『不能犯』:2018、日本

「電話ボックスの男」の噂が、人々の間に広まっていた。どこかの公園の電話ボックスに殺したい理由と連絡先を残しておくと、願いが叶うという噂だ。ただし殺したい気持ちが純粋でなければ、頼んだ人間も殺される。杉並北警察署の多田友子は新人の百々瀬麻雄を伴い、上野琢巳という男のアパートへ聞き込みに向かった。彼女は上野に、高円寺のアパートで女性が首を吊って死んでいた事件で話を聞きたいと告げる。上野は逃亡を図るが、多田と百々瀬は追い掛けて逮捕した。
木島ファイナンスの社長を務める木島功がカフェにいると、宇相吹正という男が現れた。彼は「貴方は、人生が終わる時のことを想像したことがありますか」と質問し、スズメバチの猛毒について説明した。宇相吹は木島に水を浴びせて挑発し、赤く光る眼で凝視した。「その匂い、スズメバチが好むんです」と言われた木島は、スズメバチの群れに襲われる幻覚を見て絶叫した。多田の取り調べを受けた上野は、木島に頼まれて被害者を自殺に見せ掛けて殺したことを自供した。
多田と百々瀬は木島が殺されたと聞いて、現場となったカフェへ赴いた。そこへ先輩刑事の夜目美冬と赤井芳樹が現れ、店員の証言を説明した。多田は防犯カメラの映像を確認し、何も無いのに木島が苦悶する様子や、カメラに気付いて不敵な笑みを浮かべる宇相吹の姿を見た。夜目たちは毒物による殺害だと推理していたが、鑑識官の河津村宏と前川夏海から木島が掛けられたのはガムシロップの入った水だと聞かされる。木島の全身は腫れ上がっていたが原因は不明で、死因は心筋梗塞だった。
多田は3ヶ月前に港区で類似した事件が起きていることに触れ、その時も今回と同じく黒いスーツの男が目撃されていたと話す。死亡した女性は、複数の結婚詐欺の容疑者だった。川端タケルが寿司の出前を持って警察署に来ると、多田は「タケルが持って来たの、久しぶりじゃない?」と告げる。タケルが出前を回収して去った後、多田は百々瀬に「私が少年課にいた頃に世話した子で、2年前に少年院から出て来て、紹介した店で調理場を任されてる」と述べた。
新婚の羽根田健は、妻の桃香と幸せな日々を送っていた。しかし桃香は健に、塀の向こうから町内会長の鳥森広志が覗いていたと話した。翌日、鳥森が自宅前に出したゴミ袋を調べているのを見つけ、健はギョッとする。彼が声を掛けると、鳥森は淡々とした口調で「変な物が入っていないか、調べてるんです。社会のルールを守るよう、奥さんに伝えておきなさい」と述べた。その夜、健が帰宅すると、桃香は侵入した鳥森に襲われたと話す。床には足跡が残っており、桃香の肩には痣があった。
健は鳥森の元へ押し掛け、警察に通報すると告げる。すると鳥森は、「そんなことをしたら、警察に全部喋っちゃうよ。奥さんも、全部喋らなきゃいけない。いいのか。奥さんを愛してるなら、やめなさい」と一喝した。桃香から警察への通報はやめてほしいと頼まれた健は、都市伝説を扱うネットの掲示板で電話ボックスの男の存在を知った。多田は百々瀬から、木島の事件と港区の事件は両方ともプラシーボ効果が死因ではないかと告げられる。彼は関連した事例を取り上げた本を見せ、一種の洗脳ではないかと推察する。しかし赤井が立証は出来ないだろうと言うと、多田も同意した。
健が電話ボックスにメモを貼ると、宇相吹が接触して来た。「必要なのは貴方の純粋な殺意です」と言われた健は、鳥森の殺害を依頼した。宇相吹は公園のベンチで休んでいる鳥森の元へ行き、タバコやペットボトルの水に薬物が混入されたように思い込ませた。水を飲んだ鳥森は苦悶し、その場に倒れて死亡した。宇相吹は健に報告し、鳥森がゴミ箱から盗んだ物を入れてある紙袋を渡す。彼は出張を予定している健に、家へ帰って休むよう勧めた。
紙袋の中身を目にした健は驚愕し、急いで自宅へ戻った。すると桃香が下着姿になり、ドラッグ仲間の男女3名を連れ込んでいた。桃香はドラッグを打っている現場を鳥森に見つかって注意され、健には嘘をついたのだ。鳥森がゴミ箱を調べていたのは、証拠となる物品を発見するためだった。健が仲間たちを灰皿で殴り付けると、桃香が包丁を持ち出して腹を刺した。健は彼女の頭も灰皿で殴り付けて死亡し、室内に倒れ込む。窓の外で見ていた宇相吹は、「愚かだねえ、人間は」と呟いた。
羽根田夫妻の事件現場を検証した多田たちは、近くで宇相吹が目撃されていることを知った。公園の事件でも宇相吹が目撃されており、しかも彼は野次馬に混じって姿を見せた。夜目が任意同行を求めると、宇相吹は淡々とした態度で承諾した。夜目が取調室での事情聴取を担当し、多田と百々瀬も同席した。宇相吹は複数の事件現場で目撃されていることを指摘されると、「僕がやりました。そう言えばいいですか」と下を向いたまま告げる。彼は「僕は、やってません」と言って顔を上げ、夜目に催眠術を掛けた。夜目は激しく狼狽し、男子高校生を取り調べた時のことを思い出した。
宇相吹の言葉で、夜目は右手に虫が入り込む幻覚を見た。宇相吹は「噛まれましたね、消毒しないと」と言い、夜目の手首を舐めた。彼が去った後、夜目の右手首は赤く腫れ上がっていた。多田は百々瀬から夜目が動揺していた理由を問われ、事情を説明する。夜目は電車で痴漢した河津村の息子を逮捕したが、彼は潔白を主張したまま留置所内で自殺していた。帰宅した夜目は宇相吹からの電話を受け、罪悪感に苛まれていることを指摘される。「貴方は今夜、死ぬ」と予告された彼女は、入浴中にカミソリで手首を切って自殺した。河津村は息子のことで夜目を密かに恨んでおり、宇相吹に殺害を依頼していた。彼は宇相吹の催眠術に落ち、多田たちの前で殺害依頼を自白してしまう。慌てて逃亡を図った彼は死んだ夜目の幻覚に襲われ、階段から転落死した。
デリヘル嬢の木村優は宇相吹に仕事を依頼し、彼と会って詳細を説明した。優が指名した標的は、疎遠になっている姉の夢原理沙だった。優が10歳の時に両親が離婚して、彼女は父親に引き取られた。父が抱えた借金のせいで、優は風俗で金を稼がざるを得なくなった。一方、母に大切に育てられた姉の理沙は人気ジュエリーデザイナーになり、来月には大病院の御曹司と結婚する予定になっていた。理沙を取り上げた雑誌の記事を見た優は、近況を正直に書いた手紙を送った。返事が来ないのでジュエリーショップへ行くと、気付いた理沙が完全に無視したため、優は強い憎しみを抱いたのだ。 宇相吹は理沙に接触し、「最も身近な人が、貴方の死を望んでいます」と告げて催眠術を掛けた。車を走らせた理沙は幻覚に見舞われ、トラックに激突する事故を起こした。多田はタケルの働く寿司屋へ行き、ビールを飲みながら食事を取る。多田は彼に、百々瀬が通っているラーメン店のことを話す。タケルが「ホントに僕、酷かったですからねえ」と軽く笑うと、先輩の櫻井俊雄が「来たよ、不良タケルの昔悪かった自慢」と嫌味っぽく告げた。
テレビのニュース番組では、江東区の公園で手製爆弾の爆発事件が起きたことが報じられていた。昨年12月にも三鷹市の神社で類似の事件が起きており、タケルは「テロか。こういうことって、ずっと続くんでしょうね」と口にした。悪酔いした多田は吐き気を催し、タクシーを途中で降りて道路脇へ行く。そこへ宇相吹が歩み寄り、目を見つめてからナイフで腹を突き刺した。多田がオモチャのナイフだと気付くと、彼は「稀にいるんですよ。貴方のように僕がコントロールできない未知の領域を持った、支配されない人間が」と語った。
宇相吹が「貴方なら、僕を殺せるかもしれませんね」と言うと、多田は「アンタの目的は何なの?」と質問する。「知りたいんです。人間の脆さと強さを。どっちが本当の人間らしい人間なのか」と宇相吹が答えると、多田は鋭い口調で批判した。宇相吹は「貴方は誰も救う必要が無い。どうせ貴方には救えない」と告げ、多田の「貴方を止めて見せる」という言葉に「では僕を殺して、僕の人生を終わらせてください。僕を止める方法は、それしかありません」と返す。彼は「その覚悟が出来たら、どうぞこちらに」と告げ、連絡先が書かれたカードを残して立ち去った。
理沙は事故で死んでおらず、婚約者の榊克明が勤務する病院に入院していた。多田は百々瀬を伴って事情聴取に出向き、宇相吹が理沙に接触していたことを知る。宇相吹のマインドコントロールが多田に効かない理由について、百々瀬は潜在的に思考が類似しているからではないかと述べた。病室で宇相吹の姿を見た理沙は、食事に毒が入っていると思い込む。多田は宇相吹を発見し、「早く僕を止めてください。止めないのは貴方ですよ」と挑発された。
理沙は克明が看護師の西冴子と抱き合っている幻覚を見てしまい、彼をメスで滅多刺しにした。優は宇相吹から報告を受け、「これからのあの女の人生が楽しみです」と喜ぶ。宇相吹は彼女に、理沙の車のダッシュボードに入っていた物を部屋に届けたことを告げる。行き付けのラーメン店で夕食を取っていた百々瀬は、恋人を怒鳴って殴り付ける男を取り押さえて説教する。店の外に1人の男が現れ、時限爆弾を入れた紙袋を置く。男が去った直後、大爆発が起きて百々瀬は意識不明の重体に陥った。
アパートに戻った優は、宇相吹が言っていた届け物の封筒を見つけた。封筒を開けると、結婚式の招待状と理沙の手紙が入っていた。手紙の中で理沙は優に謝罪し、自分の店で働いてもらうつもりだったことを書いていた。優は首を吊って自殺し、宇相吹は「愚かだねえ、人間は」と呟いた。多田は取調室にいる理沙の元へ行き、優が自殺したことを話す。彼女が押収した携帯電話の留守電を聞かせると、理沙が婚約者を殺すよう宇相吹に依頼したことを告白する優の遺言が残されていた。理沙は多田に、克明が浮気を繰り返していたこと、優を身内の恥だと見下して結婚式への招待も拒否していたことを話した。
多田は後輩刑事の若松亮平と共に、理沙を精神鑑定に連れて行く。理沙はショックが大きくて泣き出し、医師はベッドで休ませた。ロビーに出た多田は若松に、マインドコントロールの効かない自分が殺すしか宇相吹を止める方法は無いのかもしれないと話す。その会話を耳にした理沙は誰も見ていない好きに花瓶を割り、破片を凶器として忍ばせた。彼女は若松の首を破片で突き刺し、宇相吹の元へ連れて行くよう多田に要求する…。

監督は白石晃士、原作は『不能犯』(集英社『グランドジャンプ』連載 原作・宮月新/画・神崎裕)、脚本は山岡潤平&白石晃士、製作は岡田美穂&村田嘉邦&勝股英夫&水野英明&木下暢起&三宅容介&森川真行、エグゼクティブプロデューサーは吉條英希、企画・プロデュースは中畠義之&森川真行、プロデューサーは大畑利久&石塚清和、ラインプロデューサーは小泉朋、共同プロデューサーは宮城希&清家優輝、ラインプロデューサーは小泉朋、撮影は高木風太、照明は豊見山明長、録音は石貝洋、美術は中川理仁、編集は和田剛、音楽は富貴晴美。
主題歌『愚か者たち』作詞:松尾レミ/いしわたり淳治、作曲:GLIM SPANKY、編曲:亀本寛貴/亀田誠治。
出演は松坂桃李、沢尻エリカ、新田真剣佑、間宮祥太朗、小林稔侍、安田顕、矢田亜希子、芦名星、テット・ワダ、菅谷哲也、岡崎紗絵、真野恵里菜、忍成修吾、水上剣星、水上京香、今野浩喜、松澤匠、福山康平、笠松将、久保田秀敏、堀田茜、杉本なつみ(関西テレビアナウンサー)、大迫茂生、三村和義、アフロ後藤、中澤功、松元絵里花、大原康裕、加藤葵、細川佳央、清瀬やえこ、西山真来、久保山智夏、大塚加奈子、森田想、三浦透子、三味弥生、花奈美咲、黒田長政、瀬田ミナコ、神原明果、田中みのり、松竹史桜、山元雛乃、門倉智美、藤村玲衣ら。


宮月新&神崎裕による同名漫画を基にした作品。
監督は『カルト』『貞子vs伽椰子』の白石晃士。
脚本は『ピーチガール』の山岡潤平と白石晃士監督による共同。
宇相吹を松坂桃李、多田を沢尻エリカ、百々瀬を新田真剣佑、川端を間宮祥太朗、鳥森を小林稔侍、河津村を安田顕、夜目を矢田亜希子、理沙を芦名星、赤井をテット・ワダ、若松を菅谷哲也、前川を岡崎紗絵、優を真野恵里菜、健を忍成修吾、木島を水上剣星、桃香を水上京香、櫻井を今野浩喜が演じている。

木島が死ぬエピソードで宇相吹が登場した後、羽根田夫妻のエピソードに写る。
ここにも宇相吹が絡むので、関連性が無いわけではない。っていうか、ちゃんと「依頼を受けた宇相吹が仕事を遂行する」というエピソードを順番に並べているだけであり、何も変なことをやっているわけではない。
ただ、「1つの大きな物語が進行している」という印象が薄くて、1つのエピソードが終わる度に流れがブツブツと切れているように感じる。
あと、1つのエピソードに使える時間が充分とは言えないので、どうしても展開が慌ただしくなっているのよね。
羽根田夫妻のエピソードなんて、真相が発覚した直後に健がドラッグ仲間を殴り付け、桃香が「私の幸せ、取らないでよ」と包丁で殺すって、ゴールに向けて急にスピードを上げた印象が強いわ。

ワン・アイデアで勝負する短編映画向きの題材を幾つも盛り込んでいるってことなら、「オチに向けてサクサクと進めて行く」ということでも問題は無かったのかもしれない。
でも、そこまで「複数のスケッチを串刺し式に並べるオムニバス的な構成」として徹底しているわけでもないんだよね。
なので1つずつのエピソードを膨らませて、連続ドラマとして作る方が向いていたんじゃないかと思うぞ。
1つ1つのエピソードのオチも、それなりにデカいんだし。

あと、羽根田夫妻のエピソードに関しては、真相を隠すための方法が卑怯だと感じるぞ。
鳥森の健に対する態度は、「真実がバレないように怪しさ満点にしておく」という作為が下手な形で見えている。
もちろん、その時点で真相がバレたらマズいし、「何か裏があるな」ってことが先に匂わないような形の方が望ましいのは確かだよ。
ただ、それにしても、怪しさを無闇にアピールしすぎなのよ。真相が判明した時に、そこから逆算して「あの鳥森の態度は不自然だろ」と強く言いたくなっちゃうのよ。

宇相吹の殺害方法は「催眠術で相手を洗脳する」という方法で、その際には「赤く目が光って何かが相手の意識に入り込むイメージ映像が挿入される」という表現が用いられる。また、標的は幻覚を見ているが、周囲の人々には分からないという形になっている。
それを一応は映像で表現しているものの、インパクトは今一つ。ケレン味には欠けており、見せ場としての力は乏しい。
どうせ荒唐無稽な話なのだから、もっと標的が見る幻覚の方も、VFXで派手に飾り付けて良かったんじゃないか。
宇相吹が指定された標的を殺すシーンは何度も登場するんだから、そこに観客を引き付ける力が乏しいってのは、かなりのマイナスになるぞ。

宇相吹は法で裁かれない悪人、卑劣だったり残忍だったりする人間だけを標的にして、殺害を遂行しているわけではない。それが誤解から来る依頼や、愚かしい嫉妬心や私欲による依頼であっても、引き受けて標的を始末している。
だから、「正義の私刑執行人」というわけではない。なので当然のことながら、彼の殺人行為はカタルシスを味わえるようなモノではない。
たぶん多くの人が、藤子不二雄A先生の漫画『笑ゥせぇるすまん』を連想するだろう。
あの漫画からダーク・コメディーの方向性を完全に排除したような作風だ。

でも、『笑ゥせぇるすまん』って「毒々しい笑い」で味付けしていたから面白かったわけで。それを徹底してシリアスに描いたら、たぶん一気に面白味は落ちるだろう。
ってことは、この映画もそういうことになっちゃうのよね。
じゃあ「ダークな笑い」の代わりに観客を引き付ける他の要素があるのかというと、それが見当たらない。残酷描写で飾り付けているわけでもないし、暴力性を強めている様子も無いし。
あえて言うなら、「松坂桃李に頑張ってもらう」ってことぐらいだろう。

っていうかさ、この映画ってPG-12指定映画を目指して作っているらしいんだよね。
この内容で、その目標を掲げている時点で、成功する可能性って難しくないか。
そもそも「催眠術で標的を死に至らしめる」という宇相吹の手口が荒唐無稽極まりなくて、催眠術の本質を考えた時に「現実的には絶対に不可能」と感じるような方法だ。
でも、だからダメってことじゃなくて、それならそれで荒唐無稽な方向へ振り切っちゃった方がいいんじゃないかと思うのだ。

「女刑事が不能犯を捕まえるために奔走するが、周囲の人間が次々と犠牲になっていく」という大きな筋があるのだが、それを考えた時に、果たして本作品に持ち込んでいるエピソードの全ては本当に必要だったのかと疑問を抱いてしまう。
宇相吹のキャラクターや犯行方法を紹介するためのエピソードは必要だが、それが終わった後は、もっと「多田の周囲の面々が事件に関わる」とか、「多田が宇相吹との距離を詰めて行く」とか、そういうトコに集中した方がいいんじゃないかと思うのよね。
この映画だと、木島の事件の段階で、多田は宇相吹の存在を確認し、「以前にも同様の事件があった」と感じている。なので、羽根田夫妻の事件の必要性は乏しい。
そのエピソードがオチを迎えてから多田が関わる形だと、タイミングとして遅いんだよね。

羽根田夫妻の事件が起きて宇相吹が任意同行に応じると、夜目が標的となる殺人が起きる。それに関連して、依頼主だった河津村も催眠術に落ちて死亡する。
ここまで多田に近い距離にいた面々が2人も立て続けに死んだのだから、もう「多田が宇相吹を逮捕するため躍起になって」という段階へ移行すべきだろう。
ところが、この後に優と理沙のエピソードが入って来る。
この2人は多田と何の関係も無いので、「また後ろへ下がって、やり直しかよ」と感じてしまうのだ。

それだけでも迂回していると感じるのに、さらにタケルが絡むエピソードも後には待っていて、「いや要らんよ」と心底から言いたくなる。
タケルのエピソードに関しては、多田との距離は近いよ。でも、ここに関しては距離とか関係なしに、単純に「無理に詰め込み過ぎなだけで邪魔」と感じるだけ。
しかも、このエピソードって、優と理沙のエピソードがオチを迎える前に「ラーメン店で爆発が起きて百々瀬が犠牲になる」と手順を挟むのよね。
いやいや、せめて優のエピソードを片付けからにすべきでしょ。

理沙は優に気付いたのに無視して奥へ引っ込んだ理由について、「離れ離れになってからの優のことを受け止められなかったから」と釈明している。
だけど、これは相当の無理を感じるぞ。克明が優を侮蔑していたことが明らかになるけど、「だったら理沙も優を避けようとするよね」と納得できるモノではないぞ。
幾ら婚約者が拒絶する態度を取っていたとしても、優の方から訪ねて来たら、迎え入れるのが普通じゃないかと。
先に用意した段取りに対して、それを成立させるための作業が下手すぎるわ。

このエピソードでは、多田の言動にも不自然さが多い。
まず、優が自殺したことを理沙に話しているのが、軽率な対応にしか思えない。
さらに軽率なのは、精神鑑定に連れて行った時、「これは要らないでしょう」と拘束を解いてしまうこと。
ただでさえ憔悴しているトコへ優の自殺や犯行依頼を聞かされて、マトモな精神状態じゃいられないのは誰の目にも明らかなわけで。それなのに平気で隙を見せまくっているから、同僚が殺される羽目になっちゃうのよ。

ただ、理沙の行動もメチャクチャなんだよな。
彼女の目的は多田に宇相吹の所へ案内させることであって、若松は脅しの道具に過ぎない。だから、首を切って瀕死の状態に追い込む必要性は全く無いのよ。
彼女の狙いは宇相吹を始末する、もしくは殺人罪に追い込むことであり、そこには「優の気持ちを繋ぐ」という思いがある。そして彼女は自らの命を捨ててまで、宇相吹を逮捕に追い込む。
でも、そんな命懸けの行為も、「そのために若松を死なせている」ということがあるので、「酷い女」にしか見えなくなっちゃうのよ。

多田は理沙を宇相吹の元へ案内すると、彼を殺すよう要求される。でも若松が人質になっているのに、多田は宇相吹を殺せない。そこで理沙は自殺して凶器を宇相吹に握らせ、殺人の罪を被せようとする。
でも死の間際に「優と私の気持ちを繋いで」と頼まれた多田は、理沙の策略を全て暴露する。だから宇相吹は、あっさりと釈放される。
若松が死んだのは多田のせいだし、理沙も「無駄死に」に追い込まれるわけだ。
多田という女が、クソにしか見えなくなっている。
本人なりに苦悩している様子は見せるし、刑事だから人は殺せないとか色々と事情はあるんだけど、これっぽっちも同情は出来ない。

そんなエピソードの後、タケルが全く更生しておらず、爆弾魔として活動していたことが判明する。彼は多田に2つの携帯電話を見せて、片方が百々瀬の病室、もう片方が幼稚園の起爆スイッチになっていることを説明する。
勝ち誇るタケルに対し、多田は「信じて裏切られて、信じて裏切られて、その繰り返しを私は死ぬまで続けるの」と強気な態度で言い放つ。
でも、その事態を解決する策を持っているのかというと、何も無いのだ。そこへ依頼を受けた宇相吹が来て、タケルの動きを止めたり、殺したりしてくれるのだ。
一応、多田も病室の爆弾を屋上へ運んだりしているけど、ほぼ役立たずと言ってもいい。

(観賞日:2019年4月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会