『BEST GUY』:1990、日本
第二航空団201飛行隊班長の吉永信明は、かつて自分が体験した出来事の夢を見た。彼は相棒の梶谷哲夫と共に戦闘機で飛行中、トラブル に見舞われてパラシュートで脱出した。だが、梶谷哲夫は脱出できず、そのまま命を落とした。うなされて目を覚ました彼は、妻・由美子 に心配される。その梶谷哲夫の弟が、もうすぐ201飛行隊に赴任することが決まっていた。一方、歌手シェリーのミュージック・ビデオを 撮影していたディレクターの水野深雪は、空を飛ぶF15戦闘機を見て、その映像をビデオに使いたいと考えた。
梶谷英男は201飛行隊に赴任するため千歳基地へ向かう途中、車が故障してしまった。予定より遅れて基地に到着した彼は、身分証を 無くしたためフェンスをよじ登って侵入した。梶谷は201飛行隊の面々と会った。隊長の山本忠幸、班長の吉永信明、訓練幹部の屋敷治雄、 隊員の名高輝司、村松義貴、中川惇夫、立石隼らだ。トップガンの称号を持つ名高とエリートを嫌う梶谷は、互いに敵対心を剥き出しに した。山本隊長は、第五航空団から来た梶谷に「ゴクウ」の呼び名を与えた。
バーへ出掛けた梶谷は、そこで見掛けた深雪をナンパした。彼女は、千歳の基地でビデオクリップを撮ることになったと話した。翌日、 山本隊長は隊員たちを集め、トップガンの上に位置するベストガイの称号が2年に渡って空席になっていることを語り、今回の訓練を通じて ベストガイを誕生させたい意向を示した。ベストガイとは、技量だけでなく全人格が優秀と認められた者だけに与えられる称号だ。最有力 候補は名高である。兄が小松基地のベストガイだった梶谷だが、「そんなものに興味は無い」と冷たく言い放った。
クルーを伴って基地にやって来た深雪は、パイロット姿の梶谷を見て驚いた。深雪は離陸しようとするF15戦闘機のエンジンに近付こうと して、整備班長の加茂川善三や整備員の柴田晶子、徳田剛らに制止された。それでも深雪は強引な撮影を止めず、今度は許可を取らず 滑走路に入って山本隊長の注意を受ける。深雪は謝罪したものの、すぐに「F15戦闘機に乗って撮影したい」と申し出た。吉永は、無言の 退去によって拒否の意を示した。
201飛行隊では、特別強化訓練が行われることになった。飛行隊を2つのグループに分け、対決するのだ。梶谷は山本隊長のグループ、 名高は吉永班長のグループに入った。「今度こそハッキリと勝負を付けよう」と、梶谷は名高に宣戦布告した。梶谷は相棒の中川の制止を 無視し、正面衝突ギリギリまで名高の機に近付く危険なフライトを見せた。着陸後、名高は激怒して梶谷を殴り倒し、中川も「玉砕戦法の 巻き添えになりたくない」とパートナーを降りたがる。梶谷は名高に掴み掛かろうとして仲間に制止された。
次の訓練で、またも梶谷は危険なフライトを敢行し、名高に狙いを定めた。しかし名高の逆襲を受け、撃墜の判定を受けた。基地に戻った 梶谷は、「撃墜はされていない。重大な損害は受けていない」と反論する。山本隊長も、梶谷の意見に同調した。意見を求められた名高は 、「訓練幹部の判断にお任せします」と述べた。結局、梶谷の撃墜判定は取り消された。
深雪は上司の斉藤から、自分が制作部から離れ、千歳基地での撮影プロジェクトも解散することを告げられた。吉永は由美子から、父・ 加納太一郎の紹介で国際線パイロットに転進するよう頼まれた。「子供のことも考えて」と言われる吉永だが、即答を避けた。梶谷は名高 から、彼が以前は医者になるつもりであり、本当はパイロットになる気など無かったことを聞かされた。
ロシアの戦闘機が領空違反を侵したため、梶谷と名高がスクランブルで出動した。2人は領空違反機に接近して警告するが、相手は無視 した上、ロックオンしてきた。梶谷が巧みな飛行で逆にロックオンすると、ロシア機は領空から去った。基地に帰還する途中、梶谷は バーティゴ(空間識失調)に陥る。パニックとなった彼は、戦闘機を捨てて何とかパラシュートで脱出した。
梶谷は吉永から、兄の事故についての真相を聞かされる。事故の時、吉永と梶谷の兄は2人ともバーティゴに陥った。吉永は何とか脱出 したが、梶谷の兄は戦闘機にレバーを引けなかった。吉永は、「俺達はバーティゴに陥っても、戦闘機が民家に墜落しないよう努めた。 お前はそれを考えずに戦闘機を放棄した。兄にも劣る」と非難した。飛行隊を辞める決意を固めた梶谷は、鹿児島へ戻って昔の恋人に 会うが、「いつも何かあった時しか来ない。女だって、そう長くは待てないものなの」と涙を見せられる…。監督は村川透、原作は山口明雄(「翼」掲載)、脚本は高田純&村川透、プロデューサーは長谷川安弘&山口明雄&水野洋介&小島吉弘& 豊原道雄、企画は牧野良祥&山口明雄、プロデューサー補は石井誠一郎、撮影監督は阪本善尚、編集は川島章正、録音は佐藤泰博、照明は 大久保武志、美術は育野重一、音楽は山崎稔、音楽プロデューサーは高桑忠男、音楽監督は鈴木清司、主題曲はシェリー。
出演は織田裕二、財前直見、長森雅人(新人)、黒沢年男、古尾谷雅人、島倉千代子(特別出演)、シェリー(特別出演)、 榎木孝明(友情出演)、竹中直人、根上淳、佳那晃子、東幹久、米山善吉、黒崎輝、小林昭二、岩本千春、須藤正裕(現・須藤雅宏)、 松田勝(現・松田優)、平野稔、中丸新将、大林丈史、津波古充二、中原丈雄、冴木杏奈、 高岡良平、福田健次、近藤誠、斧篤、大野正敏、豊嶋稔、畔田裕一、高安青寿(現・右門青寿)、野々村仁、石川功久、高岡一郎、 牧野友弥、駒井一隆、大川諒、小瀬川理太、
織田裕二が吉田栄作、加勢大周と共に「平成御三家」と呼ばれていた頃、初めて看板を張った映画。
監督は『野獣死すべし』『もっとあぶない刑事』の村川透。
梶谷を織田裕二、深雪を財前直見、名高を長森雅人が演じている。
ちなみに長森雅人は無名塾出身で、邦画出演は本作品が初めてだと思うのだが、プロフィールからは抹消されているようだ。
他に、山本を黒沢年男、吉永を古尾谷雅人、由美子を佳那晃子、管制官を竹中直人、加納を根上淳、村松を東幹久、中川を米山善吉、立石 を黒崎輝、加茂川を小林昭二、晶子を岩本千春、屋敷を須藤正裕(現・須藤雅宏)、、徳田を松田勝(現・松田優)が演じている。また、衛生隊婦長役で 島倉千代子、本人役でシェリーが特別出演、梶谷哲夫役で榎木孝明が友情出演している。『トップガン』の模倣であることは誰の目にも明らかだが、この映画がスゴいのは、それを全く隠そうとしていないことだ。
『トップガン』の日本版として製作したことを、堂々と公言しているのだ。
『セント・エルモス・ファイヤー』を模倣しているのにオリジナルを装ったフジテレビの某ドラマのような、往生際の悪さが無い。
あからさまに模倣するなんて、ある意味、潔くて気持ちがいいぐらいだ。とは言え、だからって本作品を誉める気は一切無い。あまりにも、そのまんま『トップガン』を持ち込みすぎだ。
ただ「航空アクション」というだけでなく、主人公と強気な女の恋、優秀なライバルとの反目と友情、上官との対立、MTV風の演出など 、全てにおいて「まんま『トップガン』」なのだ。
一捻り加えようとか、新たな魅力を盛り込もうという気概を全く感じない(終盤だけ『愛と青春のたびだち』を模倣するが)。
そんなわけだから、見事に『トップガン』の超劣化版として仕上がっている。
そもそもオリジナルの『トップガン』がヒットこそしたが大した映画ではなかったのだから、その劣化版となれば、クオリティーは言わず もがなだ。
それにしても、改めて本作品のデータをチェックして驚いた。
何に驚いたかって、これがオリジナル脚本じゃなく原作付きだったことだ。この映画にとって不幸だったのは、模倣の対象が航空アクションをセールスポイントにしている映画だったことだ。
日本では特撮に頼らない限り、優れた航空アクション映画など作れない。
これも当然の如く、合成とミニチュアを使っている。
で、本作品でももちろん航空アクションが売りなんだろうし、かなり長く時間を割いているが、残念ながら退屈を感じてしまった。隊員には全てタックネーム(愛称)が付けられている。これは『トップガン』の模倣ではなく、実際に自衛隊でもタックネームが交信用に 使われている。日本人が「イマジン」やら「サリー」やら「ジュピター」やら「ハイボール」やらと呼び合っているのはダサいなあと 思ったりもするが、それは置いておくとして、他は全て英語なのに、なんで梶谷だけは「ゴクウ」って日本語なんだよ。
梶谷は、登場した時の軽い態度や、ナンパする時のお調子者っぽいノリと、「ベストガイに興味は無い」と言い放つ時のクールな態度が、 まるで別人のようになっている。
二面性があるということではなく、その場その場でコロコロとキャラ設定が変わるということだ。
いや、キャラ設定がボヤけているから統一感が無いと言った方がいいのかもしれない。もう冒頭で吉永と梶谷の兄の事故を見せてしまう段階で、失敗していると感じる。
それは梶谷の吉永に対する反発、吉永の梶谷に対する何か曰くありげな態度を見せてから、「実はこんな因縁があった」と描写すべきだろう。
あと、梶谷は兄がバーティゴで死んだことを知っている設定にした方がいいと思うんだよな。
その影響で、バーティゴを恐れていることにでもした方がさ。
そうじゃなくて兄の死の真相を隠しておくなら、そもそも兄の死という設定そのものが要らないような気もするし。
後から「兄の死亡事故はバーティゴのせいだ」と知らされても、それを梶谷がどう消化し、彼の今後に繋げればいいのか分からない(実際 、まるで繋がらない)。
しかも吉永がそれを打ち明けて「事故を克服しろ」と言うのが梶谷の事故直後なんだけど、早いよ。
例えば次の訓練でバーティゴの影響で離陸できなくなるとか、辞めようとするとか、そういう展開があってから叱咤激励に移るべきじゃ ないの。で、基地を去った梶谷が鹿児島へ行くので、「深雪に会いに行くんだろうな。でも深雪って鹿児島にいるんだな。それに、そんなに彼女と 関係が深まっていたようには思えないけどな」などと思っていたら、ピアノを演奏しながら歌うジャズ歌手の女が登場。
「誰だよ」と思ってしまう。
で、そいつにフラれたから梶谷は深雪の元へ向かうんだが、身勝手すぎるだろ。
深雪はミュージック・フィルムの撮影で千歳基地に入っているが、そんなことを簡単に認めるなんて、自衛隊も度量が広くなったものだ。
しかも撮影に関係ないのに、管制室でエア・コンバットのモニター画面を自衛官と共に眺めたりもする。
終盤には、既に撮影許可の切れている彼女がフェンスを登って侵入したのに、何の咎めも受けないというシーンもある。その深雪は、離陸寸前の戦闘機のエンジンに接近しようとして「吸い込まれて死ぬぞ」と整備員に注意されるが、そんなの撮影前から 分かっているんだから、注意事項として教えておけよ。
カメラを構えている時点で、「近付くと危ないぞ」と言うことも出来るし。
それにしても、深雪という女が単なるウザい奴にしかなっていないのはキツいよなあ。
そもそも、そんな深雪を登場させるために、ミュージック・ビデオのディレクターが基地に入って好き放題に行動するのに追い出されないと いうムチャな設定が罷り通るのがキツい。そこの安っぽさ、バカバカしさは、映画にかなりのダメージを与えている。
ヒロインを登場させたいなら、例えば整備員でもいいし(名高の恋人は整備員だ)、上官の娘だっていいだろう。
たぶんMTV風演出も意識してヒロインの職業を設定したんだろうが、そのMTV風演出もダダ滑りだし。梶谷が正面衝突ギリギリまで突っ込む危険なフライトをする理由がサッパリ分からないが、それはともかく、着陸してからヘラヘラと 笑って「危なかったな」と口にする彼の、好感度の低いことと言ったら。
自分が危険なフライトをやらかすというのじゃなくて、仲間を死なせる危険性があるわけだからね。
それとさ、そこは上官が注意すべきでしょ。なんで山本も吉永も何も言わないの。
なぜか「いいファイターに成長する」と誉めているが、梶谷はただのバカにしか見えないぞ。梶谷は兄の事故について深雪に問われ、会話の中で唐突に「バーティゴって知ってるかい」とバーティゴの説明を始める。
てっきり、兄の死とバーティゴの関係を語るのかと思ったら、そうじゃなかった。
おまけに、「ここに来てからバーティゴになっているような気分だ。あんたのせいかも」と、口説き文句に利用している。
もうね、アホかと。
そこでバーティゴの説明をするのは、後で梶谷がバーティゴに陥るので、その前フリのつもりなんだろう。
だけどね、実際に梶谷がバーティゴになってから説明しても遅くないよ。少なくとも、不自然な形でバーティゴの説明を始めて、それを 口説き文句に利用するよりは、そっちの方が遥かにマシだ。
あと、バーティゴに陥るタイミングも違う気がするけどなあ。特別強化訓練で2つのグループに分かれた後、梶谷は名高に「今度こそ決着を付けてやる」と言うが、アンタはベストガイに興味が全く 無かったはずでしょ。だったら、何の決着なのよ。
っていうか、そもそも梶谷が名高に異常なライバル心を燃やす理由も良く分からない。
名高がイヤな奴だとか、嫌がらせをしてくるとか、恋敵だとか、そういうことでもないし。
吉永は梶谷に関して、「兄貴の影を消すことが出来ればベスト・パイロットになれる」と称するが(そこは「ベストガイじゃないのね」)、 そうは見えない。そんなに兄貴の影を引きずっているようには感じないぞ。向こう見ずなフライトと兄の関係性もゼロだし。
彼が兄の影を引きずる心の傷や、それによる吉永との対立は薄い。
ライバルである名高との関係描写も薄く、何となく仲良くなっている。
恋愛劇も薄い。
BGMも、効果的で印象に残るようなモノは無い。梶谷がベストガイを決めるエア・コンバットのために戻ってくるのは、どうも引っ掛かるぞ。
整備班長のおやっさんは梶谷が基地を去る直前、「日本を守る奴がいなくなるのは寂しい」的なことを言ってたじゃん。そこはベストガイ なんて関係が無いというトコロに行くべきじゃないのか。そのためには、最初は梶谷がベストガイを目指すようにしておいた方がいいだろうし。
いざ梶谷が復帰すると、バーティゴの影響はゼロ。エア・コンバットの中でバーティゴの恐怖に襲われ、それを振り払うような描写は無い。
最初から元気モリモリだ。
で、その戦いの直前に深雪もやカメラを担いで基地に現われるが、エア・コンバットには全く関与しない。
まあ遠くで飛んでいるから撮影なんて不可能だけど、だから彼女が基地に戻った意味なんて全く無いんだよな。