『のだめカンタービレ 最終楽章 前編』:2009、日本

プラティニ国際音楽コンクールで優勝した千秋真一は、パリの名門オケであるデシャン管弦楽団の客演指揮者を務めることになった。 のだめはコンサート会場へ行き、演奏を聴いた。パリに春が訪れ、のだめは国立高等音楽院「コンセルヴァトワール」に通う仲間フランク やターニャと共に、来月の進級試験に向けた楽譜を揃えた。のだめは、トレビアンを貰いたいと意欲を燃やしている。
のだめたちがバスに乗っていると、街にはプラティニ国際音楽コンクールで2位だったジャン・ドナデュウのポスターが貼られていた。彼 はデシャン管弦楽団の常任指揮者に就任したのだ。自分が指名されると自信を持っていた千秋は落胆する。そんな千秋に、マネージャーの エリーゼはルー・マルレ・オーケストラから常任指揮者のオファーが届いていたことを告げる。しかもエリーゼは千秋に確認を取らず、 勝手に承諾していた。
エリーゼは千秋に、彼の師匠であるシュトレーゼマンが若い頃にマルレで音楽監督を務めていたことを話す。今回のオファーは、新しく 音楽監督を務めるジェイムズ・デプリーストからの要望だという。一方、のだめが仲間のオーボエ奏者・黒木泰則とコンセルヴァトワール へ行くと、若手ナンバーワンと称されるピアノ奏者・孫Ruiがゲストとして来ており、生徒たちが騒いでいた。
千秋はフランクに引っ張られて、マルレ・オケのリハーサルへ向かった。その途中、千秋はフランクから、バイオリンのエキストラになる よう言われる。千秋が驚いて「出来るわけないだろ」と告げると、フランクは「マルレは臨時の演奏家を募集していて、知り合いから 誰か紹介してと頼まれていたんだ」と語る。フランクは千秋の顔が楽団員にバレないよう眼鏡を掛けさせ、髪を寝かせる。
千秋はフランクと共に、パリのブラン劇場へやって来た。フランクの知り合いである事務局員のテオが、彼らを迎えた。テオは誰でもいい から片っ端から声を掛けているような状況で、それを見た千秋は不安にかられた。千秋は舞台に向かうが、楽団員には全く演奏への意欲が 見えなかった。演奏曲目であるラヴェルの「ボレロ」を千秋が演奏していると、コンマスのトマ・シモンが現れて「そんなんでいい気に なるなよ」と仏頂面で告げた。
そこへテオが走って来て、指揮者のゲレメクが公演をポーランドへキャンセルして帰ったことを告げた。ゲレメクは、「こんなオケには 二度と来ない」と言っていたらしい。シモンは険しい顔を浮かべ、楽団員は早々に解散した。千秋に問い詰められたフランクは、「少し前 に大勢のメンバーが辞めてしまい、ほぼ寄せ集めのオケになっている。資金不足でリハーサルも少ない」と打ち明けた。
テオはシモンに、代わりの指揮者として千秋に来てもらおうと提案した。するとシモンは「そんな青二才が、急に来て振れるものか。まだ 常任と認めたわけじゃないぞ」と冷淡に告げて立ち去った。しかしテオは次回公演の指揮者を千秋に決めた。千秋は、パリ在住で若くて 安い指揮者という条件で自分が選ばれたことを知り、ショックを受けた。本番までには、リハとゲネプロが1回ずつしか無かった。千秋は 翌日までに3曲を仕上げるため、アパルトマンに戻った。
千秋が明日の準備に取り掛かろうとしていた時、Ruiから電話が入った。会いに行くと、Ruiは「4月からコンセルヴァトワールに留学する から下見に来た」と言う。彼女が挨拶のキスをしていると、それを目撃したのだめが血相を変えて走って来て、千秋の首に噛み付いた。 3人はアパルトマンへ移動し、Ruiは演奏活動を中止して来たことを話す。千秋が「今は立て込んでいるんだ」と言うと、彼女は「今度、 部屋探しを手伝って」と告げて去った。のだめが嫉妬心で激昂するので、千秋は「忙しいんだ」と部屋から追い出した。
翌日、千秋がリハーサルへ出向くと、テオは「頼むからコンマスに逆らったりしないでくれよ。もう揉め事は御免なんだ」とお願いした。 千秋は練習所に入ると、すぐにデュカスの交響詩「魔法使いの弟子」の練習を開始する。演奏が遅いのでテンポアップさせようとすると、 シモンは「いいんだよ、このテンポで」と言い、勝手に楽団員への指示を出した。千秋はテオに「時間が無いから揉めるな」と言われ、 仕方なく練習を続けた。一方、のだめはRuiの買い物に付き合わされていた。
リハの途中で、練習所に子供バレエ団が入って来た。困惑する千秋な、テオは「金が無いから色んなところに貸し出している。それに金が 無いから団員も他の仕事をしているので、どうせ残ってくれないよ」と語る。シモンは「周りをとやかく言う前に勉強不足だな」と冷たく 言い放った。次の日、千秋がゲネプロに行くと、また団員が辞めていた。テオは「銅鑼とチェレスタが見つからない」と言う。千秋は 「チェレスタは俺が何とかする。銅鑼は死ぬ気で探せ」と指示した。
千秋はのだめに電話を掛け、「ボレロのチェレスタを弾いてもらいたいんだ」と告げる。のだめは大喜びで劇場へ向かう。劇場の前まで 行くとRuiがいて、関係者入口へ案内する。16歳の時に演奏させてもらったことがあるので、挨拶に来たのだという。中に入ると、テオは Ruiを見て「そうか、千秋がチェレスタを頼んだんだ」と勝手に思い込み、ゲネプロの始まる劇場へ連れて行った。
初共演に浮かれていたのだめは、大きなショックを受けた。千秋は誤解を解くため、隠れているのだめを呼び出す。しかし、のだめは 「空気読めって言ってるんですよ」と、Ruiの登場に浮かれている団員たちの様子を見せる。次の日、本番の会場にはターニャや黒木の他 、千秋の後任としてライジングスター・オーケストラの指揮者を務めている松田幸久もやって来た。フランクも祖母を連れて会場に入った 。千秋は指揮を開始するが、オケの演奏は酷いもので、土台になる音さえ無かった。聴衆は失笑混じりに拍手をした。
千秋はのだめ、Ruiと共にアパルトマンへ戻った。「3人で打ち上げよ」とRuiが言うと、のだめは「2人でやってください。のだめは ピアノを弾きたいんです」と部屋に向かおうとする。そこへRuiのママが現れ、娘にビンタを食らわせた。彼女は「どうせ千秋の部屋に 入り浸っていたんでしょ」と誤解し、千秋を殴り倒した。それから「明日、帰るわよ」と言い、Ruiを引っ張っていった。
Ruiは1年前のカーネギーホールのコンサートで酷評されていた。千秋はのだめにパソコンで酷評の記事を見せ、「色々と思うところが あったんだろうな。変だったろ。無理してはしゃいでるというか」と言う。そして「焦るのも分かるけど、今まで過ごしてきた時間は 無駄なんかじゃないから」と告げた。翌日からのだめは進級試験のための練習に励むが、オクレール先生から「そんなんじゃ試験に間に 合いませんよ」と言われる。進級試験まで2週間となり、フランクとターニャも練習に励んでいた。
千秋は秋からの正式就任を前に、行動しなければならないと考えていた。アパルトマンでフランクたちが練習する音が騒がしいので、千秋 はマルレの事務所をしばらく使わせてもらおうとする。新シーズン最初の公演で、今後のマルレの運命が決まるのだ。彼は新しい楽団員を オーディションすると知り、審査への参加を志願した。オーディションには、地方や国外から大勢の人数が応募してきた。
オーディション一日目は、弦楽器セクションだ。千秋はシモンや各パートの首席たちと共に、事前に書類審査で絞った数名の演奏を聴いた 。黒木は内緒でオーディションを受けるため、2日目の木管セクションに向けてターニャの伴奏で練習している。オーディションには、 個性が強くてソリスティックだが上手いノースリーブのヴァイオリン奏者が来た。千秋もシモンも、彼を合格にした。オーディションの 基準に関しては、2人とも気が合っていた。
2日目、木管セクションのオーディションに黒木が来たので、千秋は驚き、そして喜んだ。さらに磨きの掛かった演奏を披露する黒木だが のだめのカレーで食あたりになっていたターニャが伴奏の途中で倒れてしまう。しかし黒木は合格だった。ファゴットの募集なのに、 バソンで参加したポール・デュボワも上手かった。ファゴットに持ち替える気は無いというが、千秋もシモンも合格にした。
オーディションが全て終わった後、千秋はテオから、シモンがずっと大々的なオーディションをすべきだと主張していたことを知らされる 。しかしシモンは反対派と揉めたのだという。その揉めた連中が、ゴッソリとマルレを辞めていたのだ。それを聞いた千秋は、このオケは きっと良くなると確信した。一方、のだめはコンセルヴァトワールの進級試験に挑み、トレビアンを取って千秋に報告した。
季節は流れ、いよいよオケは新シーズンに入った。千秋が劇場へ行くと、テオはデプリーストから届いた今期のプログラムの草案を見せる 。バッハのピアノ協奏曲第1番をやると知り、千秋は急いでデプリーストと連絡を取ることにした。彼は日本の音楽祭に参加していると いう。千秋が電話を掛けると、なぜかシュトレーゼマンが出た。プログラムは彼が考えたものだった。「嫌なら、やめても構いません」と 言われた千秋は、「いえ、やります」と即答した。
練習初日、朝早くからのリハに、以前からの楽団員はウンザリした様子を見せた。千秋はチャイコフスキーの序曲「1812年」から練習を 開始し、細かく指示を出した。千秋は厳しい態度で、何度もやり直させた。だが、なかなか千秋の思うような音にならず、険悪な空気が 広がっていった。のだめは千秋に内緒で、リハを見学に行く。リハの終了後にケンカを始めた団員にシモンは腹を立て、「音楽の本質は 調和にある。それを表現するのが真の音楽家だ」と叱責した。千秋は次のリハまで、アパルトマンには帰らないことにした。予定外の練習 が続く中、仕事を優先してリハを休む団員が続出した。生活の疲れがオケを蝕んでいると感じ、千秋は焦りを覚える。
黒木はオーボエ奏者のアレクシから、娘カトリーヌのベビーシッターを頼まれる。黒木はターニャに頼み、千秋の部屋を使ってカトリーヌ の面倒を見る。そこへ久々に千秋が帰宅した。カトリーヌが「お仕事終わってから、パパもすっごい練習してるよ」と言うので、千秋は 穏やかに「分かってるよ」と告げた。他の団員たちも、文句を言いながらも、それぞれに練習を積んでいた。そして、いよいよ定期演奏会 の日がやって来た。出番の直前、シモンは千秋に「私の夢は、このオケを活気溢れるオケにすることだ。それが心からの願いだ。今年こそ は、お前だったらって思ってるんだぞ」と告げた…。

監督は武内英樹、原作は二ノ宮知子(講談社刊「Kiss」連載)、脚本は衛藤凛、製作は亀山千広、エグゼクティブプロデューサーは石原隆 &和田行&吉羽治&畠中達郎&島谷能成、プロデュースは若松央樹、プロデューサーは前田久閑&和田倉和利、ラインプロデューサーは 森徹、撮影は山本英夫、編集は松尾浩、録音は柿澤潔、照明は小野晃、美術デザインは あべ木陽次、美術プロデュースは柴田慎一郎、 VFXプロデューサーは大屋哲男、ミュージックエディターは小西善行、クラシック音楽監修は茂木大輔、指揮監修は飯森範親、 ピアノ監修は安宅薫。
出演は上野樹里、玉木宏、竹中直人、吉瀬美智子、瑛太、水川あさみ、小出恵介、福士誠治、近藤公園、坂本真、松岡璃奈子、松岡恵望子、 橋爪遼、木村了、ウエンツ瑛士、ベッキー、山田優、山口紗弥加、片桐はいり、猫背椿、伊武雅刀、谷原章介、なだぎ武 (ザ・プラン9) 、チャド・マレーン(ジパング上陸作戦)、マヌエル・ドンセル、ジリ・ヴァンソン、マイク・ジーバクマン、フレッド・ヴォーダルツ、 ニコラス・コントス、ジョナサン・ハミル、ウォルター・ロバーツ、ニコス・ビィファロ・ビィンチェンゾ、ローラン・リグレ、マーク・ トゥリアン、ロイック・ガルニエ、ロビン・デュビー、シンシア・チェストン、ルカ・プラトン他。


二ノ宮知子の人気少女漫画『のだめカンタービレ』を基にしたフジテレビ系連続ドラマの劇場版。
TVシリーズでは物語が完結しておらず、ドラマの続きとして、前後篇の劇場版が作られている。
のだめを上野樹里、千秋を玉木宏、シュトレーゼマンを竹中直人、エリーゼを 吉瀬美智子、黒木を福士誠治、フランクをウエンツ瑛士、ターニャをベッキー、Ruiを山田優が演じている。
劇場版での新キャストは、松田役の谷原章介、テオ役のなだぎ武、デュボワ役のチャド・マレーン、シモン役のマンフレッド・ ヴォーダルツなど。

TVドラマの劇場版、しかもドラマから物語として続いている内容なので、当然のことながら、いきなり映画だけを見ても全く付いて行けない。
私はドラマ版は一度も見たことが無かったが、原作を最後まで読んでいたので、内容や人物関係は把握できた。
ドラマ版では漫画的な表現を用いた演出が高く評価されていたらしく、その延長にある本作品でも、もちろん同じことが行われている。
千秋からチェレスタの演奏を頼まれたのだめが大喜びするシーンの「変態の森」では、CGを使っての派手な飾り付けが見られる。

今回は進行の都合で、のだめは終盤の短い時間を除き、アーパーで変態のキャラを貫いている。
主役のはずだが、今回は完全に脇役に回っている。
これは原作通りの内容にしている以上、仕方の無いことだ。この辺りの物語では、千秋が主役になっているのだ。
だから原作を知っていれば納得できないこともないんだが、ドラマ版から入った人にとっては不満の残るところかもしれない。
まあ原作でも実質的には千秋の方が主役っぽかったし、のだめを脇に回すのは、ある意味では正解だと思うが。

千秋が正式な就任前にマルレの公演で指揮をした時、その演奏はボロボロで、彼は「笑い混じりの拍手か。前にもあったな」と心で呟いて いる。
私はドラマ版を見ていないが、原作をなぞっているのだとすれば、千秋は「ダメなオケをゼロから作り上げる」という作業を過去 にもやっている。
ってことは、大まかな筋書きとしては、ドラマ版と同じことの繰り返しになっているのではないか。

しかし原作でも「ダメなオケを仕上げる」という作業の繰り返しはあったわけで、その中身を充実させれば、退屈することは無い はずだ。
ただし残念ながら、この映画では、そこに面白味が全く無い。「腕のいい演奏者をオーディションで入団させ、多くの時間を費やして 厳しい練習を積んだ結果として上手くなりました」という、ごく当たり前のことを、無造作に並べているだけである。
そこに「上手い演奏家を入れることで以前からの楽団員も刺激されて練習に熱を入れる」とか、「最初は雰囲気の悪かったオケが少しずつ 1つにまとまっていく」とか、そういうドラマの厚みが全く無い。「最初は下手だったが、次第に上達していく」という過程も 描かれない。
千秋が楽団員と協力してマルレ・オケを作り上げて行くという展開には、テンションの高まりもワクワク感も感動も無い。

キャラにしても、みんな描写が薄いので、あまり印象に残らない。 今回の内容だと、他の連中はともかくとして、シモンは印象的な人物じゃないとダメなはずなんだけど、それなりに出番が多い割りに、 薄っぺらいままで終わっている。
「千秋との確執から相互理解へ」というドラマも、全く膨らまない。
それと、シモンを外国人が演じており、セリフが吹き替えになっているのも大きなマイナスだ。
彼は千秋との絡みが多い重要な役回りなんだから、この作品のテイストを考えると、そこは日本人にするべきだったのではないか。

どうやらTVドラマの時と同じことをやっており、映画だからと言って、特別に何か変わったことをやろうとはしていないようだ。
まあTVドラマの劇場版が作られる時に「映画だから」と特別なことをやろうとして空回りするケースは少なくないし、そういうリスクを 考えれば、多くの視聴者が食い付いたTVドラマと同じことをやっておこうという判断は、悪くないのかもしれない。
ただし、そうなると「だったら映画じゃなくて、TVのスペシャルドラマでやればいいでしょ」というツッコミは入れたくなるけど。

「映画ならではのモノ」としては、「外国でロケをしている」ということになるのかもしれない。
まあ物語としては、確かに舞台が欧州じゃなきゃマズいので、海外ロケを行うのは当然だ。
「海外ロケだと金が掛かるので、テレビのスペシャル版だと元が取れない」ということで映画にしたんだろうか。
それとも、「テレビでヒットしたんだから、映画にすれば、もっと稼げる」ということだったんだろうか。
きっと後者だろうなあ。
そっちに百万カノッサを賭けてもいい。

(観賞日:2011年3月23日)

 

*ポンコツ映画愛護協会