『ニセコイ』:2018、日本

一条楽は6歳の頃、田舎道で『ロミオとジュリエット』の絵本を開いて泣いている少女に話し掛けた。「私たち、ロミオとジュリエットみたいな離れ離れになっちゃうの?」と訊かれた彼は、「そんなことないよ」と鍵の付いたペンダントを渡した。楽は錠前のペンダントを持っており、「君は鍵を。僕は錠を。いつか僕たちが大きくなってまた会えたら、君の鍵で僕の錠を開けるんだそしたら、結婚しよう」と語る。ペンダントの裏には、日本語で「愛よ永遠に」を意味する「Zawsze in Love」の文字が刻まれていた。
少女が顔を上げようとした時、18歳の楽は佐々木竜之介に起こされた。楽は驚いて目を覚まし、「もう少しで思い出せそうだったのに」と悔しがった。楽は暴力団「集英組」の二代目で、佐々木は若頭を務めている。集英組は大勢の構成員が所属する巨大組織で、楽は豪邸に住んでいる。しかし彼は二代目と呼ばれることを好ましく思っておらず、父である一征の跡を継ぐつもりも無かった。学校へ行こうとした楽は一征に呼び止められ、「今夜は大事な話がある。さっさと帰って来い」と告げられた。
大勢の組員が護衛として付いて来るので、楽は腹を立てて追い払おうとする。佐々木は新参者のギャングがシマを荒らしていると説明し、楽を心配する。楽は佐々木たちを騙し、その隙に学校へ走った。すると後ろから校門をジャンプした金髪の女子生徒が飛び膝蹴りを浴びせ、「ごめん、言うの遅かった」と軽く笑って走り去る。落ちたペンダントを楽が探していると、クラスメイトの小野寺小咲が拾ってくれた。楽は小咲に好意を寄せており、約束の子が彼女であればいいと思っていた。
1年C組の担任教師である日原教子は、ニューヨークからの転校生を呼び込む。転校生の桐崎千棘が飛び膝蹴りを浴びせた女子だと気付き、楽は「さっきの暴力女」と大きな声を発した。千棘は「ちゃんと謝ったじゃない」と反発し、2人は口論になった。千棘は楽の胸ぐらを掴み、教室の後方まで投げ飛ばした。楽が帰宅すると、一征はシマを荒らしているビーハイブというギャングについて話す。ビーハイブはニューヨークから進出してきた巨大組織で、集英組とは対立関係にある。組員たちは激怒しており、このままでは全面戦争が避けられない状況にまで陥っていた。 一征は回避するための方法が1つだけあると言い、「おめえにしか出来ない仕事だ」と楽に告げる。小咲が巻き込まれて命を落とす妄想に震えた楽は、内容も聞かずに「やるよ」と約束した。一征はビーハイブのボスと旧知の仲であること、相手も抗争を避けたがっていること、若い衆が問題を起こしているので簡単には引き下がれないことを話す。その上で彼は、ボスであるアーデルト・桐崎・ウォグナーに同い年の娘がいることを教え、恋人同士を装うよう楽に指示した。
屋敷に来ていたアーデルトの娘が千棘だと知り、楽は顔を強張らせた。楽と千棘が「ニセコイ」になることを嫌がっていると、屋敷の外で爆発が起きた。ビーハイブの大幹部であるクロード・リングハルトや構成員の鶫誠士郎たちが、千棘が誘拐されたと決め付けて乗り込んで来たのだ。双方の構成員が一触即発の状態になっていると、一征とアーデルトが現れた。2人は構成員を制止し、楽と千棘がラブラブの恋人同士だと嘘をついた。楽と千棘は仕方なく、恋人同士のフリをした。一征が「2人が恋人同士の間は、抗争は禁止だ」と言い渡すと、集英組の面々は快諾した。
日曜の朝、クロードと鶫に見張られている千棘は楽を訪ね、デートに誘った。事情を知った楽は、仕方なくデートに出掛けた。楽と千棘は適当に時間を潰して帰るつもりだったが、双方の組織の連中が何人も張り込んでいるのを知った。見たい映画で意見が対立した楽と千棘は、どちらも好みでもない作品を観賞することになった。千棘は早々に寝てしまい、楽は映画館に来た組員たちから映画のシーンと同じように彼女と手を握ったりキスしたりするよう要求された。楽が顔を近付けると千棘は目を覚まし、彼の顔面を殴り付けた。
映画館を出た2人が口論していると、タチの悪いラッパー3人組が絡む。千棘が撃退しようとすると、楽は彼女の手を掴んで「行こう」と走り去った。「余計なことしないでよ」と千棘が腹を立てると、彼は「ダセエことすんな。殴る価値も無い奴を殴れば、お前も同じ土俵の人間だって認めるのと一緒なんだよ」と叱責した。翌朝、2人が登校するとデートの情報は広まっており、クラスメイトたちは2人を祝福した。学校でもクロードが見張っているため、2人は恋人の芝居を続けざるを得なかった。
楽が「信頼できる友達の1人ぐらいには本当のことを言わないか」と提案すると、千棘は「勝手にすれば」と不機嫌になった。彼女は常にクロードが周りをうろついているため、クラスメイトと仲良くなれずにいた。その様子を見た楽は、自分の境遇と重ね合わせた。千棘がクラスメイトの情報を記した「友達ノート」を書いていると知った彼は、過去に自分も同じことをやっていたと明かす。楽は千棘に、まずは小咲と宮本るりに声を掛けるよう勧めた。
クラスの男子は千棘の机にぶつかって転倒させてしまい友達ノートを発見した。その中身を見た生徒たちが「気持ち悪い」と言い出すと、小咲は「友達になろうとしてくれてるんだよね」と千棘を擁護した。小咲とるりはクラスメイトの誤解を解き、千棘と友達になった。それから少し経って、橘万里花という美少女が転校してきた。彼女は警視総監の娘で、本田曜子というSPが護衛に付いていた。万里花は楽に気付いて「やっと見つけましたわ」と喜び、抱き付いて「私と結婚してください」と告げた。
楽が困惑していると、万里花は日本中を捜し回っていたのだと話した。「病弱で塞ぎ込んでいた私に、優しく絵本を読んでくださった」という言葉と万里花が下げていたペンダントのチェーンから、楽は約束の子が彼女ではないかと考えた。誠士郎の監視に気付いた千棘は、慌てて「楽は私と付き合ってるの」と言う。万里花は焼き餅を焼かせるための芝居だと解釈するが、誠士郎の視線に怯えた楽は「本気で愛してる」と嘘をつく。しかし万里花は諦めず、自分が誰よりも楽を愛しているのだから誰にも渡さないと宣言した。
クロードは楽を屋上に呼び出し、ビーハイブの宝である千棘を背負う覚悟があるのかと詰め寄った。楽が「ビーハイブとか集英組とか関係ねえだろ。俺はただの桐崎千棘が好きなんだよ」と怒鳴るのを、千棘は物陰から見ていた。クロードは楽の言葉に納得せず、千棘への愛情を証明するために自分を倒せと要求した。拳銃を向けられた楽は慌てて逃げ出し、プールに飛び込んだ。千棘はプールに飛び込んで楽を助け、屋上での言葉について「ありがとう」と告げた。ペンダントについて質問された楽は、旅行先で出会った女の子との思い出について語った。千棘は日曜日に小咲と勉強会を開くことを話し、楽も誘った。
日曜日、楽と千棘が一条邸で勉強会を開こうとしていると、万里花も駆け付けた。そこへ小咲も来て勉強会が始まるが、すぐに千棘は退屈してしまった。千棘から「好きな人はいないの?」と訊かれた小咲は本音を隠し、「今はそういう人、いないかな」と答えた。万里花のペンダントを見た楽は、鍵が付いていないことを知る。集英組の組員たちは楽と千棘を2人きりにするため、土蔵に閉じ込めた。クロードが壁を蹴破って突入すると、その勢いで楽が千棘を押し倒す形となった。その姿を小咲に目撃され、楽は頭を抱えた。家に戻った小咲は、幼い頃の写真を眺めた。楽がペンダントを渡した相手は、小咲だったのだ。
クラスで文化祭の出し物を決めている時、小咲は『ロミオとジュリエット』の芝居を提案した。進行役の舞子集は賛同し、クラスメイトも承諾した。小咲は勇気を出してジュリエット役に立候補しようとするが、先に万里花が挙手してロミオ役には楽を指名した。すると集はジュリエット役に千棘を推薦し、クラスメイトは納得する。楽は嫌がるが、「お前も嫌だろ」と問われた千棘は「私は別に構わないけど」と前向きな態度を見せた。
C組が臨海学校に行くと、旅館を買収したビーハイブの連中が従業員として待ち受けていた。肝試し大会の組み合わせで楽は小咲、千棘は集とカップルになった。脅かす係のゴリ沢大毅は意気揚々と準備に入るが、仮装したクロードと誠士郎を見て悲鳴を上げた。千棘はゾンビに襲われると、集を置いて逃げ出した。楽と小咲は前のカップルを真似して、緊張しながら手を繋ごうとする。そこへ集が現れ、千棘がいなくなったと告げる。楽は捜索に向かい、森の中で震えている千棘を発見した。
クロードは楽を社会的に抹殺するため、男湯と女湯の暖簾を入れ替えた。何も知らない千棘が入って来たので、楽は早々に出ようとする。そこへ小咲たちが入って来たので、千棘は策を講じて楽を逃がした。温泉を出た楽から礼を言われた彼女は、「このニセコイっってのも、案外悪くないかも」と口にする。しかし楽が「はあっ?」と乗って来なかったので、すぐに「なあんてね」と冗談にした。彼女が「もしも本物の恋人だったら、上手く行ってたと思う?」と問い掛けると、楽は「上手く行くわげねえだろ」と答えた。
部屋に戻ろうとした千棘は、小咲がペンダントを見つけた万里花に質問されているのを覗き見た。千棘は小咲が楽の捜している相手であること、そして楽に恋心を抱いていることを知った。しかし小咲は楽が幸せなら構わないと考えており、千棘のためにジュリエットのドレスをデザインしていた。臨海学校から戻った千棘はジュリエット役を降板すると言い出し、代役に小咲を推薦した。楽はワガママだと決め付け、千棘を批判した。すると千棘は目に涙を浮かべ、彼に平手打ちを浴びせて走り去った。文化祭の日、千棘は準備をしている小咲の元へ赴いた。彼女は自分と楽がニセコイの関係であること、楽がペンダントの持ち主を今でも捜していることを教え、「運命の相手同士、本物の恋人になってほしい」と告げた…。

監督は河合勇人、原作は古味直志『ニセコイ』(集英社ジャンプ コミックス刊)、脚本は小山正太&杉原憲明、企画プロデュースは平野隆、企画は森川真行、プロデューサーは辻本珠子、共同プロデューサーは刀根鉄太&大脇拓郎&石塚清和、ラインプロデューサーは鈴木嘉弘、撮影は木村信也、美術は林田裕至、照明は尾下栄治、編集は穂垣順之助、録音は石寺健一、VFXスーパーバイザーは小坂一順、音楽は見優&信澤宣明&大隅知宇、主題歌「かわE」はヤバイTシャツ屋さん。
出演は中島健人、中条あやみ、池間夏海、島崎遥香、岸優太(King & Prince)、青野楓、DAIGO、宅麻伸、団時朗、丸山智己、河村花、松本まりか、GENKING、加藤諒、阿渡邊龍之介、井上健太、木村康雄、高橋和貴、高橋拓伸、谷充義、中尾僚太、福田優、藤原智之、山神佳誉、村上和成、岩野優策、関本巧文、谷川哲也、寺内淳志、馬場啓介、福田航也、細谷雅幸、山本智康、宮澤寿、酒井勇樹、アレック・ヒカル、アンデルー・スティブンス、ジェシュア・ウォルターズ、ズヂ・ワシム、ドン・ジョンソン、レイモンド・A、レザ・エマミエ、ジェイミー・スカイ、ピエトロ・クリスト、マジド・シャイ他。


古味直志の同名漫画を基にした作品。
監督は『俺物語!!』『チア☆ダン 〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜』の河合勇人。
脚本は『高崎グラフィティ。』の小山正太と『望郷』の杉原憲明による共同。
楽を中島健人、千棘を中条あやみ、小咲を池間夏海、万里花を島崎遥香、集を岸優太(King & Prince)、誠士郎を青野楓、クロードをDAIGO、一征を宅麻伸、アーデルトを団時朗、佐々木を丸山智己、宮本るりを河村花、教子を松本まりか、曜子をGENKING、大毅を加藤諒が演じている。

中条あやみは父親がイギリス人なので、そのまんまでも既に「ハーフ美女」として成立している。
しかし映画やドラマでハーフを演じる時、大抵のケースでは「記号としてのハーフ」であることが求められる。
この映画でも、やはり彼女は「記号としてのハーフ」を演じている。
その時点で「安っぽさの沼」から逃れることは難しくなるのだが、しかもカツラやリボンを装着して安いコスプレみたいな容姿になっているので、ますます厳しい状態へと追い込まれている。

原作を知っている人や、原作を知らなくても粗筋を読んだ人なら、リアリティー皆無の作品であることは分かるだろう。
それが悪いってわけではなくて、「そういう作品」ってのを理解しておく必要があるってことだ。
漫画では何の問題も無く受け入れられる荒唐無稽でも、それをそのまんま実写化した場合、途端にチープに成り下がってしまう恐れがある。
なので、こういうタイプの漫画を実写化するのって、実は難しい作業だったりするのだ(作品の質を考慮しなけりゃ簡単だけどね)。

幾つか方法はあると思うけど、分かりやすいのは「徹底して荒唐無稽に振り切ってしまう」ってことだろう。
何よりマズいのは、中途半端な状態に留めてしまうこと。それだと、荒唐無稽が余計に悪い形で露呈してしまう。恥ずかしがらずに弾けまくってしまう方が、エナジーやパワーで観客を巻き込んだり押し切ったり出来る可能性も高くなる。
ただし単純に振り切ればOKってことじゃなくて、それなりに装飾を凝らしたり調理法を工夫したりする必要はあるけどね。
この映画は、「振り切る」という部分でも中途半端だし、装飾や調理法も失敗しているので、分かりやすく陳腐さだけが際立つ結果となっている。

冒頭のシーンは本来なら、観客の気持ちをグッと掴んで一気に物語の世界へ引き込む力が欲しいところだ。だが、その段階で早くも躓いている。
まず、楽と少女の関係性が分かりにくい。
そもそも広大な畑が広がる田舎道で少女が絵本を読んでいる状況が不自然極まりないが、そこはひとまず置いておこう。少女に楽が「どうして泣いてるの?」と声を掛けるので初対面なのかと思ったら、少女は「私たち、ロミオとジュリエットみたいな離れ離れになっちゃうの?」と言う。
ってことは、知り合いだったのね。たまたま楽が少女を目撃したわけではないのね。
あと、2人が「Zawsze in Love」と言った後、すぐ「愛よ永遠に」と続けるんだけど、なぜ意味を知っているのか。「Zawsze」なんて、かなり珍しい英単語だろ。

次のシーンでも、また「上手くないなあ」と感じさせる。
まず、楽が校門に遅刻ギリギリで滑り込むシーン。ここが彼はカッコ良くポーズを決めて滑り込むのだが、むしろ失敗した方がいい。
直後に飛び膝蹴りを食らって倒れるので、それとのギャップを狙ったのかもしれない。ただし、そうだとしたら、楽が滑り込むシーンは、もっと「カッコ良く決める」ってのを誇張しないと意味が無い。
そこを中途半端なカッコ良さに留めているから、飛び膝蹴りを食らうシーンに笑いとしての力が無い。

千棘が走り去った後に小咲が登場し、楽が彼女に惚れていることを示す。でも、ここは順番を逆にした方がいい。先に小咲を登場させて「楽が彼女に惚れている」ってのを示して、それから千棘を登場させた方がいい。
あと、飛び膝蹴りを食らった時点で、楽が千棘への怒りを全く表現せず、「ペンダントが無いので焦る」という感情表現に移ってしまうのも上手くない。この時点で「見知らぬ金髪女子」への怒りを示しておいて、後で転校生としてクラスに来た時に「朝の出来事があるから険悪に」というトコへ繋げた方がいい。
細かいことかもしれないけど、そういうことの積み重ねが大事なのよ。
この映画って、細かいトコを、ことごとく取りこぼしているのよ。

ただ、「飛び膝蹴りを食らった時点で怒りを示した方が」ってのを抜きにしても、千棘が転校生として紹介されるシーンの処理が下手だ。
まず、「千棘は本性を隠し、ブリッ子な感じで自己紹介している」という部分のアピールが弱い。
また、楽と彼女が激しい口論になる流れが不自然だ。
楽が朝の一件で腹を立てるのは分かるし、千棘が「誤った」と開き直るのも分かる。
ただ、沸騰するのが早すぎるのよ。互いに「もやしみたい」「ゴリラ女」と罵るのも、「用意された台詞が必要な手順を追い越している」と感じるのよ。

楽と千棘がラブラブの恋人同士だという嘘をつかれた時、集英組とビーハイブの面々は一斉に喜ぶ。でも、「なんで?」と言いたくなる。
集英組の面々が「楽に一刻も早く恋人が出来てほしい」と願っている様子は無かったし、恋人が出来たら何が彼らにとってプラスなのかも分からない。単純に「楽を二代目として慕っている」と解釈しても、相手が憎きビーハイブのボスの娘でも無条件で喜ぶってのは違和感がある。
一方、クロードと誠士郎を除くビーハイブの連中が喜んで万歳しているのは、もっと意味が分からない。こいつらにとって、千棘に恋人が出来ることで得られる喜びって何なのよ。そして、それが対立組織の二代目でも喜べる理由って何なのよ。
まさか、「喜んだ連中がオクラホマ・ミキサーで踊り出す」というのを見せたいだけで持ち込んだ不自然さじゃねえだろうな。

かなり漫画チックな演出を持ち込んでいることは、ちゃんと伝わって来るのよ。例えば、楽が父から「全面戦争」と聞かされた時、抗争が起きて小咲が命を落とす妄想をコミカルに描くシーンとかね。他にも、台詞を文字として画面に大きく出すとか、やたらと大げさに芝居をするとか、全面的に間違えているわけではない。
ただ、そういう漫画的な演出が出て来る度に感じさせられるのは、「安っぽい」「陳腐」ってことなのだ。そして、次に示すような「マジな描写」は、ますます陳腐な印象を強調する結果となっている。
恋愛劇を描くためにマジなシーンが必要なのは分かるんだけど、そういうのが入る度に萎える。だからってコミカルなパートが面白いわけでもないので、ホントに困ったモンだ。

そのマジな描写が最初に訪れるのは、映画館を出た直後のシーン。
ラッパーたち(ちなみに3人の内の2人はお笑いコンビ「カミナリ」)に絡まれた楽は殴り掛かろうとする千棘の手を掴んで走り去り、「ダセエことすんな。殴る価値も無い奴を殴れば、お前も同じ土俵の人間だって認めるのと一緒なんだよ」と叱責する。
でも、あえて言わせてもらうと、そういうのがダサいわ。急にマジなモードに入られても心に刺さるモノなんて皆無で、「いや何言ってんの」と呆れるだけ。
それによって陳腐さをリカバリーできることなんて1つも無くて、ただの逆効果でしかない。「イカれた世界」に没入させておかないと「これってバカバカしいよね」ってことに気付かれちゃうのに、正気に戻させても何の得も無いよ。

千棘が小咲&るりと友達になった直後、映画開始から35分ぐらい経過した辺りで、万里花が転校生がやって来る。「いやキャラが多すぎるし、情報が多すぎるわ」と言いたくなる。
まだ「楽と千棘のラブコメ」の進捗状況が今一つなのに、その段階で新キャラを投入するかね。そんな新キャラに頼らず、まずは既存のキャラで話を膨らませようよ。
るりなんて存在が判明した直後だし、小咲にしても充分に存在をアピールしているとは言い難いぞ。
楽と千棘と小咲の三角関係だって全くと言っていいほど描写できていないのに、新たな恋のライバルを登場させてどうすんのよ。完全に交通渋滞を起こしちゃってるじゃねえか。

オープニングで幼少期のシーンがあるんだから、楽にとって「鍵のペンダントを渡した少女」ってのは重要な存在のはず。そして、彼女の顔を思い出せないことは、彼にとって「一刻も早く解決したい問題」のはず。
それにしては、そこの扱いが弱い。
彼には妄想癖があるという設定だが(ここの表現も上手くないが)、それなら小咲がペンダントを拾ってくれた時に「彼女がペンダントの持ち主」という妄想シーンでも挿入すればいいでしょ。万里花が思い出話をした時にも、「彼女がペンダントの持ち主」という妄想シーンを入れた方がいいでしょ。
そういうトコ、ものすごく無頓着なのよね。

中盤、楽が鍵のペンダントを渡した「約束の女の子」が小咲だと明らかにされる。
でも、その時点で「いや無いわ」と言いたくなる。どう考えたって、そこは千棘じゃなきゃマズいでしょ。
「それはベタすぎるだろ」と思うかもしれないが、ベタ以外の選択肢なんて無いだろ。
そこでベタを避けても、何の得も無い。あるとすれば、「小咲だと思わせておいて、実は千棘でした」というミスリードぐらいだ。
千棘が約束の相手ってのは、絶対に守らなきゃいけない必須条件と言ってもいい。

途中で「小咲が約束の相手」ってのが明らかにされることで、彼女が「恋愛劇のヒロイン」のポジションに収まっちゃうのよね。それ以降は、楽と千棘の恋愛劇を描かれても、気持ちは小咲に行っちゃってるので「小咲が可哀想だな」という思いが強くなる。
そこを覆すぐらい楽と千棘の恋愛劇が魅力的なら何とかなったかもしれないが、そんな力など無い。だから最終的に楽が千棘を選ぶのは分かり切っているけど、ちっとも納得できないし、祝福する気も起きないのだ。
最初から楽は小咲が好きで、その相手が運命の相手で、しかも自分のことを好きだと分かったんだよ。それで彼女を選ばない理由が無いでしょ。
いや、もちろん「最初は小咲が好きだったけど、今は千棘が好き」ってことなのは分かるよ。でも、それを納得させるだけの恋愛劇は、描かれていないからね。

終盤、『ロミオとジュリエット』の本番直前になって小咲が足に怪我を負い、出演できなくなる。そこへ千棘が現れると、クラスメイトが代役を頼む。千棘は拒否するが、小咲に懇願されてOKする。
この時点で、ますます小咲への同情心が強くなり、「千棘より小咲だよな」と思ってしまう。
決して千棘がヒロイン失格ってわけじゃないけど、小咲の方が圧倒的に上なのよ。
でも、小咲に気持ちが傾くような展開を用意しておいて「楽は千棘を選ぶ」という結末に行き着くので、こっちは「コレジャナイ感」を味わう羽目になるのよね。

(観賞日:2021年1月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会