『ノン子36歳 (家事手伝い)』:2008、日本

本町に住む36歳の坂東ノブ子、通称「ノン子」は、同級生の富士子が営むスナック藤で飲んでいた。彼女は離婚して戻って来た富士子に 「良かったんじゃないの、出戻って、こうやって家業を継げたわけだし」と告げる。「そっちは?お寺継いだりとか」と訊かれ、「あれは 神社。っていうか、そっちは久美子。だから私は関係ないの」と答える。「お兄ちゃん、嫌がってんじゃないの」と富士子が言うと、 「知らない。家出て、いないし」と口にした。
ノン子は「仲良くしよう、バツイチ同士として。私、何でも相談乗るから。じゃあ早速、私からの相談なんだけど、タバコ買いにちょっと 出ただけで、持ち合わせが無いの」と、悪びれずに言う。彼女が帰った後、ホステスから「友達か何かですか」と訊かれた富士子は、淡々 とした口調で「別に。ただの同級生」と答える。翌朝、ノン子は朝食を食べている両親を無視し、外出した。神社の階段で煙草を吸って いると、カップルがやって来た。カップルはおみくじを引き、それを木の枝に結んで立ち去った。ノン子はそのおみくじを外して開き、 大吉だと知ると、クシャクシャに丸めて捨てた。
神社を去ろうとしたノン子は、ビニールシートを敷いているマサルという男に呼び掛けられた。マサルは「祭りで店を出そうと思っていて 下見に来たんですけど、どこら辺に出すのがいいかと思って」と言う。ノン子は鳥居の下を指差した。そこへ久美子の夫・和人が来て、 ビニールシートを撤去する。彼はマサルに「そういうことは安川さんの方で聞いてくれるかな」と言い、ノン子に助けを求める。ノン子が 「安川さんに電話すれば」と言うと、和人は「じゃあ電話しとくんで、彼を連れてってもらえますか」と頼んだ。
ノン子は露天商を仕切る安川時生の家へマサルを連れて行くが、留守だった。マサルが「俺、ここで待ってますから」と言うので、ノン子 は立ち去ろうとする。だが、彼女はマサルを連れてスナック藤へ行き、一緒にカレーを食べる。「ノブ子さんは巫女さんですか?」と質問 され、彼女は「家事手伝い」と答えた。「なんか今風ですね。ゴロゴロいますよ、そんな人いますよ」とマサルが軽く言うと、ノン子は 不機嫌な顔で「そういうのと一緒にしないでくれる」と口にした。
富士子が来て「キレイでしょ。タレントさんだもんね」と言うと、芸能界に疎いマサルは「映画とか出てるんですか」と尋ねた。「出てる 。忍者とか戦うエッチっぽい奴。後はボディコンのギャンブラー」と富士子が教えると、マサルは「すいません、分かんないです」と言う 。ノン子は「うるさいよ」と怒鳴り、富士子に酒を出すよう要求した。ノン子は「電話してくるから」と出て行くが、そのまま帰って しまう。置き去りにされたマサルは、飲んでいる間に眠り込んだ。
翌朝、マサルはノン子の家で目を覚ました。マサルはノン子に連れられ、時生を訪ねて露店を出したい旨を説明した。時生に「ちょっと 出来ない相談ですね。まずは許可を取ってもらわないと。それと毎年、僕の方からお願いしてる業者さんがいるんですよ。僕の一存だけで 新規の方を入れるわけにはいきません」と言われ、マサルは苛立ちを覚えた。帰り道、ノン子が「時生さん、ああ言ったけど大丈夫だと 思うよ。隅っこでいいなら、いつも空いてるし」と言うと、マサルは「俺も同じこと考えてたんですよ。時生さんってヤクザみたいなモン じゃないですか。ああいう人って最後は義理人情ですから」と楽天的な考えを口にする。
2人は酒を飲んで酔っ払い、マサルが宿泊する旅館へ赴いた。ノン子は自転車で帰ろうとするが、足取りがおぼつかず、マサルは彼女を 部屋に連れて行く。世界地図を見つけたノン子が「これ何?」と訊くと、マサルは「俺、世界に出たいと思ってるんですよ」と答えた。 「なんで世界なの」という質問には、「夢は大きい方がいいじゃないっすか」と言う。「本気でそう思ってるの」と問われ、マサルは 「まあ、割りと」と告げる。
ノン子が「どうやって出るの?」と尋ねると、マサルは少し考えてから「今はまだ気持ちだけですけど」と口にした。「何を売る気なの」 と問われ、マサルは照れ臭そうに「まあ、色々です」と答えた。ノン子は「いいな、夢があって」と漏らす。マサルが「ノブ子さんもそう なんじゃないですか。タレントとかやって頑張ってるし」と言うと。ノン子は「やめて。いつも頑張ってないし」と声を荒げた。
翌朝、ノン子は実家からの電話で目を覚ました。彼女はマサルを連れ帰り、「この子ね、しばらく家にいるから」と告げる。父は無言で 立ち去るが、明らかに怒っていた。ノン子とマサルは、神社の境内に行く。「俺、やっぱ行きます」とマサルが言うと、「マサルくん、 彼女とかは」とノン子が話題を変える。「今は、いないです」という答えに、「前はいたってこと。なんで別れたの?」とノン子は訊く。 マサルは「分かんないです」と答えた後、「ノブ子さんは?」と質問する。ノン子は「全然」と言った後、マサルに「いいじゃん、いれば 。負けんなよ」と声を掛けた。
本町にやって来た宇田川という男は、板東家に電話を掛けた。ノン子の母が出ると、宇田川は声を変えて職業を詐称し、「板東ノブ子さん 、御在宅でしょうか」と尋ねる。「ちょっと出掛けてますが」と母が言うと、彼は連絡先を伝える。宇田川はスナック藤にノン子を呼んだ 。彼はノン子の元マネージャーで、別れた夫でもあった。宇田川は「やり直そうか。業界の方だ。俺と一緒に巻き返し」と持ち掛けた。 怒って帰ろうとしたノン子だが、すぐに戻って「話だけ聞く」と言う。
ノン子は宇田川の泊まっている旅館まで付いて行った。宇田川は彼女に「俺のツレが製作会社を立ち上げた。俺が業務提携してタレントを 増やそうって計画なんだ。それで看板になってほしいんだ」と言い、既に印刷してある名刺のサンプルを見せた。「言っとくけど、全部 アンタがダメにしたんだよ」とノン子が言うと、彼は「分かってる。俺も心を入れ替えた」と告げる。ノン子は「少し考えてもいい?」と 返事をする。ノン子は宇田川に抱き締められ、彼とセックスに及んだ。
マサルは業者に電話を掛け、露店で売る商品の手配を頼んだ。彼はノン子の父に声を掛けられ、仕事を手伝わされた。夜になって帰宅した ノン子は、そのまま自室に直行した。マサルが寝付かれずに台所で飲み物を探していると、ノン子がやって来た。マサルは遠慮がちに、 「今日、どっか行っていたんですか」と訊く。ノン子に「来ない?私の部屋」と誘われ、マサルは「へっ?」と言って固まった。すると ノン子は「なんでもない」と軽く笑い、部屋に戻った。
祭りの準備が進む中、坂東家にひよこの箱が10個も届いた。マサルが注文していた商品だ。「カラーひよこは可哀想だから、天然のまま 売ろうと思って」とマサルが自慢げに見せていると、ノン子の父は激怒して彼を殴り倒した。「こいつをひよこごと放り出せ」と怒鳴る父 に、ノン子は「明日のお祭りまでっていう約束でしょ。久美子が男連れ込んだ時は何も言わなかったじゃないの」と口を尖らせる。父は 「勝手にしろ」と吐き捨てた。
大雨が降ったため、祭りは1週間の順延になった。ひよこが薄汚れてきたため、マサルは箱から出して洗おうとする。ひよこが逃げ出して しまったため、ノン子はマサルと一緒に追い掛ける。そこへ久美子が娘・もなみを連れてやって来た。彼女は「お姉ちゃんさ、いつまで 甘えてるの。お父さんマジ死ぬって。っていうか普通にいたいって」と嫌味っぽく言う。「何がよ」とノン子が口にすると、久美子は 「分かってないんだ。終わってるよ、この人」と呆れた。
その夜の食卓に、ノン子の姿は無かった。マサルも「俺、お腹減ってないんで」と遠慮した。翌朝、マサルは死んだひよこを土に埋めた。 ノン子は思い詰めたような表情で、彼に「キスしよう」と告げる。「俺でいいんですか?」と確認され、「別に誰でもいいの。したいの。 早く」と求める。マサルが「じゃあ」とキスして激しく体を撫で回すと、ノン子は怒って「誰でもいいのかよ」と突き飛ばした。ノン子は マサルと一緒に神社へ行き、おみくじを引いた。
帰宅したノン子は、部屋に戻ろうとするマサルに「別に誰でもいいわけじゃないよ」と告げ、2人はセックスをした。情事の後、マサルは 「祭りが終わったら、どっか一緒に行きませんか」と誘う。ノン子は「私、何もかもメチャクチャになればいいと思ってた。でもね、まだ 終わってない。まだやれるって思う。だから東京に戻る」と語った。しかし祭りの日、宇田川に呼び出されたノン子は「あの話は嘘でした 。実は保証人になってもらって金を貸してもらい、借金の返済に充てるつもりでした」と打ち明けられた…。

監督は熊切和嘉、脚本は宇治田隆史、製作は安西崇&石井徹&日下部孝一、企画は木村俊樹、プロデューサーは小林智浩&佐藤現& 日下部圭子、ラインプロデューサーは星野秀樹、撮影は近藤龍人、照明は藤井勇、録音は吉田憲義、美術は古積弘二、編集は堀善介、 アクションコーディネーターはカラサワイサオ、アクション協力は坂口拓、音楽は赤犬、音楽プロデューサーは松本章(赤犬)。
主題歌 PoPoyans「太陽のラ」Words & Music:nonchan、Produce:鈴木惣一朗。
出演は坂井真紀、星野源、鶴見辰吾、斉木しげる、津田寛治、佐藤仁美、宇津宮雅代、新田恵利、舘昌美、北村燦來、菜葉菜、 遠藤要、井澤崇行、朽木正伸、雪嶋直樹、徳建人、竹原ピストル、ガンビーノ小林、 大橋正宏、小林永治、千代田隆史、笠原亮彦、服部剛志、中澤貴光、津久井健一、大野安弘、強瀬誠、白川真、田中大介、瀧澤忍、 小田島恒男、本澤武、児玉雅広、小池康二郎、寺田幸生、新井成幸、仁木一貴、中西博史、八巻隆明、新井秀和、岩垂良征、山口貴司、 神田崇、町田昌之、神田皇、本郷一路、松本芳貴、三原真吾、三原ケンタ、大沢一紀、室井勉、保泉ひろし、池田俊治、新井清一ら。


2003年の『アンテナ』以降、『日野日出志のザ・ホラー 怪奇劇場 〜第二夜〜』『揮発性の女』『青春☆金属バット』『フリージア』と 続いて6作目となる監督・熊切和嘉&脚本・宇治田隆史のコンビによる映画。
ノン子を坂井真紀、マサルをバンド“SAKEROCK”のリーダーである星野源、宇田川を鶴見辰吾、ノン子の父を斉木しげる、時生を津田寛治 、久美子を佐藤仁美、ノン子の母を宇津宮雅代、富士子を新田恵利が演じている。

ノン子が売れないタレントだったという部分のディティールが甘すぎる。
売れないタレントであることへの劣等感はあるけど、一方で端くれとは言え芸能人だったことに対するプライドもあって、そういうことで 性格がヒン曲がっているはず。
この映画にとって、ノン子が売れないタレントだったという設定は重要なはず。
そこは「以前は丸の内でOLをやっていた」とか「以前はレストランの店員だった」とか、他の職業と入れ替えることの出来ない設定の はず。
だったら、かつてノン子が出演した番組の映像を挿入するとか、記事が掲載された雑誌を見せるとか、様々な形で、ノン子がタレント活動 をしていた証拠を提示すべきだ。
この映画だと、出演者のセリフで軽く触れているだけで、ノン子がタレントだったという印象が全く感じられない。

この映画の致命的な問題点は、ヒロインに全く共感できないことだ。
共感を誘わない主人公で構わない類の映画ってのも、そりゃあ世の中には存在するだろう。
だけど本作品は、ヒロインに共感できないってのが、とてもマズい類の映画だ。
ノン子だけじゃなく、マサルにも共感できない。
そして、そんな共感できない男に惚れてしまうノン子に、ますます共感できなくなるという流れになっている。

別に私は、「ヒロインがダメ人間が主人公だからアウト」と思っているわけではない。ダメ人間賛歌の映画ってのは、むしろ好きな部類に 入ると言ってもいい。
でも本作品の場合、そのダメ人間の描き方、見せ方が良くない。
ノン子は、例えば「イライラしたら夜中に路上のゴミ箱やビールケースを蹴り倒していく」という女で、そのダメ人間ぶりが、好感度の 低いモノになっている。
あと、ノン子が何を根拠に「まだ終わってない。まだやれる」と思ったのか、サッパリ分からないし。

マサルは何も準備せず、下調べもせず、いきなり露店を開こうとする。
とにかく土下座してお願いすれば何とかなると思っているようだが、もちろん何ともならない。
時生に断られると、マサルは逆ギレして小声で「何だよ」と文句を言う。
まるで時生の方が間違っているかのように、彼は考えているのだ。「なぜ俺の頼みを聞き入れないのか。理不尽だ」という考えだ。
理不尽なのは自分なのに、相手が理不尽であるかのように考える。
ものすごく身勝手な奴だ。

マサルは祭りの当日もアポ無しで場所を貸してくれと頼み、時生に断られると「義理人情じゃねえのかよ」と逆ギレして暴れる。
彼がチェーンソーを持ち出し、喚きながら櫓を破壊するのは、宇田川の嘘を知ってショックを受けたノン子が太鼓の音に「うるさい」と 言っていたからで、彼女のことを考えての行動ではあるんだろうが、だからと言って共感は出来ない。
ただメチャクチャな奴だと思うだけだ。
ますます好感度が下がるだけだ。

マサルはともかく、ノン子は「ヘドが出るぐらい不愉快な奴」とか、「ボッコボコにしたくなるぐらい腹の立つ奴」とか、そういうわけ ではない。そこまで強烈に不快指数が高いわけではない。
でも、やっぱり好感は持てない。
ダメ人間を好感の持てるキャラにする方法というのは幾らだってあるわけで、例えば「弾けまくったバカ喜劇にする」とか、「主人公を チョー楽天的で明るいキャラにする」とか、「主人公がダメ人間であることを自覚し、何とか抜け出そうと必死にもがく姿や、その苦悩を 描く」とかね。
でも、そういう配慮は、この映画には用意されていない。

たぶん熊切監督は、そもそもヒロインを好感の持てるキャラにしようという意識を持っていないんじゃないかと思う。
結果的にそうなったのではなく、意図的なんだろう。
そうなると、演出テクニックの欠如ではなく、センスの方に問題があるってことだ。
まあテクニック不足であれ、センスの欠如であれ、どっちにしても、とにかくヒロインに共感できないってのがマズいってことに変わりは ない。

公開当時、坂井真紀が激しい濡れ場を演じてヌードを披露していることが話題になっていた。
というか、一番の売りにされていた。
しかし残念なことに、その一番のセールスポイントであるはずの濡れ場が、むしろ邪魔なモノになってしまっている。
ぶっちゃけ、そこで脱ぐ必要性って皆無なんだよね。
「濡れ場なんだから脱ぐ方が自然だろ」と思うかもしれないけど、この映画に関しては、脱がない方がいい。
それは「坂井真紀がガッカリなボディーだから」という意味ではなくて、その濡れ場だけが異質なモノとして際立っているのだ。

脱ぐか脱がないかという以前に、濡れ場そのものが不要だとさえ感じる。
たぶんノン子のだらしなさをアピールするために、そういうのを入れたんだろうってことは分かる。
「ノン子が立ち去ろうとするが、男の元へ戻ってしまう」というシーンが何度もあるが、それと同様の効果を狙ってのモノだろう。
だから「男と寝る」というシーンは、あってもいい。
だけど、「男と寝ました」ということが分かるような描写さえあれば、それで充分だ。

なんかねえ、クオリティーの低い日活ロマンポルノなのかと思っちゃうぐらい、濡れ場が上手く作品の中に溶け込んでいないのよ。
濡れ場までのシーンは全て、濡れ場のための前フリと言ってもいいような状態で、しかしながら前フリとして上手く機能していないん だから、困ってしまう。
それに坂井真紀は脱いでいるけど、前戯が全く無かったりして、セックスシーンとしてのリアリティーは皆無だし。

しかも、なんと濡れ場が2度も用意されているんだぜ。
最初から坂井真紀の濡れ場ありきで立ち上がった企画なのかと。
だとしても、そこへ向けての流れの作り方が上手くないし。
そこだけじゃなくて、ひよこを追い掛けるシーンで2人が楽しそうにしているのも、おみくじを結ぶ時に笑ってじゃれ合っているのも、 「幸せそうな風景」ってのを入れたかったんだろうけど、ギクシャク感が強いしなあ。

(観賞日:2011年12月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会