『ファイナルファンタジー』:2001、日本&アメリカ

2065年12月13日、科学者アキ・ロスは、別の惑星で地球外生命体と遭遇する夢を毎晩見ていた。地球に謎の生命体“ファントム”が襲来 してから34年、生き残った人々は恐怖に怯えながらバリアシティーで暮らしている。アキは、自分の夢が人類を救う鍵になると確信する。 彼女は廃墟と化した旧ニューヨークへ降り立ち、立ち入り禁止区域へ足を踏み入れる。
複数の兵士に取り囲まれたアキは、近くに生命体がいると告げる。ファントムが迫る中、アキは雑草を採取した。アキは兵士たちの輸送機に 乗り、その場から脱出した。兵士の1人がヘルメットを脱ぐと、アキとは旧知の仲であるグレイだった。彼はライアン、ニール、ジェーン といった面々が所属する一団“ディープ・アイズ”のキャプテンだった。
第42バリアシティー・ニューヨークに戻った一行はスキャンを受けるが、グレイがファントムとの接触で病原体に侵食されていることが 判明した。アキは急いでグレイの体を調べ、処置を施した。アキは生命反応センターのシド博士の元へ行き、採取した雑草を渡す。それは シド博士が探している8つのスピリットの内、6つ目に当たるものだ。
シド博士は20年前、ファントム内にエネルギーを発見し、同じエネルギーが全ての生物に含まれていることを証明した。博士はガイアから 生まれた者は全てスピリットを持つというガイア理論を唱えている。今までに5つのスピリットを採取し、残り3つをアキが探している。 だが、博士の提唱するガイア理論は異端であり、快く思わない人々は評議会や軍に大勢いる。
ヘイン将軍は、35年前に落下したファントムの巣“レオニド隕石”をゼウス砲で攻撃するよう評議会に主張する。評議会から意見を 求められたシド博士は、ゼウス砲のレーザーを使うと地球のスピリットを傷付けると反対する。ガイア理論を嘲笑うヘインに対し、アキは ファントムを無力化する方法があると告げる。
シドが考えたファントムを無力化する方法とは、正反対のエネルギーパターンを持つ融和波動を作ることだった。アキはヘインや評議会に 対し、融和波動は未完成ながらも、既にファントム成分を末期ガン患者の体内に安全に閉じ込めることは出来ていると語る。そして証拠と して、その末期ガン患者が自分であることを明かした。評議会は、ゼウス砲の使用を延期した。
ヘインと部下のエリオット少佐はグレイを呼び出し、特別任務としてツーソンのウェイスト・ランドへ行くアキの警護を担当するよう指示 された。さらにヘインは、ファントム成分を抱えるアキが怪しい行動を取った場合、直ちに報告するよう命じた。しかしヘインはグレイを 完全には信用しておらず、見張りを付けるようエリオットに命じた。
アキは7つ目のスピリットを探すため、ディープ・アイズと共にウェイスト・ランドへ向かった。アキは死体のオボパックに生命反応を キャッチし、7つ目のスピリットを採取した。そこへ巨大なファントムが出現するが、逃げようとしたアキは胸を押さえて倒れてしまう。 グレイはアキを抱え、輸送機に乗り込んだ。見張り役はアキを拘束しようとするが、グレイに阻止された。
グレイはシドから、アキが死に掛けていると告げられる。アキを救うには、7つ目のスピリットを胸のプレートに入れなければならない。 だが、プレートは破損しており、修理する必要があった。エドは麻酔で睡眠状態に入り、アキの夢に入り込んで彼女を死の淵から救出した。 しかしシドはグレイに、アキを完治させるには8つ目のスピリットが必要だと告げる。
目を覚ましたアキは、夢の意味、そしてファントムが何なのかが分かったと口にする。その直後、アキたちはヘインの部下によって拘束 された。ヘインはバリア制御センターを指揮下に置き、セクター31のバリアーを故意に低下させる。ファントムを侵入させることで、 評議会にゼウス砲の使用を容認させようという企みだ。しかしヘインが予想しなかった巨大なファントムが侵入し、大勢の犠牲者が出た。 一方、アキはグレイたちに、隕石は惑星が破壊された時に生じた破片であり、ファントムは亡霊だと語る…。

監督&原案は坂口博信、共同監督&撮影は榊原幹典、脚本はアル・レイナート&ジェフ・ヴィンター、製作は坂口博信&会田純&クリス・ リー、製作協力は豊田克彦、編集はクリストファー・S・キャップ、美術はマウロ・ボルレリ、オリジナル・キャラクター・デザイナーは 村瀬修功、クリーチャー・デザイナーは韮澤靖、音楽はエリオット・ゴールデンサル、音楽監修はリチャード・ルドルフ。
声の出演はミンナ・ウェン、アレック・ボールドウィン、ヴィング・レイムス、スティーヴ・ブシェーミ、ペリ・ギルピン、ドナルド・ サザーランド、ジェームズ・ウッズ、キース・デヴィッド、ジーン・シモンズ、マット・マッケンジー他。


世界中で大ヒットした人気TVゲーム『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親である坂口博信が監督&原案&製作を務めた作品。
ハワイに専門のスタジオを設置し、世界22ヶ国から160人を超えるスタッフが集結して作り上げた全編フルCGの映画だ。
約160億円の製作費が投じられた本作品は興行的に大コケし(全米での興行収入はわずか3200万ドル)、130億円の損失を出してヤバいことになった スクウェアはエニックスと合併するハメになった。

この映画のスタッフにとって重要なのは、いかに質の高いCGを作るのかということであり、映画としての質はどうでも良かったのだろう。
だから、冒頭から世界観設定もキャラクター設定もボンヤリしたまま話を進める。
スタッフにとっての「CGの質」というのは1枚の絵としての質であり、アニメーションとしての質ではない。
序盤に出てくる旧ニューヨークでのアクションシーンでも、どこからどこへ向かって、どんな風にキャラが動いているのかはサッパリ分からない。
ようするにキャラの髪の毛1本1本を描くとか、そういう細かい部分に神経は使っても、「動画」に対する意識は乏しいのだ。
アクションシーンのカット割りがなってないものだから、緊迫感も迫力も全く無い。

この作品は、多額の予算を掛けた壮大な実験である。
ところが製作サイドには、これが儲けの期待できない実験的作品だという覚悟が足りなかった。
だから、まるで娯楽映画であるかのようにPRし、商業映画として大々的に世界公開してしたのだ。
予想外の莫大な損失が出て焦ったらしいが、こんな作品で儲けが出ると思っていた神経を疑ってしまう。
それはミニマル・ミュージックのコンサートを東京ドームで開いて大儲けしようと考えるのと同じぐらい、的外れな考えだ。

ガイアやらスピリットやらといった小難しい用語やセリフを並べ立てているのは、きっと重厚な本格SFとしての方向性を強く打ち出そうとしているのだろう。
フルCG版の『2001年宇宙の旅』っぽい評価でも狙っているのかと思ったが、結局は風呂敷を広げる途中で放棄している。
そうそう、後半になってアキが「ファントムは亡霊よ」と言い出すシーンには失笑した。
最初から「ファントム(亡霊)」って名付けているのに、今さら「亡霊よ」とか言われてもさ。
ファントムって、そういう意味で名付けたんじゃないのかよ。

前述したように髪の毛1本1本という細かい部分にまで神経を使っているため(しかし見た目では全く分からず、見事に苦労は報われて いない)、人間キャラクターを描くには相当の手間が掛かる。
だから主要キャラクターは必要最低限に絞り込んでおり、いわゆるエキストラは登場しない。
バリアシティーに住む大勢の人々がファントムに襲われるとか、大勢の軍隊がファントムに立ち向かうとか、そういうモブシーンは一切出てこない。
エキストラが出せないという犠牲を払ってまでも1人1人の人間キャラをリアルに描くことに固執しているが、どれだけCGの人間キャラ をリアルに突き詰めても、それが生身の俳優の仕事を脅かすことは、もうしばらくは無いだろうと本作品を見て確信した。
なぜなら、ここに登場するCGの人間キャラクターは、揃いも揃って大根役者だからだ。
本作品の人間キャラクターは、わずかな目や口元や頬の動き、細かい仕草によって感情を表現する能力が全く無い。
表情の変化に乏しく、せいぜい演技力はスティーヴン・セガールに届く程度だろう。
例えばピクサーが製作するアニメーションに登場する、誇張して描かれた人間キャラクターの方が、この映画のリアル志向のキャラよりも遥かに演技力が高い。

この作品で何よりも落胆させられるのは、坂口博信が自分の生み出した『ファイナルファンタジー』というゲームに対して、何の愛情も 思い入れも無いことが明らかになったことだ。
自己満足で実験的フィルムを製作するなら、どうぞ勝手にやればいい。
だが、そこに『ファイナルファンタジー』という名前を付ける以上、ゲームのファンを裏切るような真似はしてはならないはずだ。
ところが、この作品にはゲームで御馴染みのチョコボも召喚獣も登場しない。
パーティーを組んで冒険をすることも無い。
それどころか、剣と魔法による世界観ではなく、完全に近未来のSFにしてしまった。
ついでに言うと、ゲームシリーズで音楽を担当している植松伸夫も参加していない。
もはや『ファイナルファンタジー』でも何でもない。
ある意味、『ファイナルファンタジー』という名前を利用した、大掛かりな詐欺である。


第24回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪な総収益1億ドル以上の作品の脚本】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会