『二ノ国』:2019、日本

入院中のお爺さんが病院の屋上で杖を振っていると、洗濯に来ていた看護師の緑川美樹が「またか」と呆れる。美樹が「そこ危ないから」と注意すると、お爺さんは「今、魔法の詠唱中じゃ」と言う。「分かったから」と美樹は言い、早く病室へ戻るよう促した。お爺さんは腕を掴まれ、「魔法が暴発したらどうする?」と抵抗した。「ゲートじゃ。異世界の扉を開く魔法じゃぞ」とお爺さんは声を荒らげるが、美樹は相手にしなかった。
足が不自由で車椅子生活を送っている高校生のユウは、バスケットボール部の主将を務める親友のハルが出場する練習試合を観戦していた。ユウはライバルの篠崎トオルが所属する高校に勝利し、喜びを爆発させた。放課後、ユウはハルと一緒に下校し、分析通りの内容だったことを話す。ハルの恋人であるコトナも含めた3人が話す様子を、赤い目の不気味な男が観察していた。コトナは「美味しいクレープの店へ行ってみない?」と誘うが、長い石段を登らねばならなかった。ハルとコトナが別の店へ行こうと言い出すと、ユウは「いいよ、邪魔者はここで退散」と立ち去った。
ユウは実家の花屋に戻り、自室に入った。彼はコトナに片想いしており、その気持ちをずっと隠し続けていた。ハルと別れたコトナは赤い目の男に追われ、慌てて逃げ出した。彼女はユウに電話を掛けて、助けを求める。ユウは店員のサキに車を出してもらい、コトナの元へ向かう。途中で車を降ろしてもらったユウが周囲を捜索していると、コトナが男に襲われていた。男は短剣でコトナの腹を刺し、その場から逃亡した。
駆け付けたハルはユウの制止を無視し、コトナを抱き上げて病院へ走ろうとする。しかし道路に飛び出してトラックにひかれそうになったため、慌ててユウが助けに入った。気が付くと2人は未知の世界に移動しており、衣装も変化していた。コトナは姿を消しており、スマホはコンパスに変わっていた。周囲には奇妙な形をした犬や、犬の顔をした人間の姿があった。ユウは車椅子が無くても、普通に歩けるようになっていた。
町を歩いたユウは、自分たちが異世界にジャンプしたのだと理解した。ハルはユウを誘って酒場に入り、バウアー・レンデンという騎士と出会った。コトナを捜していることを2人が話すと、バウアーは酒を飲みながら「一緒に捜してやる」と申し出た。ユウとハルは女将の言葉で、壁に飾られているアーシャ姫の絵を見て、もうすぐ17歳の誕生日を迎えるアーシャは、コトナと瓜二つだった。ユウとハルは城へ向かうが、衛兵に追い払われた。
城ではアーシャの病状が悪化しており、近衛騎士のヴェルサ・ロアムや騎士団長のバルトン・ロッグスたちが心配していた。アーシャには強固な呪いが掛けられ、王国のヒーラーたちも匙を投げていた。魔法宰相のヨキ・ジニアスも解除できていなかったが、国王のフランダー・アルゼオスは彼を責めずにギラーク医師団の到着を待った。ユウとハルは医師団の馬車に隠れ、城に侵入した。医師団は治療に入るが、アーシャの呪いを解くことは出来なかった。
ハルはアーシャがコトナだと確信し、何とか助けようと考える。するとアーシャの腹部に短剣が出現し、ユウが引き抜くと消えた。ユウとハルは捕まって尋問を受けるが、呪いの解けたアーシャが2人に救われたことを父に話す。最初に駆け付けたサキもユウの行動を目撃しており、アーシャの発言に補足した。ユウの手を確認したヨキは、「なぜ?」と意味ありげに呟いた。ユウとハルは解放され、町に戻った。2人は酒場へ行き、ハルは「きっと夢だ」と楽しむことにした。ユウは女将から2階で泊まるよう促されるが、アーシャが気になって城へ戻ることにした。
忘れ物をしたと嘘をついて城に入ったユウは、アーシャの好物がコトナと同じ酸っぱいオレンジだと知る。アーシャはユウを誘って飛行船に乗り、樹海の湖へ赴いた。彼女は邪悪な気を払うため、湖に入って魔封じのダンスを行う。アーシャと話したユウは、そこが「二ノ国」であること、表裏一体の「一ノ国」と繋がっていること、誰も「一ノ国」を見ていないことを知った。アーシャは幼い頃に母を亡くし、心を許せるのは世話係のダンパだけだった。彼女は「一緒に泣いたり笑ったりする相手がいないのです」と寂しそうに言い、ユウたちのことを羨ましがった。同じ頃、ヨキはアルゼオスに「ユウとハルの力を見極めたい」と申し入れていた。彼がユウたちに黒旗軍の刺客という疑いを掛けると、アルゼオスは承諾した。
翌朝、ユウとハルは剣劇観戦の名目で城に呼び出され、模擬試合を要求された。大勢の剣士に襲われた2人は、見事な戦闘能力を披露した。するとヨキは2人を捕まえ、尋問すると言い出した。ユウは「いったん一ノ国に戻ろう」とハルに囁き、ジャンプのトリガーは命の危険だと告げる。2人が玉座の奥にある炎へ飛び込むと、元の世界へ戻った。するとコトナは生きており、自動車事故にも遭っていなかった。事故の記事を調べたユウとハルは、医師団と瓜二つの3人が亡くなっていることを知った。ユウは自宅に戻って眠り、入院していた5歳の頃の夢を見た。彼は二ノ国から来たというお爺さんから、「2つの世界には命が繋がった人間がいる」と聞かされていた。
翌日、登校したユウは、「自分たちがアーシャを助けたからコトナは助かった」という仮説をハルに話した。ハルは「だったらどうだっていうんだ。確かなことは、コトナが元気に走り回ってるってことだ。もうあの世界が夢でも現実でも、どうだっていいんだよ」と言うが、ユウは納得できなかった。彼は久しぶりに病院へ行き、美樹にお爺さんのことを尋ねる。まだ入院しているお爺さんが頻繁に姿を消すと聞いたユウは、二ノ国へ行ったのだと確信した。
ユウとハルは教師の説明で「コトナが健康上の理由でしばらく欠席する」と知らされ、コトナに会った。するとコトナは、検査で悪性腫瘍が見つかって余命3ヶ月だと明かした。ユウが「何とか二ノ国へ行こう。もしかしたら、また姫に危険が迫っているのかもしれない」と言うと、ハルは「こんな時に何言ってんだ。逆なんじゃないのか。死ぬはずだったアーシャの命を救ったから、コトナが命を奪われることになったんじゃないのか」と激しく責めた。ハルは二ノ国へ行くことを決めるが、「コトナを救うためにアーシャを討つ」と言い出した。ユウが反対してハルと睨み合っていると赤い目の男が現れ、2人を二ノ国へ飛ばした。
ハルはユウと離れて1人になっており、目の前には未知の城があった。城では黒旗軍の最高指導者であるガバラスが待ち受けており、ハルにトラベラーの力を使う計画を持ち掛けた。ガバラスが「一ノ国と二ノ国では命の総数が決まっている。二ノ国で尽きるはずの命を救えば、一ノ国の人間が代償を払うことになる。死ぬ運命だったアーシャは殺すべきなのだ」と語ると、ハルは黒旗軍と共に戦うことを決めた。一方、ユウはエスタバニア王国で捕まり、姫に危険が迫っていることをアルゼオスに訴える。彼は一ノ国から来たことを明かし、コトナとアーシャを救いたいのだと語る。そこへ黒旗軍が蜂起したという知らせが届き、ユウは先陣にハルがいると聞いて驚いた。
ユウが「あいつは黒旗軍じゃない。コトナのことで思い詰めているだけだ」と語ると、ヨキは姫の守護者としてハルを討つよう要求した。アーシャは母が魔力で作り出した短剣をユウに見せ、自分を殺すよう要求した。「それで貴方の後悔を振り払うことが出来る」と彼女が言うと、ユウは「人の命を奪って誰かを守るなんて間違ってる」と反発する。アーシャが「貴方には大切な人を救うために何かを失う覚悟が無いのですか」と決断を迫ると、彼は「俺はアーシャもコトナも救ってみせる」と宣言した。
黒旗軍はエスタバニアの城門を破って城下町に押し寄せ、激しい戦いが勃発した。ハルはガバラスに与えられた暗黒騎士の鎧で力を増幅され、エスタバニア兵を次々に倒した。アーシャは父に、伝説の聖剣であるグラディオンを使うよう促す。するとアルゼオスは、宝物庫にあるグラディオンは偽物だと明かした。ユウはハルの前に立ちはだかり、説得に耳を貸そうとしない彼と戦う。ユウはハルを追い詰めるが、「やれよ。やらなければ俺は姫を討つ」と言われる。隙を見たハルが襲い掛かった来たので、ユウも剣を突き出した。
気が付くとユウは元の世界に戻っており、病院にいた。ロビーのテレビでは、ホテルの火災現場が映し出されていた。病室の前にはハルがいて、コトナが鎮静剤で眠っていることをユウに告げた。ユウは「お前が姫に近付くほど、コトナは悪くなるぞ」とハルに訴え、ホテルの火災は王国襲撃との共鳴だと説明する。彼は二ノ国へ戻って戦争を止めるよう頼むが、ハルは拒絶した。ユウが「お前は間違った情報を植え付けられているんだ」と言うと、彼は「お前になぜ分かる?」と問い掛けた。
ヴェルサが敵に連行されるのを思い出したユウは、「確かめに行こう」と持ち掛けた。2人はサキが赤い目の男に殺されそうになる現場に駆け付け、彼女を助けた。すると男は巨大な蜘蛛に変身し、車で逃げる3人を追って来た。ユウは男がサキを「サキ姉」と呼んでいたことを知り、「そうか、全部分かったぞ」と口にした。蜘蛛を振り切った車が水路に転落すると、ユウたちは二ノ国に飛ばされた。ユウは城に戻り、全ての黒幕を追及する…。

監督は百瀬義行、原作はレベルファイブ、製作総指揮/原案・脚本は日野晃博、製作は日野晃博&高橋雅美&奥野敏聡&裃義孝&角田真敏&松本智&有馬一昭&藤田浩幸&國枝信吾&Kwon Young Sig&森田圭&舛田淳&板東浩二&堀内美康、エグゼクティブプロデューサーは小岩井宏悦、プロデューサーは小板橋司、アートコンセプトは梁井信之、企画設定協力は岩渕由樹&深見敦子&莫卓[女那]、キャラクター原案は百瀬義行、キャラクターデザインは西谷泰史、助監督は森田宏幸、美術監督は志和史織、色彩設計は谷本千絵、撮影監督は鯨井亮、CGディレクターは伊藤良太、編集は野川仁、音響監督は久保宗一郎、演出は森田宏幸&松永昌弘&大和田淳&室谷靖&高橋ナオヒト&中田誠、総作画監督は西谷泰史、アニメーションプロデューサーは加藤浩幸、音楽は久石譲、主題歌「MOIL」は須田景凪。
声の出演は山ア賢人、新田真剣佑、永野芽郁、ムロツヨシ、伊武雅刀、宮野真守、坂本真綾、梶裕貴、津田健次郎、山寺宏一、せりしゅん、水瀬遥、恭一郎、山本和臣、拝真之介、後藤光祐、松浦裕美子、佐藤せつじ、西村太佑、岡純子、江越彬紀、松本沙羅、斉藤貴美子、木内太郎、高宮彩織、宮本誉之、宮島依里、吉成翔太郎、寺内勇貴、中村文徳、大山蓮斗、電脳寺レト他。


レベルファイブのコンピュータRPG『二ノ国』シリーズを基にした長編アニメーション映画。設定はシリーズ第2作『二ノ国II レヴァナントキングダム』がベースになっている。
ちなみに「二」はカタカナの「ニ」ではなく漢数字の「二」である。
脚本はレベルファイブ代表取締役社長の日野晃博。監督は『ギブリーズ episode2』『ジュディ・ジェディ』の百瀬義行。
ユウの声を山ア賢人、ハルを新田真剣佑、コトナを永野芽郁、ヨキを宮野真守、サキを坂本真綾、ダンパを梶裕貴、ガバラスを津田健次郎、バルトンを山寺宏一、フランダーを伊武雅刀、お爺さんをムロツヨシが担当している。

日野晃博という人は、映画とゲームのシナリオを同じ意識で作っている。
それは大きな間違いなのだが、本人は気付いていない。
具体的に何が間違っているのかという問題点を挙げると、「ゲームはプレイヤーが行動を選択して話を進めるが、映画にはコントローラーが無い」ってことだ。
ゲームの場合、登場人物が不自然な行動を取ったり無理のある選択を迫ったりしても、「ゲームを進行するための都合」として許容することが出来る。仮に「強引だなあ」と感じたとしても、「でもゲームだから」ってことで許容できるハードルが下がるのだ。

しかし映画の場合、観客は劇中の人物に関する何の権限も与えられていない。行動する場所を選ぶことも出来ないし、選択肢から決定することも出来ない。最初から最後まで、傍観者としての立場を余儀なくされる。
そんな中で不可解な行動を取られると、それを許容することは難しい。
っていうか無理。
少なくとも、この映画は絶対に無理なレベルに達している。

コトナ赤い目の男に追われた時、ユウに電話を掛けて助けを求める。
まず「ハルには電話が繋がらない」という都合の良さはあるが、そこは置いておくとしよう。
で、「なぜ次に選んだ方法がユウへの電話なのか」ってことだ。
ユウの足が不自由なのは分かっているはずなのに、そんな人間に対して「早く助けに来て」と要求するのは、どういうつもりなのか。それよりも近所の商店にでも飛び込むか、警察に電話するか、色々と方法はあるだろうに。

連絡を受けたユウはサキに車で送ってもらうが、とりあえず警察に電話した方がいいだろ。なぜ自分の力だけで何とかしようとするのか。
さらに愚かしいのが、なぜか遅れて駆け付けるハルの行動だ。
「そのタイミングで電話が通じたのは何なのか」というトコの疑問は置いておくとして、コトナを抱き上げて自分で病院へ運ぼうとするのはアホすぎるわ。ユウが「救急車呼ぼう」と賢明な判断を教えているのに、それでも「うるせえ、黙れ」と全く耳を貸さないんだから、どうしようもない。
しかも、それだけでなく「お前、何やってたんだよ」とユウに怒鳴るんだぜ。クソ野郎じゃねえか。
そんで「コトナは俺が病院に連れていく」と言って多くの車で走っている道路に飛び出すんだから、「わざと観客をイライラさせるキャラ造形にしているのか」と言いたくなるわ。

未知の世界に移動したユウとハルは、スホマを使おうとする。
この時、「スマホのボタンを押そうとして、ハッとする」という手順があるが、ものすごく嘘臭い。そんなわけねえじゃん。まずスマホを取り出して別の物に変化していたら、その時点で気付くだろ。
そして、それを見て「コンパスだ」と即座に言うのも違和感がある。
今の高校生が、それを見てすぐに「コンパスだ」という言葉が出るかね。むしろ、「これは何なのか」と少し混乱し、それが何なのか気付くのに少し時間が掛かる方が腑に落ちるわ。

異世界にジャンプした直後、ユウとハルが困惑するのは分かる。でも、直前に「コトナが腹を刺されて重傷」という状態を見ているのに、そこに対する意識が薄弱になっているのは変でしょ。
ユウにとってもハルにとっても、コトナは大事な人間のはずで。だったら、「そこが異世界だろうが何だろうが、ともかく一刻も早くコトナを見つけ出さないと」という必死の思いに駆り立てられろよ。
なんで呑気に街を散策しているんだよ。酒場に入るのは「コトナを捜索するため」という目的があるけど、ハルは明らかに楽しそうだし。
アーシャがコトナとは別人だと判明した後には、「本物のコトナを一刻も早く見つけ出そう」という気持ちにならず、「これは夢だから」ってことで酒場で楽しんでいるし。

城の警備は厳重になっているはずなのに、ユウとハルは医師団の馬車に隠れて簡単に侵入できている。
ギラーク医師団が治療に失敗した後は、アーシャの部屋を護衛する者も皆無。警備はユルユルだ。
ユウはアーシャの絵を見て「コトナ」と即座に言うのに、ヴェルサについては城を去る時に「何となくサキ姉に似てる」と言う程度。
アーシャ&コトナと同じくヴェルサ&サキも瓜二つのはずなのに、そこの反応の大きな違いはどういうことなのか。なぜヴェルサを見た時点で、「サキ姉?」とは思わないのか。

ヨキがユウとハルに刺客の疑いを掛けて模擬試合を要求するのは、始末するのが狙いだから理解できる。
だけど、それをアルゼオスが承知して試合を命じた上に、ユウとハルが剣術の腕を披露すると捕まえるってのはメチャクチャだ。
もしもユウたちが戦闘能力を発揮できていなかったら、そのまま模擬試合で殺されていたわけで。でも頑張って戦ったら、それはそれで「刺客に違いない」ってことで捕まるわけで。
どうやっても逃げ道は無いじゃねえか。

ユウは捕まりそうになると、「いったん一ノ国に戻ろう」とハルに言う。戻る方法なんて知らないずだが、彼は「ジャンプのトリガーは命の危険だ」と告げて炎に飛び込むよう促す。
でも、そこには何の根拠も無いんだよね。それなのにユウもハルも、即座に炎へ飛び込むのだ。
もしも失敗したら確実に死ぬのに、そんなリスクの高い行動を平気で取れちゃうのは、どういう神経なのか。
あと、そもそも、自分たちの世界が「一ノ国」ってのも、まだ確定しているわけじゃないぞ。なんでユウは自分たちの世界を「一ノ国」と呼ぶんだよ。

元の世界に戻ったユウとハルは、教師の「コトナは健康上の理由でしばらく欠席する」という説明でハッとする。つまり、それまで2人は、コトナが入院したことを全く知らないのだ。
それは変だろ。ユウは友人で、ハルに至っては恋人だぞ。そんな近しい関係なのに、なんで教師から聞かされるまで入院を知らないんだよ。
しかもユウとハルが会いに行った時点で、既にコトナは入院しているんだぜ。つまり彼女は、もう検査も受けているのよ。
それもユウやハルに知らせていなかったのかよ。おかしいだろ。

コトナが余命3ヶ月だと聞いたハルは、ユウから「何とか二ノ国へ行こう。もしかしたら、また姫に危険が迫っているのかもしれない」と言われると「逆なんじゃないのか。死ぬはずだったアーシャの命を救ったから、コトナが命を奪われることになったんじゃないのか」と激しく責める。
いやメチャクチャだな。しかも、ただの推測じゃなくて断定しており、アーシャを殺すとまで言い出すのだ。
もうさ、そのボンクラさには、呆れ果てるわ。ここまで不快感の強いキャラにして、何の得があるんだよ。
もちろん最終的にはユウの味方になるけど、そこまでの行動を考えると全く取り戻せていないからね。
彼が直接的に誰かを殺す描写は無いけど、彼は黒旗軍がエスタバニアの面々を惨殺する手伝いをしているわけだから。

どうせ早い段階で気付く人も多いだろう完全ネタバレを書くけど、全ての黒幕はヨキだ。そんなヨキの正体は、錬金術で蘇ったアルゼオスの兄だ。
彼は父によって敵国のバビロニアへ養子に出され、人質にされた。そこで幸せな家庭を築いたが、父がバビロニアを攻め滅ぼした。そんな経緯で激しい憎しみを抱き、絶対的な力を手に入れて新たな王になると誓ったのだ。
で、そんな事情があるのなら、彼にも同情の余地があるってことになる。
しかし、そんな事情は完全に無視して、ヨキは単純な悪党として片付けられる。
だったら、彼の抱える不憫な事情は邪魔なだけだよね。使う気が無いなら、最初から持ち込まなきゃいいのに。

日野晃博が気付いていないのは、「映画とゲームの違い」だけではない。それよりもダメなのが、障害者に関する描写だ。
順番に問題点を挙げていこう。
序盤、コトナはクレープ店へ行こうとするが、長い石段を見て「店はこの先なんだけど」と口にする。
もうさ、その時点でアウトでしょ。
もしも「この先に店がある。でもユウは車椅子だから難しい」と感じたら、ホントにユウのことを思いやる人間だったら、そういう時に「店はこの先なんだけど」なんてことは言葉にしないのよ。

申し訳なさそうな表情は浮かべたとしても、出来る限りユウには気付かれないように振る舞おうとするのが仲間に対する気遣いでしょ。
あるいは逆に、「石段があるから、ユウは無理だね」とカラッとした態度で言うってのも、1つの方法だ。
それぐらいのことが言える関係性が築けているならば、それも有りだろ。
ともかく、この映画の表現は「それはダメだ」と断言できるわ。

ユウは二の国だと車椅子無しで歩けるようになるのだが、この設定を使った醜悪な描写が用意されている。
そりゃあ足が不自由だった人間が歩けるようになったら、素直に喜ぶだろうとは思う。
だから劇中におけるユウの反応や行動が、全て間違っているとは言わない。
ただ、そういう話を用意していることに対する不快感が強いのよ。実際に障害を持っている人が、そんな形で歩けるようになることは絶対に有り得ないわけで。

この映画の扱い方だと、「障害は人間にとって取り除くべき要素」と断言していることになる。
障害者に対して、あまりにもデリカシーの無い表現だ。
別にさ、なんでもかんでも綺麗事だけがいいとは言わないよ。「障害も一つの個性」とか「障害はギフト」ってな感じの表現が、必ずしも障害者にとって歓迎できるメッセージになるとは限らないだろう。
残念ながら現実は大変なことも多いので、それが逆に障害者を傷付けることになるかもしれない。
でも少なくとも、この映画みたいな描写よりはマシだと断言できる。

ユウはコトナを守るために行動し、最終的には元の世界へ戻らず二ノ国に留まる。
そこには、「コトナが好きだけどハルの恋人だから付き合えない。でも同じ顔をしたアーシャなら付き合える」という不純な動機しか見えない。
そして「元の世界だと足が不自由だけど、こっちなら歩ける。そして歩けるようになれば、惚れた女とも付き合える」という形になっているのよね。
つまり「人間にとって身体障害は百害あって一利なし」と断定しているようなモノなのだ。

映画の最後では、ハルとコトナが序盤で行かなかったレストランへ向かうために石段を使っている。
このシーンを描くことで、「邪魔者のユウが消えたから何の気兼ねも無くレストランへ行けるようになった」という風に見えてしまうだろうに。どこまでも醜悪なのよね。
厄介なのは、どうやら日野晃博の中に「障害者を傷付けている、差別している」という意識が皆無ってことなんだよね。
障害者に関する描写で色んなトコから批判の声も上がっているみたいだけど、下手をすると日野晃博は、それでも何が間違っていたのか分かっちゃいない恐れもあるからね。

(観賞日:2021年5月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会