『ブレイブ -群青戦記-』:2021、日本

1年前、私立星徳学院高校の屋上に3年生の不破瑠衣が立っていた。彼は腕時計で時間を確認すると、鞄を手に取った。彼が落雷と共に屋上から飛び降りると、中庭の霊石の上空に浮遊して姿が消えた。現在。弓道部2年の西野蒼は部活に参加するが、やる気を見せなかった。同級生の瀬野遥は「本気でやれば余裕で優勝できる」と言うが、彼は全く興味を示さなかった。星徳学院は運動部の活動が盛んで、複数のクラブが全国優勝していた。不破は1年前から行方不明で、捜索のためのビラが貼られていた。
落雷で霊石のしめ縄が外れ、赤い雨が降り始めた。剣道部主将の松本考太やテニス部の小池翔子は、不安を覚えた。1月なのにセミが大量発生し、生徒たちは困惑した。外の景色が変化し、ゾンビのような武者軍団が出現して生徒たちを次々に惨殺した。蒼と遥が窮地に陥ると、考太が駆け付けて助けた。逃げ込んだ教室にも侍たちが来たので、考太は蒼と遥に武器を用意してグラウンドへ来るよう指示した。蒼と遥が弓道場へ行くと、部員が惨殺されていた。歴史オタクの蒼は、敵の甲冑は戦国時代の物だと遥に教えた。
松平元康が陣地に戻ると、家来が奇怪な城の出現を報告した。スポーツ科学研究クラスの鈴木あさみが侍に襲われると、ボクシング部主将で恋人の黒川敏晃が駆け付けて助けた。薙刀部の今井慶子やフェンシング部の成瀬勇太、空手部の相良煉やアメリカンフットボール部の高橋鉄男&佐野亮、野球部の藤岡由紀夫&緒方努たちは、部活の道具で敵と戦い始めた。蒼は女子生徒の窮地を見て弓を構えるが、矢を放つことを躊躇した。遥が矢を放って敵を怯ませ、「迷ってたらみんな殺されちゃう」と一喝した。
戦国武将の簗田政綱が家来を率いてグラウンドに現れ、生徒たちに自己紹介した。家来の1人が「今川の者か?」と質問し、簗田は降伏して城を明け渡せと要求した。元康の軍勢が近付いていると知らされた簗田は、関わると面倒だと考える。彼は人質を取るよう家来に指示し、何人か惨殺して去った。すぐに元康の軍勢がグラウンドへ来て、生徒たちを体育館へ移動させた。考太は蒼が敵の正体に気付いていると知り、生徒たちに説明するよう促した。
蒼は生徒たちに、自分たちがいるのは桶狭間の戦いの直前だろうと告げる。科学部の吉元萬次郎は、桶狭間の戦いについて解説した。蒼は簗田が信長の家臣のマイナーな武将だと言い、今川義元の偵察に来ていたのだと告げた。蒼の説明を全く信じない生徒も多かったが、遥が「今日起こったことを思い出してよ。これが現実でしょ」と一喝した。一部の男子生徒たちが拉致された仲間を助けに行こうとすると、考太が制止して蒼に「ここを抜け出すアイデアは無いか?」と問い掛けた。
蒼は考太と2人で元康との交渉に赴き、取引を持ち掛けた。元康は今川義元の城に兵糧を運ぶよう命じられていたが、蒼は丸根砦を攻める陽動作戦を提案した。彼は必ず成功すると断言し、生徒全員の解放を要求した。成功の根拠を問われた蒼は、未来から来たと話す。元康は取引を承諾するが、先陣を務めろと命じた。
体育館に戻った考太が丸根砦を攻める志願者を募ると、すぐに黒川や成瀬たちが名乗り出た。蒼は怯えた様子で、「帰る方法をみんなで考えるのが現実的だと思う、俺らだけで責めるなんて無茶だよ」と同行を拒否した。体育館を出て1人になった彼は、元康から「この城の頭領ではないのか」と告げられた。遥は蒼に「もっと自分を信じるべき」と言い、自分も怖いが一緒にいてくれれば強くなれると告げる。考太からアイデアだけでも貸してほしいと頼まれた蒼は、「俺も行くよ」と告げた。
志願者の一部は元康軍が用意した甲冑に身を包み、蒼は計画を説明した。簗田は信長に、「面妖な城の物見に行き、人質を丸根砦の牢に」と報告した。信長は人質の話を聞くため、丸根砦へ赴いた。特進クラスの久坂直哉と小暮サトシは霊石を調べ、ゼロ磁場になっていることを知った。久坂は1年前に不破が霊石を調べていた噂があると話し、「この学校は霊山を切り崩して作った。落雷で地場バランスが崩れ、ワームホールが出現した。霊石に雷を落とせば元の時代に帰れるかもしれない」と告げた。
簗田は信長二、「明日の正午に雷雨が来る。それと同時に今川を攻めれば勝てる」と断言した。信長は彼に「面妖な者たちの話を、もっと聞きたい。人質を増やしておけ」と命じ、木下藤吉郎を預けた。久坂は最短で明日の12時28分に落雷があると突き止め、仲間と共に準備を進める。砦に向かった面々に情報を知らせる役目は、陸上部の柏田純平が引き受けた。休憩を終えた蒼たちが出発しようとすると、信長軍に襲われた。遥が捕まるが、助けを求められた蒼は矢を放つことが出来なかった。蒼も窮地に陥り、助けようとした考太が殺された。遥は拉致され、大勢の生徒たちが犠牲になった。
蒼が考太を埋葬して泣いていると、元康は「戦の無い太平の世を作りたい。信じれば道は開ける」と話す。蒼が考太の言葉を思い出すと、元康は「周りを照らし、導く力がお主の中には宿っておる。力を持つ者には、それに見合った定めがある。良く考えろ。お主が何を信じて光となるのか」と語った。蒼は「俺は仲間を、遥を救い出したい」と言い、考太の木刀を手にした。一方、丸根砦の牢に入れられた遥は、素顔を晒した簗田の正体が不破だと知って驚いた。不破は「まさか校舎ごと現れると花。歴史の習性力か」と呟き、目的を問われて「完璧な下剋上を完成させる。飽和状態のくだらない世界を歴史からリノベーションするんだ」と答えた。
翌朝、蒼たちが丸根砦に向かおうとすると、疲労困憊の柏田が現れた。彼は元の時代に帰れるかもしれないと告げ、12時28分までに校舎へ戻るよう促す。帰りの時間を考える、2時間以内に砦から人質を救出する必要があった。現実的に考えると不可能に近く、柏田は人質の救出を諦めるよう説く。しかし蒼は「俺は行く」と断言し、他の面々も同じ気持ちだった。彼らは3チームに分かれて、砦を攻めた。不破は全く動じず、手筈通りに進めるよう藤吉郎に命じる。蒼たちは多くの犠牲を出しながら、人質のいる一之曲輪に辿り着く…。

監督は本広克行、原作は笠原真樹『群青戦記 グンジョーセンキ』(集英社 ヤングジャンプ コミックス刊)、脚本は山浦雅大&山本透、 製作は市川南、共同製作は瓶子吉久&藤川克平&渡辺章仁&奥村景二&村山大輔、エグゼクティブプロデューサーは山内章弘、プロデューサーは佐藤善宏&川田尚広&西野智也、アクション監督は奥住英明、撮影は佐光朗&的場光生、美術は禪洲幸久、録音は倉貫雅矢、照明は加瀬弘行、編集は岸野由佳子、衣装デザインは牧亜矢美、音楽プロデューサーは小林健樹&有馬由衣、音楽は菅野祐悟、主題歌『HOURGLASS』はUVERworld。
出演は新田真剣佑、松山ケンイチ、山崎紘菜、鈴木伸之、三浦春馬、高橋光臣、池田純矢、渡邊圭祐、濱田龍臣、鈴木仁、飯島寛騎、福山翔大、市川知宏、水谷果穂、宮下かな子、長田拓郎、田川隼嗣、草野大成、足立英、大地伸永、松谷優輝、木下彩音、佐伯大地、佳久創、森本竜馬、賀谷亮祐、井上孟、宮坂遼平、飛田竜之介、佐藤雄大、遠藤龍希、鈴田修也、内田考俊、本間優太、佐村越亮太、佐藤千青、一ノ瀬大祐、大山真司、山崎朋弥、那須一南、小嶋修二、石田森人、中田陽菜子、成海花音ら。


笠原真樹の漫画『群青戦記』の第1部を基にした作品。
監督は『亜人』『曇天に笑う』の本広克行。
脚本は『ハルチカ』『サイレント・トーキョー』の山浦雅大。
蒼を新田真剣佑、信長を松山ケンイチ、遥を山崎紘菜、考太を鈴木伸之、元康を三浦春馬、本多正信を高橋光臣、藤吉郎を池田純矢、不破を渡邊圭祐、吉元を濱田龍臣、黒川を鈴木仁、成瀬を飯島寛騎、相良を福山翔大、佐野を市川知宏、あさみを水谷果穂、慶子を宮下かな子、高橋を長田拓郎、久坂を田川隼嗣、小暮を草野大成、藤岡を足立英、柏田を大地伸永、緒方を松谷優輝、翔子を木下彩音が演じている。

蒼は「大会とか優勝とか興味が無い」と言うのだが、それなのに弓道部に所属している理由は何なのか。
必ず部活動をしなきゃいけないという校則があるわけでもないんだし、帰宅部でもいいでしょ。
あと部活をするにしても、大会の優勝に向けて頑張らないタイプの文化系クラブもあるはずだし、そういうのを選んでもいいでしょ。
「遥に惚れているから同じ部活に入った」ってことなのなら分かりやすいけど、そういう理由でもなさそうだし。

セミが大量発生すると、遥が「1月なのにセミ?」と口にする。そんなことを台詞で説明させないと、季節が1月なのは伝わらないのだ。
しかも、別に1月じゃなくて、セミが大量発生している時点で異常なのよね。だから、そんな説明的に台詞を、わざわざ言わせる必要性は無いのよ。
どうしても1月じゃないとダメな理由は、「桶狭間の戦いの直前」という設定を成立させるためだろう。
ただ、だからって台詞で「1月」と言わせておく必要性は、やっぱり無いんだよね。

敵が生徒を殺すシーンは、ちゃんとしたスプラッター描写になっている。だけど、そこまでの残酷表現が絶対に必要なのかと問われたら、答えはノーだと断言できるぞ。そっち系のテイストで徹底して攻めるようなタイプの映画でもないし。
むしろ、そのせいで逃す客層が出て来るので、マイナスの方が大きいんじゃないか。
あと、容赦なく惨殺するのに女をレイプする奴は皆無ってのは、都合が良すぎるよね。レイプ目的の連中は出て来るけど、牢から連れ出すのは翔子だけ。そして、後で「うるさいから殺した」と言うだけで終わり。
他の女子が被害に遭うことも無い。直接的なシーンが無いだけでなく、誰かがレイプされるという設定そのものが無い。

ゾンビ軍団に襲われた生徒たちが反撃を開始すると、それぞれの部活で使っている道具を使う。だけど、ボクシング部がグローブを付けて殴るより、外して手に何か別の道具を持った方が良くないか。
あとフェンシング部の剣なんて、甲冑が相手だと役に立たないだろ。野球部やアメフト部がボールを投げて攻撃するのは、あまりにもバカバカしいし。
自分たちのクラブの道具より、何か別の道具を借りた方がいいと思う連中も少なくないぞ。
あと、向こうに襲われたら反撃のために戦うのはいいけど、基本的には逃げたり隠れたりするのを優先すべきだろ。敵と違って、こっちは殺傷能力の高い武器なんて持っていないんだし。

体育館に移動した生徒たちは、勝手に喋り出す。考太は立ち上がって蒼に説明を求め、蒼も立ち上がって説明する。
そんな状況が続く中、見張りの侍たちは何もせずに傍観しているだけ。だけど、立ち上がっただけでも「座ってろ、おとなしくしてろ」と命じるべきだろうに。
っていうか、勝手に喋るだけに留まらず、一部の生徒が「仲間を助けに行く」と外へ出ようとするのはアホすぎるだろ。その場で殺されて終わりになるような行動だぞ。
ただ、なぜか武士たちは槍を構えて「待て」と言うだけで、手出しせずに済ませている。

丸根砦を攻めることになった時、何人もの生徒が志願する中で、蒼は同行を拒否して逃げ出す。
そんな彼は臆病者として描かれているけど、「帰る方法をみんなで考えるのが現実的だと思う、俺らだけで責めるなんて無茶だよ」という主張は理解できるぞ。それは現実的で賢明な判断だと思うぞ。
むしろ、考太の「無理だと無茶だの言われても、ひたすら練習して結果を出してきた。だから俺は自分の力を信じる」という主張は、勇敢でも何でも無くて無謀なだけにしか思えないぞ。
グラウンドで大勢が殺されたのを忘れたのかと。

とは言え、蒼が臆病なのは紛れもない事実だ。最初の襲撃の時に矢を放てないのはともかく、敵に捕まった遥が助けを求めた時もビビって動けないのは、さすがにヘタレが過ぎる。
しかも、彼は考太を殺され、遥を拉致されても、泣いて落ち込むだけなのだ。
考太が殺されただけでも犠牲が大きすぎると感じるけど、せめて遥が拉致された時点で「必ず彼女を奪還する」という勇気に目覚めろよ。元康に優しい言葉で励まされ、ようやく救出に行く気持ちになるって、どんだけ情けないんだよ。
もちろん、どこかのタイミングで蒼が勇気に目覚めるのは分かり切っているけど、そこまで我慢して見守りたいと思えるような魅力に乏しいのよ。

不破は霊石を調べていたらしいが、どうやってタイムスリップできることを知ったのか。彼はエリートだったはずなのに、なぜ命を落とすリスクを負ってまで戦国時代にタイムスリップしたのか。
彼の時は本人だけなのに今回は学校ごとタイムスリップしたのは、どういう理屈なのか。不破は「歴史の修正力か」と言うけど、それだけで片付けちゃうのかよ。
あと、最初のゾンビ軍団は結局、どういう連中だったのか。不破が生み出した存在なのか。
そんな感じで、最後まで良く分からないままで放り出されている事柄が色々とある。

不破は戦国時代について、「くだらない偏見もレッテルも何も無い。力だけが正義だ」と語る。
だけど現代の高校に通っていた頃の彼は、超優秀な生徒だったはず。くだらない偏見やレッテルのせいで正当に評価されず、理不尽な目に遭ったわけでもないでしょ。少なくとも、劇中でそういう出来事に言及するシーンは無いし。
あと、歴史をイノベーションするにしても、なぜ戦国時代を選んだのか。
もしかして、戦国時代にしかタイムスリップできない設定なのか。

蒼は簗田政綱をマイナーな武将と説明しているが、実在していた人物であることは確かだ。だったら不破が成り済ますには、本物の簗田を排除する必要がある。それについては、どうしたのか。
あと、本物の簗田と顔が似ていなきゃバレるはずだが、それはどうしたのか。簗田には身内や昔からの知り合いがいるはずだが、そこを誤魔化すのはどうやったのか。
なぜ不破は架空の人物ではなく、実在した簗田に成り済ましたのか。
そういうのも分からないままだ。

p>元康が蒼たちに丸根砦を攻撃する先陣を務めろと命じるのは、かなりメチャクチャだ。丸根砦を攻めるにしても、人数が圧倒的に違うし、戦闘能力や経験も全く違う。
なので、かなり優秀な作戦が無いと絶対に勝てないはずだが、蒼はタイムスケジュールとルートぐらいしか用意していない。そして普通に砦へ向かって歩くだけ。
中には派手で目立つ格好の奴らもいるし、呑気に休憩も取るし、だから信長軍に襲われて大勢が殺される。
弓矢やボールは接近戦だと何の役にも立たないだろうに、そういうことも全く考慮していない。

p>蒼たちが砦を攻める直前、「俺たちが試合に負ける時、それは相手が想像を超える戦術を取った時。未知の選手に出会った時だ。戦国時代にはアメフトもボクシングも野球も無い。未知の物には必ず恐れが出来る。狙うのは混乱。その隙を突いて一気に仲間を奪い返す。ヒット・アンド・アウェイ」という語りが入る。
だが、いざ攻撃が始まると、ただ3チームに分かれる程度。Aチームのアメフトと部が爆弾入りボールを蹴り込むのと、野球部がバットで煙幕入りボールを打ち込むのは相手を惑わせるが、その後はアメフト部員がタックルしたり野球部がバットで殴ったりする。
フェンシング部も空手部員もボクシング部員も、普通に戦うだけ。相手は全く恐れも混乱もしない。作戦もへったくれも無いのだ。
人数や経験値で圧倒的な不利な状況の中、知略で対抗しているという印象は皆無だ。
もうさ、蒼じゃなくて特進クラスの生徒に作戦を任せた方が良かったんじゃないかと思うぞ。

p>不破が戦国時代の武士や星徳高校の生徒を次々に殺すのは、本来なら目的を達成するための手段であるはずだ。しかし、それ自体が目的になっている。
「完璧な下剋上が云々」などと言っていたけど、終盤に入ると、「どうやら、こいつは単なる殺人狂だな」ってことが見えるようになる。薄っぺらいイカレポンチな奴でしかなくて、ラスボスらしさは乏しい。
あとさ、「霊石に雷を落とせば元の時代に帰れる」ってのは、あくまでも久坂が立てた仮説に過ぎなかったはずだよね。「帰れるかもしれない」という推測に過ぎなかったはずだ。
ところが、いつの間にか「絶対に帰れる」という確定事項に変化しており、さらに「12時28分までに校舎へ帰って来ることが成功の絶対条件」ってことになっている。そこは都合が良すぎるなあ。

(観賞日:2022年5月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会