『ぼくらの7日間戦争』:2019、日本

高校2年生の鈴原守は、旧炭鉱の町である北海道の里宮に住んでいる。クラスに友達のいない彼は、大好きな歴史の本を読んで休み時間を過ごしている。守は誰も自分に興味が無いと思っており、歴史マニアの仲間とチャットで交流している。平均年齢は還暦を過ぎていると守は推理しているが、そのチャットが数少ない話し相手だ。守はクラスの千代野綾と家が隣同士の幼馴染で、6歳の頃から片想いが続いている。そのことを彼はチャット仲間の「一色」や「玉すだれ」には打ち明けており、告白するよう勧められている。
妹の凛から千代野家が夏休みの初日に引っ越すと知らされ、守は「来週じゃないか」とショックを受けた。彼は夏休みに訪れる綾の誕生日に向けて、プレゼントを購入していた。翌朝、家を出て学校に向かおうとした守は、綾が地方議員を務める父の秀雄と言い争う様子を目撃した。綾は守に気付くと父の手を振りほどき、「行こう」と告げて逃げるように学校へ向かった。秀雄は苛立ち、秘書の本多政彦に車を出すよう命じた。
綾は守に、引っ越しの理由を説明した。東京で議員をしている柴山勝男が引退することになり、後釜として秀雄が呼ばれたのだ。「せめて17歳の誕生日は、この町で迎えたかったなあ」と綾が漏らすと、守は「東京なんてダメです。だって誕生日は、一緒に過ごせたらって。逃げましょう。大人に見つからない場所へ」と言い出した。すると綾は嬉しそうに微笑み、「嬉しい。私もそう思ってたの。誕生日まで、みんなで家出するの。7日間限定のバースデーキャンプ」と口にした。綾は参加メンバーとして、陸上部員で親友の山咲香織、女子からモテモテの緒形壮馬、ファッション好きの阿久津紗希を集めた。

[DAY1]
立入禁止の看板が出ている橋の前で守が待っていると、綾がやって来た。守は他のメンバーが先に行っていることを教え、綾に借りた秀雄のクレジットカードを返却する。守は秀雄が見当違いの場所を捜すように、ネットで札幌行きの特急券を購入していた。彼は綾に、歴史書で知った作戦を参考にしたのだと説明した。2人は閉鎖された里宮石炭工場に到着し、他のメンバーと合流した。綾が工場に入ると、成績優秀な本庄博人が不快そうな表情で待っていた。彼は幼馴染の紗希に「大事な話がある」と騙されて来ており、家出キャンプには否定的だった。メンバーは手分けして工場を掃除するが、他の人間が潜んでいることには気付かなかった。
その頃、娘の家出を知った秀雄は守の狙い通り、札幌へ向かったと思い込んでいた。彼は警察沙汰にしたくないと考え、秘書の麻川文夫に捜索を命じた。夜、守はカレーを食べながら自宅に電話し、「今からキャンプ場に入るから電話できなくなる」とアリバイ工作をする。守の綾に対する態度を見ていた香織は、理由を付けて彼を連れ出した。「綾のこと、好きでしょ?」と尋ねた彼女は、守の動揺を見て「変なことしたら許さないから」と鋭く告げた。
自分たちの荷物が荒らされているのを見た守と香織は、他にも誰かいると気付く。同じ頃、入国管理官の前田と後藤が工場の外に来ていた。前田は「正式に命令は下りてないんだ」と釘を刺した上で、後藤を連れて工場に入った。守&壮馬&博人が工場内を捜索していると、懐中電灯を持った子供が逃げ出した。悲鳴を耳にした3人が駆け付けると、後藤が外国人の子供を捕まえていた。前田は守たちの前に立ちはだかり、「なんだ、お前ら」と凄む。腕を噛まれた後藤は、子供にビンタを浴びせた。守が後藤を突き飛ばすと、子供は彼の腕を掴んで逃走した。
前田と後藤に追われた子供は、守をトロッコに乗せて逃走する。車庫のシャッターを封鎖した子供は、守に名前を訊かれて「マレット。お前たち、どこから来た?」と口にした。守が仲間の元へ連れ帰ると、マレットはお菓子を貪り食った。マレットは不法滞在で、工場から見える三角屋根のアパートに住んでいたのが両親だった。両親は不法滞在で摘発されたが、マレットは逃げている間にはぐれた。きっと両親が戻って来ると信じ、マレットはアパートを見張っていたのだ。
博人は「犯罪を匿えば罪に問われる」と言い、工場を去ろうとする。しかし綾はマレットに同情し、両親を見つける手助けを買って出た。マレットは「大人は嘘つきだ。優しい顔をして嘘ばかりつく。給料も待遇も、全部ウソ。今さら帰れないから、みんな働いてた。お前たちもどうせ一緒だ」と反発し、その申し出を拒絶した。そこへ戻って来た壮馬は、扉が開かないことを守たちに知らせる。前田と後藤はマレットを捕まえるため、扉を封鎖したのだ。前田は道路に配置する応援を頼み、翌朝を待って収容することを決めていた。壮馬と博人が言い合いになる中、綾の視線に気付いた守は「俺が何とかします」と言い出した。

[DAY2]
朝が訪れ、応援部隊と合流した前田たちは調査を通告した上で工場に突入しようとする。しかし内側から扉が補強されており、開けることは出来なかった。部隊が梯子を使って侵入しようとすると放水で妨害され、パイプ管を使おうとすると消火砂袋を浴びせられた。1階段の窓を壊した部隊が車庫に入ると、トロッコや即席空気銃やクレーンで作業を邪魔された。トロッコを操縦してい博人が取り押さえられると、綾はガスバーナーの火を出して掲げる。彼女が「大きなガスタンクの栓を全部開けました」と脅しを掛けると、前田はブラフだろうと思いつつも爆発の危険を考えて撤退を選んだ。守はタイ人が多い楠洋市に住む「玉すだれ」と連絡を取り、協力を要請した。

〔DAY3〕
秀雄は麻川や本多たちを伴い、仕事を斡旋している建設会社の連中を脅して工場に同行させた。建設会社の社長は、香織の父だった。彼は建設会社に娘を奪還させるつもりだったが、工場に着くとネットニュースの記者や野次馬が押し寄せていた。守は前夜に撮影した工場の動画をネットにアップし、一気に拡散して話題になっていたのだ。ネットニュースの記者に気付かれた秀雄は、慌てて逃げ出した。守は動画の中に、「マレットは大丈夫」というタイ語も入れていた。

[DAY4]
動画を見ていた本多は、秀雄に「誰にも見つからない入り口、見つけたかもしれません」と告げる。動画では全員の顔が分からないように加工していたが、香織の父は娘がいることに気付いた。守は綾と2人になった時、「好きな人っていますか?」と質問する。綾は驚きつつも、「いるよ。でも好きになっちゃいけない人だから。ホントの気持ちを伝えたら、その人には迷惑になっちゃう」と語った。ショックを押し殺した守は、綾が去ってからプレゼントの箱を捨てた。箱に入っていたのは、クマのキーホルダーだった。
守は気付かなかったが、彼がキーホルダーを捨てる様子をマレットが見ていた。香織は夜中に1人でいるマレットを見つけ、声を掛けた。マレットは日本に来たのが去年であること、いい仕事があると聞いていたが嘘だったことを語る。「香織のお父さんとお母さんも仕事を見つけるのに苦労した?」と訊かれた香織は黙り込むが、すぐ笑顔を作って「してない」と告げた。

[DAY5]
本多は昔の坑道が工場の地下に張り巡らされていると突き止め、秀雄や建設会社の連中を入り口に連れて行く。入り口は落石で塞がれていたが、秀雄は香織の父に僅かな隙間から入るよう命じる。本多は「さすがに危険です」と反対するが、秀雄は香織の父に「子供の醜態は親の責任だ」と凄んだ。博人と紗希は、守の考えた作戦を実行する準備に取り掛かった。香織の父は同行を志願した部下たちと共に坑道を進み、古いエレベーターを発見した。香織の父は部下たちに、かつて工場で働いていたことを打ち明けた。
マレットは侵入者の声を聞き、守に知らせる。しかし失恋で落ち込んでいる守が上の空だったので、マレットは腹を立ててキーホルダーを見せる。守は下から何か聞こえたというマレットの情報を無視し、エレベーターを使う。2人と入れ違いで、香織の父と部下たちを乗せたエレベーターが上昇した。見つかった綾は逃亡し、香織たちと合流して身を隠す。綾が不安を吐露すると、香織は「私が何とかする」と約束した。香織は囮になって飛び出し、エレベーターを動かして綾たちを地下へ逃がした。
香織の父は部下を地下へ向かわせ、娘に「後は父さんに任せてくれ」と告げる。「どの家にも事情がある。ウチだって香織がお嬢さんと親しくなってくれたから」と父が説得しようとすると、香織は「やめて」と怒鳴った。守が「みんな捕まったんだ、俺のせいで」と生気を無くしていると、マレットは「私は捕まりたくない」と行動を促す。守は「うるさいな。無理だったんだ、俺には」と頭を抱え、マレットが「嘘つき」と責めても塞ぎ込んだままだった。そこへ綾が仲間と一緒に現れ、香織が残っているので助けてほしいと頼んだ。
建設会社の連中がエレベーターで現れると、守たちが妨害した。守たちはエレベーターの屋根に上がり、地下から脱出した。「千代野議員に逆らうと、仕事が止められる」と言う父に、香織は「お父さんは仕事と私のどっちを取るの?」と反発した。香織の父が答えに窮していると、守たちが駆け付けた。守に「7対1です。降参してください」と通告された香織の父は、仕方なく工場から退散した。その夜、マレットはタイに伝わるおまじないとして、守たちと一緒にコムローイを打ち上げた。本多は香織の父が工場内を撮影していた写真を見て、守たちの素性を知った。香織の父は娘がいたことを隠したが、本多は真実を見抜いた。彼はネットに綾を除く5人の写真を晒し、翌日には個人情報が拡散される…。

監督は村野佑太、原作は宗田理『ぼくらの七日間戦争』(角川つばさ文庫・角川文庫/KADOKAWA刊)、原作監修は宗田律 (宗田事務所)&坂本真樹、脚本は大河内一楼、企画は工藤大丈、製作は菊池剛&岩田圭介&藤田浩幸&高麗大助&川手純&榊原光広&岡村雅裕&田中祐介&碧海純&楮本昌裕&安部順一、チーフプロデューサーは原田浩幸、プロデューサーは立崎孝史&新井修平&小澤慎一朗、製作総指揮は井上伸一郎&依田巽、キャラクター原案は けーしん、キャラクターデザインは清水洋、絵コンテは村野佑太&藤森雅也、演出はイムガヒ&松尾晋平&村野佑太、調査考証は白土晴一、総作画監督は清水洋&西岡夕樹、重機作画監督は東賢太郎、エフェクト作画監督は重田智、色彩設計は廣瀬いづみ、美術監督は栗林大貴、美術設定は綱頭瑛子、撮影監督は木村俊也、編集は瀬山武司&松原理恵、音響監督は菊田浩巳、アニメーションプロデューサーは矢尾板克之、音楽は市川淳、音楽プロデューサーは近藤貴亮、主題歌『決戦前夜』『おまじない』『スピリット』はsano ibuki。
声の出演は北村匠海、芳根京子、宮沢りえ、潘めぐみ、鈴木達央、大塚剛央、道井悠、小市眞琴、楠見尚己、麻生智久、櫻井孝宏、宮本充、中尾隆聖、井上倫宏、関智一、荻野晴朗、竹内良太、高橋伸也、江頭宏哉、下地紫野、中友子、中司ゆう花、利根健太朗、夏吉ゆうこ、原奈津子、濱野大輝、竹尾歩美、井上宝、近藤雄介、竹内恵美子、河村梨恵、橘潤二、板取政明、森なな子、山田麻莉奈ら。


宗田理の小説『ぼくらの七日間戦争』を基にした長編アニメーション映画。ただし原作の約30年後となる2020年を舞台としており、物語も登場人物も大きく異なっている。
監督はTVアニメ『ブレイブビーツ』『ドリフェス!』の村野佑太で、劇場映画は初めて。
脚本はTVアニメ『甲鉄城のカバネリ』『ルパン三世 PART5』の大河内一楼。
守の声を北村匠海、綾を芳根京子、香織を潘めぐみ、壮馬を鈴木達央、博人を大塚剛央、紗希を道井悠、マレットを小市眞琴が担当している。
1988年に公開された実写映画『ぼくらの七日間戦争』でヒロインの中山ひとみを演じていた宮沢りえが、同じ名前を持つ女性の声を担当している。

まず、最初の描写の段階で違和感を覚える。守は「誰も僕に興味が無い」と思っていて、だから休み時間も他の生徒と積極的に交流せず、歴史本に没頭している。そのくせ、相手が少し声を掛けただけで、歴史に関するウンチクを熱い態度で饒舌に話すのだ。
でもホントに「誰も僕に興味が無い」と思っている内気な奴は、そんな行動に出られないんじゃないか。相手が「歴史の本、読んでたのか」と言ったり、消しゴムを拾って「この紋章?」と言ったりしても、自分から熱く語ることは無いんじゃないか。「どうせ僕が喋っても興味を示さないだろう」と考えて、消極的な態度になるんじゃないかと。
そもそも、もう高校2年生なんだから、これまでに「相手が歴史に興味を持っているかと思って熱く語ったけど全く興味が無かった」という経験は重ねているはずで。
その経験から何も学んでいないのか。

守は綾に、「東京なんてダメです。だって誕生日は、一緒に過ごせたらって。逃げましょう。大人に見つからない場所へ」と告げる。後で分かるが、本人としては駆け落ちを誘っている設定だ。
でも、行動として無理があり過ぎて萎えるわ。
今まで何年も片想いのままで告白できなかったような奴が、いきなり大胆な駆け落ちの提案って。
幼馴染にも敬語でしか話せずガチガチに緊張するような奴が、幾ら相手が引っ越すからって、そんな行動に出るかねえ。
少なくとも、キャラとしての説得力は皆無だわ。

綾が「7日間限定のバースデーキャンプ」と言うとタイトルが画面に出て、主題歌が流れ始める。ここに限らず、歌が流れる辺りの演出を見ていて、「どっかで見たような雰囲気」と感じた。
で、感じたんだけど、モロに『君の名は。』の模倣だよね。
あれが大ヒットしたから、製作サイドから「同じようなモノを作ってくれ」と注文されたのかな。それとも、作り手側がヒットさせたくて、二匹目のドジョウ(もはや二匹目じゃ済まないけど)を狙ったのかな。
経緯はどうあれ、ハッキリと影響を感じさせることは間違いない。

そして主題歌が流れる中、綾が参加メンバーを集めて守に紹介するパートが処理される。
ようするに主要キャストを紹介する手順なのだが、そこを歌に乗せてサラッと片付けてしまうので、全員が薄っぺらい印象のままで物語に入って行く羽目になっている。
もちろん時間的な制約はあるだろうけど、ホントならキャンプに行くことが決定する前に、主要キャラのキャラ紹介は済ませておいた方が望ましい。
それが無理なら、キャンプが決まってかメンバーを集める時に、そんなにサラッと「歌の背景」みたいに済ませるのではなく、ちゃんと1人ずつ紹介した方がいい。

後半、本多は「譲れない物のために我を通せるのが、若者の特権ってやつです」と語り、秀雄に「他人事みたいに言うな」と頬を殴られて腹を立てている。ところが、次のシーンでは守たちの写真をネットに晒しているのだ。
それは秀雄の忠実な子分としての卑劣な行動であり、反発した直後の行動としては大いに違和感があるぞ。
そんな本多は最終的に反発して秀雄の秘書を辞めるけど、その前に守たちに永遠に消えない傷を付けているわけで。その罪に対する償いをしろよ。
「自分に嘘をついて生きるのはやめます」と晴れ晴れとした表情で辞めるけど、それで済む問題じゃねえぞ。自分の犯した重大な罪を、完全に忘れてるだろ。

全員が警察の突入で追い込まれると、口論が始まる。
ここで「それを止めるために守が最初に本音を吐露し、みんなで話すことで一致団結する」という展開があるのだが、呆れるほどバカバカしい。
マレットが責められて泣き出すと、守が「俺、喋ります。俺もずっと秘密にしていたことがあります。本当の自分を知られて、何かが変わってしまうのが怖かったんです。みんな周りに溶け込むのに必死で、居場所を守るためにホントの自分に鍵を掛けていて。それが大人になることだって、ずっと思ってました。でも、それだったら俺は、大人になんかならなくていい。ここにいるみんなにだけは、ホントの俺を知ってほしい。この1週間でそう思えるようになったんだ」と語る。
だけど、「用意された台詞を読んでいます」という感じが強いのよね。

その台詞って、その時に心の中から湧き出た本音を、自分の言葉で話しているという感じが皆無なのよ。
いや、もちろんフィクションなんだから、用意された台詞を喋っているのは当たり前なのよ。でも、あまりにも不自然すぎてさ。
だからホントは感動的なシーンを始めるために観客の心を揺さぶる台詞じゃないとダメなはずなのに、逆に白けさせてしまう効果しか無いのよ。
その流れで守が綾に告白するのも、ただバカバカしいだけだし。

守が「自分のせいで仲間が捕まった」と落ち込んだ時、マレットが檄を飛ばすが全く響かない。ところが綾に助けを求められると、途端に元気を取り戻して動く。
理屈としては分かるけど、なんか不愉快に感じるわ。そもそもマレットを助けようとして動いたテメエのせいでトラブルになっているんだから、最後まで責任を持てよ。
それは「俺は大人じゃない、考えの甘い子供だ」という問題じゃないんだよ。
そもそも最初からテメエは子供だし、子供としてマレットを助ける行動を取っているんだよ。決して「それまでは大人として振る舞っていたが、失敗したから子供だったと気付く」ってことじゃないんだよ。
実際、守たちが「俺たちは大人だ」と勘違いしていた様子なんて皆無だったでしょうに。そんな描写は無かったでしょうに。

秀雄は綾に、「お前が着ている服は誰が買った?私が稼いだ金で暮らしているくせに、文句を言うな」と怒鳴る。
「大人になれ」とか「綾には大人になってもらわんといかん」「どこに出しても恥ずかしくない立派な大人にな」とか、やたらと「大人になること」を要求する。
本多が「立派な大人って何なんですかね」と口にすると、「決まってる。目上の人間に、きちんと従う人間だ」と断言する。
そうやって、やたらと「大人」について論じようとしている。

今回、製作サイドは「大人vs子どもの対立構造は今の時代に合わない」と考えて、シナリオを作ったらしい。守たちを高校生にしたのも、「大人か子供か微妙な年代」ってのが理由らしい。
ただ、この映画に登場する守たちは、明確に「子供」なんだよね。
マレットの台詞を使って守たちに「大人は嘘つきだ。優しい顔をして嘘ばかりつく。お前たちもどうせ一緒だ」と言わせるけど、糾弾される守たちは大人じゃないので、違和感しか無いのよ。大人に反発して家出した奴と、その仲間に対して、「お前たちは大人」と言われてもさ。だから意図した狙いを上手く表現できているとは言い難い。
それに、秀雄を使って「高校生が大人扱いされる」という状況を作ろうとしているけど、それは「あくまでも個人の見解です」というモノに留まっているのよね。
決して「高校生が周囲から大人扱いされることが多い」という状況を表現できているわけではないのよ。

秀雄の描写が苦笑したくなるほどアナクロで、「おいおいマジか」と言いたくなる。
秀雄は東京で議員をするから引っ越すのだが、それでも娘が誕生日を里宮で迎えるぐらいのことは許せるはずでしょ。
それさえ認めようとせずに高圧的な態度を取る秀雄の感覚は、理解に苦しむ。
大体、劇中でネットの功罪を描いているんだから、綾がそれを利用して「認めないと父親の真実の姿を暴露する」と脅すようなことがあってもいいはずだし。

秀雄だけじゃなくて、香織の父の「娘に綾と親しくなってもらって仕事を貰う」という設定も、やはりアナクロだ。前田と後藤の描き方も、無理に悪人として描いているようにしか感じない。入国管理官が工場の扉を封鎖して不法滞在者だけでなく守たちまで閉じ込めるとか、有り得ないでしょ。
そりゃあフィクションだから、ある程度の虚構はあってもいいよ。でも、そこの嘘は下手すぎる嘘だ。
幾ら議員の圧力があっても、圧砕機を使って警察が工場に突入するのも非現実的。「アニメだからリアリティーが無くても許せるでしょ」とか、そういう問題ではない。
っていうか、リアリティーが無いことを免罪符にして、アニメという媒体を都合良く利用する目論みにしか思えないわ。
まあ結果としては失敗しているけど。

そんな風に大人のキャラ設定を時代遅れ、もしくは時代錯誤に感じるような中身にしているのだが、一方で現代的な問題を幾つも扱おうとしている。
これが見事なぐらいミスマッチでしかない。外国人の不法滞在、LGBTQ、ネットの功罪と、様々な社会問題を持ち込んでいるが、見事なぐらい消化不良で終わっている。
しかも単に消化不良というだけでなく、厳しく批判したくなるような形で片付けている。
たぶん「現代風にアレンジする意味」を考えて現代的な問題を持ち込んだんだろうけど、だったら丁寧に扱おうぜ。

まず不法滞在については、綾がマレットの事情を知って「可愛そうだよ、親と離れ離れになりたい子なんて、いるわけないのに」と言う。
だけど、不法滞在は「可愛そう」という単純な同情心だけで解決できる問題ではないし、そんなに単純化してはいけない。
それと「親と離れ離れになりたい子なんて、いるわけないのに」と言うけど、アンタも父親に反発して家出しているでしょ。自分が「親と離れ離れになりたくない」と思っているようには、到底思えないぞ。
だから、「どの口が言うのか」とツッコミたくなる。

終盤、守たちは「玉すだれ」の協力で、マレットを両親と再会させる。でも、それを「ハッピーエンド」として済ませちゃダメだろ。両親と再会したところで、マレットの一課が不法滞在者である現実は何も変わっていないんだから。
つまり、いずれ警察に見つかって、今度はマレットも含めた家族全員が捕まって強制送還される可能性だって充分に考えられるわけで。
そうじゃなくても、今後もマレットたちは逃げ続ける人生を送らなきゃいけなくなるわけで。
「マレットを助けたから、それで全て解決」みたいに片付けちゃダメだろ。

続いて、LGBTQの問題。
終盤、守の告白に続いて、綾は香織が好きだと打ち明ける。それを受けて香織も好きだと告白し、2人は両思いになる。ここで同性愛を描いているのだが、まあ浅薄なことと言ったら。伏線が無かったわけではないが、それでも唐突さは否めないし。
綾と香織の気持ちを知っても、周囲が大して驚かず、すんなりと受け入れているのも違和感が強いし。
もしも同性愛が誰にでも簡単に受け入れてもらえる世界観だとしたら、それは隠さなきゃいけない秘密じゃなくなるし。

で、そこで同性愛を扱っておきながら、最後にマレットから頬にキスされた守は、女性だと知って驚くんだよね。でも、そこで「マレットは女だから守を好きになった」みたいな形にしてあるのは、どういうつもりかと言いたくなる。
あと、開始50分辺りでマレットが「“私”は捕まりたくない」とハッキリ言っているのに、守が女性だと気付いていなかったのは設定として無理があるだろ。
守は落ち込んでいて気付かなかったという設定なのかもしれないけど、こっちはフラットな状態で観賞しているから、簡単に気付くよ。
それと、マレットって守たちの仲間、つまり「ぼくら」じゃないから、このキャラを持ち込んでいること自体、間違いじゃないかと感じるんだよね。

ネットの問題に関しても、ものすごく軽薄に片付けている。
本多のせいで写真がネットに晒されると、たちまち守たちの個人情報が拡散される。
でも、その直後はショックを受けて口論にも発展するけど、和解して工場から脱出すると、もう「特に大きな問題じゃない」という感じで片付けられてしまう。
「玉すだれ」として活動していた中山ひとみに「まあ大丈夫じゃない。人生、何とかなるもんよ」と軽く言わせてしまうのだ。

ひとみは「根拠はあるんですか?」と問われると、「あるよ。実体験」と答える。
確かに、彼女が仲間と暴れて戦車まで持ち出した原作や実写版の頃なら、「何とかなる」という軽い考えでも大丈夫だったかもしれない。しばらくは周囲から色々と言われても、何年か経てば忘れてもらえるかもしれない。人生に大きなダメージを受けることは無いかもしれない。
でも、ひとみの頃は、ネットで個人情報を拡散されるようなことは無かったわけでね。
ネットで個人情報が拡散されたら、永遠に残ることになるぞ。
当時とは時代も守たちが置かれている状況も大きく異なるんだから、彼女の実体験は何の参考にもならないし、根拠としては成立しないのよ。

(観賞日:2022年4月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会