『NANA』:2005、日本

大崎ナナは、北海道でインディーズのロックバンド“ブラスト”のヴォーカルとして活動していた。ベースのレン、ギターのノブ、ドラム のヤスを含めた4人のブラストは、小さなライブハウスを熱狂させていた。ある日、泥酔したノブをヤスが家まで送り、ナナとレンが2人 で帰ることになった。ヤスはレンに、「あのことをナナに言えよ」と告げて立ち去った。
2年後。小松奈々は、東京へ向かう新幹線で大崎ナナの隣に座った。奈々はナナに話し掛けられ、恋人の遠藤章司に会うため上京すること を語った。章司とは地元の専門学校で一緒だったが、彼は東京の美大に入学したのだ。東京に到着した奈々はナナと別れ、迎えに来ていた 章司と再会する。章司の部屋に転がり込んだ奈々だが、そこを出て独り立ちするよう勧められる。
奈々は不動産屋へ行き、「家賃7万円、707号室」という7尽くしの貼り紙に惹かれてアパートを紹介してもらう。すると、そこへ別の 不動産屋に連れられたナナもやって来た。奈々もナナも、その部屋を気に入って入居を希望した。そこでナナに同行していたヤスが、一緒 に暮らすことを提案した。家賃が半額になることもあって、奈々とナナは同居することにした。
奈々はナナと共に買い物に行き、CDショップへ立ち寄った。奈々は人気ロックバンド“トラネス”のポスターを見て、ギターのタクミの ファンだと言う。ナナは、トラネスのベースとなったレンの姿をじっと見つめた。ナナは奈々が家に貼ったポスターを眺め、昔を思い出す。 かつてナナは、レンの首に南京錠のペンダントを掛けたのだった。
家出したノブが、ナナの元にやって来た。ナナはヤスに勧められ、ノブが作った曲を聴く。奈々は2人の即興セッションを聞き、ナナの 歌声の虜になった。ナナたちはベース担当を募集し、シンがメンバーに加わった。一方、章司はバイト先の後輩・川村幸子と親しくなった。 幸子は故意に終電に乗り遅れ、章司の心を迷わせた。バイトをクビになった奈々は章司に「今すぐ会いたい」と電話をするが、「もう遅い から」と断られた。落ち込んで帰宅した奈々は、ナナから横浜のライブイベントへの出演を聞かされる。
奈々は、青山の小さな出版社で雑用のバイトを始めた。奈々はナナを連れて、章司がバイトしているレストランへ赴いた。章司は動揺して 会うことを避け、幸子は奈々が章司の恋人だと知ってグラスを落とす。奈々はナナに頼み、章司のバイトが終わるまで外で一緒に待って もらう。しかし2人は、章司が幸子に「彼女とは別れる」と告げて抱き締める様子を目撃する。ショックを受けて帰宅した奈々はベッドで 号泣し、隣でナナが慰めた。ナナは、レンから東京行きを告げられた時のことを思い出した。
奈々は、地元で開催されるトラネスのライブの最前列チケットが当選して大喜びする。奈々はナナを誘うが、あっさりと断られる。奈々は ノブとヤスから、かつてナナとレンが恋人同士だったと聞かされて驚いた。再び奈々がナナをライブに誘うと、今度はOKの返答が来た。 ライブ会場に赴いた2人は、トラネスの演奏を聞きながら涙を流した…。

監督は大谷健太郎、原作は矢沢あい、脚本は浅野妙子&大谷健太郎、企画は濱名一哉、製作は近藤邦勝、プロデューサーは中沢敏明& 久保田修、共同プロデューサーは川崎隆、撮影は鈴木一博、編集は掛須秀一、録音は 横野一氏工、照明は上妻敏厚、美術は磯田典宏、音楽は上田禎、 音楽スーパーバイザーは安井輝、音楽コーディネイターは桑波田景信&上野麗、主題歌「GLAMOROUS SKY」(Performed by NANA starring MIKA NAKASHIMA)、 劇中歌「ENDLESS STORY」(Performed by REIRA starring YUNA ITO)。
出演は中島美嘉、宮崎あおい、松田龍平、玉山鉄二、成宮寛貴、平岡祐太、丸山智己、松山ケンイチ、宮崎美子、サエコ、伊藤由奈、 水谷百輔、能世あんな、高山猛久、虎牙光輝、ベンガル、村松利史、鈴木一真、宍戸留美、池田鉄洋、 紺谷みえこ、岡本奈月、ノゾエ征爾、吉野晶、山本康大、綾野剛、学原聡太朗ら。


「Cookie」連載の矢沢あいによる漫画を基にした作品。
ナナを歌手の中島美嘉、奈々を宮崎あおい、レンを松田龍平、タクミを玉山鉄二、ノブを成宮寛貴、章司を平岡祐太、ヤスを丸山智己、シンを松山ケンイチ、 幸子をサエコが演じている。
トラネスのヴォーカルを、新人歌手の伊藤由奈が演じている。
中島美嘉と伊藤由奈は、それぞれ「NANA starring MIKA NAKASHIMA」「REIRA starring YUNA ITO」として 主題歌「GLAMOROUS SKY」と劇中歌「ENDLESS STORY」を歌っている。

原作漫画は、若い女性を中心に高い人気を誇る作品だ。 もちろん、その原作人気を当て込んで、「それなら映画化してヒットするのは確実だろう」ということで企画が立ち上がったのだろう。
だが、それは危険な賭けとも言える。
原作ファンは漫画に強い思い入れを持っており、実写化した場合に「イメージと違う」という批判を浴びることも充分に考えられるからだ。
特に配役に関しては、イメージと違う場合は強い拒絶反応を起こされることが確実であり、相当に高いハードルだと言えるだろう。
私は原作を読んでいないので、比較して云々という批評は出来ない(まあ未読の私でさえ、タマテツのロンゲはどうなのかと思ったが)。
しかし、レンに関してはミスキャストだと感じる。
いや、ミスキャストと言うより、役者不足と言わざるを得ないだろう。
松田龍平はクールな魅力を放っているのではなく、ただムッツリしているだけにしか見えない。

原作ファンの間ではシンに対する不評が最も多かったようだが、ミスキャストかどうかという以前に、ほとんど存在意義が無い扱いだ。
いっそサポートメンバーでもいいんじゃないかと思うぐらい、ほとんど触れられない。
シンだけでなく、両バンドのメンバーは、物語の展開に深く関わってくることがほとんど無い。
存在意義は、ものすごく薄い。
そもそも、なかなかバンドを巡る話になっていかないのだから、バンドメンバーの存在意義が薄いのも当然だろう。

一方の女性陣だが、「人懐っこいが他者への依存度が強く、明るいが余計なことまで喋って神経を逆撫でし、ウザがられる」というタイプ の奈々が、観客にはウザがられないようになっているのは、ひとえに宮崎あおいの演技力のおかげである。
中島美嘉は台詞回しに拙い部分はあるものの、それも「人付き合い上手くないロッカー」というキャラからすると、それも悪くない。
初対面から奈々に対して積極的に話し掛けるのは喋りすぎじゃないかと思うけど、それはキャラ設定、演出の問題である。

ただし中島美嘉に関しては、肝心の歌唱シーンに魅力が無いという問題がある。
本来ならば、普段の場面に比べてライブの場面で輝いているという形になるべきだったはずだ。
しかし、そもそも歌唱シーンが少ないし、ライブシーンのカメラワーク、見せ方も悪い。
また、ここぞというキメの場面では、ブラストではなくトラネスのライブを持って来ているのだ。
そして困ったことに、そのトラネスのライブで伊藤由奈がバラードを歌う歌唱力が素晴らしいのだ。
いや、そこだけを取れば、別に困ることでも何でもない。
ただ、中島美嘉の歌と比較してしまい、そこで声の伸びや張りに明らかな差を感じてしまうのだ(どちらが上なのかは言わずもがな)。
まあトラネスは大ホールを満杯にする人気バンド、ブラストは小さなハコのインディーズ・バンドだから、ある意味では差があって正解なのかもしれんが。

最初にレンがブラストに在籍していた頃のシーンから入り、すぐに2年後に移るのだが、この導入部は要らないと感じる。
最初に奈々が新幹線に乗るシーンを持ってきて、そこでナナを登場させればいい。
モノローグは奈々の担当なのだし(終盤でナナと交代する箇所があるが)、ナナよりも奈々を先に出した方がいいだろう。
その冒頭があることによって、ナナがレンのポスターを見る時点で「彼と何があったのか」がネタバレしている形になるが、そこはネタバレしていない方がいいはずだし。

その後も、何度かナナがレンとの過去を思い出す場面が挿入される。
例えば、フラれた奈々を慰める場面で挿入されたりするが、そのタイミングは違うんじゃないか。
というか、そもそも何度も回想を入れる必要は無いと思う。
その回想シーンに大きなドラマや心情描写があるわけでもないし、レンがナナと恋人だったことや東京へ出てトラネスに入ったことは回想が無くても分かる。
その過去の2人の関係にしても、奈々がナナをトラネスのライブに誘うシーンで初めて明かしてもいいぐらいだし。

前半、何度か章司と幸子のシーンが描かれるが、これは明らかに要らない。
幸子など、章司が好きな人が出来たと奈々が知る場面でチラッと出てくる程度でいい。
いっそのこと、全く登場しなくてもいい。
この映画にとって重要なのは、一途に章司を信じ切っていた奈々がフラれるという出来事であり、章司の恋愛話ではないはずだ。
「ラブラブだと思っていたら恋人に裏切られた」とショックを受ける奈々の心情は必要だが、2人の女の間で悩む章司の感情など、どうだっていい。
必要なのは「奈々の彼氏の物語」ではなく「奈々の物語」だ。
章司の優柔不断ぶり、煮え切らなさを念入りに見せることの意味がサッパリ分からない。
そこは完全に重心がズレている。
章司というキャラクターは、奈々と一緒にいるシーンだけの登場で充分のはずだ。
新生ブラストの関東デビューが決まった後も、章司と幸子の話を持って来たりするが、それよりバンドの話を描けよ。

奈々の友人・早乙女淳子と高倉京助が、章司と幸子のデート現場に現われて「あの子とは別れろ」と告げるのだが、この友人2名は明らか に要らないキャラだ。
「原作に出てくる主要キャラだから出しておかないと」という意識で登場させたのかもしれないが、そんな所に気を配っているほど余裕のある脚本に仕上がっていないぞ。
もっとナナと奈々の関係に話を絞り込むべきだった。上映時間の長さを勘違いしているのかと思うほど、手を広げすぎている。

分かりやすいほど対照的なナナと奈々が、ゼロの関係から初めて少しずつ友情を深めていくというドラマが展開されるべきなのに、何しろ 前述したように章司の話で多くを割いたりするので、そりゃあ友情を育むドラマはおのずと描けなくなる。
同居を決めた後、トラネスのライブに行くエピソードに至るまで、ナナと奈々の友情を進展させるためのエピソードはほとんど無い。
結局、ナナと奈々は、ほとんど別々のままで話が進行していく。
互いに影響しあう、感化しあう、励ましあう、慰めあう、ケンカしたり仲直りしたりする、一緒に泣いたり笑ったりする、そういう友情を育むためのドラマは、ほとんど無いのだ。
前半は奈々の話、後半はナナの話と分割しているように思われるが、その構成もどうなのかと。
なぜ並行して描かないのかと。
それぞれの話で、もう一方の関与が薄すぎるし。
だから後半に入ると、奈々は何のためにいるのか良く分からない状態になる。

 

*ポンコツ映画愛護協会