『BLEACH』:2018、日本

空座町(からくらちょう)。黒崎一護という少年が、母の真咲と雨の中を歩いていた。真咲が車の走る側と場所を代わろうとすると、一護は「いい。俺が母ちゃんを守る」と笑顔で言う告げる。母と手を繋いで歩き出した彼は、川べりで傘も差さずに立っている少女に気付いた。「あの子、傘持ってないのかな」と言った一護が自分の傘を貸そうと走り出したので、真咲は慌てて後を追った。少女は背中を向けたまま、「冷たいよ、冷たいよ」と呟いていた。少女が振り向くと、一護はハッとして意識を失った。真咲は息子を守るために覆い被さり、命を落とした。
高校生になった一護は、交通事故で男児が死亡した現場で不良3人組を殴り倒した。手向けられていた花を、不良たちが散らかしたことを咎めたのだ。一護には幽霊を見る能力があり、不良たちに男児への謝罪を命じた。幽霊の見えない不良たちは困惑するが、一護に凄まれて仕方なく土下座した。不良たちが逃走すると、一護は男児に「早く成仏しろよ」と優しく語り掛けた。不良の1人は密かに舞い戻り、一護を後ろから殴り付けようとする。しかし一護の親友の茶渡泰虎が現れ、不良を撃退した。
一護は母を亡くした後、開業医である父の一心、双子の妹の遊子&夏梨と暮らしている。幽霊が見えてしまう一護の体質を、家族は知っていた。自室に戻った一護は、侍のような格好をした朽木ルキアという女性を目撃した。ルキアが「近い」と外の様子を気にするので、一護は「何が?」と尋ねる。「私の姿が見えるのか」とルキアが驚くと、彼は「いつの時代の地縛霊だよ」と出て行くよう要求する。ルキアが刀を抜いたので一護は焦るが、彼女が狙っていたのはサラリーマンの幽霊だった。
「まだ地獄には行きたくない」と幽霊が言うと、ルキアは「安心しろ、お主が向かう先は尸魂界(ソウル・ソサエティ)、地獄と違って来やすい所ぞ」と告げて尸魂界へ送った。ルキアはホロウ(虚)のフィッシュボーンを探知し、質問する一護の両手を縛り上げた。「私は霊ではない、死神だ」と言い、フィッシュボーンの到来を感じる。父を呼ぶ遊子の声が聞こえたので、一護は自力で拘束を解いて部屋を飛び出した。一護の力を目にして、ルキアは驚いた。
遊子は駆け付けた家族に、「なんか、おっかない声が聞こえて」と告げる。すると壁を突き破ってフィッシュボーンが出現し、遊子を連れ去った。一護は遊子を救おうとするが、フィッシュボーンに弾き飛ばされる。ルキアが刀を抜いてフィッシュボーンに斬り付け、一護は落下した遊子を抱き止めた。ルキアは一護に「ホロウの姿が見えると言うことは、相当な霊圧を持っている」と言い、ホロウは霊圧の高い魂を食らう悪霊だと解説した。一護は自分が狙われていると知り、気絶している遊子を道端に置いた。
ルキアは一護を守ってフィッシュボーンと戦うが、利き腕に怪我を負って窮地に追い込まれた。彼女は「なんか方法はねえのかよ」と言う一護に、ホロウを倒せる死神になれと要求する。死神になる方法を聞いた一護は迷うが、遊子の「怖いよ」という声を耳にして承諾した。死神の力を得た一護はルキアの斬魄刀を使い、フィッシュボーンを軽く退治した。翌朝、彼が目を覚ますと昨夜の一件は「トラックが突っ込んだ」ということになっており、家族は何も覚えていなかった。
空座第一高等学校では、一護のクラスメイトである井上織姫が彼のことを妄想していた。「どこが好きなの?」と親友の有沢たつきが質問すると、彼は「面白い所が好き」と即答した。登校した一護は織姫や友人の浅野啓吾たちに「トラックじゃなくて巨大な化け物の手が突っ込んで来た」と話すが、誰も信じてくれなかった。ルキアが学校の制服を着て現れたので一護が驚いていると、織姫は転校生だと紹介した。ルキアは一護を屋上へ呼び出し、死神の力を失ってソウル・ソサエティに帰れなくなったのだと説明した。本来は一護に力を半分だけ与えるつもりだったが、霊圧が想像以上に高くて全て吸い取られてしまったのだ。
ルキアは緊急用の体を使うことで、他の人間からも見える状態になっていた。彼女は死神の力を返してもらおうとするが、一護の霊圧が不足しているため無理だった。そこでルキアは、しばらく死神代行として仕事を手伝うよう一護に要求した。死神の仕事は2つあり、1つは「プラス」と呼ばれる通常の霊をソウル・ソサエティへ導く魂葬、1つは怪物化して人間の魂を食らうホロウを斬魄刀で斬る昇華滅却だ。この内、ルキアはホロウを斬る仕事を手伝うよう告げる。彼女は「霊圧は修業を積み、ホロウと戦うことで少しずつ高くなる」と言い、霊圧に耐えられる器を作る必要性を説いた。
「知らねえよ、そんなの」と一護は拒否するが、ルキアは彼の部屋に住み付いて「貴様の定めだ、諦めろ」と冷淡に告げた。翌朝、ルキアはピッチングマシーンを使ってボールを打ち返す修業を始めようとするが、一護は嫌がって立ち去った。ルキアが強引に連れ戻して修業を要求しても、また一護は拒絶した。ルキアは古物商の浦原商店へ行き、店主の浦原喜助から新しいバッテリーを受け取った。浦原はルキアに、「どうするつもりです?死神の力の受け渡しは死刑に値します」と告げた。
ソウル・ソサエティでは、ルキアの霊圧が下がっているので見つからないことを阿散井恋次が朽木白哉に報告していた。「まさか、本当に死神の力の受け渡しを」と恋次が口にすると、白哉は「探れ。力の受け渡しが本当なら捕らえよ。上からのお達しだ」と命じた。夜、恋次は一護の前に現れ、ルキアの居場所を尋ねる。一護が「知らねえよ」と言うと、恋次は刀を抜いて襲い掛かった。逃げる一護を追い掛けようとした恋次は放たれた矢に妨害され、「まさか、クインシーが?」と漏らして立ち去った。
帰宅した一護は、ここに来た理由を教えるようルキアに要求した。しかしルキアは詳細を明かそうとせず、「貴様は黙って修業を積め」と告げた。恋次は白哉の元へ戻り、「次にホロウが現れる時、ルキアは必ずその男と現れます」と報告した。次の日、一護が教室にいるとクラスメイトの石田雨竜が歩み寄り、「君、死神か」と問い掛ける。彼が「君の霊圧が高いのは前から分かってる。それがあの転校生が来た日を境に、異常な高さになってる」と話すので、一護は慌てて口を塞ごうとする。雨竜は1年前に転校してきた生徒だが、一護が彼と話したのは初めてだった。
一護は屋上へ移動し、雨竜が死神に滅ぼされたクインシーの生き残りだと聞く。雨竜が霊子の矢を放ったので、一護は昨夜の男が彼だと悟る。雨竜はホロウを倒す能力があること、一族を滅ぼした死神を倒すために生きていることを語った。彼は1年前に異常な霊圧を感じて町に留まったことを話し、一護に自分と勝負するよう要求した。一護が困惑していると、彼は「無理にでも死神になってもらうしかない」と言ってホロウを出現させるためのエサを撒いた。
ルキアが一護の元へ駆け付けると、雨竜は身を隠した。ルキアは一護の霊魂を引っ張り出し、死神として戦うよう命じた。「知らねえよ」と一護は拒否するが、助けを求める声を耳にして現場へ向かう。ルキアは次々にホロウが現れたことを知り、「何者かがエサを撒いたのだ。このままでは人間はおろか、近くの霊たちも危ない」と語る。一護は交通事故死した少年の霊が逃げるのを目撃し、追って来たホロウを倒そうとする。ルキアが「あの子供を助けるなら、他の人間や霊も助ける覚悟を決めろ。死神は全ての人間や霊に対し、平等でなければならない」と言うと、一護は「死神の覚悟なんかするか」と叫んでホロウに攻撃を仕掛けた。
一護が窮地に陥ると、恋次が現れて簡単にホロウを退治した。すぐさま恋次は一護に襲い掛かり、圧倒的な力の差を見せ付ける。ルキアが止めに入ると、恋次は「人間みたいなツラしてんじゃねえよ」と激しい苛立ちを見せて白哉を呼んだ。ルキアは兄の白哉に膝を突き、掟を破った理由を問われて事情を説明した。白哉は今すぐに一護から死神の力を取り戻すよう要求し、ルキアが「この男は霊圧が低すぎ、確実に死にます」と話すと「それがどうした、構わんではないか」と冷淡に言い放つ。
「この男が死神の力を持ったのは私の都合、この男に罪はありません。罪も無い人間を殺すのは、死神の仕事ではないはずです」とルキアは反論するが、白哉は指示に従わねば自分が死ぬことになると通告する。彼は次の満月まで時間を与えることを言い残し、その場を後にした。ルキアは傷付いた一護を学校の屋上まで運び、治療を施した。一護が目を覚ますと家で休んでおり、傍らにいた一心か「事故ったんだってなあ。同級生が連れて来てくれたよ」と告げた。
次の夜、ルキアが部屋から姿を消したので、一護はソウル・ソサエティに戻ったのではないかと推理する。彼は雨竜の元へ行き、ソウル・ソサエティの場所を訪ねた。雨竜は「ソウル・ソサエティへの行き方を知っている男なら知っている」と言い、ソウル・ソサエティを追放された死神である浦原のことを教えた。浦原は一護の訪問を受けると、ルキアはソウル・ソサエティに帰ったのではないと言う。彼は一護に、「アンタを守るために、彼女は身を挺して朽木白哉に会いに行った」と語った。
ルキアは白哉に、一護を生かしておけばグランドフィッシャーが現れ、それを倒せば手土産になると訴える。一護はルキアの元へ駆け付け、グランドフィッシャーを倒すと宣言する。白哉は一護を始末しようとする恋次を制止し、「よかろう、やってみるがいい」と口にした。すると一護はグランドフィッシャーを倒す条件として、見返りにルキアを解放するよう要求した。一護はルキアとの特訓を開始し、ホロウの急所は額だと知らされる。グランドフィッシャーに関する説明を聞いた一護は、自分の母を殺したホロウだと確信した。彼はルキアに、「これは俺の戦いだ」と口にした。白哉は一護にグランドフィッシャーを倒せるとは思っておらず、恋次に「あいつをエサにしてグランドフィッシャーをおびき寄せろ。お前が倒せ。そしてルキアも殺せ」と命じた。
真咲の命日、黒崎家の4人は墓参りへ出掛けた。遊子と夏梨が坂を登る途中で喉の渇きを訴えたので、一護は文句を言いながらも自販機まで戻る。一心は先に墓に辿り着き、缶ビールを飲んで亡き妻に語り掛ける。遊子と夏梨は少女の姿をしたグランドフィッシャーを目撃し、一護はバッテリーを見たルキアから「近い」と言われる。一護とルキアが急いで駆け付けると、グランドフィッシャーは遊子と夏梨を気絶させて待ち受けていた。一護はルキアの力を借りて死神の姿になり、グランドフィッシャーに戦いを挑む…。

監督は佐藤信介、原作は久保帯人「BLEACH」(集英社ジャンプ・コミックス刊)、脚本は羽原大介&佐藤信介、製作は高橋雅美&近藤正人&木下暢起&本間道幸&米里隆明&吉崎圭一&大川ナオ&橋誠&三宅容介&田中祐介、エグゼクティブプロデューサーは小岩井宏悦、プロデューサーは和田倉和利、ラインプロデューサーは森徹、協力プロデューサーは関口大輔、撮影監督は河津太郎、美術監督は斎藤岩男、美術は江口亮太、録音は横野一氏工、編集は今井剛、VFXプロデューサーは道木伸隆、VFXスーパーバイザーは神谷誠&土井淳、アクション監督は下村勇二、衣裳は宮本まさ江、音楽は やまだ豊。
主題歌[ALEXANDROS]「Mosquito Bite」作詞・作曲:川上洋平、編曲:[ALEXANDROS]& Ayad Al Adhamy。
出演は福士蒼汰、杉咲花、江口洋介、長澤まさみ、吉沢亮、田辺誠一、早乙女太一、MIYAVI、真野恵里菜、小柳友、山田寛人、伊藤梨沙子、平澤宏々路、安藤美優、高村佳偉人、後藤由依良、鈴木龍之介、浅野優貴、金井勝実、朝日出響也、大塚ヒロタ、古屋隆太、大迫一平、松下太亮ら。


『週刊少年ジャンプ』で連載された久保帯人の同名漫画を基にした作品。
監督は『図書館戦争』『アイアムアヒーロー』の佐藤信介。
脚本は『ヒーローショー』『綱引いちゃった!』の羽原大介と佐藤信介監督による共同。
一護を福士蒼汰、ルキアを杉咲花、一心を江口洋介、真咲を長澤まさみ、雨竜を吉沢亮、浦原を田辺誠一、恋次を早乙女太一、白哉をMIYAVI、織姫を真野恵里菜、茶渡を小柳友、啓吾を山田寛人、たつきを伊藤梨沙子、遊子を平澤宏々路、夏梨を安藤美優が演じている。

普通にやったら絶対に収まらないボリュームの長編作品を映画化する際、ザックリ言うと選択肢は3つある。
1つ目は、「1本で収まる分だけ、物語の冒頭から途中までを映画化する」という方法。2つ目は、「大幅に省略して物語の最後まで描く」という方法。3つ目は、「換骨奪胎して大幅に改変してしまう」という方法だ。
最近だと、1つ目の選択を選ぶケースが多いように思う。
この場合、「もしヒットしたら2作目以降で続きを描く」ということも可能になるしね。

この映画も1つ目の方法を採用しており、原作コミックスの第1巻から第8巻で描かれた「死神代行篇」をベースにしている。これは賢明な判断と言っていいだろう。
1本の映画で『BLEACH』をラストまで描こうとしたら、粗筋を追うことだけでも無理なぐらいメチャクチャな仕上がりになることは確実だ。また、大幅に改変してしまったら間違いなく原作のファンに拒絶されるので、それでは映画化する意味が無くなってしまう。
ただ、1つ目の方法で正解ではあるのだが、それでも時間が全く足りなかったようだ。
そのため、原作ファンも、原作を知らない人も、どちらも満足できそうにない出来栄えとなっている。

我々が暮らしている世界とは大きく異なるファンタジー設定があるため、それを観客に説明する必要がある。
死神とか、義骸とか、プラスとホロウとか、ソウル・ソサエティとか、霊圧とか、クインシーとか、基本的な用語だけでも幾つもある。そこを何も説明せずに済ませてしまったら、話を理解するのが難しくなってしまう。
なので、一つ一つ説明するのは観客に対する親切な作業ではある。
ただ、あまりにも説明のための台詞が多すぎて、会話シーンが不細工になっているのも事実なのよね。
しかも、その説明が充分なのかというと、ちっとも足りていないという問題もあるし。

例えば、ルキアは「一護の霊圧が想像以上に高くて全て吸い取られてしまった」と言うが、死神の力を返してもらおうとする時には「一護の霊圧が足りないから無理」ってことになる。
どういうことなのか、良く分からない。
「霊圧は高いけど未熟なので、戻すことは出来ても今のままだと確実に死ぬ」とルキアは説明するが、まるで腑に落ちない。
その後に「霊圧は修業を積み、ホロウと戦うことで少しずつ高くなる」と言ってるけど、既に高いんでしょ。

どうやら原作の「死神代行篇」における主要キャラクターは、出来る限り登場させようとしたようだ。
原作ファンに納得してもらうことを考えれば、それは正しい判断と言っていいだろう。ただし、その全てのキャラを充分に活用できているのかというと、答えはノーである。
108分という上映時間なので、そんな結果になってしまうことは製作サイドも分かっていただろう。
全てのキャラをちゃんと活用することよりも、「とにかく全て出す」ってことを優先したわけだね。

例えば茶渡は、「一護を不良から救う」という形で、他のクラスメイトとは違って1人だけ先に登場する。
だから重要な役回りを担当するキャラになるのかと思いきや、いてもいなくても全く支障の無い存在と化している。
織姫は一護にベタ惚れしていて、ルキアに嫉妬する。そこで恋愛劇の三角関係を作ろうとしているのだが、まるで膨らまない。
何しろ時間の余裕が無いので、恋愛劇にまで手が回っておらず、その必要性が皆無と化しているのだ。

織姫と茶渡は終盤、「グランドフィッシャーと戦っている一護の気配を察知する」という動かし方をされている。
だが、それは「このままだと存在価値が全く無いので、2人に何か役割を与えないと」という程度のモノでしかない。
この2人も含めて、クラスメイトは全て存在意義を見出せない連中と化している。
啓吾が「一護がトラブルに巻き込まれて死んだ」と言い、そこへ一護が現れて「死んでねえよ」と否定するネタが3度あるのだが、この天丼も完全に外していて寒々しいだけだし。

雨竜は他のクラスメイトと違い、クインシーで死神が見えるキャラクターだ。
こいつは戦闘能力があるので、織姫たちに比べれば使い勝手がいいと言えるだろう。そのおかげで、クライマックスの戦いでは「一護の助っ人としてグランドフィッシャーを攻撃する」という仕事を担当している。
ただ、そこで雨竜に加勢されるのは迷惑なだけなんだよね。
一護は「これは俺の戦いだ」と力強く宣言しているんだから、そこは自分の力だけで勝たないとダメなんじゃないかと。

黒崎家の面々も、上手く使いこなしているとは到底言い難い。
それどころか、一心に至っては「親としての責任感が皆無」としか思えない行動を取っている。命日の墓参りで、彼は子供たちを置き去りにして、さっさと墓まで辿り着いて缶ビールを飲み始めるのだ。その間に、子供たちはグランドフィッシャーの襲撃を受けているんだよね。
もちろん一心はグランドフィッシャーの存在なんか知らないけどさ、他の危険は考えられるはずで。まだ小学生の遊子と夏梨を2人きりにするってのは、ものすごく不用心で無責任だと思うぞ。
そもそも、そんな2人に重い荷物を持たせて、自分だけさっさと墓まで行っている時点で身勝手な奴だし。

一護はルキアから死神として訓練を積むよう要求されても、最初は徹底的に拒否している。訓練を開始するのは、グランドフィッシャーを倒すと宣言してからだ。
ようやく訓練に突入しても、「それによって一護の力が高まっていく」という成長の印象は皆無だ。
また、訓練の開始が遅いってことは、それまでは「一護が死神代行としてホロウを倒す」という仕事も描かれないってことになる。「死神代行篇」のはずなのに、一護が死神代行の仕事をするシーンって実は一度も無いんだよね。
後半にはグランドフィッシャーと戦っているけど、それも言ってみりゃ「母を殺した相手への復讐」だからね。

グランドフィッシャーとの戦いがクライマックスのはずなのだが、その後に「一護が恋次に襲われて戦い、白哉にも戦いを挑んで云々」という展開が待ち受けている。
続きの展開をザックリと書くと、「一護は恋次に勝つが、白哉には歯が立たない。しかし倒れても何度も立ち向かい、それを見ていたルキアが白哉に罪を償うと約束する。白哉は承諾し、ルキアはソウル・ソサエティへ連れ戻される。一護は記憶を消されるが、どうやらルキアのことは思い出した様子」ってトコで映画は終わる。
一応は原作通りの締め括りにしてあるのだが、そういう「原作を大事にする」という意識が、皮肉なことに本作品を完全なる失敗へと追いやっている。

どういうことかというと、そんな展開にしたことで、カタルシスが消滅してしまうのだ。
一護がグランドフィッシャーを倒すエピソードをクライマックスにしておけば、「母を殺した敵を倒せたし、今回は守ることが出来た」という形になる。
しかし、前述した展開を続けることによって、「一護は強敵に負けてルキアに救われた。また一護は母を亡くした時のように、命を張った女性に守ってもらった」という形になってしまう。
ちっとも爽快感の無い、盛り上がりに欠ける終盤戦になっているのだ。

そもそも、グランドフィッシャーとの戦いがクライマックスとして成立しているだけに、その後で別の戦いを描かれると蛇足になっちゃうんだよね。
原作と大きく異なる展開になるのは承知で言うけ「グランドフィッシャーを倒した後、白哉が一護を始末しようとする」という展開は避けた方がいい。
例えば、「恋次が一護を始末しようとすると、ルキアが必死で止めに入る。白哉はルキアを詰問するが、謝罪を受け入れてソウル・ソサエティへ連れ帰る」という流れで良かったんじゃないかと。
そうすれば、「一護はグランドフィッシャーを倒す力を見せたし、今回は守ることが出来た」という形になる。そして、「また一護は守られた(また守ることが出来なかった)」という印象も、かなり薄めることが出来るんじゃないかと。

(観賞日:2019年10月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会