『のぞきめ』:2016、日本

薄汚れた格好で引きつった表情を浮かべた大学生の城戸勇太郎は、スーパーで大量のガムテープを買い込んだ。LINEで「もうむりだ」というメッセージを受け取った恋人の岩登和世は「なにがあったの?」「どこにいるの?」といった質問を幾つも送るが返事は無かった。横浜市鶴見区のマンションへ戻った勇太郎は、携帯電話が鳴っても出なかった。彼はカーテンを閉じ、冷蔵庫や排水口など部屋中の隙間を全てガムテープで塞いだ。その夜、就寝していた勇太郎は鈴の音で目を覚まし、恐怖に震えた。気持ちを落ち着かせようとした彼は、塞ぎ忘れていた隙間から覗く眼球に気付いた。勇太郎は慌ててベッドに下に潜り込むが、近付いて来た何かを見て絶叫した。
みなとみらいテレビの制作部で新米ADとして働く三嶋綾乃は編集した映像をディレクターの竹村篤史に見せるが、「ただ繋いでいるだけで、お前の言いたいことが分からない」と扱き下ろされた。彼女は恋人の津田信二と電話で話し、「昼の番組のグルメレポートだよ。私の言いたいことなんて関係ないじゃん」と不満を漏らす。信二は綾乃にプロポーズするつもりで指輪を用意していたが、彼女が忙しそうな様子だったので何も言わなかった。
残業してテープを編集していた綾乃は、局の人間からの電話を受けた。相手は報道部の人間に用があったが、不在だと知ると「マンションで転落事故があったのでカメラを回しておいてくれ」と綾乃に指示した。マンションへ赴いた綾乃は、階段から転落死した勇太郎の遺体が転がる踊り場を撮影した。翌朝、現場からのリポートを担当した綾乃は、報道部のディレクターである中岡仁から「いいんじゃねえか」と褒められた。綾乃は喜ぶが、竹村には「いつから報道部になったんだよ。女子アナ気取りかよ」と叱責された。
その夜、綾乃は信二のマンションへ行き、一緒に夕食を取った。信二は小説家志望で、「ホラーとミステリーをハイブリッドした小説を考えてる」と語る。綾乃は勇太郎の事件について問われ、「変だよね、踊り場に落ちたぐらいで亡くなるなんて」と口にする。信二から「調べないの?気になってるんだろ」と言われると、彼女は「私、報道部じゃないもん」と告げる。後日、中岡は綾乃を呼び出し、勇太郎は腹が完全に捻じれていた上、喉に泥が詰まって窒息死したと話した。
マンションへ赴いた綾乃は、勇太郎の部屋に入る和世を見て声を掛ける。和世は無視するが、綾乃は後を追って部屋に入った。すると和世は、「勇太郎は呪い殺されたんです。隙間から誰かに覗かれて」と口にした。携帯が鳴ったので綾乃は部屋を出て行き、直後にカーテンを塞いでいたガムテープが剥がれた。和世は慌ててガムテープを戻すが、鈴の音を耳にして不安げに振り返る。水滴が垂れているキッチンに歩み寄った彼女は、排水口から見ている目に気付いて絶叫した。
排水口から溢れ出した泥に怯えた和世は、部屋を飛び出した。綾乃は部屋へ戻り、靴下に付着した泥に気付いた。綾乃は和世が通う麗澤大学へ行くが、彼女は来ていなかった。女子学生たちに質問した綾乃は、勇太郎が死ぬ前から和世は休みがちだったこと、サークルの合宿で2人が怖い目に遭って変になったことを知る。和世と勇太郎は山奥の誰もいない村へ行き、お化けを見て呪いを受けたという噂を彼女たちは語った。
彩乃は和世の家を訪ねるが、母親の佳世子から部屋に閉じ籠って出て来ないのだと告げられる。彩乃はドア越しに話し掛けるが、返事は無かった。和世の悲鳴が聞こえたので、佳世子は鍵を使ってドアを開けた。すると和世は部屋中の隙間を全てガムテープで塞ぎ、薄暗い中で錯乱状態に陥っていた。和世は入院することになり、落ち着きを取り戻した。彼女は彩乃に、合宿で泊まったコテージの近くに地元の人間が近付かない場所があると聞いたこと、肝試しのつもりで勇太郎と訪ねたことを語る。
六武峠で鈴の音を聞いてからは和世の記憶が曖昧で、いつの間にか奇妙な村に迷い込んでいた。村にあったお堂の窓から誰かが覗いており、2人は必死になって逃げ出した。それ以来、ずっと誰かに見られている感覚に陥り、恐怖に見舞われているのだと和世は話す。彩乃は信二と共に、その村へ行ってみることにした。2人はコテージにチェックインし、管理人の高田恵一に六武峠の場所を訪ねる。すると高田は険しい表情になり、「もし行くんなら、ウチには泊まらないでもらいたい」と告げた。
彩乃と信二はハイキングコースを進み、六武峠へ辿り着いた。しかし和世の写真では村が広がっていた場所は、湖になっていた。それでも彩乃は先へ進もうとするが、信二は「帰ろう」と言う。彩乃が信二を見ると、彼は「逃げよう。振り返っちゃダメだ」と告げる。彩乃が振り返ると、そこには巡礼姿の少女が立っていた。信二は彩乃を連れて、その場から逃走した。マンションへ戻った信二はネットで調べ、湖が総名井(そうない)ダムだと彩乃に教えた。彩乃が「じゃあ、この村はどこにあるの?」と疑問を口にすると、信二はネット検索し、1980年にダムに沈んだ侶磊(ともらい)村の存在を知る。
翌日、信二は『山村の民間伝承』という本を彩乃に見せ、侶磊村について「のぞきめと呼ばれる化け物の伝承がある」と書かれていることを教えた。それは六部殺しにまつわる伝承の項目に記されている文章だ。六部とは六十六部の略で、全国の巡礼地を巡り歩いた者のことだ。そして親切心を装って六部を家に招き、殺害して金品を奪う連中のことを六部殺しと呼んだ。死体を処分するので殺人は露呈せず、その家は奪った金を元手に財に成して裕福になる。ただし六部の呪いが先祖代々受け継がれるという伝説は、全国に残っている。
彩乃と信二は巡礼姿の少女について、殺された六部の亡霊ではないかと推測した。2人は本の著者である四十澤想一を訪ね、詳しい話を聞くことにした。四十澤は50年前、大学生の頃に六部殺し伝説の調査で侶磊村を訪れた。村人は余所者を嫌い、四十澤との交流を避けた。そんな中、鞘落(さやおとし)勘一という男だけは、「のぞきめという化け物が出ると聞いて来ました」と言う四十澤に笑いながら「まあ入れ」と告げた。鞘落は村を昔から牛耳って来た家であり、巡礼者を殺して栄えた家だった。
貫一は古い書物を見せて「のぞきめの伝承はある」と認め、神が宿るとされる大木を切ると出現するのだと話す。のぞきめに取り憑かれると、誰かに見られているとう錯覚に囚われる。四十澤は彩乃と信二に、「のぞきめは覗くだけだ。そこに意味があるのだ。良くある御伽噺だよ」と告げた。和世は病室で鈴の音を聞き、夜中に目を覚ました。シーツに泥が落下したので、彼女は天井の換気口を見上げた。そこから覗く目に気付いた和世は、悲鳴を上げて病室を飛び出した。
彩乃は佳世子からの電話で、和世がいなくなったと知らされる。病院を抜け出した和世が林に入ると、地面から無数の目が出現した。彼女は彩乃と信二が乗る車の前に飛び出し、トラックにひかれて死亡した。次の日、彩乃は仕事に全く身が入らず、竹村から帰って休めと指示される。信二に電話を掛けても応答が無いので、彩乃は気になって彼のマンションへ赴いた。すると室内は真っ暗で、キッチンの引き出しには折り畳まれた和世の死体が入っていた。しかし買い物から戻って来た信二が確認すると、そこには何も無かった。
信二は「すぐ帰れ。ここにいない方がいい」と告げ、彩乃を部屋から追い出す。彩乃がドアをノックすると、信二は「調べて分かったんだ。六武峠では過去に何度も死体が見つかってる。侶磊村が廃村になって、ダムの建設が始まった頃だ。しかも見つかった死体は、必ず半分に千切れて捻じれてる」と語る。彼が「あの時、あの少女の目を見ちゃったんだよ。和世さんが死んでから、どこへ行ってもあの視線を感じるんだ。のぞきめの正体は、やっぱりあの少女だ。次は俺だ」と口にした直後、鈴の音が鳴った。信二は悲鳴を上げ、彩乃は必死で呼び掛けた。
彩乃は再び四十澤を訪ね、「今でも六武峠を越えて村に近付けば、のぞきめに取り憑かれてしまう。違いますか?」と質問する。彩乃は信二が入院したことを話し、「たぶん、出て来れないと思います」と言う。すると四十澤は「当時の私は、鞘落勘一の話だけでは満足することが出来なかった」と告げ、続きを語り始める。50年前、四十澤は夜になるのを待ち、密かに村へ戻った。四十澤は隣村で、「鞘落家では時折、おかしな死に方をする者が出る」「夜中に屋敷の前を通ると不気味な鈴の音が聞こえる」という噂を耳にしていた。四十澤は勘一の妻を尾行し、かつて巡礼者の宿泊施設として使われていたお堂に辿り着いた。
四十澤は勘一の妻が去った後、お堂を調べた。すると床下の穴倉には、タエという孤児の少女が監禁されていた。彼女は鞘落家が殺した少女の怨霊を鎮めるため、生贄にされていた。四十澤がタエに声を掛けると、スズという少女の怨霊が出現した。タエが念珠を掲げると、スズは姿を消した。四十澤がタエを連れて逃亡したため、祟りが蔓延した侶磊村は廃村となった。四十澤は「その頃から私も覗かれるようになった」と言い、両目を潰して呪いを免れたのだと明かした。タエは酷い生活が祟り、村を出て間もなく死んでいた。スズの怨霊を見た信二は錯乱し、箸を自分の両目に突き刺した…。

監督は三木康一郎、原作は三津田信三「のぞきめ」(角川ホラー文庫)、脚本は鈴木謙一、製作は堀内大示&堀義貴&横澤良雄&中尾勇一&寺島ヨシキ&三宅容介&歴東皓&花田康隆&滝沢隆也、企画は菊地剛&津嶋敬介&西尾聖、プロデュースは片山宣&井上竜太、プロデューサーは岡田和則&梶野祐司、アソシエイトプロデューサーは野副亮子&大健裕介、撮影は榎本正使、照明は尾畑弘昌、録音は鶴巻仁、美術監督は山下修侍、装飾は篠田公史、特殊メイクは梅沢壮一、編集は加藤ひとみ、VFXスーパーバイザーは西尾和弘、音楽は小山絵里奈。
主題歌『HIDE & SEEK』歌:板野友美、作詞:宏実、作曲:SICKONE/宏実/Funk Uchino/Ayaka Miyake、編曲:SICKONE。
出演は板野友美、白石隼也、吉田鋼太郎、東ちづる、入来茉里、池田鉄洋、玉城裕規、小澤亮太、石井心愛、つぶやきシロー、石井正則、清水伸、水沢紳吾(水澤紳吾)、かでなれおん、松岡恵望子、蒻崎今日子、三本采香、鈴木涼子、吉川純広、野嵜好美、武田玲奈、松本愛、増田萌絵、崎本実弥、貞平麻衣子、秋田陽子、志村彩佳、藤原智之、日下部慶久、山中良子、破入来夢ら。


三津田信三の同名小説を基にした作品。
監督は『トリハダ -劇場版-』『トリハダ -劇場版2-』の三木康一郎。
脚本は『ボックス!』『グッモーエビアン!』の鈴木謙一。
彩乃役は元AKB48の板野友美で、これが初主演作。主題歌の『HIDE & SEEK』も彼女が歌っている。
信二を白石隼也、四十澤を吉田鋼太郎、佳世子を東ちづる、和世を入来茉里、中岡を池田鉄洋、若い頃の四十澤を玉城裕規、城戸を小澤亮太、スズを石井心愛、高田をつぶやきシロー、竹村を石井正則が演じている。

日本の映画界では、アイドルが主演を務めるホラー映画が数多く制作されている。
ホラー映画というジャンルにおいて、アイドルが主演しているケースの割合は非常に多い。これは日本特有の現象だろう。
そもそもアイドルという職業が日本特有なのだから当然っちゃあ当然だが、「アイドルとホラーの相性がいい」という考えがあるのだろうか。
「アイドルは演技力が決して高くないが、ホラーなら何とかなる」ということなのだろうか。

もしも「稚拙な演技力でもホラーだったら何とか」という理由でアイドルの主演が多いのだとしたら、ホラー映画というジャンルを舐めていると言えなくも無い。
ただ、ホラー映画の場合、ヒロインは「スクリーミング・クイーン」として動かされることも少なくない。
なので極端に言っちゃえば、「悲鳴を上げて怖がる」という芝居さえこなせれば何とかなる可能性は、確かにあるのだ。
しかし一方で、それは「アイドル映画」としては魅力的とは言えない。

アイドルってのは基本的に、笑顔の方が魅力的なはずだ。しかしホラー映画だと笑顔のシーンは、おのずと少なくなる。
そういうデメリットを考慮してもホラーを選ぶ理由は、きっと「普通のアイドル映画よりもホラーの方が稼ぎを生み出す可能性が遥かに高い」ってことが大きいんだろうね。
あと、アイドルの笑顔が多く登場する類の映画だと、演出や脚本作りがホラーよりも難しいかな。ホラーだったら「とりあえず大きな音を立てて脅かしゃ何とかなる」という部分もあるけど、純然たるアイドル映画だと、そう単純には行かないからね。
それと、演出や脚本で頑張っておかないと、アイドルの稚拙な演技力がモロに出ちゃう恐れもあるしね。

さて前置きが長くなったが、これも「アイドル主演のホラー映画」作品群の1本である。
既に板野友美は元AKB48を卒業しているが、彼女を「女優」と呼ぶことは難しいだろう。歌手活動もしているが、まだ「アイドル」という枠で語るべき存在だろうと思う。
そんな彼女は、見た目は可愛いものの、お世辞にも演技力が高いとは言えない。なので現場リポートだって見事なぐらい棒読みだし、中岡が「いいんじゃねえか」と褒めるのは「いやいや、どこがだよ」とツッコミを入れたくなる。
板野友美の演技力が乏しいので、「ヒロインが何を考えているのかサッパリ分からない」という厄介な問題も生じている。

それでも「スクリーミング・クイーン」として機能してくれれば、まだ何とかなったかもしれない。
ところが困ったことに、その肝心なポイントでも、彼女はドイヒーなことになっている。
印象としては、「叫び方が下手」ってことじゃなくて、「その悲鳴は無いだろ」って感じになっている。
文字で表現するのは難しいんだけど、ちっとも「スクリーミング・クイーン」としての悲鳴じゃないのよね。なんか笑いそうになっちゃうのよ。

白石隼也や入来茉里は「不気味な気配に怯える」とか「目を見て絶叫する」といった芝居を上手く消化しているので、余計にメインである板野友美の大根っぷりが際立っている。
とは言え、「じゃあ白石隼也や入来茉里を主演に据えたら」と考えた時に、やはり訴求力という部分で板野友美の方が圧倒的に勝つんだろう。
それは理解できるけど、ただし「別のアイドルでもいいよね」とは思うよ。
まあ、そもそも「板野友美ありき」の企画だから、そこを変えることは絶対に不可能だけどさ。

この映画の企画が「まず板野友美の主演ありき」でスタートしたことは明らかで、彼女を主演に据えるために原作から内容が大幅に改変されている。
そんなのは珍しいことじゃないし、私は原作の熱烈なファンというわけではないので一向に構わない。
ただ、主人公を1人の女性にするのはいいのだが、「TV局の新米AD」という設定にしている意味が無い。
彼女は上からの指示で事件や村を調査するわけではなく、本来の仕事から外れて勝手に行動しているのだ。別にTV局の新米ADじゃなくても、まるで支障が無い。

おまけに、その設定が板野友美に合っているとは到底思えない。
板野友美は新米らしいフレッシュさも、その業界に慣れていない初々しさも、まるで感じさせない。その無愛想な態度は、むしろ「新米ADに指示を出す立場」の方がピッタリじゃないかと思うぐらいだ。
いっそのこと、人気タレントという設定にして、板野友美が「ほぼ自分自身」を演じるような仕掛けを用意しても良かったんじゃないかと。
そうすれば、演技力の問題も少しは軽減されるはずだし。

ただし問題は板野友美の芝居だけじゃなくて、他にも厳しいトコが色々とある。
例えば、中岡が綾乃を呼び出して勇太郎の遺体に関する情報詳細を教えるのは不可解だ。綾乃は報道部じゃないし、中岡が彼女を特別扱いする理由も見当たらない。
話を聞いた綾乃が、事件を調べ始めるのも無理がある。その前に勇太郎が「調べないの?気になってるんだろ」と言っているように、「綾乃が事件を気にしている」という様子は示している。だけど、「わざわざ調べるほど気にする理由って何なのか」というトコの疑問は拭えない。
「そもそも報道志望で、この事件をきっかけに報道部へ移りたい」という野心があったのかもしれないが、そんなのは映画から伝わって来ないし。

和世はマンションで綾乃に声を掛けられても、無視して勇太郎の部屋に入る。
それは「話し掛けられたくない、詮索されたくない」という態度に見えるのだが、なぜかドアを半開きにしたままで中に入るのだ。
だから当然、綾乃は部屋に入って来る。そんで綾乃が部屋に入ると、「岩登和世と言います。彼とは大学でサークルが一緒でした」と話すのよね。
取材に応じるつもりがあるのかよ。
だったら、質問された時に無視した理由は何なのかと。

恐怖の対象は「隙間から覗く目」なので、隙間を塞ぐのはもちろんだが、「もしも隙間があっても見ないようにする」ってことを徹底しておけば、もちろん怖いことは怖いだろうけど最悪の事態は免れる。
ところが、「それだと話が進まないので」という都合で、勇太郎にしろ和世にしろ、自らの意思で隙間に視線を向ける。
勇太郎の場合は、「ふと見ると隙間が残っていた」ってことだから、まだ分からんでもない。だけど和世に関しては、「キッチンの排水口がヤバいと察するが、改めて排水口に視線を向ける」「泥が落ちて来ると病室の天井を見上げる」という行動を取るのだ。
それって、もはや自分から「のぞきめ」を見ようとしてるだろ。
それは「怖い物見たさ」ってことで甘受できないぞ。

信二は巡礼姿の少女を見た途端、「逃げよう。振り返っちゃダメだ」と口にする。少女を目撃した彩乃も恐怖を抱き、2人で逃亡する。
だけど、そこで2人が逃げ出すのは、ちょっと不自然だ。
もちろん、そんな場所に巡礼姿の少女が現れたら気味が悪いとは思うよ。ただ、その段階では、まだ少女に「こっちに危害を加えそうな様子」は皆無だ。
なので信二はともかく、事件を調べようとしている彩乃なんかは、とりあえず質問してみるとか、その程度の行動は取っても良さそうなモノだと思うんだよね。
その少女が無言で目を見開いた時、初めて恐怖を覚えて逃げ出す流れでもいいんじゃないかと。

四十澤は彩乃と信二の訪問を受けた時、濃いサングラスを掛けて杖を突いている。その様子も含めて、彼が盲目であることは明らかだと言っていい。
なので、もう最初から「盲目の作家」として登場しているのかと思ったら、後から「四十澤がサングラスを外し、自ら両目を潰したことを彩乃に打ち明ける」というシーンが到来する。
ってことは、「そこで初めて四十澤が盲目だと知り、彩乃は驚く。そして観客も彼女に同調する」という狙いがあるのね。
でも、それは無理だわ。

「ヒロインの恐怖に対するリアクションが著しく弱い」という問題は前述した通りだが、「そもそも恐怖シーンの演出が弱い」ってのも大きな問題だ。
タイトルにもなっているように、何度も「隙間から覗く目」が登場するのだが、こいつの怖さが今一つ。
一番の理由は、「作り物にしか見えない」ってことだ。本物の目を使っているシーンでも、「カッと見開く」という表現の時は特殊効果に頼っているのよ。
あと、のぞきめを表現するパリエーションが変化に乏しいってのもマイナスだ。

のぞきめは覗くだけで、直接的に攻撃を加えて来るわけではない。
そこに「呪い」はあるけど、呪いの力で人間を殺すわけではない。常に覗かれている恐怖に見舞われた人間が錯乱し、自殺したり、道に飛び出して車にはねられたりするだけだ。
なので四十澤のように、両目を潰すことで死を免れる人間もいる。
ただし、「呪いによって直接的に死を与えるわけじゃないから、怖さが足りない」というわけではない。
のぞきめを恐怖の対象として表現する方法に、工夫が足りていないってことだ。

ちなみに、最後は信二が「三津田信三」というペンネームで小説『のぞきめ』を出版し、ベストセラー作家となる。つまり、この映画の原作者になったという遊びがあるわけだ。
で、彼が自宅で婚約指輪を眺めていると「いつくれるの?」という声が聞こえ、スズの呪いを受け継いで「二代目のぞきめ」と化した彩乃がカーテンの隙間から覗いているカットで終幕となる。
だけど、呪いが彩乃に伝承された理由がサッパリ分からんぞ。
ホラーってのは整合性が全てじゃないし、そこまでも「スズの目的が良く分からん」とか「のぞきめの設定が雑じゃねえか」という引っ掛かりはあったけど、最後のシーンは「上手い着地にしようとして外している」としか思えんわ。

(観賞日:2017年5月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会