『熱帯楽園倶楽部』:1994、日本

旅行会社の添乗員・紺野みすずは、15人のツアー客を連れてタイのバンコクにやって来た。みすずはホテルに到着し、全員のパスポートを セーフティー・ボックスに預けた。客の女性がみすずに歩み寄り、部屋を替えてほしいと頼んできた。「相部屋になった女性の骨格から して、歯軋りをするに違いない」というのだ。みすずは愛想笑いを浮かべ、部屋替えが出来ないことを説明した。中年夫婦は「スカーフを プレゼントしたいから」と買い物に連れ出すが、みすずを荷物係として使っただけだった。
街を歩くみすずを見て、日本人青年の飛田林始はコインを投げた。そしてコインを拾うと、みすずに「落としましたよ」と声を掛けた。彼 はみすずに、「バイクのひったくりが多いから、バッグは道路側に持たない方がいいですよ」と優しくアドバイスした。飛田林に「冷たい コーラでも飲みませんか」と誘われ、みすずは彼が案内したカフェに赴いた。
飛田林は「日本人は無防備だ」と言い、通りを行く観光客が騙されている手口について説明する。彼は自分の代金を置いて、先に店を出た。 みすずはオーナーのジョイにコーラ2杯の勘定を支払おうとするが、それは法外な値段だった。みすずは抗議するが、ジョイは全く譲る気 が無い。言葉が通じないこともあり、みすずは仕方なくカードで支払った。
翌日、バスでツアー客を案内していたみすずは、カフェの前を通り掛かった。ジョイと飛田林を目撃した彼女は、2人がグルになって日本 からの観光客を騙していることを知った。ジョイはみすずに気付くと、笑顔で近付いて来た。そして悪びれることも無く、日本語で声を 掛けて来た。彼は日本とタイのハーフで、日本語も堪能だった。ジョイはみすずに「賭けをしましょう」と言い、あるゲームを持ち掛けた。 みすずは賭けに乗るが、負けて500バーツを失った。しかし彼女は腹を立てず、笑顔を浮かべた。
ツアー最終日、みすずがセーフティー・ボックスを確認すると、そこにパスポートは無かった。キャッシャーに説明を求めても、知らぬ 存ぜぬの一点張りだ。みすずは日本大使館に掛け合って必要な書類を揃え、航空券も買い直して、ツアー客を何とか帰国させた。彼女は 会社に電話して「次のツアーでは頑張りますから」と言うが、「代わりを用意した」と告げられてしまった。
みすずがホテルに戻ると、支配人が申し訳無さそうに現れた。キャッシャーがミスをして、別のセーフティー・ボックスを開けていたのだ。 パスポートを返却されたみすずは部屋に戻り、あることを思い立った。翌日、彼女はドレスを着てサングラスを掛け、カフェに出向いた。 そしてジョイと飛田林にパスポートを見せて、それを捌いてほしいと持ち掛けた。
ジョイは知り合いである犯罪組織の親分ルーの元を訪れ、パスポートの換金を依頼した。ルーは100万バーツで承知した後、みすずも売る よう持ち掛けた。ジョイは「彼女は自分の子供を妊娠している」と嘘をつき、その話を断った。ルーが1ヶ月後に支払うと告げたため、 仕方なくジョイは応じた。みすずは会社を辞め、金が手に入るまで、カフェの2階で居候することを勝手に決めた。
飛田林はみすずを連れて、ある店を訪れ、どう計算しても500バーツ多くなる電卓を売り込んだ。ジョイは空港へ行き、タチバナという ビジネスマンを見つけて、迎えに来た人間を装った。ジョイは彼を乗せて車を走らせ、途中で「リムジンサービス」と言い出し、10万円を 支払わせた。みすずは稼ぎが無いのに居候していることをジョイに咎められ、自分でも観光客を引っ掛けようと試みる。だが、自分が 騙された時のようにコインを投げたものの、観光客に頭にぶつけてしまい、あえなく失敗に終わった。
飛田林は雑誌で暴力団抗争の記事を読み、それを利用した金儲けを思い付いた。彼は日本にある13の極道団体に、「バンコク・ルートで 銃を送る」というダイレクト・メールを送った。本当に銃を用意するつもりなど無く、金だけ貰ってドロンするつもりだ。栃木県の山本組 という暴力団から返事が来て、組員2名がバンコク入りすることになった。ジョイは「背伸びをするな」とヤクザ相手の商売に反対するが 、飛田林は自信満々で、みすずも乗り気な態度を示した。
みすずと飛田林は、山本組組員の森と所と会った。みすずがビジネスの前に「観光しませんか」と誘うと、森と所は乗って来た。しばらく 観光した2人は、商売の話に入った。みすずと飛田林は拳銃の写真を見せて話を付けるつもりだったが、試し撃ちをさせてほしいと言われ、 困ってしまう。そこへジョイがタイ人のブローカーを装って現れ、「試し撃ちをさせる」と告げた。
ジョイはみすずたちを連れて、ある場所に移動した。そして森と所に拳銃を渡し、試し撃ちをさせた。それはモデルガンだったが、森と所は 本物だと信じ込んだ。ジョイは「一丁5万、100丁以上でなければ売らない。ブツは来週、横浜で渡す」と要求するが、通訳係のみすずが 一丁6万に値を吊り上げた。森と所は承諾し、その場で300万円を支払った。カフェに戻ると、ルーの子分が来ていた。彼はパスポートを 捌いた金を渡し、店を去った。
大金を手に入れたみすずたちは、超高級リゾートへ旅行に出掛けた。飛田林はみすずに惹かれていたが、みすずはジョイを好きになっていた。 ジョイは気を利かせて、みすずと飛田林を二人きりにしようとする。だが、みすずはジョイの部屋へ行き、自分からアプローチした。2人 は関係を持つが、飛田林には内緒だった。3人がバンコクに戻ると、カフェには森と所が来ていた。彼らはルーの子分たちを雇い入れ、3人 を捕まえようとする。みすずたちはトゥクトゥクに乗り込み、慌てて逃げ出した。
ジョイはみすずと飛田林を空港へ連れて行き、日本へ帰らせようとする。だが、みすずは機内で名案を思い付き、飛田林と共にジョイの元 へ戻った。みすずはジョイと共に、森と所の前に姿を現した。そして「逃げたのは入手が遅れていたからです。銃は手に入ったが、飛田林 が警察に捕まっています。彼が警察に全て話したら国際問題になる。釈放してもらうには200万の賄賂が必要だが、手持ちが100万円しか 無い。何とか残りを出してもらえませんか」と持ち掛け、彼らに100万円を出させた。
みすずとジョイは、森と所を警察署へ案内した。待ち受けていた警察署長はルーだった。そこは本当は養豚場で、みすずがルーに頼んで 警察署に仕立て上げてもらったのだ。しかし足下を見たルーは、300万円を要求してきた。みすずは口から出まかせの説明を並べ立て、 森と所に100万円を上乗せしてもらう。金を支払って飛田林と合流し、作戦は成功したはずだった。しかし森と所は「雇った奴らに、俺たち が君らの仲間だと説明したい」と言い出し、ルーの手下がいるカフェへ向かう…。

監督は滝田洋二郎、原案&脚本は一色伸幸、製作は櫻井洋三、プロデューサーは中川滋弘&小林壽夫&榎望、プロデューサー補は 小笠原明男&浅田恵介、撮影は浜田毅、編集は冨田功、録音は宮本久幸、照明は渡邊孝一、美術は山口修、音楽は 西田正也、音楽プロデューサーは佐々木麻美子。
出演は清水美砂、萩原聖人、白竜、高木尚三、藤田敏八、久里千春、朱源実、橘雪子、稲川実代子、吉村美紀、中村基子、大鷹明良、 岸部一徳、風間杜夫ら。


滝田洋二郎と一色伸幸の監督&脚本家コンビが、『僕らはみんな生きている』に続いて東南アジアを舞台にした作品。
『僕らは〜』は架空の国を舞台にしていたが、ロケ地は今回と同じタイ。
一色伸幸の脚本作では、『卒業旅行/日本から来ました』でもタイでロケを行っている(これも劇中の舞台は架空の国)。どうやら 一色伸幸は、この当時、タイにハマっていたようだ。
みすずを清水美砂、ジョイを風間杜夫、飛田林を萩原聖人、タチバナを岸部一徳、森を白竜、所を高木尚三が演じている。

みすずはジョイと飛田林に騙されたと知った直後、またジョイにカモられる。なのに彼女は、気持ち良さそうに笑っている。
「あまりの見事さに感心した」ということなのだろうが、その感覚が理解できない。
ただでさえ疎ましいツアー客の接待というストレスが溜まる作業を強いられており、そこに1度ならず2度も金を騙し取られるという 出来事が重なって、なぜ笑えるのかと。むしろ、騙し取られた自分の愚かさも含めて、さらにイライラが募るような気がしてしまうのだ。
「少なくとも自分だったら、そうなるだろう」と考えてしまい、みすずに同調することが出来ない。
ホテルのミスが発覚した後、何か吹っ切れたようにイメチェンし、カフェに乗り込んでパスポートを捌くよう持ち掛ける心情の流れも理解 に苦しむ。
そこで余裕の笑顔を見せるようなキャラではなく、ジョイたちからパスポートの換金を持ち掛けられて、オロオロしながらも巻き込まれる ようなキャラの方が、まだスムーズに受け入れることが出来る。
パスポート紛失事件をきっかけに、みすずのキャラが急に変わるんだが、それに馴染めない。

みすずの依頼を受けたジョイはルーにパスポートを売り捌くよう持ち掛けるが、その辺りで既に話としてズレが生じているような気がして しまうんだよな。
それは「詐欺」じゃなくて「取り引き」でしょ。
しかも、1ヶ月も待たされるので、マトモに金が貰えないという展開にでもなるのかと思いきや、普通に金は支払われる。だったら1ヶ月 も引っ張った意味が全く無い。
それまで観光客を騙すだけの小さな詐欺行為で金を稼いでいた飛田林が、なぜヤクザを相手にするような危ないヤマに手を出すのか、理解 に苦しむ。ジョイが「みすずの前で、いい格好をしたいのか」という風なことを言っており、それが理由として考えられるが、だとしたら 弱すぎる。
みすずもノリノリだが、こいつのキャラは捉え所が無くてサッパリ分からん。

リゾート地で3人を休憩させ、そこでロマンスを描写するが、冴えは無く、ただストーリー進行を沈滞させているだけとしか感じない。
バンコクに戻るとカーチェイスになるが、アクションシーンはそこだけで、中途半端なことをしているという印象しか受けない。
そんなモノよりも、コン・ゲームとしての面白さを追及すべきだったんじゃないのかと思ってしまう。
その後、みすずのアイデアによるコン・ゲームが展開されるが、その騙しのテクニックがチープ。
「逃げたのはブツの入手が遅れたからであり、飛田林が捕まったので釈放に賄賂が必要」などという説明が通用するのは、相手のヤクザ 2名がアホすぎるからだ。騙しの技術や弁舌が巧みだったからではない。
大体、タイ警察署への賄賂なのに、なぜバーツじゃなくて円なのかと。

みすずがニセの警察署でヤクザ2名を騙している間に、観客に対してネタを明かしてしまうのも、愚かとしか思えない(そういう意味では 、署長に成り済ましているルーを登場させるのもダメでしょ)。
ルーを絡めるのなら、単純な協力者にするのではなく、「パスポートの換金でトラブルが生じて、みすずたちとルーの組織の間で因縁が 生じていた。ヤクザを引っ掛ける際、同時にルーも巻き込んで、どちらも騙して金を手に入れる」というコン・ゲームにした方が面白く なったんじゃないか。
ニセ警察署のシーンの後、ヤクザがカフェへ行くと言い出し、そこにいたルーの手下が騙されていることをバラそうとして一悶着がある。
でも、そこでは大した騙しのテクが披露されるでもなく、ただの蛇足にしか感じない。
そんなモノを加えるぐらいなら、ニセ警察署のシーンを膨らませた方がいい。そもそも、ルーを引き入れてニセ警察署作戦を実行したのに 、なぜカフェにいるルーの手下が「みすずたちは詐欺師だ」と暴露して、その作戦を台無しにしようとするのか理解に苦しむ。

結局、「タイの観光映画。以上。」と、それだけで終わらせたいような映画だ。
観光映画としての価値しか無い。
それも最初からそういう狙いで作られており、明確に観光地を紹介してくれるというのではなく、結果的に観光映画という部分に価値を 見出さざるを得ないということだ。
そこで価値を見出さないと、この映画の存在価値がゼロになってしまう。

(観賞日:2009年4月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会