『寝盗られ宗介』:1992、日本

北村宗介一座の座長・宗介は、看板スターの妻・レイ子、若手のあゆみ、歌が下手な歌手ジミー、こまどり姉妹の亀井&種子といった出演者、レイ子の父・留造やウメといった裏方さん達と共に、全国を回ってインチキな内容の歌謡ショーを上演している。
ところが、レイ子は駆け落ち癖があって、しばしば姿を消してしまう。今回は、妻子のいる劇団員・謙二郎を伴なって消えてしまった。宗介は「レイ子は必ず帰って来る」と言い続けるが、幕が開く時間になっても彼女は戻って来ない。
仕方なく、宗介はあゆみを代役に立ててショーを始めた。ショーの途中でレイ子は謙二郎と共に戻り、舞台に立った。公演が終わった後、宗介は謙二郎に軽トラックを買い与え、劇団を辞めさせて妻子と共に田舎に帰らせた。しかし、宗介はレイ子と謙二郎に怒ることは無く、寛大な態度を取ることで勝った気分になるのだ。
宗介から「レイ子のような色気が無い」と言われたあゆみは、留造の紹介で東京の芸能プロダクションのマネージャー・北島と会った。北島は東京に出て来るよう勧めるが、あゆみは座長を裏切れないと言って断った。あゆみは宗介に惚れているのだ。
かねてから腹部の痛みを訴えることが多かったジミーが、ついに倒れて入院した。腎臓移植が必要だと医者に聞かされた宗介は、ジミーの田舎に出向いて彼の弟ユタカに腎臓を提供するよう頼んだ。宗介は青森の実家を訪れ、病床の父・大造に代わって建設会社を仕切る腹違いの弟・信二に頼んで手術費用を工面してもらう。
宗介は信二から新しい公民館の柿落とし公演を頼まれ、「ついでに俺の結婚式でもやるか」と口にしていた。だが、信二が結婚記念公演のポスターを持って一座に現れると、レイ子のいる前で「あれは冗談だ」と結婚式を否定してしまった。宗介はレイ子に、次回からあゆみに看板を張らせたいと告げるが、レイ子は激しく嫌がった。
宗介とレイ子の前に、かつてレイ子と駆け落ちをしたことがある外国人マックが現れた。国へ帰ることが決まっているマックは、今でもレイ子を愛していると告げた。宗介は小遣いを渡して、レイ子とマックを2人きりの温泉旅行に行かせた。
あゆみが宗介の前に現れ、東京に出て映画女優になると言い出した。最初は引き止めた宗介だが、最終的には快く送り出した。宗介はユタカに腎臓の提供を断られ、劇団員リイチに提供させようとするが、ジミーの意志もあって、自分が提供することになった。
宗介は、レイ子と結婚式を挙げて記念公演を行うことを決めた。だが、ジミーがレイ子と駆け落ちすると言い出した。宗介はジミーに小遣いを渡し、彼とレイ子を駆け落ちさせる。それでも宗介は、青森の結婚記念公演には必ずレイ子が戻ると信じていた…。

監督は若松孝二、原作&脚本はつかこうへい、製作は奥山和由、プロデューサーは清水一夫&若松孝二&斉藤立太、企画は中川好久、撮影は鈴木達夫、編集は鈴木歓、録音は久保田幸雄、照明は安河内央之、美術は丸山裕司、音楽は宇崎竜童。
出演は原田芳雄、藤谷美和子、久我陽子、筧利夫、佐野史郎、斉藤洋介、玉川良一、藤田弓子、吉行和子、山谷初男、岡本信人、柴田理恵、山田美雪、あき竹城、白川和子、小倉一郎、梅津栄、河原さぶ、六坂直政、倉崎青児、リチャード・バーガー、中沢青六、香川耕二、中川健次、川上泳、山根鉄仙、神戸浩、外波山文明、牧口元美、白井真木、飯島大介、田村寛、山梨ハナ、桜庭優姫、塚田吉之、樋渡正紀ら。


つかこうへいの舞台劇を、彼自身の脚本で映画化した作品。
宗介を原田芳雄、レイ子を藤谷美和子、あゆみを久我陽子、ジミーを筧利夫、信二を佐野史郎、北島を斉藤洋介、大造を玉川良一、留造を山谷初男、謙二郎を岡本信人が演じている。

冒頭から一座の公演風景が描かれるのだが、これが何とも冴えない。
まずドサ回りの猥雑とした雰囲気が欠けているし、慌ただしい様子も乏しい。
看板スターが消えたことへの焦りや苛立ちが見えてこそ、レイ子がいけないことをしているのだという印象が強まるのだが、別に彼女がいなくても大きな支障が無さそうにさえ感じられる。

宗介があゆみとウメに続けて愛を告白されて戸惑う場面は、そこまでがテンポ良く進んでいれば面白いのだが、マッタリしていてスカスカ感があるのよね。その前までが、テンポ良くトントンと進んでいれば、そのギャグシーンも流れに乗って行けたんだろうけど。
後半にも、ジミーが何かと理由を付けて宗介から金をせびり取るシーンがあるのだが、そこだけがポツンとあるので、笑いを薄めてしまう。とにかく全体のテンポが悪いんだな。あと、掛け合いの受け手が原田芳雄ってのも、ちよっと厳しいと思うし。

なんか、やたら移動シーンと舞台シーンで時間を使ってるが、そんなの大幅にカットして、宗介とレイ子の関係にもっと時間を割いた方がいいんじゃないだろうか。舞台シーンはワンパターンで平板で、面白さは全く無いし。そこの間を持たせるには、宗介にスタンダップ・コメディアンばりの話芸が無いと辛いと思うよ。そんなの無いし。

ハッキリ言って、原田芳雄も藤谷美和子もミスキャストだと思う。まず藤谷美和子だが、とてもじゃないがドサ回りの女優には見えない。洗練されすぎており、安っぽさが無いのだ。一方で舞台での芝居は安っぽいが、ドサ回りの役者はもっと芝居が上手いと思うよ。「色気がある」と劇中では言われているが、そんなに感じないし。
原田芳雄は、「強がっているけど情けないダメ人間」であるべきなのだが、彼が演じると弱さがあまり見えてこない。寝盗られを許しているのも、「ホントはイヤだけど」という所が見えず、完全に余裕で楽しんでいる風に見える。それが「カッコ付けてるけどカッコ悪い」じゃなくて、「カッコ付けてる」という部分で止まってしまうんだな。

ただし、どうやら宗介のキャラ設定そのものが、そうなっている節もある。卑屈な所、マゾヒスティックな所よりも、優しさや強がりが押し出されてる印象を受ける。だから、これは役者だけではなく、原作や演出の問題なのかもしれない。
宗介は、何度も自分の妻を寝盗られながらも怒ることは無く、むしろ駆け落ちの世話をしてやる。そんな彼の自虐的でマゾヒスティックな様子、どれだけ相手に裏切られても信じ続ける態度には、『蒲田行進曲』のヤスを連想させる所がある。

しかしながら、宗介はヤスのような「耐え続ける弟分」ではない。彼は一座のリーダーでもある。そして妻と間男に対しては卑屈な所を見せるが、一方で劇団員に悪態をついたり、建設会社でコーヒーを撒いたりする。そこでは、軽く銀ちゃんが入っている。
宗介は、銀ちゃん的な部分とヤス的な部分の両面を持っている複雑なキャラクターなのかもしれないが、内面が良く分からないから、それがファジーな印象となって伝わってくる。レイ子は、駆け落ちを繰り返しながらも宗介に強く奪い取ってもらいたいらしいが、そんな気持ちは見えないから、ただの浮気女にしか見えない。

一応は宗介とレイ子の恋愛が軸なんだろうけど、2人の複雑な心情が、あまり伝わってこない。だから、「男は妻の浮気を平然と許し、浮気男のセックスを応援したりする。女は色んな男と浮気する一方で、夫の腎臓提供に大反対するなど独占欲を見せたりする」という、風変わりな男女の形が不可解なままで提示されてしまう。
それだけではなく、周囲の男達も奇妙なのだ。口先だけでなく、心底から宗介を敬っているはずなのに、簡単にレイ子と浮気する。しかも、そのことを宗介に言う。ジミーなどは宗介に惚れているはずなのに、レイ子との駆け落ちを告げ、金までせびる。彼らの(特にジミーの)行動や態度が、どうにも理解不能な所に存在したままなのだ。
そういったクエスチョンが浮かんでしまう所をスムーズに持って行くためには、これを一種のファンタジーとして描く必要があると思う。
しかし、実際には、そうなっていない。
公演シーンを上手く使えば、ファンタジーに上手く入り込ませることが出来たかもしれないが。

 

*ポンコツ映画愛護協会