『夏服のイヴ』:1984、日本
幼稚園の先生を夢見て室戸から上京した21歳k藤枝牧子は、欠員待ちになりスーパーでアルバイトをしていた。ある日、フリーライターを 自称すると西丸秀和という男が声を掛けて来た。彼は「もっといいアルバイトを紹介しようと思ってね」と言い、下着モデルにならないか と誘った。腹を立てて断った牧子だが、なぜか秀和と恋に落ちた。初めてのキスは雨の中だった。
牧子は幼稚園を訪れ、園長に「なぜ採用していただけないんですか。半年経ったら来てみなさいと仰ったじゃありませんか」と詰め寄った 。しかし園長からは「残念ながら欠員がないんです」と言われてしまう。そんな牧子に、たまたま幼稚園で孫娘・ゆずと一緒にいた老女・ 桜井加代が「あの、突然ですが、孫のことで相談に乗ってもらいたいんです」と声を掛けて来た。
加代は「あの子は3月に母親を亡くして以来、友達と口を聞かなくなりました。婿は貿易商で仕事が忙しく、今もニュージーランドへ 行っています」と牧子に語り、「孫のために、就職が決まるまで家庭教師になってくれませんか」と頼んだ。ゆずの父である宗方征一郎の 屋敷で、住み込みの家庭教師をやってくれないかというのだ。牧子は征一郎に連れられ、屋敷を訪れた。宗方家の子供は小学5年生の長男 ・明、小学3年生の長女・すみれ、そして園児・ゆずの3人だった。
牧子から話を聞かされた秀和は、住み込みの仕事に大反対する。「だって、会えなくなるじゃないか。それに、親父に野郎に誘惑されたら どうするんだ」と彼は言うが、牧子は既に引き受けることを決めていた。牧子をルームメイトの飯田操と暮らすアパートまで送った秀和は 、部屋に上がらせるよう要求した。それを断られると、今度はラブホテルへ連れて行こうとする。牧子が批判すると、秀和は彼女を罵倒 した。激怒した牧子がラブホテルへ行こうとすると、秀和は「悪かった、謝るよ」と詫びた。
牧子は家庭教師の仕事を開始し、子供たちも彼女に懐いた。数日後、征一郎がニュージーランドから戻ってきた。部屋にお茶を運ぼうと した牧子は、彼が加代に「困りますね、勝手に決められちゃ」と言っているのを耳にした。征一郎は履歴書を見ながら、牧子に父親の職業 や身許保証人のことを質問した。牧子の母・さくらは良市という男性と再婚し、夫婦で洋品店を営んでいた。牧子は征一郎がおっかない人 だと感じ、少しブルーになった。
休日、牧子は秀和とのデートに子供たちを連れて行った。「急にみんなで行くことになったの」と牧子は言うが、秀和は「わざと連れて 来たんだろう」と不機嫌になった。秀和は牧子に、借りていた金を返した。「下北沢に中古マンション借りようと思うんだけど」と言う 秀和に、牧子は「貯金した方がいいんじゃない?」「大学へ戻る気は無いの?ちゃんとした就職が出来るでしょ」と告げる。しかし秀和は 「俺はいつも自分をフリーにしておきたい。生活の向上より人生を楽しむ時代さ」と聞く耳を貸さなかった。
クリスマスイヴ、牧子は秀和と過ごすことになっていた。ところが征一郎が何時になっても戻らない。「会議が終わらない」という電話が 入り、ゆずは泣き出してしまう。加代が「貴方はもう」と帰るよう牧子を促すが、彼女は「いえ、ここにいます」と留まり、子供たちを 元気付けて一緒に歌った。子供たちが寝静まってから、ようやく征一郎が帰宅した。牧子は「今日は何の日だかご存知ですか。ひどいじゃ ないですか。私まで約束をすっぽかすことになって。親としての責任を感じないんですか」と責めた。
征一郎は牧子の非難を受け流し、彼女と加代に「ニュージーランドで暮らすことになります」と告げた。会社の成績が芳しくないため、 規模を縮小して本拠をニュージーランドに移すことにしたというのだ。手形を決済するため、屋敷は売却するという。征一郎は加代に、 実の息子の元へ戻るよう頼んだ。「子供たちはニュージーランドに連れて行く。メイドを雇う。年が明けたらすぐに行く」と彼は語る。 彼は牧子に「君には世話になったが、こういう事情だから別のアルバイトを見つけてくれ」と告げた。
牧子は秀和のマンションへ行き、「昨夜はどうもすいませんでした」と低姿勢で謝った。彼女は事情を説明し、ニュージーランドへ付いて 行くことは断ったと述べた。「いつ幼稚園の採用が来るか分からないし、私には貴方がいるんだもん」と彼女は言い、「貴方と離れたく ないの」と秀和に抱き付いた。牧子は秀和と肉体関係を持ち、「貴方の生き方、分かるように努力するわ」と告げた。
年が明けて宗方一家が出発することになり、牧子は空港へ見送りに赴いた。「色々ありがとう」と征一郎は握手を求め、「辛い時ほど、 笑顔で頑張ってほしい」と牧子に告げた。牧子は秀和との同棲生活に入り、再びスーパーでのアルバイトに戻った。牧子が「2人で四国へ 行かない?室戸だったら何とかなるかもしれないわ」と持ち掛けると、秀和は「じゃあ俺はどうするんだよ。幼稚園の送迎バスの運転手 でもしろっていうのか。お互いの可能性を束縛するのはやめよう」と告げた。
ある日、牧子が一人で部屋にいると、江尻章子という女がやって来た。彼女は「ヒデ、いる?」と言うと、いきなり部屋に上がり込んだ。 章子は「忠告しておくけどね、西丸の財産狙ってるんだったら外れだよ。あいつはとっくに勘当されてるんだから」と言う。「財産?秀和 さんのお姉さんですか」と牧子が訊くと、章子は「バカ言わないでよ。私は、あいつの子供を2回も堕ろしてんのよ」と怒鳴った。「この ジャンパーだって、ギターだって、ステレオだって、みんな私が買ってやったのよ」と喚き、彼女は暴れ出した。
牧子は怖くなって部屋を飛び出し、操のアパートに舞い戻った。牧子は「私、悔しいのよ」と泣き、「別れる。愛してたって、許せること と許せないことがあるのよ」と告げた。しかし秀和が現れて「誤解があるんだよ。結婚してくれよ」と言うので、牧子は困惑する。秀和は 喫茶店に彼女を連れて行き、「エンゲージリングのつもりなんだけど」とプラチナの指輪を差し出した。
牧子は「何がエンゲージリングよ。ちゃらんぽらんもいいとこ」と怒り、「貴方は一体、何者なの」と尋ねた。秀和は「分かったよ。正直 に言うよ。親父は北海道選出の元代議士で、乳牛の牧場を持っていて、不動産屋とホテルを経営している」と打ち明けた。それから「お袋 に会ってくれないか。牧子のこと話したんだ。そしたら明後日、飛んでくるって」と牧子に告げた。
2日後、牧子はホテルで秀和の母・富子と会うことになった。その直前になって、秀和は「一つだけ頼みがあるんだ。君は土佐の旧家の娘 ってことになってる」と言い出した。「あたしに嘘をつけって言うの」と怒る牧子に、彼は「突破口を作るためには作戦が必要なんだよ」 と告げる。しかし実家に関する質問に上手く答えられず、牧子は嘘をついていたことを富子に明かした。
アパートへ戻った牧子の元に、ニュージーランドの宗方一家からのエアメールが届いた。子供たちの手紙には「クライストチャーチという 街にいるので来てほしい」と書かれてあり、征一郎の手紙にも「勝手なお願いなんですが、しばらく、こちらへ来てもらえないだろうか。 もちろん、費用は全てこちらから送ります」と綴られていた。すぐに牧子は、ニュージーランドへ飛んだ。
クライストチャーチに到着した牧子は、空港まで迎えに来た宗方一家と再会した。征一郎に名所案内をしてもらいながら、牧子は一家の 暮らす家へ到着した。征一郎は「君にはこの部屋を使ってもらう」と牧子を部屋に案内し、「本当に良く来てくれたよ。子供たちも 喜んでる。今夜は僕が美味いラムステーキを作ってあげる」と告げた。一方、酔っ払った秀和は操のアパートに行き、「牧子いますか」と 激しくドアをノックする。彼は操を突き飛ばして部屋に上がり込んだが、すぐに追い出された。
牧子は宗方一家と一緒に、ニュージーランド観光を楽しんだ。家に戻り、牧子と征一郎は2人になった。征一郎に「子供たち、すっかり 明るくなった。君が来てくれて」と言われ、「そうでしょうか。私はお父さんの影響だと思います。宗方さんは日本にいらっしゃる時と 、ずいぶん変わりました」と牧子は告げる。「私がなぜニュージーランドへ来たか、ホントの理由はお分かりにならないでしょうねえ」と 牧子が口にすると、「失恋、かね?」と征一郎は見抜いた。
秀和は牧子の実家に押し掛け、家族に「とにかく会わせてください」と詰め寄った。牧子がニュージーランドにいることを知った秀和は、 手紙を書いて送った。しかし牧子は手紙を開封せず、そのまま燃やした。夜中に秀和から国際電話が入るが、「手紙読んでくれた?」と 訊かれて「読むもんですか。すぐに焼き捨てたわ」と即座に答え、「二度と電話なんか掛けないで」と切った。
イースター休暇になって、牧子は宗方一家と共にサウスアイランド一周のドライブ旅行へ出掛けた。夜、子供たちが寝た後で、牧子は 征一郎に呼び出された。夜空の下で、2人は熱い口づけを交わした。征一郎は「これはプロポーズだ。家庭教師じゃなく、僕の妻として、 一緒に傍にいてくれないか。後で、ゆっくり落ち着いて考えて欲しい。返事は、この旅行が終わる日に」と告げた。
牧子と一家が旅行を続けていると、秀和がやって来た。征一郎が子供たちを車内に移動させると、秀和は牧子とヨリを戻そうと執拗に アプローチした。彼は征一郎に、「俺たちは愛し合ってるんです」と堂々と言い放つ。牧子は冷たく突き放し、車で出発した。しかし秀和 が自転車で追い掛けて来たので、征一郎は車を停めた。「こうなったらとことん付いて行く」と秀和が言うので、征一郎は「子供たちの 前では絶対、言い争ったり揉め事を起こしたりしないこと」と約束させ、連れて行くことにした。
秀和の執拗なアプローチに辟易した牧子は、「私、プロポーズされたの。もう妊娠してるの」と言い出した。激昂した秀和は、征一郎に 殴り掛かる。しかし征一郎は軽くかわし、逆にパンチをお見舞いした。彼は牧子に「なぜ嘘をつくんだ」と言い、秀和に「彼女は妊娠 なんてしてないよ」と告げた。征一郎が「自分一人で突っ走っちゃいけないな。愛というのは相手の感情を優先させることだよ」と忠告 しても、秀和は全く聞き入れようとしなかった。
レストランで夕食を取ることになったが、秀和はロビーのソファーに座り込んでいた。そこへ明とすみれが来ると、彼は「牧子を俺に 返してくれよ。君たちのお母さんには若すぎると思わないか。かわいそうだと思わないか。な、頼むよ」と言う。翌日、一行は立体迷路を 訪れ、競走することになった。次々にゴールする中、秀和だけが全く出て来ない。そんな中、征一郎は秀和が明とすみれに「お姉さんを 返してくれ」と言ったことを知り、ルール違反に怒って彼を置いて行くことにした…。監督は西村潔、原案・脚本はジェームス三木、企画は相澤秀禎、製作は小林桂子、撮影は加藤雄大、編集は武田うめ、録音は近田進、照明 は大沢輝男、美術は樋口幸男、イメージクリエーターは松本隆、音楽は日野皓正、音楽プロデューサーは若松宗雄。
主題歌「夏服のイヴ」作詞は松本隆、作曲は日野皓正、編曲は笹路正徳、歌は松田聖子。
出演は松田聖子、近藤正臣、野際陽子、羽賀研二、名古屋章、加茂さくら、朝比奈順子、風見章子、岩城徳栄、堺左千夫、 山越正樹、近藤光子、近藤花恵、坂野啓、伊藤留美、デビッド・テレフォード、ジャニス・グレイ、グレッグ・テイト、 マルセラス・ヴァンファスト他。
松田聖子の主演第3作。
牧子を松田聖子、征一郎を近藤正臣、富子を野際陽子、秀和を羽賀研二、良市を名古屋章、しのぶを加茂さくら、 章子を朝比奈順子、加代を風見章子、操を岩城徳栄、幼稚園長を堺左千夫が演じている。
ちなみに監督の西村潔は後に女湯を盗撮して逮捕され、脚本のジェームス三木は関係を持った女性に関する差別的な記録を付けていること やDVを別れた奥さんに暴露され、羽賀研二は言わずもがなで、そのように、後になって女性関係で問題を起こすメンツが集まった映画 である。この映画の致命的な欠陥はハッキリしていて、それは「征一郎と秀和の二択なら、どう考えたって征一郎を選ぶべきだろ」と思ってしまう ことだ。
完全ネタバレだが(まあ言わなくてもバレバレだろうが)、牧子は最後の最後で秀和を選ぶ。
だが、彼女が下した決断に、全く共感できないのだ。
征一郎と秀和って、「微妙な差だけど征一郎」とか、「秀和も悪くないけど」とか、そういうレベルじゃないのよ。もう圧倒的に征一郎 なのよ。
秀和なんて、ヒロインの相手役として、全く魅力を感じないぞ。そりゃあ征一郎だって、「ラブ・イズ・ブラインド。愛は盲目って言うじゃないか」と臭すぎるセリフを口にするなど、「アンタはカッコ 付けすぎだ」と言いたくなるような部分もある。
だけど、秀和と比べたら月とスッポンだ。
秀和は、とにかく一つとして良い所を挙げることが出来ないぐらい、徹底的に不愉快な男なのだ。ただの身勝手で自己中心的で気の短い ストーカー野郎なのだ。
ただし、牧子も人間性に相当の問題がある女だ。
そもそも、秀和のような男に惚れている時点で、共感を誘わない。牧子と秀和というバカップルの物語を詳細にチェックしていこう。
まず、秀和が自称フリーライターで「時にはルポライター。時にはゴーストライター。時にはカメラマンの助手を務める」と言っている ところからして、うさん臭い野郎だと感じる。
おまけに、牧子を下着モデルにスカウトしようとするし。
ところが牧子は「世の中って不思議です。その秀和に私は恋をしてしまったのです」とモノローグを語っている。
本人が思っている以上に、こっちは不思議だと感じるぞ。
どこに惚れたのかサッパリだよ。牧子から家庭教師の話を聞かされた秀和は「親父に野郎に誘惑されたらどうするんだ」と大反対し、嫉妬深そうな性格を露にする。
さらにアパートまで送ると、「コーヒー飲ませろよ」と上がり込もうとして、断られると「じゃあキスさせろよ」と言う。
とにかく彼は性欲が有り余っていて辛抱たまらん様子だ。
キスも断られると苛立ち、「よその家の子供と俺と、どっちが大事なんだよ」「よし、部屋がダメならラブホテルだ。どうしても 連れてくぞ。もう我慢の限界だからな」と言い出す。さすがにオツムの悪い牧子も腹を立てて、「私は何なの。セックスの対象にされるだけ?」と言うが、秀和は逆ギレし、「勿体ぶってカビ が生えないようにな」「二十歳過ぎて処女なんて似合わないんだよ。もし体に欠陥があるんだったら医者にでも診てもらった方がいいね」 と罵倒する。
最低だろ、こんな男。
ところが牧子は、「悪かった、謝るよ」と秀和が詫びを入れると、すぐに「バカ」と言って抱き付いている。
こいつら、完全にバカップルである。秀和は金遣いが荒いようで、牧子に金を借りている。
借金を返すと、すぐに「下北沢に中古マンション借りようと思うんだけど」と口にする。
「大学へ戻る気は無いの?ちゃんとした就職が出来るでしょ」という牧子の忠告に対しては、「ちゃんとした就職って何?企業の 奴隷になること?俺はいつも自分をフリーにしておきたい。生活の向上より人生を楽しむ時代さ」と反論する。
こういう彼の態度や考えは、最後まで全く変わらない。
「最初はどうしようもない男だったが、牧子と触れ合う中で、あるいは様々な体験を経たことで、人間的に成長する」というドラマは 無いのである。牧子も牧子で、家庭教師のバイトがキャンセルになると、すぐさま秀和の元へ行き、「ニュージーランド行きは断った。私には貴方が いるんだもん」と調子のいいことを言う。
で、肉体関係を持つと、「貴方の生き方、分かるように努力するわ」と言い、そこから同棲生活に突入する。
尻軽な女だよなあ。
だけど秀和の生き方を分かるように努力しても、何もいいことなんて無いぞ。秀和が女を二度も孕ませていたことが判明し、牧子は彼と別れることを決意する。
ところが彼から「親父は元代議士で、乳牛の牧場を持っていて、不動産屋とホテルを経営している。お袋に会ってくれ」と言われると、 それを承諾する。
本人、「西丸家の財産に目が眩んだわけではありません。でも、全く興味が無かったと言うと、嘘になります」と、金目当てをモノローグ で明かしている。秀和は牧子に「君は土佐の旧家の娘ってことになってる」と、母親に会わせる直前になって言い出す。
「突破口を作るためには作戦が必要なんだよ」と言うが、会う直前で準備が足りないので、すぐにボロが出てしまう。
その辺りが秀和のボンクラなところだ。
こりゃ無理だと悟った牧子は真実を明かし、部屋を出る。
で、追い掛けてきた秀和が「何もかもブチ壊しじゃないか」と言うと、牧子は「恥知らず」とビンタしているが、アンタも彼に付き合って嘘を つこうとしたでしょうに。
秀和のことを怒れる立場じゃないぞ。征一郎から「ニュージーランドへ来てもらえないか」という手紙を受け取ると、牧子は何の迷いも無く飛行機に乗り込む。
なんせ費用は全て征一郎が持ってくれるのでね。
一方の秀和は操のアパートに勝手に上がり込んで部屋を荒らすという、警察を呼ばれても仕方が無い行動に出る。
牧子に国際電話を掛けると、「宗方にやられちゃったんじゃないだろうな」と下品な勘繰りを入れる。ついに秀和は、ニュージーランドまで押し掛けるというストーカー行為に及ぶ。
征一郎は「その熱意に免じて」と同行させることにするが、「私たちは休暇を取って、家族旅行を楽しんでるんだ。子供たちの前では絶対 、言い争ったり揉め事を起こしたりしないこと」と約束させる。
その時点では「誓います」と言う秀和だが、なんせジコチュー男なので、後になって子供たちに「牧子を俺に返してくれよ」と言い出し、 平気で約束を破っている。牧子が「私、プロポーズされたの。もう妊娠してるの」と嘘をつくと、途端に秀和は激昂して征一郎に殴り掛かる。
秀和が牧子に暴力を振るうことは無いが、すぐにカッとなって荒れるシーンは何度もある。
牧子のルームメイトの前でも、両親の前でも、一つ間違えると暴力を行使しそうな気配があった。
彼は感情のコントロールが全く出来ていない。
確実にDV予備軍である。
征一郎が「自分一人で突っ走っちゃいけないな。愛というのは相手の感情を優先させることだよ」と含蓄のあるアドバイスをしても、秀和 は「貴方は牧子が役に立つから、子供に懐いてるから結婚を申し込んだだけで、ホントは誰でも良かったんでしょう」と失礼なことを言い 、牧子にも「君はファザコンだから、くたびれた中年男なんかに引っ掛かるんだ」と悪態をつく。
この男、最後まで「相手の感情を優先させるさせる」ということは学習しないまま、自分一人で突っ走っている。とどのつまり、これは「バカ女とクソ野郎が付き合って、ケンカして、ヨリを戻しました」という話で、そんなのを映画で描かれても、 どうしていいのやら。
「見えないトコで勝手にやってろ」って感じだよ。
この2人、確実に別れるぞ。断言できる。
まさか、「ここで描かれているヒロインと秀和の関係は、当時の日本では大多数が賛同できる恋愛観だった」というわけでもあるまい。
そうだったとしたら、当時の日本は完全に狂っていたとしか言いようが無いぞ。ちなみに、個人的に最もテンションが上がったのは、牧子が幼稚園を訪れたシーン。
この時、園児たちは『チェッチェッコリ』の音楽に合わせて踊っているので、「おお、チェッコリじゃん」と、ちょっと嬉しくなった。
チェッコリってのは、「チェッチェッコリ、チェッチェッコリッサ、リサリサマンガン、ホンマンチェチェ」というナンセンスな歌ね。
ガーナ民謡を基にした歌で、日本ではCMで使用されてちょっとしたブームにもなったが、そもそもはジャンボリーで初めて紹介された ものだ。(観賞日:2010年7月4日)