『日本誕生』:1959、日本

天の一番高い所に、高天原という国があった。まだ天も地も、固まり切ってない時代のことである。高天原には天之御中主神という神が誕生し、続いて高御産巣日神と神産巣日神を始めとする10人が生まれた。最後に生まれた伊邪那岐神と伊邪那美神は、地上を人の住める所に作り上げるよう天之御中主神から命じられた。2人は天浮橋で大地をかき混ぜ、夫婦の契りを交わして大八島国を作った。やがて大地は緑が豊かに生い茂り、人の住める場所になった。伊邪那岐神と伊邪那美神は多くの神々を生み、天照大神には高天原、月読命には夜の食国、須佐之男命には海上を治めるよう言い付けた。そんな言い伝えを、語り部の媼が村人たちに話していた。
景行天皇の第二皇子である小椎命は村人たちの人気者であり、多くの女性たちから好かれていた。ある時、彼は村人の久米八腹から、兄である大椎命が景行天皇に使える娘を横取りしたという噂を聞かされる。小椎命が真相を確かめるため屋敷を訪れると、大椎命は件の娘である兄比売と抱き合っているところだった。小椎命が激昂すると、大椎命は太刀を抜いて襲い掛かった。小椎命は反撃して首を締め上げ、「消えろ」と鋭く言い放った。
大椎命が姿を消すと、小椎命が彼を殺したとい噂が広まった。景行天皇は重臣の大伴建日連から、罰として小椎命を殺すよう進言される。景行天皇が「小椎命は第二の世継ぎだ」と言うと、建日連は「第三、第四の世継ぎもおりますぞ」と若帯日子命と五百木之入日子命の存在に触れた。景行天皇から呼び出しを受けた小椎命は弁解せず、裁きを甘んじて受けるつもりだった。しかし景行天皇は彼に、西の国へ遠征して熊曽建の兄弟を征伐するよう命じた。「武功を立てる機会だ」と建日連に言われ、小椎命は父に感謝した。
小椎命は家来の吉備武彦や八雲、稲葉や小鹿火たちを引き連れ、西の国へ向かうことにした。志願した村人も同行を許されたため、八腹も軍勢に加わった。小椎命は叔母の倭姫に別れの挨拶をするため、彼女が宮司を務める伊勢神宮を訪れた。倭姫は小椎命を息子のように深く愛しており、彼が大椎命を殺していないことを信じた。巫女の弟橘姫と出会った小椎命は、心を奪われた。出発前夜の宴で、彼は家来に交じって踊った。小鹿火は心配する母と過ごし、八雲は薊と愛し合って「帰ったら2人のことをミコトに頼もう」と述べた。
倭姫は弟橘姫に、小椎命は生きて帰れないだろうと悲観的なことを告げる。彼女は今回の遠征が、景行天皇の考えではないと確信していた。景行天皇は小椎命の母を亡くした後、大伴から後妻を迎えていた。そこで建日連は、血の繋がっている若帯日子命か五百木之入日子命を世継ぎに据えようと目論んでいたのだ。弟橘姫は川に入り、小椎命の武運を祈った。そこへ通り掛かった小椎命は、「お前を好きになった。俺のために祈っていてくれ」と明るく告げた。
翌朝、小椎命が出発する際に、弟橘姫は手鏡を渡した。隠遁生活に耐えかねた大椎命は建日連の前に現れ、景行天皇に取り計らってほしいと頼んだ。建日連は大椎命を殺害し、腹心の小建に死体の始末を命じた。小椎命の軍勢が西の国に入ると、熊曽に逆らった村人たちが惨殺されていた。小椎命が陣営を設けていると、武彦は弟建が貢物を持ってきたことを知らせる。非道を働いているのは兄建であり、弟建は考えが違うので話し合いを求めていた。しかし小椎命は「父の言い付けを守って信頼に応えるだけだ」と言い、追い払うよう指示した。武彦から小椎命が面会を拒否したことを聞かされた弟建は、仕方なく立ち去った。
木の上から熊曽陣営を見張っていた小鹿火は、放たれた火矢によって命を落とした。他にも多くの犠牲が出たため、武彦は小椎命に弟建と話し合うよう進言する。しかし小椎命は激怒して却下し、戦うことを告げる。熊曽は新居の完成を祝って盛大な宴を開くが、警備は厳重だった。小椎命は家来たちに内緒で陣営を抜け出し、女装して宴に潜り込んだ。彼が兄建を刺し殺すと、館は大混乱に陥った。弟建は「誰も手出しするな」と叫び、小椎命と戦う。小椎命に致命傷を負わされた彼は勇気と知恵を称賛し、日本武尊と名乗るよう求めた。彼は止めを刺すよう告げ、小椎命がためらっていると自害した。八腹は館にいた女たちを貰いたいと申し入れ、小椎命に叱責された。
小椎命が帰国すると、日本武尊と名乗ることに建日連は反対し、認めないと告げる。それでも小椎命が名乗ることを宣言すると、建日連は東の国を平定する任務を命じた。休息も与えず、弟たちではなく自分ばかり大変な仕事を与えることについて、小椎命は抗議する。しかし景行天皇は冷淡な態度で、建日連の言う通りだと告げた。小椎命は激しい怒りを示し、景行天皇に詰め寄ろうとする。しかし景行天皇は立ち去り、追い掛けようとする小椎命は家臣たちに制止された。
小椎命が村へ行くと、媼が天照大神について人々に話していた。ある時、須佐之男命は馬の皮を剥いで天照大神の御殿へ投げ込み、逃げ遅れた機織り女が死んだ。天照大神は天の岩戸へ閉じ篭もってしまい、高天原も地上も真っ暗になって災いが起きた。天津麻羅、布刀玉命、天児屋命、伊欺許理度亮命、玉祖神らが集まって相談し、八意思金神が笑い祭りを開こうと提案した。神々は手力男命を隠れさせ、岩戸の前で祭りを始めた。天宇愛女命の踊りに神々が熱狂していると、気になった天照大神が覗き込む。すぐさま力自慢の手力男命が岩戸を開き、天照大神を外へ出すことに成功した。
小椎命は倭姫を訪ね、「父は俺が死ねばいいと思っているのだ」と泣く。「熊曽のような強敵を攻めるのにわずかな兵しか与えず、戻ってすぐに前より少ない兵で東へ行けと言う」と彼が嘆くと、倭姫は「お前は須佐之男命に似ていると思っていたのに」と告げる。彼女は小椎命に、須佐之男命の伝説を語る。須佐之男命は伊邪那岐神から海原を治めるよう言われたにも関わらず、死んだ伊邪那美神を忍んでばかりいた。母の国へ行きたいと訴える須佐之男命に、伊邪那岐神は仕事をするまでどこへも行かせないと言う。須佐之男命は「父は俺が可愛くないのだ」と泣き喚き、川や湖や海から一滴の水も無くなった。
倭姫は女々しい気持ちを捨てるよう説き、小椎命に天叢雲剣を差し出した。彼女は小椎命に、景行天皇の使者が持って来たのだと告げた。苦しい立場を分かってあげなさい」と言われた小椎命は、父の思いに感謝した。倭姫は小さな袋を渡して一大事の時に開けるよう指示し、戦う前に話し合うよう促した。小椎命が社を去った後、真実を知っている弟橘姫は彼を不憫に思って泣いた。倭姫は小椎命を哀れに思い、景行天皇の使者が来たと嘘をついたのだ。彼女は弟橘姫の小椎命に対する好意を見抜いており、「巫女は神に仕える身。男を恋しく思うことは許されぬ」と釘を刺した。
家臣たちの元へ戻った小椎命は、武彦から問われて天叢雲剣の伝説を語る。天照大神が岩戸に隠れ、高天原を追われた須佐之男命は川で箸を拾って上流へ向かった。ある家に入ると、大山祇神の子である足名椎と手名椎、その末娘である奇稲田姫が住んでいた。足名椎と手名椎に8人の娘がいたが、八岐大蛇に食われて1人だけになっていた。最後の1人も食われるのかと思い、夫婦は泣いていた。須佐之男命は退治を申し出て、強い酒を用意した。酒を飲んだ八岐大蛇の酔いが回るのを待ち、須佐之男命は襲い掛かった。須佐之男命は八岐大蛇を仕留めると、その体内から天叢雲剣を取り出した…。

監督は稲垣浩、特技監督は円谷英二、脚本は八住利雄&菊島隆三、製作は藤本真澄&田中友幸、美術監督は伊藤憙朔、撮影は山田一夫、美術は植田寛、録音は西川善男&下永尚、照明は小島正七、監督助手は丸輝夫、編集は平一二、音楽は伊福部昭。
[特殊技術]光学撮影は荒木彦三郎、撮影は有川貞昌、美術は渡辺明、照明は岸田九一郎、作画合成は向山宏。
出演は三船敏郎、鶴田浩二、原節子、司葉子、水野久美、上原美佐、香川京子、田中絹代、乙羽信子、杉村春子、小林桂樹、加東大介、三木のり平、有島一郎、柳家金語楼、榎本健一、朝汐太郎(3代)、久保明、宝田明、中村鴈治郎(二代目)、東野英治郎、平田昭彦、三島耕、伊藤久哉、田崎潤、志村喬、上田吉二郎、小杉義男、野村浩三、藤木悠、環三千世、村松恵子、村田嘉久子、中北千枝子、左卜全、山田巳之助、瀬良明、伊豆肇、田島義文、村上冬樹、谷晃、向井淳一郎、沢村いき雄ら。


東宝映画の1000本製作記念作品。
監督は『柳生武芸帳』『無法松の一生』の稲垣浩。
脚本は『細雪』『暗夜行路』の八住利雄と『隠し砦の三悪人』『狐と狸』の菊島隆三。
小椎命&須佐之男命を三船敏郎、天照大神を原節子、弟建を鶴田浩二、弟橘姫を司葉子、薊を水野久美、奇稲田姫を上原美佐、美夜受姫を香川京子、倭姫を田中絹代、天宇愛女命を乙羽信子、語り部の媼を杉村春子、天津麻羅を小林桂樹、布刀玉命を加東大介、天児屋命を三木のり平、伊欺許理度亮命を有島一郎、八意思金神を柳家金語楼、玉祖神を榎本健一、手力男命を朝汐太郎(3代)、景行天皇を中村鴈治郎(2代目)、建日連を東野英治郎、武彦を平田昭彦、八雲を三島耕、小建を伊藤久哉、久呂日古を田崎潤、兄建を志村喬が演じている。

上映時間が182分と長いので、二部構成となっている。岩戸隠れのエピソードが終わり、小椎命が村を出たところで第一部が終了して休憩が入る。
1000本製作記念作品なので、当然のことながらオールスター映画となっている。
ただし、実は池部良や雪村いづみ、 白川由美、草笛光子といった面々は出演していないので、その辺りは微妙なところだ。
あと専属契約ではなかったけど、既に社長シリーズと駅前旅館シリーズの始まっていた森繁久彌が出ていないのも微妙。

これが東映や大映なら、記念作品は時代劇を作るだろう。実際、同じ頃に東映や大映が製作したオールスター映画は時代劇だった。
当時の邦画界では時代劇が主流だったので、それが当然だ。
東宝にしても、時代劇を全く作っていなかったわけではない。黒澤明や稲垣浩などが、そのジャンルの映画を手掛けていた。
しかし東映のように、多くの剣劇スターを抱えていたわけではない。
東宝争議で大河内傳次郎や長谷川一夫、黒川弥太郎らが離脱した影響もあり、現代劇が主流の会社になっていた。

ただし、だからといってサラリーマン喜劇でオールスター映画を製作するわけにもいかないだろう。
当時の東宝が誇れる強みと言えば、やはり円谷英二による特撮ということになるのではないか。
とは言え、当時のトップスターである三船敏郎や前年に専属契約を交わした鶴田浩二を、空想科学映画や怪獣映画に出演させることも出来ないだろう。っていうか、オファーしても彼らが引き受けないだろう。
諸々の条件を考えると、壮大なスケールの歴史スペクタクルってのは、妥当なラインかもね。

当時の東宝で、「二枚目路線のスター」という条件で考えた場合、三船敏郎、久保明、宝田明、鶴田浩二、池部良といった辺りだろうか。
小林桂樹や加東大介も主演作があるが、オールスター映画で主演を張れるようなタイプではない。
そして二枚目路線の面々の中でも、三船がダントツでトップに立っていたと言っていいだろう。
これが東映なら、例えば『忠臣蔵』のように、終盤まで集団で行動するような話にしておく必要がある。多くのスターを共演させ、それなりに出番を与えて見せ場を用意するためには、そういう配慮が必要になる。
しかし東宝の場合なら、三船を主役に据えて、後は脇に回してもOKなのだ。

熊曽兄弟は悪党として扱われるのが普通だと思うが、何しろ弟建を演じているのは鶴田浩二なので、もちろん悪人としては描かれていない。罪の無い庶民が苦しむことを避けるため、小椎命と話し合って解決しようとするような人物として造形されている。
そのせいで、そんな彼との話し合いを拒否し、戦うことしか考えない小椎命が愚かで浅はかだという印象になってしまう。
で、話し合いを拒否したせいで熊曽から火矢が放たれるが、そこで死んだのは2人だけなのに、いつの間にか「大勢の犠牲者が出た」という状態になっている。
そんな印象は全く受けないし、「大規模な戦闘」で話を盛り上げるチャンスをフイにしている。

しかも、その後で「激昂した小椎命が軍勢を率いて熊曽と戦う」という展開になるのかと思ったら、小椎命は家来に内緒で敵の新居へ潜入するという行動を取るのよね。それもまた浅はかだし、身勝手な行動だ。
しかも、彼が取った作戦は「女装して熊曽兄弟に近付く」というもので、場違いな滑稽さまで生じてしまう。
これが例えば『雪之丞変化』で人気を得た長谷川一夫のような人なら、そういう趣向を持ち込むのも分からんではないよ。だけど三船敏郎が女装しても、マヌケにしかならんでしょ。
兄建が「美しい」と言うけど、ギャグにしか聞こえない。ヴェールで目から下を隠しているけど、それでも美しくないことは分かっちゃうぞ。

兄建を殺した小椎命に致命傷を負わされた弟建は、「勇気のある人だ。知恵のある人だ」と称賛する。
だが、本当に知恵のある人なら、ちゃんと話し合いに応じたはずだ。
単独で館へ潜入する行動も「勇気ある行動」ではなく、ただ軽率で無謀なだけ。
「話し合いたかった。兄を討っても良かった」と弟建が言うと小椎命は止めを刺すことをためらうので、後悔しているのか、反省しているのかと思いきや、外へ出ると「熊曽兄弟を討ち取ったぞ」と高らかに宣言する。
まるで気にしてねえのな。

タイトルは『日本誕生』だが、現在進行形で描かれるのは日本武尊の物語であり、八百万の神々が登場する物語は「媼が語る昔話」という形で何度か挿入されるようになっている。
だが、そんな神々の話と、日本武尊の話の関連性は乏しい。
例えば小椎命が岩戸隠れについて聞いても、それを受けて何か感じたり、影響を受けたりするわけではない。ただ話を聞いて、その場を離れる様子が描かれるだけ。
他のエピソードにしても、「ただ挿入している」という以上の意味は何も無い。まるでリンクしていないのだ。

また、神々に関するエピソードはザックリ言ってしまうと、「ただの説明」に過ぎないのだ。語られる内容に応じて、映像が用意されているだけ。一応は台詞が交わされたり何かしらの出来事が描かれたりするが、ドラマとしての面白味は無い。
例えば岩戸隠れのエピソードでは、ただ神々が祭りで盛り上がっているだけの光景に5分ほど費やしている。「乙羽信子が踊って小林桂樹たちが盛り上がる」という姿だけで楽しめる人もいるかもしれないが、間延びしているという印象は否めない。
なので、神々の話は要らなくないかと思ってしまう。長すぎる寄り道を、何度も繰り返しているだけにしか感じない。
そこを削って日本武尊の話だけで全体を構成した方が、まとまりは良くなるはずだ。
あと、神々のことは全て媼が話すのかと思ったら、小椎命や倭姫が語り手を務める箇所もあるのよね。だったら媼なんて全く要らないでしょ。

小椎命が「父は俺が死ねばいいと思っているのだ」と泣いた倭姫は「お前は須佐之男命に似ていると思っていたのに。須佐之男命は乱暴しても明るく、泣く時も笑う時も野放図で」と言う。
それは小椎命を褒めているつもりなのだが、その直前に須佐之男命が馬の皮を剥いで御殿へ投げ込み、高笑いを浮かべる様子が描かれている。
そのせいで機織り女は死ぬわ、天照大神が岩戸に隠れてしまうわという問題を引き起こし、しかも全く反省しないというクズっぷりを見せているので、まるで褒め言葉には聞こえない。
そもそも、倭姫は最初に「乱暴しても」って言っちゃってるしね。その時点で褒められた奴ではないでしょ。

あと、倭姫は泣いている小椎命に「何を女々しい。男なら男らしく堂々と泣けばいい」と告げるけど、ちょっと何を言いたいのか分からん。
もしも須佐之男命の泣き方を「男らしい泣き方」と捉えているなら、小椎命と同じように「父は俺が可愛くないのだ」と泣いているので腑に落ちない。
しかも、そのせいで川や湖や海から一滴の水も無くなっているんだから、かなりの迷惑だ。
「小椎命は須佐之男命と同じ」という意味なら、「お前は須佐之男命に似ていると思っていたのに」という台詞は矛盾するし。

須佐之男命と八岐大蛇の戦いは、大きな見せ場として配置されているはずだ。
だが、基本的には特撮部分と実写部分を別に撮影しているため、仕留めて剣を取り出すまでは「須佐之男命が八岐大蛇には全く届かない距離でデタラメに刀を振り回している」という状態に見えてしまう。
で、全く攻撃が命中していないのに、なぜか八岐大蛇が少しずつ弱っていくという奇妙なことになっている。
迫力のある戦いとして盛り上げようとはしているが、どうにも冴えない。

後半に入ると、弟橘姫が涙を浮かべ、小椎命に付いて行けないことを告げて立ち去る展開が待っている。
強いショックを受ける小椎命だが、尾張国で美夜受姫と出会うと、すぐに惹かれ合う関係へと発展する。
まだ弟橘姫が去ってからそんなに時間は経っていないのに、なんて変わり身の早い奴なのかと。
八腹が女を用意して機嫌を取ろうとしたら激昂してボコボコにしていたのに、その直後に美夜受姫と惚れ合う展開になるんだから、なんだかなあ。

小椎命が美夜受姫と結婚することを決めると、そこへ弟橘姫が来て「召使いとしてお仕えしたい」と願い出る。小椎命は激しい苛立ちを示すが、弟橘姫は旅に同行する。
美夜受姫との結婚を決めて恋愛劇が一段落するのかと思ったら、まだ続くのよね。
そんで弟橘姫が「例え神罰が当たろうと諦めることが出来ません」と涙で訴えると、その思いを知った小椎命は彼女に転ぶ。
そりゃあ先に惚れていた相手は彼女だけど、美夜受姫との婚姻は何だったのかと。恋愛劇を盛り込むのがダメとは言わないが、その扱いが後半に入って大きくなるのは構成として望ましい形になっていない。
そのせいで、小椎命が軽薄な奴になっている。

小椎命の一団が相模国へ向かうと景行天皇の家来たちが先回りし、国造の大伴久呂日古と会う。
小椎命を始末するよう言われた久呂日古は驚愕し、苦悩の様子を見せる。家来たちに脅されて、彼は仕方なく覚悟を決めたという態度を見せる。
ところが、いざ小椎命を始末する作戦を取った時は、酒を飲んで高笑いを浮かべ、「これで大和へ行ける」と嬉しそうに言う。
根っからの悪党みたいな描写になるのだ。それは命令された時とキャラが豹変しちゃってるだろ。

久呂日古は小椎命を猪狩りに誘い出して1人きりにすると、手下たちが草むらに火を放って包囲する。
ここで小椎命は倭姫から貰った小袋を思い出し、それを開ける。すると火打ち石が入っており、彼は円形に草を刈って安全な陣地を確保すると周囲に火を付け、帰り火の秘法によって窮地を脱する。
だけど、そういう状況だから火打ち石が役に立ったけど、もしも全く異なる一大事だったら、どうするのか。
小袋の中身が火打ち石って、使えるケースが限定されちゃうだろ。

映画のラストは、大和の国へ戻ろうとした小椎命の一団が小建の率いる軍勢に襲われる。小椎命は必死で戦い、家来たちに守られながら逃走するが追い詰められて力尽きる。彼が倒れると火山が噴火し、大洪水が起きる。
溶岩流と大水が軍勢を飲み込むシーンは、バレバレの合成ではあるが、当時としては充分に見せ場となるようなスケールの大きい特撮映像だ。
そして最後は白い鳥となった小椎命が空を飛び、高天原へ向かう。小椎命は絶命したが、一応はハッピーエンド的な締め括り方にしてある。
「死んでも高天原へ行けたから幸せだよね」みたいな見せ方は、何となくキリスト教の映画にも通じるトコロがあるかな。

(観賞日:2018年1月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会