『ぼくとママの黄色い自転車』:2009、日本

小学3年生の沖田大志は、個人で設計事務所を営む父の一志と2人で暮らしている。母の琴美はデザインの勉強でフランスのパリに留学しており、大志は週に一度のペースで文通を続けている。その日の手紙には、琴美がエッフェル塔の前で撮った写真も同封されていた。近所には叔母の鈴間里美と夫の誠治、娘の美緒が暮らしており、一志が出張で帰りが遅いので、大志は夕食を御馳走になった。美緒が大志と一緒に琴美の所へ遊びに行きたいと言うと、里美は少し動揺してから「ダメよ、勉強に行ってるんだから」と告げた。
叔母の家で勝手にアルバムを開いた大志は、かつて里美が琴美と一緒にパリ旅行をした時に撮影した数枚の写真を見つけた。だが、その内の一枚が抜き取られていた。そして隣の写真に写っている琴美は、手紙に同封されていた彼女と同じ服装だった。大志は父の部屋を調べ、山岡静子という人が書いた「琴美さんが撮った写真が出て来ましたので送ります」という手紙の入った封筒を見つけた。封筒の中には、どこかの景色を撮影した数枚の写真が入っていた。封筒に住所は記されていなかったが、大志は北浦の消印に気付いた。
翌朝、大志は一志に、「どうしてママに電話しないの?」と質問する。一志は狼狽し、時差があるからタイミングが合わないのだと説明した。メールアドレスを教えてほしいと大志が頼むと、一志は「ママはパソコンが壊れてるって」と告げた。夏休みに入ったので、大志は郵便局を訪れて局員に質問し、全国に北浦という消印の場所が4つあることを知った。大志は美緒に手紙や写真を見せ、琴美がパリにいないのではないかという推測を述べた。
一枚の写真を見た美緒が教科書を調べ、それが小豆島で撮影された物だと判明した。大志は一志に内緒で琴美に会いに行こうと考えるが、美緒は「1人じゃ無理だよ。ちゃんとおじさんに相談した方がいいよ」と諭す。「やっぱりお父さんには言わない方がいい気がする」と大志が漏らすと、美緒は自分がガールスカウトをしていることを利用するアイデアを思い付いた。一志は美緒から大志をキャンプに連れて行くと聞かされると、すっかり信じ込んだ。大志は愛犬を自転車の駕籠に入れ、自宅を出発した。
大志が新横浜駅に到着すると、美緒は「岡山まで新幹線で行って、新岡山港からフェリーに乗るの」と教えた。大志はリュックに愛犬を入れ、美緒と別れて駅に入った。すると駅員が声を掛け、切符を確認して「岡山まで1人で行くの?あっちで誰か迎えに来てくれるの?」と尋ねる。慌てて逃げ出した大志は岡山運送のトラックを見つけ、自転車で追い掛けた。大志は運転手の憲雄に手を振るが、全く気付いてもらえなかった。コンビニ前に駐車しているトラックを発見した大志は、こっそり荷台に潜り込んだ。
一志は客と話している最中、琴美に異変が起きた時のことを思い出した。まだ大志が赤ん坊の頃、琴美は数日前に玩具を買ったことを覚えておらず、同じ物を購入したのだ。一方、憲雄はトラックを走らせるが、別れた恋人の陽子が道路を遮ったためにブレーキを掛けた。陽子は一緒になるという約束を破った憲雄に激怒し、激しく詰め寄った。陽子はなだめようとする憲雄を突き飛ばし、トラックを奪って走らせる。困った大志が覗いていると、陽子は彼に気付いた。
大志は逃げ出そうとするが、陽子が呼び止めて助手席に乗せた。大志は陽子に質問し、岡山が社長の名前であること、岡山へは行かないことを知った。陽子は富士川サービスエリアに立ち寄り、昼食を取った。一方、彼は静子の手紙が無くなっていることに気付き、慌てて部屋中を捜索する。捜しながら彼は、病院で琴美がアルツハイマーの発症を宣告された時のことを回想する。「こうしてる今も、どんどん進んでる」と琴美は涙を浮かべるが、まだ幼い大志の前では明るく振る舞った。
大志は陽子が憲雄を気にしていると見抜き、「僕、新幹線で行きます。お姉さんは戻って下さい」と告げた。西明石駅の近くでトラックを降りた大志は、自転車で走り始めた。彼が逃げ出した愛犬を見つけて呼び掛けていると、警官が現れた。自転車を見た警官は横浜から来たことを知り、「お父さんに言うて来たんか?一人で来たんか」と質問する。大志が慌てて逃げ出す様子を、同年代の由美という少女が見ていた。大志が警官に捕まると、由美は親戚を装って話し掛けた。
由美は「ウチに泊まりに来てんねん」と警官に説明し、大志を連れて立ち去った。由美は実家の明石焼き屋へ大志を連れて行き、詳しい事情を尋ねた。由美は浩子と2人暮らしだった。浩子から「ウチの人に、ここへ泊るって言うとき」と促され、大志は一志に電話を掛けた。彼はキャンプに来ているように装い、「予定通り、明後日帰るから」と告げた。一方、一志は里美から、大志が琴美はパリにいないことに気付いたのではないかと聞かされた。
由美は大志に、父が女を作って家を出て行ったこと、母は「仕事で遠い所へ行っている」と自分に嘘をついていることを話す。「アンタも捨てられたんや。小豆島に行ったかて迷惑がられるだけや」と由美が言うと、大志は「そんなことない」と反発する。「ホンマに大事やと思たら会いに来るはずや」という由美の言葉に激怒し、大志は掴み掛かった。「大人はみんな嘘つきや」と由美が言うと、大志は「ママは絶対に裏切らない」と反発する。浩子の声が聞こえたので、慌てて2人は寝たフリをした。
一志は大志の部屋で書き掛けの手紙を見つけ、琴美が大志と外出している最中に家が分からなくなった出来事を思い出した。雨の中に放置された大志は熱を出してしまい、琴美は「ここにいていいのかな?母親らしいこと、何もしてあげられないし。また今日みたいなことがあったら?」と口にした。一方、由美は大志と仲直りし、「アンタとは違うわ。アンタみたいにお父ちゃん好き、お父ちゃん信じてるって、よう言わん。お母ちゃん、アンタのこと待ってはるわ。手紙って、会いたい人にしか書けへんもんな」と告げた。
翌日、大志は由美と浩子に別れを告げて出発し、自転車で岡山に入った。里美は本当のキャンプから戻った美緒を問い詰め、大志が小豆島へ向かったことを聞き出した。一志は駅で確認を取り、大志が新幹線に乗っていないことを知った。大志はヒッチハイクでフェリー乗り場に到着するが、台風接近に伴って欠航していた。一方、一志は琴美が火事を起こした時のことを思い出す。「もう限界かな」と漏らした琴美に、一志は「大志はどうする?大志の母親は琴美だけなんだよ」と告げて思い留まらせようとした。すると琴美は、「だから行くの。大志の母親でいられる内に」と述べた。
大志は雨宿りをしている内に、気を失って倒れた。愛犬は走り出し、亡き妻の元へ行くため入水自殺しようとしていた正太郎という老人を見つけた。愛犬は正太郎に吠えて緊急事態を知らせ、大志の元へ案内した。正太郎は自宅に大志を連れ帰り、布団に寝かせて介抱した。大志は事情を語り、「家族に会えないなんておかしいでしょ。ママに会えば事情が分かる」と言う。正太郎は「他に誰もいないの」と質問されると、「家族はおらん」と声を荒らげた。だが、彼の部屋には息子一家の写真が飾られていた。
正太郎の家に祐一が乗り込んできて、後追い自殺を図ろうとしたことを激しく非難した。正太郎は喧嘩腰で応対し、祐一を追い払った。大志は「死なないでよ。さっきの人だって悲しむよ。お爺ちゃんのこと、すっごく心配してた。びしょ濡れだったじゃない。お爺ちゃんのこと捜し回ってたんだよ」と告げた。大志が就寝した後、正太郎は一志に電話を掛けた。大志を泊めていることを彼が話すと、一志は息子を小豆島へ行かせないでほしいと頼む。しかし正太郎は「何があっても受け止める力が息子さんにはあるんじゃねえじゃろか」と告げ、大志の頼みを断った。翌朝、大志は正太郎に見送られてフェリーに乗り、小豆島へと辿り着いた…。

監督は河野圭太、原作は新堂冬樹『僕の行く道』(双葉文庫/双葉社)、脚本は今井雅子、製作は品川惠保&與田尚志&高橋浩&福原英行&尾越浩文&山田良明&松田英史&中野隆治&宮崎恭一&上原徹、プロデューサーは井口喜一&木村立哉、アソシエイト・プロデューサーは竹内一成、撮影は伊藤清一、照明は田頭祐介、録音は山方浩、映像は桜庭武志、編集は深沢佳文、ドッグトレーナーは宮忠臣、VFXスーパーバイザーは鹿角剛司、音楽は渡辺俊幸。
主題歌『抱きしめて』歌唱:さだまさし、作詞・作曲:さだまさし。
出演は武井証、阿部サダヲ、鈴木京香、西田尚美、甲本雅裕、柄本明、鈴木砂羽、市毛良枝、坂口拓、安部美央、藤原里奈、梅原真子、ほっしゃん。(現・星田英利)、高橋努、宮田早苗、谷川昭一朗、浅野麻衣子、山口龍人、金子裕、峯村淳二、幸将司、高橋未希、歌原奈緒、仲村瑠璃亜、西崎彩、平澤慧洸、森きく子、鈴木太陽、高橋優斗、宮田琉生ら。


新堂冬樹の小説『僕の行く道』を基にした作品。
監督の河野圭太と脚本の今井雅子は、『子ぎつねヘレン』に続いて2度目のコンビ。
大志を武井証、一志を阿部サダヲ、琴美を鈴木京香、里美を西田尚美、誠治を甲本雅裕、正太郎を柄本明、浩子を鈴木砂羽、静子を市毛良枝、憲雄を坂口拓、美緒を安部美央、陽子を藤原里奈、由美を梅原真子、警官をほっしゃん。(現・星田英利)、祐一を高橋努が演じている。
文部科学省選定、東京都青少年健全育成審議会推奨作品。
とりあえず、「こんなモンを推奨してる文部科学省や東京都青少年健全育成審議会は、やっぱりロクな組織じゃねえな」と感じさせられた。

まず、初期設定に大きな無理があるし、違和感もある。
一志は大志に「ママはパリに留学している」と嘘をついているのだが、そんな嘘をつく必要性が良く分からない。
面倒だから早々とネタバレを書くけど、ようするに琴美は病気で(劇中での言及は無いが、症状からするとアルツハイマーだろう)、小豆島の施設に入っているのだ。
で、それが分かった時に、「そのことを大志に隠している意味ってある?」と思っちゃうのよ。むしろ、ちゃんと真実を説明した方がいいんじゃないかと。

しかも、その嘘は映画序盤で露呈しているように、簡単にバレちゃうような下手な嘘なのだ。
「なぜ電話を掛けないのか」「なぜメールでやり取りしないのか」「なぜ会いに行ってはいけないのか」といった疑問を抱くことは容易に想像できるのに、その度に狼狽するような状態で嘘をつき続けようってのは、あまりにも考えが浅はかだ。
そもそも「ママはデザインの勉強でパリに留学中」という嘘をついている時点で、「もっと他に無かったのか」とは思うよ。
だけど、そういう嘘をつき続けようと決めたのなら、ちゃんと「もしも色々と質問された場合」の備えを用意しておけよ。

大志が小豆島へ向かう動機は、かなり弱い。
そこは本来なら、「是が非でも母親に会いたい。今すぐ母親に会いたい」という強い欲求が見えるぐらいの形にしておくべきだろう。
しかし実際には、「どうやら琴美は小豆島にいるようだ。だから会いに行こう」という程度だ。
そこは「会いに行きたい」ということ自体が目的になっているのだが、そうではなく「ホニャララだから今すぐ母に会いたい」という形にした方がいいと思うのよ。

話の作りからすると、「大志は一刻も早く母親に会いたいので、必死になって小豆島を目指す」という形になっていなきゃ成立しないはずなのよね。
ところが実際に映画を見る限り、「可及的速やかに」ということを求めるような状況ではない。もう小豆島にいることは確定的と言ってもいいんだから、そんなに焦る必要も無いだろうと思ってしまう。
例えば、新幹線に乗ることに失敗したら、「また日を改めて行けばいいんじゃないか」という感じなのだ。
母とは手紙のやり取りをしているんだし、そんなに必死になって「今すぐ会わなきゃ」と思えような状態でもないでしょ。

これが例えば、「母親が病気だと知った」「どんどん記憶が薄れて行き、息子の顔も思い出せなくなることを知った」ということなら話は別だよ。そうなったら、そりゃあ「今すぐ会いたい、絶対に会いたい」という気持ちになるだろう。
でも、病気のことを大志は知らないわけで。だったら、そんなに急ぐ必要も無いかな、そんなに無理する必要も無いかな、ってことになるでしょ。
っていうか、さっさと病気のことを明かして、その上で「だから大志は今すぐ母や会いたいと願う」という内容に変えちゃった方が良かったんじゃないかと思うぞ。どうせ早い段階で、観客には「琴美がアルツハイマーを患い、大志の元を去った」ということは明らかにされるんだし。
大志が真実を知らないまま旅に出る展開にするのなら、終盤になって彼が知るまでは観客にも真実を隠しておかなきゃ意味が無いでしょ。

余計な台詞の多さが、ただでさえ出来の悪い本作品を、さらに野暮ったい印象にしている。
例えば大志がアルバムを見るシーンでは「パリの写真もあるかな?」と呟き、琴美の写真を見つけると「ママだ」と言う。一枚だけ写真が抜き取られているのを見つけると、「どういうこと?」と口にする。静子の封筒を自室で見つめる時には、「お父さん、嘘ついてるのかなあ。住所も書いてないし」と呟く。トラックの荷台に乗り込んだ時には、愛犬に「おいで。ママの所へ出発だよ」と話し掛ける。
そういうのって、まるで要らない言葉なのだ。
なぜ、無駄に説明したがるのか。

大志は小豆島を目指す旅に飼い犬を連れて行くのだが、その理由がサッパリ分からない。
まず、連れて行く必要性は全く無い。「琴美に会わせたい」という強い欲求があるわけでもないし、「大志は何をするのも、いつも愛犬と一緒だから」という設定があるわけでもない。
一応、自宅のシーンでは常に犬を大志の近くに配置するようにしているけど、「大志と愛犬はいつも一緒、とっても仲良し」という印象は受けない。
そもそも、大志は新幹線に乗ろうとしていたんでしょ。だったら犬は連れて行かない方がいいでしょうに。

しかも、そこまで無理をして「犬を連れて行く」という設定にしたことが後の展開で意味を持つのかというと、そうでもないのよ。
犬を同行させなかったとしても、ほとんど影響はない。
その犬は、旅の中で重要な役目を担っているわけではないのだ。
大志が倒れた時に老人を呼びに行くという役目は担当しているけど、そこは例えば「大志が倒れているのを、自殺を図ろうとしていた老人が見つける」という形にしてしまえば、犬は要らなくなるわけだし。

大志は駅員に「岡山まで1人で行くの?あっちで誰か迎えに来てくれるの?」と質問されただけでビクビクしてしまい、慌てて逃げ出す。
そんなヘタレなガキンチョが、果たして他の方法を思い付いて小豆島まで行けるのかと考えると、まあ無理だろう。それどころか「諦めて家に帰る」という選択を取るんじゃないかと思ってしまう。
ところが、大志は岡山運送のトラックを見つけると自転車で追い掛ける。そして運転手が離れている隙に、自転車を乗せて、自分も潜り込む。
そういうトコだけ、妙に勇ましいのだ。とても駅員の質問にビビって逃げ出した奴とは思えん行動力だ。
愛犬も乗せているが、「鳴き声で気付かれるかも」ということは考えていないんだろう。

陽子は憲雄に怒りをぶつけた後、彼を突き飛ばしてトラックを奪うのだが、その行動原理がサッパリ分からない。「裏切った憲雄に腹を立てました」→「だからトラックを奪って逃走しました」って、どういうことなのかと。
そこは、「陽子が大志をトラックで送って行く」という段取りが先に用意されていて、そこに向けた逆算をマトモにやっていないから方程式が成立していないという印象が強いわ。おまけに、そこまで無理をさせたのなら陽子には大志を目的地まで送り届ける役目を担当させるべきだろうに、西明石駅の近くで降ろしてしまうのだ。
そりゃあ、大志の方から「新幹線で行きます」と言い出したんだから、それを受け入れただけではあるのよ。ただし、小学生のガキを、誰も迎えがいない場所に一人で置き去りにするってのは、かなり薄情な女に見えるぞ。せめて新幹線の駅まで送ってやれよ。
なんで西明石駅の近くという中途半端な場所なんだよ。
あと、新幹線に自転車は乗せられないことに気付いてやれよ。

明石で警官に質問された大志は慌てて逃げ出すが、そこにきて再びビビリ根性になってるのね。駅員や警官など、制服を着た大人には腰が引けてしまうという設定だったりするのか。
で、その流れで由美という少女が大志を家に連れ帰るのだが、なかなかの強引さだ。
そんで母親の浩子は、横浜から来たガキンチョを簡単に泊める。一志は大志からの電話で「親切な明石焼き屋さんに泊めてもらうから」と言われ、何の疑いも持たずに受け入れる。
キャンプに行っているはずなのに「明石焼き屋さんに泊めてもらう」と言ってしまう大志もボンクラだが、そこで疑問を抱かない一志もボンクラだ。

実は陽子との交流にしろ、由美との交流にしろ、一応は「彼女たちの置かれている状況と大志の状況を重ね合わせ、陽子や由美の言葉に大志が何を感じ、その逆もある」というエピソードとして作ろうという意識は感じられる。
だけど、ものすごく薄っぺらいし、何も心に残るモノは無い。だからロード・ムービーとしての面白さは皆無と言ってもいい。
で、大志は「どうやって岡山まで行くのか」と気にすることも無く、新幹線で行くという彼を駅まで送って行くこともしないノンビリしすぎの浩子と別れた後、自転車で岡山を目指す。
それって相当にキツいと思うんだけど、挿入歌に乗せたダイジェスト処理の間に、簡単に岡山まで到達している。
そんで彼は暴風雨が来てから車をヒッチハイクするんだけど、自転車で頑張らなくても、最初からそうすりゃいいんじゃねえのか。

大志と正太郎の交流も、これまた2人の境遇を「家族の絆をキーワードにして重ね合わせ、そこで感動的なエピソードを作ろうとしていることは明白だ。
だが、失敗していることも明白である。
大志が「死なないでよ。さっきの人だって悲しむよ。お爺ちゃんのこと、すっごく心配してた。びしょ濡れだったじゃない。お爺ちゃんのこと捜し回ってたんだよ。嫌いな人のこと、本気で心配したりしないよ。心配してくれてる家族がいるのに、死んじゃうなんて勿体無いよ。好きだから会いに行くんだよ」と訴えても、まるで心に響かない。
小豆島に着いた大志は、「ここに来たことがある」と思い出し、行く先々で脳裏によぎる記憶を頼りに自転車を漕ぐ。
そこにきて「大志が過去の記憶を辿る」という展開になるのは、かなり唐突な印象が強くて、「母を見つけ出す方法として、他のアイデアは無かったのか」と言いたくなる。

で、ともかく大志は光彩園というホスピスに辿り着くのだが、「感動の再会」というお涙頂戴を狙うのかと思いきや、琴美を見た途端に「この人、誰?」と真顔で口にする。
いやいや、誰がどう見たってテメエの母親だろうに。
これが「すっかり衰弱し、以前とは別人のようになっている」ということならともかく、まんま鈴木京香なのよね。痴呆っぽい表情を浮かべているだけで、外見はそれほど変化していないのよ。だから、そこで「この人、誰?」は、台詞として不自然極まりないぞ。
たぶん、「自分の母親は元気で明るい人のはずで、虚ろな目で車いすに乗っているのが母親だと認めたくない」ということを表現しようとしているんだろうとは思うよ。でも演技の付け方に無理があり過ぎるから、ただの薄情なガキにしか見えないのよ。
その後で静子に「お母さんじゃないよ。ねえ、嘘だって言ってよ」と泣き出すのも、無理に段取りを消化しようとする下手な芝居にしか見えないし。

で、静子は琴美が完全に痴呆状態になる前に録音しておいた大志宛てのメッセージテープを再生するんだけど、そこに琴美の息子に対する思いが切々と語られており、BGMも流して感動的に盛り上げようとしているのかと思いきや、なんと大志は途中でテープを止めてしまう。そして「聞きたくない。ママに会えると思って横浜から来たのに。ママだったら何か言ってよ」と訴える。
いやいや、子供だから簡単に事実を受け入れられないってのも分からんではないが、それはウザいガキに感じちゃうわ。
そんで押し花が風に舞って飛んだらテープを再生するんだけど、どういう心境の変化なのか良く分からんし。
琴美が大志の腕を掴む描写で感動的にまとめようとしているけど、感動なんて皆無だよ。
あと、大志が泣いて琴美に抱き付く様子を見る限り、演技の付け方云々という問題ではなく、単純に武井証の芝居が下手ってことだろうな。

(観賞日:2015年2月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会