『ナラタージュ』:2017、日本
映画配給会社で働く工藤泉は夜遅くまでオフィスに残り、親友の山田志緒と電話で話した。志緒は高校時代から付き合っていた黒川博文と結婚し、赤ん坊を出産していた。泉は赤ん坊の写真を送信してもらい、黒川に似ていると告げる。電話を終えた泉は大雨が降っている外の様子を眺め、懐中時計を取り出した。そこへ同僚の宮沢慶太が外出先から戻り、「まだ残ってたんですね」と言う。泉はタオルを差し出し、「これで拭いて」と促した。
宮沢は懐中時計に興味を示し、見せてもらって「凝った細工をしている」と語る。祖父が骨董屋で、子供の頃から古い物が好きなのだと彼は説明した。時計が止まっているので宮沢は竜頭を巻こうとするが、泉が「あっ」と口にしたので懐中時計を返した。雨が降ると良く懐中時計を見ていることを指摘された泉は、過去を思い出した。泉が大学2年生だった夏の初め、葉山貴司から突然の電話があった。驚いた彼女は一瞬、言葉を失った。
葉山は泉が時修学院高等学校に通っていた頃、演劇部の顧問だった教師だ。今も彼は演劇部の顧問を続けており、今年の部員が3人だけになったのでOBの泉&志緒&黒川に参加してほしいのだと説明した。泉は卒業した後も、葉山と一緒に撮った写真や渡せなかった手紙を大切に持っていた。泉が卒業以来となる母校に戻ると既に志緒と黒川は来ており、部員の塚本柚子&新堂慶&金田伊織も集まっていた。その日は柚子の誕生日で、新堂たちはケーキを用意してお祝いした。そこへ葉山が現れると、黒川は連れて来た親友の小野玲二を紹介した。男の人数が足りないと葉山に聞いていた黒川が、大学1年の時に少しだけ演劇経験のある小野に助っ人を頼んだのだ。みんなと一緒にケーキを食べながら、泉は高校時代を振り返る。高校3年生の時、彼女は葉山に誘われて演劇部に入っていた。
今年の演劇部は『夏の夜の夢』を公演することになっており、泉たちは配役を決めた。泉は社会科準備室で葉山と2人になり、「最近、なんかいい映画ありました?」と質問する。葉山は「今、同じこと訊こうと思ってた」と軽く笑い、泉も微笑した。彼女は卒業後の進路について問われ、映画の配給会社を希望していることを話した。葉山は卒業式前に借りていたDVDを返し、「ちょっと変わったね」と言う。しかし泉が詳しく訊こうとすると言葉に詰まり、「でも、大人になったってことなんだろうね」とだけ口にした。すると泉は、「先生は相変わらずですね。そうやって言おうとしてたことを、途中でやめちゃう所」と指摘した。泉は葉山と別れた後、ずぶ濡れになっていた自分を彼が呼び止めた高校時代を思い出した。
後日、泉は志緒、黒川と共に、小野のアパートへ遊びに行く。小野が飲み物を買いに出ると、泉は近くでお金を卸すために同行した。志緒は黒川から、小野が先輩の彼女にしつこく言い寄られたて演劇部を辞めたことを聞いた。志緒からそのことを指摘された小野は、困ったように「黙ってろって言ったろ」と黒川に言う。志緒と黒川がからかうと、泉は「モテるんだね」と軽く笑った。彼女が「誰かの物を好きになったことは無いんだ?」と尋ねると、小野は「無いでしょ、そういうのは」と即答した。
別の日、柚子は稽古中に台詞が出て来なくなり、泉に後ろから触れられて怯えるような様子を見せた。泉は進路について尋ね、葉山が推薦も狙えると言っていたことを教える。すると柚子は葉山が担任でもないのに常に気に掛けてくれていることを話す。「私も先生には助けてもらったなあ」と泉はと言い、心配事があれば相談するよう勧めた。高校時代、泉は陰湿なイジメを受け、何も気付かない教師から冷たい対応を取られた。そんな中で葉山だけが彼女の異変に気付き、優しく接した。
泉は社会科準備室に通うようになり、葉山を好きになった。卒業が近付いた頃、彼女は自分の気持ちを伝えようと決意した。「先生は恋人いるんですか?」と彼女が質問すると、葉山は結婚していたこと、今は1人であることを話す。妻の美雪には神経質な部分があったが、葉山は母との同居を望んだ。しかし2人の折り合いは悪くなる一方で、美雪は庭の倉庫に火を付けた。母がいると知りながら家にも放火するつもりだったことを、美雪は葉山に語った。
話を聞いた泉が「その人は、今は?」と訊くと、葉山は「東京の実家にいる」と答える。「その人とは、別れたんですか」という泉の質問に、彼は「うん。別れた」と告げた。泉が「私、先生の力になりたいです」と口にすると、葉山は「自分の幸せ、ちゃんと見つけてよ」と述べた。別の日、泉は小野に誘われ、彼の仲間が出演している演劇を見に出掛けた。観劇後に2人は居酒屋で夕食を取り、「付き合ってる人、いないの?」と泉が問い掛けると小野は「いないよ」と答えた。彼は靴職人になりたいという夢を語り、試作品を見に来ないかと誘う。小野はアパートに彼女を招き入れ、試作品を履いてもらう。彼は泉を抱き締め、「工藤さんのこと、好きだ」と告白する。しかし泉は「ごめん」と言い、靴を脱いで部屋を後にした。
泉が外に出ると大雨が降り出しており、傘を持っていない彼女は高校時代の出来事を思い出す。映画館で『エル・スール』を見た帰り、外は雨だが泉は傘が無くて立ち尽くしていた。すると後ろから葉山が現れて傘を差し、彼女に歩み寄った。彼は駅まで泉と歩き、『エル・スール』について語り合った。アパートから雨に濡れて帰宅した泉は風邪をひき、アパートで寝込んで稽古を休んだ。すると葉山が見舞いに来て、彼女の世話を焼いた。「あれから恋人作ったりしなかったんですか」と泉が訊くと、彼は「僕は相変わらず。何も変わらないよ。そういう相手は、作る気が無い」と答えた。
「気が無いなら、どうしてこんなに優しいことするんですか。先生は私の気持ち、知ってましたよね」と泉が言うと、葉山は「卒業して現実に立ち返ったら、僕のことは負担になる。そうなったら、君は優しいから、苦しむと思った」と釈明した。泉が「私は卒業してからもずっと会いたくて、連絡が来るのを待ってました。私のこと、どう思ってるんですか」と訊くと、彼は黙り込む。葉山は「今日は帰るよ」と言い、アパートを去った。卒業式の後、泉は社会科準備室で葉山と2人きりになった。葉山は彼女にキスをするが、それ以上の進展は無かった。
泉は風邪が治り、稽古に復帰した。小野は彼女の様子を見て、葉山が好きだと見抜いた。「ハッキリ教えてくれれば良かったのに」と彼が言うと、泉は「葉山先生は私の気持ちを知っていて。でも応えてはもらえない思いだから」と告げた。朝から雨が降った日、葉山の都合が悪くなったため、自主練に変更された。映画館で『浮雲』を見た帰り、スマホを見た泉は葉山からの着信に気付いた。葉山は酒を飲んで車が運転できなくなっており、泉は現場に赴いた。彼女は代わりに運転し、葉山を家まで送り届けた。
葉山は泉に、美雪の父から突然の連絡があったこと、今までは会いに来ることを拒否されて手紙の返事も無かったことを話す。喫茶店で義父と会った葉山は、美雪の執行猶予期間も終わって良く笑うようになったので、東京に戻って来ないかと促された。葉山が「いいのかな、会いに行っても」と車中で漏らすと、泉は「会いたいんですね」と言う。葉山が「傷付けるだけだと思ってたから。どうしたらいいのか分からない」と口にすると、彼女は「私に何か出来ることありますか。何でもします」と告げた。
葉山は泉を家に招き入れ、髪を切ってほしいと頼む。泉は浴室で葉山にキスをした後、「先生は私に、奥さんとは別れたって言いました」と指摘する。「離婚してなかったんですか」と問われた葉山は、「何度も話そうと思ってた。ごめん」と詫びた。2人はシャワーでずぶ濡れになって抱き合うが、それ以上のことは無かった。それ以来、2人は稽古の最中も目が合うことは無くなった。文化祭の公演は無事に終わり、葉山は泉に「ありがとう」と礼を言って握手した。しかし泉は葉山と会えなくなることから、明日からどうすればいいのかと寂しく感じた。
実家に帰る小野は泉を誘い、バイクに乗せた。小野が京都の実家に着くと、彼の家族は泉を歓迎した。泉は小野に、高校2年まで仲良しだった子が転校して3年の新しいクラスに馴染めなかったこと、孤立して学校にいるのが辛くなったこと、そんな時に葉山から演劇部に誘われたことを語った。「やっぱり工藤さんのこと、好きだ」と言われた泉は、彼と付き合うことにした。彼女は葉山のことを思いながら小野に抱かれ、彼に貰った靴を履いた。
深夜に葉山から着信があり、泉は小野に気付かれないよう電話に出た。小野に「君と話をしたくなって。どうして僕にあんなに心を開いてくれたの?」と言われた泉は、「学校で何かありました?柚子ちゃんですか」と問い掛ける。葉山は何も答えず、泉小野と付き合っていることを話す。すると葉山は「そうか。安心してよ。もう連絡しないようにする」と言い、電話を切った。後日、泉は小野から深夜に抜け出した日のことを訊かれ、電話が掛かって来たことを明かす。小野は携帯を見せるよう要求し、葉山からの着信を見つけて問い詰める。小野は嫉妬心で声を荒らげ、泉を責め立てた…。監督は行定勲、原作は島本理生(「ナラタージュ」角川文庫刊)、脚本は堀泉杏、製作は佐野真之&市川南&藤島ジュリーK.&堀内大示&弓矢政法&倉田奏補&橋誠&荒波修&古賀俊輔&吉川英作&小川真司、エグゼクティブ・プロデューサーは豊島雅郎&上田太地、プロデューサーは小川真司&古賀俊輔、共同プロデューサーは吉澤貴洋、撮影は福本淳、照明は市川徳充、編集は今井剛、衣装デザインは伊藤佐智子、美術は相馬直樹、録音は伊藤裕規、音楽は めいなCo.、主題歌『ナラタージュ』はadieu。
出演は松本潤、有村架純、坂口健太郎、大鷹明良、瀬戸康史、大西礼芳、古舘佑太郎、神岡実希、金子大地、駒木根隆介、堀ちえみ、武発史郎、市川実日子、三浦誠己、西牟田恵、山本真由美、小出優子、河島辰徳、伊藤沙莉、山内優花、宮澤竹美、舛行倭、ぶらっくすわん、小松もか、柿本朱里、大崎章、高橋幸聖、松本結菜、南岐佐、武内煌、岸田結光ら。
島本理生の同名小説を基にした作品。
監督は『真夜中の五分前』『ピンクとグレー』の行定勲。
脚本は『真夜中の五分前』『ジムノペディに乱れる』の堀泉杏。
葉山を松本潤、泉を有村架純、小野を坂口健太郎、美雪の父を大鷹明良、宮沢を瀬戸康史、志緒を大西礼芳、黒川を古舘佑太郎、柚子を神岡実希、慶を金子大地、伊織を駒木根隆介、小野の母を堀ちえみ、小野の父を武発史郎が演じている。
行定勲は原作が刊行された2005年頃から映画化を構想しており、ようやく念願が叶った形となった。行定勲が最初に脚本を書いた頃に映画化できなかったのは、どうやら分かりやすいドラマ性に乏しかったってことが大きかったようだ。
簡単に言うと、「興行として難しいからスポンサーが集まらない」ってことだ。
しかしプロデューサーの小川真司は単館系の小規模な映画ではなく、大々的に公開されるメジャー映画としての可能性を原作に見出した。
そこで「教師と教え子の恋愛」や「三角関係」という部分に着目し、脚本を改変して映画化を進めることになったようだ。でも実際のところ、この作品が映画化できた一番の理由ってのは、間違いなく「松本潤が主演を務める」という要素だよね。
何しろ大人気グループ「嵐」の松本潤が主演を務めるんだから、それだけでスポンサーは食い付いてくれるでしょ。
しかもヒロインは有村架純だし。
あと、これを映画化できたのって、実はTVドラマ『昼顔』の大ヒットも影響しているんじゃないかなあ。あれは不倫を描いた作品で、こっちも不倫だしね。「葉山が泉に電話して文化祭の手伝いを頼む」という回想部分の導入部からして、ものすごく引っ掛かるんだよね。
3人しかいないのなら、その人数で公演できる演目にすればいいでしょ。
「演劇部」としての公演なんだから、基本的には自分たちだけでやるべきだし。
これが「手伝いってのは名目で、葉山の本当の目的は泉に会うことだった」という設定なら、何の問題も無いのよ。だけど、そういうことでは無さそうなんだよね。回想シーンでは泉がイジメに遭っていることが描かれるが、その時点で彼女は高校3年生。1年の頃からイジメが続いていたわけではなく、「親友が転校して、3年生になってからイジメに遭うようになった」という設定だ。
でも、「親友が転校して他に仲良しがいないから独りぼっちになる」ってことなら分かるけど、そこから「イジメに遭う」というトコへの繋がりが良く分からん。
それまで周囲の面々は、親友じゃないにしても、泉を攻撃はしていなかったわけで。
「それまでも快く思っていなかったが、親友が怖い奴なので攻撃しなかった」ということなのか。幾らクラス替えがあるにしても、「泉がイジメを受けている」という状況の不可解さは気になるぞ。泉は小野と2人で演劇を見に行き、「付き合ってる人、いないの?」と訪ねる。靴の試作品を見てほしいと言われ、アパートに行く。
その言動は、もう「少なからず好意を抱いている」と小野に思われても仕方がないぞ。それで告白したら断るって、「いや思わせぶりだな」と言いたくなるわ。
だったら、なんで「付き合ってる人、いないの?」とか質問したのよ。それに、幾ら仲良くなったからって、他に仲間がいないのに彼の部屋に行くってのも、「そういうつもり」と思われても仕方がないだろ。
結果として小野はストーカー化するけど、それは泉にも原因があるぞ。思わせぶりな言動で小野をその気にさせたことについては、何の擁護も出来ないぞ。泉が告白を断って小野のアパートを出ると、急に大雨が降り出している。「傘を差さずに帰宅したので風邪をひく」という展開に入るため、そういう形にしてあるわけだが、その強引さには苦笑してしまった。
で、風邪をひいて寝込んだ泉の元には葉山が来るのだが、「なんでだよ」と言いたくなった。泉が風邪をひいたことを知ったからって、葉山が1人で見舞いに行くことは無いでしょ。心配したとしても、普通は志緒たちと一緒に行くだろ。
それで「下心は無い」と主張されても「いや嘘だろ」と言いたくなるわ。実際、嘘だし。
いや、「本当は下心があるのに隠している奴」というキャラなのは分かるんだけどさ、それを「身勝手だけど魅力的」という風に描写できているのかというと、そんなことは全く思わないんだよね。
松本潤の大ファンなら無条件で受け入れられるんだろうけど、そうじゃなかったら「やたらとカッコ付けてカッコ悪くなってる奴」「弱さを利用して女をたぶらかす男」でしかないよ。泉が小野に「誰かの物を好きになったことは無いんだ?」と尋ね、「無いでしょ、そういうのは」という答えに対して「ふうん」と反応するシーンがある。ここからカットが切り替わると、放火した美雪を葉山が呆然と見つめる様子が写し出される。
なので、「そんな様子を見た時のことを泉が思い出した」ってことなのかと思ったら、そうではない。放火事件は、社会科準備室で葉山が思い出した回想だ。で、それで吐き気を催した葉山を、高校時代の泉か目撃したという回想シーンになっている。
回想に回想を重ねて「何重なんだよ」とツッコミを入れたくなる構成にしてあるが、それで得られる効果なんて何も無いぞ。ただ無駄にゴチャゴチャしているだけだぞ。
そこで放火の回想を入れる意味なんて無いでしょ。どうせ後で葉山が泉に説明する時、その様子が描かれるんだし。
そこに限らず、この映画って何の効果も無くて無駄にしか思えない回想が何度もあるんだよなあ。話を三角関係に絞り込もうとした弊害なのか、柚子の扱いが雑。柚子の様子が変になっているのを示す描写はゼロじゃないけど、ほとんど無いのよ。それだけで「自殺」というトコに持って行くのは、あまりにも途中経過を端折り過ぎでしょ。
そこを雑に片付けてしまうぐらいなら、最初から扱わない方が遥かにマシだよ。
ものすごく辛い目に遭って、何の救いも無いまま自殺しちゃうようなキャラなんだから、もっと繊細に描写して、大切に扱ってあげるべきだよ。この映画だと、単なる「無駄死に」になっちゃってるぞ。
140分という長めの上映時間を用意しても全く描けていないんだから、そこを丁寧に掘り下げるだけの余裕が無かったんだろう。だったら、そこは思い切ってカットしちゃうべきだよ。
っていうか『夏の夜の夢』の公演シーンを中途半端に描くぐらいなら、そこを全カットにしてでも柚子の描写に回した方がいいとは思うけどね。泉は「雨の音や匂いで、あの頃の感覚が蘇ってくる。寂しそうな目をしてた。今も私は、貴方を思い出す」とモノローグを語り、そこから回想に入る。ってことは、ちっとも葉山への未練が断ち切れていないのよね。
ところが最後に回想から戻って現在のシーンになると、泉は「もう葉山のことは吹っ切りました」ってな感じの様子を見せる。
でも、それだと「今回の回想で吹っ切れました」みたいなことになるぞ。そんなわけないでしょ。
あと、その時に傍らにいるのが単なる同僚の宮沢ってのは、「なんだかなあ」と言いたくなるわ。そこから2人の恋が始まる予感を漂わせようとしているのかもしれないけど、だとしても「いや無理があるぞ」と感じるし。劇中、葉山と泉が映画について話すシーンがある。
どうやら「泉は葉山の影響で映画好きになった」という設定らしいが、それが充分に表現できているとは言い難い。泉が映画配給会社に就職していることも含め、そこは葉山と彼女の関係を描く上で重要な要素じゃないかと思うんだけどね。
で、そんな2人が久々に再会して話すシーンで、泉は最近見た映画としてトリュフォーの『隣の女』を挙げる。その頃に公開されていた新作ではなく、1981年のフランス映画。しかもフランソワ・トリュフォー。
まあオシャレなことで。
そりゃあ、大ヒットしたハリウッドのアクション映画とかコメディー映画を挙げたら、雰囲気には合わないだろうけどね。ただ、そこで具体的な映画タイトルを出すなら、もっと何本も出せばいいものを、以降は『エル・スール』と『浮雲』と見るシーンと、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のDVDが出てくるだけ。それは半端だなあ。
あとさ、葉山は演劇部の顧問で、泉は演劇部OBなんでしょ。それにしては、演劇に関する会話が皆無なのよね。
2人とも、演劇には全く興味が無いのかと思っちゃうほどだ。
そりゃあ映画もいいけど、演劇にも興味を持った方がいいんじゃないかと。成瀬巳喜男が撮った1955年の『浮雲』を挙げているのは、もちろん葉山と泉の関係を重ね合わせる意味があるんだろう。
だけど『浮雲』の2人と葉山&泉って、実は全く違う関係性だからね。どっちも不倫関係ではあるけど、前者は「決着を付けることが出来ずにズルズルと関係を続けてしまう男女」だが、『浮雲』の2人がズルズルと関係を続けるのは「体の相性が良かった」ってのが理由であることを、脚本担当の水木洋子がコメントしているんだよね。
でも葉山と泉って、そういうことではないからね。
肉欲で結ばれた男女に対して、こちらは「傷付いた男女の共依存」という関係性でしょ。あと、『浮雲』を挙げることで、作品や出演者も比較されることになる。そして、それによって「まるでレベルが違う」という現実が露呈する羽目になる。
『浮雲』は名作中の名作だし、主演の高峰秀子と森雅之は名優中の名優中だよ。それと本作品、そして松本潤&有村架純というカップルを並べた時に、まるで比較にならないでしょ。
それは松本潤&有村架純が悪いと言うより、「高峰秀子と森雅之は今の役者が束になっても勝てないぐらいの名優」ってことなのよ。
なので、「もしも『浮雲』を見たことが無いのなら、こっちより『浮雲』を見た方が絶対にいい」と言いたくなるのよ。(観賞日:2020年10月23日)