『棒たおし!』:2003、日本

宮崎。高校の普通科に通う高山次雄は、校舎の屋上で寝転び、松田聖子の『スイート・メモリーズ』を口笛で吹いていた。そこに幼馴染みの紺野小百合が現れ、「どうして人間は死ぬと分かっているのに生きるのか?」という疑問を投げ掛けた。次雄は小百合から、ランボーの詩集『地獄の季節』を受け取った。
普通科の須藤学は工業科の鴨志田からイジメを受け、学生ズボンを校旗掲揚台のポールに引っ掛けられた。次雄はポールをスルスルと登り、ズボンを取ってやった。それを見ていた同級生の久永勇が、「一緒に体育祭の棒たおしに出場し、工業科を倒そう」と誘ってきた。これまで普通科は、工業科に9連敗を喫していた。
次雄は消極的な態度を取り、勇に「工業科に勝つなんて無理だ」と告げた。自宅に戻った次雄は、母・弓子、妹・美樹と一緒に食事を取った。弓子は夫の周一郎が女を作って出て行ったにも関わらず、今も高山姓を使い続けていた。そんな母を、次雄は見栄っ張りだと非難した。それに対して、弓子は次雄を「大学受験から逃げている」と非難した。
職員会議により、今年の体育祭で棒たおしが廃止されることが決定した。昨年の体育祭で、5名もの骨折者が出たのが理由だ。そんな中、次雄と勇は、担任教師の石垣幸太郎が小百合とラブホテルに入るのを目撃する。勇は次雄に、小百合の両親が営んでいた会社が倒産し、父親は蒸発、母親はアル中になっているという噂を語った。
勇は石垣と小百合がラブホテルに入る様子をビデオに撮影し、それを石垣に見せた。勇は口止めの代わりとして、棒たおしを復活させることを要求した。こうして棒たおしは体育祭の競技に復活したが、メンバー募集に集まったのは学だけだった。そこで勇は女子学生に金を渡し、放送室から「大勢の女子マネージャーがいる」とPRした。
次雄と勇は、ダンスの上手いアキやバスケ部のナッカンなど棒たおしのメンバーを次々に勧誘し、特訓を開始した。学は勝つための作戦を立てるが、それには爆発力のある人員が必要だった。そこで次雄や勇は、荒くれ者の堀口に目を付けた。次雄が堀口をスカウトしている間に、勇は工業科の連中に暴行を受けて入院する。病院に駆け付けた次雄は、勇が心臓病を抱えていることを知った…。

監督は前田哲、脚本は松本稔、企画は橋口一成、製作は武政克彦&張江肇&竹中功&松下晴彦&鈴木ワタル、プロデューサーは尾越浩文&木谷奈津子&吉田晴彦&榎本憲男&大橋孝史、撮影は高瀬比呂志、編集は日下部元孝、録音は阿部茂、照明は赤津淳一、美術は龍田哲児、音楽は谷川賢作。
出演は谷内伸也(Lead)、金子恭平(FLAME)、古屋敬多(Lead)、鍵本輝(Lead)、中土居宏宜(Lead)、三浦友和、平愛梨、滝裕可里、平田満、松田美由紀、北村悠(FLAME)、沢詩奈々子(MAX)、載寧龍二、小林且弥、姫野史子、石川和也、大塚隆義、石坂晴樹、新海和則、吉田隆太、鈴木祐ニ、木下ほうか、野地将年、秋永政之、石川愛理、菅原有希、田端千恵、中津留実香、光井樹里、居積渚、田中みどり、工藤悦朗、谷口美智代、古宮美智子、浜田潤子、萩原宏典ら。


第27回城戸賞を受賞した脚本を、『パコダテ人』の前田哲が映画化した作品。
次雄を男性アイドルグループ「Lead」の谷内伸也、勇を男性アイドルグループ「FLAME」の金子恭平が演じている。学、アキ、ナッカンを、それぞれ「Lead」の古屋敬多、鍵本輝、中土居宏宜が演じており、体育祭MCとして「FLAME」の北村悠、看護婦役で女性グループ「MAX」の沢詩奈々子(ナナ)が特別出演している。
他に、石垣を三浦友和、小百合を平愛梨、周一郎を平田満、弓子を松田美由紀、美樹を滝裕可里が演じている。

キャストの紹介で気が付いたと思うが、ようするに「Lead」のメンバーをメインに据えたアイドル映画である。
だから悪いと言っているわけではない。
アイドル映画でも、爽やかだったり心地良かったりする作品は存在する(はず)。
問題は、大抵のアイドルには演技力が無いので、そこをどうやって誤魔化すかということであろう。

最も友好的な対策は、アイドルに芝居をさせないという方法だろう。
つまり、そのアイドル本人のまま、普段のままの姿で、普段通りに言葉を語り、普段通りに動いてもらうということだ。良く言えば「自然体で」ということだ。
この場合、作品からは重いテーマや深いメッセージを取り除くことが重要になる。そういった要素は、「自然体」の障害になるからだ。
しかし、この映画は彼らのために用意された脚本、彼らを想定して書かれた脚本ではないので、その部分において問題が生じている。「なぜ人間は死ぬと分かっているのに生きるのか?」という深いテーマを、若者達の深いドラマによって描こうとしているのだ。
しかし、それを表現する力を、若いアイドルたちに求めるのは酷というものだろう。

ただし、「Lead」の4人の芝居は、映画を台無しにするほどではない。谷内伸也は激しい感情を見せることが少ない役だし(たまに感情を爆発させるシーンかあると途端にヘロヘロになる)、古屋敬多は淡々としたキャラだ。鍵本輝と中土居宏宜は、そもそもチョイ役で出番が少ない。
最も芝居のダメさ加減が目立つのは、金子恭平である。元気で明るく振舞うキャラを演じているのだが、セリフ回しがモゴモゴしていて、何を喋っているのか良く聞き取れない箇所が幾つもある。

最初に次雄がポールを登るシーンは、それを見て勇が棒たおしに勧誘するぐらいなのだし、話の発端になるポイントなのだから、もっと見せ方に工夫をしてほしい。そこは例えば勇の視点から描いて彼の興奮を表現するとか、次雄が登っていく躍動感をアピールするとか、何かあるだろう。
本人はクールでいいけど、なぜロングショットがメインなのかと。
そういえば、この映画、「ここはアップで撮影した方がいいんじゃないか」と思えるような場面でも、ずっとロングショットで撮るようなパターンが目立つ。
ひょっとすると、それは「アップにすると若手タレントの芝居の稚拙さが露骨に出てしまうので、それを回避したい」という意図の表れなのかもしれない。
まあ、だとしても、ダメなモンはダメだが。

棒たおしメンバーは、いちいち1人ずつ紹介していたら時間が幾らあっても足りないだろうが、それにしたってメンバーを揃える展開は雑だ。もしも女子マネにつられて集まったのなら、ダンス男やバスケ男を勧誘に出向く場面は要らない。スカウトしなくても、場面が切り替わると女目当ての男がワンサカ集まっているという場面に飛んだ方がいい。
女子マネがいないと分かったのに、その後も文句を全く言わず、メンバーが特訓を続けているのが良く分からない(そもそも女子マネ目当てで集まったという表現そのものも弱いのだが)。
なぜ女子マネがいなくても頑張ろうとするのかという、その部分は表現すべきだろう。そこは省略しちゃダメな部分だと思うぞ。

普通科と工業科の対立構造の表現が、ものすごく弱い。たまに工業科によるイジメや勇の強い対抗心は示されるが、そこにあるはずの心理は見えてこない。
最も気になるのは、工業科の連中の出番が非常に少ない上、顔の見えるキャラがいないということだ。ようやく終盤になって鴨志田というキャラを示しているが、そこまでは「工業科」という曖昧な形になっている。
後半に入って堀口という仲間をスカウトする展開があるが、どう考えても余計だろう。堀口役が「Lead」のメンバーなら仕方が無い部分もあるだろうが、そうじゃないんだし。そこから堀口が重要なキャラになるわけでもないし、別にいなくても構わないぐらいだ。
だったら、そんな所で道草を食うよりも、次雄と勇、次雄と小百合の関係描写に目を向けた方がいい。

正直に言って、勇の心臓病という設定に、あまり大きな意味を感じない。苦しむのは前半の1回だけだし、入院するのは暴行を受けたからだ。その病気を軸にして、彼の物語が構築されているというわけでもない。「体がヤバいけれど棒たおしに情熱を燃やしている」という気持ちの描写も弱い。彼が病気だということは、それほど話に強い影響を与えていない。
決して充分とは言えないまでも、工業科が卑怯な連中だということを見せておいて、棒たおしで次雄らを負けさせるという展開は承服できない。
最終的に、小百合が東京へ去って行くという部分で青春の苦味を出すのは構わない。しかし、少なくとも棒たおしに関しては、工業科に勝つカタルシスを与えるべきだろう。その後で、苦味を出せばいいだけのことだ。

結局、次雄と勇の友情とか、次雄の父親に対する確執とか、次雄と小百合の淡い恋愛とか、石垣と小百合の謎めいた関係とか、色んなことが消化不良のままで終わっている。
あと、最後に流れる「Lead」の主題歌は、全く作品に合っていない。
仮に映画が傑作だったとしても、そこでブチ壊しになるぐらい不似合いだぞ。
幸いなことに、映画の出来映えもヘナチョコだが。

 

*ポンコツ映画愛護協会