『幕末高校生』:2014、日本

3年B組担任の川辺未香子が幕末に関する授業をしても、生徒たちは真面目に聞こうとしなかった。生徒の高瀬雅也や森野恵理たちは彼女が自分たちのことなど何も考えていないことを見抜いており、疎ましいと感じていた。高瀬たちの幼馴染である沼田慎太郎は、ずっと態度が悪かった。進路相談の日、彼が獣医学部志望だと知った母親は「医学部です」と未香子に言う。しかし沼田は獣医になると主張し、医者に固執する母親に「うっせえな」と悪態をついた。未香子が母親の味方をしたので、沼田は軽蔑の眼差しを向けた。
日本史の中間テストの時、高瀬は教師にバレないようにスマホを操作し、「体感ヒストリー 江戸時代」というアプリをダウンロードした。放課後、車で学校を出ようとした未香子は、高瀬と沼田が言い争うのを恵理が止めている現場に遭遇した。未香子が事情を尋ねると、沼田は「先生には関係ねえんだよ」と告げる。高瀬がスマホをいじっていたので、恵理は「アンタも謝んなよ」と腕を叩く。落ちたスマホを拾い上げた高瀬は、体感ヒストリーのアプリが点滅しているのに気付いた。彼が画面を押すと、4人の姿は消滅した。
江戸時代にタイムスリップした未香子は役人たちに捕まり、町奉行である大崎則篤の元へ連行された。そこへ高瀬も連行されてきて、2人は取り調べを受けることになった。江戸城では重臣の木下長行たちが集まり、会議が開かれた。薩長軍が3月15日の江戸攻撃を決定して着々と向かっており、その対応を考えるための会議である。陸軍副総裁の柳田龍三は軍隊を城下に配備することを主張し、他の重心たちも賛同した。しかし陸軍総裁の勝海舟だけは、戦は反対した。
勝は重臣たちに対し、西郷隆盛に和平交渉のための書状を送って返事を待っているところだと説明した。柳田が「西郷が和平交渉に応じたにせよ、上様が政治の中心から外されることは目に見えておる。それは徳川が死ぬも同然のこと。それでも戦は致さんと申すのか」と質問すると、勝は「はい」と答えた。重臣たちは、「それでも幕臣か」と彼を批判した。会議の後、木下は2人の家来を呼び寄せ、「勝には何も出来ぬであろうが、念のために、分かっておろうな」と告げた。
奉行所を訪れた勝は、未香子と高瀬が薩長軍のスパイ容疑で取り調べを受けている様子を目にした。未香子は「タイムスリップした」と説明するが、大崎には言葉の意味を理解してもらえなかった。勝を見つけた未香子は助けを求め、「器が大きい」などと持ち上げた。彼女から褒められて気分が良くなった勝は、大崎に「それがしが詮議する」と告げた。彼は2人の身柄を引き取り、友人の長英が営む蕎麦屋へ連れて行った。しかし勝は未香子と高瀬がタイムスリップしたことは理解しておらず、メリケンから来たと思い込んでいた。
勝は未香子たちを屋敷へ連れ帰り、妻の民子に「2人をウチに置く」と告げて着物を用意するよう指示した。「このまま戻れないのかなあ。もうすぐ戦になるとか言ってたし」と高瀬が漏らすと、未香子は「戦にはならない」と無血開城のことを教えた。未香子は高瀬と会話を交わし、自分のタイムスリップが昨日なのに彼が3人前には江戸へ来ていたことを知った。勝の元には書状を託した使者の神田が戻って来たが、西郷からは何の返事も無いことを聞かされて落胆した。
未香子は恵理と沼田も来ている可能性が高いと考え、勝に頼んでタイムスリップした時に到着した場所へ案内してもらった。彼女は未来から来たことを勝に説明するが、信じてもらえなかった。スマホを見つけた高瀬が操作していると画面に残り時間が表示され、4日後には元の時代へ戻れることが分かった。突如として車が出現したので、未香子は近くに隠した。帰り道、ようやくタイムスリップを受け入れた勝たちの前に、5人の刺客が現れた。刀を向けられた勝は、未香子と高瀬を置いて逃げ出した。未香子と高瀬は、走り去る一味の中に沼田がいることに気付いた。
屋敷へ戻った勝は、自分を邪魔に思っている柳田の刺客だろうと未香子たちに告げた。西郷からの書状を気にしている勝に、未香子は無血開城のことを教えた。だが、その日は3月10日であり、史実では既に西郷が会談を承諾しているはずだった。しかし実際には西郷からの書状が届いていないどころか、勝が送った使者も山岡鉄舟では無かった。それを知った未香子は、未来から来た人間が影響を及ぼしたせいで歴史が変わったのかもしれないと考える。
高瀬が「早く未来へ帰らなきゃ」と焦ると、未香子は「歴史が変わるってことは未来も変わるんじゃない?」と言う。「俺らは死ぬの?消えちゃうの?」と高瀬が狼狽すると、未香子は「頑張ってもらうしかないでしょ、勝さんに」と言う。しかし勝は何もせず、ただ西郷からの返事を待っているだけだった。使者の神田は西郷の元へ勝の書状を届けておらず、柳田に渡した。柳田は「徳川のためには戦をするしかないのじゃ」と言い、書状を破り捨てた。西郷は側近の山下利蔵たちを引き連れ、東海道関所を突破した。
未香子は恵理と沼田を見つけ出すため、人相書きを作成してもらう。その頃、恵理は柳田の屋敷で世話になっていた。半年前、柳田は恵理が塀を越えて入って来るのを発見した。能天気な笑顔で挨拶する恵理に、彼はすっかり惚れてしまった。恵理が事情を説明すると、柳田は「そなたの時代に徳川は存続しておるのか」と尋ねた。勉強の出来ない恵理は、適当に「何代目か知らないけど、徳川って人はいるよ」と答えた。柳田は安堵し、徳川存続のために戦が必要だという気持ちを強くしていた。
勝は火消し「を組」頭取の新門辰五郎に恵理と沼田の人相書きを渡し、協力を要請した。辰五郎は子分たちに指示し、町中に人相書きを貼り出した。柳田は徳川慶喜と謁見し、フランスから最新式の武器を購入する許可を求めた。勝は反対するが、慶喜は「その方は待てと申すばかりで何も致さぬではないか」と批判した。覆面の男たちは勝の留守中、屋敷に押し入って暴れた。勝が戻ると、一味は逃走した。未香子が追い掛けて捕まえるよう求めると、勝は「放っておけ」と口にした。
未香子は勝を「ただの腰抜け」と非難し、落胆したことを告げた。未香子から不満を聞かされた民子は、「言っても無駄ですよ。一度決めたことはやり抜く人ですから」と告げた。人相書きに似た男が見つかったという知らせを受け、未香子と高瀬は長屋へ赴いた。すると沼田が住んでおり、「なぜ昨日、あんなことしたの?」という未香子の質問に「勝海舟が戦をしない腰抜けだからに決まってるじゃないですか」と述べた。
沼田は1年前に江戸時代へ来ており、「もう戻らない。戻りたくない」と述べた。彼は千代という妊娠中の女と同居中で、「もう来ないで下さい。俺のことはほっといて下さい」と言う。未香子が「そうはいかない。私の生徒なんだから」と話すと、彼は「先生のこと教師だと思ってないんで。結局、先生は何もしないんですよ」と冷たく告げた。高瀬は未香子から「何もしないと思ってる?」と問われ、「先生はちゃんとやってるつもりかもしれないけど、進路のことだって、俺は悩んでたけど、先生は偏差値だけ見てる。そういうの、俺たちからすると何もしない先生と一緒なんだよ」と語った。
3月12日、商人の薩摩屋は人々から激しく糾弾され、「江戸を出て行け」と暴力を振るわれる。現場を通り掛かった勝が制止に入り、怒る薩摩屋に「ここは堪えてくれ」と頼む。その勝も人々から「薩摩の味方だろ」と批判され、裏切り者呼ばわりされる。13日、西郷軍は江戸の薩摩藩邸に到着し、柳田は勝に決戦の覚悟を決めるよう促す。柳田が「ガチ」という言葉を使ったので、勝は彼の屋敷に高瀬の仲間がいるのではないかと考え、そのことを知らせた。
高瀬は柳田の屋敷へ行くが、門番たちに追い払われた。勝は辰五郎と会い、薩長軍が江戸を攻めて来たら町に火を放ってくれと頼む。江戸に指一本触れさせないためだと説明され、辰五郎は承知した。すると勝は、人々を隅田川から避難させる手配を要請した。高瀬は恵理を見つけるために火の見櫓の半鐘を鳴らそうとするが、火消しの八郎たちに「火も出てねえのに鳴らせない」と制止された。高瀬は車の中にあった発煙筒を使って火事を演出し、八郎たちに半鐘を鳴らさせた。大勢の人々が逃げ惑う中、高瀬は屋敷から出て来た恵理と再会して抱き締め合った。一方、未香子は蕎麦屋の前で西郷を発見し、急いで勝に知らせた…。

監督は李闘士男、原案・協力は眉村卓「名残の雪」、脚本は橋部敦子、製作は石原隆&手塚治、プロデューサーは鈴木吉弘&松崎薫&栗生一馬&小柳憲子、撮影は藤石修、美術は松富敏之、照明は沢田敏夫、録音は松陰信彦、編集は宮島竜治、VFXスーパーバイザーは野口光一、VFXディレクターは北昌規、プロデューサー補は岡田翔太、殺陣は清家三彦(東映剣会)、所作指導は峰蘭太郎&星野美恵子、音楽は服部隆之。
主題歌はナノ「INFINITY≠ZERO」 作詞:ナノ、作曲/編曲:WEST GROUND。
出演は玉木宏、石原さとみ、佐藤浩市、石橋蓮司、柄本明、柄本時生、川口春奈、千葉雄大、谷村美月、吉田羊、隆大介、中村育二、山崎銀之丞、篠井英介、嶋田久作、伊武雅刀、宇梶剛士、高杉亘、渡辺邦斗、平間壮一、北島美香、菅原大吉、井上肇、真島公平、あべまみ、渡辺凱、芹沢礼多、上野秀年、浅田祐二、川鶴晃裕、床尾賢一、内藤邦裕、櫻井忍、三浦憲世、石川栄二、井上久男、金子栄章、花田昇太朗、加藤寛治、真木莉那、金井未希、津川マミ、小林茉利江、濱田帆乃果、谷口高史、三谷昌登ら。


ボクたちのドラマシリーズの一つとして、1994年にフジテレビ系列で放送された同名のTVドラマをリメイクした作品。
ただし内容は大幅に異なっている。
脚本は『すべては君に逢えたから』の橋部敦子、監督は『ボックス!』『体脂肪計タニタの社員食堂』の李闘士男。
勝を玉木宏、未香子を石原さとみ、西郷を佐藤浩市、長英を石橋蓮司、柳田を柄本明、高瀬を柄本時生、恵理を川口春奈、沼田を千葉雄大、千代を谷村美月、民子を吉田羊、山下を隆大介、木下を中村育二、辰五郎を山崎銀之丞、慶喜を篠井英介、薩摩屋を嶋田久作、大崎を伊武雅刀が演じている。

冒頭、「体感ヒストリー 江戸時代」に入るボタンを押す指が写り、夜の江戸を逃げる未香子が御用提灯の役人たちに捕まるシーンになる。奉行所へ連行された未香子が高瀬を見るシーンの後、カットが切り替わると現代の高校になり、未香子が授業をする様子が描かれる。
だが、そういう構成だと、オープニングの江戸時代のシーンが時系列を入れ替えて配置されているってのがボンヤリしてしまう。
そりゃあ理解するのは難しくないけど、もっとハッキリとした形で境界線を作るべきだ。
っていうか、その程度の薄い描写で済ませるのであれば、わざわざ冒頭に未香子たちが捕まるシーンを持って来る意味が無い。時系列を入れ替えるのであれば、もう少し中身を増やすべきだ。
前述した程度のシーンを冒頭に持って来たところで、観客の気持ちを引き付ける効果は低い。むしろ、普通に高校のシーンから始めた方がスッキリするし、そっちの方がいいんじゃないか。
どうせタイトルや事前情報から、観客の大半は未香子たちが幕末へタイムスリップすることを分かっているんだし。

未香子たちがタイムスリップするまでの構成は、やたらブチブチとシーンを分断し、まとまりが無くなっている。
そしてカットが切り替わって未香子が高瀬たちの揉め事に遭遇したと思ったら、すぐにタイムスリップしてしまう。
ものすごく慌ただしいと感じるし、まるでダイジェスト映像を見せられているかのようだ。
もうちょっと腰を据えて、落ち着いてドラマを描写すべきだ。1つのシーンをもっと長めに取って、キッチリとした流れを作った上でタイムスリップに入るべきだ。

日本史の中間テストのシーンで、教室にいる先生は未香子じゃなくて別の男性だ。
担任教師なのに、他のクラスにいるってことなのか。
あと、なぜ高瀬はテストの答えを知るために、「体感ヒストリー 江戸時代」というアプリをダウンロードする必要があるのか。スマホを利用するのなら、もっと簡単に答えを知る方法は幾らでもあるはずでしょ。
しかも、高瀬がダウンロードした後、カンニングのためにアプリを使う様子が描かれないので、その「体感ヒストリー 江戸時代」がどういうアプリなのかがサッパリ分からないし。

だからスマホが落ちて点滅してタイムスリップするけど、それがエラーによる現象なのか、そもそもタイムスリップするアプリなのか、その辺りも良く分からない。まあタイムスリップするアプリならダウンロードして使った時点で発動するはずだから、たぶんエラーってことなんだろうけどさ。
それと、タイムスリップしたら、「江戸時代に到着し、最初は困惑し、そこが江戸時代であることを認識する」という手順は必須でしょ。
それなのに、そこをバッサリと省略しちゃってるんだよな。
それは斬新でも何でもなくて、やるべき作業をやっていないだけだぞ。

タイムスリップするシーンの後、今度は勝のサイドから物語が描かれる。
だが、そこは前述した「タイムスリップした瞬間の反応や、その後の対応を描く」という意味も含めて、未香子サイドからの描写を続けた方がスムーズだ。
勝に関しては「奉行所で未香子が目撃する」というトコで初登場させる形でもいいだろう。
両サイドから描く構成は映画に厚みや広がりを持たせておらず、ただ散らかしているだけになっている。

突如として車が出現しても、未香子は「なぜ急に車が出現したのか」という疑問を全く抱かない。
わざわざ後から車がタイムスリップしてくるのに全く活用されないのは、計算能力が無いのかと言いたくなる。
そして「4日後には未来に戻れるって」ってのは台詞で言わせるだけで、その画面を観客には見せないという雑な処理。
そもそも人によってタイムスリップした時期が異なるってのは、すんげえ御都合主義だと思うのよね。

4人が同時にタイムスリップしたのに、江戸時代へ来た時期は全員が異なっている。なぜ全員が違うタイミングで江戸時代に来たのか、その理屈は最後まで分からない。
そもそも、たぶん理屈なんて何も考えちゃいないんだろう。ただ単に、物語を進める上で沼田や恵理を未香子より先に江戸時代へ来させた方が都合がいいので、そういう風にしただけだ。段取りをスムーズに進めるための作業を疎かにして、デタラメな設定を持ち込んでいるだけだ。
その御都合主義は、もはや御都合主義と呼べないほど陳腐だ。
ただし、他にも酷いトコが山ほどあるので、それは作品の致命的な欠陥になっていない。不幸中の幸いと言うべきだろうか。
まあ、他も全て酷いってことは、映画としては救いようがないんだけど。

未香子たちのタイムスリップによって、歴史が改変されたことが明らかになる。
だが、どういう経緯で使者が変更され、どういう事情で史実には存在しない柳田龍三なる人物が登場したのか、その辺りの具体的な説明は全く用意されていない。
「バタフライ・エフェクトが起きた」と解釈するにしても、「何がどうなったから、こういう変化が起きました」という具体的な種明かしが何も用意されていないのは、ただの手抜きにしか感じないぞ。
未香子と高瀬がスマホを見た時点で「4日後には未来に戻れる」と言っているが、江戸時代へ来たタイミングは4人とも異なるわけだから、つまり元の時代に変えることが出来るまでの日数も違うわけだ。
なぜタイムスリップした時期は別なのに、戻れる日は同じなのか。そこはタイムスリップした日から計算して、それぞれ別のタイミングになるべきじゃないのかよ。
ホント、どこまでもデタラメだなあ。

柳田がギャル高校生の恵理に一目惚れするのも、彼女の説明を最初から全て信じ込むのも、かなり無理がある。しかも惚れたはずなのに手を出していないし。
恵理が江戸時代に何の問題も無く最初から順応しており、元の時代へ戻りたいという気持ちを全く見せないのも不可解。いかにも現代的なJKなんだから、最新機器が全く使えず、SNSやら可愛い服やら美味しいスイーツやらが全く無い時代に不満を持たないって、そりゃ変でしょ。
沼田にしたって、元の世界で不満が溜まっていたにしても、だからって「江戸時代に侍として暮らす決意を固める」というのは、すんなりと納得できるものではない。
おまけに妊娠した女と同居しているんだから、たった1年でどんだけ色んなことがあったのかと。むしろ、そこだけを切り取って1本の話にしろと言いたくなるわ。

未香子が歴史の改変を悟ったのなら、史実通りに戻して無血開城を実現させるため、彼女が勝と共に奔走する展開にすべきだろう。
それは誰がどう考えたって、外しようのない筋道だ。
それはベタにやるとか、意外性を用意するとか、そういう問題ではない。必ず通るべき道だ。そこを外すのは、意外性でも何でもなく、やるべきことをやらないだけだ。
ところが本作品は、その「やるべきこと」をやろうとしない。
勝は何もせずに西郷からの返事を待つだけだし、未香子は恵理と沼田を見つけようとするだけなのだ。

そんなわけだから、無作為な時間がダラダラと過ぎて行く。
メインの2人が歴史を元通りにするための積極的な行動を取らなかったら、そりゃあ話がグダグダになるのも当然だ。
未香子は勝に「何もやっていないように見えて、自分が正しいと思うことを貫こうとしているんですよね」と言うが、勝はただ待っているだけだ。
そういうのは、「自分が正しいと思うことを貫こうとしている」とは言わない。

勝が高台から戦火に包まれる江戸の町をイメージして考え込むとか、人々から裏切り者呼ばわりされても耐えるとか、そういった描写によって共感を誘おうとしているのかもしれないけど、じゃあ江戸の町を救うため、戦を避けるために彼が何をやっているのかというと、ただ西郷からの返事を待ち続けているだけなのだ。
つまり、何もしていないのと同じなのだ。徳川慶喜や庶民たちの「何もしない」という批判は、その通りなのだ。
だから、まるで共感を誘わない。
せっかく未香子が歴史の変化を教えたのに、なぜ史実通りの無血開城を実現させるために動かないのか。

一方の未香子にしても、歴史の改変に気付いたのに、なぜ勝を助けようとしないのか。
生徒からダメ教師と言われて落ち込んでいる場合じゃねえだろ。そして、そんなことを勝に相談している場合じゃねえだろ。
むしろ、その前に勝が深く考え込んでいる様子を目撃しているはずなんだから、サポートしようという気持ちになれよ。
「ダメ教師と言われて、どうすりゃいいのか」なんてことを、もうすぐ戦が勃発しようとしている状況で勝に相談する神経がサッパリ分からんよ。

勝と未香子が全く行動しないもんだから、時間だけは確実に過ぎて行くのに、物語は遅々として進展しない。
だから、わざわざ月日を表示して戦までのタイムリミットを示しているのに、そこでの切迫感なんて全く生まれない。3月12日なんて、薩摩屋のシーンと、夜の屋敷で勝&未香子が話すシーンだけで終わってしまう。
2人が喋るなら、せめて「こうすれば歴史が元に戻るのでは」というアイデアぐらい着想すりゃいいものを、そんなこと全く考えもしていない。
そのくせ、中途半端に勝と未香子のロマンスなんぞを盛り込んだりする。でも盛り込んだくせに、雑に処理して投げっ放しにしてしまう。

3月12日に関しては、高校生3名も全く行動していない。恵理と沼田は1カットも登場しないし、高瀬はチラッと顔を見せるけど特に意味のある行動はしない。
3月13日は高瀬が恵理と再会する出来事があるけど、「それで盛り上がってる場合じゃねえだろ」と言いたくなる。再会したらハッピーエンドってわけじゃないんだからさ。
そんなことより、戦を阻止して歴史を修正しなきゃ、元の時代に帰れなくなるわけで。そういう自覚が、こいつらには全く見えないんだよな。
それを考えたら、頑固になってる沼田の元へ行って、何とか歴史を修正するために協力してほしいと要請すべきだろうに、そういう動きも全く見せないし。

勝は3月13日のシーンで、柳田邸に未来から来た人がいるのではないかと考えて高瀬に知らせるが、それは戦を止めるため、歴史を修正するための行動ではない。
しかも、高瀬に知らせた後、「早く行け」と言うだけ。
いやいや、高瀬だけを柳田邸に行かせても、すんなりと入れてもらえるわけがないでしょうに。勝ってのは本物のバカなのか。
ホントに高瀬の手助けをしたいと思っているのなら、彼が屋敷に入れるように力を貸してやるべきだろうに。

そんで高瀬は半鐘を鳴らそうとして「恵理を見つけるのに、これしか方法がねえんだ」と言ってるけど、それ以外にも方法はあると思うぞ。
だけど高瀬はバカなので他に方法が思い付かず、発煙筒を使って火事を演出する。そのせいで江戸の人々は逃げ惑っているわけだから、すんげえ迷惑を掛けていることになる。
そんな身勝手すぎる行動を取って恵理と再会しても、応援できねえよ。
2人がキスするのも、何のドラマも無いから、盛り上がりなんてありゃしないし。そういう再会劇を未香子が全く知らないってのは、作りとして雑だし。

未香子が蕎麦屋の前で偶然にも西郷を見つけ、勝に知らせるという展開は、観客を舐めているのかと言いたくなる。
これが「勝と未香子が歴史を修正するために奔走するが上手く行かず、諦め掛けていたら、たまたま蕎麦屋の前で西郷を発見する」という展開であれば、その御都合主義も好意的に受け入れられた可能性が高いと思うのよ。
だけど、何も行動しない中で、急に蕎麦屋の前で西郷を発見しちゃうのは、手抜きにも程があるだろうと言いたくなる。

っていうかさ、そもそもタイトルが『幕末高校生』なのに高校生がメインじゃないってのが間違ってるでしょ。
トップ・ビリングが玉木宏でセカンドが石原さとみってのは、別に構わないのよ。それは形式上のことだからさ。
でも実質的なメインは、高校生3人であるべきなのよ。
それを考えても、やっぱり別々にタイムスリップさせて、バラバラにしちゃうってのは、得策じゃないよ。3人が協力して、歴史を元通りにするために奔走する内容にすべきだわ。

(観賞日:2015年8月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会