『破門 ふたリのヤクビョーガミ』:2017、日本

二宮啓之は二宮企画という事務所を構え、個人で建設コンサルタントの仕事をしている。彼は「サバキ」と呼ばれるヤクザと土建屋の仲介を請け負っているが、暴排条例のせいで稼ぎが減ってしまった。従妹の悠紀が助手を務めてくれることもあるが、バイト代も払えていない。悠紀に惚れている二宮は、彼女が見合いをすると聞いて動揺した。悠紀は二宮に、映画プロデューサーが事務所に来て裏稼業の取材と出資を持ち掛けてきたことを教えた。二宮が怪しんでいると、彼女は「桑原とかいうヤクザよりはマシでしょ。あれも嫌、これも嫌って言ってたら、あの男のトコへ戻ることになるよ」と忠告した。
二宮が「それだけは絶対に嫌や」と顔をゆがめると、悠紀は「ホンマはあの男のことが好きやねん」と指摘した。二宮が「あんな疫病神、顔を見るのも嫌や」と言うと、二蝶会の幹部である桑原保彦が来て「誰のおかげで飯食えとる思とんねん」と述べた。桑原は映画の一件に興味を示し、二宮と共に『フィルム&ウェーブ』の事務所を訪れた。映画プロデューサーの小清水隆夫は玲美という美人の秘書を雇っており、桑原たちに嫁の連れ子だと説明した。小清水は『フリーズムーン』という作品を映画化する計画を話して原作本を見せ、サバキについて取材したいのだと語った。
事務所を出た桑原は、2億円を集めるという小清水の計画は無理だろうと二宮に告げる。さらに彼は、玲美が娘ではなく愛人であることも確信していた。二宮が母の悦子と暮らす実家に戻ると、二蝶会の若頭を務める嶋田勝次が来ていた。嶋田にとって二宮の亡き父は兄貴分であり、世話になっていたので母子のことを気に掛けていた。二宮は映画の件を話し、出資者を見つければアソシエイトプロデューサーとして名前を出すと小清水が約束したことを明かす。すると嶋田は出資を持ち掛け、小清水の連絡先を尋ねた。
数日後、二宮は桑原から、小清水が出資金を持ち逃げしたことを聞かされる。嶋田は1500万円を渡しており、桑原も150万円を出していた。二宮の呑気な態度に腹を立てた桑原は、嶋田が彼の名義でも100万円を出資していたことを明かした。桑原は二宮を連れて小清水の家へ行くが、既に表札は外されて電気のメーターも止まっていた。2人が去ろうとすると、車が道を塞いでいた。桑原が近付くと、乗っていた2人の男たちは小清水について訊く。彼らがヤクザだと悟った桑原は、凄まれても気にせず叩きのめした。近隣住民が騒ぎ出したため、2人組は車で逃亡した。
次の日、二宮は嶋田からの電話で、桑原と連絡が取れなくなったことを聞かされる。桑原が揉めた相手は滝沢組の組員で、尼崎の亥誠会の直径だった。二蝶会も同じ系列だが、規模は滝沢組の方が10倍も大きく、組長の滝沢は本部の若頭補佐を務めていた。滝沢と舎弟頭の初見は嶋田の元を訪れ、チャラにする代わりに振り出した1億5000万円分の手形を決済するよう要求した。話を聞いた二宮が事務所を出ると、桑原が待ち受けていた。
桑原は二宮を連れて、小清水を居場所を聞き出した不動産屋の金本を訪ねた。彼は金本を脅し、小清水が滝沢組の町金融から借金していたこと、出資金で返済するつもりだったことを聞き出した。桑原と二宮が玲美のマンションへ行くと彼女は不在で、滝沢組の牧内と村居が待ち受けていた。桑原は滝沢組が裏で糸を引いていると悟り、包丁を持ち出した牧内たちの脅しに怯まず格闘になった。彼は腹を刺され、二宮の運転する車で闇医者の内藤を訪ねた。
内藤は応急手当てを行うが、肺に穴が開いているかもしれないので大病院で手術を受けるよう桑原に勧める。内縁の妻がいることを聞いた内藤は、彼女に刺されたと口裏を合わせるよう提案した。内縁の妻である多田真由美が病院へ来ると、清楚な美人なので二宮は驚いた。二宮は悠紀と共に、玲美が務めていたスナックを捜索した。二宮は小清水がマカオへ飛んだ情報を掴み、入院中の桑原に連絡を入れた。彼は100万円の報酬を要求し、桑原に承諾させた。
桑原からマカオ行きの航空券を取っておくよう命じられた二宮は、悦子に金を貸してもらった。桑原と二宮はマカオへ飛び、カジノのあるホテルに小清水と玲美が泊まっていることを突き止めた。桑原は部屋へ乗り込んで小清水を殴り付け、玲美を威嚇した。小清水は桑原に尋問され、出資者から金を巻き上げるつもりだったこと、滝沢組が口封じを目論んでいると知って高飛びしたことを告白した。まだ隠していることがあると睨んだ桑原は、ペンで太腿を突き刺して尋問した。小清水は口を割らなかったが、桑原は彼がカジノカードに1000万円を預けていることを突き止めた。
カードの金は勝たなければ引き出せないため、桑原はカジノへ出向いた。見張りを任された二宮に、小清水は大同銀行の貸金庫に2500万円の通帳を隠していると説明した。泣き落としに掛かった小清水の話を信じた二宮は、小清水と玲美を連れて帰国した。空港に着いた途端、玲美は母の介護があると言って立ち去った。小清水が「貸金庫の鍵は玲美の部屋に隠してある」と言ったため、二宮は四課の中川刑事に金を渡し、玲美のマンションから牧内たちを追い払ってもらった。
貸金庫で通帳を手に入れた二宮は小清水を連れて大同銀行へ行くが、紛失届が出されていると告げられた。小清水は隙を見て逃亡を図るが、桑原が現れて捕まえた。彼は二宮に持たせておいた携帯のGPS機能で、居場所を突き止めたのだ。桑原は小清水が逃亡する前に紛失届を出したと見抜いており、脅しを掛けて新しい通帳が3日後に届くことを聞き出した。彼は通帳が届くまで小清水を軟禁することに決め、子分の木下とセツオに見張りを命じた。
組事務所に顔を出した桑原は、森山組長から破門か絶縁にすると通告される。桑原は自分が滝沢組と話を付けると約束し、それがダメなら絶縁で構わないと告げた。彼は二宮を連れて滝沢組へ赴き、カジノで稼いだ750万円で手打ちを持ち掛けた。初見が憤慨すると、桑原は軟禁している小清水の写真を見せた。彼が「小清水に全て暴露させる」と脅しを掛けると、滝沢は手打ちを承諾した。桑原は取引の場所を指定し、出資契約書を持参するよう要求した。しかし見張りの二宮たちが眠り込んだため、小清水に逃げられてしまう…。

監督は小林聖太郎、原作は黒川博行『破門』(角川文庫刊)、脚本は真辺克彦&小嶋健作&小林聖太郎、製作総指揮は大角正、製作代表は武田功&木下直哉&堀内大示&松本あき子&藤島ジュリーK.&新開恒平&奈良修&田上英樹&岡田美穂&薮下維也、エグゼグティブプロデューサーは関根真吾、企画は吉田繁暁、プロデューサーは秋田周平、撮影は浜田毅、照明は高屋齋、美術は西村貴志、録音は鈴木肇、編集は橘樹陽児、疑斗は二家本辰己&酒井博史、音楽は後関好宏&會田茂一&きだしゅんすけ、音楽プロデューサーは茂木英興。
主題歌『なぐりガキBEAT』関ジャニ∞ 作詞:NOMSON、作曲:NOMSON、編曲:大西省吾。
出演は佐々木蔵之介、横山裕、北川景子、橋爪功、國村隼、木下ほうか、宇崎竜童、濱田崇裕(ジャニーズWEST)、矢本悠馬、中村ゆり、橋本マナミ、キムラ緑子、高川裕也、佐藤佐吉、佐藤蛾次郎、月亭可朝、勝矢、渡邉紘平、児玉拓郎、山本竜二、宇野祥平、麻生絵里子、筒井巧、高橋幸子、橋本美和、池波玄八、中山克己、キンタカオ、黄栄珠、侯偉、古川真也、美ユル、西沢智治、浜田大介、柳生拓哉、Christi Ray、Dianna Dia、テント、藤井俊輔、白花百合、水間ロン、森山沙月、三浦景虎、高橋良浩、吉澤宙彦、Lim Kah Waiら。


直木賞を受賞した黒川博行の小説『破門』を基にした作品。
監督は『毎日かあさん』『マエストロ!』の小林聖太郎。
脚本は『映画 深夜食堂』『続・深夜食堂』の真辺克彦&小嶋健作と、小林聖太郎監督による共同。
桑原を佐々木蔵之介、二宮を横山裕、悠紀を北川景子、小清水を橋爪功、嶋田を國村隼、初見を木下ほうか、滝沢を宇崎竜童、木下を濱田崇裕(ジャニーズWEST)、セツオを矢本悠馬、真由美を中村ゆり、玲美を橋本マナミ、悦子をキムラ緑子が演じている。

何しろ直木賞を受賞した作品なので、映画化したくなるのは良く分かる。
ただし、ここで注意しなきゃいけないのは、原作は桑原と二宮のコンビを描く疫病神シリーズの第5作ってことだ。
もう5作目なので、『破門』の時点では桑原と二宮がコンビを組んで長い時間が経っており、すっかり関係性が出来上がっている。
だけど映画としては、このコンビが登場するのは初めてなわけで。それなのに「皆さん、良く御存知ですよね」ってな感じで話を始められても、「いや知らないから」と言いたくなってしまう。

映画の観客からすると桑原と二宮に会うのは初めてなんだから、それぞれのキャラを紹介する手順は必要不可欠だろう。それだけでなく、出来ることなら2人がコンビを組むまでの経緯も描いてほしいぐらいだ。
ようするに、少なくとも前半部分に関しては、原作からの大幅な改変が必要じゃないかと思うのだ。
でも実際のところ、そういう作業は全く行われていない。
まるで観客が原作を読んで脳内補完することを観賞前の必須条件として課しているかのように、一見さんを完全に無視した進め方をしているのだ。

冒頭で「二宮はヤクザと土建屋の仲介、サバキの仕事をしている」ってことが語られるが、実際に二宮がサバキをしているシーンは全く描かれていない。
彼は建設コンサルタントという設定だが、その職業として活動している様子は全く用意されていない。どういう事情で彼と桑原がコンビを組むようになったのか、その経緯も全く描かれていない。二宮は桑原を疫病神と呼んで嫌っているが、そんな風に呼ぶ理由も全く分からない。
あまりにも説明が不足している中で、どんどん話を先に進めていく。
疫病神シリーズを知らない人は置いてけぼりにするというスタンスなのだが、それは潔い割り切りではなく、明らかに間違った考え方だ。

映像が色彩も含めて、かなり陰気で鈍重な雰囲気を醸し出している。それは映像の問題だけでなく、演出全般において言えることでもある。
裏社会を舞台にした話だし、人間の醜い部分も見えるけど、もっと軽妙さが強く出なきゃダメな作品だと思うのよね。桑原と二宮の掛け合いにしても、まるで漫才のように聞こえるべきだと思うのだ。
でも、そういうノリは全く感じない。
喋り方やリズム、間の取り方は、そんなに大きく間違っているわけではない。
問題の本質は、全て演出にある。

横山裕の演技には大いに問題があるが、それも突き詰めれば「そういう芝居を監督が指示している、もしくは許容している」ってことだ。
本来ならば二宮ってのは、強面で荒っぽい桑原に対し、振り回されつつも子分的に立ち回り、軽妙さをリードしなきゃいけないキャラのはず。
だけど、やる気の無さそうな部分だけが強く押し出されており、まるで魅力の見えないキャラになっている。
感情表現の乏しい男になっているが、むしろ誇張してもいいぐらいだと感じるほどだ。

二宮がオドオドしている様子は全く笑えないが、ホントはそういうトコでもユーモラスなモノが匂わなきゃダメなんじゃないか。彼が桑原に文句を言ったりするのも、まるで笑いに繋がらない。
桑原は凄んだり怒鳴ったりしなきゃいけないので、そこにあるトゲトゲしさや殺伐とした雰囲気を緩和して軽妙さを生み出すには、二宮の対応が鍵になる。
そこの力が圧倒的に足りていないのよ。
もっと弾けた感じで勢いとエナジーを感じさせた方が面白くなったと思うが、この仕上がりだと「ちょっと贅沢なVシネマ」みたいになっているのよね。

二宮がノンビリしているのは別に構わないのだが、あまりにも責任感が欠如しているってのは大いに問題だ。
こいつは小清水が預かった金を持ち逃げした時も、ぐっすりと眠っている間に小清水が逃げ出しても、まるで他人事といった態度を取る。それは「余裕がある」とか、「泰然としている」ってのとは全く別物だ。自分が関わっている問題なのに、「ワシャ知らんけどね」という無責任な態度なのだ。
それはキャラとしての魅力に微塵も貢献しておらず、ただ苛立たせるだけだ。
個人としての魅力が無いんだから、そりゃあコンビを組んでも魅力を発揮できるはずがない。
桑原の方は大きく間違っちゃいないので、全ての問題は二宮にあると言ってもいいだろう。

二宮は大半の時間帯で、ただの役立たずだ。それどころか、桑原の足を引っ張る厄介者になることもある。
マカオでは少しだけ役に立っているし、終盤には男気を見せて桑原を助ける行動も取る。
しかし見終わった時に感じるのは、「ひょっとして二宮って要らなくないか」ということだ。
桑原と二宮のコンビを描くバディー・ムービーなんだから、そんなはずはないだろうと思うのだ。
でも、その仮説を覆す根拠を見つけ出せない。少なくとも、桑原の相棒としての存在価値は無い。

(観賞日:2019年7月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会