『僕等がいた 後篇』:2012、日本

22歳になった高橋七美は大学の卒業が近付き、就職活動に励んでいた。57社目の就職試験に落ちた七美が落ち込んでいると、友人が「ダメなら竹内君に貰ってもらえば?」と冷やかす。七美が「私たち、そういう関係じゃないんだから」と否定すると、友人は「不自然だよ。友達とか言って、昔の男引きずって」と告げる。七美は「引きずってないって。もう5年も会ってないんだし」と反論する。矢野は勝手に携帯番号を変更し、七美の前から姿を消していた。だが、まだ七美は、彼のことが忘れられずにいた。
竹内は外資系コンサルタント会社に就職が内定し、七美は彼と飲みに出掛けて祝福する。2人は東京へ出てからも仲良くしているが、恋人として交際しているわけではなかった。七美は竹内に誘われ、高校時代の同窓会に出席するため北海道へ戻った。同窓会に出席した彼女は親友のタカちゃんや水ちんたちと再会するが、矢野は来ていなかった。七美は友人たちの会話で、有里が東京へ行ったまま消息不明になっていることを知った。
同窓会の後、七美は竹内を誘って高校の屋上へ行く。竹内は「今日は奈々さんの命日。だから、あいつがここに来てるんじゃないかって」と、七美の思いを指摘する。「オレと一緒に住もう。あいつは、もう現れない」と竹内が告げると、七美は「でも矢野は、さよならも言わないまま、いなくなったりする人じゃない。だから、待ってろってことでしょ」と言う。竹内は「信じることと、見ないフリすることは違う」と述べた後、「オレ、隠してたことがある」と打ち明けた。
時を遡る。矢野は東京へ引っ越してからも、七美とは写メールを交換したり、一日に5分と決めて電話で話したりして、遠距離恋愛を続けていた。彼は東京の高校でクラスメイトになった男子たちから七美の写メールを見せるよう求められても、絶対に見せなかった。矢野の行動に対し、千見寺亜希子は「そんなに大事なら、置いて来なきゃいいのに」と挑発するように告げた。すると矢野は、「続く自信があるから、置いて来たんだよ」と反論した。
矢野は母の庸子がリストラされたことを受け、学校で禁止されているアルバイトを始めた。深夜バイトも掛け持ちするようになったため、彼は七美への電話もサボりがちになった。何も知らない七美は、メールで矢野を責めた。成績も落ちてしまい、それを取り戻すために勉強に力を入れ、矢野は疲労を貯め込んでいった。ある日、バスで亜希子と一緒になった矢野は、「ホントは自信なんて、こっち来てすぐに吹っ飛んだ」と弱音を漏らした。亜希子は「心が幸せなら、どんな未来でも受け入れられるよ」と彼を励ました。
矢野は学校を休みがちになり、亜希子は授業内容を記録したノートを彼のアパートへ届けに行く。彼女がゴミ箱に目をやると、未開封の手紙が捨ててあった。それは有里からの手紙だった。矢野は「過去から届いた手紙。見たくない」と口にする。その有里がアパートにやって来た。驚く矢野に、彼女は「手紙で知らせた。東京へ行くって」と言う。矢野は「突然来られても迷惑。これからバイト行くから、用があるなら駅までなら話聞く」と険しい表情で告げた。
矢野が駅の近くまで来て有里と別れようとすると、彼女は「私も東京の大学受けるの。今日は学校見学に来た」と述べた。「今さら、オレに何求めてんだよ」と矢野が荒っぽく言うと、有里は「全部忘れたの?お姉ちゃんが死んだ時、私たち一瞬でも……」と、関係を持った時のことを持ち出す。矢野は「あの日のことは間違いだ。だからオレに期待すんな」と冷たく突き放した。有里が「お願い、無かったことにしないで」と求めても、彼は無視して去った。
庸子が癌で入院し、矢野は病院へ赴いた。庸子は「手術すれば治るから」と気丈に振る舞うが、矢野は担当医から病状が進行していて手術しても意味が無いことを聞かされる。矢野はバイトで忙しい中、母の見舞いに通う。そんなある日、矢野の実父の妻・長倉美智子が病院を訪れた。彼女は庸子に「許してあげる、貴方と夫が私を裏切ったこと。だって、あの子には罪が無いもの」と告げ、亡くなった夫の後継者として矢野を引き渡すよう持ち掛けた。庸子は「あの子は私が産んだ子よ」と怒鳴り付けた。
後日、美智子は矢野のアパートを訪れ、養子に入ることを持ち掛ける。そうすれば、病院の費用も学費も全て持つという。彼女の死んだ夫は資産家だったのだ。話を終えて美智子が部屋を出たところへ、亜希子がやって来た。矢野は亜希子と散歩しながら、美智子との話を明かす。金銭的な援助について「もちろん貰うでしょ」と口にした矢野だが、実際は「オレに父親はいません。もう二度と来ないで下さい」と断っていた。そして、亜希子も彼の嘘をすぐに見抜いた。
亜希子が「高橋にも嘘をつき続けるつもり?」と尋ねると、矢野は「心配させるだけじゃん。受験が終わってからでもいいっしょ」と言う。亜希子は「私を親友にしてくれる?少しは力になれるかなって」と告げた。庸子は矢野を美智子に奪われたくない一心から勝手に退院し、精神的に不安定な状態に陥った。そんな母の面倒を見るため、矢野は学校に行かなくなった。七美に会いたくなった彼は、釧路へ行こうとする。庸子が「美智子の所へは行かせない。私を捨てるんでしょ」とヒステリックに言うと、矢野は「いつまでもしがみ付いてんなよ。オレはあの人の代わりにはなれない」と冷たく告げて部屋を出た。その直後、庸子は窓から飛び降りて自殺した。
それから1年後、矢野は札幌のバーで働いていた。そこへ、彼を見つけ出した有里が現れた。矢野は彼女を無視し、冷たく突き放した。有里は東京の大学を辞め、札幌のパン屋で働き始めた。母が連れ戻しに来るが、有里は激しい態度で拒絶した。有里は矢野のバーへ行き、閉店まで残った。「私にとっては大切な記憶だったの」と泣き出す彼女に、矢野は「奈々の代わりだった。悪かったと思ってる」と告げる。「私は誰にも必要とされてないんだね」と漏らして有里が店を去ろうとした時、矢野の中で何かが弾けた。
後日、矢野は竹内の元を訪れ、「高橋を頼む。オレがお袋を殺した。奈々の時と一緒だ。オレは過去を全部捨てる」と告げた。そのことを、竹内は同窓会の後、高校の屋上で七美に打ち明けた。「矢野が戻って来ない」と泣き崩れる七美を、竹内は強く抱き締めて「これから高橋が抱え切れない荷物は、オレが引き受ける。だから大丈夫だ」と告げた。七美は矢野への思いを吹っ切ろうと決意し、保護していた彼からのメールを全て削除した。
大学を卒業した七美は、出版社の編集部で働き始めた。七美は面接会場で声を掛けられた亜希子と同僚になり、友達付き合いを始めていた。七美は竹内と同棲生活を送っており、穏やかで充実した日々を過ごしていた。竹内は七美の誕生日にプロポーズしようと決意し、そのことを亜希子に打ち明けた。そんな中、仕事の打ち合わせでデザイン事務所を訪れた亜希子は、矢野と再会する。彼は父親の家の養子に入って苗字を変え、デザイン事務所のアシスタントとした働いていた…。

監督は三木孝浩、原作は小畑友紀 小学館『月刊ベツコミ』連載、脚本は吉田智子、製作は市川南&豊島雅郎&小林昭夫&都築伸一郎&藤島ジュリーK.&畠中達郎、製作統括は塚田泰浩、企画プロデュースは荒木美也子&春名慶&臼井央、プロデューサーは川田尚広&山崎倫明、プロダクション統括は金澤清美、撮影は山田康介、美術は花谷秀文、録音は矢野正人、照明は川辺隆之、編集は坂東直哉、音楽は松谷卓、音楽プロデューサーは杉田寿宏。
主題歌『pieces』 Mr.Children、作詞:桜井和寿、作曲:桜井和寿、編曲:小林武史&Mr.Children。
出演は生田斗真、吉高由里子、高岡蒼甫(現・高岡奏輔)、本仮屋ユイカ、麻生祐未、須藤理彩、小松彩夏、柄本佑、比嘉愛未、滝裕可里、緑友利恵、長部努、藤井貴規、山下容莉枝、円城寺あや、野間口徹、神尾佑、青木大徳、柊子、高島大幹、森元芽依、那須庄一郎、中村朝佳、藤原克行、飯島綾、細谷拓弥、徳山可菜子、高瀬雅史、伊藤菜摘、井村空美、小林恵里、松浦崇文、田村健太郎、松永隼、仲田佑磨、松澤仁晶、森啓一郎、眼鏡太郎、堺沢隆史、ジョン・カビラ(声の出演)、中野めぐみ、七海エリ他。


月刊ベツコミで連載されていた小畑友紀の人気漫画を基にした2部作の後篇。
矢野役の生田斗真、七美役の吉高由里子、竹内役の高岡蒼甫(現・高岡奏輔)、有里役の本仮屋ユイカ、庸子役の麻生祐未、文香役の須藤理彩、奈々役の小松彩夏、アツシ役の柄本佑、タカちゃん役の滝裕可里、水ちん役の緑友利恵、有里の母役の円城寺あやなどが、前篇からの出演者。
亜希子役の比嘉愛未、美智子役の山下容莉枝、庸子の主治医役の野間口徹、バーのマスター役の神尾佑などが、後篇から登場している。

前篇からそうだが、セリフはちっとも自然ではなく、歯の浮くような言い回しが色々と出て来る。
そこに違和感を抱かせず、受け入れることが出来るようになっていれば、何の問題も無い。
大事なのは、そのための雰囲気作り、その世界観に観客を引き込んでしまう勢いやパワーといったものだ。
しかし、段取りを追うこと、用意されたエピソードを消化するというノルマを達成することで精一杯だったのか、そこにまで細やかな神経が行き届いているようには感じられない。

原作がそうなっているから仕方が無いんだが、登場人物の出身地である北海道の方言は使われていない。
矢野や七美たちは上京したり、再び北海道に戻ったりする。
その中で「離れ離れになっている距離感」とか、「かつて過ごした場所への望郷」とか、「その人物が上京してからの変化」とか、そういったことを表現するのに方言は便利な道具だ。
しかし、みんな最初から標準語なので、「舞台が北海道と東京(という遠距離にある位置関係)に設定されていることの効果」は、あまり感じられない。

後篇の前半は、ほぼ「矢野の物語」になっている。
大学卒業を控えた七美の様子が最初の10分ほど描写され、そこから時間を遡って、矢野が上京して4ヶ月後からの物語が綴られていく。
それは50分ほど続き、その間、七美は矢野の空想シーンにしか登場しない。矢野が電話で話すシーンも2度しか無い。
だから矢野の物語が描かれている間、彼女の存在は、ほとんど消えていると言ってもいいだろう。

矢野の物語が始まると、すぐに「不幸の連続」へと突入していく。
母がリストラされ、矢野はバイトを掛け持ちして忙しくなる。母は癌になり、美智子が現れたことで精神を病んでしまう。矢野は母の面倒を見るために、学校へ行かなくなる。突き放した母が自殺し、矢野は罪の意識を抱くようになり、パニック障害を患う。
バイトの掛け持ちや母の世話などで七美への電話やメールは疎かになるが、それが「恋の障害」として機能しているわけではない。
実際、母の自殺前に七美と電話で話すシーンでは、普通に仲良くやっているしね。

七美サイドの様子は全く描かれないこともあって、矢野の物語が始まってからは、そこに2人の恋愛劇としての匂いは全く漂って来ない。
それよりも、原作の構成としては、とにかく矢野を追い詰めて行って、女性読者の同情心を誘おうという感じだろうか。
そこに恋愛劇としての面白さは無いが、少女漫画としては、女性読者を引き付けることが出来ればOKなんだから、それは別に悪いことじゃない。
ただ、こうやって1本の映画にされてしまうと、そのまんまの構成ではキツいかなあと。たまに七美サイドのエピソードも挿入した方が良かったかなあと。
タイトルは『僕等がいた』だけど、「僕等」じゃなくて完全に「僕」の話になっているのでね。
それに、矢野サイドから七美との恋愛劇を描いているわけでもなくて、ほぼ恋愛の色が無い彼の個人的な話が延々と続くので、ちと辛いものがある。

後篇の前半だけを見ていると、矢野の物語に入ってからは七美の存在をつい忘れてしまい、「矢野が誰かと付き合うにしても、その相手は亜希子でいいんじゃないか」と思ってしまう。
亜希子は矢野の苦しみを何も知らない七美と違って、彼が苦しんでいる時、すぐ傍にいて元気付けようとしているわけだから。
っていうか前篇からトータルで考えても、亜希子の方が魅力的な女性に見えてしまうんだけど、その辺りは男女で見方が違うんだろうなあ。
たぶん女性なら、七美に共感できるんだろう。

私は原作漫画を読んだことがあるが、全くハマらなかった。
本来なら七美と矢野の恋愛を応援したくなるべきなんだろうと思うが、そんな気持ちは全く沸いて来なかった。ただひたすら、竹内が可哀想だと感じるだけだった。
竹内は友情に厚く、人に優しく、誠実で、親切で、気配りが出来る、とてもいい奴だ。七美に振られた後でも、まだ優しく接することの出来る奴だ。
でも少女漫画では、そういうキャラはヒロインと結ばれないものだと相場が決まっている。

少女漫画においてヒロインが心を奪われるのは大抵の場合、生意気だったり、身勝手だったり、態度や性格に問題のある男なのだ。
それが最近の少女漫画における王道パターンだ(白馬の王子様が出て来るような、ずっと昔の少女漫画は別よ)。
で、そいつには悲しい過去や心の傷、背負っている定めといった要素が用意されていて、「だから態度が悪くても仕方が無い」という免罪符にするのだ。

ホントは、悲しい過去や心の傷があったとしても、それでも性格や態度のいい奴ってのは存在する。
でも、その性格や態度の悪さを「未熟さ」「幼さ」ということで、魅力として描くのだ。
「私が守ってあげなきゃ」「私が助けてあげなきゃ」と母性本能をくすぐる見せ方にしてしまうのだ。
ある意味では卑怯なやり方なんだけど、それが女性読者の心をグッと掴むってことなんだろう。

そんなわけで、『僕等がいた』でも七美は「身勝手な行動や生意気な態度を取り、自分を振り回すけれど、守ってあげたいと思わせる」キャラである矢野に心を奪われ、それは揺るがない。
七美を一途に思い続けた竹内は、失恋してしまう。
一途な思いが報われなかっただけでも可哀想だが、救いも用意されていない。
「他に好きな女性が出来る」とか、「ずっと竹内を好きだった女性がいて彼を慰める」とか、そういう展開も用意されておらず、失恋して、それで終わりだ。とても不憫な男だ。

この映画版では、竹内を演じている高岡蒼佑があまりにもミスキャストってのが災いして、原作に比べれば、彼に対して抱く同情心は薄くなった。
ただし、だからと言って「その分の気持ちが矢野と七美に向き、2人を応援したくなる」というわけではない。
あとミスキャストってのは映画として明らかにマイナスだから、それで矢野と七美の恋を応援したくなったとしても、それはそれでダメなことだし。

一方、もちろんメインのカップルである矢野と七美は最終的にヨリを戻し、ハッピーエンドということになるのだが、そちらは「ラストになって急に話をまとめに入ってるな」という印象を受ける。
タカちゃんの結婚式に出席した七美が、取り壊しが決まった母校へ仲間たちと共に赴いた時点で、「ああ、ここに矢野が現れるんだな」ってのは予想が付く。
だから、そこに矢野が現れてハッピーエンドってのは、展開としては決して間違っちゃいないんだけど、「急にドッシリとした形で着地したな」と感じる。
その直前までは完全に2人の関係が切れていたわけで、だったら「久々に再会して、これから2人がやり直すかも」という程度、2人の行く末を匂わせる程度で留めても良かったんじゃいかなと。

(観賞日:2013年8月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会