『バブルへGO!! タイムマシンはドラム式』:2007、日本

2007年、フリーターの田中真弓はキャバクラでバイトをしているが、男が借金を作って逃げてしまった。疎遠だった母・真理子が崖から 転落死して葬儀が執り行われるが、そこへも借金取りの田島がやって来る始末だ。田島は真弓に返済を催促し、香典を集め始めた。そこへ 、下川路功という男が現われた。彼は参列者から真弓が真理子の娘だと聞いて驚き、どこかへ連絡を入れた。
キャバクラに出勤した真弓は沈んだ態度だったため、ママの玉枝から帰るよう言われる。店を出た真弓は田島に追われるが、空腹だった ために500円を借りた。田島は真弓に、かつては長銀の融資課に勤務していたことを語った。まさか銀行が潰れるとは思わなかったと、彼 は恨めしそうに言った。バブル崩壊の影響を受け、長銀は潰れたのだ。当時は幼かった真弓にとって、バブル時代の日本は全く知らない 世界と言って良かった。
真弓がアパートに戻ると、下川路が待ち受けていた。彼は財務省大臣官房経済政策課の審議官だった。下川路は真理子が死んでいないこと を告げ、ある新聞記事を見せた。それは桜の開花宣言の記事で、写真には真理子が写っていた。その日付は1990年3月となっている。だが、 そこに写っている真理子は昔の姿ではなく、間違いなく真弓が10日前に会った母だった。
翌日、真弓は下川路に会うため、財務省を訪れた。ちょうど大蔵省出身の「芹沢ファンド」代表・芹沢良道が秘書の高橋裕子と共に財務省 を立ち去るところであり、TVリポーターの宮崎薫が取材で取り囲んでいた。下川路は真弓を仕事場である地下に案内し、同僚の菅井拓郎 に会わせた。彼らは、日本が800兆円の借金を抱えて利子が膨らみ、少子高齢化で返せる当てが無いことを説明した。シミュレーションに よると、日本経済は2年以内に破滅するという。だが、回避する方法が1つだけあると、下川路は言った。
下川路と菅井は、真弓を日立製作所の家電研究所に連れて行った。下川路は、真理子が東大の同窓生で、日立家電研究所の研究員だった ことを語った。真理子の研究室に入った下川路と菅井は、彼女が偶然から17年前と行き来できる洗濯機型のタイムマシンを発明したことを 説明した。そして真理子は、バブル崩壊を阻止するために1990年にタイムスリップしたのだという。しかし1990年3月30日、大蔵省が 不動産融資規制を通達した日を境に、真理子からの連絡が途絶えていた。
なぜ母を行かせたのかと真弓が問うと、下川路と菅井は自分たちも試したことを告げた。だが、タイムマシンは体積に制限があり、誰でも タイムスリップできるわけではなかった。そこで下川路は真弓の存在を知り、1990年に行かせようと考えたのだ。バブル崩壊を止めて ほしいと頼まれ、真弓は断った。「バブル崩壊を止めれば借金も無くなる」と言われた真弓は、ためらいつつも断って立ち去るが、結局は 引き受けることにした。
真弓は洗濯機に入り、下川路がボタンを押すとドラムが回り始めた。タイムマシンは光に包まれ、真弓は1990年3月に到着した。彼女は 大蔵省へ赴き、当時は金融局長だった芹沢に面会する。真弓は真理子の写真を見せて「会いに来たはず」と言うが、芹沢は「知らない」と 答えた。しかし実は、芹沢は真理子の訪問を受け、2007年の経済雑誌も受け取っていた。
真弓は薫とキスをしている若き下川路を発見し、声を掛けた。真弓が事情を説明すると、下川路は「静かな場所で話をしよう」と言って 夜の街へ繰り出した。下川路が案内したのは、ビルの8階にあるディスコだった。そこは2007年になると、真弓が働くキャバクラに変貌 している。下川路は真弓の話を信じたわけではなく、口説くつもりだった。この当時の彼は、女好きのブレイボーイだったのだ。そこへ 薫が現われて下川路にビンタをするが、彼は懲りずに若い女子アナを見つけて口説き始めた。
下川路は頼りに出来ないと考えた真弓は、ディスコを出た。若い田島に声を掛けられた真弓は慌てて逃げ出すが、まだ自分が借金を 背負っていないことに気付いた。田島は大学生で、卒業パーティーに一緒に行ってほしいとナンパしてきたのだ。大金を渡され、真弓は 船上パーティーに同行した。ビンゴゲームに勝って200万を受け取り、真弓はバブルを満喫した。
翌日、真弓は再び大蔵省を訪れるが、芹沢は国会へ行って不在だった。だが、金融局長室で2007年の経済雑誌を発見した真弓は、母が訪問 していたと確信する。真弓は警備員に見つかって警察に突き出されそうになるが、駆け付けた下川路が助け舟を出した。しかし彼は、真弓 が自分に会いに来たと思い上がっている。真弓は未来から来たと証明するため、平成19年製造の100円玉を見せた。下川路は菅井に鑑定を 依頼し、それが本物だという結果が出た。
下川路は「話を聞く」と告げ、真弓を部屋に誘った。警戒しながらも、泊まる場所の無い真弓は付いて行くことにした。やはり下川路は ベッドに誘う気満々だったが、真弓は軽くかわして寝室を占領した。真弓が眠った後、経済雑誌を開いた下川路は挟まっていた写真に 気付いた。そこには、2007年の真理子が写っている。下川路は、経済雑誌を真剣に読み始めた。
翌日、出勤した下川路は芹沢に呼び出され、真弓を警察に突き出すよう命じられた。薫から電話が掛かり、未来から来たという真弓の話に 興味を持ったので会わせて欲しいと持ち掛けてきた。下川路は会わせる代わりに、真理子が警察に拘留されていないか調べてくれと依頼 した。だが、真弓と会って未来から来たという話を完全に信じた薫は、企画書を書くことで頭が一杯だった。
薫と別れてデザート店に入った下川路と真弓の前に、1990年の真理子が姿を現した。真理子は下川路を店外へ連れ出し、不審な男たちが 周りをうろついていると告げた。彼女は、かつて交際していた下川路が子供を奪おうとして差し向けたのだと思い込んでいた。しかし 下川路は、その時に初めて子供がいると聞かされたのだ。そして彼は、真弓が自分の子供だと知った…。

監督は馬場康夫、原作はホイチョイ・プロダクションズ、脚本は君塚良一、製作は亀山千広、共同製作は島本雄二&島谷能成&亀井修、 プロデューサーは宮澤徹&種田義彦&和田倉和利&蔵本憲昭&仁科昌平、エグゼクティブプロデューサーは清水賢治&石原隆&林紀夫、 撮影は松島孝助、編集は奥田浩史、録音は中村淳、照明は吉角荘介、美術は清水剛、特撮監督は尾上克郎、VFXプロデューサーは 大屋哲男、音楽は本間勇輔、主題歌は加藤ミリヤ「Eyes on you」。
出演は阿部寛、広末涼子、薬師丸ひろ子、伊武雅刀、吹石一恵、伊藤裕子、劇団ひとり、小木茂光、森口博子、愛川ゆず季、 鈴木一功、有吉弘行、山岸拓生、杉崎真宏、小野ヤスシ、露木茂、松山香織、木幡美子、ラモス瑠偉、飯島愛、八木亜希子、飯島直子ら。


ホイチョイ・プロダクションズが週刊ビッグコミックスピリッツに連載している漫画『気まぐれコンセプト』の一編を基にした作品。
ホイチョイは『メッセンジャー』以来、8年ぶりの映画製作となる。
下川路を阿部寛、真弓を広末涼子、真理子を薬師丸ひろ子、芹沢を伊武雅刀、薫を吹石一恵、裕子を伊藤裕子、劇団ひとり、菅井を 小木茂光、玉枝を森口博子が演じている。

バブルを知らない人々にとっては、この映画を見て、真弓と同様のカルチャーショックがあるかもしれない(逆にピンと来ないかも)。
しかし、浮かれポンチで金を湯水の如く使っていたバブル期は、やや誇張はあるものの、実際にあった時代だ。
ただし、ここに描かれているようなバブルの浮かれぶりを体験したのは、都会にいた人々が大半だったはずだ。
地方に住んでいた人々からすると、バブルの好景気による影響はあっただろうが、本作品に描かれているような光景は、都市部だけで 見られたモノだと思う。

ホイチョイ・プロダクションズはバブル時代、『私をスキーに連れてって』『彼女が水着にきがえたら』『波の数だけ抱きしめて』という 3本の映画を製作し、ヒットさせた。
1999年に『メッセンジャー』を製作しているものの、やはりホイチョイと言えばバブルの申し子というイメージが強い。
そんなホイチョイが、「あの夢をもう一度」ってな感じで作ったのが、この映画だ。
「あの頃は映画も立て続けにヒットしたし、あの頃は楽しかったよなあ。だからバブル時代よ、もう一度」というノリの作品だ。

本作品はバブル時代を全面的に肯定し、「浮かれポンチのバブル時代がずっと続けば良かったのに」という意見を主張している。
ホイチョイとしてはバブルを潰した当時の金融局長・土田正顕には恨み骨髄のようで、彼をモデルにした芹沢を悪役に据えている。
さらに徹底しているのは、作品の着地点だ。
過去を懐かしみ、「昔は良かったね」とノスタルジーにふけっても、「だけど今を頑張ろう。ツラいこともあるけれど、そう悪いこと ばかりじゃないさ。前向きに生きよう」という答えに辿り着く映画もある。
だが、この映画の場合、今の時代は全否定なのだ。
さすがはホイチョイだね(これを誉め言葉と取るか皮肉と取るかは、そちらにお任せします)。

「中身は何も無い」と出演者自身が認めているぐらいだし(阿部寛が舞台挨拶でコメントしている)、わざわざ言われなくても、そりゃ ホイチョイの映画だから中身は何も無いだろうという予想は付いている。
で、どうせ「その場が楽しけりゃいい」という刹那的映画なのだから、能天気に弾ければいいものを、変にマジメぶったところもあったり するんだよな。
ただし、「社会風刺を入れよう」とか、「社会的メッセージを訴えよう」とか、そんな意識が製作サイドにあるわけではない。
だってホイチョイだもん。
そこは単純に、弾け切れなかっただけだ。
バブル自体が「薄っぺくてノリの良さだけで乗り切る」みたいな感じだったから、それを描いた映画も同じようなテイストで別に 構わないけど、ノリの良さが全く足りていない。

滑り出しからモタついているし、細かい計算はしていない。
真弓がタイムスリップするまでの展開なんて、もっとサクサクやりなさいって。
真弓を過去へ行かせる時の目的が母親救出じゃなくバブル崩壊の阻止なのもどうかと思うし、それを断った真弓が母とのアルバムを見て 思い直すのもモタモタしすぎ。
「母を嫌っている態度だけど愛している」的なノリとか、どうでもいいよ。
もう有無を言わさず強引に巻き込む形でもいいのに。
どうせ親子の愛情ドラマなんて無いんだから。

ようするにホイチョイがやりたかったのは、自分たちが楽しかったバブルの思い出カタログを紹介するってことだ。
ディスコとお立ち台、ワンレンにボディコン、ポケベル、ティファニーのオープンハート、太眉メイク、ティラミスなど、その頃の流行を 紹介するってことだ。
それ以外のことは、映画としての体裁を整えるためだけに用意されている。
それ以上の意味は無い。
だから自分たちの体験として残っていないモノ、関心の無かったコトに関しては、バブル期の時代考証もテキトーだ。

真弓が目的を果たそうとする動きは、ものすごくノロい。
バブル時代に流行した物品や出来事を紹介するために、フラフラと寄り道をしまくっている。
そりゃそうだ、そっちが映画の目的なんだから。
バブル崩壊を阻止しようとする物語なんて、どうだっていいのだ。
だからシナリオは『バック・トゥ・ザ・フィーチャー』を雛形にして、その上をなぞってオーソドックスに作っている(まあ脚本は ホイチョイじゃないけどさ)。

個人的な嗜好があることは素直に認めるが、広末涼子が文句無しにキュートだ。
この人のアイドル映画なのかと思うぐらい、可愛らしく写っている。
でも残念ながら、やはりミスキャストと言わざるを得ないだろう。
23歳のフリーターには、どうしても見えない。
キャラの年齢設定を下げて、もっと若いタレントを起用した方が良かったのではないだろうか。
どうせ演技力なんて全く要求されないような役なんだから、人気があってTVドラマで活躍しているような女性タレント(「女優」という 言葉を使っていないのは意図的です)を使えばいい。
ちゃんとしたマーケティング戦略に基づいてバブル時代にヒットを飛ばしたはずのホイチョイにしては、訴求力という意味においても疑問 の残るキャスティングである。

(観賞日:2008年1月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会