『望み』:2020、日本

高校生の石川規士は練習試合の最中、悪質なタックルを受けて倒れ込んだ。12月17日(火)。石川貴代美は自宅で校正の仕事をしており、夫で一級建築士の一登は隣の設計事務所で客の種村夫妻から注文内容を聞いている。彼はサンプルとして、夫妻に自宅を案内した。貴代美は仕事を中断して夫妻に挨拶し、お茶を入れた。息子の規士は膝を痛めてサッカーを辞めており、一登が夫妻に部屋を見せると無愛想な態度を取った。娘の雅は中学3年生で受験勉強の真っ最中だが、夫妻に笑顔で対応した。
夕食の時、一登は規士の態度を注意した。規士は「いきなり入って来て、他人に愛想よくしろって方が無理」と面倒そうな態度を取るが、雅は小遣いのためにも愛想よく振る舞うよう促す。無気力な規士が大学へ行く気も見せないので、一登は「サッカー以外に、何かやりたいことは無いのか」と訊く。彼が説教を始めると、規士は腹を立てて自分の部屋に入った。貴代美は規士の顔の痣に気付いており、一登に話を聞くよう頼む。しかし一登は「話したくないこともあるんじゃないか」と言い、軽く受け流した。雅は両親に、規士が「やらなきゃ、こっちがやられる」と友達と話していたことを教えた。
12月19日(木)。貴代美は規士の部屋を掃除した時、ゴミ箱に捨ててある小刀のパッケージを見つけた。不安になった彼女は、それを一登に知らせる。一登は部屋を調べ、ナイフを発見した。一登は帰宅した規士を呼び、ナイフの用途を尋ねた。「色々だよ」と規士が面倒そうに答えると、彼は「揉め事に関わってないか。顔の痣のことと関係ないか」と尋ねる。規士が「無い」と言うと、一登は「物を作るために買ったのなら返す。使う目的が言えないなら預かる」と告げる。規士が用途を言明せずに立ち去ったので、一登は事務所へ行って工具箱にナイフを入れた。
1月5日(日)。前日に出掛けた規士が帰宅せず、貴代美は心配してスマホに何度もメールを送る。夕方になって、規士からは「悪いけど、いろいろあってまだ帰れない」と返事が届いた。貴代美が電話を掛けても繋がらず、規士はスマホの電源を切っていた。夜、貴代美は母の織田扶美子から電話を受け、一登にテレビを付けてもらう。するとニュースでは、事故車のトランクから若い男性の遺体が発見された事件が報じられていた。男性は激しい暴行を受けており、現場からは高校生らしき2人の男が逃走していた。
1月6日(月)。朝刊を見た一登と貴代美は、被害者が倉橋与志彦という高校1年生だと知る。与志彦の顔写真を見た雅が規士の友人ではないかと言い、兄が電話で「ヨシヒコ」と話していたことを両親に知らせた。戸沢警察署の寺沼俊嗣と野田弘美が石川家を訪問し、規士が与志彦の遊び仲間だったこと、所在が分からないメンバーの1人であることを説明した。「行方不明届を出せば、パトロール中の警察官が息子さんを見つけやすくなる」と言われた貴代美は、規士が犯人扱いされていると感じて激怒する。一登は彼女をなだめ、行方不明届を出すことを寺沼と野田に告げた。一登が学習塾へ向かう雅を車に乗せて家を出た後、『週刊ジャパン』の記者である内藤重彦が訪問した。貴代美が追い払おうとすると、彼は「貴方の知らない情報を知っている」と口にした。貴代美が興味を示すと、内藤は「事件に関わっている少年は逃げた2人の他に、もう1人いる」と教えた。
一登は大工の高山毅と会い、与志彦が花塚の孫だと知らされる。花塚はベテラン左官職人で、塗装店の経営者だった。犯人は与志彦の顔が分からないぐらい激しい暴行を加えて殺害しており、高山は激しい怒りを示した。貴代美はショッピングモールで規士と同じ高校の生徒に次々と声を掛けるが、情報は得られなかった。一登が帰宅するとマスコミが押し掛けており、マイクを向けられる。一登は取材に応じずに家へ入り、インターホンを押されても無視した。一登は貴代美に、与志彦が家の壁を塗ってくれた花塚の孫だと教えた。
一登は隣人から電話を受け、マスコミが停めている車について苦情を言われる。一登が外に出るとTVリポーターがマイクを向け、与志彦の殺害に関する意見を求めた。一登は苛立ちを抑えて対応し、車を移動させるよう要請した。サッカー部のマネージャーを務める飯塚杏奈は一登と接触し、規士の怪我は先輩の堀田による悪質なタックルが原因だと教えた。堀田は生意気な規士に腹を立てており、怪我をさせる目的で削ったのだ。その堀田は部活帰りに襲われて足を折られていたが、犯人は規士ではないと杏奈は断言した。テレビのニュースで一登のインタビュー映像が顔を隠した状態で放送され、規士は容疑者扱いだった。一登、貴代美、雅はスマホを見て、規士を含めたサッカー部員3名の情報が流れていることを知った。匿名扱いではあるが写真も拡散されており、個人を特定することは容易だった。
1月7日(火)。起床した一登が外に出ると、玄関には幾つもの生卵が投げ付けられていた。彼が掃除していると若者たちが現れ、スマホで撮影して去った。一登は寺沼と野田を呼んで入手した情報を公表するよう抗議するが、冷淡に拒否された。寺沼と野田が去った後、「規士が犯人ではないと信じたい」と主張する一登は、「犯人でもいいから生きていてほしい」と考える貴代美と言い合いになった。犯人ではないと仮定した場合、殺されている可能性が高いからだ。
雅が塾へ行くと言い出したので、一登は車で送り届ける。雅は「お母さんの前では言えなかったけど」と前置きした上で、「お兄ちゃんが犯人だと困る」と口にした。扶美子が差し入れの食事を持参して訪問すると、貴代美は「ただ生きてほしい」と涙をこぼした。仕事の現場に赴いた一登は、規士が犯人だと決め付けている高山から「もう仕事は受けられない」と怒りで拒絶された。一登は助手の梅本から連絡を受け、事務所に変なメールが大量に届いていること、電話も鳴り止まないことを知らされた。梅本が事務所のホームページの一時閉鎖を提案すると、一登は了承した。
帰宅した一登は、扶美子から「こういう時は覚悟して、夫婦で支え合っていかないと」と告げられる。扶美子も規士が犯人だと決め付けていることに苛立った一登は、貴代美を呼び出して「なんで規士を信じてやろうとしないのか?」と声を荒らげた。貴代美が「貴方は自分の息子が人殺しだって思いたくないだけでしょ」と反発すると、彼は「どう見ても規士が犯人だっていうなら腹を括る。でも、そうじゃないだろ」と語る。すると貴代美は、「どうして信じてもいいって思えるの?私は帰ってきてくれれば、それでいい」と述べた。
雅は両親に、志望していた私立の教徳女学院を受けられないかもしれないと話す。貴代美は冷たい態度で、覚悟しておくよう要求した。雅が兄の犠牲になることへの憤りを吐露すると、一登は自分の行きたい学校を受けるよう促す。しかし貴代美は家族として規士の犠牲になることを受け入れるよう要求し、雅は昔から母が自分より兄ばかり大事にしていると主張して口論になった。雅は部屋に駆け込み、心配した一登が様子を見に行くと規士から貰ったお守りを握って泣いていた。
貴代美は一登や雅に内緒で内藤に電話を掛け、インタビューを受ける条件で情報を提供してもらう。主犯は半年前に高校を中退した17歳の塩山翔吾で、事件に使われた車は彼が先輩から借りた物だった。内藤はサッカー部に取材しており、規士は加害者の可能性が高いと告げる。規士が加害者でも生きてほしいかと質問された貴代美は、「生きていてほしいです」と名言した。1月8日(水)。一登はマスコミの質問を無視し、車の落書きを水で洗い流した。彼は種村夫妻から電話を受け、仕事のキャンセルを通告された。
一登は工具箱に入れた切り出しナイフが無いことに気付き、梅本に電話を掛けた。すると梅本は、規士が4日前に持ち去ったことを教えた。1人の少年の身柄が確保されたことが報道され、貴代美は内藤に電話を掛けた。内藤は塩山だと教え、規士の逮捕も時間の問題だろうと話す。貴代美は差し入れの食材を買うため、スーパーに出掛けた。その帰り、彼女は女子高生グループに声を掛けられ、規士は犯人じゃないと告げられた。1月9日(木)。テレビのニュースでは捕まった少年が倉橋の殺害を認める供述を行い、もう1人の殺害も仄めかしていることが報じられた…。

監督は堤幸彦、原作は雫井脩介『望み』(角川文庫刊)、脚本は奥寺佐渡子、製作は堀内大示&楮本昌裕&松木圭市&鈴木一夫&飯田雅裕&五十嵐淳之、企画は水上繁雄、プロデューサーは二宮直彦&天馬少京&千綿英久&内山雅博、音楽プロデューサーは茂木英興、協力プロデューサーは橋口一成、撮影は相馬大輔、美術は磯見俊裕、照明は佐藤浩太、録音は鴇田満男、編集は洲ア千恵子、音楽は山内達哉、主題歌は森山直太朗『落日』。
出演は堤真一、石田ゆり子、岡田健史、清原果耶、竜雷太、松田翔太、市毛良枝、加藤雅也、三浦貴大、早織、西尾まり、平原テツ、渡辺哲、松風理咲、林田麻里、長友郁真、風山真一、登坂淳一、富永美樹、神田愛花、工藤孝生、小野寺晃良、河野宏紀、遠藤健慎、氏家恵、中村祐志、長島琢磨、平野虎冴、神谷圭介、小林博、たれやなぎ、山下徳久、真田幹也、渡部友一郎、藤井俊輔、福田周平、今本洋子、渡辺慎一郎、清田みくり、新谷ゆづみ、小平伸一郎、飯島みなみ、深澤千有紀、浅野千鶴、松島愛華、白田迪巴耶、江崎佳祐、石川雷蔵、平川玲奈、藤本剛、福田七聖、林タケル、佐脇花音、片野晴道、永澤和馬、寺内勇貴、舘秀々輝、青木一平、上島信彦ら。


雫井脩介の同名小説を基にした作品。
監督は『人魚の眠る家』『十二人の死にたい子どもたち』の堤幸彦。
脚本は『コーヒーが冷めないうちに』『グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜』の奥寺佐渡子。
一登を堤真一、貴代美を石田ゆり子、規士を岡田健史、雅を清原果耶、高山を竜雷太、内藤を松田翔太、扶美子を市毛良枝、寺沼を加藤雅也、理学療法士を三浦貴大、野田を早織、種村夫妻を西尾まり&平原テツ、花塚を渡辺哲が演じている。

一登は規士に「サッカー以外に、何かやりたいことは無いのか」と訊いてから、「俺も高校生の頃、もっと色んなことに興味持ってりゃ良かったよ。勉強だって何だって、もっと真面目にやってりゃ良かった。大人になったら、自然に何でも出来るようになると思った。けど、そうじゃないな。何も無かったら、何も出来ない大人になるだけだ。考え方次第で、未来は変えられるんだ」と語る。
そして「こういう話をうっとおしいと思って聞き流すか、そうだなあと真面目に考えるのかによっても、未来は変わって来る」と話す。
この説法が、ホントにうっとおしくて仕方がない。

規士はずっとサッカーを続けて来て、その道で頑張ろうと思っていた。それが膝の怪我で断念せざるを得なくなり、すっかり無気力な状態に陥っている。
そんな時に、「いいこと言ってるだろ」と得意げな態度で説法するのは、どんだけデリカシーの無い行為なのかと。
しかも、そんな時でも彼は自分の仕事に規士を巻き込み、客への態度を注意するのだ。
「どんな時でも客が来れば愛想良くするのが当然」という要求も、思いやりのかけらも無い。

で、そうやって「人生の先輩としての有り難い言葉」という思い込みに基づいた説法をベラベラと喋っているくせに、顔の痣については「話したくないこともあるんじゃないか」と全く取り合おうとしない。
それは思いやりではなくて、ただの無関心だ。
つまり、一登は自分の考えを息子に押し付けたいだけであり、息子に寄り添ってあげようという気持ちは皆無なのだ。

リアリティーが大切な映画のはずだし、そこを重視して作っているはずだ。しかし、実際に観賞してみると、色々と違和感が多い。
規士が殺人事件に関与していると石川家の面々が確信するような展開にするために、変なねじ曲がり方で作業が行われている印象を受ける。
まず、規士の部屋でナイフを見つけたぐらいで、一登と貴代美が過剰に動揺していると感じる。
もはや、最初から「規士は人を傷付けるためにナイフを購入した」と決め付けている反応にしか見えない。

救急車のサイレンが聞こえた時の一登と貴代美の反応も、決め付けすぎていると感じる。テレビのニュースで殺人事件を知った時の反応も、「そこに規士が関わっている」と完全に思っている人間の反応だ。
「その後の展開を最初から知っているから、それに合わせて反応している」という風に見えるのだ。
あと、雅も含めた3人が、規士を全く信用していないよね。なので、最初から石川家はバラバラで、実質的に崩壊していたように感じる。
でも、そう感じさせてしまうのは、映画として正しいとは到底思えないのよ。

貴代美がショッピングモールで同じ高校の生徒に質問を繰り返す以外に、石川家の面々が規士を見つけるために取る行動が見当たらない。
でも雅はともかく一登と貴代美が他に難の行動も取らないのは、あまりにも不可解だ。
規士の交友関係は知らないとしても、サッカー部員だったことも、在籍していたのが何年何組なのかも知っているはずでしょ。だったら、その辺りから当たればいいんじゃないのか。
あと、規士が失踪して以降、一度も部屋を調べようとしないのも不自然だよ。どう考えたって、規士の手掛かりを見つけるためには部屋を調べるべきでしょ。
掃除する時や小刀の件では平気で部屋に入っているのに、そのために部屋へ入ることが無いのは変だよ。

そういうのを描かないのも不自然だから当然っちゃあ当然ではあるのだが、マスコミが規士を犯人と決め付けて報道するとか、石川家に押し掛けて追い詰めるような取材を仕掛けたりというシーンがある。
そういう描写が多いので、マスコミへの怒りや嫌悪感が刺激される。
そういうシーンの多さによって、「この作品のテーマって何?」と言いたくなる。
もしもマスコミがクソじゃなかったら、ここまで石川家の面々が精神的に追い込まれることは無かったはずで。

また、一般人が石川家に嫌がらせをしたり、規士を犯人と決め付けた情報をネットで拡散させたりという描写もある。警察が規士を犯人と決め付け、冷淡な対応を繰り返す描写もある。
これにより、ネット民や警察への憤りも刺激される。
でも、「こういうことで冤罪の被害者が出たり、何の罪も無いのに追い込まれる人が出たりするのだ」ってのを描きたかったんじゃないはずでしょ。長男が関与した事件が発生したことにより、残された家族が苦しむ心理ドラマの部分がメインのはずでしょ。
だけど、石川家を追い込む要素の酷さがあまりにも強く主張しているもんだから、焦点がボヤけちゃってる印象を受けるのだ。

「犯人でもいいから生きていてほしい」と考える貴代美と、「犯人として見つかるよりは被害者として殺されている方がマシ」と考える一登&雅の間で、意見の相違が生じる展開がある。
これにより、「どちらの方が家族にとっては幸せなのか」という問題提起をしようと狙っているようだ。
だけど前述した問題のせいで、肝心なトコが弱くなっている。
あと、一応は「規士は殺人犯なのか否か」という部分のミステリーがあるのだが、規士が犯人じゃないのはバレバレだ。なので、そこは全く機能していない。

貴代美が規士を犯人だと決め付ける立場を明らかにしてからは、彼女に反発する形で一登は「規士は犯人じゃない」と強く主張するようになる。
だけど息子を全面的に信用しているわけじゃなくて、成り行きとしてそういうスタンスになっただけだ。
とは言え、「生きていてほしい」という考えから「息子は犯人」と決め付ける貴代美のヤバさが際立つため、それとの対比で一登は「息子の無実を信じ、娘を擁護して優しく接する良き父」という印象が強くなってくる。
でもザックリ言うと、どっちもどっちなんだけどね。

一登は規士が工具箱からナイフを持ち出したことを聞かされても、まだ息子の部屋を調べようとしない。そして9日になって、ようやく彼は規士の部屋に入る。
ただ、なぜか真っ直ぐに鞄へ向かい、その中身を全て出すという行動を取る。それが終わってから、机の上にあるリハビリの専門書を見つける。
その本と破産であるメモを見て、一登は「息子が自分の言葉をしっかりと受け止め、理学療法士になる勉強を始めている」ってことを知るわけだ。
でも、部屋に入ったら視線の先に机があるんだから、まず本に気付くだろ。鞄の中身を取り出してから気付くってのは、不自然極まりない。

で、リハビリの本やメモを見た後、一登は机の引き出しを開けて、そこに切り出しナイフが入ってるのを発見する。それを見て、一登が規士の無実を確信するという流れになっている。
でも彼は、ずっと「息子は犯人じゃない」と言っていたわけで。それなら、その証拠を掴むために部屋を調べようとしなかったのは、あまりにも不自然。
そして貴代美にしても、掃除のために部屋に入ることは無かったのかよ。もし部屋に入っていれば、リハビリの本は絶対に見つけていたはずだろ。ってことは、失踪してから一度も入っていないのよ。
そんな不自然なことになっているのは、「一登がナイフを発見して規士の無実を信じる」という展開を作るためだ。そのため、一登と貴代美に無理をさせているのだ。

(観賞日:2022年1017日)

 

*ポンコツ映画愛護協会