『BANDAGE』:2010、日本

都内の高校に通う高校生のアサコは、親友のミハルからLANDSというバンドのCDを渡された。終了したバンド勝ち抜き番組で4週目まで 勝ち抜いていたバンドだという。「あげるよ、もう学校行かないし」とミハルは言い、親の借金問題で学校を辞めたことを話す。しばらく してアサコがCDショップに行くと、そこでミハルが働いていた。アサコはLANDSが気に入り、新譜を買いに来たのだった。「ユキヤ良く ない?」と彼女が言うと、ミハルは「渋谷ファクトリーのライブに一緒に行かない?」と誘った。
アサコはミハルと一緒にライブに出掛けた。ライブの後、LANDSのキーボード担当のアルミは、ベースのケンジに「ブルーノートとか適当 なノリで入れんなよ」と生意気な口調で言う。ドラムのリュージが「元々ヘルプなんだから、あんまり出しゃばるな」と静かに告げる。 「もうちょっとみんなと仲良くやれないの」とケンジがなだめるが、アルミは「ふざけたこと言うなよ。お前らロッカーじゃねえのか」と 苛立った様子で告げた。ヴォーカルのナツが軽薄な調子で抱き付いてきたので、彼女は「触るな、殺すぞ」と突き放した。
ミハルはバックステージパスを2枚手に入れ、アサコを連れて楽屋へ向かった。アサコはケンジとぶつかってコンタクトを落としてしまう 。ケンジが探しているところへナツが通り掛かり、アサコに目を付けた。ナツはコンタクトを舐めてゴミを取り、アサコの目に入れる。 アサコとミハルはナツから打ち上げに誘われた。アサコたちは居酒屋へ行くが、ユキヤとアルミはいなかった。マネージャーのユカリは クールな態度で、すぐに帰るようアサコに言う。
ナツはアサコに、後で西麻布の店に一人で来るよう告げ、「2人だけの秘密」と言う。アサコが待っていると、ナツは車で現れ、「送って くから」と告げた。しかし彼はガソリンが無いと言って、自分の家に連れて行く。ナツがキスを迫ったので、アサコは激しく拒絶した。 するとナツは「何、その、私はそんな軽い女じゃない的な。帰っていいよ。俺、めんどくさいの苦手だから」と冷たく告げた。
アサコが外に出て歩いていると、ナツが車で現れ、「送ってくよ」と言う。アサコが乗ると、「交換日記から始めようか」と彼は言う。 「それ、いいですね」とアサコが笑顔で言うと、ナツはコンビニでノートを買って渡した。1週間後に会う約束を持ち掛けられ、アサコは 「お昼でもいいですか」と言う。1週間後、アサコが待っていると、ナツが車で現れた。彼は社長が買い取って自分たちが自由に使って いるスタジオへ連れて行くと説明する。「練習してるから見学していけば?」と言われ、アサコの顔がほころんだ。
アサコが練習を見学していると、ユカリが来て外に連れ出し、「帰ってもらっていい?」と告げた。ユカリがアサコを追い出したと知った ナツは、「もう上がります」とスタジオを出て行く。外に出るとアサコがいて、「スタジオに鞄。取ってきてもらってもいいですか」と 言う。ユカリがナツを追って来て、「スタジオに戻りなさい」と注意した。「女連れて来たぐらいで」と不満を漏らすナツだが、アサコが 「スタジオに戻ってください。そうじゃないと、もう二度と会えませんよ」と告げると、簡単に承知した。ユカリは苛立ち、「あたしの 言うことは聞かないで、この子の言うことは聞くの。この子にマネージャーやってもらえばいいじゃん」と口にした。
ある日、アサコが学校から帰宅するとナツから電話が入った。ライブのある北海道から掛けているという。「ユカリが不機嫌で辞めると 言っているので説得してほしい。昨日から連絡も取れないし、電話にも出ないし」と彼は語った。アサコが部屋に行くと、ユカリは高熱を 出して寝込んでいた。水を飲ませていると、呼んでいないのに救急車が来た。ユカリはおたふく風邪と診断され、入院することになった。 アサコが病院のロビーにいると、そこにナツが現れた。救急車を呼んだのは彼で、北海道にいるというのは嘘だった。彼はユカリが病気 なのも知っており、彼女とアサコの仲を取り持つために、部屋へ行かせたのだった。
ユカリが入院している間、アサコはマネージャーの代役を務めるようになった。ある時、彼女はスタジオに一人で残ったユキヤがギターを 演奏しているのを耳にした。加工した声を流しているので「どうしてこんな声にしてるんですか」と訊くと、ユキヤは「ロボットの声が 好きだから」と答えた。ユカリの見舞いに訪れたアサコは、「ユキヤさん、すごいです。一人で作ってました。自分の世界を持ってるって いうか。感動しました」と語る。するとユカリは「歌は聴いた?歌もすごいのよ。その内、歌うことになるんじゃないかなあ。LANDSは ナツのバンドだけど、いつか飽きられるわ。ユキヤがいなかったら、LANDSはただの田舎バンドよ」と述べた。
10ヶ月後、アサコは事務所の武部社長に履歴書を出し、正式にLANDSのマネージャーとして働き始めた。新曲の打ち合わせで、ユカリは 「次のシングルは勝負だから気合いを入れて書いて欲しい」とユキヤとアルミに言う。ある日の夕方、アサコが家を出ようとすると、ナツ が待っていた。彼はアサコを車に乗せて移動し、「曲を作った」と言ってフォークギターを演奏しながら歌う。
「元気」と付けられた自作曲のテープを、ナツはユカリやディレクターの小久保たちに聴かせた。ユカリは、それを次のシングルに決定 した。ただし曲が7分と長すぎるので、68小節目以降を削り落とすことにした。彼女はアレンジをアルミに任せた。アルミは「ブラスを 入れて、ミクスチャーにすればいいんじゃない?最終的にはスカにメロコア足したみたいなモンになる」と提案した。
アルミのアレンジで曲の録音に入るが、68小節目以降をカットしていなかったため、ユカリが咎めた。アルミは「ここは切れないよ」と 反発し、ナツに意見を求める。「俺はどっちでも」と気の無い返事だったので、アルミは腹を立ててスタジオを出て行った。追い掛けた ユカリに、彼女は「そう簡単に切ったり貼ったりできねえんだよ、音楽ってのは」と声を荒げる。少し落ち着いてから、アルミは「ホント はさ、ナツのデモが一番いいんだよ、この曲にとっては」と述べた。
新曲『元気』は音楽チャートで50位から15位にランクアップし、LANDSはブレイク直前のバンドとして雑誌で特集を組まれた。その後も曲 は売れ続け、ついにランキングで1位になった。バンドの人気が過熱する中、小久保はナツの作った『勇気』という曲を次のシングルに 決定した。ユカリは反対し、アルミは二番煎じだと腹を立てるが、小久保はディレクターの権限で彼らの意見を却下した。
ある夜、アサコは飲み潰れたナツとケンジを部屋に寝かせ、ユキヤにバイクで送ってもらうことになった。ユキヤはアサコを海へ連れて いき、抱き締めてキスをした。しかしユキヤはキスを受け入れたアサコを急に突き放し、「ナツを裏切って、恋人でもない男とこんなこと してるんだ。孤独だろ」と冷徹に言い放つ。「どうしてこんなことするんですか」とアサコが感情的になると、ユキヤは「お前がLANDS 壊したから」と静かに告げて立ち去った。
『勇気』は初登場で48位だった。アサコとケンジが欠席する中で、話し合いが行われた。ユカリは「もっと抜本的な路線変更が必要だって ことですよ。次はユキヤに歌ってもらう」と言い出した。スタジオで一人になったナツの元に、ユキヤとアルミがやって来た。アルミが 「アンタがリーダーなんだから決めてよ」と今後のバンドの方針について言うと、ナツは「このままだよ」と答えた。
アルミは「問題はアンタ自身なんだよ。遊びでバンドやって、遊びで女連れ回して、何もかもハンパなんだよ。ちゃんと音楽やろうぜ」と ナツに怒りをぶつけた。彼女はロングラン・レコードが自分とユキヤを引き抜きたがっていることを明かし、「こんなバンド辞めて、 あっち行こうぜ、ユキヤ」と告げて立ち去る。ユキヤはナツに「アサコと別れろ」と言う。「なんでよってたかってみんなアサコなんだよ 、関係ねえだろ」とナツは苛立つ。ユキヤが「アサコとキスしちゃった」と言うので、ナツは彼を突き飛ばした。
ナツはアサコの家へ行き、彼女の母・ヤヨイの前で「アサコさんを僕に下さい。結婚させてください」と言う。「そんなムチャクチャな 話無いでしょ」とアサコは反発するが、「なんかあった?」とナツに訊く。ナツは「なんか自分が嫌になってきた。帰ります」と言い、 その場を去った。ケンジはユキヤに、美術部の先輩からデザイン事務所に誘われていることを明かした。「1位取ったしさ、目標は達成 したでしょ。ここから先は落ちていくしかないわけだしさ」と彼は語る。「お前はそんな気分でやってたのかよ」とユキヤは腹を立てるが 、ケンジは「お前はその腕なら他のバンドでもやっていけるよ。でも俺は無理でしょ」と冷静に告げた。
翌朝、ナツが自分の部屋で目を覚ますと、すぐ傍にアサコがいた。彼女は「ナツに会ったら思ったんだ、あたしたち絶対に似てるって。 あたしね、自分のことが大嫌いなの。だから、自分に似ているナツも、自分を見ているみたいで」と言って泣き出した。ナツが「俺も嫌い 。自分が嫌い。お前も嫌い」と言うと、アサコは「あたしも、大嫌い」と口にする。2人は熱いキスを交わした…。

監監督は小林武史、原作は「グッドドリームズ」菅知香、脚本は岩井俊二&菅知香、プロデュースは小林武史&岩井俊二、製作は堀越徹& 阿佐美弘恭&小林武史&岩井俊二&藤島ジュリーK.&平井文宏&島谷能成&村上博保、プロデューサーは伊藤卓哉&植野浩之、 アソシエイトプロデューサーは団野健&高橋信一、Co.エグゼクティブプロデューサーは石原真&陶山明美、 エグゼクティブプロデューサーは奥田誠治、Co.エグゼクティブプロデューサーは小野利恵子&菅沼直樹、 撮影監督は尾道幸治、撮影は角田真一、編集は小林武史、録音は加来昭彦、照明は藤井貴浩&山田好浩、美術は愛甲悦子、 美術スーパーバイザーは種田陽平、音楽プロデュースは小林武史。
主題歌「BANDAGE」LANDS 作詞・作曲・編曲:小林武史 唄:赤西仁。
出演は赤西仁、北乃きい、高良健吾、柴本幸、笠原秀幸、金子ノブアキ、財津和夫、杏、伊藤歩、斎藤由貴、長谷川初範、近藤芳正、 鈴木一真、渋川清彦、石塚義之(アリtoキリギリス)、 生津徹、田中聡元、吉田彩香、内山眞人、田窪一世、キタキマユ、池田ヒトシ、竹内和彦、ナタリア シルキナ、メイガン ケネディー、 原田玲、矢田真希、愛美、亜津沙、ケン・マスイ、MEGら。


音楽プロデューサーの小林武史が初監督を務めた作品。
原作は岩井俊二の公式サイトのシナリオコーナー 「しな丼」(現プレイワークス)に応募された菅知香の小説。2005年に岩井俊二の プロデュースでラジオドラマ化され、同年には成宮寛貴が主演して北村龍平が監督を務める映画の企画も立ち上がった。しかし制作は 進まずに企画は流れてしまい、2008年になって再び映画化の話が持ち上がった。
そうして出来上がったのが、この作品である。
ナツを赤西仁、アサコを北乃きい、ユキヤを高良健吾、アルミを柴本幸、ケンジを笠原秀幸、リュージを金子ノブアキ、武部を財津和夫、 ミハルを杏、ユカリを伊藤歩、ヤヨイを斎藤由貴、ロングラン・レコードの社長・八神を長谷川初範、小久保を近藤芳正、ロングラン・ レコードのディレクター・戸田を鈴木一真が演じている。
LANDSの楽曲では、プロのドラマーである金子ノブアキは実際にドラムを叩いているが、他の楽器は全て別の人間が担当している。
キーボードは監督の小林武史が演奏している。

冒頭で「early 90's - oneday(90年代初めのある日)」と出るが、この映画に1990年代らしさは皆無と言ってもいい。
ファッションも音楽も、その風景に1990年代らしさはどこにも見られないし、当時の世相・風俗を絡めているわけでもない。
1990年代という時代設定にした意味が全く不明。別に「1990年代のバンドブーム」というバックグラウンドが必要不可欠な内容ってわけ でもないし。
あと、アサコが制服を着ているシーンはあるけど、学校のシーンは全く無い。そりゃあさ、制服姿で学生だってのは分かるけど、やっぱり 学校のシーンや学友とのシーンが皆無ってのは、手落ちだと思うぞ。「夏休みの出来事」とかいう設定ならともかく、違うんだし。

アサコとミハルが公園で話す冒頭シーンで手持ちカメラがグラグラと不安定に揺れながら長回しで彼女たちを写すのだが、その映像の 不安定さは居心地の悪さを感じさせる。手持ちカメラや長回しが悪いわけじゃないが、やたらと揺れてるんだよな。
で、そこでアサコはLANDSのCDを貰うので、普通ならそれを聴くシーンに繋げるよな。
だけど、この映画では、次に「しばらくしてアサコがCDショップに行ってミハルと再会」というシーンに繋げている。
そこでいきなりLANDSを気に入ったことを新譜を購入しに来たことで表現するってのは、上手くないよ。その音楽に惹かれたことの説得力 が弱い。

そのCDショップでアサコは「ユキヤ良くない?」と言うんだが、ユキヤの担当楽器が分からない。
あと、彼女がLANDSの曲を口ずさんで涙ぐむのは、すげえ嘘臭いぞ。
その後、チケットを手に入れたとミハルから電話が入るシーンがあるが、ここは全く必要性が無い。
ライブに行くシーンで、プラチナチケットを苦労して手に入れたことを示す会話を入れれば、そのシーンはカットできる。

ライブのシーンまで、一度もLANDSの曲は流れていない。で、ようやく演奏&歌唱シーンになるが、カメラは歌っているナツをメインで 捉えており、他の面々はバックバンド的扱いなので、まるで赤西仁の役がナツではなくユキヤのような感じに見えてしまう。
それは意図的にやっているのだろうか。
だとしたら、その意図は外しているぞ。っていうか、たぶん意図的ではないような気がするけど。
あと、このライブシーンで決定的な失敗(と言い切ってしまうけど)をしているのは、たぶん演奏と歌唱を聴かせたいという思いが監督と しては強かったんだろうけど、そこでの観客の熱狂ぶりが全く伝わって来ないってことだ。
映像としては、盛り上がっている観客の面々がチラッと写る。でも、その音や声は全く聞こえないのだ。
そこでの音は、「ライブの音」であるべきだったのに。

ナツは、いかにもチャラくて、テキトーでナンパでアーパーなキャラ。
そんなナツ役の赤西仁は、全く演じていない。
なんせ素のままなので、上手いとか下手とかいう問題じゃない。ただ、ピッタリとハマっていることは確かだ。
だから、大根芝居がネックになるような事態には陥っていない。
問題は歌が下手だということだけだが、これも生で歌っているわけじゃないので、それなりに加工された歌声になっており、あまり問題は 無い。
LANDSとして歌っている映像をテレビで見たことがあるけど、生歌は下手だったからね。

アルミは、やたらとケンケンしてるキャラなんだが、そこまでヒステリックにしている意味が分からん。
それは劇中キャラとしてケンケンしている理由が良く分からないってのもあるし、キャラ設定としてそんなケンケンしたキャラにしている 狙いも分からない。
で、最初にケンケンしていたアルミも、一緒にコンタクトを探していたケンジも、それ以降はほとんど話に絡んで来ない。
それでもこの2人はマシな方で、ユキヤとリュージに至っては、言葉さえなかなか発しない。
ユキヤは、アサコがマネージャーの代役になった後、インタビューのシーンで、ようやく一言目を発する。
そこまではキャラとして完全に冬眠状態で、存在感が皆無に等しい。

打ち上げの時点でも、まだユキヤが誰なのか、担当パートが何なのか良く分からない。アサコも、ユキヤが一番の目当てだったはずなのに 、彼に会いたがる様子は皆無。
で、ナツに誘われると、ホイホイと会いに行く。ナツは「ガソリンが無い」と言って部屋に連れ込むが、もう外で停車した時点でガソリン スタンドじゃないことは分かるし、家に上がったら確定なのに、帰ろうともせず、部屋に留まっている。
こいつ、「平凡な女子高生が音楽業界に足を踏み入れる」というんじゃなくて、最初からビッチ設定だったのか。
で、そうなったら、もう完全に「抱かれてもいい」というモードなのに、抱かせない。
キスを迫られたアサコが拒絶すると、ナツは「何、その、私はそんな軽い女じゃない的な。帰っていいよ」と冷たく言うが、それも当然 だろう。そこまで来てキスもさせないなんてさ。
それでアサコは逆ギレして帰ってるけど、どう考えてもアンタが悪いよ。そこまでの行動は、完全にグルーピーのそれだぞ。
で、ナツが来て「送ってくよ」と言うと、また簡単に車に乗るし。1週間後に会おうと誘われると、それもOKしてるし。
ナツを不愉快に思ってるのか好感があるのか、ワケが分からない。

ナツに練習を見学していくよう誘われたアサコは喜ぶが、その辺りも、「ユキヤに憧れていて、ユキヤに会いたいからナツに付いて行く」 ということなら、まだ理解できる部分もあるんだけど、そういうことじゃなさそうなんだよな。
じゃあ何なのかと考えると、「この女がビッチ体質だから」という答えしか見当たらない。
で、見学シーンでも、アサコがユキヤだけに注目するようなことも無い。
アンタ、最初に「ユキヤ良くない?」とか言ってたのに、ちっともユキヤに注目してねえじゃん。
どうなってんだよ。

ナツが「ユカリが不機嫌で辞めると言っているので説得してほしい。昨日から連絡も取れないし、電話にも出ないし」とアサコに連絡して 部屋に行かせる展開は、ムリヤリすぎるだろ。
ナツがアサコに会いたいための行動じゃなくて、ユカリを説得するための交渉役として、なんでアサコを指名するのかと。
設定としては「アサコが気になるからユカリとの仲を取り持つために行かせた」ということらしいが、納得するのは無理。
あと、アサコがユカリを介抱した後、「これまで冷淡に追い払おうとしていたユカリがアソコを受け入れるようになる」という経緯が全く 描かれておらず、シーンが切り替わると、もうユカリがアサコに仕事の指示を穏やかな口調で告げているのは、やっぱり手落ちだと思うぞ。
やっちゃいけないトコで省略しすぎだ。
っていうかさ、お前らの事務所、他に人がいないのか。なんで女子高生に仕事させてんだよ。普通、他のスタッフに任せるだろ。学校へも 通いながらマネージャーの仕事って、なんだよ。
これが「女子高生がロックバンドのマネージャーになる」というのがメインとなるコメディー映画なら、そこの荒唐無稽は全然OKだよ。
でも、そうじゃないので、そこで「うわあ、それは無理だわ」という印象になってしまう。

ユキヤの演奏を聴いたアサコは、ユカリに「ユキヤさん、すごいです。一人で作ってました。自分の世界を持ってるっていうか。感動 しました」と話すのだが、その感動が、あの映像からは全く伝わって来ない。
演奏や歌唱シーンでは、それ自体を聴かせようという意識が強く監督の中で働いているのか、そのシーンで本当に伝えるべき事柄が伝わら ないような映像表現になっているのだ。
アサコは正式に履歴書を出して採用されるのだが、ここで10ヶ月もタイムワープする構成はダメすぎる。「女子高生がマネージャーの 真似事を始める」という展開のダメさに目を瞑っても、そのままタイムワープせずに物語を続けるべきだった。
もしくは、卒業式直前か直後辺りから始めて、もう高校生活がネックにならない状態でマネージャーの手伝いを始める形にしておけば 良かったじゃねえか。そうすれば、10ヶ月も飛ばす必要性は無くなるんだから。

ユカリは会議で「次のシングルは勝負だから気合いを入れて書いて欲しい。今のLANDSにとっては売れること大事なの」と話すが、その 時点でLANDSが音楽業界でどれぐらいの位置にあるバンドなのか、どれぐらい売れているのか、そういうのが全く示されていないん だよな。
だから、そういうことを言われても、ユカリがどれぐらいの危機感を持ってそういうことを言っているのか、ホントに売れないとヤバい ような状況なのか、そういうことが全く分からない。
ナツの作った『元気』という曲のアレンジについて、アルミは「ブラスを入れて、ミクスチャーにすればいいんじゃない?最終的にはスカ にメロコア足したみたいなモンになる」と言うんだが、LANDSというバンドの方向性や音楽性が全く見えないぞ。
「元気」というタイトルもダサダサだし。それで1位になるっていうシナリオもどうなのよ。
いや、別にスカが悪いってわけじゃないけど、スカがランキング1位ってのも、このロックバンドがスカで人気になるってのも、なんか 違和感が強いなあ。
それは「それでブレイクするけど、同時にバンド崩壊のきっかけにもなる」という歌なので、意図的にバンドのイメージと違う曲で ダサダサなタイトルにしてあるのかもしれんけど、単純に「それは違うだろ」としか思わない。

ナツって「普段はチャラチャラしてるけど音楽に対しては真剣に取り組んでいる」というわけでもないし、主人公としての魅力をどこに 見出せばいいのかサッパリ分からない。
『元気』が売れた後、ナツが自分の顔を見て「誰だよ、お前」と言うシーンが挟まれており、どうやら「売れたことによって自分を 見失っていく」というのを描きたいようだ。
だが、それ以前から全く音楽における自己主張が無くて「どっちでも」と言うような奴だし、しかも『元気』も次の曲も作ったのは本人 なので、その筋書きには乗っていけない。

曲に関してユカリとアルミが揉めたりするが、そういうところでユキヤは全く関与しないんだよね。いつもカヤの外にいる。
っていうか、ほとんど写らない。『元気』や『勇気』の発売に関しても、ユキヤは特に何も言わずに流されている。
ようやく彼が存在感を示すのは、アサコをバイクで送るシーン。
ここでの彼のダイアログは失笑モノ。「孤独って見える?何しろか分かる?見せてやるよ」「こうやって手を広げて。宇宙と鼓動を シンクロさせろ。感じるまで」「黒い痛み。一人でいることが猛烈に辛くなっていく。その温もりの中に溶けていきたくなる」とか、 「なんだ、そりゃ」って感じだ。
その辺りはアサコのセリフも含めて、「まず最初に喋らせたいセリフありき、まず最初に描きたいシーンありき」ってことなんだろうな。 それらのセリフが、唐突で不自然にしか感じない。
しかも、ユキヤに関しては、そこで多くのセリフを喋ることによって、「ああ、頭のイタい電波な奴なんだな」という印象になってしまう 。
一方のアサコにしても、「黒い痛み。一人でいることが猛烈に辛くなっていく。その温もりの中に溶けていきたくなる」とユキヤに 言われると「自分が分かんなくなってきた」と泣き出すが、ワケが分からない。
お前は情緒不安定なのか。
そこで泣くような要素はゼロだぞ。

ユキヤは「お前がLANDS壊したから」と立ち去り、アサコが「どういうことですか」と訊くが、それはワシも訊きたいよ。
じゃあユキヤは、アサコが関わってからのLANDSに不満を持っていたのかよ。ナツとアサコが親密になるのを嫌がっていたのかよ。
だったら、それを態度で示しておけよ。急にそんなことを言われても、唐突なだけだよ。ユキヤがワケの分からんキャラになっている だけだよ。
あと、ユカリはやたらとユキヤが特別な才能の持ち主であることをセリフでアピールするが、それが映画を見ていても全く伝わって来ない ぞ。オーラも全く感じない。ただの陰気で電波な奴としか感じないぞ。

『勇気』の初登場ランキングが48位だったことを受けて、ユカリは「もっと抜本的な路線変更が必要だってことですよ。次はユキヤに 歌ってもらう」と言い出すが、いや、そういうことじゃねえだろ。なんで48位だったからって、そういうことになるのかな。全く理解 できない。
ブレイクした次の曲がイマイチだっただけじゃねえか。その次で盛り返せばいいだろ。
それはヴォーカルを変えるんじゃなくて、まずは楽曲で勝負すべきだろ。
そこは、「最初からユカリがユキヤをヴォーカルにすると決めていて、そのタイミングを利用してそんなことを言い出した」という風に しか感じない。ヴォーカルを変えるなんて、それこそ小手先の変更に過ぎないぞ。
「それ以外に手は無いでしょ」って、いやいや、他にも色々と手はあると思うぞ。
そこで「キャンディーズじゃないんだから」と口にした小久保がユカリに「例えが古い」と言われただけで激昂する流れも、ムリヤリ すぎる。そんなに激怒するようなことでもないだろ。

で、一人になったナツの所へアルミが来て「アンタがリーダーなんだから決めてよ」と言うんだが、「こいつがリーダーだったのかよ」と 驚いた。てっきりユキヤがリーダーだと思い込んでいたよ。
ナツって、ちっともリーダーらしくないし。
だってアホだぜ。
そんでアルミは「問題はアンタ自身なんだよ。遊びでバンドやって、遊びで女連れ回して、何もかもハンパなんだよ。ちゃんと音楽 やろうぜ」と怒るが、お前ら、そんなハンパな奴にリーダーやらせていたのかよ。

ユキヤに「アサコと別れろ」と言われたナツは「なんでよってたかってみんなアサコなんだよ、関係ねえだろ」と苛立つが、それは当然で 、LANDSがダメになった理由はアサコには無い。
ここは展開として、すげえ無理がある。アサコのせいでナツの音楽性が変化したわけではないし、ナツがアサコに溺れたせいで音楽が疎か になっているわけでもない。
具体的に、アサコが関わったことで何がダメになったのか、まるで分からない。
っていうか、そもそもLANDSがダメになっているとも感じない。
あえて原因を挙げるとすれば、それは二番煎じの曲を次のシングルに選んだ小久保の決定でしょ。
アサコのせいにするのはメチャクチャだよ。

ナツが部屋で目を覚ますとアサコがいて「心配だったから」と言うが、やっぱりナツが好きなのかよ。
でも海ではユキヤと簡単にキスしてたよな。
そのくせ、ナツの部屋にホイホイと上がり込み、目を覚ましたらベッドに座っているんだから、やっぱり完全にビッチじゃねえか。
「反発を覚えながらもナツに惹かれていく」というのをやりたかったのかもしれないが、全く出来ていないよ。

アサコは「ナツに会ったら思ったんだ、あたしたち絶対に似てるって」と言うが、何がどう似ているのか全く分からない。
「あたしね、自分のことが大嫌いなの」と言い出すが、そんなの全く分からなかった。
そういう設定なら、そこまでにそれを描写しておけよ。
っていうか、似てるってことは、ナツも自分のことが嫌いという設定だったのかよ。それも全く分からなかったぜ。
アサコが「自分に似ているナツも、自分を見ているみたいで嫌」と泣き、ナツが「俺も嫌い。自分が嫌い。お前も嫌い」と言い、アサコが 「あたしも、大嫌い」と返したところで、「ああ、これはキスのフラグだな」と思ったら、やっぱりキスした。
だけど、そこで互いに嫌いだと言い出すことに無理がある。
それも、たぶん「まずセリフありき、場面ありき」ということなんだろうな。そこへスムーズに持ち込むための流れを全く作っていない。

ロングラン・レコードから誘われたユキヤは残ることに決めて、ただし「俺たちの好きなようにやらせてくれないと事務所辞める。どんな ことがあってもLANDSは無くならない」とユカリに告げる。
でも、そう言っていたのに、その後のシーンでユカリが「Last dayまで16」と黒板に書いている。
やっぱり解散するのかよ。ワケが分からない。
「バンドの短い栄光と早すぎる崩壊」を描きたかったのかもしれんが、もうメチャクチャだよ。

その7ヶ月後、アサコは工事現場の警備員をやっているミハルに遭遇するが、そこまでまったくミハルが出てこないってのはキャラの 出し入れとしてマズいでしょ。ミハルについてアサコは「恩人なんです。彼女がLANDSを教えてくれたんです」と言っているぐらい なのに。
アサコがLANDSと親しくなるきっかけを作ったキャラで、唯一の親友なんだから、バンドやナツのことで悩んだり困ったりしている時の 相談役として、もっと活用すべきでしょ。
で、バンドをやっているミハルにアサコが「あたしと一緒にやらない?あたし、マネージャーやる」と持ち掛け、そこから2年後に飛んで アサコはユカリと再会し、スタジオでインディーズ・バンドのヴォーカルとして歌っているナツの姿を見るのだが、それまでアサコがなぜ 全く連絡を取っていないのかがそもそも分からないので、その再会シーンも全く心に響かない。
っていうか、LANDSの解散もボンヤリとしてるし。解散ライブがあったわけでもないしね。

どこを変更したらいいとかいう問題じゃなくて、それこそ抜本的に変えないと、この映画は救えないと思う。
ただ、一つだけ誉めておくと、伊藤歩は相変わらず素晴らしい。
こんな映画には勿体無い。

(観賞日:2010年10月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会