『ハルフウェイ』:2009、日本

北海道の小樽。高校3年生の紺野ヒロは、同級生の篠崎シュウに恋している。バスケの試合で得点したシュウにハイタッチされただけで、 彼女は目まいがしてしまう。ヒロは親友メメに抱えられ、保健室に赴いた、メメは養護教諭の松浦に指示され、冷やしたタオルをヒロの頭 に巻く。松浦が去った後、ヒロはシュウに「篠崎君の近くにいるだけで緊張する」と言う。シュウから「コクっちゃえばいいじゃん」と 持ち掛けられると、ヒロは「フラれたらどうすんの」と口にする。
メメが「篠崎みたいな奴なんか、一杯いるよ」と言うと、ヒロは「篠崎君じゃなきゃダメなの」と強い口調で告げる。ヒロはメメから、 告白の練習をしようと促される。いつの間にか2人は、転寝してしまう。メメが目を覚ますと、試合で鼻血を出したシュウが保健室に来た 。ヒロはタオルで顔を押さえたまま、「私さ、篠崎君に告白してんの。篠崎君もさ、実は前から好きだった、とか」と嬉しそうに喋る。 「今日、告白する」と彼女が言うのを聞き、シュウはバレないように慌てて去った。
放課後、ヒロは宣言通り、シュウに告白しようとする。しかしシュウから先に、「俺と付き合いませんか」と言われた。こうして2人は 付き合い始める。ヒロの担任教師の平林は、2人が一緒に歩いているのを見てニヤニヤする。シュウはヒロを親友のタスに紹介した。 ヒロはシュウに、「どこ、受験するの?」と尋ねた。「ヒロは?」と訊き返され、ヒロは地元の大学へ行くことを告げる。改めて質問 されたシュウは、「まだ決めてない」と答えた。
ヒロはシュウに内緒で、タスに彼の受験する大学を尋ねる。「早稲田だよ」と聞いて、ヒロは驚いた。ヒロは怒りモードでシュウと会い、 「あたしに言わなきゃいけないこと無い?」と尋ねる。「無いって」とシュウが言うと、ヒロは川に近付いて「こっから飛び降りたら どうなるんだろうね。飛び降りちゃおうかな」と言い出す。「やめろって」とシュウが止めると、ヒロは「志望校、どこ?」と尋ねる。 シュウは早稲田だと白状した。
ヒロはシュウの胸倉を掴み、「東京へ行くって決めてて私にコクるって、どういう気持ちなんですか」と問い詰める。シュウが「正直、 分かりません」と軽く言うので、彼女は激怒して「真剣なんだよ、こっちは」と言う。シュウがふざけた態度を取るので、ヒロは怒って腹 を殴った。シュウは担任教師・高梨の元へ行き、「早稲田をやめようかなって思って。彼女もいるし、東京に行ったら会えなくなるし」と 相談する。高梨は「篠崎の言ってることって、目先のことすぎない?思ってるより、人生って長いよ」と告げるが、シュウは「でも、今も 大事なんで」と言う。高梨は「まあ最終的には、お前が決めることだから。でも、もうちょっと考えてみろよ」と述べた。
学校でシュウを見掛けたヒロは逃げ出すが、音楽室に追い詰められる。最近、ヒロは電話にもメールにも出なくなっていた。「あたしたち 、もう別れてるじゃん」と彼女が言うと、シュウは「別れてねえよ」と反発する。ヒロが「あたしのこと、騙したじゃん」と言うと、彼は 「ヒロと付き合う前から決めてたんだよ」と告げる。ヒロが「じゃあ、なんでコクったのよ。あたしのこと、全然考えてないじゃない」と 責めると、シュウは「なんで分かってくんねえの?」と苛立ったように言う。
シュウは高梨に、「俺、早稲田、やめます」と告げる。「新しい志望校は?」と訊かれるが、そこまで考えていなかった。ヒロはタスから シュウが早稲田を行くのをやめたと聞き、途端に浮かれた。タスはヒロとシュウを電話で喋らせ、仲直りさせた。シュウが受験勉強をして いると、ヒロは邪魔をした。シュウはヒロに、「受験が終わるまで会うの、やめよ」と告げる。ヒロは軽く「おう」と返事をするが、すぐ に「やっぱヤダ」と言う。「受験まで時間が無いよ」とシュウは真剣な態度で告げる。
ヒロとシュウは、松浦の車がパンクして困っているところに遭遇した。ジャッキで車を持ち上げる作業をシュウが手伝っていると、ヒロは 不機嫌そうに自転車で走り去った。シュウに会いたくてたまらないヒロは、彼に電話を掛け、他愛も無いことを話す。シュウは「今から 勉強するから」と電話を切るが、すぐにヒロは再び電話を掛ける。シュウもそれほど勉強に身を入れているわけではなく、今度は彼女の 会話に付き合った。「やっぱ俺ってお前のこと好きなんだなあって思ったよ」と彼は口にした。
ヒロは平林の部屋に荷物を届けに行った時、「なんか悩んでるだろ?」と言われる。ヒロはシュウとの関係について語り、早稲田行きを やめてもらったのは嬉しいが、スッキリしない気持ちになっていることを語る。平林は「後先考えて行動するような男なんて、男じゃない と思うな。でも、その男、振り向いてくれたんだろ。いい男だよ。本気で考えたから、傍にいようって決めたんだよ」と言う。
ヒロが「あたしのせいでやめちゃったんだと思ったら、罪悪感があるっていうか」と言うと、平林は「長い人生で考えたら、東京へ行くか どうか、どっちが2人にとって幸せかな」と問い掛ける。彼はヒロに「今の気持ちを書いてみろ」と言い、習字をするようした。ヒロは 半紙に「いけな」と書いて、「これが今の気持ちです」と口にした。ヒロはシュウを高梨の元へ引っ張っていき、「この人を早稲田に 行かせてあげてください」と頭を下げた…。

脚本・監督は北川悦吏子、プロデュースは岩井俊二&小林武史、製作は李鳳宇&見城徹&岩井俊二、プロデューサーは陶山明美&石原真& 呉徳周、アソシエイト・プロデューサーは大作昌寿、撮影は角田真一、編集は北川悦吏子&岩井俊二、録音は岸直隆、美術は柘植万知、 音楽は小林武史、主題歌はSalyu「HALFWAY」。
出演は北乃きい、岡田将生、大沢たかお、溝端淳平、仲里依紗、成宮寛貴、白石美帆ら。


『愛していると言ってくれ』や『ロングバケーション』など、これまで数々の人気ドラマを手掛けてきた脚本家の北川悦吏子が劇場映画の 初監督を務めた作品(2005年のウェブドラマ『10minutes diary』の一話分で演出は経験している)。
ヒロを北乃きい、シュウを岡田将生、タスを溝端淳平、メメを仲里依紗、高梨を成宮寛貴、松浦を白石美帆、平林を大沢たかおが 演じている。
タイトルの『ハルフウェイ』は、撮影中に北乃きいが「halfway(ハーフウェイ)」を間違えて「ハルフウェイ」と読んだことが由来と なっている。そのシーンは、映画でそのまま使われている。
北川悦吏子は明確にセリフを設定したシナリオを用意したが、岩井俊二の提案により、10代の恋愛模様をリアルに描くという狙いから、 大半のシーンは役者のアドリブによる会話劇になったらしい。

「俺は北大やけどね。やっぱり地元がいいよ」と言ってるタスのセリフ回しが明らかに関西訛りなんだけど、どういうことなん だろうか。
そりゃあ、親の仕事の都合で関西から引っ越してきたのかもしれんけど、「地元」って言うぐらいなら、何年も小樽に住んで いるんだろ。
ずっと関西弁が抜けないのか。だとしたら彼の地元は北海道じゃなくて関西じゃないのか。
っていうか、彼に関西弁を喋らせている意味は何なのか。
溝端淳平は関西出身だけど、演技で標準語を喋ることは出来るはずでしょ。

これって、その道で金を稼いでいる経験豊かなプロフェッショナルのスタッフが集まり、劇場公開してお金を貰うフィルムとして製作した 映画なんだよね。
学生の自主製作映画じゃないんだよね。
なんか、それっぽい雰囲気を感じたんだけど。
ひょっとすると、自主製作チックな手触りを狙っていたのかな。
岩井俊二だったら、何となく、そういうこともやりそうな気がするし。
ただし、それが正解だったのかというと、まあ失敗だわな。何の得も無い。

冒頭、ブレまくっている手持ちカメラが自転車を漕ぐヒロとシュウを追い掛ける映像は、ただ見にくいとしか感じない。
それは「誰かが2人を撮影している様子」という劇中映像なのかと思ったが、それ以降の映像も同じように粗かったので、「ああ、 そういう粗い映像の映画なんだ」と理解した。
これが例えばモキュメンタリーの映画だったりしたら、そういう映像が効果的に作用したかもしれない。
だけど、そうじゃないんだから、ちゃんとした映像で人物や風景を捉えてほしい。ただ安っぽくなっているだけだ。
それも監督やプロデューサーの狙い通りなのかなあ。

前述のように、セリフをアドリブにしているため、登場人物のセリフが重なる箇所もある。
誰かが喋ろうとしたタイミングで、それを受けている別の人物が話してしまったりするのだ。
それは、ある意味では「リアル」ということになるかもしれない。
ただし、果たして映画において、その手のリアルは必要なんだろうか。
ひょっとすると、そういうリアルが効果的に感じられる映画もあるのかもしれない。いや、たぶん存在するんだろう。
だけど、この映画では、それが全くプラスに作用していない。

なんかねえ、セリフや内容が、イマイチ頭に入って来ないんだよな。
「変にドキュメンタリー的にやらず、ちゃんとドラマとして撮ってくれよ」と言いたくなる。
あと、アドリブに任せるにしても、ちゃんとセリフはチェックしようよ。
ヒロが平林に相談するシーンのセリフ、「彼氏が東京の大学へ行きたがっているけど、行くのをやめてくれたんですよね。気持ち的に、 行かないってなったら、行ってほしくないっていうか、でも行ってほしくないっていうか」って、どういう意味なんだよ。
ワケが分からない。

アドリブに委ねた結果として、全く力の無いセリフばかりが並ぶ結果になってしまった。
経験値が高くないから、言葉に力を与えることも出来ていないんだろう。
ベテラン俳優ばかりが揃った作品ならともかく、メンツが若すぎたね。
製作サイドがリアルを狙って持ち込んだ演出は、ことごとく空回りしている。
そういうのって、新人監督や若い役者ばかりでやるべきじゃなかったんじゃないか。
そういう陣容でやることによって、単に演出を放棄しただけの安い学生芝居になってしまっている。

っていうか、その手のリアルを狙うのなら、基盤となる物語は、もっと厚みや深みのある魅力的なものにしておく必要があったはず。
でも、この話って、ものすごく薄っぺらくて、どこにでも転がっているような凡庸な素材なんだよね。
とは言え、その時点では、「だからダメなんだ」と失敗の烙印を押すことは出来ない。使い古されたベタな話であろうと、調理方法次第 では魅力的な作品として仕上げることも出来るからだ。
しかし前述のように、役者に丸投げしているので、そりゃあ上手く味付けすることなんて無理だわな。

そう考えると、シナリオと演出方針の噛み合わせが最悪だったってことだな。
っていうか、どんな演出をしたとしても、このシナリオだと難しかったかもしれないなあ。
だってシナリオと言うより、なんか断片の寄せ集めって感じなんだよね。まだシナリオとして未完成のままっていうか。
あるいは、同じ歌手の歌を何曲か途中で流して、MTVチックなスタイルで仕上げれば、ミュージシャンのプロモーション用映像としては 面白くなったかも。
それは映画じゃなくて、あくまでもPVとしての価値だけどね。

早稲田を受験することを白状した後の、シュウの態度がものすごく不真面目。申し訳なさそうな様子は皆無だ。
「正直、分かりません」と言ってヒロを抱き締めるのは、ヒロじゃないけど「ふざけんなよ」と言いたくなる。
そこは、おちゃらけるようなシーンじゃないでしょ。
もし、それが岡田のアドリブだとしたら、監督がリテイクを要求すべきだよ。明らかにキャラの捉え方を間違っている。
っていうか、どんなキャラとして設定されているのか、かなりボンヤリとしているんだけどね。
ただ、少なくとも、そこを冗談で済ませようとするようなキャラは、単に不愉快なだけってことは確かだ。

そもそもヒロの言う通り、東京へ行くと決めているのに告白している時点でマイナス査定だし、ホントは答えとしても「分からない」で 済ませちゃダメなんだよ。
だけど、「マジに悩んで、ものすごく葛藤して」という様子が見えれば、共感も出来ただろうし、リカバリーも可能だっただろう。
ところが、なぜか本作品は、彼の好感度をさらに下げることしかやらない。
そりゃあ、ヒロが腹を立て、電話やメールをシカトするようになるのも当然だろう。
だって、ただのクズじゃねえか。

分からないなら分からないなりに、今まで黙っていたことをヒロに謝罪して、自分の心の内をさらけ出し、真剣に彼女と向き合うべき だろう。
「じゃあ、なんでコクったのよ。あたしのこと、全然考えてないじゃない」とヒロに責められたシュウは、「なんで分かってくんねえの? 」と苛立つように言うが、分かるわけねえよ。
自分の誠意や思いやりが著しく不足していることに気付けよ。

ただし、じゃあヒロには同情したり共感したり出来るのかというと、そうでもない。
シュウが早稲田受験をやめたと知って浮かれるとか、勉強を邪魔するとか、その辺りに来て、ヒロも嫌な女になってしまう。
シュウが松浦のパンク修理の手伝いをしていると不機嫌になるとか、アホにしか見えないし。
なんだよ、そのチョーつまんないジェラシーは。
結局、好感の持てない男女の恋愛劇なので、「そっちで勝手にやっとくれ」って感じなんだよな。

日数の経過がサッパリ分からない。
告白シーンは、たぶん木々の様子からすると、秋口だと思われる。
で、終盤、思い出として写真を撮るシーンで同じ場所に来るが、木々や草の色が変わらないので、やはり同じ季節だと解釈できる。
ってことは、せいぜい数週間の出来事かと思っていたら、シュウが受験に行く日も同じ季節っぽい。
だけど大学受験ってことは、もう冬じゃないのか。
北海道の冬なのに、秋にしか見えないんだけど。

最後は、ヒロとシュウが音楽室でスネアドラムを叩きながら、互いの気持ちを口にする。
そしてヒロが「東京に行ってほしくないです」と笑顔で言い、「はい?」と疑問符のセリフを口にしたところで、クロージング・ クレジットが流れてくる。
なんだ、その尻切れトンボな終わり方は。
まあ、「途中」ってことで、ある意味ではタイトル通りなんだけど、ただ投げ出しているだけとしか感じない。

(観賞日:2011年4月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会