『南極物語』:1983、日本

昭和32年、昭和基地で南極観測を行っていた第一次越冬隊員は、ボツンヌーテンに遠征隊を送ることにした。潮田暁、越智健二郎、尾崎の3名が選抜され、15頭のカラフト犬にソリを引かせてボツンヌーテンへの旅を成功させた。
昭和33年、海上保安庁の観測船“宗谷”は、悪天候のために立ち往生を余儀無くされていた。アメリカ海軍の砕氷船バートン・アイランド号の協力を得た“宗谷”は、ようやくセスナ機を昭和基地に飛ばすことが出来た。
第一次隊員はセスナ機に乗り、“宗谷”へと移動した。しかし、天候が回復する見込みが無いことから、第ニ次越冬を断念することが決定した。置き去りにされたカラフト犬は首輪や鎖から脱出し、生き延びるための戦いを開始する…。

監督は蔵原惟繕、脚本は野上龍雄&佐治乾&石堂淑朗&蔵原惟繕、製作は吉岡滉&鹿内春夫&蔵原惟繕、企画は角谷優&蔵原惟繕、プロデューサーは森島恒行&蔵原惟二、チーフプロデューサーは貝山知弘&田中壽一、製作指揮は日枝久、撮影は椎塚影、編集は鈴木晄&蔵原惟繕、録音は紅谷愃一、照明は川島晴雄、美術は徳田博、ドッグ・トレーナーは宮忠臣、音楽はヴァンゲリス。
出演は高倉健、渡瀬恒彦、夏目雅子、荻野目慶子、岡田英次、山村聡、日下武史、神山繁、江藤潤、佐藤浩市、岸田森、大林丈史、金井進二、中丸新将、佐藤正文、坂田祥一郎、志賀圭二郎、内山森彦、川口啓史、市丸和代、浜森辰雄、大谷進、前島良行、佐山泰三、野口貴史、寺島達夫、大江徹、長谷川初範ら。


実話を基にした作品。
文部省の特選マークが付いた映画。
この血が出ないスプラッター・ムーヴィーは、配収が59億円という大ヒットとなった。
この映画のクレジット上の主役は高倉健と渡瀬恒彦になっているが、本当の主演は犬であり、共演しているのは人間ではなく南極である。

事実を基にしているので、最初から答えは分かっている。
タロとジロ以外の犬が助からないということは、既に決まっている。
つまり観客は、あらかじめワン公達がどうなるのかを分かっていながら、次々に死んでいく様子を見るということになるわけだ。

動物と子供には勝てない。
これは永遠に変わることの無い鉄則である。
前半は犬が走っている様子が描かれる。
後半は犬が死んでいく様子が描かれる。
ワンワンワン、ワンワンワンワン、ワンワンワン。

人間は登場する。
ただの人間ではない。
高倉健や夏目雅子といった、知名度のある有名俳優が登場する。
しかし、人間ドラマは無い。
いや、無いと断言すると語弊があるかもしれないが、少なくとも印象には残らない。

しかし、それで構わないのだ。
人間と犬の絆なんて、どうだっていいのである。
犬を置き去りにした面々の心の葛藤なんて、どうだっていいのである。
この作品にとって、人間のドラマなど無価値なのだ。
この作品の目的は、犬の死に様を見せるというところにあるのだ。

犬達は頑張った。
映画で金儲けを企む人間様のために、厳しい吹雪にさらされ、ムチで打たれる。
ソリを引かされ、ソリの下敷きになり、氷壁の裂け目に飲み込まれる。
犬をイジメまくって、観客に「かわいそう」と思わせるわけだ。
なかなか利口なやり方である。

これは、本質的には残酷映画なのだ。
だが、壮大な自然と荘厳な音楽と美しい映像で感動の物語に見せ掛けてしまった。
そのトリックには感服させられる。
犬好きの人々の同情を誘って感動の涙を流させようという巧妙な作戦に、多くの観客がコロリと引っ掛かったわけだ。

 

*ポンコツ映画愛護協会