『なくもんか』:2009、日本

東京都文京区の善人通り商店街。大人気のお笑いコンビ「金城ブラザーズ」の金城祐介が、番組レポーターとして訪れている。その中継を 、スタジオにいる相方の大介が見ている。商店街はハムカツストリートとも呼ばれている。「山ちゃん」という惣菜店の、秘伝のソースを 掛けたハムカツが大人気なのだ。取材の時も、店の前に行列ができている。店員のミドリが緊張する中、店主の下井草祐太は余裕の笑顔を 示した。呼ばれて出て行った祐太は、ニコニコしながら祐介に応対した。
実は、祐太は祐介の実の兄だった。両親が離婚した時、祐太は8歳だった。原因は父・健太の借金だ。健太は祐太を連れて家を出て行った 。放浪した彼は、数少ない人脈を頼って知り合いの山岸正徳が働く「山ちゃん」を訪れ、店の売り上げ金を奪って逃亡した。残された祐太 を、正徳は預かることにした。祐太はバカみたいに働き、成長した。すると正徳は彼に秘伝のソースを教え、店の看板を譲った。
正徳には一人娘・徹子がいたが、正徳は「あいつはダメだ、食うばっかりで」と言う。実際、徹子は食べてばかりで自堕落に太っていた。 8年前に正徳はこの世を去り、徹子は成人すると家を出た。残された安江は認知症になり、祐太を正徳と思い込むようになった。祐太は人 から頼まれて断ったことが無い。そんな人柄もあって、祐太は商店街のみんなから愛される存在になっていた。究極の八方美人が、彼の 生き方だった。
一方、祐介は健太が出て行った直後、この世に誕生した。貧乏だった彼は、小学生時代に給食費を盗もうとして担任に見つかった。母の 祐子は、バイク事故を起こして死亡した。それ以来、祐介は親戚をたらい回しにされた。度重なる転校を経て、彼は苛められずに済む方法 を見つけた。それが笑いだった。彼はお笑いの道に進むが、ほとんど受けなかった。芽が出ないまま3年が過ぎ、足を洗おうとした頃、彼 は大介と出会った。彼とコンビを組むことにすると、マネージャーの加々美昌弘は兄弟として売り出した。すると金城ブラザーズは爆発的 な人気を得て、今では超売れっ子になっていた。
ある日、10年前に家を出てから音信不通だった徹子が「山ちゃん」に帰って来た。デブでブサイクだった徹子は、別人のような美女に変身 していた。認知症の安江は、商店街のトシちゃんを村田英雄、中やんをスパイダーマンと思っているのに、なぜか徹子だけは一目で娘だと 判別した。徹子は祐太に、幼い頃に好きだったことを話した。弟が見つかったかどうか訊かれ、「いや、もう諦めました」と祐太は口に した。この時、まだ祐太は、祐介が弟だとは知らなかったのだ。
翌日から、徹子は店を手伝うようになった。弁当屋の桜井がバイクで骨折したので、宅配サービスを代わってほしいと頼まれた祐太は承諾 した。それを知った徹子は、祐太の人の好さに呆れる。「みんな無理してるんじゃないかって言ってるよ」と言う徹子に、「いやいや、 好きでやってますから」と祐太は笑う。「そうじゃないと、僕みたいなよそ者は」と彼が言うと、徹子は「よそ者じゃないよ。山ちゃんは 商店街の看板だよ」と告げた。その言葉を聞いて、祐太は感激した。
祐太は、亡き正徳から徹子を嫁に貰ってほしいと言われていたことを思い出し、彼女を押し倒した。跳ね除けられた祐太は、何となく話の 流れで「結婚しよう」と言う。我に返った祐太は、慌てて冗談にした。一方、ドラマの主役の話が来た祐介は、大介から嫌味っぽいことを 言われていた。祐太は桜井の宅配サービスで年寄りの家を巡り、ハムカツをサービスする。それだけでなく、洗濯や犬の散歩も買って出た。 他にも彼は、商店街の人々からの頼まれ事を快く引き受けた。
帰宅した祐太は、徹子から小学3年生になる娘・静香と息子・徹平を紹介される。彼女はシングルマザーだったのだ。徹子は結婚について 真剣に考えており、クリアしなければならない懸案事項を資料にまとめていた。徹子は減量やプチ整形、不倫していた相手に子供を認知 してもらっていることなどを事務的に語る。すると祐太は声を荒げて「こんな会社っぽい結婚、嫌だよ」と資料を破り捨てた。
「君がどんな男と付き合ったとか、この子たちの父親が誰だとか、そんなことを気にする男じゃないよ」祐太がと言うと、「それって善意 のつもりですか。これで恩返しできるとか」と徹子は反発する。しかし直後に彼女は謝り、「不安なのよ。まだ好きって言ってもらって ないもん」と口にした。結局、2人は結婚することを決めた。祐太と徹子は、商店街を挙げての結婚パレードを行った。
婚姻届を貰いに区役所へ赴いて自分の戸籍謄本を入手した祐太は、祐介が実の弟だったことを知る。その祐介は主演ドラマが高視聴率を 記録していた。相方の大介は、自伝小説『コプ太と赤い車』を出版して取材を受けていた。金城兄弟の不幸な生い立ちを綴った小説だが、 もちろん内容は全てデタラメだ。祐太は祐介の元を訪れ、生き別れた兄だと告げる。しかし祐介は「幾ら欲しいの?」と怒りを示し、彼を 追い払った。それを聞いた大介は、「俺はどっちでもいいけどね。バレたらバレたで謝罪会見を開けばいい」と軽く言う。
『コプ太と赤い車』の自伝を基にした映画が作られ、大介が子役に指導する様子を祐介は複雑な表情で眺めていた。映画は公開されると、 大ヒットを記録した。徹子は電気を使いすぎる祐太に、節電するよう注意する。さらに、ラードは体に良くないからと、それも変更する よう要求する。徹子は、看板商品のハムカツ以外、油を使わない自然食に切り替えた。宅配弁当の容器は客に持参してもらい、ハムカツは 揚げずにテフロン加工のフライパンで火を通すようにした。それだけでなく、商店街も午後7時に消灯するようにした。
徹子がエコロジー運動を始めて以来、祐太はすっかり元気が無くなった。しかし、彼は日曜の夜になるとどこかへ出掛け、翌朝になると 別人のように明るくなって戻ってきた。オフの時は異様なテンションで子供たちの機嫌を取るようになったが、徹子はそれを痛々しいと 感じる。隠れて弟に会っているのではないかと疑う中、その祐介が店にやって来た。祐太は明るく出迎え、一家を紹介した。
祐介は「俺には家族もご近所さんもいない。大介兄さんだけなんだ」と、祐太に無表情で告げる。そして、母が死んでから一人ぼっち だったこと、本当は笑われるのが嫌だが他に存在理由が無かったこと、しかし大介と会って笑いの種類の中に「不幸」という要素があると 教えられたことを語り、「ここまでになったのは大介兄さんのおかげだ。邪魔しないでほしい。二度と俺たちの前に現れないでくれ」と 告げる。それを聞いていた徹子は腹を立て、「不幸な自分に酔ってるんだよ」と言い放った。
徹子はハムカツを食べていくよう祐介に要求し、祐太に「今日だけ本気を出していいよ」とラードの使用を許可した。ハムカツを揚げた 祐太は、秘伝のソースが壺から無くなっているのに気付く。すると徹平が泣き出した。熟成していたのを腐っていると思い込み、静香と 徹平がソースを捨ててしまったのだ。徹子が謝るよう要求するが、静香は拒否した。彼女は、一平が友達から臭いと言われて苛められて いることを吐露する。
「ソースなんて何でもいいじゃん」と言う静香に腹を立てる徹子を祐太はなだめ、子供たちを学校へ行かせる。その様子を見ていた祐介は 業務用ソースをハムカツに漬けて食べ、「うめえよ」と泣いた。なんと秘伝のソースより、そっちのソースの方が美味しかったのだ。この 「ふつうのソース」が受けて、今まで以上に客が殺到するようになった。「今までの苦労は何だったんだ」と神社の境内で泣いていた祐太 は、警官に声を掛けられて、老女の家へ連れて行かれた。彼女は空き巣に入られ、預金通帳や印鑑、現金が盗まれていた。
宅配サービスのために老女の家の合鍵を持っていた祐太は、刑事から容疑を掛けられていた。他の老人宅でも同様の事件が成立していた。 今までは祐太に色々な頼み事をしていた人々も、みんなが彼を疑いの目で見た。親友のトシちゃんも、祐太を犯人と決め付けた。真犯人が 判明して疑いは晴れたが、祐太の心は晴れなかった。しかし日曜の夜に外出し、月曜になると、また彼は明るい様子に戻った。
祐太は祐介からの電話で、事務所に健太が来ていることを告げられた。父親に会ったことが無いので、確認してほしいと言う。祐太は健太 を自宅に連れ帰り、すき焼きを振る舞った。同席した祐介は健太に腹を立て、祐太に対して謝罪するよう要求する。すると祐太は「アンタ が謝ったら、許すとか許さないとかいう問題になるだろ。お互いにどう思っていようと、淡々と飯を食うのがリアルな家族なんだよ」と 言う。祐介が「分かんない」と言うと、祐太は涙ぐんで「アンタを許さないよ。何生きてんだよ」と健太に怒鳴った。
徹子は祐太に、家族旅行を提案した。しかし祐太は「いつか行けるといいね」と言うだけだった。健太は週刊誌にネタをタレ込み、祐介の 父親だと暴露した。会見を開いた大介は事実無根だと主張するが、マスコミは証拠を要求する。大介が「お前の足を引っ張るなんて、親父 も兄貴もどうかしてるぜ」と批判すると、祐介は「親父はバカだからいいけど、兄貴は一緒にしないでくれ」と述べた。
祐介は「兄貴は誰に対しても同じ笑顔で笑ってるんだ。だけど腹の中では1ミリも笑ってないんだよ。覆面レスラーみたいにさ、今さら 素顔をさらせないんだよ。笑顔が顔にへばりついてるんだよ。そう思ったら、なんか悔しくてさ。いつか腹から笑かしてえなあって」と 大介に語った。「それは芸人として、それとも弟として?」と訊かれ、彼は「ごめん、ちょっと分かんない」と答える。大介は「俺のこと 見捨てないでくれよ」と漏らし、「お前のせいで売れたんだよ、みんな分かってるんだよ、俺が空っぽだって」と荒れた。
日曜の夜の祐太を尾行した静香は、彼がスナックで女装して憂さ晴らしをしているのを知った。内緒にしてほしいと頭を下げる祐太に、 静香は家族旅行で沖縄へ連れていってほしいと言う。祐太は徹子と子供たちを連れて、沖縄旅行に向かった。沖縄の環境イベント会場に 来た祐太に、祐介から電話が入った。久々のイベントを前にして、大介が失踪したという。「今から来れないかな。一人じゃ不安なんだ」 と言われ、祐太は祐介のいるホテルへ赴いた…。

監督は水田伸生、脚本は宮藤官九郎、製作指揮は宮崎洋、製作は堀越徹&島谷能成&平井文宏&村上博保&阿佐美弘恭&長坂まき子、 エグゼクティブプロデューサーは奥田誠治、COエグゼクティブプロデューサーは菅沼直樹、プロデューサーは飯沼伸之&清水啓太郎、 撮影は中山光一、編集は平澤政吾、録音は鶴巻仁、照明は市川徳充、美術は清水剛、VFXスーパーバイザーは小田一生、 漫才指導はブッチャーブラザーズ、音楽は岩代太郎。
主題歌『なくもんか』:いきものがかり 作詞:水野良樹、作曲:水野良樹、編曲:本間昭光。
出演は阿部サダヲ、瑛太、竹内結子、塚本高史、いしだあゆみ、伊原剛志、光石研、陣内孝則、皆川猿時、片桐はいり、鈴木砂羽、 カンニング竹山、山口愛、谷端奏人、橋ジョージ、橋本じゅん、藤村俊二、小林正寛、安居剣一郎、江口のりこ、梅津栄、松金よね子、 小倉一郎、徳井優、水木薫、大島蓉子、梅沢昌代、酒井敏也、八十田勇一、山口良一、加藤清史郎、東谷柊一、平野心暖、松本春姫、 冨田佳輔、鈴木駿介、庄司永建、市川千恵子、花原照子、山梨ハナ、岡博之、山辺薫ら。


『舞妓Haaaan!!!』の監督&脚本&主演トリオが再び結集した作品。
祐太を阿部サダヲ、祐介を瑛太、徹子を竹内結子、大介を塚本高史、 安江をいしだあゆみ、健太を伊原剛志、昌弘を光石研、徹子の不倫相手を陣内孝則、トシちゃんを皆川猿時、みどりを片桐はいり、祐子を 鈴木砂羽、正徳をカンニング竹山、静香を山口愛、徹平を谷端奏人、桜井を橋ジョージ、紅茶好きの刑事を橋本じゅん、祐子が 楳図かずおと見間違える男を藤村俊二が演じている。

冒頭、祐介が番組レポーターとして「山ちゃん」を訪れて祐太に取材すると、「俺には兄がいるらしい。名前は下井草祐太」という語りが 入り、そこから彼のナレーション・ベースで祐太の生い立ちが説明される。
その後、取材を終えた祐介が祐太を見つめて意味ありげな表情を浮かべるし、実の兄だと知っているのかと思っていた。
しかし祐太が実の弟のことを知って訪問した時、金目当てだと決め付けていた祐介が「下井草祐太」というフルネームを聞いてハッとして いる。
ってことは、それまでは知らなかったのか。
だとすれば、冒頭シーンの様子は何だったのか。辻褄が合わないぞ。

一方、祐太の方は、冒頭シーンでは祐介が弟だとは知らないはずだ。だからこそ、「俺には弟がいるはずだ」というモノローグを彼が 語っている。
ところが、そこから彼のナレーション・ベースで、祐介の生い立ちが語られる。
それは変でしょ。
弟のことは良く知らないはずなのだから、そんなに詳しい説明を彼が出来るはずはない。
っていうか根本的なことを言ってしまえば、その回想シーン、全てバッサリと削ぎ落してしまった方がいい。生き別れになった経緯が どうであろうと、そこからの話にとって、それほど重要な要素になっていない。
冒頭の15分ぐらいは、ほぼカットでいい。

最初に2人が兄弟だと明かし、祐介サイドのモノローグから始めてしまう構成にも問題があって、どう見ても兄弟はイーヴンではなく 兄の比重が置かれているのだから、祐太の物語として始めるべきだ。
祐太が弟のことを知った段階で、祐介を初めて登場させてもいいぐらいだ。
それと、2人の生い立ちが語られた後、タイトルバックに入る時、物悲しい雰囲気を作るのは違うよ。もっと明るい喜劇として タイトルを入れるべきだ。
この映画、ちょっと悲劇に傾きすぎ。
喜劇が8、悲劇が2ぐらいの比率でいい。

その後、徹子が戻ってくるエピソードでも、また回想を入れて、またペーソスに傾く。
どっちも要らない。回想シーンが多すぎるし、ペーソスも多すぎる。どっちも5割減ぐらいで充分だよ。それと、テンポもノロいなあ。
徹子が真剣に結婚のことを話すシーンでも、なぜかペーソスが基盤で、そこに小ネタをまぶすという形になっている。
全体を通して、そういう状態なのだ。
まずペーソスを基盤にしているのが間違いだし、おまけに、その上に用意されているギャグも全く笑えない。

それと、色々と盛り込みすぎだなあ。
生き別れの兄弟が再会するドラマを描きたいのであれば、戻ってきた徹子に祐太がプロポーズして結婚するエピソードとか、そんなのは 排除すべきじゃないのか。
最初から結婚しているか、あるいは恋仲という設定にするか、いずれにせよ「徹子が戻って来る」という展開は邪魔になる。
それだったら、その2人の物語をメインとして描いた方がいい。

大介はインチキな自伝小説「コプ太と赤い車」を出版するが、ここは無理があるなあ。
1960年代や1970年代ならともかく、インターネットが普及している今の時代に、祐介と大介が本物の兄弟でないことぐらい、すぐにバレる はず。自伝が出る以前に、たぶん人気が出て来た時点で、嗅ぎ付けられているだろう。
その時点で、まだバレていないというのは無理があるわ。
そこをファンタジーとして受け入れることは難しい。
っていうか無理。

自伝映画が公開されて大ヒットを記録するが、ってことは、祐太が祐介に会いに行ってから、相当の月日が流れているってことだ。
でも、あれだけ弟を捜し続け、会いたがっていたのに、追い払われたら、それ以降は全く執着を示さないのは不可解だ。
弟に追い払われたことへのショックも、全く受けていない様子だし。
その後、徹子が祐太に節電しろと注意する辺りの展開は、それまでの流れから完全に外れている。急にエコロジーのことを持ち込むので、 分かりやすくギクシャクしている。
そんなことより、兄弟のドラマに集中しろよ。なんで祐介に追い払われた後、祐太は何事も無かったように生活しているんだよ。

祐太が月曜になると元気を回復することに徹子が疑いを抱いた後、祐介が店にやって来る。
でも、こいつが店を訪れるなら、自伝映画の撮影シーンで大介を見て、複雑そうな表情を浮かべた次のシーンにすべきだろう。
そこまでに余計なシーンを幾つも入れすぎているから、「大介を見た祐介が兄弟関係に踏ん切りを付けようとする」→「祐太に会いに行く 気になる」という流れが分断されるのだ。

それと、その辺りで、祐太が徹子と結婚したことが淡白に扱われてしまい、ほとんど意味の無い出来事のようになっている。子供たちを 引き取ったのに、そこの親子関係も全く描かれない。
「本当の親子のようになれる」とか言ってたけど、親子ドラマが描かれないんだよな。引き取った直後に弟のことが分かり、さらにエコの 話へと移っていくので、夫婦や親子の関係はないがしろにされているのだ。
正直、子供たちって完全に要らない奴らになっている。
静香がソースを捨てたことが判明し、徹平が苛めを受けていることを明かす辺りで子供たちの存在価値をアピールしているんだけど、 そうなると、今度は「じゃあ、その家族関係を軸にして描けばいいでしょ。そっちを描くなら祐介は邪魔でしょ」と感じてしまうのだ。
祐太&祐介の兄弟関係と、夫婦&連れ子との関係、どっちも盛り込んだことによって、消化不良を起こしているのだ。

祐太が空き巣の容疑を掛けられるエピソードで、それまで世話になっていた商店街の面々が途端に冷淡になり、全員が揃って疑いの目を 向けるようになるという展開は、かなり強引だ。
そこで商店街の連中を嫌な奴らにすることにも賛同しかねるし、そういう類の悲哀を持ち込むのも賛同しかねる。
それが感動に繋がるわけでもなくて、単純に不愉快な気分にさせられるだけだ。
トシちゃんは詫びるけど、他の連中は疑いを掛けた後のフォローもないし。

っていうかさ、それも盛り込みすぎでしょ。
せっかく祐介がハムカツで涙したのに、そこから兄弟の関係を描かずに「商店街の面々に疑われて祐太が傷付く」という、兄弟の関係を 全く使わないエピソードを用意するって、もう話がバラバラになってるじゃねえか。
しかも、そこで祐太が傷付いたことを使って物語を転がしていくのかと思ったら、月曜になると今までと変わらず明るい様子に 戻るのだ。
そんなに淡白に終わってしまうのなら、「商店街の人々に疑われて傷付く」という展開を用意した意味が全く無い。

徹子がデブでブサイクだったことは、小ネタをやりたいがためだけの設定になっており、それを除けば全く意味が無い。
単に「徹子が戻ってきた」というだけでも、同じような筋書きが成立する。
安江を認知症にしているのも、ただギャグをやるためだけの設定だとしか思えない(というか、たぶん間違いない)。
健太が来た日を境に、安江の認知症は回復に向かうが、なぜだかサッパリだ。

ギャグをやりたいがためにシーンを用意し、それで尺が長くなっていると感じる箇所が幾つもある。
それ以外にも、例えば大介のニセ自伝の内容が大介のナレーションベースと映像で描かれるとか、その撮影の様子が描かれるとか、そう いうのも要らない。
っていうか、大介の扱いを大きくしていること自体、盛り込みすぎ。
祐太にも絡んでくるキャラならともかく、祐太とは全く絡まないんだよな。

沖縄行きなんて、明らかに蛇足。 とうしても沖縄ロケがしたかったのであれば、もっと早い段階で沖縄へ行くべきなんだよ。もう話を収拾すべき段階に至って、そこから さらにダラダラと話を続けている印象しか無い。
欲張って色々な要素を盛り込んだせいで、ものすごく長い上映時間になってしまっている。
この映画で134分って、明らかに長すぎるでしょ。
90分ぐらいでまとめるべき作品だよ。

おまけに、沖縄へ行ったはいいものの、上手く話をまとめることが出来ず、強引に収束しようとしているけどグダグダになったままで 終わっている。
イベントで本物の兄弟が漫才を始めるとか、ダメでしょ。そうなると、大介の立場が無くなってしまうでしょうに。
そこは「兄弟の絆」と「漫才コンビとしての絆」は分けて考えるべきでしょ。
大介が身勝手で傲慢で嫌な奴で、コンビとしての関係が破綻しているという設定にでもしてあれば、その展開も受け入れられるけど。

(観賞日:2011年3月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会