『僕らのごはんは明日で待ってる』:2017、日本

高校生の葉山亮太が教室で窓の外を見ていると、クラスメイトの上村小春が「たそがれている所、悪いんだけど、確認だけしていいかな」と声を掛けた。亮太が戸惑っていると、彼女は「米袋ジャンプになったけど、いいよね?」と言う。小春は体育祭で参加する競技を決めており、亮太は知らない内にミラクルリレーの第3走者に割り振られたのだ。放課後、小春は亮太に練習を要求し、暗いからペアになるのを皆が嫌がって体育委員の自分が引き受けたのだと説明した。
亮太が中庭で『風立ちぬ』を読んでいると、気付いた小春は「死んだ人の出る本ばっか読んでるんだね」と指摘する。亮太は「そうだね」と認め、図書館の本を順番に読んでいて『風立ちぬ』が2度目であることを話した。米袋ジャンプの練習で、亮太は自分が前に入ることを提案した。彼が考えた通り、男が前に入った方が速く進むことが出来た。練習の後、小春はポカリスウェットのペットボトルを差し出し、亮太と一緒に飲んだ。
亮太が空を眺めて「ちょうどこんな日だったんだ。兄貴が死んだの」と口にすると、小春は「そうだね」と返した。同じ地域に住んでいる小春は、亮太の兄が17歳で死んだことを知っていると告げる。亮太が兄の敬太について詳しく語ろうとすると、小春は「その話、長くなるかな」と遮った。彼女は「私、選抜リレーに出るから練習して来るわ」と言い、その場を去った。敬太の墓参りに出向いた亮太は、病室で「どんな時だって、食べなきゃ勿体無い。明日、食べられなくなるのは、お前の方かもしれない。食べろ、飲め。死は誰にでも来る」と言われた時のことを思い出した。
翌日、小春は「探してみたら家にたくさんあったんだ」と亮太に言い、死んだ人が出てくる小説を大量に差し出した。祖父が好きだったがブックオフに持って行くつもりだったと彼女は語り、亮太にプレゼントした。体育祭の当日、亮太と小春は米袋ジャンプで逆転し、最下位から1位になった。小春が「1位になったら葉山くんに告白しようと決めてた」と口にすると、亮太は驚いて「なんで?」と尋ねる。小春が「何でもちゃんとしてるし」と答えて返答を求めると、困惑した亮太は彼女を振った。
亮太は小春が気になり、学校を休んだ日には家まで様子を見に行く。小春は学校でも流行しているインフルエンザだと教え、亮太は持参したポカリスウェットを渡した。彼が「俺、好きになるのが怖いんだ」と話していると、小春の祖母の芽衣子が帰宅した。小春が確認すると、亮太は「いいことを手にするのと引き換えに、虚しい思いが待ってるかも。最初から無ければ、悲しい思いもしなくて済む」と考えを説明した。亮太が高卒で就職するつもりだと知った小春は、「大学は楽園みたいな場所だと思う。入っちゃえば、自分を探すって言ってタイに行ったり、地球を守るって言って浜辺で空き缶拾ったり」などと語って大学を受験するよう勧めた。彼女はポカリスウェットを掲げ、「今の所、死ぬ予定は無いから。インフルエンザにはうっかり罹っただけで、基本、健康だから」と軽く笑った。
後日、亮太は小春に、「高校、行くことにしたから」と告げる。小春が嬉しそうに「どこ行くの?」と希望の進路を尋ねると、彼は「上村と同じ大学に行く」と答えた。しかし小春は西崎女子短期大学に進学したので、亮太が同じ大学に行くことは不可能だった。彼は短大の近くにある明桜学院大学へ進学し、小春と付き合い始めた。小春はケンタッキーフライドチキンの新しい店へ彼を連れて行き、カーネル・サンダースについて詳しく語る。彼女はカーネル人形と握手し、「なんか勇気貰える気がするでしょ」と告げた。小春に促され、亮太も人形と握手した。
2人が店で食事をしていると、亮太が大学で親しくなった塚原優介が恋人の美香と一緒に現れた。塚原は挨拶し、借りていた講義のノートを返して去った。小春が「少し前まで周りから孤立してたのに」と軽く笑うと、亮太は「たそがれなくなっただけで、そんなに変わってないのにな」と呟いた。「結局は、どういうのが自分なのか不明なんだ」と彼が言うと、小春は「私も時々、そういうこと考えるよ。本当の自分は何なのかって、永遠のテーマでしょ」と語った。
小春はデパートの屋上へ行き、祖母に連れられて良く来ていたことを亮太に語る。2年後には保育士になる夢を小春が明かすと、亮太は「お母さんも保育士?」と訊く。小春は「違うから」と答え、父について問われると逆に「葉山くんの家は?」と質問する。答えた亮太が改めて質問すると、小春は「両親っていないんだ。お祖父ちゃんは3年前に亡くなって、家にいるのはお祖母ちゃんと私だけ」と告げた。「何も知らなかった」と亮太が少し責めるように言うと、彼女は「付き合うのに家庭環境を報告する必要があるの?。昔、不幸だったって話を披露するの、好きじゃないの」と語った。
亮太が「でも知りたいじゃん。あまり人に見せない部分を見せてくれたら安心するじゃん。俺、上村の泣いた所も見たことない」と言うと小春は「確かに無いかも」と納得し、「私が泣いてる時は相当弱ってる時だから、その時には必ず助けに来てね」と笑った。小春が「本当の自分は何かっていう永遠のテーマを抱えたまま、他人のことまで知ろうなんて、傲慢だと思わない?」と話すと、亮太は「分かった。俺、タイに行く」と宣言した。
亮太は観光ツアーに参加してタイを訪れ、関西から来た女性たちに小春のことを相談する。女性たちは呆れた様子で、「世の中、知らん方がええことの方が多いで」と自分たちを例に挙げて助言した。帰国した亮太は、小春はオーストラリアへ鉱石探しに行っていたと聞いて驚いた。小春は亮太に、「誰かと仲良くなって、一緒に何か出来ればいいって分かってるのに、それをやる根気が無いんだ。自分の内側を話すことで相手を安心させられるのは分かる。でも、深刻な所を見せた後、自分でどうしていいか困るんだよね」と述べた。
小春は亮太の部屋を訪れ、ケンタッキーフライドチキンの味を再現してみた。彼女はチキンを食べる亮太を見て、「食べるの綺麗だよね。中学の頃から給食食べるの上手だった。その頃から葉山くんのこと好きなんだ」と話した。亮太は彼女に、「兄貴が亡くなって、ようやく終わったって、どこかでホッとする部分があった。それが嫌だった」と語った。小春は母親が若い時に妻子ある相手との間に出来た娘が自分であること、こっそり育てようとしたが半年で露呈したこと、母が自分の両親に自分を預けて家を出て行ったことを明かした。そして彼女は、「その分、自分が親になった時は、絵に描いたような幸せな家庭を築きたいと思ってるんだ」と語った。
3年後。小春は保育士として働いており、大学4年生の亮太は就職が内定した。小春が珍しく平日に亮太をファミレスへ誘い出し、唐突に「もう別れよう」と口にする。淡々としている小春に困惑した亮太が理由を訊くと、「理由なんて言い出したらキリが無いよ」と軽く言う。亮太が「ちゃんと説明しろよ」と口を尖らせると、小春は「まず葉山くん、年下だし。学生なのも気になるし」と適当な理由を並べるが、亮太は納得できなかった。小春は「じゃあ、総合評価ってことで。悪いけど、もう決めてるんだ。面倒だからゴチャゴチャ言わないで」と、最後まで冷たい態度を取った。
塚原は落ち込む亮太を励まし、合コンに連れて行く。ずっと陰気にしている亮太だったが、大学2年の鈴原えみりが積極的に話し掛けた。えみりは合コンの翌日以降も亮太にアプローチし、3週間後には成り行きのような形で交際が始まった。亮太は兄の墓参りに出掛け、墓前で手を合わせている小春を目撃した。小春が「1ヶ月に1回、来てるだけ」と告げて立ち去ろうとすると、亮太は改めて別れの理由を訊く。「もう別れられたんだから、ホントのこと教えてくれたっていいだろ」と亮太が言うと、小春は「太陽みたいな人と付き合わないとって、お祖母ちゃんに言われたんだ。家族のことで苦労してるのに、同じような陰を抱えた人と一緒になるのは賛成できないって」と説明し、亮太が「俺たち、子供じゃないんだからさ」と言うと「大人になろうが、お祖母ちゃんの言うことは聞かなきゃ。私にとってお祖母ちゃんの言葉は、日本国憲法よりも重いんだ」と述べた。
えみりは亮太から前の彼女がケンタッキーフライドチキンを真似した料理を作ったことがあると聞き、自分も再現してみた。彼女は泊まりの旅行を計画し、亮太が前の彼女と日帰り旅行しか経験が無いと聞いて「やったね」と喜んだ。えみりは「私は亮太がいれば、どこでもいいや」と抱き付くが、亮太は彼女の背中に両手を回そうとしなかった。塚原は亮太が旅行に気乗りしていないことを悟り、「行かなくていいんじゃね?」と告げる。自分のいい加減さから目を背けていただけだと気付いた亮太は、えみりに別れを告げた。
亮太は小春の家へ行き、「分かったことがあるんだ。俺、上村のことが好きなんだ。だから上村のためなら頭の固いお祖母さんを説得することも出来るし、可愛い女の子を傷付けることも出来てしまう」と訴える。小春は「ゾッコンだったのに、あっさり気が変わるなんて調子が良すぎるんじゃない?」と呆れ、「私は周りを切り離せない」と復縁の可能性が無いことを告げた。「もう少し努力してほしい。上村はいつも少し引っ掛かっただけで、めんどくさくなって切り捨ててしまう。でも、たまに頑張ってよ」と亮太が語ると、彼女は「勝手に分析しないでよ。とにかく私、葉山君とヨリ戻す気は無いから」と冷たく拒絶した。
亮太は大学の卒業式を休み、心配した塚原は家を訪ねて「会社は行けよ」と告げる。就職した亮太は、帰りに園児を引率する保育士の伏見と遭遇した。伏見と話した彼は小春のことを聞き、病院へ赴いた。亮太は病室にいた芽衣子に挨拶し、小春に事情を説明するよう求めた。小春は子宮に悪性の可能性が高い筋腫が見つかり、摘出手術を受けるために入院したのだった。小春は「迷惑だから」と来ないよう告げるが、亮太は夜中に病室へ侵入して彼女に寄り添った。同室の患者である山崎真喜子と話した亮太は、小春が自分に負担を掛けたくないという思いから別れを告げたのだと悟った…。

脚本・監督は市井昌秀、原作は瀬尾まいこ「僕らのごはんは明日で待ってる」(幻冬舎文庫)、製作は長澤修一&藤島ジュリーK.&見城徹&水野道訓、エグゼクティブプロデューサーは豊島雅郎、 プロデューサーは宇田川寧、荒木美也子、アソシエイトプロデューサーは大楠正吾、ラインプロデューサーは的場明日香、撮影は関将史、照明は岩切弘治、録音は西條博介、美術は塚本周作、編集は相良直一郎、音楽は兼松衆、主題歌『僕らのために...』はケツメイシ。
出演は中島裕翔、新木優子、美山加恋、岡山天音、松原智恵子、片桐はいり、藤本洋子、越山深喜、工藤時子、岡田夏海、永井ちひろ、波里慧、平田敬士、村中龍太、北勉、河原隆乃介、空閑琴美、林香帆、増田優子、高野萌夏、松岡佑実、ならゆりあ、鈴木知尋、田中宏宣、船崎良、佐久間利恵、宮内杏子、那須沙綾、田中里実、鎌滝秋浩、内山由香莉、大津尋葵、ブンシリ、吉田騎士、星流、橘家二三蔵、小貫加恵、福田温子、本間淳志、田中誠人、小野桃花、枝元深佳、森谷文子、大月秀幸、一條眞紀子、芝本保美、謝花弘規、比嘉浩司、遠藤隆太、加藤弘晃ら。


瀬尾まいこの同名小説を基にした作品。
監督&脚本は、『箱入り息子の恋』で第54回日本映画監督協会新人賞を受賞した市井昌秀。
亮太を演じたHey! Say! JUMPの中島裕翔は、前年の『ピンクとグレー』に続く2度目の映画主演。
小春を新木優子、えみりを美山加恋、塚原を岡山天音、芽衣子を松原智恵子、真喜子を片桐はいり、観光ツアーの関西女性3人組を藤本洋子&越山深喜&工藤時子、美香を岡田夏海、伏見を永井ちひろ、敬太を波里慧が演じている。

小春はインフルエンザになった時、亮太にポカリスウェットを掲げて「今の所、死ぬ予定は無いから」と言う。
でも、そんなことを唐突に言い出す理由がサッパリ分からない。亮太が死を心配していたわけでもないし。体育祭で小春がポカリスウェットを出した時に亮太が兄の死について話していたけど、だからって「ポカリは死を連想させる飲み物」という共通認識が全員に出来上がったとは到底言えないでしょ。
もしかすると後に繋がる伏線として、どこかのタイミングで女に「まだ死なない」と言わせておきたかったのかもしれない。
でも、そうだとしても、そもそも言わせておく必要さえ無いし、言わせるタイミングとしても変だよ。

それが死に繋がるかどうかは置いておくとして、ポカリスウェットが亮太と小春の関係にとって重要なアイテムとして使われていることは明らかだ。
でもタイトルを考えると、そこは「ごはん」であるべきでしょ。ホントは米(おにぎりとか)が理想だけど、大きな意味で食事なら何でもいい。
それ以降も2人が様々な食事を取るシーンが出て来るが、なんで1発目がスポーツ飲料なのか。
しかも、ただスポーツ飲料ってだけでなく、大塚製薬の露骨なプロダクト・プレイスメントになってるし。
プロダクト・プレイスメントが絶対悪だとは言わないが、「ごはん」の一発目でプロダクト・プレイスメントはダメだろ。

亮太が病室の敬太を思い出す墓参りでの回想シーンがあるが、ここで兄が差し出す食べ物が何なのか分かりにくい。
まあパンなんだろうと思うけど、もっと具体性があった方がいい。そして、「明日、食べられなくなるのは、お前の方かもしれない。
食べろ、飲め。死は誰にでも来る」と敬太が説いた後、絶対に亮太が食べるシーンを用意すべきだ。
もしも回想シーンでパンを食べる様子を描かないなら、墓前で何かを食べてもいいだろう。
そこに限らず、この映画ってタイトルの割に、食べる描写に対して無頓着なのよね。

亮太が高校を卒業したら就職する考えを明かすと、小春は反対して大学へ行くよう勧める。
だけど、別に亮太が高卒で就職しても、それはそれで1つの人生だ。本人が決めたのなら、それでいいんじゃないかと思うのよね。「ホントは大学へ行きたいけど、何らかの理由で回避している」ってことでもないし、「現実逃避として就職を選んだ」ってことでもないし。
なので、本人の意思で決めた就職に小春が反対するのは「なんで?」と言いたくなる。
これが「同じ大学へ行きたがっているから」ってことなら、ものすごく分かりやすいのよ。でも、そうじゃなくて、彼女は女子大へ行くわけでね。
そうなると、「大学は楽園みたいな場所だと思う」と誘惑するのは、ホントに亮太のためになっているのかどうか微妙になってないか。

亮太と小春が大学に進学した直後、ケンタッキーフライドチキンへ行くシーンが出て来るので「マジかよ」と言いたくなった。2つ目もプロダクト・プレイスメントって。
ちなみに小春が別れを告げる場所はガストだが、「プロダクト・プレイスメントで徹底する気なのか」と呆れてしまった。
それはひとまず置いておくとして、小春はケンタッキーフライドチキンを食べる時、ポカリスウェットを飲む時と同様に「勇気が貰える気がする」と言う。
それを繰り返すぐらいだから重要な意味を持つシーンのはずだが、ここも「食べる」という行為は雑に処理される。

映画を見ている人間が「ケンタッキーフライドチキンが美味しそう」と感じるような撮り方は、全くしていない。
ただ単に、2人の会話を見せたくて、そこにケンタッキーフライドチキンが存在する」だけだ。そこにケンタッキーフライドチキンが無くても、何の問題も無い。
そりゃあ、そこでケンタッキーフライドチキンをアピールしたら、さらにプロダクト・プレイスメントが強くなることは確実だよ。
でも、食事を「無くても別にいい要素」として扱う方が、もっとダメでしょ。

小春がケンタッキーフライドチキンを再現するシーンでは、「食べるのが上手だった。中学時代から好きだった」と亮太に言う。
だけど、「食べる」という行為の重要性が高いわけではないのよ。
小春は亮太の食べる様子に惹かれたわけじゃないし、「食べる」という要素を抜いても何の問題も無く成立するシーンになっちゃってるし。
「結局はお涙頂戴の難病モノなのね」と冷めた気持ちになってしまう一番の原因は、「ごはん」を大切にしない描写にあるんじゃないかと思うぞ。

小春が「本当の自分は何かっていう永遠のテーマを抱えたまま、他人のことまで知ろうなんて、傲慢だと思わない?」と口にすると、亮太が「分かった。俺、タイに行く」と宣言するシーンがある。
この時、小春が「はあっ?」と驚くが、全く同じ気持ちになる。その流れで、なぜ「タイに行く」という答えが出て来るのかサッパリ分からない。
そりゃあ小春が大学進学を勧める時にタイのことは話していたけど、伏線として機能しているとは言い難い。
あと、もっと言っちゃうと、亮太がタイに行く展開って、全カットでも何の支障も無いし。そこが大きな意味を持っているようには、到底思えないのよ。

この映画って、「なんで急にそんなこと言い出すの?」と違和感を覚えるシーンが何度も出て来る。
ケンタッキーフライドチキンを再現するシーンでは、それが連続する。
小春は亮太が高校でモテなくなっても自分の気持ちが変わらなかったことを語り、「私は目の前の状況にちゃんと対応してる葉山くんが好きだった」と言う。すると亮太は「でも俺、そんなに綺麗じゃないから」と告げ、兄への複雑な感情を吐露する。
この辺りに、強引すぎる段取り芝居を強烈に感じてしまう。

まず亮太が「そんなに綺麗じゃないから」と口にした時点で、「食べ方のこと?だったらタイミングが変だよ」と引っ掛かる。
そこから彼が兄への感情を語り始めると、「ちょっと会話の手順を飛ばしてないか?」と言いたくなる。
小春が亮太を抱き締めて家庭環境について明かすのは、さらに違和感が強い。
それこそ何の流れも無く言い出した唐突な告白なので、「なぜ脈絡ゼロで、そのタイミングなのか?」と。「互いに秘密を打ち明けよう」という流れがあったわけでもないからね。

亮太の就職が内定した後、芽衣子の元へ報告に行くことになるが、実際に対面して話すシーンはカットされている。その帰り道に、芽衣子が冷たかったことを話している様子だけが描かれる。
この時点で「なぜ描かないのか。どう考えても描くべきだろ」と省略の判断に疑問を覚えるのだが、話が少し進んだ後、その気持ちが余計に強くなる。
というのも、小春が別れを告げた理由として、祖母に反対されたからと話す展開があるのだ。それなら余計に、祖母が男に冷淡なシーンは描くべきじゃないのかと。
そもそも「祖母が言ったから」というのは理由としての説得力が乏しいし、「真実を隠しているんじゃないか」とは思わせるけど、それでも実際に祖母が冷淡だった様子を描いておけば、少しは説得力の助けになるでしょ。そしてミスリードの役に立つはずでしょ。

亮太はえみりに別れを告げた後、すぐに小春の家へ走る。だけど、「なんで元カノに告白してんだよ」と呆れるわ。
小春からキッパリと別れを告げられていたのに、「今の彼女と別れたからヨリを戻そう」と持ち掛けているわけでしょ。ただの未練がましい奴じゃねえか。
そんで小春が病気だと知ると「とりあえず傍にいさせてよ」と訴えるけど、これも「あつかましい」としか感じない。
小春から「私たちは終わったの。そういうの本気で迷惑だから」と言われても、夜中に病室へ侵入して寝ている小春の頬を撫でるけど、もはやストーカーでしかないだろ、それって。

亮太は真喜子と話している最中に、「今、分かりました。上村は、俺に迷惑を掛けたくないから、もう会いたくないなんて」と言い出す。
でも、それは彼の勝手な決め付けでしかない。確固たる証拠があって、そんなことを言っているわけではない。
もちろん映画だから、それは正解なのよ。実際に小春は、負担を掛けたくないから冷たい態度で別れを告げたのよ。だから亮太が「彼女は俺のことが好きなんだ」と確信して真っ直ぐに行動するのは、全面的に正しいこととして描かれる。
だけど冷静に考えると、勝手な思い込みで暴走するストーカーのヤバい行動でしかないのよね。
カーネル人形を病室に持ち込むのも、すんげえ迷惑だし。

(観賞日:2021年11月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会