『ビッグ・ショー! ハワイに唄えば』:1999、日本

売れない演歌歌手の赤城麗子は、マネージャーの須貝や付き人の高橋里美と共にハワイにやって来た。プロモーターのジョー坂上が手配してくれた仕事をこなすためだ。それは、女子プロレスの前座で歌うという仕事だった。
仕事を終えた麗子は、客として会場に来ていた日系人のジミーと出会う。麗子の新曲は都はるみのカバー曲『大阪しぐれ』だったが、それはジミーの亡くなった母が良く口ずさんでいた歌だった。ジミーに招かれて家に行った麗子は、彼や家族と親しくなる。
ハワイにはディナーショーを行うために都はるみが訪れていた。須貝は都はるみ事務所の副社長・田代と出会い、ショーの前座で麗子を使ってもらう約束を取り付ける。しかし、麗子は喜ばないどころか、都はるみと会うことさえ敬遠する。
実は、麗子は都はるみの付き人をしていた12年前、ちょっとしたミスから逃げ出してしまったという過去があった。そのため、都はるみに対して負い目を感じていたのだ。それでも前座に出演した麗子だが、客は一向に盛り上がらない。
出番を終えた麗子は、都はるみ事務所のスタッフである島田から辛辣な言葉を投げ付けられ、歌に対する自信を失ってしまう。再びジミーの家を訪れた麗子は、彼から結婚を申し込まれる。麗子は歌を辞めて、ジミーと結婚しようと決めるのだが…。

監督は井筒和幸、脚本は安倍照男&塩田千種&金子弦二郎&井筒和幸、製作は石原仁美&李柱益&ジェームズ・J・フリードマン、製作総指揮は李鳳宇、撮影は浜田毅、編集は冨田伸子、録音は鈴木肇、照明は渡邊孝一、美術は大坂和美、音楽は藤野浩一、音楽プロデューサーは石川光。
主演は室井滋、共演は尾藤イサオ、都はるみ、原田芳雄、加藤茶、竹内結子、大森朋南、武田久美子、山本太郎、久米明、石田太郎、玉置宏、菅原大吉、酒井敏也、小松正一、若井みどり、渡辺智子、田口かほる、団時朗ら。


映画『のど自慢』で登場人物の1人だった赤城麗子を主人公にした作品。
『のど自慢』で素人のど自慢大会に出演した麗子の、その後の物語が綴られている。
麗子役の室井滋と須貝役の尾藤イサオだけが前作に引き続いて登場し、後はガラリと出演者が入れ替わっている。

『のど自慢』は赤城麗子も含めた数名を主役としていたが、今回は麗子1人だけが主役だ。
しかし、彼女には1人で芯を取る強さが無い。
これは室井滋が主役の器ではないということではなく、赤城麗子というキャラクターに主役としての強さが無いということだ。

せっかく大勢のキャラクターを登場させているのに、ストーリーの中で彼らが上手く絡み合ってくれない。その場その場で、思い付きで騒ぐだけに終わっている。
付き人の高橋や前座歌手の漁火伸二などは、何のために登場したのか分からないぐらいだ。
エピソードも同じく、その場その場で終わっている。
とにかく寒々しい笑いを描くシーン(というか笑えないシーン)が、弱々しく織り込まれている。
ベタな笑いをヌルいものとして見せないためには、演出とシナリオの勢いも、キャラクターの強烈な個性も、それを演じ切る演技力も足りていない。

一応、メインとなるのは麗子とジミーのラブストーリーなのだろう。
しかし、これも弱い。
ジミーが麗子の歌を聞いて惹かれるという部分の説得力の弱さを差し引いたとしても、扱いが軽薄すぎる。ジミーや家族の造形も弱いし、恋愛の締め方も消化不良だし。

室井滋が演歌歌手の役としては歌唱力に難があることは、既に前作『のど自慢』で分かっていることだ。
ただし、前作では彼女は“素人の1人”としいポップスを歌っていたこともあり、それほど歌唱力が映画に影響を与えることはなかった。
しかし、この作品では彼女は完全に“プロの演歌歌手”として演歌を歌っている。
そのため、いくら売れない演歌歌手とはいえ、その歌唱力が気になってしまう。
都はるみの歌うシーンが登場することで、そのことがますます目立ってしまう。

玉置宏のプロフェッショナルな司会術と、都はるみのプロフェッショナルなステージパフォーマンスだけが光っている。
特に麗子の歌う『大阪しぐれ』に途中から都はるみが参加して歌うシーンは、ベタベタだけど本物ならではの説得力がある。

 

*ポンコツ映画愛護協会