『信長協奏曲(のぶながコンツェルト)』:2016、日本

高校生のサブローは戦国時代へタイムスリップし、織田信長として生きていた。安土城が完成したことを受け、彼は家臣の池田恒興や前田利家、柴田勝家、羽柴秀吉、丹羽長秀、佐々成政らと宴を開いた。松永弾正久秀が祝福に訪れ、「俺は余命わずかな奴が頑張る話に弱いんだよ」とサブローに告げる。意味の分からないサブローが質問すると、久秀は「もうすぐ死ぬじゃん」と言う。彼は日本史の教科書をサブローに見せ、信長の死が記されていることを教えた。
サブローが「俺が未来から来た時点で、歴史は変わってるはずでしょ」と言うと、久秀は「変わってねえんだなあ」と口にする。彼は今までサブローがやって来たことが、全て教科書に記されている事実を指摘した。サブローはショックを隠せず、「やっと天下取れるのに。もうちょっとで平和な世の中が作れるのに」と漏らす。「その前に、死ぬわけにはいかないんだよ」と彼が強い口調で述べると、久秀は冷静な態度で「運命は変えられない」と告げた。
明智光秀として生きている本物の信長は、沢彦和尚からサブローを亡き者にして全てを取り戻してはどうかと提言される。安土城を去ろうとした久秀は、蜂須賀小六らを率いて歩く秀吉と廊下で遭遇する。久秀は秀吉の目論みを知っており、「簡単に天下取れるとか思ってんじゃねえぞ」と告げた。サブローは石山本願寺が挙兵して雑賀衆も呼応し、上杉謙信と手を組もうとしていることを知らされる。毛利が加勢する動きも見られる中、サブローは家臣たちに「何としても負けるわけにはいかないんだ」と告げた。
家臣たちは本願寺討伐に名乗りを挙げ、手柄を立てようとする。そんな中で秀吉は、畿内担当の光秀が当たるべきだとサブローに進言する。サブローは彼の意見に賛成し、光秀に本願寺討伐を任せると決める。さらに彼は、森長可と久秀には光秀の加勢を命じた。他の家臣に対しては、勝家と利家は上杉、丹羽と成政には東、秀吉には毛利を担当するよう指示した。秀吉は信長と密会し、「この機に乗じて偽者を倒すのです。安土の守りは手薄になる。明智の軍勢だけで制圧できましょう」と持ち掛けた。
信長が「ワシは本願寺に出陣するのだぞ」と言うと、秀吉は「出撃したと見せ掛け、安土に戻って奴を討つ」という計画を持ち掛けた。しかし秀吉は、本気で信長の復活を望んでいるわけではなかった。彼は幼少時代に村が信長の焼き討ちを受けており、その時の恨みは今も忘れていなかった。市は帰蝶から、信長と祝言を挙げていないことを聞かされた。そこで市は、祝言を挙げるべきだとサブローに告げた。しかしサブローは久秀の言葉を思い浮かべ、「これから戦が始まるんだ。そんなことしてる場合じゃない」と声を荒らげた。
家臣たちが各地へ出発し、光秀の軍勢は天王寺砦に到着した。石山本願寺の軍勢が1万5千と聞いた久秀は、軽く笑いながら「圧倒的に分が悪い」と光秀に告げる。しかし光秀は「策はある」と言い、敵を三方から取り囲む作戦を明かした。彼は北と東に新たな砦を築き、戦を膠着状態に持ち込むのだと説明した。サブローは帰蝶に、しばらく徳川家康の元へ避難するよう告げた。唐突な指示に困惑した帰蝶が「この城を離れる気は無いぞ」と拒むと、彼は「行けって言ってんだろ」と怒鳴り付けた。
サブローが感情的な態度を詫びると、帰蝶は自分を遠ざけようとする理由の説明を求めた。サブローは「もうすぐ俺は死ぬ」と明かすが、帰蝶は信じない。そこでサブローは、「俺、未来から来たんだ。タイムスリップして来たから、織田信長が死ぬのも知ってるんだ」と話す。信長は手勢を率いて、安土へ戻ることにした。秀吉は小六に、光秀を信長殺しの逆賊として始末し、天下を取る目論みを語る。サブローは帰蝶に、「俺から離れていれば安全だから」と言う。しかし帰蝶は、「くだらん戯言など聞きとうない」と反発して去った。
信長は本願寺の軍勢が攻め込んで来たという知らせを受け、急いで砦へ戻る。久秀が本願寺へ行き、光秀が砦から抜け出したことを密告していたのだ。情報を教えた理由を問われた久秀は、「信長に天下を譲る気は無い。天下を取るのは俺だ」と答えた。天王寺砦は1万8千の軍勢に包囲され、信長は窮地に追い込まれる。報告を受けたサブローは、助けに行くべきだと家臣から求められる。しかし城に残る手勢は3千で、わざわざ命を落としに行くようなものだった。それでもサブローは、信長を助けに行くと決めた。
サブローは軍勢を率いて出発し、先陣を切って本願寺の軍勢と戦う。それを知った信長は「我らも殿に続くぞ」と家臣たちに告げ、信長軍に加勢した。サブローは左脚に銃弾を浴び、窮地に陥る。そこへ各地に散っていた家臣たちが駆け付け、サブローを救った。家臣たちも戦に加わり、信長軍は本願寺の軍勢に勝利した。安土に戻ったサブローは、帰蝶に「俺、死なないから。もう生きることを諦めない。運命と戦うよ」と話す。「だから俺と結婚してほしいんだ」と彼が言うと、帰蝶は喜んだ。
信長は秀吉と密会し、砦を出た直後に敵が攻めて来たと語る。それを聞いた秀吉は、久秀の仕業だと見抜いた。信長は「もう、やめぬか」と言い、自らの初陣について「父は見抜いていたのだ。意味も無く火を放ったワシの浅ましい心を」と話す。自分の村を燃やした行為を「意味も無く」と言われた秀吉は、ますます信長への憎しみを募らせた。
秀吉は久秀の城へ乗り込み、「誰に何を聞いた?」と問い詰める。久秀が不敵な笑みを浮かべて「何でも知ってる。お前、光秀を殺すんだろ」と告げると、久秀は彼を抹殺した。サブローは家臣を集め、帰蝶と挙式することを発表した。場所が京都の本能寺だと聞いた秀吉は、それを利用しようと企む。朝廷に用事があるため、サブローは家臣や帰蝶より先に安土を出発する。サブローの荷物を片付けようとした帰蝶はスマホを見つけ、「タイムスリップしてきた」という言葉を思い出した。
そこへ長可が現れ、大坂で捕まえた河童が同じ物を持っており、「タイムスリップが」と繰り返していたことを帰蝶に話す。帰蝶は侍女を引き連れ、すぐに大坂へ向かう。秀吉は信長と密会し、「本能寺で奴を討つのです。傍らには、わずかな兵のみ」と告げる。信長が「ワシはもう、信長の座には戻らない。明智として、あやつを支えていく」と言うと、秀吉は「お前の思いなど聞いておらぬ。断れば、帰蝶を殺す。大坂へ向かう帰蝶の傍らには、ワシの家臣を置いておる」と冷徹に述べた。
驚く信長に、秀吉は「お前が偽者を殺さねば、ワシが殺す。そしてお前の家族も皆殺しだ。お前がワシの村を皆殺しにしたように」と言い放った。大坂へ到着した帰蝶は、河童として牢に入れられているアメリカ人のウィリアム・アダムスと対面した。ウィリアムは彼女に、未来からタイムスリップしてきたのだと説明する。日本の歴史に詳しいウィリアムは帰蝶の質問を受け、織田信長が本能寺で明智光秀に殺されることを教えた…。

監督は松山博昭、原作は石井あゆみ『信長協奏曲(のぶながコンチェルト)』(小学館「ゲッサン」)、脚本は西田征史&岡田道尚&宇山佳祐、製作は石原隆&久保雅一&市川南、エグゼクティブプロデューサーは臼井裕詞、プロデューサーは稲葉直人&村瀬健&古郡真也、撮影は江原祥二&大据恵太、照明は杉本崇、録音は 武進&渡辺真司、美術は清水剛、衣裳デザイン(サブロー/羽柴秀吉)は澤田石和寛、編集は平川正治、アソシエイトプロデューサーは大坪加奈、殺陣・所作は久世浩、音楽は☆Taku Takahashi(m-flo)、主題歌は『足音 〜Be Strong』Mr.Children。
出演は小栗旬、柴咲コウ、向井理、山田孝之、高嶋政宏、藤ヶ谷太輔(Kis-My-Ft2)、水原希子、濱田岳、古田新太、藤木直人、森下能幸、でんでん、勝矢、阪田マサノブ、阿部進之介、北村匠海、団時朗、冨田佳輔、上山竜治、久保酎吉、高橋弘志、浜之人、スティーブ・ワイリー、荒井志郎、谷口公一、中田裕一、巨勢竜也、中野澪、川井つと、佐藤五郎、広瀬圭祐、鈴木誠克、杉山裕右、志野リュウ、Romi、河野達郎、村本明久、巴山祐樹、飯野泰功、島崎友之、助友智哉、浦野博士、上園貴弘、白神允、北和輝、金子太郎、岡田賢太郎、村田佑輔、阿部岳明、桜井ハル、本城雄大、黒田浩二、絲木建汰、緒川夏果、加藤桃子、山口幸晴、本山力ら。


石井あゆみの同名漫画を基にしたTVドラマの劇場版。
監督の松山博昭、脚本の西田征史&岡田道尚&宇山佳佑は、いずれもドラマ版からの続投。
サブロー&信長役の小栗旬、帰蝶役の柴咲コウ、恒興役の向井理、秀吉役の山田孝之、勝家役の高嶋政宏、利家役の藤ヶ谷太輔(Kis-My-Ft2)、家康役の濱田岳、沢彦役のでんでん、長秀役の阪田マサノブ、成政役の阿部進之介は、ドラマ版のレギュラー。
市役の水原希子、久秀役の古田新太、小六役の勝矢、長可役の北村匠海、信秀役の団時朗、重矩役の上山竜治も、ドラマ版の出演者。

サブローは自分が死ぬと知らされた時、「もうちょっとで平和な世の中が作れるのに」と漏らす。つまり、「もうすぐ死ぬ」という事実よりも、「平和の世の中を作る前に死ぬ」ということにショックを受けているってことだ。
いやいや、それは無理があるだろ。
サブローは、そこまで立派な人間ってわけではないでしょ。幾ら信長としての生活が長くなったと言っても、そもそもは一介の高校生に過ぎない。
そんな奴が、なんで「もうすぐ死ぬ」ってことより「平和な世の中が作れない」ってことにショックを受けてるんだよ。

っていうか、サブローは家臣たちに「何としても負けるわけにはいかないんだ。戦の無い世の中を作るために」と言っているけど、そのために彼が指示するのは「戦」なのだ。
つまり、「平和な世の中を作るため」という目的で戦争ばかり繰り返しているという、矛盾があるわけだ。
でも、それに対して彼が苦悩や葛藤を抱えることは全く無い。
そもそも、「平和な世の中を目指すと言っておきながら、やっていることは大量殺人」という問題から、この作品は完全に目を背けている。

サブローは本願寺軍との戦で足を撃たれた時、帰蝶に「もうすぐ死ぬんだ。半年後かもしれないし、この戦かもしれない」と話した時のことを思い出す。そして敵兵に追い込まれ、死を覚悟する様子を見せる。
しかし、そこでサブローが死なないことは、誰でも分かることだ。
信長が死ぬのは本能寺の変だし、「そんなトコで主人公が死ぬわけねえじゃん」ってこともあるしね。
なので、そのシーンで「史実に基づいてサブローが死ぬかもしれない」という形の緊張感を高めるような演出を施しても、まるで機能しないよ。

本願寺軍との戦を終えて安土に戻ったサブローは、帰蝶に「俺、死なないから。もう生きることを諦めない。運命と戦うよ」と話して結婚を申し込む。
だが、帰蝶と共に生き続けることが叶わないのも、やはり誰でも分かることだ。
ここまで全ての出来事は史実の通りに進んでいるのだから、今さら歴史を改変する筋書きなんて訪れないことはバレバレだ。
本能寺の変は必ず起きるし、そこで信長は必ず死ぬ。それは確定事項である。

さらに言うなら、本能寺の変で命を落とすのが本物の信長であり、サブローは生き延びることも分かっている。
ただし、そのままサブローが生き延びると、彼が信長を装っているので、歴史が変わってしまう。それを避けるためには、「サブローは元の時代に戻る」という展開になるのも分かる。
つまり、かなり細かいトコまで、先の展開が読めてしまうのだ。
そういう大きなハンデを背負いながら、それを超越する面白さ、あるいは巧みに利用した面白さがあるのかというと、そんな風には感じられない。
予定調和が全面的に歓迎されるケースもあるだろうけど、この映画の場合、そういうわけでもないしね。

サブローは初めて人を殺すのに、それに対する恐怖や迷いが全く無い。平然と戦い、敵を殺している。
しかも、彼は戦闘訓練を受けた武士ではないのに、ちゃんと戦える能力を発揮している。
タイムスリップしてから今回の戦いまでに時間があったとは言え、その間に「優秀な武士としての戦闘能力を会得し、何の恐怖も無く平然と人を斬れるようになる」という変化が生じたってのは無理があるぞ。そういう変化の経緯が描かれているわけでもないし。
あと、そうやって平然と人を斬りまくっている様子を描くことで、「平和な世の中を作りたい。争いを無くしたい」というサブローの訴えも、バカバカしいモノになっちゃうし。

この映画は、絶対に本能寺の変を起こさねばならない、しかも明智光秀が謀反を起こすという形でなくてはならないという「縛り」がある。そこを守らないと、歴史が変わってしまうからだ。
光秀が信長を憎んでいるとか、天下取りを狙う卑劣な奴とか、そういうキャラ設定であれば、そんなに大きな問題は無い。
しかし、この映画の光秀、つまり本物の信長は、一度はサブローを妬んで謀反を目論んだものの、「やっぱり彼を支えよう」という気持ちに変化している。
だから、そのままだと本能寺の変を起こすことが出来ない。

そこで本作品では、「秀吉が帰蝶を人質に取って脅しを掛け、光秀に本能寺でサブローを襲撃させる」という形を取っている。
そういう方法を用意することで、一応は「光秀が本能寺で謀反を起こす」という史実を守ることが出来ている。
だが、ものすごく無理があるという印象を受ける。帰蝶が侍女だけを連れて大坂へ向かうのも、秀吉の家臣しか同行しないのも、あっという間に大坂へ着くのも、強引さが否めない。
それに関連して、「未来からタイムスリップし、河童として大坂で捕まり、日本語ペラペラで日本の歴史に詳しいアメリカ人」という「御都合主義にも程があるだろ」というキャラクターまで登場する。

それと、「秀吉が信長を脅迫する」という手順を用意しても、まだ「本能寺の変」を成立させる条件が満たされているとは言えない。
信長は実際にサブローを殺すわけではなく、「秀吉が命を狙っている」と教えて逃がすのだ。
サブローを殺す気が無いのなら、秀吉に「謀反を起こした」と思い込ませるだけで事足りるはず。それなら、本能寺に火を放って軍勢を差し向ける必要は無い。
なぜなら、信長が軍勢を引き連れて本能寺へ向かった時点で、秀吉は「謀反を起こした」と思い込むからだ。

つまり、信長は本能寺へ到着したら、サブローとの面会を求めるだけでいい。そして寺に入れてもらい、事情を説明して逃がせば済む。
既に自分の家臣が帰蝶の身柄を確保しているので、秀吉に脅される弱みも無くなっている。
でも、「火を放ち、戦いを勃発させないと本能寺の変にならないから」という都合で、信長の行動に不自然さが生じているのだ。
そのせいで、サブローを助ける信長を善玉扱いしようとしても、「無駄に犠牲者を出してるじゃねえか」というトコが引っ掛かる羽目になっている。

秀吉が信長を本能寺で始末した後、サブローは光秀として捕らえられる。彼は秀吉に、「平和な世の中を、みんなで作ってほしい。俺が死んでも、未来に繋げてほしい」と頼む。
秀吉に斬られたサブローは、気付くと元の時代に戻っている。そして同じように現代へ戻ったウィリアムから、帰蝶のビデオメッセージが届く。
帰蝶は「皆が必死に戦った。そして秀吉が天下を収め、家康殿が後を継ぎ、戦の無い世が訪れた。平和を願うお主の思いは、確かに未来へと繋がったのだ」と語る。
その言葉で綺麗に着地させているつもりなんだろうけど、「いやいや、無理がありまくりだろ」と言いたくなる。

まず、サブローが「平和な世の中を作ってほしい」と後を託した秀吉は、その思いを完全に無視している。彼は自らの野心を満たすためだけに天下を取ったのであり、その後も朝鮮を支配しようとして出兵するなど、ちっとも「平和な世の中を作る」ということなど考えちゃいない。
後を継いだ家康にしても、やはり「天下を統一したい」という野心で行動しただけであり、平和な世の中を作ろうとしたわけではない。しかも、彼は卑劣な手段で豊臣家を追い詰め、滅ぼしている。
ようするに、誰一人としてサブローの思いなんか未来へ繋げようとしていないのよ。
そこを帰蝶の戯言で感動的な終幕にしようとしても、そこに乗っかるほどの寛容さは無いわ。

(観賞日:2017年3月14日)

 

*ポンコツ映画愛護協会