『眠らない街 新宿鮫』:1993、日本

新宿警察署防犯課の鮫島崇が町を歩いていると、外国人の売春婦が素性を知らずに話し掛けてきた。慌てて駆け付けたポン引きと売春婦の会話を耳にした鮫島は、一斉摘発の内部情報が漏れていることを知った。彼はポン引きを脅し、情報を漏らしたのが刑事の西尾だと聞き出した。鮫島はマンションの一室へ乗り込み、外国人売春婦と一緒にいる西尾を発見する。西尾は釈明するが、鮫島が耳を貸さないので隙を見て売春婦を逃がした。西尾は開き直り、「所轄の防犯なんて所はな、キャリアのいる所じゃねえんだよ。新宿鮫なんて言われて、いい気になってんじゃねえぞ」と怒鳴った。鮫島が西尾に手錠を掛けて新宿警察署へ連行すると、刑事の吉川や課長の桃井たちが驚いた。鮫島は桃井に、「収賄容疑で調書を取ります」と告げた。防犯課の面々は反発し、鮫島への不快感を露骨に示した。
ライブハウスへ出掛けた鮫島は、路上に車を停めている藤野組の若頭を発見した。鮫島は反抗的な若頭に「ここは駐禁だ」と言い、警棒で窓を叩き割った。彼は襲い掛かって来た若頭と手下を軽く捻じ伏せ、「公務執行妨害と銃刀法の現逮だ」と手錠を掛けた。すると様子を見ていた真壁という組員が鮫島に声を掛け、「ワッパのキー、頂けませんか。若頭、いい恥っさらしですから」と静かに告げる。鮫島は真壁の名を尋ねると、鍵を投げてライブハウスへ入った。
店内ではロックバンド「Who's Honey」がライブの真っ最中で、ヴォーカルの青木晶が熱唱していた。鮫島はステージへ乱入してマイクを握り、「警察だ。ライブは中止だ」と観客に告げる。彼はギタリストの克次に逮捕状を見せ、「トルエンのバイで逮捕する」と告げる。克次はギターをぶつけて逃げ出そうとするが、鮫島は投げ飛ばして取り押さえた。「警察らしいやり方だよ」と晶は批判するが、鮫島は無視して男を連行した。
翌日、鮫島が署に行くと、晶が待ち受けていた。彼女が壊したアンプの修理代30万円を請求すると、鮫島はレストランへ食事に連れ出した。彼がクレジットにしてほしいと頼むと、晶は承諾した。ライブが終わるまで待っても良かったんじゃないかと晶が批判すると、鮫島は「待ってたら藤野組にライブをメチャクチャにされてたぞ」と告げた。そこへ真壁が現れたため、鮫島は店内にいる中国マフィアを狙っているのではないかと推測する。
身体検査では何も出て来なかったが、真壁はポケベルに偽装した改造銃を持っていた。真壁は中国マフィアの幹部を射殺し、子分たちの逆襲を受けて深手を負った。鮫島は鑑識課員の藪に改造銃を調べてもらい、かつて自分が逮捕した木津要によって作られた物だと知る。同性愛者である木津は、去年の暮れに出所していた。鮫島は情報を得るため、新大久保にあるゲイ専門のサウナを訪れる。鮫島は中年男に追われたミユキという青年から、助けを求められた。
中年男は警察手帳を見せて脅しを掛けるが、鮫島の素性を知って黙り込んだ。鮫島はミユキに木津のことを尋ね、西新宿の『フラミンゴ』で会ったことがあると聞く。西新宿ではサミットのために大規模な検問が実施され、偽物の拳銃や手錠を大量に所持していた警察マニアのエドというフリーターが警官の荷物検査を受けた。鮫島はゲイバー『ママフォース』のママと会い、『フラミンゴ』の従業員を教えてほしいと頼んだ。
歌舞伎町を走った鮫島は、ヤクザに暴行されている砂上幸一という男を助けた。しかし砂上は礼も言わず、鮫島に「うるせえんだよ」と怒鳴って立ち去った。鮫島がライブハウスに到着すると、Who's Honeyの出番は終わっていた。晶は店に残っており、ライブごとに詩をくれる正体不明のファンがいることを鮫島に話した。翌日、鮫島はママの紹介で、『フラミンゴ』の従業員であるフユキと会った。彼はフユキに質問し、木津が前田和雄という青年と付き合っていたこと、しかし既に別れていることを聞き出した。
エドは銃砲店を訪れ、「また面白い物無い?」と店長に尋ねた。店長は本物のライフルを渡し、エドに試し撃ちをさせた。新宿で警官2名が射殺される事件が発生し、本庁公安の香田が現場へ到着した。野次馬の中には、エドの姿もあった。鮫島は藪から、犯人がライフルの弾丸1発だけで2人を殺していることを知った。香田が本庁から来ていることを聞いた鮫島は、過去を思い出す。鮫島が長野県警にいた頃、香田は罪の無い過激派の人間を脅迫してスパイに仕立て上げ、密告してリンチされるように仕組んだ。それを知った鮫島は憤慨し、ほろ酔いで車に乗り込んだ彼を飲酒運転で逮捕しようとする。すると泥酔していた香田の部下が模造刀で襲い掛かり、鮫島は後頭部に今も傷が残る怪我を負ったのだった。
晶はレコード会社のプロデューサーから、契約を持ち掛けられる。しかし売れる歌を作るために外部の人間を使うよう提案されると、彼女は「それだけじゃない歌ってあるから」と断った。鮫島はフユキから電話を受け、木津が『フラミンゴ』に来ていることを知らされる。彼は店を出る木津を車で尾行し、住んでいるアパートを突き止めた。鮫島は翌日から張り込みを開始し、木津の行動を観察する。そんな中、捜査本部には犯人から電話が入り、警視庁捜査一課の刑事が受話器を取ると「香田に伝えろ。また殺る。俺は警官が嫌いだ」と次の犯行を予告した。犯人はパトカーで巡回中だった警官2名を銃撃し、バイクで逃走した。
木津は鮫島の尾行に気付き、屋形船を営む鈴木という女の協力を得てモーターボートで逃走した。鮫島は桃井と食堂で朝食を取りながら、木津の逮捕令状を要請する。桃井が捜査本部会議で説明するよう提案して「ただし君のホシではなくなるぞ」と言うと、鮫島は「それでも構いません」と告げる。2人の姿を見た香田と部下たちは、わざと聞こえるように嫌味な言葉を並べ立てた。桃井は腹を立てて「ホシは奴らに渡せんな」と呟き、鮫島は「木津を噛みます。現逮なら令状は必要ありませんから」と口にした。
鮫島は鈴木と会い、木津の居場所へ案内するよう要求した。彼は川に浮かぶ作業船へ行き、警戒しながら中に入った。しかし鮫島の到来を予期していた木津は、扉を開けた途端に改造銃を発砲する。銃弾が耳元をかすめた鮫島は意識を失って倒れ、目を覚ますと手錠で柱に拘束されていた。鮫島が「警官殺しの銃、和雄にプレゼントしたのか」と訊くと、木津は「勝手に持ち出したんだよ。あの子は手癖が悪くてな。誰かに売ったんだろ。勝手に撃ちやがって」と不愉快そうに告げる。「どんな形の銃なんだ」という鮫島の質問に、彼は「絶対、銃には見えねえよ」と答える。木津は鮫島の体を弄んで楽しもうとするが、駆け付けた桃井に射殺される…。

監督は滝田洋二郎、原作は大沢在昌『新宿鮫』(光文社カッパ・ノベルズ刊)、脚本は荒井晴彦、企画は堀口壽一&岡田裕介、プロデューサーは河井真也&小林壽夫、製作は村上光一、プロデューサー補は古川恒一&加藤浩輔&宮澤徹、撮影は浜田毅、美術は徳田博、照明は渡邊孝一、録音は小野寺修、編集は冨田功、助監督は橋本匡弘、音楽は梅林茂、主題歌『眠らない街』は田中美奈子。
出演は真田広之、田中美奈子、奥田瑛二、室田日出男、松尾貴史、浅野忠信、矢崎滋、今井雅之、余貴美子、新井康弘、塩見三省、斉藤洋介、中丸忠雄、六平直政、丸岡奨詞、高杉亘、大河内浩、大杉漣、長谷川利也、星野一郎、秋葉伸実、森周一郎、岡崎牧人、大川ひろし、石田圭祐、佐藤英、日野陽仁、浅見小四郎、飯島大介、掛田誠、安藤麗二(アンドレ)、関根大学、水上竜志(現・水上竜士)、小西邦夫、佐和たかし、田原洋、ユキオ ヤマト、前原実、佐藤丈樹、石橋祐、中井信之、田崎正太郎、浅野久順、前田真作、小野田良、津久井啓太、赤尾マーサ他。


大沢在昌のハードボイルド小説シリーズ第1作『新宿鮫』を基にした作品。
監督は『病院へ行こう』『僕らはみんな生きている』の滝田洋二郎。
脚本は『リボルバー』『ありふれた愛に関する調査』の荒井晴彦。
鮫島を真田広之、晶を田中美奈子、木津を奥田瑛二、桃井を室田日出男、エドを松尾貴史、砂上を浅野忠信、藪を矢崎滋、香田を今井雅之、鈴木を余貴美子、吉川を新井康弘、西尾を塩見三省、鮫島を模造刀で襲う香田の部下を斉藤洋介、警視庁刑事部長の藤丸を中丸忠雄が演じている。

最初に感じるのは、「このキャスティングはどうなのよ」ってことだ。
鮫島役の真田広之は、年齢的にはそんなに外れちゃいないんだろうけど、イメージとしては違和感があるなあ。私は原作シリーズのファンじゃないので「小説と比べて云々」という比較は出来ないけど、ハードボイルドの主人公としては、ちょっと違うんじゃないかと。
良くも悪くも、真田広之ってフェイスが甘すぎるのよね。あと、何しろJAC出身なので格闘能力に長けた人なんだけど、何となく優男って感じがするし。
実際、この映画が何となく甘口になっちゃってるのは、やっぱり主役を真田広之が演じているのが大きく影響していると感じるわ。

しかし、もっと厄介なのはヒロイン役。田中美奈子が晶ってのは無いでしょ。ある意味、映画全体の質を左右しちゃうほどの強いパワーを持つ配役だわ。
そりゃあ、当時の田中美奈子はセクシーなタレントとして人気があったし、『学園祭の女王』と呼ばれたこともあった。歌手活動もしていたから、バンドのヴォーカル役ってのは「筋の通った配役」と言えなくも無い。
だけど正直、歌手としては決して高い評価を受けていたわけじゃないのよ。1995年で歌手活動は終了するけど、それはセールスが伸びなかったってのが大きな理由だろうし。
なので、そういう人を歌姫として起用している時点で、映画の質が問われるんじゃないかと。

そんな2人の恋愛劇も、どうにも魅力に乏しい。
まず「2人が惹かれ合う」という手順の時点で、まるでスムーズに感じない。どうやら出会って早々に惹かれ合ったってことのようだが、まるで乗れない。
そりゃあ、一目惚れってことなのかもしれんけど、引き付けられるモノを感じないってのが大きな欠点なのよね。いっそのこと、もう始まった時点で2人が交際している設定にでもしちゃった方が良かったかもしれないぞ。
この2人の恋愛劇をゼロから始めるには、そこがメインじゃないんだし、時間が足りないでしょ。どうせ2人の恋愛劇って、本筋と上手く絡んでいるわけじゃないんだし。

っていうかさ、「2人の恋愛劇が本筋と上手く絡んでいない」ってのは、ホントはマズい状態なんじゃないのか。
極端な話、そこの要素を排除したところで、終盤までは何の問題も無く成立しちゃうんだけど、それじゃあダメなんじゃないのか。鮫島にとって晶は、心が安らぐ唯一の場所を提供してくれる女であり、だから彼女の存在意義が生じるはずじゃないかと。
でも本作品に関しては、そこまでの価値を晶に感じない。
ただし、それでも「映画が始まった段階で付き合っている相手」なら、大して気にならなかった可能性は高い。
やっぱり、劇中で出会って交際に発展する関係だから、そこが引っ掛かっちゃうのよ。

香田は鮫島と再会した時、「宮本の手紙」について触れる。それを鮫島が渡さないせいで、いつまでも左遷された状態にあるという設定だ。鮫島と同期の宮本が死んだ時に自殺と発表されたが、実は警察上層部の派閥争いに巻き込まれた謀殺で、その真相が記されているのだ。
そのことを鮫島は、木津に捕まった時に詳しく語っている。「木津に殺されたくないから」ってことで喋る形なんだけど、そこでベラベラと喋っちゃうのは、なんか不恰好だなあ。
っていうか、そもそも、そんな設定って要るかね。
たぶん原作と同様にシリーズ化を目論んでおり、そこでも継続して使っていこうという狙いはあったんじゃないかと思われる。でも1作で終わったので、結果としては「無駄に目が散る要素」になってしまった。

メインの物語は「木津の捜索」という方向で進み始めるが、そこから殺人事件の犯人を突き止める話へと展開していく。いかにもイカれた奴という雰囲気を醸し出すエドの存在をやたらとアピールしているので、たぶん観客の疑いを彼に向けさせようとしているんだろう。
でも残念ながら、それがミスリードってのはバレバレなんだよねえ。何しろエドは警察マニアなんだから、警官を撃つわけがないだろうと思うわけで。
あと、フルフェイスの犯人がパトカーの警官を射殺してバイクで逃走する時点で、その見た目が明らかにキッチュとは違うしね。
それにキャラ的にも、キッチュが犯人じゃあ話として弱すぎるでしょ。

木津が実行犯なら話は早いが、そうじゃないことは最初から分かり切っている。彼はあくまでも改造銃の作り手であり、誰かを殺そうとする人間ではないからだ。
なので「彼の改造銃で警官を殺した犯人は誰なのか」という謎を解くために、鮫島は行動することになる。
その謎を解くために彼は木津を捕まえようとするわけだが、「実は木津に執着する意味って薄くねえか?」と途中で思ってしまった。
警官を射殺した銃は、和雄の手に渡っている。和雄はハワイへ行っているけど、彼の周辺を調べれば情報は入手できるんじゃないかと。
もちろんマークする対象に木津を入れるのはいいけど、彼だけに固執するのは「別の意味で興味があるのかね」と言いたくなるわ。

木津から解放された鮫島は晶の部屋を訪れ、無言のまま激しく抱き付く。そして彼女の服を脱がせて、体を求める。
そこは流れからしても、作品の雰囲気からしても、本来は晶が裸になっちゃった方がいい。とは言え、何しろ演じているのが田中美奈子なので、最初からヌードにならないことなど分かり切っている。
だから下着姿で留まるのは別に構わないが、なんで艶っぽさのカケラも無い灰色のスポーツブラとパンツなのかと。
そこはエロスの要素が必須じゃないのかと言いたい。言い含めたい。言いくるめたい。
ちなみにベッドシーンもあるが、もちろんオッパイも尻も画面には写らない。下半身はシーツを被って隠すという、不自然極まりないセックスになっている。

木津が鮫島の腹部をカッターナイフで切り付け、ベロベロと胸を舐め回して楽しもうとするシーンは、ホモセクシャルな魅力に満ち溢れている。
そして本作品のハイライトは、そこだと断言してもいい。
そもそも原作からしてホモ臭が強いんだから、そういう映画になるのは当然っちゃあ当然かもしれない。ただ、それって以降の展開には何の関係も無いのよね。
まあ晶とセックスする展開には繋がっているけど、それ自体の必要性が乏しいし。

もっと問題なのは、粗筋でも触れたように、木津が桃井に射殺されて途中退場してしまうことだ。
まあ原作通りだから仕方が無いんだろうけど、どう考えても木津って物語を牽引する重要なキャラクターだっただけに、彼が消えることで一気にパワーダウンするのよね。犯人じゃないにしても、最後まで鮫島に関わる存在として残した方が良かったんじゃないかと。
と言うのも、実行犯がキャラとして弱いのよね。それまでの存在感も、犯行の動機も、両方とも弱いのよ。
なのでクライマックスとして用意されている鮫島と犯人の対決も、イマイチ盛り上がらないのよ。

クライマックスの展開には晶が大きく関わって来るので、そういう意味では彼女の存在意義があると言えるのかもしれない。
ただし、犯人が彼女を標的にするというクライマックスの展開自体を、大幅に変えちゃってもいいんじゃないかと思うのよね。
それも含めて、あまり上手く機能しているように思えないので。
っていうか、「鮫島が木津を追う」という筋書きがあまりにも強すぎるせいで、木津が消えた後の展開が蛇足みたいな状態になっちゃってんのよね。

(観賞日:2017年4月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会