れたのだという。鏑木は「この時期に迷っていたら、絶対に上手くいかないよ」と、つくしに告げた。
翌朝、ジェット機に戻ったつくしは、司に「ホントに結婚すべきなのかな」と告げた。また言い争いになるが、急に2人は眠り込んで しまう。客室乗務員に薬を飲まされたのだ。気が付くと、2人は無人島にいた。サバイバル生活を送る中、つくしは価値観の違いを告げ、 改めて結婚への疑問を吐露した。一方、司は「俺は何の迷いも無い」と言い切った。迷いの中にいたつくしも、やがて前向きな気持ちを 取り戻した。そんな中、サニーがヘリで現れ、「最終ステージを用意している」と告げる…。

監督は石井康晴、原作は神尾葉子、脚本はサタケミキオ、プロデューサーは瀬戸口克陽&三城真一、アソシエイト・プロデューサーは 中沢敏明&辻本珠子、エグゼクティブ・プロデューサーは濱名一哉、製作統括は加藤嘉一&鳥嶋和彦&中村美香&藤島ジュリーK.& 島谷能成、撮影は山中敏康&大西正伸、編集は川中健治、録音は植村貴弘、照明は横山修司、美術プロデューサーは中嶋美津夫、 美術デザインは永田周太郎、VFXスーパーバイザーは松原貴明、音楽は山下康介、 主題歌は嵐『One Love』、挿入歌はaiko『KissHug』。
出演は井上真央、松本潤、小栗旬、松田翔太、阿部力、北大路欣也、AKIRA(EXILE)、藤木直人、加藤貴子、小林すすむ、冨浦智嗣、 石野真子、加賀まりこ、西原亜希、佐藤めぐみ、加藤夏希、佐田真由美、デビット伊東、鶴見辰吾、佐々木すみ江、竹中直人、高橋ジョージ、 ベッキー、田口浩正、三雲孝江、小林麻耶、広重玲子、深田あき、松岡恵望子、郭智博、池田裕治、星野友紀、毛利友哉、山口理紗、 大村学、山田沙耶香、山本健人、野口由佳、坂本裕一、斉藤未知、恭平、Erina、 大窪汐里、大窪凪沙、相原鈴夏、相原綺羅、綿引聡、小山田伊吹、南叫、渋谷武尊、夏山剛一、坂手透浩ら。


神尾葉子による少女マンガを基にしたTVドラマの劇場版。
TVシリーズは2005年に放送したシリーズが高視聴率を記録し、2007年には第2シリーズ『花より男子2(リターンズ)』が作られ、 そして劇場版へと繋がった。
つくし役の井上真央、司役の松本潤、類役の小栗旬、総二郎役の松田翔太、あきら役の阿部力など、主要キャストは揃ってTVシリーズ から続投。
他に、謎の紳士を北大路欣也、サニーをEXILEのAKIRA、鏑木を藤木直人が演じている。

今回の劇場版は漫画の内容から離れ、完全にオリジナル脚本となっている。ラスベガスと香港でロケーションを行い、さらに無人島や京都 も舞台になっている。
海外でロケをするのは、映画としてのスケール感を出そうとする時に良く使われるパターンだ。「とりあえず海外を舞台にすればスケール 感が出るだろ」と、製作サイドが安易な考えを持っている時に、良く使われる手だ。
今回も、たぶん「まず物語があって、そのために必要だからベガスや香港でロケをして」ということではなく、まず海外ロケが決定事項と して存在し、そこに物語を乗っけたんだろう。
これが1970年代や1780年代の日本映画なら、海外ロケというだけで、観光映画としての価値を見出せたかもしれない。
ただ、2007年という時代においては、もはや観光映画というジャンルそのものが難しい。

牧野家が暮らすアパートにマスコミが押し寄せるシーンは、主要キャストである牧野家を登場させるためだけのモノであり、そこを 膨らませるような作業は無い。
タマがティアラを持って来るのも、彼女を登場させるのが目的。
類がフランスにいる藤堂静に電話を掛けるのも、佐田真由美を登場させるためだけのシーン。
その後、静が話に絡んでくることは無い。
ビーナスの微笑みが運ばれ、「アメリカの希望、香港の涙、南海に浮かぶ愛、いにしえの秘密と呼ばれる4つの伝説の宝石」と説明された 段階で、「なんでアメリカと香港だけ場所が特定されてんのよ。あと伝説にしては、アメリカと香港って国の歴史が浅すぎるだろ」と感じ、 「こりゃあアメリカと香港でロケをするためだけの強引なネタ振りか」と思ったら、その通りだった。

サニーが窓を割って部屋に押し入り、ティアラの箱を奪ってドアから廊下へ飛び出して逃走するという展開には苦笑してしまった。
なんで窓を割って乱入したのに、逃げる時はドアから出るんだよ。それなら普通に、ドアから入ってティアラを盗めばいいでしょ。
その後も、わざわざ階段で司を待ち受けて挑発し、厨房で捕まって覆面を剥がされるなど、無意味で不自然な動きが多すぎる。
司の格闘シーンを用意したいという意向があったのかもしれないけど、大した見せ場になっているわけでもないし。
サニーは屋上から飛び降りてヘリに捕まるが、そんな離れ業が出来るのなら、窓から乱入してティアラを盗んだ後、そのまま外へジャンプ してヘリに捕まればいいじゃねえか。
司が追い掛けている間に窓が元通りになっているので、一応、そのための時間稼ぎという理由付けは出来る。だけど、そもそも窓を割って 乱入する必要性が無いからね。ドアから入れば済むのでね。

本来は、あくまでもつくしと司の恋愛関係を主軸に置くべきだから、海外ロケによるスケールのデカさを狙おうってのは、根本的にズレて いる気もする。
一応、つくしは結婚に迷いを見せるんだけど、物語を引っ張る要素としては弱い。完全に関係が破綻しそうなほどの危機でもないし。
そこまで深刻に結婚を中止したくなるような重大な問題があったわけでもなくて、ただのマリッジ・ブルーだからね。
2人の恋に障害が生じたり、割って入る恋の邪魔者を登場させて、それによって関係にヒビが生じ、修復されるまでの物語にした方がいい と思うけど、スケールのデカさを優先してサスペンス&アドベンチャーに仕立て上げたんだろう。

で、だったらアドベンチャーとしてテンポ良く進めていけばいいのに、すげえ歩みがノロくい。この内容だと、ジェットコースター・ ムーヴィーみたいにしないとキツいだろうに。
ティアラが盗まれた段階で「奪還する」という目的が設定されるのだから、香港の裏オークションに出品されると判明すれば、すぐに香港 へ飛べばいい。なのに、そこでギクシャク感極まりない形で、カジノで勝負する展開へ持って行く。しかも、司はカジノの勝負を途中で 投げ出し、サニーを追い掛けてホテルを出てしまう。
オークションの場面では分割画面を使ってスリルを醸し出そうとしているが、そりゃ無理だよ。F4が「誰か吊り上げている奴がいる」と 緊張の顔で言うけど、こっちには謎の紳士だと分かっているし。
そもそも、ティアラを競り落とせなかったとして、そんなに深刻な問題かと思っちゃうのよね。
あと、そこで犯人を捕まえようという話は、うやむやの内に放り出されているのね。

物語としては、無人島で2人きりになるところだけに意味があって、そこまでのベガスや香港のエピソードは、どうでもいいっちゃあ、 どうでもいいんだよな。つくしのマリッジブルーを描いてしまえば事は足りるわけで、それは日本でも描くことが出来る。
っていうか、もう始まった段階でマリッジブルーになっている設定でも、そんなに支障は無い。むしろ、そっちの方が手っ取り早い。
それなら1時間で済むし、テレビ版で充分だ。
でも、そうは問屋ならぬTBSが卸さないんだよな。

金も地位も通用せず、他に誰の助けも得られない無人島というシチュエーションに2人が放り出されて、つくしと司の関係性が変化するか というと、何も変わらない。
つくしは相変わらず、ウジウジと悩んでいる。
司は金持ちの坊ちゃまなのにサバイバル術を会得しており、大した苦労も無く過ごしている。
役立たずになって、つくしに頼るようなこともない。

一応、つくしのマリッジ・ブルーは無人島生活の中で解消されているんだが、ドラマが浅いので、「別に無人島じゃなくても良くね?」と しか思えないんだよな。舞台が無人島になると、F4の他のメンバーは出てこられなくなるし。
あと、つくしが出没した熊にパンチを入れるのは、「最初に司を殴った時のことを思い出す」という展開をやりたかったためだが、無人島 に熊は変だろ。
で、最終的に「全ては2人が結婚して幸せになれるかどうかを試すためでした。つくしの両親に頼まれた楓が、昔の男にやってもらった 壮大なテストでした。類や鏑木もみんなグルでした。ティアラはイミテーションでした」という、バカバカしさオンリーの種明かしが 待ち受けている。
結局、これって2人の結婚式をやりたかっただけなんじゃないの。

これは、TVシリーズのファンのためのボーナス・トラックのようなモノだと解釈すればいいんだろう。
「また、つくしやF4に会える」という、それだけで満足できるような熱烈なファンのためのモノだ。
だから、話の中身はどうだっていいんだろう。
それならTVドラマで充分なのだが、これだけTVで高視聴率を叩き出したコンテンツなので、やはりTBSとしては「映画にして、 もっと大きく稼ぎたい」ということなんだろう。

『黄泉がえり』がヒットした辺りから、TBSは映画で儲けようという意識が強くなっている。
だから、内容的に映画にする価値が無かったとしても、「金になる」と思えば、迷わずTVドラマの劇場版を作るのだ。
そして公開前には役者をTBSの番組にどんどん放り込み、宣伝を打ちまくって客を呼び込もうとする。
この映画も、とにかく公開前の宣伝の量が半端じゃなかった。
で、宣伝しまくったおかげで、この映画は興行収入77億5千万円の大ヒットになりましたとさ、めでたし、めでたし。

(観賞日:2009年12月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会