『フレフレ少女』:2008、日本

櫻木高校2年生の百山桃子は、小説に描かれるような恋に憧れを抱いている。ある日、本を読みながら校庭を歩いていた彼女の額に、 飛んで来たボールがぶつかった。桃子が保健室で意識を取り戻すと、ボールをぶつけてしまった野球部員の大嶋秀樹が心配そうに見つめて いた。大嶋は1年生ながらエースピッチャーで、先発した試合では負けたことのない期待の選手だ。
大嶋に一目惚れした桃子は、ラブレターを書いた。しかし靴箱に入れようとすると、他の女子生徒のラブレターで埋め尽くされていた。 校庭に出た彼女の耳に、屋上から大声が響いてきた。応援団の山本龍太郎が、「どんな困難にも諦めずに立ち向かう」という応援団の団訓 を叫んでいた。それを聞いた桃子は、自分へのエールのように感じた。
友人の勧めを受けて、桃子は野球部のマネージャーになろうとする。だが、大嶋目当ての女子生徒がマネージャー志望に殺到しており、 定員オーバーで断られてしまった。グラウンドを立ち去った桃子は、龍太郎が応援団顧問の大門教諭に泣き付いている現場を目撃した。 応援団の団員が龍太郎しかおらず、メンバーを勧誘しても集まらなかったというのだ。
大門教諭は適当に受け流し、「それじゃあ来週の野球部の応援には行けないな」と告げた。その言葉を耳にした桃子は応援団の部室を訪れ、 入部届けを提出した。困惑しながらも喜ぶ龍太郎だが、「2人では応援に行けない」と頭を抱えた。高校野球の試合を応援するためには、 団長、副団長、鼓手長、旗手長、参謀の5人が最低でも必要なのだという。それを聞いた桃子は落ち着いた態度で、「じゃあメンバーを 募集しましょう」と持ち掛けた。
桃子と龍太郎は様々なクラブを回り、ビラを配って入部を呼び掛けた。邪険に扱われても桃子は全く動じず、積極的な勧誘を続けた。小説 の言葉を引用した彼女の弁舌が功を奏し、3人のメンバーが新しく加入した。吹奏楽部の遠藤譲二、ウエイトリフティング部の大坪泰平、 合唱部の田村晃だ。龍太郎は「自分は二番手向きの家系だ」と副団長になることを宣言し、新しいメンバーが入ったのも君のおかげだ」と 言って桃子を団長に推挙した。他のメンバーも賛同し、桃子は第50代応援団長を務めることになった。
櫻木高校野球部の対戦相手は、10年連続甲子園出場の不知火学園だった。不知火学園の応援団も全国レベルで、龍太郎は憧れを抱いていた。 迫力のある応援を披露した不知火学園に対し、全く練習をしていない桃子たちは声が出ておらず、グダグダの状態だった。桃子たちは観客 の失笑を買った挙句、校旗を倒して試合を妨害する。櫻木高校野球部は惨敗し、桃子たちは不知火学園応援団から酷評を浴びた。桃子たち は野球部から、「もう応援には来ないでほしい」と告げられた。
後日、桃子は大嶋が不知火学園に転校したことを知った。そんな彼女たちの前に、第23代応援団長・柳原源蔵が現れた。彼は桃子たちに、 応援団伝統のゴールデンウィーク合宿を持ち掛けた。遊び気分で出掛けた桃子たちを、柳原の盟友である応援団OBの仮屋、北村、海野、 玉井が待ち受けていた。OBの5人は、桃子たちを徹底的に鍛え上げようと考えていた。
桃子たちは、OBから厳しいシゴキを受けた。柳原たちは、合宿最終日に大団旗を掲げて山道を練り歩く団旗行軍があることを告げた。 旗を落として失敗した場合、全員が罰として丸坊主にさせられるという。銭湯に出掛けた帰り、桃子は近くで合宿している大嶋の練習を 見学に行った。大嶋は厳しい練習に耐えていた。桃子は合宿所に戻り、柳原たちに「私も頑張らないと、人に頑張れなんて言えないです よね」と真っ直ぐな表情で告げた。
猛特訓に耐え切れなくなった譲二、泰平、晃は、夜中に脱走を試みた。一度は捕まった彼らだが、「なんで頑張らなきゃいけないのか 分からない」とOBを批判し、合宿所から逃げ出した。OBの話し合いを耳にした桃子は、柳原の会社が潰れたことを知った。仲間から 家族の元へ帰るよう勧められた柳原だが、「どんな困難にも諦めず立ち向かわねばならない」と口にした。桃子は譲二、泰平、晃に「まだ 誰のことも応援していない。一度でいいから、ちゃんと応援したいと思ってる」と告げて説得し、合宿所に連れ帰った。
不知火学園野球部の練習場所を訪れた桃子は、グラウンドから出て来た大嶋に「渡したい物がある」と告げた。そこへマネージャーの 奈津子が現れ、あの時の応援を嘲笑した。大嶋は「自分が投げて負けたのは、あの時だけだ」と口にした。桃子は何も言い出せず、練習に 戻る大嶋と奈津子を見送るしかなかった。その様子を見ていた龍太郎は、逃げるように走り去る桃子を追い掛けた。桃子は「不純だよね。 大嶋君を応援したいから入団して、なのに何も伝えられずに一方的に失恋して」と言い、「応援団を辞める」と口にした。
合宿最終日、桃子たちは一致団結して団旗行軍を成功させた。柳原は桃子に団服をプレゼントし、卒業まで着続けるよう指示した。学校に 戻った桃子たちは、野球部の応援に情熱を注ごうとする。だが、野球部からは「応援なんて単なる賑やか師だから必要無い」と言われて しまう。そこで熱意を理解してもらうため、桃子たちは卓球部・柔道部・将棋部を応援して関東大会優勝に導いた…。

監督は渡辺謙作、脚本は橋本裕志、製作は上松道夫&松本輝起&平井文宏&高田佳夫&本間憲&久松猛朗&山路則隆&宮地敬久&吉田鏡& 二木清彦&河上努&柘一郎、企画は亀山慶二、プロデューサーは桑田潔&八木征志、エグゼクティブプロデューサーは梅澤道彦、 プロダクションプロデューサーは孫家邦&菊地美世志&笹井和也、撮影は藤澤順一、編集は日下部元孝、録音は柿澤潔、照明は 上田なりゆき、美術は花谷秀文、音楽は上田禎、主題歌『夏のかけら』はAqua Timez。
出演は新垣結衣、内藤剛志、永山絢斗、柄本時生、斎藤嘉樹、染谷将太、モロ師岡、伊藤洋三郎、中沢青六、鈴木晋介、柳ユーレイ、 日向寺雅人、内田明、梅田愛子、奈津子、本多拓人、秋山奈々、宇野祥平、西秋愛菜、加藤諒、金田哲(はんにゃ)、鳥潟ゆうひ、 橋本夏果、篠原孝文、廣田朋菜、下村マヒロ、千野孝、三木秀甫、渡邊慶人、岩間天嗣、黒木啓嗣、関谷賢斗、近藤起矢、山本斉、 木村宏朗俊、伊藤毅、石田卓也、相馬圭祐、 上野真未、畠れもん、佐藤栞菜、本間理紗、松本真美、小川あずさ、末広ゆい、伊藤祐貴、尾門和也、照井美樹、積田佳代子、早川みどり 、佐藤彩奈、長谷川勝、栗田裕里、西原信裕、茅野勝利、佐伯晃浩、ヒーコら。


TVドラマ『ウォーターボーイズ』シリーズの橋本裕志が脚本を執筆し、『恋空』の新垣結衣が主演した作品。
桃子を新垣結衣、柳原を内藤剛志、龍太郎を永山絢斗、譲二を柄本時生、泰平を斎藤嘉樹、晃を染谷将太、仮屋をモロ師岡、北村を中沢青六、海野を 鈴木晋介、玉井を伊藤洋三郎、大門教諭を柳ユーレイ、大嶋を本多拓人、ウエイトリフティング部主将を金田哲(はんにゃ)、奈津子を 秋山奈々が演じている。

まず「新垣結衣がデカい」というのが、ヒロインとして大きな欠点になっている。
身長の高さがプラスに作用するケースもあるが、それは例えばTVドラマ『ショムニ』のように、男勝りだったり、イケイケだったり、 リーダーシップを取ったりするキャラの場合だ。
桃子は団長にはなるものの、みんなを引っ張る勇ましいキャラではなく、むしろ「守ってあげたい」タイプの女性だ。
そういうキャラクターには、身長の高さはマイナスでしかない。
桃子のキャラ設定から考えると、「体の大きな男どもに囲まれて、けなげに頑張る」という姿を見せることが望ましいと思われる。だから、 どうしても新垣結衣を起用したいのなら、周囲には彼女よりも身長の高い男優を揃えるべきだ。
ところが周囲の男子高校生役は、むしろ新垣結衣の背の高さを強調したいのかと思うようなキャスティングになっている。

ラブレターを出すにも緊張するぐらい引っ込み思案な性格だったヒロインが、わざわざ応援団の部室へ行って「どんな困難にでも諦めず 立ち向かうというのは嘘だったんですか」と龍太郎に告げて入部届けを提出するという行動に出るのは、不可解極まりない。性格的な問題 を抜きにしても、その行動は不可解だ。
というのも、桃子が応援団に入るのは大嶋の応援をするためだが、一般の生徒でも野球部の応援に行くことは出来るんだから、そんなのは 入団の理由にならないのだ。
それに、応援団に入ったりメンバーを勧誘したりすることに、そこまで積極的で前向きになれるのなら、大嶋へのアプローチも、もっと 積極的になれそうなものだ。野球部のマネージャーを断られた時も、小説の言葉を引用して食い下がることをやりそうなものだ。
態度の一貫性が無い。「いつもは積極的だけど大嶋の前では臆病になってしまう」というわけでもない。普段はそんなに行動的ではない のに、応援団への入団とメンバー勧誘だけは、やけに積極的なのだ。

そこは、龍太郎サイドからのアプローチがあるとか、何かの成り行きで仕方なくとか、とにかく自分から積極的に入団するのではなく、 巻き込まれる形で応援団に入る展開にすべきだった。で、嫌だけど、応援を通じて大嶋君に近付くことが出来るということで、応援団を 続ける気になるという形にすればいい。
メンバー勧誘も、渋々ながら龍太郎を手伝う形にした方が自然だ。小説の言葉を引用して、強い口調で説き伏せようとするキャラクター には見えないのよ。
それと、偉そうなことを言いながらも本人の目的は大嶋だから不純極まりないんだけど、そこが笑いになっていないんだよな。

桃子が団長にされる箇所だけは巻き込まれ型のキャラになっているけど、そこまでの部分は主導的立場だったのに、そこだけ巻き込まれ型 にしても笑いにならないよ。
大体さ、メンバーを勧誘する前に、まずは桃子に応援団としてやっていける資質がどうかを確認するのが先じゃないのか。まずは彼女が 発声や振付を練習するシーンがあって、それからメンバー勧誘に移るべきじゃないのか。
野球の試合までは日数があったのに、全く練習せずに球場へ行くというのもメチャクチャ。
応援団への入団もメンバー勧誘も積極的だった桃子は、いざ応援を始めると声が全く出ておらずヘロヘロ。で、目当ての大嶋に目が釘付け かと思いきや、ほとんど彼に視線を向けることは無い。
応援団としての仕事より、もっと大嶋を気にするべきじゃないのか。
不知火学園からエールの交換を拒否されて抗議するが、なぜ応援団に関してそんなに熱くなるのかも分からない。目的は大嶋であって、 応援団には何の情熱も無いはずでしょ。

大嶋が転校して桃子のショックは大きいはずだが、リアクションはほとんど無い。どうやら、そのタイミングで退部も考えたような節が 少しはあるが、その描写は薄すぎて伝わらない。
で、その気になれば逃げ出すことも出来るのに、丸坊主の罰があると言われても、なお頑張って合宿を続ける。
大嶋が転校してモチベーションはゼロのはずなのに、何が彼女を突き動かしているのか。桃子は大嶋の練習を見た後で頑張る意欲を口に しているが、だったら、それまでの特訓に耐えていた気持ちはどこから沸いていたのか。
追加メンバー3名が逃げ出そうとしたり、「なんで頑張らなきゃいけないのか分からない」と愚痴ったりするが、それは桃子の仕事にして おくべきなんじゃないのか。役割分担を間違えているぞ。
その3名は単なる付け足しで、何の個性も無いし。

会社が潰れた柳原が「どんな困難にも諦めず立ち向かわねばならない」と口にするのを聞いて、桃子が心を打たれたような描写になって いるシーンがあるが、どこに心を打たれるのかサッパリ分からない。
家族のためには、仲間が言うように、応援団の練習に付き合う前に仕事を探すべきなんじゃないのか。
それが「困難にも諦めず立ち向か」ってことじゃないのか。
困っている家族を放っておいて応援団に付き合っているのは、そりゃ逃避行動じゃないのか。

「へなちょこヒロインが頑張って一人前の応援団長として成長していく」という流れかと思ったら、追加メンバー3名がヒロイン以上に へなちょこなので、ヒロインのへなちょこぶりが目立たなくなってしまう。
「男社会である応援団の中に、か弱き乙女が足を踏み入れる」という面白さを活かすのであれば、応援団にはゴリゴリの男子を揃えた方が いいんじゃないのか。
なぜ軟弱で応援団らしくない男子ばかりばかりを揃えたのか、意味が分からない。
せっかくの「ギャップの面白さ」が、全く使えなくなっている。

「最初は不純な動機で始めたヒロインが、次第に本気で応援団に情熱を注ぐようになっていく」というドラマは、微塵も感じられない。 桃子の態度や行動がデタラメすぎる。
なんせ最初の応援シーンから、大嶋よりも応援団としての仕事に意識が行っている。
じゃあ純粋な気持ちで応援団を頑張っているのかというと、合宿中に大嶋を見て頑張る意欲を抱いたりする。
「私も頑張らないと、人に頑張れなんて言えないですよね」と真っ直ぐな表情で桃子は言うが、それも大嶋を意識しての言葉だから、 馬鹿馬鹿しいとしか感じられない。
で、大嶋に何も言えず、「応援団を辞める」と言って風呂場で泣いた桃子だが、辞めることなく合宿を最後までやり遂げる。
どういう心理なのか、どういうモチベーションなのか、サッパリ分からない。
で、いつの間に大嶋への感情を断ち切ったのかも分からないし、最後に龍太郎とくっ付くのは恋愛描写が薄すぎて無理を感じる。

柳原から「卒業まで団服を脱ぐな」と言われた桃子が驚いて「もうセーラー服は着られないんですか」と漏らすシーンがあるが、そういう 「ヒロインがショックを受ける」というタイプのギャグは、後半に入ってやるようなことじゃない。団服に関するネタをやりたいのなら、 前半の内に済ませておくべきだ。
あと、そこでの桃子のリアクションも弱いなあ。
っていうか、そこだけじゃなくて、全編に渡って、ギャグシーンにおける新垣結衣の芝居に冴えが無い。
たぶん新垣結衣には、コメディエンヌとしての資質が乏しいんだろう。驚くリアクションをするとか、真面目な顔でトボけたことを口にする とか、そういう喜劇芝居が全く出来ていない。コメディエンヌとしては、演技がおとなしすぎる。
ともかく内容やテイストを考えると、新垣結衣は完全にミスキャストだ。

やはり新垣結衣の「いかにも女の子」という声ではキツいと感じたのか、クライマックスとなる野球部応援シーンでは、声出しの大半を 龍太郎が担当している。
彼の発生も気合いや迫力は今一つだが、それでも桃子よりは遥かにマシだ。
で、声出し担当が桃子に交代すると、一気に応援がナヨッとしてしまう。
声に力強さが無いし、終盤近くになると痛々しささえ覚える。

「野球部に認めてもらうために他のクラブを応援して全て関東大会優勝に導く」というエピソードは、ギャグのつもりだろうが、ただ唖然 とさせられるだけ。
「応援団を嫌悪していた野球部が、最後は認めて握手を求める」というストーリーは、そもそも野球部が下手すぎて、「お前らは偉そうに 言える立場じゃないだろうが」と言いたくなってしまう。
あとさ、桃子も応援団も、なぜ野球部の応援だけを特別扱いするのかと。
他の運動系クラブは、どうでもいいのかよ。

(観賞日:2009年8月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会