『日本独立』:2020、日本
マッカーサー元帥は「日本を米国に合併するか、属国にして庇護してほしい」と求める手紙を読み、高笑いを浮かべた。1945年8月10日、トルーマン大統領はポツダム宣言に対する日本の「天皇による国家統治の主権を変更するという条件を含まないこと」という受諾条件について、スティムソン陸軍長官やリーヒ統合参謀本部議長、バーンズ国務長官たちに意見を尋ねた。意見が分かれる中、フォレスタル海軍長官が「日本政府の条件を受け入れ、公式には無条件降伏したと発表する」という方法を提案した。
バーンズの日本政府に対する回答には、「天皇及び日本政府の国家統治権は連合国最高司令官に従属する」とあった。日本側の御前会議において、この文言は徹底抗戦派に反論の余地を残した。日本は降伏を選択し、畑仕事をしていた白洲次郎は妻の正子から終戦を知らされた。焼け野原となった東京に戻った吉田満は、自宅が焼け落ちているのを目にした。しかし家族が無事で叔母の家に疎開していることを記す立札に気付き、彼は安堵の涙を流した。
1945年9月27日、マッカーサーは大使館で天皇と面会した。両者が並ぶ写真が新聞の一面に掲載されると、内務省は不敬罪だと激怒して発行を差し止めた。民間検閲支隊のドナルド・ファウラー大佐は「検閲に関して日本政府に一切の権限は無い」と通告し、内務省の命令を差し止めた。次郎は正子から新聞を見せられ、きっと出番が近いだろうと告げられた。正子は彼に、近衛文麿か吉田茂が声を掛けて来るはずだと語った。
叔母の家で暮らし始めた満は、まだ力が入らないが、必ず仕事を見つけて働くと約束した。マッカーサーは内務省の反応についてアチソン顧問たちと話し、「今後も天皇は切り札になる。天皇の名において、平和と民主主義を推し進める」と語った。彼は「我々が最初にすべきことは、憲法の抜本的な改正だ。日本に災禍をもたらした軍国主義者たちは、いずれ極東軍事裁判に掛ける。一方、国民は被害者であり、一切の戦争責任はないと教え込む」と語り、これが占領政策の基本だと述べた。
マッカーサーは憲法改正に際し、近衛文麿に陣頭指揮を任せようと考えていた。アチソンは「戦犯に指定されるかもしれない」と反対するが、マッカーサーは「天皇に近い筋から民主主義的な改正案が出れば、内閣は圧力を感じる」と語った。彼は近衛と面会し、憲法改正を進めるよう指示した。次郎は吉田茂に呼び出され、正子を伴って彼の家を訪問した。吉田の三女の麻生和子が、夫妻を出迎えた。次郎は終戦連絡事務局でGHQとのパイプ役を務めるよう要請され、「GHQが気に入らない」と渋い表情を浮かべた。
吉田は東久邇宮内閣が総辞職すること、幣原喜重郎を説得して首相に就任してもらったこと、自身は外務大臣として留任することを語った。すると次郎は吉田が総理の座から逃げたと非難し、「自分にピンポン玉の役目を押し付けた」と腹を立てて立ち去った。吉田は和子と会話を交わし、戦時中の出来事を回想した。幣原は閣議を開き、吉田や国務大臣の松本烝治たちが出席した。松本がGHQの直接的な統治に怒りを示すと、幣原は「やはり我が国は占領下にあるのだということを痛感せざるを得ません」と述べた。
次郎は正子から、吉田の頼みを聞いてあげてほしいと頼まれる。「負け戦はもう懲り懲りだ」と嫌がる次郎だが、結局は戦後日本の再出発のために協力することを決めた。満は夢の中で、戦艦大和を囮に使う作戦に仲間が激怒した時の出来事を思い出した。近衛は取材を受け、憲法改正によって天皇を退位させる可能性もあることを語った。それを知った松本は激怒し、幣原に「憲法問題は内閣の仕事」という確認を取った。彼は閣僚に対し、「天皇の地位を変えなくても、明治憲法は充分に運用が可能なはずだ」と主張した。
松本は錚々たる憲法学者を集めて憲法問題調査委員会、いわゆる松本委員会を発足させた。東京帝国大学名誉教授の野村淳治と学士院委員の美濃部達吉が意見を対立させる中、内閣法制局長官の楢橋渡が改正の時期について目途を訪ねた。美濃部が「政治的に早くやっつけたい考えなら降ろさせてもらう」と不快感を示すと、楢橋は慌てて「とんでもない、そのような」と否定した。公職追放を恐れる彼は民政局の次長を務めるケーディス大佐の元へ行き、見返りを求めた上で情報を提供した。
次郎は吉田から、「占領が終わった後の日本が間違えると、一度負けるどころか二度も三度も負けることになる」と告げられる。吉田は「負けるのは一度でたくさんだ」と言い、そのためには向こうの腹の内を早く読み取ることが必要だと述べた。ケーディスは民政局局長のホイットニー准将に、委員会の決定には時間が掛かるという楢橋の情報を伝えた。ホイットニーはこちらで草案を作成すること、近衛の戦犯指定が決まったことを話した。
次郎は終戦連絡事務局参与としてホイットニーとケーディスの元へ挨拶へ行き、任務を問われてミルクマンだと答えた。GHQは会見を開き、「近衛の憲法改正への関与は連合軍当局によるものではなく、一切指示しない」と発表した。次郎は近衛から電話を受け、巣鴨に入る前に親しい面々と最後の宴を開くので来てくれないかと誘われた。次郎は最後だと思わないと告げ、今回は行かずに次の機会を待つと伝えた。彼は正子に、次郎は巣鴨プリズンに入る気が無いんじゃないかと話す。次郎が予感した通り、近衛は遺書を残して自害した。
満は大和に搭乗していた頃の出来事を振り返り、戦記の執筆を開始した。隊員の1人が「何のための死か分からない」と言い出すと、別の隊員が「天皇陛下万歳と死ぬのが嬉しくないのか」と腹を立てた。最初の隊員が「それだけじゃ嫌なんだ。もっと何かが必要なんた」と口にすると、腹を立てた隊員が殴りつけた。それを引き金にして、双方の賛同者たちが入れ乱れて喧嘩を始めた。そこへ上官が来て叱責し、「我々は今から死にに行く。我々が死んでも日本は敗れるだろう。しかし敗れてこそ、再び立ち上がる道が開けるのだ。俺たちは祖国が再生するための捨て石なんだよ」と語った。
憲法研究会が民間の立場から改正案を作成し、会見を開いた。鈴木安蔵が作成した憲法草案要綱には「国政の最高責任者は内閣」「天皇は国家的儀礼を司る」と記されており、GHQの要請に応じた内容となっていた。ホイットニーは鈴木と親しい部下を通じて、要綱の英訳文を入手した。彼はケーディスに、マッカーサーが草案の作成を急いでいることを語った。さらに彼は、「極東委員会にソ連も加盟する。占領政策に介入される前に憲法片付けたいのだ」と述べた。
年が明けて1946年に入り、幣原は憲法問題調査委員会の会議を開いた。「軍隊無き国家など存在しない」と彼が主張すると、美濃部も同調して軍隊を削ることに真っ向から反対した。ケーディスはダンス・パーティーに招待され、楢橋から家族を紹介された。ケーディス長女の鶴代と踊り、親密な関係になった。1946年2月3日、ケーディスはホイットニーからマッカーサーが示した憲法改正の基本三原則を渡され、1週間以内に改正案を仕上げるよう命じられた。第1項と第2項では「天皇の権限は憲法の制限を受ける」「戦争の放棄」を要求していたが、民政局は憲法問題調査会と関係なく改正案をまとめることになった
1946年2月4日。民政局は憲法制定会議を開くが、総勢25名のメンバーに憲法学者はいなかった。日本銀行で働き始めた満は創元社に立ち寄り、自身の戦記小説『戦艦大和ノ最期』が掲載された雑誌『創元』創刊号を編集者の小林秀雄から見せてもらった。しかしGHQの検閲で掲載禁止処分を受け、小林は満の前で憤りを見せた。1946年2月13日。ホイットニーやケーディスは吉田や松本と会談し、白洲も同席した。ホイットニーは日本の草案をマッカーサーが容認できないと伝え、民政局の改正案を提示した…。監督は伊藤俊也、脚本は伊藤俊也、ゼネラルプロデューサーは森千里、エグゼクティブプロデューサーは田中剛、スーパーバイザーは奥山和由、企画は鍋島壽夫、プロデューサーは芳川透、撮影は鈴木達夫、照明は水野研一、録音は中村淳、美術は稲垣尚夫、編集は只野信也、音楽は大島ミチル。
出演は浅野忠信、小林薫、宮沢りえ、柄本明、石橋蓮司、松重豊、野間口徹、浅田美代子、渡辺大、青木崇高、佐野史郎、大鶴義丹、伊武雅刀、アダム・テンプラー、ロバート・D・ヒースJr.、ベネディクト・セバスチャン、梅宮万紗子、山本浩司、伊藤正之、大場泰正、グレッグ・デイル、宮島實男、桂憲一、軸原博文、菊川忠雄、大槻修治、東康平、原田尚紀、白井良次、田中初男、渡辺慎吾、石坂隆昌、鍛冶幸宏、静恵一、満克昌、中西正、ジャック山田、竹中幹人、川井つと、木村秀吉ら。
声の出演は奥田瑛二、鴨川てんし。
『プライド・運命の瞬間』『ロストクライム -閃光-』の伊藤俊也が監督&脚本を務めた作品。
終戦から日本国憲法の制定に至るまでの動きを描いている。
白洲を浅野忠信、吉田を小林薫、正子を宮沢りえ、松本を柄本明、幣原を石橋蓮司、近衛を松重豊、昭和天皇を野間口徹、満の母を浅田美代子、満を渡辺大、小林を青木崇高、美濃部を佐野史郎、楢橋を大鶴義丹、芦田を伊武雅刀、マッカーサーをアダム・テンプラー、ホイットニーをロバート・D・ヒースJr.、ケーディスをベネディクト・セバスチャンが演じている。トルーマン大統領やスティムソン陸軍長官のようにチラッと出て来るだけの連中はテロップで名前と役職を表示するが、主要キャストには一切のテロップを付けない。
マッカーサーは服装やパイプ、吉田茂は容姿で誰なのか分かりやすくなっているが、白洲次郎に関しても登場した時点では誰か分からないのよね。
それ以外でも説明のための説明や、全く必要性の無い場面が多い。
そのために時間を浪費したり、話が停滞したりしている。アメリカの政府や軍関係者を何人も登場させているのは、訴えたいメッセージからすると理解は出来る。
しかし皮肉なことに、それが作品の安っぽさにしか繋がっていない。
極端なことを言ってしまうと、実はアメリカ側の人間を1人も登場させなくても、伊藤監督の訴えたいテーマを描くことは出来なくもないんだよね。
監督としては「日本とアメリカの両側から憲法制定への動きを描く」という意図があったんだろうけど、何一つとしてプラス効果には繋がっていない。吉田は次郎が怒って立ち去った夜、寝室で和子と会話を交わす。
和子が「近衛内閣の天皇への上奏文に協力して終戦工作をしたとパパが捕まったのも、この4月だったんだものねえ」と語り、吉田は「あの時ほどママがいなくて良かったと思ったことは無い。ママにはもっと長生きしてもらいたかったが、この戦争の悪夢を見ずに逝ったことは、せめてもの幸せだったのかもしれん」と言う。
すると回想パートに入り、吉田が憲兵に連行される様子や、1945年5月25日を東京陸軍刑務所で迎えた様子が描かれる。
だけど、こんなの全く要らないでしょ。
それを挟むことで何を伝えたかったのか、どういう効果を狙っていたのかがサッパリ分からんよ。正子は吉田への協力を次郎に頼む際、わざわざ着替えて夫の帰宅を待ち受け、「人生五十年、下天の内をくらぶれば」と幸若舞の「敦盛」をパフォーマンスする。
唐突に滑稽さの強いシーンが到来するので、これは何のつもりなのかと困惑してしまう。変なタイミングで笑いを取りに行って、完全に外しているようにしか思えない。
仮に真剣なシーンとして描いているとしても、寒々しいことに変わりはないし。
次郎の置かれている状況を熊谷直実と重ね合わせたいのか、「敦盛」を好んだ織田信長と重ね合わせたいのかは分からないけど、どっちにしても上手く関連付けが出来ているとは思わないし。その後の正子の言葉で次郎の気持ちは一気に変化するのだが、ここも熱を全く感じない。
頑なに吉田への協力を嫌がっていたのに、正子が「戦後日本の再出発に当たっては貴方に力を借りるって、ロンドンで暗黙の契約をしたっておじさまは思ってらっしゃるのよ」と話した途端に気が変わるって、あまりにも簡単すぎる。
「戦後日本の再出発」という言葉を繰り返しているぐらいだから、そのフレーズでギアが入ったってことなんだろう。
「戦後日本の再出発」ってのを、重要なキーワードとして強調したいのは分かる。
だけど、あまりにも淡々と処理しているので、観客を牽引するエナジーが感じられないのよ。しかも、その時点で次郎の気持ちは完全に変化しているのに、その後の入浴シーンで風呂を沸かした正子に「私が言ったこと、全部撤回するわ」と言わせている。
そこから彼女に、「私も承知の上で、貴方に何度も負け戦をさせる気は無いわ」とかクドクドと喋らせている。
その上で次郎に「吉田の爺様を独りにはしないよ」という台詞を用意し、彼が吉田の頼みを引き受けることを正式にコメントさせている。
一応は「ひとまず撤回して否定的な意見を語るのも含めて、次郎を説得するための正子の策略だった」という設定ではあるのだが、無駄な手間と時間だとしか思わない。白洲次郎が主人公のはずなのに、なかなか憲法改正に関わる仕事に取り掛からないまま時間が経過してしまう。
彼が終戦連絡事務局参与としてホイットニーたちの元へ行くのが映画開始から50分辺り。じゃあ挨拶してからは積極的に動くのかと思いきや、会談のシーンまでは姿を消している。
しかも、ここが始まってから80分ぐらいなのだが、ただ同席しているだけで、仕事らしい仕事は何もしていないし。
白洲は吉田から「憲法改正の勝負には勝てない。戦う前に勝負は付いてると言われて「こっちがどんな思いでミルクマンをやってるか」と激しい怒りを示すが、そこまでにミルクマンとしての仕事ぶりなんて全く描けていないのよ。
その一方、ケーディスと鶴代のロマンスとか、どうでもいいとしか思えないエピソードに時間を割いている。しかも、白洲が何者なのかも良く分からないままで時間が過ぎている。
なぜ吉田や近衛が彼の力を必要とするのか、田舎に引っ込むまでにどういった成果を上げて来たのか、他の人間と比べて何が優れているのか、そういうことが全く提示されていない。
そして提示のための手順が欠けているだけでなく、能力の一端を示すようなシーンも無い。まるで白洲次郎について、観客が詳しく知っていることを前提にしているかのような作りだ。
しかし、それはあまりにも不親切であり、無駄に敷居が高くなっている。その後も白洲は、松本案に対するホイットニーたちの考えを聞きに行ったり、吉田とマッカーサーの会談で通訳を担当したりしているものの、主人公と呼ぶにふさわしいと思えるような行動は見当たらない。
誰でも出来るような仕事とまでは言わないけど、憲法制定に当たって重要な役割を果たしたという印象は皆無だ。
「白洲の力が無ければ無理だった」とか、「白洲のおかげで大きな成果が得られた」とは全く感じさせない。
白洲は吉田の前で何度か憤りを吐露するけど、それを何とかするために行動するようなシーンは無い。
言っちゃ悪いけど、「所詮はメールマンに過ぎない」という立場に留まっている。「日本国憲法が制定されるまでの紆余曲折」に集中して話を進めればいいものを、何度も満のパートを挿入する。
そして戦艦大和での体験を描く回想パートを使い、憲法問題とは関係の無い別のメッセージを声高に主張しようとする。
それだけに留まらず、例えば「GHQが極東軍事裁判の目玉として東条英機を生かすべく、最善の医療を施した」など、色々と余計な情報を詰め込んでいる。
満のパートに関しては「言論や出版の自由」という憲法の項目に絡ませているけど、明らかに欲張り過ぎだし、取って付けたような印象は否めないし。民政局が憲法制定会議を開くと、参加するメンバーの6名に関しては所属と名前が紹介される。
わざわざアップにして紹介しているが、こいつらは主要キャラでも何でも無くて、その場限りの使い捨てだ。
なので、個人を粒立てる必要なんて全く無い。余計な情報を観客に与えて、混乱を招くだけになっている。
ベアテ・シロタに至ってはテロップまで出して紹介しているけど、じゃあ主要キャラなのか、その後の展開にも大きく関わって来るのかというと、そんなことは全く無いし。憲法制定会議の内容を詳しく描くのも、まるで要らない時間になっている。 そりゃあ説明したくなるのは分かるけど、退屈な講義を延々と聞かされているような気分にさせられるし、内容が全く頭に入って来ない。
「今の日本国憲法はGHQに押し付けられた内容だから、絶対に改正すべき」ってのをアピールしたい気持ちが強すぎて、白洲次郎が何の役にも立っていない「その場に居合わせた人間」というだけになっている。
ようするに、主張したメッセージとシナリオの中身が全く合っていないのよ。
吉田満のエピソードも、結局は中途半端で放り出しちゃってるし。(観賞日:2025年9月17日)