『日本任侠道 激突篇』:1975、日本

東京・八王子を縄張りにする竜神一家は、仕出し料理屋「魚水亭」で盆を開いた。溜まりと呼ばれる小料理屋「きぬた」には客の旦那衆が集まり、竜神一家の山田巳代吉たちが盆へ案内した。代貸の新堀左吉は旦那衆の1人から、得意客の沢野喜兵衛が生糸相場で大損した噂があるので気を付けた方がいいと聞かされた。その日の盆で沢野は負けを喫し、左吉は50円を用立てた。沢野は盆を去る時、世話になった礼として巳代吉に煙草入れを贈った。彼は巳代吉に、明後日に金を取りに来るよう頼んだ。
2日後、巳代吉が沢野から金を受け取って去ろうとすると、青梅・扇家一家が経営する三多摩土木会社の房州熊たちが押し掛けた。巳代吉は周囲の土地が扇家一家に買い占められていること、沢野の家が取り壊されることを知った。沢野は昨日の内に立ち退くことを要求されていたが、房州熊たちが家を取り壊す直前に自害した。竜神一家の親分である竜崎市蔵は、沢野の葬儀を取り仕切った。彼は巳代吉から、沢野の娘・おきみが紅梅楼に身売りしたことを知らされた。
おきみは紅梅楼で女中として働いており、まだ女郎の仕事は始めていなかった。しかし三多摩土木の松と留は、彼女を部屋に連れ込もうとする。そこへ市蔵が子分の三五郎と巳代吉を伴って現れ、松と留を威嚇して下がらせた。おきみは市蔵から父の死を知らされ、驚いて意識を失った。市蔵がおきみを店から連れ出そうとすると、房州熊が立ちはだかって喧嘩を売る。市蔵はドスに手を掛ける三五郎を制し、そのまま立ち去ろうとする。房州熊はドスを抜いて襲い掛かるが、市蔵は軽く投げ飛ばした。
数日後、市蔵は妻・お幸の兄で扇家一家二代目の東金参次郎に呼び出され、事務所を訪問した。参次郎は彼に十国一家の代貸・萱場新兵衛と子分の向井田弥助、水上蓮太郎を紹介し、八王子の東側街道沿いに新しい三業地を作る計画があることを説明した。八王子は竜神一家の縄張りに当たることもあり、市蔵は参次郎から発起人の1人として署名するよう頼まれた。計画書に目を通した市蔵は、少し考えさせてほしいと告げて即答を避けた。
参次郎は市蔵を新宿の酒場へ連れて行き、改めて計画について語った。市蔵は十国一家の総長・神戸雷吉が扇家一家の縄張りを飲み込むつもりではないかと怪しみ、参次郎に警告する。参次郎は「三業地の管理は扇家一家に任せると契約書に書いてある」と告げるが、市蔵は十国一家が徳光一家から新宿を奪い取ったことを指摘し、計画を白紙に戻すよう求めた。お幸はおきみに、「きぬた」で働かないかと持ち掛けた。おきみは父が死んだのは博打のせいだと言い、市蔵とお幸の世話になりたくないという理由で紅梅楼に戻った。
旅常という男が草鞋を竜神一家を脱ぎ、大阪から来た先客の千成和助と相部屋になった。千成は十国一家が商人宿の甲州宿で盆を開いていることを知り、市蔵に知らせた。市蔵は旦那衆が帰るのを待ち、左吉と三五郎を引き連れて甲州宿に乗り込んだ。彼は十国一家を威圧し、その日の稼ぎを没収した。市蔵が去ろうとすると、客の中で1人だけ残っていた熊が発砲して始末しようとする。三五郎は市蔵の盾になって銃弾を浴びるが、命は取り留めた。
参次郎は市蔵を訪ね、意地を張らずに神戸と組むよう促した。しかし市蔵は先代親分の遺志を引き継いで縄張りを守る覚悟を語り、参次郎は憤慨して去った。巳代吉は出前の注文に来たおきみに声を掛け、辛くないかと尋ねる。おきみは店に出ずに下働きだけでいいと言われたこと、市蔵とお幸が父の借りた金を払ってくれたことを語った。また十国一家が八王子で盆を開いたと知り、市蔵は乗り込むことにした。旅常が斬り込みの一番槍を志願したため、市蔵は任せることにした。市蔵は盆に乗り込み、現場を仕切る男を刺し殺して去った。
千成は翌朝に発つことを市蔵に切り出し、本当は板前なのに渡世人に憧れて嘘をついていたことを白状した。市蔵は全く怒らず、千成が銃を買ってほしいと頼むと承諾した。十国一家の使者として水上が竜神一家を訪れ、市蔵に果たし状を渡した。市蔵は助っ人を呼ばず、一家だけで喧嘩の場へ向かおうとする。そこへ秩父・藤ヶ崎一家の親分である国領達之助が子分の円蔵たちを伴って現れ、自分に預けてほしいと持ち掛けた。市蔵は渡世人の意地があると主張するが、国領の説得を受けて承諾した。
国領は神戸の元へ行き、喧嘩を預けてほしいと持ち掛けた。神戸は腹を立てて拒否しようとするが、国領が自分を斬ってから行くよう凄むと仕方なく手打ちを受け入れた。手打ち式を終えた市蔵が帰宅すると参次郎の妻・おせいが来ており、お幸が妊娠していることを教えた。巳代吉は紅梅楼を訪れ、おきみが墓参りに行ったと聞いて後を追った。おきみが墓地に行くと、松と留が現れた。松たちがおきみを犯して去ろうとすると、巳代吉が駆け付けた。事情を悟った巳代吉は憤慨して襲い掛かり、留を殺害した。
おきみが海に飛び込んで自害を図ると、巳代吉が追い掛けて助けた。彼はおきみを強く抱き締め、「おめえは俺のもんだ」と告げた。市蔵は扇家一家代貸の倉持義一郎から、巳代吉が留を殺したので身柄を引き渡すよう要求された。事情を知った市蔵は、巳代吉を守るために破門を通告した。巳代吉は同行を望むおきみに「やらなきゃならねえことがある」と言い、待っていてほしいと述べた。おきみはお幸から、市蔵が用意した金を預かっていた。おきみから金の入った財布を受け取った巳代吉は、市蔵とお幸に感謝して旅に出た…。

監督は山下耕作、脚本は高田宏治、企画は日下部五朗&今川行雄、撮影は古谷伸、照明は増田悦章、録音は中山茂二、美術は井川徳道、編集は堀池幸三、疑斗は上野隆三、音楽は八木正生。
出演は高倉健、北大路欣也、辰巳柳太郎、藤山寛美、大谷直子、渡瀬恒彦、宍戸錠、待田京介、田中邦衛、渡辺文雄、竹下景子、藤間文彦、小松方正、名和宏、川合伸旺、郷^治、弓恵子、曽根晴美、小栗一也、林彰太郎、中村錦司、唐沢民賢、有川正治、鈴木康弘、楠本健二、西田良、川谷拓三、野口貴史、青木卓司、成瀬正、岩尾正隆、高並功、丘路千、那須伸太朗ら。
ナレーターは横内正。


『あゝ決戦航空隊』『極道VS不良番長』の山下耕作が監督を務めた作品。
脚本は『三代目襲名』『逆襲!殺人拳』の高田宏治。
市蔵を高倉健、旅常を北大路欣也、国嶺を辰巳柳太郎、千成を藤山寛美、お幸を大谷直子、三五郎を渡瀬恒彦、熊を宍戸錠、左吉を待田京介、円蔵を田中邦衛、参次郎を渡辺文雄、おきみを竹下景子、巳代吉を藤間文彦、神戸を小松方正、萱場を名和宏、倉持を川合伸旺、おせいを弓恵子、沢野を小栗一也、松を川谷拓三が演じている。ナレーターを横内正が担当している。

この映画が公開されたのは、1975年の1月15日。いわゆる、お正月映画である。
当初、東映は『山口組三代目』シリーズの第3作となる『山口組三代目・激突篇』を正月映画として公開するつもりだった。
しかし実在する暴力団との癒着を重く見た兵庫県警が捜査に入った上にマスコミからの厳しい批判も浴び、社長の岡田茂は1974年11月に製作中止を決定した。
そのために突貫工事で本作品が代替作品として製作されたが、興行的には完全に失敗した。

沢野が生糸相場で大損をしたのは本人の責任だし、それでも盆に来て博打をしたのも本人の問題だ。
ただ、彼が大損した噂を知った上で、それでも博打を止めずに金を貸したのは竜神一家だ。
だから本来なら、おきみが「父は博打に殺された。博打が憎い」と吐露した時、その言葉を市蔵が聞いて「渡世人として自分は本当に正しかったのか。沢野を救うことは出来たんじゃないか」と心を痛めるたり苦悩したりするドラマを描いた方がいいんじゃないかと思うのだ。

でも実際には、その言葉を聞いているのはお幸と巳代吉だけ。市蔵がおきみの心の内を知るシーンは無い。しかも、次におきみが登場すると、市蔵とお幸が父の借金を払ってくれたことに感謝している。
なので、「おきみが博打を憎み、竜神一家と距離を置こうとしている」という要素は、あっという間に消えてしまうのだ。その後も、おきみが市蔵に影響を与えることは皆無に等しい。
さらに問題なのは、巳代吉とおきみの関係も中途半端で放り出されてしまうってことだ。
巳代吉はおきみに惚れていて、自殺を図った彼女を救う。そして彼はおきみに待っていてくれと言い残し、旅に出る。ところが、彼が戻らないまま映画は終わるのだ。
なんちゅうシナリオだよ。

この作品の特徴は、渡世人に関するマニアックな情報が何度も盛り込まれることだ。
まず導入部では、鉄火場を開く際に大切なことや、旦那衆は溜まりと呼ばれる場所で待つことなどが解説される。旅常が登場すると、旅人の仁義の重要性や旅をする渡世人の作法についての情報が詳しく説明される。
斬り込みのシーンになると、一宿一飯の義理で喧嘩に参加する時のルールが解説される。水上が果たし状を持参すると殴り込みのルールが説明され、喧嘩が手打ちになると手打ち式について詳しく説明される。
まるで渡世人の紹介ビデオのように、うんちくが何度も入るのだ。

おきみをが強姦されたと知った巳代吉が憤慨して留を殺したのに、松が逃げ出すのを傍観しているだけってのは半端だと感じる。巳代吉の怒りの強さを考えると、どっちも始末すべきじゃないかと。
なぜ松が逃げるのを見送るだけなのかというと、それは「留の殺害を十国一家に知らせる」という役目を担う人間が必要だからだ。そこで松も殺してしまうと、巳代吉の行為は本人が喋らない限り誰にも知られないし、十国一家が引き渡しを要求することも無いからだ。
でも実は、そこって何とかなるんだよね。
「巳代吉が事実を打ち明けると、市蔵は彼を守るために破門する」という手順を踏めば、それで成立しちゃうんだよね。

終盤、参次郎は市蔵を始末するという神戸の方針に同意する。そして神戸は刺客を差し向け、三五郎は市蔵を守って命を落とす。しかし、その直後に同じ店で「おきみがお幸を庇い、市蔵の眼前で殺される」という出来事が起きる。
そうなると、三五郎は「無駄死に」のような状態になってしまうのだ。その場で市蔵が三五郎を悼むことも無く、おきみのことばかり気にしているし。
後で家に戻ってから三五郎を弔うシーンは用意されているけど、それじゃタイミングが遅い。そんな扱いにするぐらいだったら、いっそのこと甲州宿で市蔵の盾になるシーンで死なせてやれば良かっただろうに。
大怪我から回復させておいて、その死に様では報われないよ。

「市蔵が怒りに燃えて殴り込みを掛ける」という展開に繋げるきっかけは必要だろうけど、そのための犠牲が多すぎる。三五郎とおきみが立て続けに殺されるだけでなく、市蔵が殴り込みを掛けると悟ったお幸まで自害しちゃうんだよね。
でもお幸は自殺じゃなくて、殺される形の方がいいよ。その自殺を市蔵が参次郎に知らせないまま始末するのも、どうかと思うし。
そこは妹の自殺を知った参次郎の反応を描き、その上で市蔵に殺させた方がいいよ。
あと、参次郎が市蔵を殺害しようと目論むってことは「妹の旦那を始末する」ってことなんだけど、そこでの葛藤が皆無に等しいのもドラマとして薄いし。

(観賞日:2022年12月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会