『泣くな赤鬼』:2019、日本

2007年7月。夏の全国高校野球大会地方予選に出場した城南高校は準決勝で翔栄大付属を破り、初の決勝進出を果たした。その時、野球部を辞めた斎藤智之は自宅にいた。テレビが付けっ放しで高校野球が放送されていたが、智之は離れた場所で座っていた。理容室を営む母の智美が「消しとこうか」と声を掛けても、彼は何の反応もしなかった。テレビでは城南の監督を務める小渕隆がインタビューを受けており、智之は鋭い視線を向けた。
2018年4月、胃が痛むので総合病院で検査を受けた小渕は、智之に話し掛けられた。智之は妻の雪乃を紹介し、小渕が赤鬼と呼ばれていたこと、現役時代は怖くて呼べなかったことを話した。小渕は2年前から西高の監督を務めており、智之は「思いっ切り進学校じゃん。城南に比べたら全然ダメでしょ」と軽く告げる。小渕が返答せずにいると、彼は「まあ俺に思い出話をする資格は無いけど」と言う。彼は会社の健康診断で引っ掛かったこと、車の工場で働いていることを語った。
学校に戻った小渕は、いつものように練習メニューを部員たちに任せた。彼は部員がミスしても全く注意せず、小声で「体で止めろよ」と苛立ちを漏らすだけだった。帰宅した彼は妻の陽子、娘の佐知と幼い孫に会う。小渕は陽子に智之と再会したことを話し、「あいつには続ける才能が無かった」と述べた。翌日、部員たちから「もっとちゃんと練習したい」と言われた彼は、「城南のやり方に付いて来るのは無理だ」と指摘する。「やってみない内から決め付けるんですか」と抗議されると、彼は「分かるんだよ。何百人も見て来たからな。俺の指導方針が嫌なら好きにしていいよ。去る者は追わない」と冷淡に言い放った。
小渕の元へ雪乃が現れ、泣き崩れて「智くんが死んじゃう」と漏らした。13年前の4月、城南高校野球部に大勢の新入部員が入って来た。サードの智之とレフトの和田圭吾は、同じ中学の出身だった。智之は最初の挨拶で自らを走攻守揃った選手だと評し、チームを甲子園に連れて行くと宣言した。キャプテンの三木は、斎藤という苗字から「ゴルゴ」という愛称を付けた。小渕は陵青高校の監督に、練習試合を申し込んだ。陵青の監督は難色を示したが、小渕が頼み込むと1年生だけの試合という条件で承諾した。
小渕が自宅で練習試合の先発メンバーを考えていると、陽子はバスケット部の佐知も同じ日曜に試合があることを話す。娘がレギュラーになって張り切っていると話す陽子だが、小渕の耳には入っていなかった。日曜日、城南が勝利すると陵青の監督は2試合目を提案し、小渕は快諾した。小渕が夜遅くに帰宅すると、陽子は何度も電話したこと、救急車を呼んで大変だったことを話す。陽子は頭に包帯を巻いて部屋で休んでいたが、小渕がドア越しに「行けなくて悪かったな」と言うと「全然大丈夫」と強がった。
智之が紅白試合で送りバントを失敗し、小渕は厳しく注意した。その日の練習を終えた智之が帰ろうとすると小渕は「やることあるんじゃないかと呼び止め、室内練習場へ連れて行ってバント練習をさせた。富岡商業との練習試合、智之は小渕が出したスクイズのサインを無視し、タイムリーツーベースを売って喜んだ。小渕は和田を代走に出し、智之をベンチに呼び戻して叱責した。小渕は智之の前で、和田にサードへの転向を提案した。智之は真正面から抗議するわけでもなく、生意気な態度を見せた。
練習では智之の方が和田より明らかに守備が上手かったが、小渕は「和田は体で止めてやるぞって気迫が伝わってくるんだよ。お前に和田の十分の一でも努力する才能があればな」と苦言を呈した。智之が「せっかくグラブあるんだから、体で受けなくても道具使えば良くないですか」と口答えすると、彼は激怒した。小渕が「俺の言ってんのは精神的なことだよ」と説教するが、智之は不服そうな様子を見せた。翔栄大付属との対外試合でスタメンから外された智之は、小渕に黙って勝手に帰ってしまった。
現在。智之は智美に、「なんでこんな体に産んだんだよ」と苛立ちをぶつけた。雪乃が「一緒に頑張るから」と優しく声を掛けると、彼は「どうにも出来ねえだろ。手術しても治んねえだろ」と泣き言を漏らした。小渕は陽子に、「ゴルゴが死ぬ」と明かす。彼は智之について「気が小さくて臆病な奴なんだよ」と評し、「思い通りに行かないと踏ん張りが利かない性格なんだ。あいつに我慢できるわけないんだ」と語った。手術を受けた智之が目を覚ますと、雪乃が「良く頑張ったね」と声を掛けた。
2006年夏。小渕は智之を職員室に呼び、「なんで練習に来ない?勝てないって諦めたのか。悔しくないのか」と問い掛ける。智之が黙っていると、彼は「俺への怒りでもいいよ。その気持ち、プレーにぶつけてみろよ」と言う。しかし智之が「そういうの、良く分かんねえから。悔しいとか」と口にしたので、小渕は説得を諦め。チームは夏の予選に臨むことになり、小渕は和田にレギュラー背番号の5番を与えた。しかし15番は智之のために残し、彼が悪友と遊び歩いていると知った部員からは「問題を起こして出場停止にでもなったらどうする?」と不安や不満の声が上がった。
和田が1人でバッティング練習をしていると、智之が来て冷やかした。和田が無視すると、彼は「そんな真面目にやってどうすんだよ。たかが野球じゃん」と告げる。和田が怒って「だったら早く辞めろよ。みんなお前に辞めてほしいって思ってんだよ。赤鬼だって同じこと言ってたよ」と言うと、智之は「分かったよ。邪魔なんだろ。消えるよ」と口にした。翌日、職員室に智之が来たので、小渕は復帰する気だと思って15番のユニフォームを渡そうとする。智之が退部届を差し出すと、彼は「諦めんな。努力は報われる。それを信じて頑張れ」と告げる。智之が「努力が報われたらみんなレギュラーじゃん。でも補欠の奴だっているし、ベンチに入れない奴だっている。どうせ甲子園にも行けない」と話すと、小渕は「やってから言え」と怒鳴った。智之は退部届を置き、職員室を去った。
現在。智之は雪乃に、離婚して他の奴と再婚しろと要求した。雪乃は小渕を訪ね、智之に顔を見せてあげてほしいと頼む。今さら自分に何が出来るのかと躊躇する小渕だが、妻と娘に背中を押される形で病室へ赴いた。智之は小渕の訪問を歓迎し、「良く考えたら、赤鬼が俺の最後の先生なんだよな」と口にした。2006年秋。城南は秋季関東高校野球予選で準優勝したが、春のセンバツには選ばれなかった。小渕は夏の甲子園を目指すと部員たちに告げ、今まで以上に熱の入った練習を行った。
智之が盗難バイクの二人乗りで蛇行運転をして補導され、連絡を受けた小渕は急いで警察署に駆け付けた。彼は担当の警官から、智之は後ろに乗っていただけで盗難は知らなかったようだと聞かされた。智之が「学校辞めようと思う」と言うと、小渕は「学校まで辞めてどうすんだ。卒業まで踏ん張れない奴が、社会に出てやっていけるのか」と問い掛ける。智之が煮え切らない態度を示すので、彼は「分かった、頑張れよ」と告げる。智之が「頑張れよって、どうやったらいいんですかね。そんなの、誰にも教わったことないのに」と口にすると、小渕は何も答えずに立ち去った。
群馬県大会決勝が行われ、学校を辞めた智之はスタンドから観戦した。城南は陵青と対戦し、和田のエラーでサヨナラ負けを喫した。現在、小渕は智之に何か欲しい物は無いのかと尋ねた。そこへ雪乃が来て、智之が和田に会いたがっていることを教えた。小渕は大手企業で地区の営業主任を務める和田と会い、智之が末期癌で入院していることを伝えた。彼は智之が会いたがっていると告げ、見舞いに行ってくれないかと頼んだ。すると和田は小渕に批判的な言葉を語り、その要求を拒否した…。

監督は兼重淳、原作は重松清『せんせい。』所収「泣くな赤鬼」(新潮文庫刊)、脚本は上平満&兼重淳、製作総指揮は福田一平&堀内大示、製作は青村麻実&加茂英也&松井智&松本篤信&糸井丈之&片山俊之&宮崎伸夫&古澤みちよ、企画・プロデュースは長澤昌子、プロデューサーは橋口一成&関根真吾&東島真一郎、撮影は向後光徳、照明は斉藤徹、録音は大竹修二、美術は布部雅人、編集は川瀬功、音楽はDi'll(北城和美 北城浩志)、主題歌は『おーい! おーい!!』。
出演は堤真一、柳楽優弥、川栄李奈、麻生祐未、キムラ緑子、菅原大吉、竜星涼、堀家一希、武藤潤、佐藤玲、田島芽瑠、久保貫太郎、永滝元太郎、武田祐一、清水一彰、ふくまつみ、湯本美咲、増岡和也(テレビ東京)、鈴田修也、牧亮佑、西川雄大、西村涼太郎、清水樹、原タカアキ、上野陽立、若林薫、菅原健、阪本一樹、田村杏太郎、久保田康祐、白石拳大、上杉憲梧、小松直樹、笠原崇志、森田瑞生ら。


重松清による短編集『せんせい。』に所収されている同名の一編を基にした作品。
監督は『腐女子彼女。』『キセキ -あの日のソビト-』の兼重淳。
脚本は兼重監督と、これがデビュー作となる上平満による共同。
小渕を堤真一、智之を柳楽優弥、雪乃を川栄李奈、陽子を麻生祐未、智美をキムラ緑子、陵青高校の監督を菅原大吉、和田を竜星涼、高校時代の智之を堀家一希、高校時代の和田を武藤潤、佐知を佐藤玲、遥を田島芽瑠が演じている。

智之が雪乃に「小渕は赤鬼と呼ばれていた」と教える時、「見れば分かんだろ」と言う。すると雪乃は小渕の顔を見て、「ホントだ。赤鬼っぽい」と納得する。
だけど小渕の顔を見ても、ちっとも赤鬼っぽいとは思えないのよ。
また、彼は練習や試合で声を荒らげることはあるが、そんなのは運動部の監督なら珍しくもないことだ。なので、その程度で「赤鬼」の呼び名が付くのなら、全国の野球部の監督は大半が赤鬼になっちゃうぞ。
その徒名がしっくり来ないのは、地味に大きなマイナスだぞ。

試合のシーンが訪れる度に、「VS陵青高校 練習試合」や「紅白試合」、「VS富岡商業 練習試合」「VS翔栄大付属 対外試合」といったテロップが出る。
だけど、そんなの全く必要が無い説明だ。対戦相手の高校がどんな名前だろうが、どうでもいいんだよね。それが紅白試合かどうかってのも、見ていれば何となく分かるし。
この映画って、「城南が勝ち進んでいくスポーツ映画」ってわけじゃないんだし。
だから対戦相手の情報も、ほとんど描いていないわけで。

病気になった智之が母親に八つ当たりしたり、雪乃に泣き言を漏らしたりするのは、もちろん誉められた行為ではないけど、理解は出来る。
ただ、「どうにも出来ねえだろ。手術しても治んねえだろ」と言った後、「離婚しろ。死ぬトコ見せたくねえんだよ」と告げるのは、なんか引っ掛かるなあ。
その前の言葉を発した人間と、同一人物には思えないのよ。なんか急に別のキャラが入って来たような感じがする。そこまでは自分本位で身勝手なだけだったのに、そこだけ急に「雪乃への愛」という成分が混じってんのよね。
あと、手術を終えた時に雪乃が赤ん坊を抱いているけど、そこで初めて「智之に子供がいる」と分かるのは見せ方として下手だと思うぞ。

小渕は西高の監督としては完全に無気力であり、選手と全く向き合おうとしない。回想シーンに入ると、娘の試合について妻が話してもマトモに聞いていない。
娘の怪我を知ると一応は心配するが、すぐに陵青との試合で勝ったことを嬉しそうに喋り、「その話、今しなきゃダメ?」と怒りを抑えた娘に言われる始末。
ようするに、娘は完全に後回しで野球部ファーストってことだ。
ちなみに、このシーンで小渕は「救急車を呼んで大変だった」としか言われていないのに、それで「娘が怪我をした」と分かるのは変だろ。

ともかく、そこまでの描写を見る限り、智之が野球部を辞めたのも小渕に非があったんだろうと思わせる。
しかし話が進むと、そういうわけではないことが分かって来る。悪いのは明らかに智之であり、小渕の側に大きな落ち度は無い。
智之は出されたサインを無視し、小渕から注意を受けても全く反省しない。努力するよう促されても受け入れず、生意気な態度で口答えする。そのせいで先発から外されると、不貞腐れて練習に来なくなる。
全て智之のせいなのだ。

和田が智之に言う「みんなお前に辞めてほしいって思ってんだよ。赤鬼だって同じこと言ってたよ」という言葉の中で、「赤鬼だって」という部分は嘘だ。でも、それでショックを受けた智之が退部を決意するという流れにしてある。
しかし、職員室で復帰を喜ぶ小渕の様子を見れば、和田の言葉が嘘ってのは簡単に気付くはずなのよ。
そこに全く疑問を抱かず「小渕も自分が辞めてほしいと思っている」と信じ続けるのは、さすがにアホすぎる。
そうなると、そのアホさ加減も含めて同情心は湧かない。

智之から「頑張れよって、どうやったらいいんですかね。そんなの、誰にも教わったことないのに」と言われた小渕が答えずに去るのは、そこだけ取れば薄情に思えるかもしれない。
ただ、「どうやって頑張るかなんて、自分で考えるしかないよ」ってのが答えだしなあ。
その方法は小渕だって、誰からも教わっていないだろうし。
あと、そこまでの智之の行動を見ていると、そういう時だけ小渕に全て委ねようとするのは卑怯じゃないかと思っちゃうし。

ただ、現在のシーンで智之の見舞いに行くよう頼まれた和田は、「小渕は智之ばかり気に掛けており、奮起させるために自分をサードにコンバートした」「智之を見放したのは小渕」「自分たちは小渕の夢を叶えるための道具でしかなかった」と小渕を徹底的に批判する言葉を並べるんだよね。
でも回想シーンを見る限り、そんな印象は全く受けなかったのよ。
「小渕は自分の夢のために部員を道具扱いし、部員の気持ちなんて無視する酷い教師だった」と見せたいのなら、そのための描写が全く足りていない。

智之が「また野球がしてみたい」という願望を口にした時、それを叶えてやるために小渕は西高野球部の部員たちに頭を下げて協力を依頼する。
当時の城南のメンバーを集めるわけには行かないし、小渕が手伝ってもらえそうなメンツを考えると西高野球部の他にいないだろうから、分かるっちゃあ分かるのよ。
ただ、そこまでに小渕と西高部員との関係描写が薄いので、「なんか都合良く使ってるな」と感じる。
結局、西高部員って、そのシーンのためだけに登場させてるようなモンなんだよね。
小渕が西高で無気力になっている理由は最後まで良く分からないし、反発する部員と分かり合えて関係が良好になるようなドラマも無いし。

(観賞日:2025年8月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会