『仏陀再誕』:2009、日本

桜岡女子学園に通う天河小夜子は、授業中に居眠りしていた。彼女は真っ暗な闇の中から走って来た電車にひかれる夢を見たが、社会科教師の山田先生に頭を叩かれ、目を覚ました。昼休み、新人部員の小夜子は部室へ行き、その日が締め切りの原稿を執筆する。彼女は憧れの女優・木村真理を取り上げた記事を書いた。帰宅した彼女は記事を完成させ、パソコンで原稿を送信して思い切り背伸びした。
翌朝、目を覚まして食卓へ赴いた小夜子は、新聞記者の金本得三が電車にはねられて死亡したというテレビのニュースを見た。金本は湾岸開発工事を巡る贈収賄疑惑事件を告発する記事を執筆し、入札した会社から名誉棄損で訴えられていた。金本は小夜子の父・一平の友人であり、小夜子にとって憧れの存在だった。登校した彼女は、新聞部の仲間である里奈、麻美、かおりから、大学生の彼氏について茶化される。恥ずかしがった小夜子だが、麻美の背後に出現した人影が「調子に乗るんじゃないよ。なんでアンタにだけ彼氏が出来て、私には出来ないのよ」と言うのを目にする。小夜子が驚いていると、すぐに人影は消えた。
小夜子がアウシュビッツに関する授業を受けていると、教科書から「死にたくない」というユダヤ人たちの苦しむ声が聞こえてきた。気分が悪くなった彼女は、保健室で休むことにした。ベッドで横になっていると、体が動かなくなった。心の中で必死に叫ぶと、何とか体を動かすことが出来た。小夜子は慌てて飛び起き、保健室から逃げ出した。駅に到着した小夜子は、苦しんでいる金本の幽霊を目にした。金本は小夜子に助けを求め、線路に引っ張り込もうとした。その時、ホームに列車が入って来た。
気が付くと小夜子は、裁判所の傍聴席にいた。裁判長から自殺しようと思った理由を問われた金本は、政治家の巨悪を暴こうとしたのにガセネタを掴まされたことを、強い怒りを込めて話した。裁判長に「だからと言って、神から与えられた人生を無駄にしても良かったというのですか」と質問された金本は、「神など弱い人間たちの想像だ。自分の人生をどうしようが、私の勝手だろう」と言う。
あの世や神の存在を信じない金本に、裁判長は「貴方は死んだんですよ」と告げる。自分が死んだことを認めようとしない金本に、裁判官の一人は「また唯物論か。仏陀が再誕されてるい時代だというのに、つくづく困ったものだ」と呆れる。裁判長は「与えられた人生を無駄にした罰は、自らが償うしか無い」と告げて木槌を鳴らした。金本は突如として出現した穴に吸い込まれ、姿を消してしまった。
小夜子は恋人である大学生の海原勇気に助けられ、電車にひかれずに済んだ。小夜子は自殺を図ったと誤解している彼に、線路に人がいるのが見えたことを話す。海原は彼女に、金本が自殺した現場がそのホームであることを教えた。金本の幽霊を見たことを悟って困惑する小夜子に、海原は「そもそも人間というのは、死んでも死なないんだ」と言い、転生輪廻の概念を説明した。さらに彼は、金本が悪霊より始末の悪い自殺霊であり、天国へも地獄へも行けずに他人を巻きこんだりするのだと語った。
海原は力になろうとするか、小夜子は「肝心な時には子供扱いして何も教えてくれない。干渉しないで」と反発し、その場を去った。その夜、テレビのニュースでは、各地でUFOが目撃されている出来事が報じられている。小夜子の弟・瞬太がチャンネルを変えると、現代の仏陀と呼ばれている操念会の会長・荒井東作が出演するトーク番組が放送されていた。「混沌の時代には全てを解決できる強力な力を持つ指導者が必要」と荒井が語った直後、地震が発生した。スタジオでは照明装置が落下し、司会者の頭に激突しそうになる。しかし荒井が念力を使って照明装置を停止させ、司会者を助けた。荒井が「見込まれているみたいですよ」と告げると、小夜子は司会者の背後に複数の悪霊が憑いているのを目にした。
翌日、新聞部では話題となった操念会の特集を組むことになり、小夜子は取材を買って出た。海原からのメールが来たので、小夜子は「ご心配なく!!今から操念会に取材です。霊視も治してもらえるかも」と返した。海原は「あのバカ」と電話を掛けるが、通話中だった。小夜子は一緒に取材するはずの里奈にドタキャンされ、1人で操念会総本部へ行くことになる。海原から「そこは危険だ。行くな」というメールが入るが、小夜子は無視した。総本部へ入って行く小夜子を、記者気取りの瞬太が尾行していた。
小夜子が総本部に入ると、ちょうど荒井の説法が始まるところだった。荒井は会場に集まった大勢の人々に対して、「この世は弱肉強食。どのような綺麗事を並べ立てようとも、結局は己自身の強さが無ければ生き残れないのか。弱さそのものが罪なのだ。私に従うのです。さすれば偉大なる霊能力が、貴方がたを恐怖に満ちた世界から救うことになるであろう」と熱弁した。総本部に到着した海原は会場に入り、小夜子の腕を掴んで「説明は後だ。ここから出るぞ」と言う。操念会の連中が「無駄な抵抗は止めろ」と取り囲むが、海原が「TSIのメンバーが外で待ってる」と言うとたじろいだ。
会場を出た後、海原は「今、お前があんな所にいったらどんな目に遭うか考えなかったのか」と小夜子を叱責した。「ただ話を聞きに言っただけじゃないの。だってあの人、テレビで仏陀の再来だって言うから」と小夜子が反論すると、海原は「あんな男が仏陀の再来なわけないだろ。ホントの仏陀は今」と言い掛け、途中で口をつぐんだ。小夜子が肝心なことを話そうとしない海原を責めていると、それをを見ていた瞬太に悪霊が入り込んだ。彼は急に高熱を出し、その場に倒れた。
小夜子と海原は、一平が院長を務める病院へ瞬太を運び込んだ。瞬太の具合は悪くなる一方だが、原因は不明だった。小夜子は一平に、瞬太には「霊が取り憑いてるの。私が操念会に行ったからなの」と告げる。しかし一平は全く信じず、「変な宗教にかぶれてるんじゃないだろうな。パパは非科学的なことは大嫌いなんだ」と冷たく言う。翌日、小夜子が弟の見舞いに行くと、病院は幽霊だらけだった。
病院にオーストラリアからの留学生であるハリー・バドソンが現れ、小夜子に軽い調子で挨拶した。ハリーは真理と一緒だった。2人とも小夜子のことを知っていた。真理とハリーを連れて来たのは海原だった。真理は小夜子に「荒井は恐ろしい男よ。瞬太君の病気、あれは間違いなく荒井の手口ね」と言う。真理が「私たち、TSIのメンバーなの。TSIは仏陀の教えを広めている」と語った。さらに彼女は「荒井の呪いは簡単には取れない。でも空野先生ならきっと」と口にする。海原は空野のことを「再誕の仏陀だよ」と説明した。
真理は小夜子に、売れない頃に荒井と出会って信奉者となったこと、しかし周囲が愛想を尽かして離れて行ったこと、縁を切ろうとしたら荒井から「地獄に落ちるぞ」と脅されたこと、自分を見失い掛けていた時にTSIの主催者である空野太陽と出会ったこと、彼の教えに感銘を受けたことを話した。空野は海原たちに連れられて病院を訪れ、瞬太に憑依した悪霊をハリーの体に移動させる。空野の説得を受けた悪霊は瞬太から離れることに同意し、「だが気を付けることだな。あの御方の計画は既に動き出しているのだからな」と告げた。
空野は能力を使い、悪霊をハリーの体から退散させた。一平が動揺していると、空野は彼が癌を患っていることを指摘した。まだ家族にも打ち明けていなかった事実を、一平は認めた。余命半年であることを家族に明かした彼は、「死ねば何もかも失ってしまうだけだ。だから死など恐れることは無いと自分に言い聞かせて来た。だが、本当は怖い。死にたくないんだ」と泣き出した。すると空野は「死後の世界がありますよ。病気を治すには、まず心を正すことです」などと説いた。
小夜子は空野に、「どうして霊なんて見えるようになったんでしょうか」と質問する。空野は「今、君に見えている物が、世界の本当の姿なんだよ」と答える。「でも、なんで私が?」と小夜子が言うと、「きっと君には、使命があるんだよ。真実を世に伝えるという、大事な使命がね」と空野は述べた。一方、操念会は着々と計画を進めていた。荒井は「人間とは本来、力と恐怖が無ければ統制できない生き物なのだ。結局は自分が可愛い、薄汚い生き物でしかないのだ」と考えていた。
小夜子と海原は、すっかり元気になった瞬太を連れて夏祭りに出掛けた。小夜子が何かを感じた直後、上空に無数のUFOが出現し、地球を攻撃して来た。人々が逃げ惑う中、小夜子の体は光に包まれた。彼女は空から舞い降りた蓮の花のパワーを使い、UFOを撃退した。翌日、番組でUFO事件が取り上げられ、荒井の部下である駒山が出演して「昨日のUFOは荒井会長が霊能力で撃退したのです」と話す。だが、小夜子がUFOを撃退する様子を撮影した動画が番組で紹介され、その証言は覆された。
後日、小夜子は海原に誘われ、TSIのセミナーに参加した。空野の説法に、参加者は聞き入った。小夜子が帰宅しようとすると、家の周囲はマスコミで一杯だった。小夜子がUFOを撃退したことがテレビやネットで広まり、お祭り騒ぎになっていることを瞬太は彼女に教える。真理は小夜子に電話を掛け、「この騒ぎ、根が深そうな気がするの」と言う。どうすれば良いか相談する小夜子に、彼女は「ありのままを話した方がいい。こっちに来て記者会見するのよ」とテレビ局へ来るよう促した。
小夜子は海原の運転する車に乗り、大和テレビへ向かう。一方、操念会はNBK放送を制圧し、民放各局を電波ジャックする。荒井はテレビに出演し、日本国民に「これから10分後に巨大な津波が押し寄せます。国民の大多数が命を落とすことになるでしょう」と予言する。全く信じない者もいたが、実際に大津波の予兆が訪れた。荒井は「この津波は日本列島を飲み込む規模です。もはや避難は出来ません。しかし、助かる方法が一つだけあります。この荒井東作に従うことです。私の持つ霊能力を持ってして、津波を押し返します。助かりたくば、私の前にひれ伏すのです」と述べた…。

監督は石山タカ明(石山貴明)、原作は『仏陀再誕 The REBIRTH of BUDDHA』、原案は大川隆法、企画・脚本は大川宏洋、総合プロデューサーは小田正鏡&九鬼一、プロデューサーは鵜丹谷明&伊藤徳彦、キャラクターデザインは佐藤陵&須田正己、絵コンテは石山タカ明、総作画監督は佐藤陵&須田正己、美術監督は佐藤勝、視覚効果監督はYumiko Awaya(粟屋友美子)、視覚効果監修はオリヴァー・ホッツ、色彩設計は渡辺亜紀、撮影監督は伊藤正弘、編集は古川雅士、音響監督は宇井孝司、アニメーション・プロデューサーは藤田健、音楽は水澤有一。
メインテーマソング「悟りにチャレンジ」作詞:大川隆法(指導:ゴータマ・シッダールタ)、作曲:水澤有一、歌:ウ・ソンミン。
声の出演は子安武人、銀河万丈、小清水亜美、吉野裕行、三木眞一郎、千葉繁、白石涼子、三石琴乃、置鮎龍太郎、掛川裕彦、伊藤美紀、島本須美、雪野五月、大本眞基子、青山桐子、柳井久代、真山亜子、安元洋貴、西村知道ら。


幸福の科学グループ創始者兼総裁・大川隆法による同名の書籍を基にしたアニメーション映画。
幸福の科学出版が製作した6作目の劇場用作品。
エル・カンターレ3部作のアニメーション・ディレクターだった石山タカ明(石山貴明)が監督を務めている。
空野の声を子安武人、荒井を銀河万丈、小夜子を小清水亜美、海原を吉野裕行、荒井に憑依している僧侶・覚念を三木眞一郎、駒山を千葉繁、瞬太を白石涼子、真理を三石琴乃、ハリーを置鮎龍太郎が担当している。

エル・カンターレ3部作が終わっても、どうやら「アニメを使えば多くの人々に幸福の科学を知らしめる宣伝効果は絶大だ」という考えは全く揺るがなかったようで(っていうか、むしろ確信が増したのかもしれない)、またアニメーション映画である。
子安武人や小清水亜美といった人気声優を起用し、オタク層に幸福の科学を浸透させようという狙いも相変わらずだ。
っていうか、実はアニメ映画を作るのって、単純に大川隆法の長男である大川宏洋(企画&脚本担当)の趣味なんじゃないかと思ったりもするんだけどね。
だとしたら、そういうセンス、個人的には嫌いじゃないよ。

幸福の科学の信者を除くと、この映画を観賞する大半の人々は、「どれだけトンデモ度数の高い内容になっているか」「どれだれキテレツな展開が待ち受けているか」ということに強い関心を抱くのではないだろうか。
そして本作品は、そういった人々の期待を裏切らない。
そもそも細かいことを言っちゃうと、タイトルからして「さすがは幸福の科学」と感じさせるものだ。
私は宗教に詳しいわけではないから、間違っていたら謝るしかないが、仏陀(基本的に釈迦のことを指しており、この映画でも、そういう解釈のようだ)ってのは再誕する存在ではなく、再誕している時点で仏陀じゃないと思うんだが。

山田先生は社会科の授業で釈迦について詳しく説明しているが、たぶん高校の歴史の授業で釈迦について詳しく教える学校って、そんなに多くないと思う。
しかも、教科書では少なくとも2ページが釈迦の解説に費やされており、四法印や八正道の説明まで書かれている。ワシ、学校でそこまで詳しく釈迦について学んだ記憶が無いんだが。
ひょっとすると、桜岡女子学園は仏教系の学校なのかもしれない。
あるいは、ワシが知らない間に、全国の高校で釈迦について詳しく教えるように授業内容が変わったのかも。

小夜子は憧れの金本が死んだと知って、ショックを受ける。登校した彼女が部室に入ると、沈んだ表情を浮かべている。
さぞショックが大きいのだろうと思っていたら、里奈たちに「彼氏のことでも考えてたな」「例の大学生の彼氏?もう復活?」などと軽くからかわれると、途端に頬を赤らめて「そんなんじゃないって言ってるでしょ」と恥ずかしがる。
どうやら金本が死んだことに対するショックは、あっという間に消え去ったらしい。
若い娘は切り替えが早いのね。

金本は電車にはねられて死んだということになっているが、贈収賄疑惑事件で大手企業の告発記事を書いており、きっと自殺に見せ掛けて殺されたという設定なのだろうと思っていたら、なんとホントに自殺したのだった。
その理由が「治家の巨悪を暴こうとしたのにガセネタを掴まされた。新聞記者として築いてきた地位や名誉も全て失ったから、楽になりたかった」というもの。
メチャクチャだな。
それと、そんなことぐらいで死ぬような弱い奴が、裁判官からの質問に対して、すげえ偉そうに答えるってのは、キャラが一致しないわ。

金本は神や仏を信じておらず、神や仏を冒涜するような記事ばかり書いていたということで、霊界の裁判官は地獄行きを決定する。
つまり、金本が死ぬエピソードは、「神や仏を信じない者、冒涜する者は地獄に落ちる」ということを描きたいがために持ち込まれたものだ。
そういうことを描くためのエピソードとしては、あまりにも内容が無理矢理。
それを描くのに、贈収賄疑惑事件の告発記事を書いたとか、政治家にカゼネタを掴まされたとか、そんなの全く必要が無いでしょ。

「神や仏を冒涜するような記事ばかり書いていた」というのは台詞でしか説明されないが、「そういう記事を書いている」ってのを物語の中で具体的に示した方がいいでしょうに。
なぜ描きたい内容と上手く合致しないような事件を金本が書いている設定にしたのかというと、幸福の科学が民主党を敵視していたからだ。
だから永田寿康議員(当時)の偽メール事件をモデルにしたエピソードにしたわけだ。

あと、そこで裁判長が金本を完全に見放して、地獄行きを宣告したのかと思っていたのだが、その後で海原が「金本は悪霊より始末の悪い自殺霊であり、天国へも地獄へも行けずに他人を巻きこんだりする」と説明している。
ってことは、穴に消えたのは地獄へ行ったわけじゃなくて、駅のホームに戻されたってことなのかよ。
だったら、あの世の裁判官はタチが悪いぜ。
さっさと地獄へ送って、生きている他の人間の邪魔をさせないようにしてくれよ。

小夜子を駅で助けるのは大学生の海原勇気。「たまたま駅にいて事件を目撃し、彼女を助ける」という通りすがりの男なのかと思ったら、なんと小夜子の恋人という設定。
恋人が偶然にも駅にいたという、とても都合のいい展開である。
ただ、それよりも問題なのは、「2人が恋人同士ということが、なかなか分からない」ってことだ。
駅からカフェに移動し、しばらく会話シーンが続くのだが、2人が知り合いであることを観客に提示するための台詞が、なかなか出て来ないのだ。

操念会総本部へ乗り込んだ海原は、取り囲まれると「やめとけ。TSIのメンバーが外で待ってる」と言う。
それで操念会の連中が途端にビビるのだから、脅し文句になっているってことだ。
でも冷静に考えると、「宗教団体のメンバーが外で待っている」と言うのが脅し文句になるって、凄いことだよな。
例えば「日蓮宗のメンバーが待ってる」とか、「真言宗のメンバーが待ってる」と言われても、脅し文句としては成立しないでしょ。
それがTSIだったら脅し文句になるんだから、かなりヤバい団体ってことだろ。

空野は一平が癌を患っていることを指摘し、余命半年で弱気になっている彼に「病気を治すには、まず心を正すことです。貴方は人を救いたいと願って、その仕事を始めましたね。けれども本当に人を救いたいのなら、人間とは何かを知らなければならなかったのです。自分を許してあげなさい。この世でどんなに優秀であったとしても、あの世を知らなければ無力なんですよ。自殺して苦しんでいる貴方の友人のように。貴方は自分の人生を悔いていますね。苦境の中にこそ魂を成長させる物があるのです。貴方は今、魂を鍛えているのです」などと語る。
こうやって一平は、すっかり空野に取り込まれる。
弱っている人間に近付いて信奉者にさせるというのは、カルト宗教が良くやる、あくどい手口である。
それをやっているのは、本作品で「正義の見方」として描かれるTSIの主催者だ。
つまり幸福の科学は、それが「正しい行動」だと思い込んでいるわけだね。
確信犯(故意犯って意味じゃないよ)ってのは、ホントに怖いねえ。

小夜子がTSIのセミナーに参加すると、そこからは空野の説法がしばらく続く。彼が参加者に語り掛けていると、後光が差し始める。聴衆はすっかり引き込まれ、もちろん小夜子も完全に空野の信奉者となっている。
その説法は6分ほど続き、信者でなければ単に退屈なだけの時間となる。校長の挨拶とか、来賓の挨拶とか、そういうのと似たようなモンだ。
幸福の科学としては、もちろん「大川総裁の分身である空野の有り難い教え」として説法シーンを描いているわけだが、ワシのように地獄行き超特急に乗っている人間からすると、荒井の説法と大差が無いように思えてしまう。
どっちも「胡散臭い」という意味では変わらないのでね。

テレビ局を電波ジャックした荒井は、日本国民に対して「日本列島を飲み込む規模が津波が来るよ。でも僕チンに従えば助かるよ。霊能力で津波を押し返してあげるよ。助かりたかったら、ひれ伏してね」と呼び掛ける(そんな言い方はしてねえよ)。
でも、どうやって全国民が降伏したことを確認するのか、その方法は不明だ。
「みんながひれ伏した」と勝手に決めて津波を押し返すしか無いようにも思えるぞ。
っていうか、津波を押し返さなかったら、テメエも死んじゃうし。

そんな風に思っていたら、「津波は幻覚でした」という種明かしが用意されている。
まあUFO騒動があったので何となく予想はしていたけど、「実は幻覚」ってことにするぐらいなら、ホントの津波を荒井がマッチポンプのために巻き起こしたという設定の方が、前述した「どうやって日本国民の意志を確認するのか」というツッコミ所が付いて来るにしても、まだ遥かにマシだ。
しかも、「荒井の映像を見た人間は津波の幻覚を見せられている」ってことが明かされるが、じゃあ荒井がテレビ画面に写っていない中で起きたUFO騒動は、どんな原理で起きていたのかと。
あれも荒井が作り出した幻覚のはずじゃないのか。

海原と真理が空野から預かったメッセージを日本中に伝えるべくスタジオへ向かうと、操念会の連中が立ちはだかる。
このシーンで、操念会総本部の時に海原から「やめとけ。TSIのメンバーが外で待ってる」と言われた操念会の連中が途端にビビっていた理由が明らかになる。
操念会の連中に襲われた海原と真理は、簡単に叩きのめしてしまうのだ。
なんと2人とも、優れた格闘能力の持ち主だったのだ。
やっぱり、ただの宗教組織じゃなかったのね。実は武闘派集団だったのね。

スタジオに辿り着いた小夜子は、テレビを通じて喋ることになる。「どうしよう」と困っていると、空野の幻影が目の前に現れて「今から言うメッセージを伝えて欲しい」と告げる。
小夜子は「荒井東作はテレビ画面を通じて念力を使い、人々の恐怖心を増大させ、その心に地獄の阿修羅霊を入り込ませ、大津波の幻覚を見せているんです。この幻影を消すには、心を鎮めることです」と、ここまでは自分の意思で話す。
だが、それ以降は空野の魂が入り込み、小夜子の声を使って「自分が自分でないような、魔に踊らされ、魔に自由にされるような、そんな自分であると思ってはいけない。自分は必ず、自分の心を統御できると思わなければならない」と諭す。
でも、それを言っている空野は、小夜子に憑依して彼女の心を自由に操っているんだよな。

津波計画を阻止された荒井は、自分に憑依している僧侶の覚念から「最後の切り札を実行せよ」と命じられ、小夜子を誘拐する。
荒井は東京ドームに幾つもの爆弾を仕掛け、「私こそが仏陀であると宣言するのだ。5万人の命がどうなってもいいのか」と脅す。
しかし小夜子は「嘘はつけません」と拒否する。
なんと小夜子は、5万人の命を救うことよりも、「使命を果たす」ということを優先するのだ。

それだけでなく、小夜子は「真実の仏陀は空野太陽です」と宣言する。
前述したように、真実の仏陀は釈迦だけなので、荒井でもなければ空野でもないはずだが、彼女は「真実の仏陀は空野太陽」ってことに関しては、なぜか確信を持っている。
そんなことを言い切るってのは、荒井を信奉する連中と大差が無いキチガイ信者にしか思えない。
しかし幸福の科学としては、それは「正しい行い」「素晴らしい行い」ってことになるのだ。

荒井が「真実の仏陀である我を称えよ」と訴えると、空野が現れて「お前は間違っている。仏の教えを自らの小さな知によって歪曲し、そうして自らの都合のいいように説明しようとする。その底にあるのは、あたかも法を説く者であるかのように、偉い立場に立ちたいという欲望である」と説教する。
即座に「お前が言うな」とツッコミを入れたくなるセリフである。
自分が真実の仏陀だと言っちゃうような奴が、「仏の教えを自らの小さな知によって歪曲し」と他人を否定するなんて、ちゃんちゃらおかしいよな。

覚念から攻撃を受け、「仏陀としての証明をしてみせよ」と挑発された空野は、釈迦だった頃を回想する。
これによって彼が本物の仏陀であることをアピールしているわけだが、それを素直に受け入れるのは、幸福の科学の信者でなければ厳しいだろう。
何しろ、空野は「仏陀は全ての権限を持って地上に降りている。その時代の価値を決め、その時代の正しさを決め、その時代の善とは何かを決め、その時代の真理とは何かを決める者。それが仏陀である」と言い切っちゃうような奴なんだぜ。
そういうことを信者が主張するならともかく、仏陀本人が言うかね。
その時代の価値や正しさを全て決めるのが仏陀だとしたら、「この世界の支配者である」と言っているようなもんだぞ。
それって、荒井と大して違わないじゃねえか。

エンディングに入ると、メインテーマソング『悟りにチャレンジ』が流れて来る。
そのタイトルは置いておくとして、作詞者として大川隆法(指導:ゴータマ・シッダールタ)という名前が表記される。さらに3つのテーマソングの作詞者として、同じように大川総裁の後ろに(指導:ヘルメス)、(指導:エロス)、(指導:アポロン)という表記がある。
どうやら、大川総裁が()の中に記された神様を降臨させ、指導を仰いだという設定のようだ。
まだ仏陀はともかく(いや仏陀を降臨させている時点で既にトンデモなのだが)、ヘルメスやエロスといったギリシャ神話の神々まで降臨させているのが凄い。
幸福の科学って、仏教系の宗教のはずなのに。

これまでに幸福の科学グループが製作した映画は、大川隆法総裁の宗教に対する考え方をアピールするためのプロパガンダ映画であった。
しかし今回は、そこが大きく異なっている。
「大川総裁は素晴らしい教祖様だ」「幸福の科学を信仰しよう」というアピールも無いわけではないが、それよりも別の目的の方が遥かに大きい。
その目的とは、「創価学会は邪悪な組織である」とアピールすることだ。
荒井東作は、明らかに池田大作をイメージしたキャラクターだ。厳密に言うと他の宗教家も混じっているようだが、それを言い出すと面倒だし、成分としては池田大作が多く含まれているので、そこだけに絞っておこう。
だから操念会は、創価学会と完全にイコールではないにしても、かなり似たグループってことになる。
そんな荒井東作と操念会を、本作品は悪の存在として描いている。

この映画で創価学会を攻撃している理由は、たぶん選挙のためだろうと思われる。
幸福の科学は2009年5月に、幸福実現党という政治団体を結成した。
同年7月に行われた東京都議会議員選挙に10人の公認候補を擁立したが、全員が落選した。同じ月に行われた仙台市長選挙でも、擁立候補が落選した。
8月の第45回衆議院議員総選挙では337人の公認候補を擁立したが、またも全員が落選した。
10月の第20回参議院議員補欠選挙に2人の公認候補を擁立したが、いずれも落選した。

そのように、幸福実現党は選挙で惨敗を繰り返していた。
その後に行われる第22回参議院議員選挙、第46回衆議院議員総選挙では、是非とも当選者を出したい。そのためには、「宗教組織を母体とする政治団体」という共通点を持つ公明党は邪魔な存在だ。だから、公明党の母体である創価学会に少しでもダメージを与えたい。
そんなわけで、こういう内容にしたのだろう。
それにしても、幸福の科学って、選挙で候補者を1人も勝たせることが出来ない程度の人数しか信者がいないのかねえ。
逆に考えると、創価学会ってすげえな。

(観賞日:2013年9月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会