『ノロイ』:2005、日本

1995年のデビュー以来、怪奇実話作家として数多くの著作を送り出してきた小林雅文は、不可解で恐ろしい現象を追及してきた。近年は 取材にビデオカメラを取り入れ、その映像をまとめたビデオ作品も手掛けていた。そして2004年4月、彼は新たなビデオ作品『ノロイ』を 完成させたが、その直後の4月12日深夜、自宅が全焼した。焼け跡から小林の妻・景子の焼死体が見つかり、小林は行方不明となった。 彼が残した作品『ノロイ』は、あまりにも衝撃的な内容であった。
2002年11月12日、東京都小金井市。小林は「隣から気持ち悪い声が聞こえる」という情報を受け、主婦・奥井涼子の家を訪れた。その声は 2、3ヶ月ぐらい前から聞こえるようになったという。奥井には、それが赤ちゃんの声に聞こえるらしい。隣家に住んでいるのは40代 ぐらいの母親と小学生の男の子で、赤ん坊はいないはずだと彼女は言う。奥井によると、母親と子供は半年ぐらい前に引っ越してきて、男 の子はその時に見掛けたが、それ以来見ていないらしい。
小林が隣家を訪れると、女がいきなり怒鳴り付けてドアを閉めた。取材を諦めて立ち去ろうとすると、窓から男の子が覗いていた。この時 、撮影した映像には奇妙な音が録音されていた。音声を分析してもらった結果、それは複数の人間の赤ちゃんの声であることが分かった。 11月20日、再び奥井を訪ねた小林は、取材直後に隣人が引っ越したことを聞かされた。それからは、赤ん坊のような声は聞こえてこないと いう。隣家を調べた小林は、捨てられたハガキを見つけ、住んでいた女性が石井潤子という名前だと知った。庭には鳩の死骸が散乱して いた。その2日後、奥井と彼女の娘・美加子は交通事故で死亡した。
2003年8月3日に放送されたテレビ番組「驚異の超能力スペシャル」では、10人の小学生による超能力実験が行われた。最初の透視実験で 、11歳の少女・矢野加奈は4問連続で正解した。しかし、5問目では、答えがロシア語なのに、彼女は宇宙人の顔のような絵を描いた。 続いて行われた物質化現象の実験では、加奈は密封されたフラスコの中に淡水と人間の体毛を発生させた。8月27日、東京都府中市。小林 は加奈の両親に取材を申し入れた。すると、加奈は実験の日から微熱が続いているという。
10月23日収録、未放送の番組がある。それはアンガールズと霊感の強い女優・松本まりかが出演した番組で、心霊スポットとして有名な 神社を訪れるという内容だった。神社に到着すると、まりかは「何か変な感じがする」と言い、木が枯れている場所へ歩いて行く。そして 「なんか聞こえた、低い男の人の声」と言い出し、いきなり悲鳴を発して倒れてしまった。
11月26日、トークライブ「怪奇実話ナイト」で、その番組の映像が流された。小林とまりかはゲストとして参加していた。まりかを霊視 してもらうために、司会者は堀光男という霊能力者を呼んでいた。堀は全身をアルミで覆っていた。彼はいきなり、まりかに掴み掛かり、 「お前ヤバいぞ」と叫んだ。小林は緑山スタジオへ行き、番組ディレクターと会ってオリジナルのテープを見せてもらう。
小林は杉書房のビデオ制作部にまりかを連れて行き、そのテープを見せて謎の人影が写っていることを教えた。まりかは小林に、「ロケの 後から、気が付いたら手帳に変な模様を描くようになった」と語った。12月4日、加奈の様子がおかしいと、母親から小林に連絡があった 。たまにおかしな素振りをすることが目立つようになったという。誰もいないのに誰かと話しているというのだ。家族の食事風景を撮影 していると、食器がテーブルから落下し、スプーンが折れた。
12月9日に放送されたテレビ番組で、高樹マリアが霊能者に話を訊きに行くVTRが流された。隣人は、その男を単なるキチガイ扱いして いた。その家に行くと、粗大ゴミが散乱しており、怪文書が外に張り出されていた。そこに住んでいたのが掘だった。家の壁や天井は銀紙 で覆われていた。彼は、何年も前から危険な情報が届いていると言う。掘は「宇宙と通じている、未来も見える」と言い、落ち着かない 様子で「霊体ミミズがウヨウヨいる」と警告した。
12月22日、加奈の失踪を受けて、小林は矢野家を訪れた。両親によると、加奈が失踪する1週間ぐらい前から、会わせろと執拗に言って きた男がいたという。それはアルミを貼っている服装の男だったらしい。加奈は「あの人は大丈夫だから」と言っていたという。失踪した 日、男が持って来たチラシが加奈の机の上に残されており、裏には「たすけて」という文字が残されていた。
小林が堀の家を訪ねると、「霊体ミミズが来ている。加奈も食われた」と彼は泣き出した。「加奈ちゃん、どこにいるんですか」と訊くと 、堀は「どこにいるか分かんなくなった」と言い、いきなり一心不乱に地図を描き出した。彼は「かぐたば」という言葉を口にした後、 「帰れ」と絶叫して暴れた。小林は掘の書いた地図を頼りに、加奈を捜すことにした。
12月26日、東京都目黒区。まりかから「見てほしいものがある」という電話を受けた小林は、彼女のマンションを訪れた。まりかは「目を 覚ますとテーブルの上に毛糸があり、複雑に輪っかがあるように結ばれていた」と説明した。小林は、まりかが眠っている間、部屋を撮影 することにした。映像を見ると、彼女は夜中に起き出し、ベランダでコードを輪っかに結んでいた。だが、本人に、その意識は無い。 ビデオにはドンドンという音が入っていた。小林がまりかと話している最中、天井から同じ音がした。上の階には、まりかの事務所の後輩 ・君野みどりが住んでいる。しかし彼女を訪ねると、床をドンドンとやった覚えは無いという。
2004年1月6日、小林は地図に書かれた場所を発見した。アパートの部屋へ行くと、大沢という表札がある。中から音は聞こえるが、小林 がインターホンを鳴らしても応答は無い。隣人に訊くと、住んでいるのは25歳ぐらいの男性で、ブツブツと独り言を呟いたり、ドンドンと 大きな音を立てたりしているらしい。しかし、10歳ぐらいの女の子が一緒にいるのは見たことが無いという。
1月7日、また小林がアパートの前まで行くと、大沢の部屋のベランダに鳩がいた。大沢が出て来て、一匹を捕まえて部屋に戻った。 数日後、彼はマンションから姿を消した。1月10日、まりかの部屋の映像を改めて確認した小林は、言葉が録音されているのに気付いた。 それを分析すると「かぐたば」という言葉だった。まりかに聴いてもらうと、神社で耳にした声と似ているという。しかし、「かぐたば」 という言葉に思い当たることは無いと彼女は証言した
「かぐたば」について調べた小林は、民俗学博士である昭島大学の塩屋和秀教授に会った。教授によれば、長野県の渡喜多郡に、かつて 下鹿毛村という場所があった。そこでは暴れる鬼を静めるための鬼祭が行われており、その鬼のことを「かぐたば」と呼んでいたという。 村は、かつて呪術師たちが住み着いた場所だったと。1978年に村はダムの底へ沈み、その時に鬼祭も廃止されている。
1月18日、小林は渡喜多郡へ行き、郷土史を研究している谷村敏則に会う。谷村によると、鬼祭は部外者には非公開だったので写真すら 残っていないという。しかし1978年の最後の祭りだけは、祭りを取り仕切る石井家が業者に取材を依頼していたため、16ミリフィルムが 存在していた。谷村はフィルムを譲り受けており、それをビデオに落とした映像を、小林は見せてもらった。
映像には、「かぐたば」役を演じた娘が急に錯乱する様子が映っていた。神官の石井と妻は既に病気で亡くなっていたが、娘は生きている という。最近、こちらに戻ってきたらしい。小林が彼女に会うため三日石集落へ行くと、家の前には輪っかが幾つも結んであった。戸を 叩くと、いきなり戸が開いて女が喚き散らし、家に引っ込んだ。その女は石井潤子だった。
集落では、どの家の玄関にも小さな鎌が飾ってあった。小林は、潤子と村で友達だったという女性に話を聞くことが出来た。潤子は東京で 看護学校に行っていたらしい。昔は、ごく普通の女の子で、鬼祭の後におかしくなったという。「神様の命令が聞こえた、それに従う」と 言い出すようになったらしい。1月21日、小林は東京都武蔵野市の看護学校を訪れ、潤子のことを尋ねた。潤子は八王子の産婦人科に勤務 していたが、既に病院は潰れていた
1月27日、小林は、かつて潤子と同僚だった女性を捜し当てて話を聞いた。元同僚によると、潤子は怖いぐらいおとなしい人で、仕事以外 の話はしたことが無いという。病院では違法な中絶手術をやっていて、潤子は胎児の処理を任されていた。その胎児を彼女が持ち帰って いるという噂があったらしい。2月6日、まりかが杉書房を訪れ、みどりが自殺したことを小林に告げた。公園で誰か知らない人たちと 合計7人で首を吊っていたという。
小林はまりかを自宅へ連れ帰り、妻に面倒を見てもらうことにした。集団自殺した面々の中には、掘の地図に書かれたアパートに住んで いた大沢真一もいた。小林がアパートの住人に話を聞くと、大沢は奥の部屋に住んでいた中年女性に「赤ちゃんの鳴き声がうるさい」と 怒鳴り込んでいたという。その女性には赤ちゃんはおらず、少女と一緒に暮らしていたらしい。ふと気になった小林が写真を見せて確認 してもらったところ、その女性が石井潤子だということが判明した…。

監督は白石晃士、脚本は白石晃士&横田直幸、プロデューサーは一瀬隆重、撮影監督は湯口大輔、編集は高橋信之、録音は小松先生、 美術は安宅紀史、特殊造形は松井祐一、視覚効果は松本肇、音楽は氷室マサユキ、音楽プロデューサーは慶田次徳。
出演は村木仁、久我朋乃、松本まりか、アンガールズ、寺十吾、菅野莉央、柿澤隆史、神林秀太、田野良樹、 岡田茉奈、飯島愛、ダンカン、荒俣宏、江口ともみ、高樹マリア、号泣ら。


「全ては本当にあったこと」という触れ込みで公開された日本版ブレア・ウィッチ・プロジェクト。
ようするにドキュメンタリーであるかのように作られたフィクション。
「ドキュメンタリーであり、劇中に登場する人物は番組出演者のタレントを除いて素人」という建て前なので、出演者の表記は無い。
もちろん実際には小林雅文という怪奇実話作家など存在せず、演じているのは舞台俳優の村木仁だ。潤子や堀、加奈といった面々も、全て 役者が演じている。

見る前からモキュメンタリーだというのは分かっていたが、たぶん、そういう人が大半なんじゃないだろうか。
これをドキュメンタリーだと信じる人は、ホラー映画をほとんど見ない人か、ものすごくピュアな人か、どうしようもなくボンクラな人か 、いずれかだと思う。
むしろ、これをドキュメンタリーだと完全に信じ込んで見る人は、かなりヤバいんじゃないかという気がする。
白石晃士が『ほんとにあった!呪いのビデオ』シリーズの監督だという予備知識があれば、これがフィクションだってのは分かるだろう。
そんな予備知識が無くても、よほど鈍い人でなければ、これが虚構だと気付くはずだ。
そんなわけだから、「ドキュメンタリーではないことがバレた上で、何を見せてくれるのか」というところにポイントを置いて観賞したが 、まあ見事に何も無いね。
フィクションだと分かっても、なお怖いのかというと、まるで怖くない。

「ドキュメンタリーに見せ掛けるために、いかに細かい部分まで作り込んでいるか」というのをチェックしながらニヤニヤして楽しむと いう観賞方法も考えられるが、そういう観賞方法は難しいようだ。
なぜなら、ディティールが甘いからだ。
わざと「ドキュメンタリーっぽく作っているはずなのにツッコミを入れたくなる箇所が幾つもある」という風に作ってあるのかというと、 そうではない。
そういう「バカバカしさを笑う」という類の映画じゃないしね。

内容を追いながら、細かく指摘していこう。
まず冒頭、小林の自宅が全焼したことが示される。
ここで火災の様子を撮影した映像が挿入されるが、そんなに都合良く野次馬が撮影した映像があるってのは不自然だ。
小林が奥井涼子の家を訪れる際には、彼女や娘に目張りも入れず、普通に画面に出す。
隣家を訪れると石井潤子が怒鳴ってくるが、その演技は「いかにも怖い人を演じています」という感じだ。
ナチュラルなキチガイを演じるのって、意外に難しいんだよね。

トークライブ「怪奇実話ナイト」で登場した堀光男のキチガイ芝居も、いかにも嘘臭くて、わざと笑わせようとしてやっているのかと思う ぐらいだ。
そこだけは完全にギャグだぞ。
掘を登場させたことで、もう本作品がドキュメンタリーかどうかという以前に、その番組やトークライブそのものが嘘臭いという印象に なってしまう。
そこはあくまでも「真剣に作っています」というモノじゃなきゃマズいんじゃないのか。
「霊体ミミズが来ている。加奈も食われた」と彼が泣き出すシーンでも、重厚なBGMを流して、どれだけシリアスに、恐怖を煽ろうと 頑張っても、やはりバカバカしさしか感じない。

再び奥井家を訪れた際、美加子が「ばいばーい」と言うのも取って付けたようで不自然。
その後、「驚異の超能力スペシャル」の映像が入るが、かなり長い尺で怪奇ビデオの中で使われるというのは、ものすごく不自然だ。
そこは「こういう少女がいて、こんな番組でこんなことをやっていたので興味を持って」というのをナレーションで説明する方が リアリティーが出たのではないか。
たぶん実際に映像を見せた方がリアルだろうと考えたのだろうが、そんなに簡単にテレビ局の映像は使わせてもらえないと思うぞ。

アンガールズと松本まりかの出演番組にしても同様。
仮に小林が関わっていたとしても、それもやはりテレビ番組なわけで、そんな映像をビデオ作品の中に収録することをテレビ局が許諾する ってのは、なかなか無いんじゃないかと思える。
そんな風に、ちょっと考えれば虚構が分かるような作りだ。
そういうのをバレバレにしてあるのは意図的じゃなくて、単純にディティールが甘いだけ。

小林が加奈の取材に訪れると、加奈は微熱が続いているという。
それなのに両親が取材を承諾するのは不可解だ。
加奈の様子がおかしいという連絡を受けて小林が再訪すると、母親は「おかしな素振りをすることが目立つようになった、誰もいないのに 誰かと話している」と語る。
だとすれば、普通の感覚を持つ両親であれば、小林を呼ぶ前に医者かカウンセラーに診せるだろう。

加奈と両親が食事をしているところまで撮影しているのは不自然だし、そこで食器がテーブルから落ちたりスプーンが折れたりするのは 都合が良すぎる。
その辺りは、ドキュメンタリーとして作っているはずなのに、ものすごくフィクション的なシーンになってしまっている 。
ホントは「たまたま捉えた映像」じゃなきゃダメなはずなのに、そうは見えない。

加奈が失踪した後に訪れた時、それを普通にカメラで撮影されているのに、平然と取材に応じている両親も変だろ。どんな親だよ。
両親は小林に対して冷静に話しているけど、これが何年も前の失踪ならまだしも、失踪した直後に小林みたいな奴に来られて取材を 求められて、それを平気で受けるような親は、その時点で不自然だよ。
あと、怪しい男が失踪直前に来ていたのなら、警察に証言すべきだろ。
もし証言していたとしたら、間違いなく掘は調べを受けているはずだし。

まりかが小林にみどりの自殺を告げるシーンがあるが、その告白がカメラの前で初めて行われ、小林が驚くという状況は、少し考えれば 不自然だということが分かる。
普通なら、まりかは杉書房に来る前に電話で連絡し、その時に事情を説明するだろうし。
っていうか、まりかは「さっき警察の人が家に来て知らせた」と語っているけど、その直後に杉書房に来るのも不自然だし。

みどりの集団自殺があった同日に放送されたニュース映像が挿入されるが、そんなのも、使用許可が貰えませんって。
矢野家の夫が妻を殺害したJXNニュースの映像なんかも使われているけど、もう完全にフィクションだと分かってしまうよなあ。
だって「JXN」って、どこのテレビ局だよ。
むしろニュース映像なんか挿入すると、リアリティーが欠如するのに。

とにかく「全て真実だと思わせることで恐怖を喚起しよう」という作品にしては、ディティールが甘すぎる。
これって「真実である」という作り込みがホラーとしての命綱であり、そこにボロが出てしまったら、なんにも怖くないんだよね。
「手持ちカメラを使うことでドキュメンタリーっぽく作っている」というだけでは不充分なのよ。
「ドキュメンタリーっぽい映像」だけでは、ちっとも怖さが無い。
出演者の芝居も決して上手いとは言えないし。

正直、こういう実録を装ったホラー作品って、楽しみ方が難しいよなあ。
これがコメディー系の映画なら、虚構と分かった上で楽しむ方法に難儀することは無いんだけど、ホラーはなあ。それが虚構だと分かった 時点で、もう怖さは皆無だからなあ。
で、ホラーなのに恐怖は皆無となると、やはり難しいものがあるよ。
なんせ作りとしては、シリアスにやってるからね。
「ホラーが突き抜けてギャグになる」というところまで徹底しているわけじゃないので。

そこまで突き抜けるためには、開き直って「ドキュメンタリーっぽく作ったウソです」という作りにする必要があるし、そうなると最初 から方向性が全く違ってくるしね。
この監督は、そういう作品を手掛ける人じゃないから。あくまでも、マジに恐怖ビデオとして作ろうという人だから。
それと思ったんだけど、白石監督はこういう実録という体裁を取らないと、ホラー作品が撮れない人なんじゃないかな。
普通にホラー作品を撮っても、恐怖描写のセンスが無いんじゃないかと思った。

(観賞日:2010年5月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会