『僕の初恋をキミに捧ぐ』:2009、日本

8歳の頃、心臓の病気で入院している垣野内逞(たくま)は、主治医・種田孝仁の娘で同い年の繭と病室でお医者さんごっこをしていた。 医者役の繭は「診察を続けましょう、ズボンを脱いでください、パンツも脱いでください。脱げって言ってるでしょ」と言い、強引に パンツを脱がそうとする。逞が必死に抵抗していると、外で花火が打ち上がった。2人は屋上へ移動し、花火を見物した。
逞は「パパとママも呼んでくる」と言い、屋上から走っていった。父の稔と母の涼子は、孝仁の部屋で話をしていた。それを見つけた逞が 静かにドアを開けると、孝仁は「現在の医療では、逞君が20歳まで生きるのは難しい」と告げていた。そこへ繭が現れ、目を潤ませた。 翌日、繭が丘で四つ葉のクローバーを探していると、逞がやって来た。「見つけたら願い事が叶う」と繭が説明すると、逞は「見つけたら 何をお願いするの」と尋ねる。繭は「特に無い」と答えた。
逞は「じゃあさ、僕がお願い事してもいい?大きくなったら宇宙飛行士にしてくださいって。それで繭ちゃん、僕と結婚しよう。それが僕 の夢」と口にした。逞は四つ葉のクローバーを発見するが、その途端、繭は彼を突き飛ばした。繭はクローバーに向かって、「四つ葉の クローバーの神様、逞を助けてください。逞の病気を治してください」と叫び、号泣した。逞は彼女にキスをした。表でサッカーをして いた逞は発作で倒れ、病院に運び込まれた。
中学3年になった逞は、7回目の入院を終えた。繭が来ていたので、逞は手を繋いで帰った。2人は交際しており、クラスでも隣同士の席 に座っている。繭は授業中も落書きばかりで、学力は低い。一方の逞は成績優秀で、高校に行ってから習う英文法まで翻訳してみせた。 体育の授業では、繭はバスケで活躍し、逞は見学した。授業の後、男子3名が繭の透けブラを見るため、彼女に水を浴びせた。逞は激怒し 、男子に襲い掛かった。慌てて繭が制止した。
逞は保健室で、「俺だって繭のブラジャー見たこと無いのに」と拗ねる。繭はカーテンを閉めて「だったら一番最初に見せてあげる」と 告げ、シャツを脱ごうとする。逞は狼狽し、「ちょっと待って、胸が苦しい」と言う。繭は頬を膨らませ、「逞には二度と裸は見せない」 と言う。逞と繭は、笑いながら追いかけっこをする。逞は繭を後ろから抱き締め、そしてキスをした。
7回目の入院をしていた時に、逞は考えていたことがある。それは、「無事に退院できたら繭とキスしよう。手を繋いで、力いっぱい 抱き締めて、そして繭と別れよう」ということだ。繭がいつも自分の病気のことを心配して泣いているから、逞は生きている間に別れよう と考えたのだ。そこで彼は、名門中の名門である紫堂高校への進学希望を担任教師に伝えた。そこは全寮制だったため、両親は反対するが 、逞の決意は変わらなかった。
涼子が種田家を訪れたことで、繭は初めてそのことを知った。彼女の学力では、とても進学できるレベルではない。学校で逞に「どこを 受験するのか」と訊かれ、繭は「私は高校になんか行かない。別の計画がある。子供の頃に2人で立てたじゃん。覚えてないの?」と言う 。逞は合格し、卒業を迎えた。卒業式の後、繭は逞から二次募集の結果を尋ねられ、「受けた高校は全部落ちたよ」と答えた。
逞が紫堂高校の入学式に行くと、新入生の挨拶として指名された新入生代表は繭だった。彼女は壇上に立ち、逞に向かって「私と別れよう なんて百万年早いんだからね。家庭教師10人も雇って猛勉強したんだから。結婚できる年齢になったから、逞が18になるのを待つつもり だったのに。私は約束を忘れない。世界一の花嫁になって待っているつもりだったのに」と叫んだ。入学式の後、彼女は生徒たちの前で、 「あたしは彼と結婚するつもりだから、絶対に取らないでね」と宣言した。
逞は寮へ行き、ルームメイトの杉山律と挨拶を交わした。繭はルームメイトの田村結子と会った。鈴谷昂は女子寮の前で、女子生徒たちに 向かって「出来れば僕は、こっちで君たちと一緒に暮らしたいな」と口にした。そんな彼の振る舞いに、女子生徒たちはポーッとなった。 繭は弓道部に入った。逞の検査の日、繭は病院まで付いて行く。逞は孝仁に、「俺の運動制限ってどれぐらい?走らないスポーツなら? 例えばセックスとか?」と尋ねた。孝仁は動揺を抑え、「医者として勧められない」と言う。逞は「セックスも出来ない男が結婚なんて 無理だよなあ。あいつはその辺が分かってないからなあ」と漏らした。
病院を去ろうとした逞は、同じ病気を患う20歳の上原照と、小学生以来の再会を果たした。彼女は発作が起きて入院しており、「ついでに 移植手術に突入しようかなって」と話す。2人が親しげに話すのを見て、繭は強い嫉妬心を示す。後日、逞が検査の日ではないのに早退 したのを知り、繭は彼が照に会いに行ったと確信して不機嫌になった。繭は昴に腕を握られ、「姫、学園生活、エンジョイしましょうね」 とアプローチされるが、激しく拒絶した。
その夜、逞が照の見舞いから寮に戻ると、昂の母・良美と祖父・隆三が来ていた。昴は逞に気付き、「今のは誰にも言うなよ。学園の アイドルにあんな貧乏臭い家族がいるなんて知られたらイメージダウンだからな」と告げる。それから彼は、「俺は君と同じ病気を患った 人間を知ってる。その病人は死んだよ。ドナーが現れなくて。俺の父だ。俺の母は今も父を思って泣いている」と語った。
昂は「入学式に恋をした子には彼氏がいて、その彼氏が父と同じ病気を患っている。それを知った時、俺は思ったんだ。君が死んだら、 彼女は永遠に泣き続ける。そうさせないためには、俺は君が生きている内に彼女を俺のものにする。「この高校に入ったのは彼女と別れる ためだろ。だったら彼女と別れろ」と逞に述べた。翌日、昴は繭に「俺の女になれ。返事は辛抱強く待つから」と告げた。
ある日、繭は授業を抜け出す逞を見つけて後を追う。「またあの人のお見舞いに行くの?」と訊くと、逞は「繭には分からないんだよ、 一人で入院しているのがどんなに心細いか」と言って去った。その際、彼はお守り代わりに持っている遺書を落とした。子供の頃に書いた が、なかなか死なないから、今ではお守りになっているのだ。照は逞が繭と付き合っていることを羨ましがり、「この年になって恋人も いないし」と漏らした。突然、彼女は「あたしとキスしない?キスもしないまま死にたくない」と言い出した。逞が戸惑っていると、照 から近付き、彼にキスをした。
その夜、逞が天文台にいると、繭がやって来た。逞は「照ちゃんとキスした。そうするしか無かったんだよ。このまま死にたくないって 言ったんだ」と語った。繭は「そんなの優しさじゃない。逞のそういうトコだけ嫌い」と腹を立てる。すると逞は、「じゃあ別れろよ」と 告げた。繭は「男はね、好きな女の子以外に好きか嫌いかって訊かれたら嫌いって答えなきゃいけないの」と遺書を投げ捨て、「いいよ、 逞がそうしたいなら別れよ」と言って立ち去った。
翌日、病院へ行った逞は、照が昨夜遅くに急な発作で亡くなったことを知った。一方、繭は昴から「そろそろ返事、聞かせてもらっても いいかな、姫」と言われ、「私は世界中で誰より逞のことが好きだから」と答える。「あいつは死ぬよ。もう長くないんじゃないかな」と 昴が言うと、繭はビンタを食らわせた。すると昴は「大切なことが亡くなるのがどんなことか、全然分かってない。あいつが死んで、 残された君はどうなる」と言い、彼女を強く抱き締めた。繭は彼を突き飛ばした。
病院から戻った逞は、100メートル走での勝負を昴に持ち掛け、「もし負けたら繭はお前にやるよ。その代わり、俺が勝ったら二度と繭に 近付くな。見るのもダメだ」と告げた。逞は対決に勝利した。その夜、彼は「月がキレイだから」と言い、繭をデートに連れ出す。弓道場 へ赴いた逞は、「まだ生きてるご褒美にセックスしていい?繭とセックスしたい」と言う。2人は弓道場でセックスをした。
翌日、逞と繭が学校を抜け出そうとすると、昂が現れた。彼は大学生の恋人が出来たことを話し、逞に「今度、友達にならないか」と 告げて去った。大学生の恋人と会った帰り、彼はトラックにはねられた。逞は孝仁から、トラック事故に遭った人が脳死状態になったこと 、臓器提供の意思表示カードを持っていたこと、血液型が一致していたので心臓移植が決まったことを説明された。「明後日に手術だから 、それまでは安静にしているように。出来れば、それまでは部屋から出ないように」と孝仁は注意した。
繭は病院に紫堂高校の女子生徒たちが来ているのを目撃し、話し掛けた。彼女たちの話を聞き、繭は移植される心臓が昴の物だと知った。 昴の見舞いに来た男子生徒たちが、看護婦に部屋を間違えて教えられ、逞の病室に入って来た。彼らの話を聞いて、逞も事実を知った。逞 は繭と病院の屋上で会い、「手術なんて受けねえぞ、友達の心臓を貰ってまで長生きなんてしたくない」と言い出した。
繭は「誰の心臓だって構わない、逞が助かるなら」と告げるが、逞は「お前も種田先生も分かってないんだ。死ぬってことがどんなに怖い か。それはあいつだって同じだろ。友達の心臓を奪ったまで長生きするのは嫌だ」と語った。良美は昂が涙を流したのを見て、孝仁を呼ぶ 。孝仁は「脊髄の反射に過ぎず、脳死判定に間違いは無い」と冷静に告げるが、良美は「心臓提供を拒否します」と言い出した。孝仁から 話を聞いた稔と涼子は憤りを示すが、逞は静かに受け入れた。寮に戻った逞だが、その夜に容態が急変して病院に担ぎ込まれた。孝仁は 両親に、「おそらく、これが逞君と過ごす最後の時間になると思います」と宣告した…。

監督は新城毅彦、原作は青木琴美、脚本は坂東賢治、製作は堀越徹&亀井修&中村美香&島谷能成&村上博保&阿佐美弘恭&平井文宏、 プロデューサーは畠山直人&阿部謙三、エグゼクティブプロデューサーは奥田誠治、ラインプロデューサーは竹山昌利、 プロダクション統括は金澤清美、企画協力は菅沼直樹&神蔵克&大平太、撮影は小宮山充、編集は深沢佳文、録音は益子宏明、照明は 保坂温、美術は金勝浩一、音楽は池頼広、音楽プロデューサーは平川智司。
主題歌は『僕は君に恋をする』平井堅、作詞・作曲:平井堅/編曲:亀田誠治。
出演は井上真央、岡田将生、仲村トオル、山本學、杉本哲太、森口瑤子、細田よしひこ、原田夏希、堀内敬子、窪田正孝、寺田有希、 志賀廣太郎、円城寺あや、熊田聖亜、小林海人、 竹内寿、通山愛里、上田光明、河口舞華、米光隆翔、近野成美、中山卓也、森岡徹、鈴木龍之介、能見達也、野間慎平、澤山薫、 松本じゅん、青山レイラ、阿部祐二・大竹真(「スッキリ!!」)、 北田靖真、福田佑亮、菊池有樹哉、守口季子、岩清水華衣、小林千夏、深谷麻美、央川奈知、白川雄大、板橋春樹、河崎良侑、田上尚樹、 村上雄紀、あしとみしんご、牧野太祐(くりんぴーす)、渥美龍蔵、上野拓野、落合隆治(くりんぴーす)、片山徳人、小金沢雅弘、 小林啓吾、鳥越裕貴、中村駿太、安岡聖雨ら。


青木琴美の同名漫画を基にした作品。
TBS製作の映画『ただ、君を愛してる』『Life 天国で君に逢えたら』を手掛けた新城毅彦が、今回は日テレちゃん製作の映画で 監督を務めている。
繭を井上真央、逞を岡田将生、孝仁を仲村トオル、隆三を山本學、稔を杉本哲太、涼子を森口瑤子、昂を細田よしひこ、照を原田夏希、 良美を堀内敬子、律を窪田正孝、結子を寺田有希が演じている。

同じ青木琴美が原作の映画『僕は妹に恋をする』はポンコツだったし、タイトルからして「いかにも泣かせる純愛映画です」という感じ だし、だから「ツッコミ所が満載のバカ映画じゃないのか」とワクワクして観賞した。
実際にポンコツだったけど、具体的に「**だろ」とか「**なのかよ」とツッコミを入れるよりも、生暖かい目で見守るというか、薄ら 笑いで眺めるというか、そういう観賞方法が適しているのかなという仕上がりだった。
全体を通して、お寒いんだよね。

冒頭、幼い繭が逞のパンツを脱がそうとするシーンから入る。
この時点で、「タイトルは純愛物っぽいけど、実はコメディーなのか」と思っていたら、すぐに余命宣告を逞が耳にするシーンが来るので 、「やっぱりシリアスな作品なのかよ。だったら、なぜパンツを脱がそうとするようなシーンから入るのか」と思ってしまう。
で、その宣告を逞が耳にしてドアを閉めると、廊下の向こうに繭がいて泣いているけど、なんで泣いてるんだよ。
あの距離から、部屋の中の言葉を聞けたとは思えないんだが。
どんだけ聴覚が鋭いのか。

あと、逞が自分の余命を知ったことを両親に内緒にしているってのも、随分と物分かりがいいというか、大人びた対応というか。
部屋に入って行って、「どういうこと?僕は死んじゃうの?」と言っても良さそうなもんなのに。
だって、8歳だぜ。
っていうか、そういう大事な話を逞に聞かれてしまう辺り、管理体制が杜撰だよなあ。
その後、逞は丘の上へ行っているが、心臓病の子供がそんなトコへ行くのも許可しているのかよ。
なんかユルいなあ、看護体制。

逞が四つ葉のクローバーを見つけると、繭は彼を突き飛ばして「四つ葉のクローバーの神様、逞を助けてください。逞の病気を治して ください」と叫んで号泣する。
するとなぜか、いきなり逞はキスをする。
たぶん、っていうか間違いなく、そこは感動させようとしているシーンなんだろうけど、ワシは呆気に取られたよ。
そこで急にキスするって、どんだけ大人びた奴なのかと。
っていうか、大人びたとか、そういう問題じゃないよな。
行動が変だ。

で、そこで「僕はその時、自分が死ぬっていう意味をホントには分かっていなかったんだ。だから君に、ありもしない未来の話をした」と いうモノローグが入るが、だから余命のことを聞いてもリアクションが薄かったってことなのか。
だとしても、それは分かりにくいわ。
で、意味が分かっていないとしても、だったら、なぜ両親に「余命って何?」とか尋ねないのか。
そういう疑問は消えないぞ。

逞は表でサッカーをしていて倒れるが、激しい運動をするなと言っておいても、なんせ死ぬことの意味さえ分かっていないようなバカな ガキなんだから、ちゃんと看護師なり医者なりが注意して見ていなけりゃ無茶な運動もするわさ。
やっぱり看護体制が杜撰なのね。
で、そこからカットが切り替わると、逞が中学3年生になっているんだが、この繋ぎ方はヘタでしょ。
なんで担ぎ込まれて救命治療のシーンから、そこへ飛ぶのかと。

男子生徒の透けブラ作戦の後、逞が保健室で「俺だって繭のブラジャー見たこと無いのに」と拗ねる。
繭が「だったら一番最初に見せてあげる」とシャツを脱ごうとして、逞が「ちょっと待って、胸が苦しい」と止める。
すると繭が「逞には二度と裸は見せない」とシャツを下ろし、そこから追いかけっこになって、逞が後ろから抱き締めてキスをする。
それって笑うトコだよな。
違うのかな。

逞は紫堂高校への進学希望を両親に告げるシーンで「子供の頃に寿命を聞いておいて良かったよ」と言っているのだが、そこまでに「逞が 寿命を知ったことを両親が気付く、もしくは両親に打ち明ける」というシーンってあったかなあ。
そんなの、無かったはずなんだけど。
でも、いつの間にか、「両親もそれを知っている」という設定になってる。
だけど息子が自分の寿命に気付いたと両親が知ったら、それこそ涙を誘うシーンとして作りそうなもんだが、やたら感動させようとして いるにしては、そこは雑にカットかよ。

卒業式の後、繭は「受けた高校は全部落ちたよ」と言うが、高校へは行かないと言ってたじゃねえか。
いつの間に考えが変わったのか。それとも、あの言葉は嘘ということなのかよ。
分かりにくいわあ。
っていうか、そこまでに逞と繭の怒涛の愛、それぐらい激しい愛の苦悩や葛藤が全く描かれていないので、そこは「繭を愛するがゆえに逞 が彼女との別れを選ぶ」という大きな決断があるシーンなのに、何も心に響くものが無い。

逞が紫堂高校の入学式に行くと、新入生代表は繭なのだが、これってさ、もっとコメディーとして描かれていればそのバカバカしさも 笑えるけど、そうじゃなくて、完全に「感動純愛余命モノ」として描かれているので、その荒唐無稽を受け入れるのは難しいよ。
大体、同じ高校に入学したのなら、たぶん中学の教師サイドから、その情報は伝わると思うし。
入学式まで全く分からなかったというのは、考えにくい。
すげえバカだったはずなのに、わずかな勉強期間で名門にトップ合格するのも、コメディーのノリでしょ。

昴が女子寮の前で「出来れば僕は、こっちで君たちと一緒に暮らしたいな」と言うと女子生徒たちは彼の虜になるが、いやいや、むしろ 気持ち悪い奴だろ。
こいつをホントに「王子様」として見せたいのなら、目がキラキラと光って光線が出るとか、女子がバタバタと失神するとか、それぐらい ギャグ描写にしないと無理だよ。
繭のことを「姫」と呼ぶのも気持ち悪いし。しかも、おちゃらけたノリの時だけ使うのかと思ったら、シリアスなトーンの時も「姫」と 呼ぶんだよな。

全体を通して、コメディー映画じゃないと成立しないような芝居やシーンのオンパレードで、それはもちろんコメディーだったら余裕で 受け入れられるんだけど、それを感動純愛余命モノとしてシリアス路線の上でやっちゃうもんだから、その混ざり合わないことといったら 、ハンパない。
「いかにも漫画チック」なキャラや表現と、感動純愛路線の筋書きや演出が、まるで噛み合っていないんだよな。
少女漫画って、シリアスとコミカルを上手く両立させている作品が多くて、だから、たぶん原作もその辺りはキッチリと捌いているん だろうと思う。でも、この映画では全くダメ。
少女マンガ(というよりマンガ全般)特有の、シリアスとコミカルの両立って、実写でやろうとすると、そう簡単な作業じゃ ないんだよな。

逞は「俺の運動制限ってどれぐらい?走らないスポーツなら?例えばセックスとか?」と、いきなり孝仁に下ネタを振る。
繭をデートに連れ出し、弓道場で「まだ生きてるご褒美にセックスしていい?繭とセックスしたい」と言い出す。
ピュアな恋愛劇を描きたいのかと思ったら、そういう露骨な性的欲求は入れてくるが、バランスが悪いとしか感じない。
純愛映画で性的な欲求を持ち込むって、すげえ難しい作業なのに、それをすげえ雑にやっちゃってるんだよな。
っていうか、原作で同じシーンがあったとしても、映画では削るべきだ。
大体、なんで弓道場という神聖な場所でセックスなんだよ。

逞は同じ病気を患う20歳の照と小学生以来の再会をするが、幼年期の照は登場していないので、こっちからすると初登場なんだよね。
尺が短いので、昴や照のキャラ描写は薄くなっており、そのくせ重要な役回りはするので、バランスが悪い。
あと、ルームメイト2名は、挨拶するシーンがあるので、物語に大きく関与してくるのかと思ったら、存在感がほぼ皆無で、要らない キャラになっている。

逞がお守り代わりに持っている遺書を落とし、照に「子供の頃に書いたが、今ではお守りだ」と語るシーンがある。 だが、その遺書の存在が明らかになるのは、そこが初めてだ。
遺書を落とす展開があるのなら、それを子供の頃に書いたシーンは必要でしょ。
っていうか、遺書のお守りってキーアイテムっぽく登場したけど、ほとんど使われていないよな。
死んだ後に繭が遺書を見るシーンで初めて内容が明らかになり、そこで感動させるために、あえてそれまでは見せなかったのかもしれない けど、それも外してるなあ。

照が「あたしとキスしない?」と言い出すのは、かなり拙速な展開だ。
で、逞は「照ちゃんとキスした。そうするしか無かったんだよ」と繭に言い訳するが、昴から繭と別れるよう促された後に見舞いのシーン なんだから、逞は照とキスしたのをきっかけにして繭に別れを切り出すのかと思ったら、そうじゃないのね。
だったら、わざわざキスしたことを言う必要性がどこにあるのか。
それなら、黙っていたけど照が繭にバラすとか、そういう展開の方がベターなんじゃないのか。

繭に「逞のそういうトコだけ嫌い」と言われて、逞は「じゃあ別れろよ」と告げるが、そのタイミングで別れを持ち出すのはおかしいだろ 。
どんだけ別れ方が下手なんだよ。
一方の繭は「いいよ、逞がそうしたいなら別れよ」と泣いて言うが、それも簡単すぎるだろ。
逞が自分と別れるために名門高校を受けたと知った時には、猛勉強して同じ学校に入るぐらい猪突猛進で恋まっしぐらだっただろうに。
そこでそんなことを言われたぐらいで、すぐに「別れよ」と言い出すのは、キャラが都合良く変わりすぎだぞ。

照とキスした翌日に逞が病院へ行くと彼女が死んでいるが、その御都合主義には失笑しか出ない。
それ以外にも、この映画は御都合主義に満ち溢れている。
普段は全く運動なんかしていない逞が、100メートル走で昴に勝利する。それだけ激しい運動をしたのに、逞は全く苦しまない。
昂は女と会った帰りに、トラックにはねられる。臓器提供の意思表示カードを持っており、逞と血液型が一致する。
看護婦に部屋を間違えて教えられた男子生徒が逞の部屋に入ってきて、逞はドナーが昂だと知る。

照が死んだことを知って病院から戻った逞が、なぜ100メートル走での勝負を昴に持ち掛けるのか、その心理が全く理解できない。
っていうか、お前は天文台で繭と別れたんだろ。だったら、今さら「負けたら繭をやる」も何も無いだろうに。
「俺が勝ったら二度と繭に近付くな」と言い出すが、じゃあ別れを切り出したシーンは何なのかと。
そういうことを言い出すなら、「やっぱり繭が好きだから、別れの話は無しにしよう」という関係修復のための手順が必要だろうに。
そこをスッ飛ばして、そういう展開に行くなよ。

それまでは「ドナーの家族に会ってお礼が言いたい」とか言っていた逞だが、ドナーが昂だと知ると、急に「手術なんて受けねえぞ、友達 の心臓を貰ってまで長生きなんてしたくない」と言い出す。
繭に「死ぬってことがどんなに怖いか。それはあいつだって同じだろ」と言うけど、もう死ぬことへの恐怖を感じるかどうか分からない だろ、意識不明なんだから。
この辺りで、「手術を拒否するなら、さっさと死ね、今すぐ死ね」と言いたくなった。
だから、こいつが死んでも全く悲しくない。
もし昴の母が提供を拒否しなくても、本人が手術を嫌がったわけだから。すげえ冷徹な奴だと思われるだろうけど、「ざまあみろ」とさえ 思ってしまったよ。

終盤、病院に担ぎ込まれた逞は意識不明となっているが、モノローグで「四つ葉のクローバーの神様、最後に一瞬だけ僕に命を下さい」と 言うと、なんと意識が戻るどころか、ごく普通に歩き回れるぐらいにまで回復する。
そして繭に「行こう。新婚旅行だよ」と誘って外に出る。
なんちゅうアホな展開だよ。おとなしく、そのまま死ねよ。
繭も繭で、最初は病院に戻るよう促すが、遊園地では一緒に遊び、「本当に大丈夫?」に「絶好調」と言われると、簡単に説得をやめて、 ノリノリで遊園地デートを楽しみ、ジェットコースターにまで一緒に乗るアホっぷり。
なんて感涙を誘わないカップルなんだろうか。

(観賞日:2010年11月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会